参考資料 食に関する指導体制の整備について(答申)(案)

※ 中央教育審議会総会(平成15年12月4日)配布資料

はじめに

 社会の活力の源泉は、いうまでもなく社会を構成する人々の活力である。そして、人々の活力を支えるものは心身の健康である。

 人々が生涯にわたってその心身の健康を保持増進していくためには、食事や運動、睡眠などにおける望ましい生活習慣の確立が不可欠であるが、中でも食習慣は、子どもの頃の習慣が成長してからの習慣に与える影響がことさら大きいものである。また、成長期である子どもの頃の望ましい食習慣は、心身の健全な成長に不可欠な要素でもある。子どもの頃から望ましい食習慣を身に付けることは、人々の心身の健康につながり、ひいては社会全体の活力を増進するための礎となる。

 このように、子どもの頃からの望ましい食習慣の確立は極めて重要な社会的課題であり、平成13年4月11日の文部科学大臣からの「子どもの体力向上のための総合的な方策について」の諮問においても、食習慣を含む望ましい生活習慣の確立について、学校、家庭、地域社会の連携方策も視野に入れて検討することが求められている。

 同諮問に対しては、平成14年9月30日に「子どもの体力向上のための総合的な方策について」として答申を行ったところであり、その中では、近年の社会環境の変化などに伴う食に関する健康問題に対応するため、望ましい食習慣や栄養バランスのとれた食生活を形成する観点から、学校における食に関する指導の重要性を指摘し、いわゆる「栄養教諭(仮称)」制度など学校栄養職員に係る新たな制度の創設を検討すべきことを提言した。

 この提言に基づき、本審議会は、平成15年6月にスポーツ・青少年分科会の下に食に関する指導体制部会を設置して、食に関する指導の充実の具体的な方策について集中的に調査審議を重ねてきた。

 本審議会は、このたび、栄養教諭制度の創設を柱とする食に関する指導体制の整備方策について結論を得たので、ここに答申を行うものである。本審議会としては、今後、本答申の趣旨を踏まえ、子どもたちが望ましい食習慣を身に付けられるよう、家庭・地域・学校の密接な連携の下で食に関する指導が進められることを強く期待している。なお、栄養教諭制度は義務教育段階を対象とするものであるが、幼児期や高等学校段階においても食に関する指導の重要性は変わるところはなく、各発達段階に応じた適切な指導がなされることを望むものである。その審議の結果を以下のとおり取りまとめたので、「中間報告」として公表することとした。今後、本審議会においては、この「中間報告」に対して各界各層から広く意見をいただき、それらを踏まえつつ、さらに審議を進めることとしたい。

第1章 基本的な考え方

1 食に関する指導の充実の必要性

 食は人間が生きていく上での基本的な営みのひとつであり、健康な生活を送るためには健全な食生活は欠かせないものである。しかしながら、近年、食生活を取り巻く社会環境の変化などに伴い、偏った栄養摂取などの食生活の乱れや、肥満傾向の増大、過度の痩身などが見られるところであり、また、増大しつつある生活習慣病と食生活の関係も指摘されている。このように、望ましい食習慣の形成は、今や国民的課題となっているともいえる。
 特に、成長期にある児童生徒にとって、健全な食生活は健康な心身を育むために欠かせないものであると同時に、将来の食習慣の形成に大きな影響を及ぼすものであり、極めて重要である。しかし近年、子どもの食生活の乱れも顕著になってきており、例えば、平成9年の国民栄養調査によれば、20歳代の朝食欠食者のうち66.6%が高校卒業の頃までに朝食欠食が習慣化していることが明らかになっている。なお、平成13年の同調査では、20歳代男子の朝食欠食の割合は20.4%となっている。また、子どもだけで食事を取る孤食については、昭和57年には22.7%であったものが平成5年には31.4%に増加している。肥満傾向児(性別・年齢別に身長別平均体重を求め、その平均体重の120%以上の体重の者)も増加しており、学校保健統計調査によれば、小学6年生男子では、昭和52年に6.7%が肥満傾向であったものが、平成14年には11.7%とほぼ倍増している。栄養と脳の発達や心の健康との関係も指摘されている。
 また、平成14年9月30日の中央教育審議会答申「子どもの体力向上のための総合的な方策について」(平成14年9月30日。以下「平成14年答申」という。)において指摘したように、子どもの体力は低下傾向が続いており、体力の向上のためには、適切な運動と十分な休養・睡眠に、調和のとれた食事という、健康3原則の徹底による生活習慣の改善が不可欠である。
 加えて、外食や調理済み食品の利用の増大により、栄養や食事の取り方などについて、正しい基礎知識に基づいて自ら判断し、食をコントロールしていく、いわば食の自己管理能力が必要となっている。特に、食品の安全性に対する信頼が揺らいでいる中、食品の品質や安全性についても、正しい知識・情報に基づいて自ら判断できる能力が必要となってきている。
 このように、子どもの体力の向上を図るとともに、食に関する自己管理能力の育成を通じて将来の生活習慣病の危険性を低下させるなど、子どもたちが将来にわたって健康に生活していけるようにするためには、子どもたちに対する食に関する指導を充実し、望ましい食習慣の形成を促すことが極めて重要である。
 また、健康と体力は今後の教育が目指すべき「生きる力」の基礎となるものであり、食に関する指導の充実は、子どもたちの「生きる力」を育んでいく上でも非常に重要な課題であるといえる。
 さらに、食はそれぞれの国や地域の風土や伝統に根ざした、すぐれて文化的な営みであり、また、団欒などを通じた社会との接点としての側面も有している点を忘れてはならない。食に関する指導においては、「食文化」の継承や多様性の尊重、社会性の涵養といった効果も期待できる。
 食に関する問題は、いうまでもなく家庭が中心となって担うものである。家族一緒の食事は、家庭教育の第一歩であるとともに、大切な家族のコミュニケーションの場でもある。当審議会としても「『新しい時代を拓く心を育てるために』-次世代を育てる心を失う危機-」(平成10年6月30日答申)において、食生活は子どもの身体的発達のみならず精神や社会性の発達など、心の成長にも大きな影響を及ぼすものであり、家族が一緒に食事をとる機会を確保すべきことを提言した。しかし他方、核家族化の進展、共働きの増加などの社会環境の変化や、外食や調理済み食品の利用の増加などの食品流通の変化等を背景として、食生活の在り方も大きく変化しつつあり、保護者が子どもの食生活を十分に把握し、管理していくことが困難になってきていることも現実である。このような状況を踏まえれば、食に関する全ての責任を子どもたちの食生活については、家庭に担わせるのはもはや現実的とはいえないを中心としつつ地域・学校が積極的に支援していくことが重要であるこのため、今後は学校が子どもの食について家庭に助言や働きかけを行うことも含め、家庭・地域・学校が連携して、次代を担う子どもたちの食環境の改善に努めることが必要である。

2 学校における食に関する指導の現状

 現在、学校における食に関する指導は、学級担任を中心として、給食の時間において学校給食そのものを生きた教材として活用した指導が行われているほか、家庭科や保健体育科を中心に教科指導の中や学級活動、「総合的な学習の時間」など、学校教育活動全体の中で広くでも行われている。具体的には、例えば家庭科においてはバランスの取れた食事の重要性などを、保健体育科においては望ましい生活習慣を身に付ける必要性などを指導している。その中でも、給食の時間における食に関する指導は、食に関する指導においては、学校給食を活用することによってそのものを教材として活用し、見る・食べるといった行為を通じて楽しみながら児童生徒の興味・関心を引き出すことができ、非常に高い教育的効果を持っている得られるため、学校給食を有効に活用した取組も見られるところである。また、学校給食に地域の産物を使用したり、地域の伝統的な料理を提供することを通じ、地域の文化や伝統に対する理解と関心を深めるなどの取組も行われている。
さらに、保健体育審議会答申「生涯にわたる心身の健康の保持増進のための今後の健康に関する教育及びスポーツの振興の在り方について」(平成9年9月22日)において、学校栄養職員の新たな役割として食に関する指導の必要性が提言され、各学校における食の専門家であるおいて学校栄養職員を活用した取組も進められておりいるところであり、ティーム・ティーチングや特別非常勤講師制度を活用した学校内での指導活動は年々増加している。また、親子料理教室や給食だよりなどを通じて、学校が家庭や地域に働きかけを行うなど、家庭・地域との連携を推進する取組も進められている。
 しかしながら、食に関する指導については、これまで明確な体制整備がなされてこなかったため、地域や学校ごとに取組は区々であったというのが現状である。

3 食に関する指導体制整備の方向性

 以上のように、これまでも学校栄養職員の活用を含め、学校における食に関する指導を進めるための取組は様々な形でなされているが、近年の子どもたちの食を取り巻く環境の変化は、これまでにないほど急速かつ激しいものである。子どもたちが望ましい食習慣と自己管理能力を身に付け、この変化に十分に対応して自らの健康を保持増進していける能力を培っていくためには、より効果的な食に関する指導体制の整備が急務である。そのためにも、学校における食に関する専門家である学校栄養職員の専門性を、確実に指導面でも活用していけるような制度的担保が必要である。
 食に関する指導体制の整備については、これまでも、平成9年9月22日の保健体育審議会答申「生涯にわたる心身の健康の保持増進のための今後の健康に関する教育及びスポーツの振興の在り方について」において、新たな免許制度の導入を含めた学校栄養職員の資質向上策の検討の必要性が指摘されているだけでなく、平成14年答申においては、「学校栄養職員については、食に関する専門家としての知識はもとより、児童生徒の成長発達やこの時期の心理の特性などについての正しい理解の上で、教育的配慮を持った食に関する指導を行うことが求められている」と指摘し、「いわゆる『栄養教諭(仮称)』制度など学校栄養職員に係る新たな制度の創設を検討し、学校栄養職員が栄養及び教育の専門家として児童生徒の食に関する教育指導を担うことができるよう食に関する指導体制の整備を行うことが必要である」とより具体的な提言を行っているところである。
 現在の学校栄養職員は、栄養士又は管理栄養士の資格を有して学校給食に係る栄養管理や衛生管理を行っており、食に関する専門家ではあるが、教育的資質が担保されているとはいえない。食に関する専門性を指導面で十分に活かし、自ら責任を持って指導に当たっていけるようにするためには、現在の学校栄養職員の資質に加え、教育に関して必要な資質を身に付けた者が食に関する指導を担えるよう、栄養教諭制度を創設し、効果的な食に関する指導体制の整備を図る必要がある。その際には、 食に関する指導が学校教育活動の様々な領域にまたがるものであることを踏まえ、栄養教諭がその高い専門性を生かし、食に関する指導を学校教育活動全体の中で推進していくための連携・調整の役割を果たすことができるような他の教員と同様の積極的な学校活動への参画により、その専門性を遺憾なく発揮できる環境の整備に留意制度とすることが重要である。

第2章 栄養教諭制度の創設

1 栄養教諭の職務

 栄養教諭は、教育に関する資質と栄養に関する専門性を併せ持つ職員として、学校給食を生きた教材として活用した効果的な指導を行うことが期待される。このため、(1)食に関する指導と、(2)学校給食の管理を一体のものとしてその職務とすることが適当である。

(1)食に関する指導

1.児童生徒への個別的な相談指導

 児童生徒の食生活の現状にかんがみ、生活習慣病の予防や食物アレルギーへの対応などの観点から、栄養教諭が児童生徒の個別の事情に応じた相談指導を行うことが、児童生徒の健康の保持増進のために有効であると考えられる。その際、食に関する問題への対応には、児童生徒の食の大部分を担う家庭での実践が不可欠であることに留意し、保護者に対する助言など、家庭への支援や働きかけも併せて行うことが重要である。
 児童生徒の食生活に係る問題の中で、個別的な相談指導が想定されるケースとしては、

  • (a)偏食傾向のある児童生徒に対し、偏食が及ぼす健康への影響や、無理なく苦手なものが食べられるような調理方法の工夫等について指導・助言すること
  • (b)痩身願望の強い児童生徒に対し、ダイエットの健康への影響を理解させ、無理なダイエットをしないよう指導を行うこと
  • (c)肥満傾向のある児童生徒に対し、適度の運動とバランスの取れた栄養摂取の必要性について認識させ、肥満解消に向けた指導を行うこと
  • (d)食物アレルギーのある児童生徒に対し、原因物質を除いた学校給食の提供や、献立作成についての助言を行うこと
  • (e)運動部活動などでスポーツをする児童生徒に対し、必要なエネルギーや栄養素の摂取等について指導すること

 などが考えられる。これらの相談指導には、栄養学等の専門知識に基づいた対応が不可欠であり、学級担任や家庭だけでは十分な対応が困難な場合も多いと考えられるため、栄養の専門家である栄養教諭が中心となって取り組んでいく必要がある。また、相談指導においては、食習慣以外の生活習慣や心の健康とも関係する問題を扱うことも考えられるので、必要に応じて、学級担任や養護教諭とティームを組んで、あるいは学校医や学校歯科医、他の栄養の専門家などと適切に連携を図りながら対応していくことが考えられる重要である特に食物アレルギーや摂食障害など医学的な対応を要するものについては、主治医や専門医とも密接に連携を取りながら適切に対応することが求められる。
 このように、栄養教諭は、児童生徒の食生活に関し、その専門性を活かしたきめ細かな指導・助言を行う、いわば食に関するカウンセラーとしての役割が期待される。なお、食に関する相談指導に当たっては、教育相談室や余裕教室を利用するなど、個別相談に相応しい環境で行われることが望ましい。

2.児童生徒への教科・特別活動等における教育指導

 食に関する指導は、個別指導以外にも給食の時間や学級活動、教科指導等、学校教育全体の中で広く行われるものであり、その中で栄養教諭は、その専門性を活かして積極的に指導に参画していくことが期待される。
 各学級における給食の時間や学級活動における指導は、一般的には学級担任が年間指導計画を作成して行うものであるが、食に関する指導の充実のため、その指導計画に基づいて栄養教諭が指導の一部を単独で行うなど、積極的に指導を担っていくことが大切である。
 特に給食の時間は、生きた教材である学校給食を最大限に活用した指導を行うことができるだけでなく、食事の準備から後片付けまでを通じて、食事のマナーなどを学ぶ場としても活用できるなど、食に関する指導を行う上での中核的な役割を果たすものである。栄養教諭は、学校給食の管理を担う立場から、学校給食を最も有効に活用した指導ができる存在であり、計画的に各学級に出向いて指導を行うことが期待される。他方、給食の時間は原則として全校一斉に取られるため、栄養教諭が全ての学級において十分な時間を取って指導を行うことは物理的に困難である。したがって、給食の時間や学級活動の時間における指導は、学級担任等と十分に連携することによって、継続性に配慮しつつ行うことが肝要である。特に、複数の学校を担当する栄養教諭については、この点がより重要となると考えられる。
 また、家庭科や保健体育科をはじめとして、関連する教科における食に関する領域や内容について、学級担任や教科担任と連携しつつ、栄養教諭がその専門性を活かした指導を行うことも重要である。特に、食に関する問題は、児童生徒にとっても身近な問題であると同時に、他の様々な問題と関連する広がりを持ったものであり、各教科や特別活動、「総合的な学習の時間」などにおいて、例えば、食べ残しと環境負荷の問題や、食品流通と国際関係、食文化を含む地域文化など、食と関係した指導を行う場合には、栄養教諭を有効に活用していくことが期待される。さらに、各教科指導において触れた食品を学校給食に使うなど、学校給食との連携を図ることにより、児童生徒の興味・関心を引き出し、より教育効果の高い指導を行うことが可能になるものと考えられる。
なお、このように、食に関する指導は、既に指摘したように学校教育活動全体の中で広く行われるものである。学校において食に関する指導に係る全体的な計画を策定するに当たっては、栄養教諭がその高い専門性を活かして積極的に参画し、貢献していくことが重要である。

3.食に関する教育指導の連携・調整

 学校における食に関する指導は、給食の時間をはじめとして、関連教科等に幅広く関わるものであり、効果的な指導を行っていくためには、校長のリーダーシップの下、関係する教職員が十分連携協力して取り組むことが必要である。その中で、栄養教諭は、栄養に関する専門的な教員として、例えば、食に関する指導に係る全体的な計画の策定において中心的な役割を果たすなど、連携・調整の要としての役割を果たしていくことが期待される。特に、学校給食と連携した授業を実施する場合などは、学校給食の管理を担う栄養教諭が、教務主任や学級担任等と連携し、年間指導計画における食に関する指導の計画と給食管理との有機的連携を確保することによって、食に関する指導の効果は一層高まるものと考えられる。また、例えば校務分掌において給食主任を担うなど、その専門性を活かして積極的に学校運営に参画していくことも重要である。
 同時に、児童生徒の食の大部分は家庭が担っているという実態を踏まえれば、食に関する指導は、学校内における児童生徒への直接的な指導のみにとどまらず、広く家庭や地域との連携を図りつつ指導を充実させていくことが重要である。具体的には、給食だより等を通じた啓発活動や、食物アレルギーに対応した献立作成などについての保護者に対する助言、親子料理教室等の開催、地域や関係機関が主催する食に関する行事への参画などにおいて、栄養教諭がその専門性を発揮し、積極的に取り組んでいくことが期待される。
 このように、食に関する指導を効果的に進めていくためには、学校の内外を通じて、教職員や保護者、関係機関等の連携を密接に図ることが肝要であり、栄養教諭は、その専門性を活かして、食に関する教育のコーディネーターとしての役割を果たしていくことが期待される。

(2)学校給食の管理

 現在学校栄養職員が行っている栄養管理や衛生管理、検食、物資管理等の学校給食の管理は、専門性が必要とされる重要な職務であり、栄養教諭の主要な職務の柱の一つとして位置付けられるべきである。具体的な職務内容としては、

  1. 学校給食に関する基本計画の策定への参画
  2. 学校給食における栄養量及び食品構成に配慮した献立の作成
  3. 学校給食の調理、配食及び施設設備の使用方法等に関する指導・助言
  4. 調理従事員の衛生、施設設備の衛生及び食品衛生の適正を期すための日常の点検及び指導
  5. 学校給食の安全と食事内容の向上を期すための検食の実施及び検査用保存食の管理
  6. 学校給食用物資の選定、購入及び保管への参画

 などが考えられる。特に栄養教諭にとっては、学校給食は食に関する指導を効果的に進めるための重要な教材でもあり、その管理においてもより一層の積極的な取組が期待される。
 同時に、献立のデータベース化やコンピューターによる物資管理など 、可能な部分については情報化を進めるの推進や、調理員の衛生管理等の知識の向上を図ることなどにより、管理業務の一層の効率化を図り、食に関する指導のために必要な時間を十分に確保できるよう工夫していくことが求められる。
 なお、学校給食における衛生管理については、平成8年度の腸管出血性大腸菌O157による食中毒事件以降、その徹底が一層図られ、学校給食が原因と考えられる食中毒の発生件数は減少してきているところであるが、より安全で安心な学校給食の実施のためには、学校給食における衛生管理を今後さらに充実強化していくことが大切である。

(3)食に関する指導と学校給食の管理の一体的な展開

 栄養教諭は、生きた教材である学校給食の管理と、それを活用した食に関する指導を同時にその主要な職務の柱として担うことにより、両者を一体のものとして展開することが可能であり、高い相乗効果が期待される。学校給食の教材としての機能を最大限に引き出すためには、その管理を同時に行うことが不可欠であり、また、食に関する指導によって得られた知見や情報を給食管理にフィードバックさせていくことも可能となると考えられる。具体的には、例えば、体験学習等で栽培した食材を学校給食に用いることで、生産活動と日々の食事のつながりを実感させたり、食に関する指導を通じて児童生徒の食の現状を把握し、不足しがちな栄養素を補うため、献立の工夫や保護者に対する啓発活動を行うことなどが考えられる。

2 栄養教諭の資質の確保

 食に関する指導と学校給食の管理という職務内容に照らし、栄養教諭には、学校栄養職員と同等以上の栄養に関する専門的知識・能力に加え、児童生徒の心理や発達段階に配慮した指導ができるよう、教育の専門家としての資質も求められる。
 これらの資質を制度的に担保するため、栄養教諭制度の創設に当たっては、保健指導と保健管理をその職務とする養護教諭の例を参考としつつ、新たに栄養教諭の免許状を創設することについて検討すべきである。その際、栄養に関する専門性については、児童生徒に対する栄養指導を行うという職務内容に留意しつつ、原則として、健康の保持増進のための栄養の指導等を担う管理栄養士の資格に相当する程度の専門性が確保できるような制度設計について考慮すべきである。また、教育に関する資質は、養護教諭の例を参考とし、教職に関する科目の履修を課すことなどによって担保することを検討すべきである。
 なお、現に学校栄養職員として勤務している者についても、教育的資質の向上を図り、その専門性を食に関する指導に活用していくため、一定の要件の下に栄養教諭の免許状を取得できるようにするなどの措置について検討する必要がある。

3 栄養教諭の配置等

 栄養教諭の配置については、栄養教諭が教育に関する資質を有する教育職員として位置付けられるものであり、また、学校給食の管理と食に関する指導を一体のものとして展開するということを基本として考えるべきである。
 また、学校給食の管理と食に関する指導を一体的に展開するという栄養教諭の職務を踏まえれば、共同調理場方式を採用する学校の場合、栄養教諭の配置は、共同調理場における給食管理と受配校における食に関する指導を併せて行うことを前提として考慮すべきである。
 ただし、学校給食の実施そのものが義務的なものではないこと、現在の学校栄養職員も学校給食実施校全てに配置されているわけではないこと、及び、地方の自主性を尊重するという地方分権の趣旨にかんがみ、栄養教諭の配置は義務的なものとはせず、公立学校については地方公共団体の、国立及び私立学校についてはその設置者の判断に委ねられるべきである。
 平成13年5月の学校給食実施状況調査によれば、公立小中学校のうち学校給食実施校は30,602校であるのに対し、学校栄養職員は10,250人となっている。学校栄養職員から栄養教諭への移行を考えた場合、学校給食実施校を含め、栄養教諭を配置することのできない学校も想定されるが、近隣の学校の栄養教諭が出向いて指導を行うなどの工夫を講ずることによって、直接栄養教諭が配置できなくとも食に関する指導の充実が図れるようにすることが大切である。
 なお、栄養教諭制度の創設後も、全ての学校栄養職員が一律に栄養教諭に移行するわけではないため、栄養教諭と学校栄養職員が並存することとなると予想されるが、栄養教諭制度創設の趣旨に照らせば、将来的には、学校栄養職員の資質を高め、栄養教諭への移行を促進することにより、食に関する指導の充実を図るべきである。

4 栄養教諭の身分等

 栄養教諭の職務内容等にかんがみ、公立学校の栄養教諭については、教育公務員特例法の適用を受け、自らの資質の向上に不断に努める必要がある。また、国公私を通じて、栄養教諭は学校教育活動全般への積極的な参画が求められる。

第3章栄養教諭制度を活用した学校における一体的取組食に関する指導の充実のための総合的な方策

1食に関する指導の推進のための学校における一体的取組

 食に関する指導は、給食の時間や学級活動の時間のほか、家庭科や保健体育科などの教科指導、「総合的な学習の時間」など、様々な機会を通じて行われるものである。したがって、食に関する指導を効果的に進めるためには、校長のリーダーシップの下、関係する教職員がそれぞれの専門性を十分に発揮しつつ、相互に連携協力して取り組む必要がある。 このため、栄養教諭だけではなく、他の教職員についても、研修等を通じて食に関する理解を深める必要がある。
 平成10年9月21日の中央教育審議会答申「今後の地方教育行政の在り方について」においては、「地域や子どもの状況を踏まえた創意工夫を凝らした教育活動を展開していくには、校長、教頭のリーダーシップに加えて、教職員一人一人が、学校の教育方針やその目標を十分に理解して、それぞれの専門性を最大限に発揮するとともに一致協力して学校運営に積極的に参加していくことが求められている」と指摘されている。食に関する指導は、まさに地域や子どもの状況を踏まえて行われるべきものであり、同答申における指摘が全面的に当てはまるものであるといえる。

2 栄養教諭の効果的な活用

 先に指摘したように、食に関する指導の推進のためには、校長、教頭のリーダーシップと、関係教職員の有機的な連携協力が不可欠であるが、その中で栄養教諭は、学校における食に関する専門家として、食に関する指導を進める上での連携・調整の要としての役割を果たしていくべきである。いうまでもなく、食に関する指導を担うのは栄養教諭に限られないが、栄養教諭を十分に活用することによって、学級担任や家庭科教諭等教科担任等による指導と相俟って、一層の指導効果の向上が期待される。特に、望ましい食習慣の形成のためには、単に食に関する知識の教授に止まらず、習慣化を促すための継続的な指導が不可欠である。このため、栄養教諭が計画的に指導に参画していけるようにするとともに、学級担任や教科担任、養護教諭、家庭科教諭等と十分連携を取り、指導の継続性を確保できるよう、校長のリーダーシップの下、栄養教諭が参画して加わって、食に関する指導に係る全体的な計画を作成するなどの取組が必要ことが肝要である。
 さらに、家庭や地域との連携においても、栄養教諭は要としての役割を果たし得るものであり、積極的な取組が期待される。
 このように栄養教諭は、学校の内外において、食に関する指導の充実の鍵を握る存在であり、その職責は非常に重いものと考えられる。この職責を全うするためにも、栄養教諭には高い資質が要求されるものであり、また、その資質を向上させるための努力が不断になされることが求められる。同時に、栄養教諭がその資質を十分に発揮するためには、校長をはじめとする学校内での理解と協力はもとより、家庭や地域の理解と協力が不可欠であり、栄養教諭が他の教職員や家庭・地域との連携を確保できるようにするための環境整備が重要となると考えられる

3 学校の内外を通じた総合的取組

栄養教諭制度の創設によって、学校における食に関する指導がより一層充実することが期待されるが、食に関する指導の第一義的な責任が家庭にあることは変わるものではない。しかし、食生活の多様化が進む中で、家庭において十分な知識に基づく指導を行うことは困難となりつつあるばかりか、保護者自身が望ましい食生活を実践できていない場合もある。このような現状を踏まえると、子どもに望ましい食習慣を身に付けさせるには、家庭への働きかけや啓発活動も非常に重要となってくる。また、子どもに望ましい食習慣を身に付けさせることは、次の世代の親への教育であるという視点も忘れてはならない。
このため、学校においても、給食だよりなどによる情報提供や啓発活動、親子料理教室の開催等を通じ、子どもの食について保護者が考える機会を提供し、また、食に関する正しい知識を伝えていくことが必要である。その際には、食に関する知識や経験を有する地域の人材の活用や、食生活の改善のために活動しているNPO等の協力を得るなど、地域社会との連携・協力を進めていくことが望まれる。
もとより食に関する指導は、家庭だけ、あるいは学校だけで完結するものではなく、社会全体で取り組むべき課題である。このため、国においても、文部科学省はもちろんのこと、関係省庁が食生活の改善のための様々な施策を実施している。食に関する指導の実効性を高めるためには、これら関係省庁が緊密に連携・協力して、政府一丸となった取組がなされることが望まれる。

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