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5   国・地方公共団体の今後の役割等

1.国,都道府県,市町村の現状
   現在,地方分権が進められ,市町村合併が進展している。また,国,都道府県,市町村の財政状況が非常に厳しい状況にあるとともに,民間等の役割の重要性が増大している。こうした状況において,従来の発想で施策を進めていくことは適切ではなく,住民主体の社会に向かっていく中で,一人ひとりが自立していけるようにすること,また,個人の自己責任,自主性を尊重するという観点を重視しつつ,国が担うべき部分と,地方に委ねるべき部分,民間に委ねるべき部分を改めて整理することが,効果や効率という観点からも必要である。
   他方,依然として,地域によって学習機会等に大きな格差が存在するなど,地方公共団体によって,行政課題への取組姿勢等に相当な差があることが指摘されているとともに,国の情報が市町村に伝わっていない,市町村等の実態が国に十分伝わっていないという意見もあり,こうした状況の改善が必要である。

   こうした状況を踏まえ,今後,国,都道府県,市町村の役割や関係を以下のように変えていくことが求められる。

2.基本的考え方
(1)国,都道府県,市町村の役割等
   1    市町村は,住民に最も身近な行政機関であり,教育委員会の,学校教育を除く生涯学習関係経費でみると,全体(国庫補助金,都道府県支出金,市町村支出金の合計)の約8割を担っている(平成13年度)。市町村においては,社会の要請と地域住民全体の多様な需要の双方に対応した学習機会の提供,図書館の整備など地域住民の生涯学習の支援,生涯学習を通じた地域づくり等を,地域住民の声によく耳を傾けることなどにより,地域住民等と協力して,主体的に実施することが期待される。また,施策の実施に当たっては,地域住民の自主的・主体的な取組を促進するような支援の方法を考えることが望ましい。
2    都道府県は,市町村を包括する広域の地方公共団体として,都道府県域全体についての大学,専門学校,民間教育事業者,職業訓練施設,公民館等との間における広域での連携の機能の強化(学習情報の提供,学習成果の評価,生涯学習推進センター等による関係機関・団体等のコーディネートや学習相談を行う人材の養成等)を行うことが期待される。また,市町村を補完する立場で,ITの活用等の支援などを行うことも期待される。なお,これらの施策の実施に当たっては,都道府県と市町村が連携して取り組むことが重要である。
3    国は,自立した個人の資質・能力の向上を通して,国民全体としての資質・能力の向上を目指すことをナショナルミニマム(国民の最低限度の生活水準)の確保のために必要不可欠なものとして位置づけることが必要であるとともに,都道府県や市町村を補完する立場から,生涯学習の振興を図ることが必要である。
   そこで,今後,以下のことについて,重点的に取り組むことが必要である。
1 大学等における社会人の受入れの促進のための支援
2 行政上の喫緊の課題として重点的に取り組むべき課題に対応するための施策
3 図書館の蔵書,博物館の収蔵品等に関する全国的な情報提供システムの構築等,都道府県や市町村では十分な対応が困難な施策の実施(国が所有している情報や収集している情報をデータベース化し,その情報を都道府県や市町村などに提供するシステムを開発することも国の役割の一つと考えられる。)
4 ITの活用等の重要な政策課題に対応するため,競争的資金の提供や調査研究などの先導的な事業や実験的な事業による支援
5 図書館の司書等の専門職や指導者等の研修と研修教材の作成など,生涯学習振興を担う人材の養成
6 生涯学習による地域づくりの分野をはじめ,市町村等の現場の実態把握,先進事例の収集・情報提供,及び,これらに関連しての都道府県や市町村と,大学や民間教育事業者,NPOなどのコーディネート

   上記のように,国,都道府県,市町村の役割を明確にするとともに,従来の行政手法,財政措置等の見直しが必要であり,これに向けて,今後,更に検討を進めていくことが必要である。なお,これまで意見等が出された課題に対応し,生涯学習の更なる振興を図っていくためには,生涯学習振興法や社会教育法,図書館法,博物館法など関連する法律についても見直しを行うことも含めて,今後,更に検討を進めていくことが必要である。

(2)国,都道府県,市町村の関係
   国,都道府県,市町村の関係については,従前のような,ややもすると一方向的になりがちな関係から脱しきれていない面も見受けられる。したがって,今後は,対等・双方向の関係へと変えていくことが必要である。また,国は,従来の補助金の交付や,それに伴う指導・助言を中心とした支援の方法を変えていくことが求められる。
   さらに,国は,都道府県,市町村の提言を,都道府県は,市町村の提言をできるだけ取り入れるように努めることが必要である。
   このほか,国,都道府県,市町村は,民間の提言をできるだけ取り入れるように努めることも必要である。

(3)地域の実情に応じた施策の在り方
   大都市,中小都市,町村によって,地方公共団体の行財政能力や,大学や民間教育事業者,NPOの数などの状況が異なり,地域の実情に応じた施策の在り方は自ずと異なるため,こうした地域の実情に応じた施策の在り方を考えていく必要がある。
   このため,市町村においては,大都市,中小都市,町村など自らの地域の特性に応じた施策を講ずること,国や都道府県においては,こうした市町村の特性に配慮した施策を講ずることが必要と考えられる。
   さらに,都市部では,大学や専門学校,民間教育事業者等との役割分担を図りつつ,これらとの連携・協働を強化することが必要である。

(4)市町村合併への対応
   今後,市町村合併が進展していく中で,地域に密着しているという公民館等の従来のメリットを大切にしながら,合併によって新たに生まれた市等の中での公民館や図書館同士の連携の強化などを図ることにより,合併がプラスに働くよう,努めることが重要である。また,それとともに,施設の配置や専門性を持った職員の配置,学校の教職員の社会教育関係への異動の在り方についても,検討を進めていくことが必要と考えられる。

3.行政内部の連携の在り方
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   現在,文部科学省においては,教育分野においても,関係する府省との間で,連携のための協議会を設けるなどにより,緊密な情報交換や意見交換等を行い,連携の強化に努めている。具体的には,体験活動の機会や場の提供については,農林水産省,環境省,国土交通省,厚生労働省と,子育て支援の分野では,厚生労働省と連携を図っている。また,昨年6月にまとめられた「若者自立・挑戦プラン」については,厚生労働省,経済産業省,内閣府と連携を図っている。今後は,特に,職業能力開発分野において,文部科学省と厚生労働省との連携を強化するなど,関係各省との連携を強化することが求められる。
  2都道府県,市町村
   地方公共団体における生涯学習振興行政の担当部局については,教育委員会のみに設置されているところが多いが,一部では,首長部局のみに設置されているほか,教育委員会と首長部局の両方に設置されている例もある。こうした体制においては,教育委員会と首長部局の間の連携が十分ではないとの意見が出された。したがって,生涯学習の振興に当たっては,教育委員会と人づくり・まちづくりに関連する他の部局との十分な連携が行われることにより,多角的な行政を図っていくことが必要である。
   なお,教育委員会制度の在り方については,先般,中教審に諮問されたところであり,本分科会としても,今後,地方公共団体における体制の在り方について,教育制度分科会とも協力しながら検討を進めていくことが必要である。

4.分かりやすい国民運動の展開
   今回の議論に当たって必要と考えられたのは,国民が生涯学習を,自らの資質・能力を向上するため,そして,国民全体の資質・能力を向上するために不可欠なものとして受け止めるような国民運動を展開し,国民の合意を形成していくことである。
   そのためには,分かりやすいキャッチフレーズを作成し,それを広く国民が共有することから始めたらどうか(例えば,「日本を作り直そう」,「学び,考え,行動し,つくり直そう豊かな日本」というような分かりやすいコピー)という意見があった。また,それについては,政治,行政,民間が一致して取り組む環境づくりも重要であるとの意見もあった。


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