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5   関係機関・団体等の活動の活性化のために

   我々は,上記の重点分野への対応に加え,関係機関・団体等の活動の活性化のための方策,国・地方公共団体等と関係団体等との関係の見直し,学習成果の評価・活用,生涯学習振興を担う職員等の在り方についても議論した。

1.関係機関・団体等の活動の活性化のための方策
   生涯学習振興施策を進める上で重要な機関である公民館,図書館,博物館等の社会教育施設の活動の活性化のための方策について議論したところ,次のような意見が出された。

国や地方の財政状況等を踏まえ,業務の効率化を図るとともに,開館時間の延長等の住民へのサービスの向上が必要である。
各地域における社会教育施設間の連携,及び,大学,企業,民間教育事業者,社会教育関係団体,NPO,地域住民等との間の協働の強化が必要であるとともに,公民館等においては,講座等についての情報が地域住民全体によく伝わるよう,インターネットの活用など情報の提供方法を工夫することが必要である。
公民館,図書館,博物館等の社会教育施設では,学校教育施設と比較してIT環境の整備は進んでおらず,情報提供などにおいて情報化が遅れている。また,社会教育施設の情報化については,図書のレファレンスや地域情報の発信等の多様なサービスを提供していくことに対応しているとは言い難い状況にあり,学校教育の情報化と同様,数値目標を掲げて高度情報化を推進することが必要との意見もあった。社会教育施設の高度情報化を推進するためには,単に情報機器を整備するだけではなく,ネットワークの構築や,職員の情報活用能力の育成等を推進するとともに,コンテンツ(情報内容)作成等の活動が行えるスペースの確保などの配慮も必要であると考える。
公民館同士の情報交換と図書館同士の情報の共有の充実,博物館の収蔵品の情報提供システムの拡充を図るなど,各機関同士の広域的な連携のネットワークを拡充することが必要である。
高齢者や障害者,乳幼児連れの人への対応といった観点での施設・設備のバリアフリー(無障壁)化が必要であるとともに,施設の複合化についての検討も必要であると考える。
現在,各地において,ボランティア活動の機運が盛り上がっており,そうした活動は,各人が社会の形成に主体的に参画する新しい「公共」の精神を涵養する活動になっている。そこで,ボランティア活動の自主性を尊重しながら,こうした活動が活性化されるような環境づくりが更に必要になると考える。
財政が逼迫している中においては,今後,成人や高齢者に対する講座の提供等については,受益者負担についての検討が必要と考える。また,学習者がその学習成果を生かし,公民館などでボランティアとして活動する場合,これらの活動の諸経費の費用弁償などの有償化についても,今後更に議論を深めていくことが重要と考える。
平成15年の地方自治法の改正に伴い,指定管理者制度が導入され,民間事業者を含めた法人その他団体による公の施設の管理の代行が可能となった。これについては,業務の効率化や,開館時間の延長等の住民へのサービスの向上といった特長と,責任の所在の明確化や専門的な知識・技術の蓄積,職員の研修の実施,設置者と住民による点検・評価等の問題点について十分な検討が必要と考える。

   これら以外の,関係機関・団体等の活動の活性化のための方策について出された意見は,別添2(P.27〜30)のとおりである。

2.国・地方公共団体等と関係機関・団体等との関係の見直し
   現在,都道府県においては,民間教育事業者,NPO等と連携しているのはともに約半数であり,市町村においては,民間教育事業者,NPO等と連携しているのはそれぞれ約15%,約3割という状況にある(平成14年文部科学省委託調査)。
   今後,国や地方公共団体,社会教育施設等においては,民間教育事業者,社会教育関係団体,NPO,地域住民などの関係機関・団体等との関係について,一層の「協働」(お互いの特性を認識し,尊重し合いながら,対等な立場の下に,積極的に協力し合うこと)が必要である。
   例えば,平成14年7月の中教審答申「青少年の奉仕活動・体験活動の振興方策等について」でも提言された,市区町村や学校,大学,公民館,地区センター,NPOや地域ボランティア等が連携・協力して,余裕教室や公民館,地区センター等を活用し,地域住民が日常的に活動に取り組むことができる,身近な地域拠点としての「地域プラットフォーム」や「広域プラットフォーム」の整備を進めていくことが重要である。特に,こうした取組に民間企業が参入することにより,産・官・学・民の協働・連携の充実を図っていくことが望まれる。

3.学習成果の評価・活用
学習成果の活用については,ボランティア活動を通じて活用したり,企業内で成果を活用してビジネスを創出したり,事業を地域全体で一緒につくっていくなど,あらゆる形で成果を活用していくことが重要と考えられる。すなわち,学校での社会人講師,社会人向けの講座の講師,子育て支援や介護などでのボランティア,行政や公民館,関係機関・団体等が行う事業への参画,企業内での活用や起業等,学習成果を地域社会に還元し,地域の活性化や発展につなげることが重要と考えられる。このため,国や地方公共団体が,学習成果の評価や活用の先進事例の収集・提示を行い,これらを促進することが必要と考えられる。
学習成果の評価については,学習成果が社会で広く認められるようになるための評価の在り方について検討することが必要である。特に,職業分野や高度な専門的知識については,経済界の中にも評価制度が必要であるとの指摘も出ており,新たな評価システムの構築を検討することが必要という意見があった。
現在,一部の都道府県や市町村では,学習者がそれぞれの学習成果を記録し,社会的活動,進学,就職,転職,再就職等に活用していくための「生涯学習パスポート」(生涯学習記録票)を作成し,活用を図る取組が行われている。これについては,他の地方公共団体のものとの間での互換性や,これらを評価する側である大学や企業などによる活用について議論があるところであり,今後,更に検討を進めていくことが必要と考えられる。
知の還流は,学習成果の活用を社会的に促進し,社会の活力を高め,新たな学習の動機付けに結びつくとともに,学習成果の評価に関する社会的基準を持たせることにも結びつくことから,今後,国や地方公共団体は,社会を「知識ストック型」から,「知識循環型」へと転換していくことが必要と考えられる。すなわち,都道府県や市町村,関係機関・団体等と連携して,人から人への還流,地域社会の中での還流,世代間の還流,産・官・学・民の還流などを推進することが必要と考えられる。

4.生涯学習振興を担う職員等の在り方
生涯学習振興を担う職員としては,教育委員会に置かれている社会教育主事や公民館主事,図書館の司書,博物館の学芸員,市町村などに置かれている社会教育の各分野の直接指導に当たる社会教育指導員,社会教育関係団体の指導者などがいる。このほか,カルチャーセンター等の職員や,社会教育関係団体やNPO,ボランティア活動を担う地域住民等,様々な機会や場で活躍している人がいる。現在,国民のニーズが多様化している中で,住民の視点を持ち,幅広い視野を持つ人材の養成や,学習する一人一人のニーズに合わせて,学習相談に応じられる人材を育成することが必要である。このため,現在行われている国,都道府県,市町村における各種の講習・研修の充実が求められる。
学校,家庭,地域社会,関係機関・団体等の連携・協働を促進するためには,これらの連携を図るコーディネート機能の充実が必要である。
人事異動の中で学校現場から教員が来て2,3年で異動するという,これまでの公民館や市町村教育委員会のローテーション人事のやり方では,コーディネーターとしての能力を持った人材は育たないと考えられる。また,公務員の雇用制度が多様化していることもあり,公務員の生涯学習振興行政についてのセンスとスキルの向上など人材の育成のための努力が必要と考えられる。また,民間教育事業者やNPO,ボランティアの生涯学習振興行政との協働や柔軟な参画のノウハウの育成を図るための方策の検討が求められる。
図書館の司書や博物館の学芸員等の専門性を高めるため,資質向上のための資格要件の向上も必要であるとの意見もある。また,資格要件を上げるだけではなく,資格取得後にも,現職者に対しては,定期的に再教育し,資格を更新していくという仕組みや高度な専門性を評価する制度について検討してはどうかという意見もあり,今後,更に議論を進めることが必要と考えられる。
今後,国で都道府県や市町村における指導者養成のためのソフトづくりを更に充実させることが必要と考えられる。


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