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3   近年の社会の変化と今後の重点分野

   これまで生涯学習の振興方策一般について議論してきたが,次に,生涯学習の振興について重点的に取り組むべき分野について議論した。

1.従来の重点分野
   既に,平成4年の生涯審答申「今後の社会の動向に対応した生涯学習の振興方策について」においては,当面重点を置いて取り組むべき4つの課題として,
   1 社会人を対象としたリカレント教育(注1)の推進
2 ボランティア活動の支援・推進
3 青少年の学校外活動の充実
4 現代的課題に関する学習機会の充実(現代的課題の例:生命,健康,人権,豊かな人間性,家庭・家族,消費者問題,地域の連帯,まちづくり,交通問題,高齢化社会,男女共同参画型社会,科学技術,情報の活用,知的所有権,国際理解,国際貢献・開発援助,人口・食料,環境,資源・エネルギー等)
が指摘された。
(注1)リカレント教育:職業人を中心とした社会人に対して学校教育の修了後,いったん社会に出た後に行われる教育であり,職場から離れて行われるフルタイムの再教育のみならず,職業に就きながら行われるパートタイムの教育も含む。
   これらは,依然として,重点を置く分野であることには変わりがないが,我々は,これらの指摘を踏まえつつ,今後の生涯学習振興に当たって留意すべき点について議論した。以下,それについて述べる。

2.近年の社会の変化
   その後,近年の社会情勢の変化として,平成15年3月の中教審答申「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」では,1少子高齢化社会の進行,2高度情報化の進展と知識社会への移行,3産業・就業構造の変化,4グローバル化(地球規模化)の進展,5科学技術の進歩,6家庭の教育力・地域の教育力の低下などが指摘されている。
   また,このような社会情勢の変化の中で,生涯学習の振興等を論ずる上で,次の5つに留意すべきという意見が多く出された。

    1フリーター等の増加と失業等
   現在,景気の低迷や雇用の多様化,労働者に対する企業の評価の変化等,社会や企業のシステムが著しく変化している。このような中,高校卒における新規学卒入職者に占めるパートタイム労働者の割合は,約31%(厚生労働省の平成15年上半期雇用動向調査)となっている。また,厚生労働省(労働経済白書)によると,平成14年時点でのフリーター(注2)の数は約209万人,内閣府(国民生活白書)によると,平成13年時点でのフリーター(注3)の数は約417万人に達している。また,24歳以下の失業率は依然として10%を超えているなど,特に,若者を取り巻く状況は深刻なものとなっている。さらに,一度就職してもすぐに離職してしまう若者が多く,就職してから3年後に中卒では約7割,高卒では約5割,大卒では約3割の人が離職するという状況にある。地域ごとに若年雇用の情勢は異なっているものの,こうした,働いていないことや能力の蓄積の機会を十分に与えられないことによる若者の能力不足等を通じて,社会の競争力が低下することや,社会不安につながっていくおそれがあることが指摘されている。
出典 フリーターの定義
厚生労働省
「労働経済白書」
(平成15年版)
15歳〜34歳の者
(学生・主婦を除く)
パート,アルバイト就労者
(派遣・契約労働者を除く)
パート,アルバイトを希望する無職の人 209万人
(平成14年)
内閣府
「国民生活白書」
(平成15年版)
15歳〜34歳の者
(学生・主婦を除く)
パート,アルバイト就労者
(派遣・契約労働者を含む)
パート,アルバイトに限らず,働く意志のある無職の人 417万人
(平成13年)
 
(注2,注3)フリーターの定義
  2家庭の教育力の低下
   近年の都市化や核家族化,少子化,地縁的なつながりの希薄化など,家庭を取り巻く状況の変化の中で,家庭の教育力の低下が指摘されている。また,児童相談所における児童虐待相談処理件数が急増するなど,児童虐待問題も深刻化している。このような状況を踏まえ,特に,住民にとって身近な行政機関である市町村において,家庭教育への支援に積極的に取り組むことが重要であるが,その取組には差があるという意見があった。
  3地域の教育力の低下
   最近の度重なる青少年の凶悪犯罪や,いじめ,不登校等,青少年をめぐる様々な問題は憂慮すべき状況である。こうした状況の背景として家庭の教育力の低下とともに,青少年の異年齢の子どもや異世代の人との交流の減少などによる地域の教育力の低下があると指摘されている。また,学校,家庭,地域の一体的な取組が必ずしも十分でないことが指摘されている。
  4高齢化
   生活の質を向上するためには,生涯にわたり,心身ともに,健康の維持や向上に努めることが重要であり,生涯学習においては知の側面と同時に,体の側面も重要になっている。また,団塊の世代の高齢化による高齢者の増加に伴い,医療や保健,介護関係等の社会保障関係経費の増加等の問題が指摘されている。このため,退職した後の団塊の世代の人々を地域に迎えるに当たって,元気な高齢者づくりを推進していくことが求められており,高齢者が自立した生活を送り,生涯学習を楽しみ健やかに生きていくことが,各人の人生を豊かにするとともに,医療費等の増大の抑制につながるという視点を持つことが重要である。
  5地域社会の活力の低下
   現在,グローバル化による産業の空洞化や少子高齢化の進展などにより,地域社会の活力の低下が問題となっている。

3.今後の重点分野
   上記の5つの観点と近年の社会の変化を踏まえ,我々は,今後,特に,重点的に取り組むべき分野として議論した中では,次の5点を重要と考えた。
   1 職業能力の向上
2 家庭教育への支援
3 地域の教育力の向上
4 健康対策等高齢者への対応
5 地域課題の解決

今後重視すべき観点と今後重点的に取り組むべき分野との関係図

(1)職業能力の向上
   職業能力の向上を図るためには,学校教育段階から,勤労観・職業観の育成を図るとともに,社会教育施設等においても,若者や働き盛りの世代の人のための職業能力の向上につながる学習支援を充実していくことが重要である。
   この際,フリーターなどの中でも,就きたい職が見つからない若者,自分がどう生きたらよいのか分からないといったことのために自分探しをしている若者などが多数存在しているとの指摘があるため,こうした人への対応を検討していく必要がある。また,働く期間が長期化していることに対応し,高齢者の職業能力を高めていくとともに,男女ともに,生き方を主体的に選択し,生涯にわたり学び,力を付け,その成果を生かして様々な分野で能力を発揮できるような学習環境の整備を図ることにより,男女共同参画社会の形成を促進するという視点も重要である。

(2)家庭教育への支援
   家庭の教育力の向上を図るためには,学校や地域において,できるだけ早い段階から,親になるための学習の充実を図るとともに,親になった後も,広く子どもから学び,仲間同士の親とも学び合うことなどにより,地域全体で学び合って,親が親として育ち,力をつけるような学習を大幅に充実するための方策を検討することが必要である。

(3)地域の教育力の向上
   子どもが「生きる力」をはぐくむためには,学校,家庭,地域が相互に連携しつつ,家庭や地域社会における教育力を充実させ,社会全体で子どもを育てていくことが重要である。このため,異年齢の子どもや異世代の地域の人々とのかかわりの中で,様々な体験の機会を提供し,子どもの自主性・創造性・社会性を涵養するとともに,触れる・体験するといった感覚を通して情操を養うなど,地域の大人の力を結集して子どもを育てる環境を整備することが求められる。

(4)健康対策等高齢者への対応
   元気な高齢者づくりのためには,様々な生活の場や企業の中で気軽に体を動かすことから始め,地域全体が健やかな意思と健康な体を持つための取組が求められる。
   また,高齢化する地域社会を活性化していくためには,高齢者の学習活動について,生きがいづくりとともに,能力開発関係のものなども含めて,高齢者の多様な学習ニーズにこたえるとともに,学習成果を活用できる機会を充実していくことが求められる。

(5)地域課題の解決
   各地域において,まちづくりや地域の文化の継承・創造,自然環境の保全,地域に根ざした経済活動の活性化の促進,介護・福祉,男女共同参画等の現代の切実な地域の課題に適切に対応していくことにより,個性豊かな活力ある地域社会を築いていく必要がある。

   なお,これらの重点的に取り組むべき分野に関して,関係機関・団体等の今後の方策について出された意見は別添1(P.19〜26)のとおりである。


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