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第2章 高校教育の質の確保・向上に関する課題・基本的考え方

1.「共通性の確保」と「多様化への対応

  • これまで触れてきたとおり、高等学校や生徒の多様化が進む一方で、高校教育に共通に求められるものは何かといった視点が弱くなっており、社会・産業界から社会の一員として最低限の資質・能力を身に付けさせるべきといった指摘や、大学から高等学校段階での学力を確実に身に付けさせるべきといった声がある。
  • 本部会においては、これらの指摘も踏まえ、高校教育の共通性を確保するため、全ての生徒に共通に身に付けさせる資質・能力について、「コア」と位置付けた上で、その範囲・要素と評価の在り方について整理した。
     また、同時に、高等学校や生徒が多様化している中で、様々な幅広い学習ニーズにきめ細やかに対応することも求められるところであり、両者のバランスに配慮しながら高校教育の質の確保・向上を図ることが必要である。現在抱えている課題等も踏まえつつ、その基本的な考え方を以下に示すこととする。

2.全ての生徒に共通に身に付けさせるべき資質・能力の育成<共通性の確保>

(1)高校教育として求められる質の確保に係る課題

  • 高校教育の多様化は、結果として、生徒が高等学校の学習で何をどの程度習得したのかを見えにくくもしている。また、学校によっては、ともすれば履修させることに重点が置かれ、単位認定されていても期待される資質・能力を十分身に付けていない場合があることも指摘されており、高校生としての最低限の資質・能力を身に付けないまま卒業しているケースも見られる。こうしたことが、高校教育に対する信頼性のゆらぎにもつながっており、教育活動のプロセスに関し透明性の向上や説明責任を求める声とともに、高校教育の質の確保に対する要請が高まる要因となっている。
  • 質の確保の成否は、何より、生徒の教育に直接携わる教員、学校の取組如何に負うところが大きく、各学校・教員による積極的な取組が求められるが、同時に、国においても、学校・教員の取組への支援とともに、公的システムによる質の担保を図っていく責任がある。
  • 高校教育の多様化への対応が重要であればこそ、その中で生じてくる質の確保の問題には、一層積極的に対応していくことが求められる。このことを踏まえつつ、「高等学校とは何か」について新たに共通認識を図り、高校教育全体の質の確保を目指していく必要がある。

(2)全ての生徒に身に付させる資質・能力「コア」

1.「コア」の範囲

  • 学校教育法は、高等学校の目的を「中学校における教育の基礎の上に、心身の発達及び進路に応じて、高度な普通教育及び専門教育を施すこと」と規定するとともに、高等学校の目標として、「義務教育として行われる普通教育の成果をさらに発展させて、豊かな人間性、創造性及び健やかな身体を養い、国家及び社会の形成者としての必要な資質を養う」こと等を規定している。
     また、小・中・高等学校を通じ、その教育の実施上、特に配意すべき事項として、生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、学力の重要な三要素としての「基礎的な知識及び技能を習得させる」こと、「これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくむ」こと、「主体的に学習に取り組む態度を養う」ことを求めている。
  • 学校教育法が規定したこれらの力は、いずれも学習指導要領が重視する「生きる力」を支える資質・能力であり、「確かな学力」「豊かな心」「健やかな体」の調和を図るとともに、学力の重要な三要素を位置付けた同法の教育理念は、「生きる力」の育成の理念と重なるものである。
  • 「生きる力」の育成は、全ての高等学校にとっての共通の目標であり、以上を踏まえれば、「コア」の範囲については、「確かな学力」、「豊かな心」及び「健やかな体」(知・徳・体)のいずれの領域にも及ぶものと捉えることができる。

2.「コア」を構成する資質・能力

  • 変化の激しい社会にあって、働く人々に求められる能力は高度化しており、身に付けた専門知識や技能がすぐに陳腐化したり、新たな知識・技能の習得を次々に迫られたりするなど、求められる対応のスピードも早くなっている。
  • 一方、求められる知識・技能の変化が激しいからこそ、誰にとっても、生涯にわたって学び続けることの必要性がますます大きくなり、そのための基盤となる力を身に付けることが、改めて重要となる。さらに、どのような職業においても共通に求められる汎用的能力の基礎となる力や、市民社会の形成者として求められる能力等は、近い将来職業人となり、また、全員が主権者となる高校生に確実に身に付けさせることが必要である。
  • 高等学校は、進学や就職といった生徒の進路にかかわらず、中学校卒業後のほぼ全ての者に対し、社会で生きていくために必要となる力を共通して身に付けさせるとともに、自立に向けた準備期間を提供することのできる最後の教育機関となる。
  • 社会で自立し、社会に参画・貢献していく人材の育成を推進していく観点からは、「確かな学力」を構成する「学力の三要素」とともに、特に、次の力を、「コア」を構成する資質・能力の重要な柱として重視していくべきと考える。
    • 社会・職業への円滑な移行に必要な力
    • 市民性(市民社会に関する知識理解、社会の一員として参画し貢献する意識など)
  • さらに、「コア」を構成する資質・能力としては、これらの柱をさらに具体化したもの等として、以下のような資質・能力を挙げることができる(※24)。
    • 言語を活用して批判的に考える力、分かりやすく説明する力、議論する力
    • 新たな価値観や考え方を創り出す力やものづくり力などを含めた「創造力」
    • 多様な他者の考えや立場を理解する力や、相手の話を聴く力、コミュニケーション力などを含めた「人間関係形成力」
    • 自ら課題に挑戦していく力などを含めた「主体的行動力」
    • 今後の自分自身の可能性を含めて自らを肯定的に理解するとともに、自らの思考や感情を律し、今後の成長のために進んで学ぼうとする「自己理解・自己管理力」
    • 生徒が将来の進路を決定するために必要な「勤労観・職業観」、労働者としての権利・義務の理解など社会的・職業的自立の上での基礎的・基本的な知識・技能
    • 社会の発展に寄与する意識・態度などの「公共心」
    • 社会奉仕の精神、他者への思いやり
    • 健康の保持増進のための実践力
       等
≪参考≫ 「コア」を構成する資質・能力(イメージ)

≪参考≫ 「コア」を構成する資質・能力(イメージ)

※24 本部会では、何が「コア」であるかを考える上での一つのアプローチとして、学習指導要領が示す必履修教科・科目等と「コア」との関係についても確認した。
 必履修教科は、当該教科に属する複数の科目のうちから、いずれかの科目を所定の枠内で全ての生徒に必ず履修させ、高校生として必要な知識・技能と教養を身に付けさせるために設けられているものであり、必ず履修しなければならない総合的な学習の時間や特別活動とともに、「高等学校とは何か」ということを、学習内容の面から国が示したものとも言える。特に、新学習指導要領で設けられた共通必履修科目は、高等学校の教育課程の共通性を高めるため、全ての生徒が共通に履修する科目であり、高校教育としての共通の内容を端的に表すものである。
 すなわち、学習指導要領が示す必履修教科・科目等は、高等学校において全ての生徒に身に付けさせるべき「コア」の内容を、教科・科目等の形で示しているものと捉えることが可能である。
(参考)必履修教科・科目
 必履修教科(国語、地理・歴史、公民など10教科)は、学習指導要領において、その教科を履修することが卒業の要件となっている教科であり、それぞれの教科には、当該教科の目標を達成させるための科目が複数置かれる。各教科においてどの科目を必履修(卒業のために必ず履修しなければならない科目)とするかは、学習指導要領で規定される必履修科目以外、各学校の判断に任されており、選択必履修として、必履修科目を複数開設し、生徒に選ばせる形としている学校が多い。
 なお、卒業のために必ず履修しなければならないものとしては、必履修教科・科目の他に総合的な学習の時間や特別活動がある。

(3)全ての生徒に共通に身に付けさせるべき資質・能力の把握・評価

  • (2)で示したように、高校教育における「コア」を知・徳・体の幅広い領域に及ぶものと捉えた場合、「コア」として求められる資質・能力を生徒が身に付けたかどうかを、どのように把握し、評価していくかが重要となる。
  • 「コア」を構成する資質・能力の中には、例えば知識の量や実習で身に付ける基本的な職業技術の状況等のように、筆記試験や技能試験等の手段により客観的な把握を比較的容易に行えるものと、そうでないものとがある。評価の取組を進めるに当たっては、こうした様々な資質・能力について、それぞれの性質に応じた適切な方法による把握を行い、評価の充実を図っていく必要がある。

3.多様な学習ニーズへのきめ細やかな対応<多様化への対応

  • 高等学校における共通性を確保する観点から、2.に掲げるような全ての生徒が身に付けるべき資質・能力の把握・評価について取組を進める一方で、高校教育の質の確保・向上を図っていくためには、学び直しや特別な支援が必要な生徒への対応や優れた才能や個性を有する生徒への支援など様々な幅広い学習ニーズがあることを踏まえ、学校・教職員・生徒に対して、多角的な観点から、きめ細やかな支援を行っていくことが重要である。

(1)各学科・課程等における課題と対応

1.普通科における課題と対応

  • 普通科卒業者は、昭和30年代には就職率が4割を超えていた時期もあったが、現在は1割を下回り、他方で高等教育機関への進学率が8割(※25)を超えている。高等教育機関への進学希望者の中には、高等学校が高等教育機関への単なる通過点として、進路意識や目的意識が希薄なままとりあえず進学している者が少なからず存在している。
  • また、普通科卒業者の就職状況は、他の専門学科や総合学科と比べて厳しい状況(※26)にあり、将来の社会的・職業的自立に向けた資質・能力の育成や、職業に従事するために必要な資質・能力を習得させることが大きな課題となっている。
  • このようなことを踏まえ、一人一人の生徒が主体的に目標や意欲を持って学ぶとともに、働くことの重要性や意義を理解し、それぞれの職業観・勤労観を確立して、将来的に社会に貢献する基盤を培うためには、キャリア教育を一層推進するとともに、地域や学校の実態、生徒の特性や進路等を考慮しつつ、必要に応じて職業教育についても進めるなど、学校から社会への円滑な移行推進を図ることが必要である。

※25 文部科学省「学校基本調査」

※26 文部科学省「高等学校卒業者の就職状況に関する調査」

2.専門学科・総合学科における課題と対応

  • 専門学科は、近年の技術革新の進展や産業構造の変化、労働市場の流動化などにより、地域の産業・社会において求められる人材の把握と育成、職業人として求められる知識・技能の高度化への対応、専門的な能力を高めるとともに、社会人に必要な基礎的な知識・技能の習得を図ることなども一層求められるようになっており、社会のニーズに応じた実践的な職業教育をより充実することが必要である。
  • また、少子化が進み、生徒数が減少する中で、各都道府県では公立高等学校の再編整備が進められているが、近年の学科数を見ると、普通科と比べ、専門学科の減少率は大きい。これは、専門学科が再編整備の対象の中心となることが多かったことによるものだが、社会からの要請に基づいた実践的な教育を実施し、普通科よりも職業に関する目的意識の高い者が多いといった専門学科における生徒の実態等を踏まえ、その必要性を再確認する必要がある。
  • さらに、専門学科は就職率が昭和30年代には約8割を超えていたが、その後減少し、現在は卒業者の約5割となっている一方で、高等教育機関への進学率は年々増加し、昭和30年代には1割未満であったものが、その後増加し、現在は4割を超えている。このような中で、高等教育との接続も視野に入れた職業教育の充実や高等学校段階で身に付けるべき学力の確実な修得が求められている。
  • 特に、高等学校専攻科については、主に職業に関する資格を取得する場や、高等学校修了者に更に深く教育機会を提供する場として活用されているが、現行制度では、大学において、高等学校の専攻科の学習を単位認定する仕組みはなく、また、専攻科修了者は、大学に編入学することができない。しかしながら、例えば看護などの分野で、高等学校専攻科を修了した後に、看護系大学等へ進学し、保健師や助産師の資格取得を目指す者もいる中で、大学での単位認定や編入学へのニーズが存在しており、その対応が求められている。
  • 他方、総合学科は、特色ある活動が行われている一方で、目的意識や将来の進路への自覚が弱い生徒もおり、主体的な科目選択を行わせることが難しく、安易な科目選択を行うといった面が見られることや、依然として普通科と比べて中学生やその保護者の理解や認知度が低いこと、中学校教職員の理解が不十分であること、多様な教科・科目等を開設するための十分な体制や費用の確保が必要であることなどが課題となっている。

3.定時制・通信制課程の課題と対応

  • 定時制・通信制課程は、高等学校生徒の多様化が進む中にあって、多様な学習スタイルを可能としており、従来からの勤労青年のための教育機関としての役割だけでなく、多様な学びのニーズへの受け皿としての役割も果たしている。
     とりわけ、学習時間や時期、方法など自分のペースで学べることから、不登校・中途退学経験者等への学び直しの機会提供など、困難を抱える生徒の自立支援等の面でも大きく期待されるようになっている。また、外国籍の生徒や発達障害等の特別な支援を必要とする生徒への対応なども重要な課題となっている。
     このような中で、多様な生徒が入学している実態にきめ細やかに対応するため、義務教育段階からの学び直しを支える体制の強化に加え、日々の生活指導や教育相談、将来を見通した進路指導をサポートする体制など学習面だけでなく、学校の内外を問わず、様々な形で生徒や学校等への支援を充実していく必要がある。

4.広域通信制課程における不適切な事例への対応

  • このような中で広域通信制課程の高等学校も、不登校・中途退学経験者等への学び直しの機会提供などで重要な役割を果たしてきたが、一方で、一部の学校等において不適切な事例も見られたところである。
     平成23年に行われた調査(※27)では、一部の広域通信制高等学校において、択一式を多用した添削指導や、視聴確認の成果の評価を行わない面接指導、自宅で行う試験など不適切な教育活動や、民間教育施設による教育活動と渾然一体となった高等学校の運用などの事案が見られた。このような状況を踏まえ、文部科学省から改善を促す通知が示され、各認定地方公共団体等においては調査・改善のための取組が進められたところである。
     一方、平成25年に行われた調査では、一部において改善が図られたものの、依然として教育の質が確保されているとはいえない事例も見受けられるとともに、認可自治体における事務体制上の課題や、サテライト施設における教育活動が十分に把握していない等の実態が明らかになったところであり、その対策を講じることが必要である。

※27 文部科学省「学校設置会社による学校設置事業」調査結果(平成23年12月)

5.特別支援教育の推進

  • 高等学校においては、特別支援教育の推進も重要な課題となっており、教職員の研修の充実や指導体制の確保等を進めるとともに、各地域・学校の実態・ニーズに即した種々の実践や検討をより一層進める必要がある。
  • また、学校教育法においては、高等学校において障害のある生徒に対し、障害による学習上又は生活上の困難を克服するための教育を行うことが明記され、学習指導要領により弾力的な教育課程の編成が可能となっている一方で、通級による指導や特別支援学級に係る「特別の教育課程」を編成することが法令に規定されていない。
    今後は、教育課程の弾力的な運用や指導の工夫により、種々の実践を進めるとともに、特別の教育課程の編成や教職員定数の在り方についても検討を深めることが必要である。

6.学び直しの推進

  • 各学科・課程を通じて、一部の高等学校においては、義務教育段階の学習内容を十分に身に付けていない者も少なからず見られるが、高等学校を卒業するまでには全ての生徒が必履修教科・科目の内容を学習する必要があり、その内容を十分に理解するためには、義務教育段階の学習内容が定着していることが前提となる。このため、新しい学習指導要領においては、高等学校段階の学習に円滑に接続できるようにすることができるよう、義務教育段階での学習内容の確実な定着を図るための学習機会を設けることについて示しており、学校や生徒の実態等に応じ、今後これらの取組がより効果的に進められることが重要である。

(2)経済社会の変化等への対応

  • 近年の産業・就労構造の変化をはじめとした経済社会の変化や、高等学校を取り巻く現状を踏まえれば、多様化した生徒の様々な学習ニーズへの対応や学習機会に係る選択肢の充実は、今後も引き続き推進していくことが求められる。

1.キャリア教育・職業教育の推進

  • 特に、若者の完全失業率や非正規雇用率の高さ、無業者や早期離職者の存在など、いわゆる「学校から社会・職業への移行」が円滑に行われていないという課題に加え、コミュニケーション能力など職業人としての基本的な能力の低下や、職業意識・職業観の未熟さ、身体的成熟傾向にもかかわらず精神的・社会的自立が遅れる傾向、進路意識や目的意識が希薄なまま進学する者の増加など、「社会的・職業的自立」に向けての様々な課題が見受けられる。そうした中で、若者の社会的・職業的自立や、生涯わたるキャリア形成を支援するため、キャリア教育や職業教育を充実していくことが強く求められる。

2.優れた才能や個性を伸ばす学習機会の提供

  • 一方、少子高齢化やグローバル化が更に進展する中で、社会全体の変化に対応し新たな価値を主導・創造する人材を育成することは重要であり、意欲と能力のある生徒に対して、ハイレベルな学習機会や切磋琢磨する場をより一層確保することが求められる。

3.グローバル人材の育成

  • グローバル化が加速する中で、日本人としてのアイデンティティや日本の歴史と文化に対する深い教養を前提として、豊かな語学力・コミュニケーション能力、主体性・積極性、異文化理解の精神等を身に付けて様々な分野で活躍できるグローバル人材を育成することが求められる。

4.ICT教育の推進

  • 情報化の急速な進展に伴い、情報及び情報手段を主体的に選択し活用していくための情報活用能力を育成することが必要である。また、過疎化等が深刻化するとともに、少子化による高校再編が進められる中で、遠隔地からの先進的な教育の実施や特別な支援が必要な生徒へのきめ細やかな対応も含め、ICTや様々なメディアを活用することにより、全日制・定時制課程における生徒の多様な質の高い学びを実現するために効果的な授業の在り方を検討することも必要である。

(3)教職員・学校の体制強化

  • 高等学校の質の確保・向上を図るためには、その基盤となる教職員の資質向上と学校の組織運営体制の改善・充実は欠かせない。このため、教職員の研修や多様な人材を登用するための取組、PDCAサイクルを確実に進めるためのマネジメント体制の確立や、学校評価の充実などをより一層進めることが必要である。

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-- 登録:平成26年04月 --