資料3

答申に盛り込むべき事項(案)

平成19年12月26日

はじめに

−中央教育審議会への諮問、平成19年中間報告からの検討経緯、教育基本法の改正等について−

1.生涯学習の振興を図るための行政をめぐる現状と課題

(国民が生涯にわたって行う学習活動の支援への要請)

  •  戦後の著しい経済発展、科学技術の高度化、情報化、少子高齢化等が進む中、人々は、物質的な豊かさに加え、精神的な面での豊かさを求め、生涯を通じて健康で生きがいのある人生を過ごすことや自己実現を求めている。このような状況の中で、人々は自己の充実・啓発や生活の向上のため、多様な学習の機会を求めており、国民一人一人がその生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、また、その成果を生かすことのできる社会の実現が求められている。
  •  このような国民の学習活動を促進することは、国民一人一人が、充実した心豊かな生活を送り、また、職業生活に必要な知識・情報・技術(以下、知識等という。)を習得・更新することにより経済的にも豊かな生活を送ることを可能とすることのみならず、同時に、社会を支え発展させることができる国民一人一人の能力を向上させることを支援するものである。これは、ひいては社会全体の活性化を図り、我が国の経済・社会の持続的発展に資するものであると考えられる。我が国の現状及び将来を見据えると、生涯学習社会の実現の必要性・重要性がますます高まっている。

(1)国民一人一人の学習活動の促進−高まるその必要性と重要性

(「知識基盤社会」等の時代の要請)

  •  21世紀は、新しい知識等が、政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域で基盤となり重要性を増す、いわゆる「知識基盤社会(knowledge-based society)」の時代であると言われている(注1)。そのような社会においては、国境を越えた知識の急速な伝播・移動により、さらなる競争と技術革新が生まれ、相乗的にグローバル化が進展するが、その過程において、知識等も絶え間なく激しく変化・進展していく。このような中で、各個人が生涯にわたり職業能力を維持し、社会生活を営んでいく上でも、常に必要な知識等を習得・更新し、それぞれの持つ資質や能力を伸長することが必要である。国民一人一人がそのような変化に対応できることは、自己の充実・啓発のためのみならず、変化する国際社会にあって我が国が確固たる地位を占めていくためにも必要である。

    • (注1)中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」(平成17年1月28日)
  •  また、近年、地球規模の様々な課題が深刻化する中、世界的にも「持続可能な社会」の構築が求められており、そのための教育(「持続可能な発展のための教育(Education for Sustainable Development, ESD)」)の必要性・重要性も国際社会で提唱されている。(注2)持続可能な社会では、社会の構成員として個々人が生産・消費のバランス感覚を持ちながらそれぞれ社会で責任を持って果たす「循環型社会」への転換が求められる。各個人が、自らのニーズに基づき学習した成果を地域社会に還元し、地域全体の持続的な教育力の向上に貢献するといった「知の循環型社会」の構築は、持続可能な社会の構築にも貢献するものである。

    • (注2)国連「持続可能な発展のための教育の10年」

(自立した個人や自立したコミュニティーの形成への要請)

  •  さらに国内の行財政・経済に目を転じると、我が国社会は大きな変化の局面にさしかかっている。行政改革・規制緩和が進む中、様々な分野で事前規制から事後のチェックへのシステムの転換が進んでいる。また、行財政改革の観点からも、様々な権限が「官」から「民」へ移行され、これまでの行政サービスが縮小される傾向がある。この中で、各個人が自己の責任において主体的に判断を行うことがより求められるようになっている。このため、このような状況に対応し、国民一人一人が自らの人生を豊かなものとするための判断を十分な情報を得た上で主体的に行えるよう、国民のニーズに応じた学習機会を充実し、その学習活動を支援することが必要である。また、これまで行政が公的に提供してきた地域におけるサービスの縮小が進み、地域住民等が自らその役割を果たす状況が増えていくことが予想される中、自立した地域コミュニティーの育成も必要となっており、各個人の学習への支援のみならず、地域コミュニティーの基盤強化につながる地域全体の教育力の向上への要請も高まっている。

(これらの社会の変化や要請に対応するために必要な力)

  •  我が国の学校教育においては、変化の激しい社会を担う子どもたちに必要とされる能力をいわゆる「生きる力」(注3)と位置付けて、教育内容の改善を図ってきた。すなわち、子どもたちが基礎・基本を確実に身に付け、いかに社会が変化しようと、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性、たくしまく生きるための健康や体力などの「生きる力」を身に付けさせることを学校教育の目標として様々な改革に取り組んできた。

    • (注3)平成8年中央教育審議会答申で提唱。基礎・基本を確実に身に付け、いかに社会が変化しようと、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性、たくましく生きるための健康や体力などの力。平成19年11月7日中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会の「教育課程部会におけるこれまでの審議のまとめ」においても、その定義が改めて確認されている。
  •  このようなゆるぎない基礎・基盤の上に立った総合的な力が必要との認識は、その後、国際的にも共有されており、経済協力開発機構(OECD)は、「知識基盤社会」の時代を担う子どもたちに必要な生活の中で生きて働く能力、すなわち「単なる知識や技能だけではなく、技能や態度を含む様々な心理的・社会的なリソースを活用して、特定の文脈の中で複雑な課題に対応する力」をいわゆる「主要能力(キーコンピテンシー)」(注4)として定義づけ、国際比較調査を実施している。

    • (注4)経済協力開発機構(OECD)が2000年から開始したPISA調査の概念的な枠組みとして定義。「単なる知識や技能だけではなく、技能や態度を含む様々な心理的・社会的なリソースを活用して、特定の文脈の中で複雑な課題に対応することができる力」(「教育課程部会におけるこれまでの審議のまとめ」)
  •  言うまでもなく、子どもたちの「生きる力」を育む重要な基盤は学校教育である。しかしながら、これは必ずしも学校教育のみによって身に付くものではなく、実社会における多様な体験等と相まって伸長されるものである。このため、子どもたちが学校の内外で、その発達段階に応じて「生きる力」を育むことができるような環境づくりが求められる。
  •  同様の認識から、大人についても、「社会を構成し運営するとともに、自立した一人の人間として力強く生きていくための総合的な力」を「人間力」と定義した上で、必要とされる能力を明確化し、その伸長を図ることが不可欠であるとの考え方もある(注5)。また、国際的にもOECDにおいて、成人に必要とされる能力を調査しようとの試みもあり(注6)、国内外で、大人が社会の変化に対応するための力等についての関心の高まりが見られる。

    • (注5)内閣府「人間力戦略研究会報告書」(平成15年4月10日)
    • (注6)OECDが提案するPIAAC(Programme for the International Assessment of Adult Competences)成人対象の調査。個人や社会にとって必要不可欠で普遍的な技能について調査測定することを目的とする。
  •  変動の激しい社会において、個々人が自立した一人の人間として力強く生き抜くために必要とされる総合的な力を身に付けるために、国民が生涯にわたって学びを継続できるようにすることが求められている。特に知識や技能は、陳腐化しないよう常に更新する必要があり、大人の学習についても、国民の継続的な学習へのニーズに応えられる環境整備が必要である。

(社会全体の教育力を高めることへの要請)

  •  このように、社会の変化に国民一人一人が対応していかれるよう、各個人のニーズや社会の変化に対応した多様な主体による多様な学習の選択肢が社会で提供されることが求められる。特に、前述のとおり、子どもたちの「生きる力」を育む上で、実社会における多様な経験や他者との人間関係は重要であり、そのような機会が家庭・地域等で広く子どもたちに与えられることが必要である。他方で、近年、都市化、情報化、共働き世帯の増加等の経済・社会の変化による地域社会の人間関係の希薄化や市町村合併等による地域社会の基盤の弱体化と教育力の低下が指摘されており、今後子どもたちを社会全体で育てていくために、地域社会の教育力を高めることが求められている。
  •  また、地域社会を構成する要素の一つであり、また、全ての教育の原点である家庭教育は、基本的な生活習慣や生活能力、自制心や自立心、豊かな情操、他人に対する思いやり、善悪の判断などの基本的倫理観、社会的なマナー、学習に対する意欲や態度などの基礎を子どもたちに育むものであり、重要である。近年その家庭の教育力について、少子化、都市化等の家庭を巡る状況の急速な変化により、親の過保護・過干渉や無責任な放任、育児不安の広がりやしつけへの自信喪失など、様々な問題が生じているとの指摘もあり、社会全体で支援していくことが求められている。

(2)これまでの生涯学習の振興方策について−経緯と現状に対する基本認識−

1これまでの生涯学習振興行政の経緯

(「生涯教育」の概念の提唱)
  •  「生涯学習」の考え方に先立って、昭和40年にユネスコの成人教育に関する会議において、「生涯教育」が、人生の諸段階、生活の諸領域におけるフォーマル、ノンフォーマル、インフォーマルな教育・学習の全てを含む総合的な概念として提案されている。提案者のポール・ラングランは教育が児童期・青年期で停止するものではなく、人間が生きている限り続けられるべきものであり、このような方法によって、個人及び社会の永続的な要求に応えなければならないと、「生涯教育」の必要性・重要性を説いた。このような概念はその後国際的にも普及していった。
(我が国における「生涯教育」、「生涯学習」の概念の提起)
  •  我が国では、昭和46年の中央教育審議会(「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について」)及び社会教育審議会答申(「急激な社会構造の変化に対処する社会教育のあり方について」)で生涯教育が検討課題として提議されたほか、56年の中央教育審議会答申(「生涯教育について」)において、初めて本格的に「生涯学習」の考え方が取り上げられている。この答申において、「生涯教育」は、「国民一人一人が充実した人生を送ることを目指して生涯にわたって行う学習を助けるために、教育制度全体がその上に打ち立てられるべき基本的な理念である」とされている。
  •  また、「生涯学習」は、「今日、変化の激しい社会にあって、人々は、自己の充実・啓発や生活の向上のため、適切かつ豊かな学習の機会を求めている。これらの学習は、個々人が自発的意思に基づいて行うことを基本とするものであり、必要に応じ、自己の適した手段・方法は、これらを自ら選んで、生涯を通じて行うものである。この意味では、これを生涯学習と呼ぶのがふさわしい。」とされており、この考え方は、平成2年の中央教育審議会答申(「生涯学習の基盤整備について」)をはじめ、その後の答申等においても踏襲されている。
  •  昭和59年から62年にかけて設置された臨時教育審議会の4次にわたる答申においては、学歴社会の弊害の是正と新たな学習需要の高まりに応え、学校中心の考え方を改め教育体系の総合的再編成を図るという「生涯学習体系への移行」が、「個性重視の原則」、国際化や情報化という「変化への対応」と並ぶ教育改革の3つの基本理念の一つとして提言された。
(生涯学習を推進する体制の整備)
  •  これらの答申等を受け生涯学習を推進する体制の整備が進み、昭和63年には文部省(当時)に生涯学習を担う局が置かれた。また、平成2年の中央教育審議会答申を受け、同年「生涯学習の振興のための施策の推進体制等の整備に関する法律(生涯学習振興法)」が制定されたことにより、都道府県を単位とした全国的な体制整備が図られ、あわせて、文部大臣の諮問機関として、生涯学習に係る機会の整備に関する重要事項を調査審議する生涯学習審議会が設置された(13年1月の中央省庁再編により、中央教育審議会生涯学習分科会に再編)。
  •  生涯学習振興法には、国における生涯学習審議会の設置のほかに、都道府県について、1教育委員会が生涯学習の振興に資するために必要な体制の整備を図りつつ、事業を一体的かつ効果的に実施するよう努めること、2地域生涯学習振興基本構想を作成することができること、3都道府県生涯学習審議会を置くことができること等が規定されている。また、市町村については、関係機関及び関係団体等との連携協力体制の整備に努めることが規定されている。
(これまでの生涯学習の振興に係る提言等)
  •  その後は、平成3年に中央教育審議会答申(「新しい時代に対応する教育の諸制度の改革について」)において、学校教育をも含めた社会の様々な教育・学習システムを総合的にとらえ、人々の学習における選択の自由を拡大して、生涯にわたる学習活動を支援していくことが重要であるとの認識の下、それまでの生涯学習の振興のための基盤づくりや機会の充実等のみならず、生涯にわたる学習の成果を評価する仕組みの必要性について指摘がなされた。
  •  そのほか、近年においては、生涯学習審議会等の答申として、地域における生涯学習の振興のための地域の拠点整備や地域への貢献について提言した「地域における生涯学習機会の充実方策について」(平成8年)や、「生活体験・自然体験が日本の子どもの心をはぐくむ」(11年)、「学習の成果を幅広く生かす」(11年)、「新しい情報通信技術を活用した生涯学習の推進方策について」(12年)、「青少年の奉仕活動・体験活動の推進方策等について」(14年)等、様々な提言が行われている。また、今後の生涯学習の振興方策について、16年に生涯学習分科会の審議経過の報告が行われており、生涯学習を振興していく上での課題等について指摘がされた。

2これまでの社会教育行政の経緯

(我が国における社会教育関係法の制定)
  •  社会教育行政は、戦後、憲法及び教育基本法(旧教育基本法)の理念に基づき、昭和24年に制定された社会教育法等の関係法令にのっとり、住民の自主的な社会教育活動を尊重しつつ、その奨励・援助を行ってきた。
  •  社会教育法の目的は、社会教育に関する国及び地方公共団体の任務を明らかにすることであり、その任務は、すべての国民があらゆる機会、あらゆる場所を利用して、実際生活に即する文化的教養を高め得る環境を醸成するよう努めることとされている。また、社会教育が学校教育及び家庭教育との密接な関連性を有することにかんがみ、学校教育との連携の確保に努めるとともに、家庭教育の向上に資するよう必要な配慮をするものとされている。
  •  また、社会教育法には公民館について定められており、その事業、運営方針、公民館運営審議会等について規定されている。昭和21年には、「公民館の設置運営について」という文部次官通牒が発出されており、公民館が、社会教育法制定以前から社会教育の拠点として重視されていたことがわかる。
  •  社会教育法第9条において「社会教育のための機関とする」とされ、「必要な事項は、別に法律をもつて定める」とされていた図書館及び博物館については、昭和25年に図書館法が、26年に博物館法が制定され、その目的、事業、専門的職員等について規定されている。教育基本法第12条の「社会教育」においても、この2つの施設は公民館とともに社会教育施設であることが明確にされており、社会教育の重要な拠点であることも同様である。
(その後の社会教育行政の改革等)
  •  社会教育法は、制定以来今日までに、昭和26年、34年、平成11年、13年と4度の主要な改正を経ている。すなわち、社会教育関係職員の充実を図るため、昭和26年に一部改正が行われ、社会教育主事及び社会教育主事補に関する規定を加え、これらの職に法的根拠を与えた。
     また、昭和34年には、社会教育行政の一層の充実を図るため、市町村について社会教育主事を設置する義務を課し、社会教育主事講習の充実に関する規定を置いたほか、国及び地方公共団体から社会教育関係団体への補助金禁止規定の削除、公民館、図書館及び博物館に対し、必要な経費を補助できるよう規定の整備等が行われた。
     社会体育に関しては、昭和36年にスポーツに対する国民の関心の高まりに応えて「スポーツ振興法」が制定され、積極的な振興、助成策がとられることになった。
  •  昭和30年代の半ば以降、経済の高度成長に伴い、社会構造は著しく変化し、これに対応する社会教育のあり方が問われるようになった。昭和46年の社会教育審議会答申(「急激な社会構造の変化に対処する社会教育のあり方について」)では、生涯教育と社会教育の関係について整理をした上で、社会教育が担うべき役割に関する基本的な方向を示し、1社会教育の考え方の拡大、2生涯教育の観点からの体系化、3多様な要求に対応する教育の内容、4団体活動、ボランティア活動の促進、5社会教育行政の重点(施設と指導者の拡充)等を提言した。
  •  平成10年の生涯学習審議会答申(「社会の変化に対応した今後の社会教育行政の在り方について」)においては、社会教育行政は、生涯学習社会の実現を目指して、その中核的な役割を果たしていかなければならないとの指摘の下、地域社会の需要に的確に対応した社会教育行政を展開するための地方分権・規制緩和に係る改革の方向性について提言が行われた。これを踏まえ、平成11年に「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」による一部改正が行われ、社会教育委員の構成に関する規定の簡素化、公民館運営審議会の必置規制の廃止等が行われた。
     なお、同答申においては、社会教育と学校教育の連携を強化するための「学社融合」の推進、社会教育行政を通じた地域社会の活性化、ネットワーク型行政の推進等についても指摘している。
  •  さらに、平成12年の生涯学習審議会社会教育分科審議会報告「家庭の教育力の充実等のための社会教育行政の体制整備について」や教育改革国民会議報告(平成12年12月22日)等を受けて、平成13年に一部改正が行われ、1家庭教育の向上に資するための社会教育行政の体制の整備、2ボランティア活動等社会奉仕体験活動、自然体験活動等の体験活動の促進、3社会教育主事の資格要件の緩和等が行われた。

3生涯学習振興行政及び社会教育行政の現状に対する基本認識

(生涯学習振興行政及び社会教育行政の実態)
  •  我が国において「生涯学習」という言葉は概ね国民に定着しており、平成17年に内閣府が実施した「生涯学習に関する世論調査」によれば、「生涯学習」に対する国民の認知度は約8割にのぼっている。
  •  生涯学習の振興のための施策の推進体制については、平成19年現在、全ての都道府県に生涯学習担当部局が設置され、38都道府県に生涯学習審議会が設置されている。平成11年には、全国生涯学習市町村協議会が発足し、現在134市町村が加盟している。
  •  他方、社会教育行政に関する職員組織を見ると、社会教育行政において市町村の教育委員会が大きな役割を果たしているにも関わらず、市町村教育委員会に配置されている社会教育主事等(主事、派遣主事、主事補)は、平成10年の4,923人から、平成17年には2,961人と、顕著な減少が見られる。これには、派遣社会教育主事の経費の交付税化、地方公共団体の逼迫した財政状況等を背景として促進された市町村合併等の影響があると考えられる。
  •  司書、学芸員等については、館数の増加に伴い、総数としては増えているが、非常勤職員の割合が高まっている。一方で、住民の学習や地域課題の解決のため、専門的職員が継続的に資質を向上させる研修等の重要性は一層高まっているとの指摘がある。
  •  1.(2)のこれまでの行政の経緯を踏まえると、生涯学習振興行政及び社会教育行政に関する基本的な現状認識として、以下が挙げられる。

    •  生涯学習という言葉は国民にも一定程度定着したが、行政において、生涯学習と社会教育の概念の混同がある等の指摘もあり、関係者が共通理解をし、それぞれその役割を果たすためにも、生涯学習・社会教育・学校教育の関係等について、概念の整理が必要である。
    •  生涯学習の振興のための施策の推進体制については、生涯学習振興法の制定等により制度的には一定程度整備されたが、特にその中核を担う社会教育行政を担う組織については、地域による状況の差等が指摘されている。再認識されるべき社会教育行政の大きな役割や高まる学習需要に応えていくためには、社会教育を専門とする人材や社会教育施設等の在り方について検討する必要がある。
    •  生涯学習が「個人の要望」、すなわち個々人の自発的な意思に基づくものとの基本的な認識から、これまで「社会の要請」の視点から行政として特に重視すべき分野やその政策的な意義等について十分に明らかにされてこなかったため、それらを明らかにする必要がある。
    •  生涯学習の振興方策において、これまではややもすると推進体制の基盤整備や学習機会の提供等に重点が置かれ、学習成果の評価については必ずしも十分な対応がなされてこなかったことから、社会における活用や通用性を踏まえた学習成果の評価の必要性も踏まえ、その方策について検討する必要がある。
    •  平成18年12月に公布・施行された改正教育基本法(以下、改正教育基本法という。)を踏まえ、生涯学習の振興を図るための行政(以下、生涯学習振興行政という。)及び社会教育行政について見直すべき点がないか検討する必要がある。
  •  1.(1)の我が国の置かれた状況やこれまでの経緯、これらの現状認識に基づき、生涯学習の理念の下、より積極的に行政を展開することが今、求められている。

2.生涯学習の理念等についての基本的考え方

(生涯学習と生涯教育)

  •  まず、生涯学習と社会教育等との関係を整理する前提として、「生涯学習」、「生涯教育」及び「生涯学習の理念」についてそれぞれ整理・明確化しておく必要がある。
  •  「生涯学習」は、「生涯教育」を学習者の視点から捉え直した考え方・理念であると言われることがあるが、これについては、昭和56年の中央教育審議会答申でも明らかにされているように、「生涯学習」が生涯にわたって行われる「具体的な学習活動」を指すものであるのに対し、「生涯教育」が「考え方・理念」を表すものであるので、同質の対称的な概念として両者を捉えることは適切ではない。生涯教育という「考え方・理念」に対応する概念としては、改正教育基本法第3条に新たに規定された「生涯学習の理念」が適切である。

(生涯学習に関する定義)

  •  また、生涯学習という言葉の表す活動の幅があまりにも広範であり、その具体的な内容が定義されていないという指摘があるが、これについては、平成2年の中央教育審議会答申(「生涯学習の基盤整備について」)において指摘されているように、生涯学習は各個人が自発的意思に基づいて行うことを基本とし、手段についても必要に応じて、可能な限り自己に適した手段及び方法を自ら選びながら行うものとの考え方があることに留意する必要がある。
  •  あわせて、多種多様なかたちで実現されるべき生涯学習の具体的な内容を、法律上定義することはその性質上適当ではないとして、これまでも法律上の定義を置かなかった経緯があること、実態上も国民に生涯学習という言葉が一定程度定着していること等も考慮する必要がある。
  •  これらを踏まえれば、生涯学習の具体的な内容そのものを定義することよりも、行政として生涯学習を振興するにあたって、どの分野を対象とするのか等を検討することが、今後の生涯学習振興行政にとって重要である。

(生涯学習と社会教育、学校教育の関係)

  •  このように整理した上で、生涯学習と社会教育・学校教育の関係を整理すれば、各個人が行う組織的ではない学習(自学自習)のみならず、社会教育や学校教育において行われる多様な学習活動を含め、国民一人一人がその生涯にわたって自主的・自発的に行うことを基本とした学習活動が生涯学習である、ということができる。この場合、概念的には、社会教育や学校教育そのものではなく、そこで行われる多様な学習活動が、生涯学習に包含される対象であることに留意する必要がある。

(生涯学習振興行政と社会教育行政・学校教育行政の関係)

  •  また、改正教育基本法において明らかにされているように、国や地方公共団体が学校教育や社会教育に関する施策等を実施する際には、生涯学習の理念に配慮する必要がある。
  •  このことを踏まえれば、生涯学習振興行政は、生涯学習の理念に則って、その理念を実現するための施策を推進する行政であるといえる。そのため、その行政に関する施策は、社会教育行政や学校教育行政によって個別に実施される施策を中心として、首長部局において実施される生涯学習に資する施策等に広がっている。これらの各分野ごとの施策において、それぞれ生涯学習の理念に配慮しつつ、各施策を推進することは必要であるが、その全体を総合的に調和・統合させるための行政が生涯学習の理念を実現させるための、生涯学習振興行政の固有の領域であると考えられる。
  •  その内容として、これまでも整理されているように、1国民一人一人がその生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができる社会の実現のための生涯学習の機会の整備のための施策(学習情報を提供することや学習者のための相談体制を整備すること、潜在的な学習需要を持つ人々に対しても適切な配慮を行い学習意欲を高めるための啓発活動を行うこと、関係行政機関等の各種施策に関し連絡調整を図る体制を整備すること等)、2生涯学習の成果を適切に生かすことのできる社会の実現のための施策(成果を生かす場や成果を生かすための評価のための制度の構築等)が具体的な施策として挙げられる。
  •  これらの施策は、学校教育、社会教育等のそれぞれの固有の行政の中の一部として実施することができるものもあるが、国全体、または地方公共団体全体の学習機会の整備や学習成果の活用方策等をとらえるためには、一括して総合的に行政を行う方が、生涯学習の理念の実現を図る上で、より効果的・効率的である。
  •  なお、「社会教育」が社会教育法第2条において、「学校教育法に基き、学校の教育課程として行われる教育活動を除き、主として青少年及び成人に対して行われる組織的な教育活動(体育及びレクリエーションの活動を含む。)をいう。」と定義されていることからも、社会教育行政は、学校教育として行われる教育活動を除いた組織的な教育活動を対象とする行政である。これは、いわば国民一人一人の生涯の各時期における人間形成という「時間軸」と、社会に存在する各分野の多様な教育機能という「分野軸」の双方から、学校教育の領域を除いたあらゆる組織的な教育活動を対象している。したがって、固定的・体系的な対象である学校教育に比してその範囲は広がりを持ち、生涯学習振興行政において社会教育行政は中核的な役割を担うことが期待されている。
  •  生涯学習の理念に配慮しつつ、学校教育行政や社会教育行政等の実施する各施策全体を総合的に調和・統合させるための行政が、生涯学習振興行政の固有の領域であることを踏まえれば、中央教育審議会においては、1生涯学習振興行政の固有の領域に係る施策について検討・提言することと、2学校教育や社会教育等の各施策について、生涯学習の振興の観点から検討・提言することの双方が考えられる。本答申においては、1についての検討・提言を行うほか、2については、中央教育審議会の他の答申や現在進められている審議において学校教育に関して具体的に検討・提言されていることにかんがみ、主に社会教育に関する検討・提言を行うこととする。

3.目指すべき施策の方向性

(1)社会全体の教育力の向上

  •  1.(1)の社会の要請を踏まえ、我が国社会を支え発展させることができる人材を育成するためには、我が国社会全体の教育力を向上させることが必要である。
  •  社会全体の教育力を向上させるためには、それぞれの地域社会(地域コミュニティー)がその教育力(地域社会の教育力)を向上させるということにほかならない。国民一人一人がこれからの「知識基盤社会」を担うための能力を身に付けるためには、前述のとおり、学校、家庭、地域のいずれかのみではなく、それぞれが自身の持つ役割を果たしつつ連携して地域社会全体で教育にあたり、学習活動を促進する環境づくりを行うことが必要である。
  •  例えば、子どもたちが身に付けるべき「生きる力」、すなわち、「基礎・基本を確実に身に付け、いかに社会が変化しようと、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、より良く問題を解決する資質や能力、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性、たくましく生きるための健康や体力などの力」は、学校教育の中のみならず、子どもたちが異なる世代や他の家庭等の様々な人々と交流する中においてこそ育まれるものである。また、子どもに対する教育だけではなく、例えば、地域が抱える課題の解決等についても、地域ニーズを共有し、地域の実情にも精通した地域の関係機関等が連携することにより解決を図ることにより、その後の地域の持続的な発展を可能とする等、社会の教育力が貢献できる部分は大きい。
  •  他方で、近年、少子化、都市化、情報化等の経済・社会の変化による地域社会の人間関係の希薄化、子どもをその家庭だけではなく地域社会全体で受け入れるという受容性の低下、市町村合併等による地域コミュニティーの弱体化等、地域社会の教育力の低下の背景となる状況についても指摘されており、地域社会の教育力を向上させる方策を検討することが急務である。そのような地域社会の教育力向上による地域社会の基盤の強化や再構築は、活力ある国家を支える基盤にもなり、その観点からも意義深い。
  •  このような地域社会の教育力の向上のためには、その地域社会の各関係者(学校、家庭、地域社会において活動する企業、NPO等)が、その地域で具体的にどのように自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力等の子どもたちの「生きる力」を育成するのか、そのために地域社会でどのような仕組みを作ってその教育力を向上させていくのか等について、当該地域社会におけるニーズを踏まえた目標の共有化をすることが必要である。
  •  そのための行政の役割としては、各地域社会の目標設定に資する情報の提供及び普及啓発を行うことや、関係者の連携のための調整(コーディネート)のみにとどまらず、さらにそれを発展させ具体的な活動を触発する「媒介者(catalyst)」として各関係者の連携を促進すること等が考えられる。
  •  このような目標設定は、各地域社会ごとにその事情や地域住民の要請・ニーズを踏まえて決定されるべきものであり、その目標の在り方により、地域社会ごとの各関係者の役割分担を考える必要がある。例えば、各地域社会において、NPO等が学校教育における学習の支援をどの程度まで行うのか、放課後の子どもの居場所において民間事業者の協力をどの程度まで得るのか、家庭教育支援の施策について首長部局やその関連機関とどのように連携を図るのか等の具体的な役割分担の在り方は、各地域社会の事情や地域住民の要請・需要により決定されるべきものである。
  •  このような地域社会の教育力の向上を図るための具体的方策としては、例えば、家庭教育支援に係る事業や「放課後子どもプラン」(注7)、学校を支援する事業等が考えられ、これらの事業を各地域において実施することにより、関係機関等の具体的な役割分担や連携のあり方等の仕組みが当該地域に根付いていくことが期待される。

    • (注7)平成19年度より文部科学省の「放課後子ども教室推進事業」と厚生労働省の「放課後児童健全育成事業」(放課後児童クラブ)とが、一体的あるいは連携した総合的な放課後対策(放課後子どもプラン)として実施されている。「放課後子ども教室推進事業」は放課後や週末等に小学校の余裕教室等を活用して、地域の人々の参画を得て、子どもたちに学習やスポーツ・文化活動、地域住民との交流活動等の機会を提供する事業。
  •  なお、上述のとおり、各関係者の具体的な役割分担の在り方は地域社会ごとに決めるべきであるが、これまで我が国においては、どちらかといえば子どもの学習について、学校が抱え込んでしまう傾向があるのではないかという指摘や、地域社会の支援する役割が少ない、あるいは定着していないという指摘がなされてきた。学校は教育機関であり、地域社会における子どもの教育機能の中心的役割を担い、教育について大きな責任を負うのは当然であるが、今後は、学校だけではなく、地域社会の各関係者からのより積極的な貢献が求められる。
  •  このように各地域における教育力の向上の必要性が高まる中、多様な関係者・関係機関が連携し、様々な学習機会が各地域において提供されることが望まれる。その際に、地域の多様な民間事業者等と連携を図ることは重要であるが、行政が主体的に学習機会を提供し、主導的・先導的な役割を果たすことが可能な地域の公共的資源である公民館、図書館、博物館、青少年教育施設等の社会教育施設を活用した新たな施策の展開や、社会教育関係者による一層積極的な社会教育行政の展開が望まれる。

(2)国民一人一人の生涯を通じた学習への支援−国民の「学ぶ意欲」を支える

  •  1.(1)の社会の状況を踏まえ、そのような変化の中で、国民の生涯にわたる行う学習活動を支援することについて、学校教育以外で各個人が行う学習は、強制されるものではなくその自発的な意思に基づくものであるが、行政が限られた財政的・人的資源を投入して生涯学習を振興するための施策を講ずるにあたっては、我が国社会全体の知識基盤を強固にするという観点や、上述した社会や地域からの要請を踏まえて、国民の学ぶ意欲を支えていくという視点が必要である。
  •  すなわち、行政としては、「個人の要望」を踏まえるとともに、「社会の要請」を重視する観点から、1国民一人一人が社会の変化に対応するための学習活動を支援し、個々人が生涯にわたって働くことが可能となるよう支援する等の個人のいわゆる就業能力(employability)向上の視点や、我が国社会の知識基盤を強固なものとする視点から、行政が振興する目的や対象をより明確にし、その上で、2そのための学習機会の充実を図り、さらには、3それらの学習活動の成果を適切に評価することにより、より一層学習活動を促進し、その成果が社会で発揮されるようにしていくことができるシステムを構築することが重要である。

1必要とされる学習についての検討

  •  生涯学習は各個人の自発的意思に基づいて行われることを基本とし、その目的も様々なものがあり得るとの考えから、その具体的な内容が行政により強制されることがあってはならない。しかしながら、行政が振興の対象とする学習について、その学習効果を教育的観点等から検証・分析し、施策に役立てることは、「国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう(教育基本法第3条)」行う生涯学習の振興の基本的な考え方に沿うものである。また、行政が実施した施策の効果について把握することは、政策評価の観点からも今後必要である。
  •  この観点から、今後は、例えば、子どもの学校外の学習の在り方について、「放課後子どもプラン」の取組等を参考としつつ、子どもたちが「生きる力」を身に付ける上で、学校外で行うことがより効果的・効率的であるプログラムとその在り方、様々な発達課題を習得させる上で適切な時期や実施方法、そのための体制の在り方等について検討を行うことが考えられる。学校外で行われる学習は、自発的意思に基づいて行われるものであるが、このような検討を行い情報提供することは、各地域社会における取組の参考となると考えられる。また、このように総合的に人生において身に付けることが望ましい能力を捉え、学校外で育むことが望ましいものについて検討することは、生涯学習の理念に沿ったものであるといえる。
  •  また、大人については、これまでも政府内で成人に必要とされる能力について、「人間力」や「社会人基礎力」(注8)等の概念により、その把握や明確化の試みがなされているところであるが、国際的にもOECDにおいて、個人や社会にとって必要不可欠で普遍的な成人の技能について調査測定しようとする動向等がある。変動の激しい社会においては、必要とされる能力の把握・明確化は有効であり、このような国際的な動向等も踏まえつつ、我が国においても、総合的な生涯学習の視点をもって成人に必要とされる能力について様々な施策を講じる際に検討することは、学校教育や社会教育、個々人がその生活・職務等で身に付けた総合的な能力の検証ともなり、我が国の今後の生涯学習振興行政において、大切な課題である。

    • (注8)組織や地域社会の中で多様な人々とともに仕事を行っていく上で必要な基礎的な能力。構成する主要な能力として「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つを挙げ、さらにそれぞれの能力の具体的要素について提言されている(経済産業省社会人基礎力に関する研究会「中間取りまとめ」平成18年1月20日)

2多様な学習機会の提供、再チャレンジが可能な環境の整備

  •  上記1のように、今後我が国において、「個人の要望」や「社会の要請」に応じて必要とされる能力を身に付けるために必要な学習機会が提供され、人々の学習が円滑に行われることが重要である。
  •  その際には、学習機会の提供のみならず、生涯学習の理念の下、国民一人一人が生涯にわたって主体的に多様な選択を行いながら人生を設計していくことができるよう、いつでも「学び直し」や「新たな学びへの挑戦」、さらにはそれらにより得られた学習成果を生かすことが可能な環境整備を行うことが必要である。
  •  このような学習機会については、各個人が自己の充実・啓発等のために求める学習機会について環境が整備されていることが望まれるとともに、各個人が学んだことを職業や社会活動に生かせるよう、実社会のニーズに応じた多様な内容等、社会の要請が強い分野等についても学習機会が提供されることが重要である。このような学習機会は、国や地方自治体、大学、専修学校、社会福祉・職業能力開発施設、民間事業者、NPO等、多様な主体により提供されており、それぞれ、地域社会や現代的な課題等、産業界、関係団体等の要請を適切に把握した上で多様な学習機会が提供されることが期待される。
  •  社会の変化に対応するために必要な学習や公共の視点から求められる学習については、学習者が必ずしも積極的に学習をしようとしない場合や、学習者が学習しようと思っても学習機会が十分にない場合、市場メカニズムに委ねていると民間事業者によって学習機会が提供されない場合等が考えられ、そのような課題については、行政が積極的に学習機会を自ら提供したり、学習者の興味・関心を養うための啓発活動を行ったり、また、他の主体により提供される学習機会の把握に努め、国民の学習需要に応えられているか検証し、改善を図ることが必要である。このような役割を行政が果たす上で、公民館、博物館、図書館等の社会教育施設の果たす役割は大きい。

3学習成果の評価の社会的通用性の向上

  •  国民一人一人の学習活動を促進するためには、各個人の学習成果が社会全体で幅広く通用し、社会において評価され、活用できることが重要であり、そのためには、学習成果を適切に評価する制度の構築が必要である。
  •  このような学習成果が適切に評価され生かされる方策の必要性・重要性については、平成2年の中央教育審議会答申でも明らかにされ、その後も3年の中央教育審議会答申における多様な学習成果を評価する仕組みを整備する必要性の指摘や、11年の生涯学習審議会答申における、学習意欲を高めるためのみならず学習の成果を幅広く生かす観点からの、学習成果を社会で通用させるシステムの必要性等の提言がなされている。さらに、改正教育基本法第3条の「生涯学習の理念」においては、生涯学習の「成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない」と、生涯学習の成果についても新たに規定が設けられた。
  •  しかしながら、多種多様な学習成果を例えば行政などのある特定の者が客観的に評価することは困難であること等の理由により、これまでの生涯学習の振興における方策は、学習機会の提供等の施策が中心となり、学習成果の社会的通用性の確立に向けた具体的な方策は講じられてこなかった。
  •  また、近年、民間事業者等を中心とした様々な学習機会(いわゆる「教育サービス」)が提供されており、学習者にとって多様な選択肢が用意されている。これらの状況を踏まえ、今後は、各個人が様々な学習機会の取捨選択をした上で学習を行い、さらにその学習成果を活用しやすいよう、様々な民間事業者等が提供する学習機会も含めて、その学習内容や学習成果等の質の保証や評価を行う方策、行政との連携方策等について検討し、生涯学習の成果の社会的通用性を向上させる必要がある。

4.施策を推進する際に必要な視点

(1)「個人の要望」と「社会の要請」のバランスの視点

  •  生涯学習は各個人がその自発的意思に基づいて行うことを基本とする学習であり、その内容も趣味的なものから職業能力の向上を目指すものまで多様である。行政による生涯学習の振興方策は、このような各個人の多様な需要に応じた学習を円滑に行うことができるよう、基盤を整備し、広く人々の生涯学習を支援していくことにある。
  •  もとより、多様な学習機会の中でどのような学習をどのように行うかは個々の学習者の自発的な意思に基づき選択されることだが、行政として生涯学習の振興方策を推進するにあたっては、社会の変化を踏まえ、それに対応できる自立した個人やコミュニティーを形成する必要性等の「社会の要請」を踏まえることが一層も求められるようになっている。
  •  このことについては、平成4年の生涯学習審議会答申(「今後の社会の動向に対応した生涯学習の振興方策について」)において、各個人が社会の急激な変化に対応し、人間性豊かな生活を営むために、学習する必要のある課題(現代的課題)の重要性を認識し、積極的にこのような課題に関する学習機会の充実を図ることが必要であると指摘されており、また、11年の同審議会答申では、行政が行うべき学習機会の提供にあたって、従来の文化・教養タイプのものから、社会参加型や問題解決型の学習、あるいは、職業的知識・技術の習得等の学習成果の活用を見込んだ内容のもの等、学習者の活動のために必要な能力を養う学習へと重点を移行させるべきであると指摘がされている。
  •  改正教育基本法第12条においても、「個人の要望や社会の要請にこたえ」る社会教育の国及び地方公共団体による奨励が規定され、さらに第2条第3号において教育の目標の一つに「公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと」が掲げられている。

(2)経験・知識等を「継承」しつつ、それらを生かした新たな「創造」を行う持続可能な社会の発展を目指す視点

  •  生涯学習社会の実現のためには、様々な経験や知識等が社会の中で「循環」し、それがさらなる「創造」を生み出すことにより、社会全体が発展していく持続可能なシステムが社会の中に構築される必要がある。
  •  そのためには、経験・知識等が世代間で継承されることや、国民一人一人が学習者として学習活動を行うことができるだけではなく、その学習した成果を活用し、社会に還元できる仕組みを形成していくことが、社会全体の教育力の向上につながるものであり、重要である。このような生涯学習社会の実現は持続的な社会の発展を支える社会的資本の基盤の強化に資すると考えられる。

(3)連携・ネットワークを構築して施策を推進する視点

  •  生涯学習振興行政を推進するにあたっては、国民一人一人の学習活動が様々な時間や場所において様々な方法で実施されていることから、多様な関係者・関係機関が連携し、それにより関係者・関係機関をつなぐネットワークを構築することが不可欠である。
  •  その際に各関係者が行政目標を共有し、それに向けてそれぞれがどのような役割を果たすのかその役割分担等を明確にしていくことが重要である。また、このような地域における連携のためのネットワークを構築するにあたっては、行政を推進する専門的な職員のみならず、地域における多様な人材の参加・協力が不可欠であり、生涯学習振興行政及びその中核を担う社会教育行政を推進するにあたって、その専門的職員も含めた地域の人材の養成や確保が重要である。
  •  特に、様々な教育課題や行政課題がある中で、地域住民のニーズを踏まえ、限られた財政的・人的資源を活用しながら多様な施策を講じていくためには、地域における個別の行政目的や機能を持つ仕組みを有機的に連携させ、行財政面での資源の有効活用を図ることのみならず、連携による新たな相乗効果を生み出すこと等を積極的に行う視点が必要である。連携のためのネットワークを効果的に構築するためには、このような調整をより発展させ具体的な活動を触発する「媒介者」としての役割を行政の専門的職員等が果たすことが大いに期待される。
  •  このような連携のためのネットワークを構築することについては、これまでも指摘されてきたが、実際にそれが地域の生涯学習振興行政・社会教育行政を推進する仕組みとして機能するためには、現在実施されている連携を促進するモデル的な事業等を実施することにより、各地域において仕組みを根付かせていくことが必要と考えられる。また、そのようなネットワークの構築や連携が円滑に行われているか行政として常に配慮していく視点が必要である。そのほか、連携のためのネットワークにおける円滑な情報交換等のために、情報通信技術の効果的な活用を図ることも重要である。

5.具体的方策

(1)社会全体の教育力の向上−学校・家庭・地域が連携するための仕組みづくり−

  •  都市化、少子化及び地域における地縁的なつながりの希薄化等による家庭を取り巻く状況の変化の中で、家庭の教育力の低下が指摘されている。また、子どもにとって、異年齢の子どもや異世代の人々と交流する機会が減少する等の地域の教育力の低下も指摘されている。このような中、社会全体の教育力を向上させることの必要性が高まっている。
  •  子どもの教育については、学校、家庭、地域がそれぞれ持つ教育力の向上を図ることも重要であるが、それとともに、学校、家庭及び地域住民のほか、その地域の企業やNPO等の関係者が、それぞれに求められる責任と役割を十分に果たしつつ、緊密に連携・協力して地域社会が一体となって地域の教育課題等に取り組むことが重要である。国及び地方公共団体は、以下に掲げる施策等を実施することにより、これらの関係者・関係機関が十分に連携できるようにするための仕組みづくりを積極的に支援することが必要である。
  •  また、このような取組は、多様な学習を行う地域住民等がその学習した成果を地域において活用し、社会に還元される場ともなり、そのように学習したことが評価されることを通じて、地域における学習活動をさらに促進させる役割も果たし得るものであり、地域社会全体の教育力の向上に資するものである。

(身近な地域における家庭教育支援基盤の形成等)

  •  これまでの家庭教育支援の取組として、家庭教育に関する理解を深める場や機会を保護者等に対して提供することを中心とした支援策が行われてきたが、今後は、子育てに無関心な保護者や子育てに不安や悩みを持つ孤立しがちな保護者、子育てに関心は高いが学ぶ余裕のない保護者等に対しても十分な支援を行うことが必要である。
  •  このため、このような保護者も含めた様々な保護者に対するきめ細かな家庭教育支援を積極的に進めていくことが課題であり、今後は地域コミュニティや企業を含む社会全体で家庭教育を支えていくためのよりよい環境を醸成していくことが重要である。
  •  具体的には、就学時健診や入学説明会など多くの親等が集まる機会を活用した家庭教育に関する学習機会の提供や、父親の家庭教育への参加促進を図るための企業等への働きかけなど、様々な状況にある子育て中の保護者等がいることを踏まえた、多様かつきめ細かな家庭教育支援策を講ずることが必要である。
  •  なお、このような家庭教育支援策を講ずるにあたっては、教育委員会のみならず、福祉部局や、学校、家庭教育支援団体、企業等の関係者の参画を得るなど、首長部局や子育て支援団体等との連携も意義深いと考えられる。また、子育てサポーターリーダー等の地域の人材が中心となって、各家庭の求めに応じたきめ細やかな情報提供や相談対応、学習機会のコーディネート等を身近な地域で行う仕組みをつくることも有効である。

(家庭教育を支援する人材の養成)

  •  また、地縁的なつながりの減少などにより、地域や社会全体で親子の学びや育ちを支える環境が崩れてきているとの指摘もある。家庭教育支援を行うにあたっては、上述のとおり地域コミュニティーや企業を含む社会全体で家庭教育を支えることが必要であり、地域において関係機関との連携や保護者同士をつなぐことなどを担う人材が求められている。
  •  このため、家庭教育の支援のための取組に携わる子育てサポーターや子育て経験者等を対象として講習を行い、地域における支援活動全般の企画・運営や子育てサポーター等の資質向上を担う人材(子育てサポーターリーダー等)を養成する必要がある。
  •  さらに、子どもの生活リズム向上の取組を行っている「早寝早起き朝ごはん」運動の更なる展開を各地域において進めるほか、行政・学校・家庭・企業・メディア等が連携して社会全体で家庭教育支援を行う機運を高めるための普及啓発を行うことも有効である。

(学校を地域の拠点として社会全体で支援する取組の推進)

  •  学校と地域との連携体制を構築し、地域全体で学校を支え、子どもたちを健やかに育むことを目指し、学習支援活動や登下校の安全確保のための活動等、地域住民による積極的な学校支援の取組を促進することは、地域社会が学校と緊密に連携し、子どもの学習活動を支援する学校教育と社会教育の新たな関係を築いていく観点から重要な新しい取組である。
  •  このような取組を行うことにより、学校と地域が子どもたちの健やかな育成のために共通の目的に向かって活動することは、学校と地域の信頼関係を深めることになり、また、学校を支援する地域住民にとっては、これまで培ってきた知識や経験、学習の成果を活用することにもつながるものであり、地域社会全体の教育力を向上する上で大きな役割を果たし得るものである。
  •  このような取組が既に実施されている例では、取組が地域においてうまく機能するためには、地域住民が学校支援活動に参加することについての校長のリーダーシップや、地域住民が学校支援活動を行うための活動経費の確保、学校支援のボランティアとなる人材や学校と地域住民のニーズの調整を行う人材の確保、教育委員会における学校教育担当部局と社会教育担当部局の連携等が重要であると指摘されている。したがって、今後、国や地方公共団体においては、これらの指摘を踏まえつつ、地域社会全体で学校を支援する取組を推進する必要がある。
  •  また、平成19年度から全国の小学校区で実施されている「放課後子どもプラン」は、学校外において子どもたちの学習の場を地域ぐるみで提供する仕組みをつくる観点からも重要である。

(PTA活動の一層の充実)

  •  PTAは保護者と教員がお互いを高めあい、子どもたちの健全な育成を支援する団体であり、学校行事の支援や登下校時の安全対策等、地域の活動、親子が参加してふれあう活動、保護者に対する子育て教室など様々な活動を各地域の実情に応じて実施しており、前述の子どもの放課後の居場所づくりのボランティアや早寝早起き朝ごはん運動の推進等、学校・家庭・地域を結ぶ要として重要な役割を担っている。
  •  一方、近年、共働きや勤務形態の多様化等によりPTA活動に参加できない保護者や偏った個人主義によるPTA離れが進んでいることから、活動が衰退しているPTAも少なくない状況である。PTA活動が保護者にとって、地域の社会活動への参加の端緒となるものであることから、学校・家庭・地域の連携協力を進める上で、PTAの活性化は急務であり、各地域における活動の一層の充実が求められる。

(地域の諸課題の解決等に資する学習の振興)

  •  民間事業者等も含めた多様な学習機会が地域にある中、地域の社会教育施設は、行政が地域住民のニーズを把握し、主導的に学習機会を企画し、自ら提供することができる地域の公共的資源である。これらの社会教育施設を、地域が抱える様々な教育課題への対応や社会の要請が高い分野の学習や家庭教育支援等、地域における学習拠点・活動拠点として位置付け、生涯学習のプラットフォーム的な機能を果たすことができるような取組を推進することが必要である。
  •  具体的には、例えば公民館においては、地域が抱える課題への対応として、高齢者を交えた三世代交流等の学校と連携した教育活動の実施、大学・高等学校等との連携講座の実施、老年期を健やかに過ごせるようにする知識、裁判員制度や地域防犯等の社会の要請が高いと考えられる事柄についての学習機会の提供が望まれる。また、図書館においても、医療・健康、福祉、法務等に関する情報や地域資料等、地域の実情に応じた情報提供サービスを行うことが望まれる。博物館では、各館の特色・目的を明確にした上で、地域の文化等に関連した活動を積極的に展開すること等が考えられる。
  •  また、地方公共団体がこのような取組を推進するにあたっては、社会教育施設等で行われている取組が地域のニーズに対応したものか、地域の諸課題の解決等に効果的な取組か等を点検するため、自己点検・自己評価を行いその結果を活用すること等が考えられる。

(大学等の高等教育機関と地域の連携)

  •  地域社会においてニーズの高い教育や地域の活性化等の社会貢献のため、各大学や専修学校がそれぞれの特色を生かして行う公開講座等の地域振興に貢献する取組を促す。また、各大学における教育研究資源の複数の大学間での有効活用による地域人材の育成等の地域貢献機能の強化・拡大等を支援することが重要である。
     その際に行政が「媒介者」となり、大学と社会教育施設、関係団体等のネットワーク化を推進することも求められる。
  •  社会の変化等に子どもたちが対応できるよう学習機会の充実を図るため、地域の専修学校は実践的な職業教育機能を活用し、例えば、高等学校等と関係団体を通じた組織的連携を行う等して、子どもたちの職業体験等の機会の充実を図ることが重要である。

(2)国民一人一人の生涯を通じた学習への支援−国民の「学ぶ意欲」を支える

1必要とされる学習についての検討

  •  変化の激しい社会を担うために必要とされる能力を国民一人一人が身につけるためには、学校教育のみならず、広く生涯を通じて学習する機会があることが重要である。
  •  これまでは、例えば、子どもたちに必要とされている「生きる力」を目指して、社会教育において、どのような方法で子どもに身に付けさせることを支援できるか必ずしも示されてこなかったが、今後は生涯学習の理念の実現の観点からも、社会教育関係者が積極的に連携して支援していくことが考えられる。また、成人を対象とした社会教育活動についても、同様の視点から検討することは意義深いと考えられる。
(子どもの学校教育外の学習の在り方の検討)
  •  平成19年度より、放課後や週末等に小学校の余裕教室等を活用して、子どもたちの安全・安心な活動拠点を設け、地域の人々の参画を得て、学習やスポーツ・文化活動、地域住民との交流活動等の機会を提供する「放課後子ども教室推進事業」が実施されており、各地で取組が行われている。本事業は厚生労働省の「放課後児童健全育成事業」(「放課後児童クラブ」)と一体的あるいは連携した総合的な放課後対策(「放課後子どもプラン」)として推進されている。
  •  今後、本事業を地域に根づかせていくためには、子どもたちの安全な居場所づくりを行う観点のみならず、「生きる力」の育成を学校外の活動においても支援する観点から、活動内容の参考となるプログラムや、参考となる事例の収集・分析等を通じた情報提供、それらを円滑に進めるための人材の確保や養成の支援方策等について、具体的に検討していくことが求められる。
  •  また、その際には、「放課後子ども教室推進事業」の他に社会教育として実施されているボランティア活動や自然体験活動、キャリア教育等、学校外における学習活動・教育活動との連携の在り方を含めて検討することも考えられる。
(大人の学習支援についての検討)
  •  「生きる力」の考え方で示されているような力を身に付けるためには、家庭はもちろんのこと、子ども時代の多くの時間を過ごす学校の果たす役割が非常に大きいが、改正教育基本法第3条の「生涯学習の理念」において示されているように、国民一人一人が自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるようにするためには、家庭や学校において培われた力を、各個人がその後の人生の状況等に対応してさらに発展させていくことができるような環境づくりが必要である。
  •  このような学習は大人の場合には、本人の自発的な活動や職業生活を通じて行われるものであるが、国民一人一人がそれまでに培われた力を、自己の充実・啓発や生活の向上のためさらに発展させるべく学習や社会的な活動に取り組むことは、個人や地域の自立を促し、家庭や地域の教育力を向上させ、それがさらに個人や地域の自立を促すという好循環を生むことにつながる。この循環においては、各個人が持つ経験・知識等を社会的な活動の中で生かすことができるだけではなく、その活動の中で得られた経験等がまた新たな学習をもたらすというように、有機的に連続した形で学習活動に取り組むことが可能となる。このような視点に立てば、今後、大人が社会の変化等に対応するために求められる力及びその向上のための支援について検討していくことは重要な意味を持つと考えられる。
  •  1.のとおり、国際的にも、例えば、個人や社会の成功にとって必要不可欠で普遍的な技能等の成人能力について調査測定しようとするOECDにおける動向など、成人に必要とされる能力に対する関心の高まりが見られる。我が国においても、成人が変化の激しい社会に対応するために求められる力の観点から、今後の生涯学習振興行政の在り方を考える上で、これらの動向に積極的に対応し、関連情報の収集に努めることは意義があると考えられる。
  •  中央教育審議会や政府の各種会議等において提言された「生きる力」、「学士力(仮称)」、「人間力」等の能力は、それぞれ異なった目的の達成、課題の解決を目指しているものだが、結果としてこれらは共通に、自立性、協調性、問題解決能力、情報分析能力、倫理観、積極的な社会参画ができるといった資質の重要性を指摘しており、このことから成人についても変化の激しい社会を生き抜いていくために求められる力が、分野横断的・普遍的であることを示しているといえる。
  •  これらの力を養成していくためにも、学校教育段階からの継続的な学習を支援していくことが必要であり、その中で社会教育は大きな役割を果たし得るし、また、果たすべきと考えられる。その際、「生きる力」等の提言について整理し、学校教育、社会教育等の各施策を生涯学習の理念を実現する観点から総合的に調和・統合させる生涯学習振興行政として、わかりやすく提示していくことは、今後、人々の自立を具体的に支援していく方策を検討する上でも意義深いと考えられる。
  •  「生きる力」の基礎・基盤は義務教育であるが、その後進路に応じて伸長されるものであり、成人においては職業・社会体験を経ながら展開されるものである。とりわけ、問題を把握する力、分析的な思考、説明する力、多様な文化背景を持つ人々との共生・協働していく態度や能力等については、生涯にわたる様々な経験と合わせて発展していくものととらえられる。
  •  生涯学習振興行政の推進にあたって、このような総合的な力を提示していくことは、従来社会教育施設等がこれまで以上に中心的な役割を果たさねばならないが、加えて民間教育事業者等による教育サービス提供のための参考ともなり得るものである。更に企業の社会的責任の観点からも、一般の企業等の「民」が社会的責任、公益を担うために具体的にどのように活動するかを考える際の一助となりうるものであり、社会全体でその教育力の向上を図るにあたっては、目標を共有することを促進し、連携を進めるものと期待される。

2多様な学習機会の提供、再チャレンジが可能な環境の整備

  •  我が国社会の変化に対応し、国民一人一人がその資質・能力の向上を通じて社会全体の活性化を図り、また、豊かな人生を送ることを可能とするために、多様な学習機会を提供することは重要である。また、その際に、「学び直し」や「新たな学びへの挑戦」、さらにはそれらの学びの成果を生かすことが可能な環境を整備することが一層重要な課題となっている。
(社会教育施設等を活用した多様な学習の場の充実)
  •  住民の地域社会への貢献やコミュニティーづくりへの意識を高め、公共の課題に対応するため、公民館、図書館、博物館等の地域の拠点となる社会教育施設について、住民の主体的な地域課題への取組や、社会の要請が高い分野の学習、家庭教育に関する学習等を行う学習拠点として位置づけ、情報通信技術を活用しつつ、課題解決の機能を総合的に確保する必要がある。
  •  また、全国の国民に放送を通じて幅広く大学教育の機会を提供している放送大学については、時代の変化に対応し、学生がより良い授業を受けられるよう、放送のデジタル化等を踏まえて、学習者の視点に立った多様な取組を推進することも求められる。
(相談体制の充実)
  •  就業・起業やボランティア活動・社会参加等の新たなチャレンジをしようとする人に対し、地域や社会・産業界のニーズを具体的に把握、明確化し、キャリア形成支援を含めた学習相談を行うとともに、必要な知識等が習得できる学習機会を、大学・専修学校・企業・NPO等の民間団体等の協力を得つつ社会教育施設等において提供するなど、学習相談から社会参加までを一貫して支援する学習支援システム(ワンストップサービス)を構築することが有効である。その際には、産業界・大学・専修学校・NPO等の民間団体や首長部局の労働行政担当等との連携を強化することが求められる。
  •  また、学習活動を行う上で、時間や場所などに起因する制約要因を解消するため、産業界・大学・専修学校・NPO等の民間団体等が連携して、キャリアアップ等に資する学習コンテンツの提供や学習相談を行う「生涯学習プラットフォーム」(学習活動を推進する地域の基盤)の形成が図られることが期待される。その際、インターネット等の情報通信技術を活用することが有効である。
(ITの活用)
  •  今後、情報通信技術の発展により、学習機会の提供・支援方策についても、様々な形態が考えられることから、例えば、携帯電話、インターネット配信、地上デジタルテレビ放送などの情報流通・配信手段に対応した社会のニーズが高い優れた教育・学習用コンテンツの視聴・利活用を促進するなど、情報通信技術を活用した具体的方策の充実を図ることが重要である。
  •  また、図書館や博物館についても、例えば、資料のデジタル・アーカイブ化等の情報通信技術の発展に対応した規定の見直しが必要ではないかとの指摘がなされた。これらの指摘についても、生涯学習社会の実現に向けた社会教育施設の機能の向上の観点から重要であることを踏まえつつ、引き続き検討する必要がある。
  •  さらに、いわゆる「情報リテラシー」といわれる情報の獲得・活用・発信の方法、デジタルデバイドへの対応等、多様な学習機会を提供する必要がある。特に、情報化社会の進展に伴い、メディア上の有害情報が深刻な問題となっていることを踏まえ、社会の有害環境から子どもたちを守るため、有害情報対策の充実を図ることが重要である。
(再チャレンジ支援)
  •  また、従来企業内で行われてきた個人の能力開発について、「会社主導から自助努力へ」という傾向が中小企業を中心に強くなっていることや、非正規社員の学習機会が少ないことを踏まえ、出産・子育て後の女性や働き盛り世代の再就職・キャリアアップのための学びの需要に応えるため、地域のニーズに応じて社会教育施設等において提供される学習プログラムや学習相談の機会を、情報通信技術も活用しつつ、広く提供するような取組を支援することが重要である。
  •  さらに、新たなチャレンジを目指す若者、中高年、女性、フリーター・ニート等を支援するため、職業訓練施設の事業の充実とともに、専修学校等の持つ職業教育機能を活用する等、それぞれの特性等に応じた職業能力向上のための学習機会の提供の充実を図ることが重要である。
  •  社会教育施設・大学・専修学校・企業・NPO等の民間団体において、社会人のキャリアアップや地域活動への参加に役立つ実践的な教育プログラムを共同で開発し、このような教育プログラムの学習成果が広域的に通用し活用されるよう、その普及を図ることが重要である。
(学習成果の活用)
  •  各個人の学習の成果を、地域全体による様々な学校支援活動や放課後対策、家庭教育支援事業等の場で活用することが必要である。特に、定年を迎え地域に帰る団塊世代の力を有効に活用する方策を検討することが必要である。
  •  各個人の学習成果の社会への還元を促進するため、その成果が社会的活動として発揮されることを通じて、新たな学習機会へのインセンティブを得られるなど、学習活動と教育活動のサイクル化・共有化につながる取組について支援することが考えられる。
  •  身近な地域で、誰もがボランティア活動に参加できるようにするため、地域におけるボランティア活動支援センターのあり方を検討し、ボランティア活動への支援機能の充実を図ることが求められる。

3学習成果の評価の社会的通用性の向上

  •  学習成果の評価の社会的通用性を向上させるための方策として、社会に存在する多様な学習機会について、その質の保証のあり方や学習成果の評価の在り方について検討する必要がある。
(履修証明制度等の活用)
  •  平成19年に改正された学校教育法により、大学等が社会人等を対象とした課程(教育プログラム)を履修した者に対して証明書を交付することができる履修証明制度が導入されており、その活用を図ることが重要である。
(多様な教育サービスの評価の在り方やそのための質保証の在り方の検討)
  •  3.(2)の評価制度の創設を検討するにあたり、その第一歩として、各個人の学習成果を検定試験により評価し、当該検定に合格したかどうかの判定を行う検定について、全国レベルでの一定の基準を満たすものを対象とし、個々の検定の目的と評価手法の有効性、安定性、継続性及び情報の真正性等を確保する仕組みを検討することが考えられる。
  •  一方、行政改革の観点から、行政の直接的な関与が困難である場合、民間事業者等による第三者評価機関が検定について認定等をするという仕組みが考えられるが、その客観性や公平性を担保するため、国において、評価を行う際の参考となるガイドライン等を作成することが考えられる。
  •  このように検定の質を保証する仕組みを新たに設けることについては、生涯学習を振興していく上で積極的に検討を行うことが望ましい。その検討の際には、民間事業者等の主体的な取組を行政が公共性の観点から支援するなど両者の適切な連携に留意する必要がある。
  •  また、各種機関や民間事業者が提供する学習機会(いわゆる教育サービス)について、その質の保証の在り方や行政との連携方策について検討する必要がある。

(3)生涯学習・社会教育行政の推進を支える人材

  •  3.のとおり、社会の変化に対応するための国民の学習機会の充実を図り、また社会全体の教育力を向上させる取組等を推進するにあたっては、行政の専門的職員がその中核的役割を果たすことが期待されているのは言うまでもない。また、それらの活動の実施にあたっては、地域の様々な人材との連携協力が不可欠である。
  •  このような中、行政の職務に従事する専門的職員である社会教育主事、司書、学芸員の在り方について見直すべき点がないか検討することや、社会教育団体等のNPO、地域における様々な学習活動を支援する人材や他の行政分野の職員等も含め、これらの地域の人材全体でどのように国民の学習ニーズを支えていく仕組みを築いていくかが課題となっている。

(社会教育主事の在り方)

  •  社会教育主事は、社会教育法に基づき都道府県及び市町村教育委員会に置かれる社会教育に関する専門的職員であり、都道府県及び市町村の社会教育行政の中核として、地域の社会教育行政の企画・実施及び専門的技術的な助言と指導に当たることを通し、人々の自発的な学習活動を援助する役割を果たしてきた。その職務は「社会教育を行う者に専門的技術的な助言と指導を与える」と規定されている。
  •  社会教育主事の具体的な役割や機能としては、地域の学習課題やニーズの把握・分析、企画立案やその企画の運営を通じた地域における仕組みづくり、関係者・関係機関との広域的な連絡・調整(コーディネート)、当該活動に参画する地域の人材の確保・育成、情報収集・提供、相談・助言等が挙げられるが、社会の状況に対応し、国民の増大かつ多様化する学習ニーズに応えるために社会教育が果たすべき役割が増大する中、社会教育主事が果たす役割や重要性も従来に増して大きくなっている。
  •  今後、社会教育主事については、地域において関係者が連携して生涯学習振興行政及び社会教育行政を推進するにあたって、社会教育関係者や実施する活動において関係する地域の人材等の連携のための調整を行い、さらに関係者の具体的な活動を触発していく「媒介者」として、積極的な役割を果たすことが期待されている。
  •  1.(1)の我が国の状況を踏まえ、学校、家庭、地域住民等が連携し、子どもがこれからの社会を生き抜く上で必要となる「生きる力」を身に付けるための学習を重視する中、社会教育としてもそれを支援していくことが、今、求められている。また、社会全体の教育力の向上のために、学校、家庭、地域住民等の連携がこれまで以上に求められている。そのような中、これまでの学社融合の必要性についての指摘も踏まえつつ、社会教育行政のより踏み込んだ積極的な展開を実現するため、学校・家庭・地域住民等の連携に関する事務について、学校が地域住民等の協力を得て教育活動を行う場合は社会教育主事が、学校長の求めに応じて助言することができることを社会教育主事の職務として明確に位置づけることが有効と考えられる。

(司書等の在り方)

  •  図書館に置かれる専門的職員である司書及び司書補には、図書館等の資料の選択・収集・提供、住民の資料の利用に関する相談への対応などの従来からの業務とともに、地域が抱える課題の解決や地域のビジネス支援、子どもの学校外の自主的な学習の支援等の新しいニーズに対応し、地域住民が図書館を地域の知的資源として活用し、様々な学習活動を行っていくことを支援していくことが求められている。そのため、司書及び司書補が、時代の要請に応じ、住民の学習ニーズに適切に対応できる能力を養うため、その資格取得要件の見直しや資質の向上を図るための研修の充実等が必要との指摘がなされている。
  •  このため、具体的な方策の一つとしては、これまで司書の資格要件として大学において履修すべき図書館に関する科目について明確に法令上定めること等が考えられる。また、司書の資格を得るための要件として、社会教育主事や学芸員等の実務経験についても評価できるようにすることが必要である。なお、司書等が現代的課題に対応し、より実践力を備えた質の高い人材として育成されるよう、司書講習及び大学における司書養成課程等において履修すべき科目、単位についての具体的な見直しについては、今後引き続き検討する必要がある。
  •  さらに、司書補の資格要件については、幅広く多様な人材を育成する上で、その資格要件を緩和することが適当であるとの指摘がなされているところである。この観点から現行制度を見直す場合に、同様の資格試験において受験資格として高等学校卒業程度認定試験の合格者を対象としていない例は少ないことからも、司書補についても高等学校卒業程度認定試験の合格者も対象とするよう、その資格要件を緩和することが適当である。
  •  このほか、多様化、高度化する人々の学習ニーズや地域における課題に対応し、専門的な知識・技能の習得と資質の向上を図るために、司書及び司書補の研修の充実は重要である。このため、国、都道府県、図書館関係団体等でそれぞれ実施されている研修の有機的連携を図り、体系的・計画的に研修体制の整備を図っていくことが必要であり、任命権者のほか、文部科学大臣及び都道府県が司書及び司書補の研修を行うこととする旨の規定を新たに法令上設けることが考えられる。
  •  また、図書館も自らの事業として、司書研修や研究会等の実施に努めるとともに、ボランティアやインターン等の図書館に関する人材の養成及び研修等を積極的に行うことも重要である。

(学芸員等の在り方)

  •  博物館に置かれる専門的職員である学芸員は、資料の収集、保管、調査研究、展示、教育普及活動などの多様な博物館活動の推進のために重要な役割を担っており、今後、博物館が人々の知的関心に応える地域文化の中核的拠点として、人々の生涯学習への支援を含め博物館に期待されている諸機能を強化していく観点から、学芸員及び学芸員補の資質の向上が重要であり、その養成及び研修の一層の充実が求められている。
  •  これに対応する具体的な方策として、多様化、高度化する人々の学習ニーズや現代的課題に対応し、専門的な知識・技能の習得と資質の向上を図るため、学芸員及び学芸員補の研修について、その重要性についてより明確にするため、任命権者のほか、文部科学大臣及び都道府県が研修を行うこととする旨の規定を新たに法令上設けることが考えられる。また、博物館も自らの事業として、学芸員研修や研究会等の実施に努めるとともに、ボランティアやインターン等の博物館に関する人材の要請及び研修等を積極的に行うことも重要である。なお、博物館が家庭教育の支援のための活動を一層充実させるために、家庭教育の向上に資する活動を行う者を博物館協議会の委員にできるようにすることが考えられる。
  •  学芸員及び学芸員補の養成については、大学等における養成課程において、専門的な知識・能力に加え、より実践的な能力を身につけるための教育を行うことが必要である。近年、国際的な博物館間の交流や相互賃借・協力等が進展している状況を踏まえ、学芸員が現代的課題に対応し、国際的にも遜色のない高い専門性と実践力を備えた質の高い人材として育成されるよう、大学における学芸員養成課程等において履修すべき科目、単位についての具体的な見直しを含め、今後その在り方について検討が必要である。

(社会教育に関する専門的職員について)

  •  このほか、社会教育主事、司書、学芸員について共通に求められる知識や資質を共通科目を通じて身に付けられるようにするべきではないかとの指摘がある。これについては、他方で、これらの専門的職員については、それぞれ勤務する場所も専門性も異なるとの指摘もなされている。また、現在も養成における共通科目として「生涯学習概論」が設けられていることを十分に踏まえ、それぞれの制度毎の必要性に応じ、現代的課題に対応し、より実践力を備えた質の高い人材の育成に向けた検討を進めること等が考えられる。
  •  また、社会教育主事、司書、学芸員等の社会教育に関する専門的職員について、「社会教育士」や「地域教育士」のような汎用資格を設けることを検討することについて指摘がなされている。これについては、各地域において社会教育に関わる専門的職員が社会教育を推進するにあたり、その地域の実情やニーズを広く吸い上げ、様々な関係者・関係機関間の調整や更にそれを具体的な活動に発展させる「媒介者」としての役割を果たすことが期待されていること、また他方で、各専門的職員にはそれぞれの分野で高度化するニーズ等への対応もまた求められている現状等も考慮した上で、社会教育に関わる専門的な人材のあり方全体を今後どのように考えるかということとあわせて検討する必要がある。

(地域の人材・専門的職員との連携等について)

  •  各地域における学習ニーズに応え、社会教育を推進するにあたっては、社会教育主事が行政として、企画立案・事業の運営等を通じた地域における仕組みづくりを行い、当該地域における広域的な調整機能を担うことにより、中核的な役割を担うのは当然であるが、各地域において、関係者・関係機関が連携し、具体的な学習活動の場を提供・実施していくにあたっては、個々の活動を実施するためのコーディネートをする者、実際の学習活動を講師等として支援する者、学習者の需要と供給を結びつけるマッチングのための相談や支援を行う者等、様々な地域の人材との連携・協力が必要である。地域における学習活動への支援や社会全体の教育力の向上を図るためには、行政の専門的職員のみならず、地域の人材が行政の専門的職員と連携し、学習活動が円滑に行われるように地域全体で仕組みを築く必要がある。
  •  様々な教育課題や地域の課題がある中、地域の学習ニーズの高まりに応えるため、各地域ではそのための人材の確保に苦慮し、また厳しい財政状況を背景に人材育成や研修等のための予算を十分に確保できない状況が見られる。一方、各地域において、多様かつ増大する学習ニーズに応え、継続的にこれらの学習活動を支援する人材を確保し、育成するシステムが求められている。これについては、例えば、各地域において学習ニーズに応じた人材バンクや需給のマッチングを行うセンター等を置くことにより、継続的に人材を確保することが考えられる。人材の確保や育成については、その時々の事情に合わせて対応するだけではなく、より中長期的な視点に立った地域の人材確保・育成のための仕組みを築くことが急務であり、そのためにこれまで実施されてきた国や地方公共団体の様々な事業の成果等の蓄積を活用することが有効であると考えられる。

(4)今後の行政の在り方

  •  このような、より積極的な生涯学習振興行政・社会教育行政を展開していくにあたっては、行政の関係者がそれぞれの果たすべき役割を明確に認識し、効果的に連携を図った上で施策を推進することが可能となるよう行政の在り方についても検討する必要がある。
  •  特に、1.(2)の専門的職員の減少や予算の減少等の社会教育行政の基盤の弱体化の現状等を踏まえ、さらに5.の施策及び平成18年の教育基本法の改正の趣旨を踏まえた施策を講じるにあたって、国、都道府県、市町村のそれぞれの果たすべき任務の内容や施策を推進する拠点となる社会教育施設等の関係施設の在り方、関係機関の連携を促進するための制度のあり方等、行政の在り方について検討する必要がある。

(国、都道府県及び市町村の任務等の在り方)

  •  今後、目指すべき施策を実施する上で、国や地方公共団体等の新たな任務やこれまで以上に制度上より明確にすべき任務等について検討を行うことが求められる。
  •  生涯学習振興行政を推進するにあたり、社会教育行政はその中核的な役割を担うものである。このことを前提に、また、改正教育基本法第3条の「生涯学習の理念」が新設されたこと等を踏まえれば、社会教育法第3条に規定されている国及び地方公共団体の任務について、国民一人一人が学校教育終了後のみならずその生涯にわたって行う学習を幅広く支援することや、個人の学習機会を充実することのみならずその成果を活かし得る環境を醸成することを、社会教育行政の任務として明確に位置付けることが必要である。
  •  また、教育行政においてこれまで以上に関係者の連携協力が必要となっている実態を踏まえ、さらに改正教育基本法第13条において、子どもの健全育成をはじめとする教育の目的を実現する上で大きな役割を担っている学校・家庭・地域住民等の三者が、相互に連携・協力に努めることについて新たに規定されたことを考慮し、社会教育行政の任務としても、三者の連携について明確に法令上位置付けることが必要である。
     これら三者の連携の促進は、当然のことながら、社会教育のみにその責任があるわけではないものの、その内容や関係者が比較的限定的である学校教育や家庭教育と異なり、社会教育は内容や手段等に広がりがあるものであり、弾力的な手法によりこれら三者の連携にあたって積極的な役割を果たすことが期待されるものである。このため、このことを明確にすることは、社会教育行政のより積極的な展開を推進する上で意義深いものである。
  •  家庭教育支援については、家庭の教育力の低下が指摘されている中で、情報や学習の機会の提供の重要性が高まっており、家庭教育支援をより充実させることが求められている。このことから、家庭教育支援を社会教育行政の重要な任務としてより明確にすることは重要である。また、改正教育基本法第10条第2項に、国及び地方公共団体による家庭教育への支援の手段として保護者に対する学習の機会の提供とともに情報の提供が規定されていることから、社会教育法における教育委員会の事務としても同様に、家庭教育に関する情報の提供を明記し、市町村による取組の推進を図ることが必要である。
  •  なお、各個人の学習の成果が社会において実際に活用され、社会教育やそれを通じた学習の意義を実感できるような環境を整備することは生涯学習の理念の実現の上で重要である。また、地域の教育力の向上のために、学校・家庭及び地域が協力した地域ぐるみの教育活動等の重要性は高まっており、社会教育が積極的に地域における子どもたちの健全育成等を支援することが求められているのは前述のとおりである。したがって、地域における教育活動や学校を支援する活動等を社会教育行政の任務として明示することは、このような取組を推進する上で必要である。特に、これまでも学社融合等の重要性については指摘されてきたものの、学校への支援等についてはこれまで、学校教育行政との関係で社会教育行政の役割が必ずしも明確にされてこなかったが、社会教育行政が積極的に担う役割があることを明確にすることは、地域における取組を制度的に後押しする上で意義があるものであり、今後、社会教育行政の新たな積極的な展開を図っていく上で極めて重要である。
  •  このほか、教育委員会の事務の見直しについては、改正教育基本法第12条に、国及び地方公共団体による社会教育の振興の手段として「情報の提供」が追加されたことを踏まえ、教育委員会の事務に社会教育に係る情報の収集、整理及び提供に関する事項明確にすることが必要である。
     さらに、情報化社会の進展に伴い、情報リテラシー(情報及び情報伝達手段を主体的に選択し、活用していくための個人の基礎的な資質)に関する学習、情報格差(デジタルデバイド)への対応、有害情報対策等が必要となっている状況に対応し、教育委員会の事務の見直しを行う際には、情報の活用に関する学習の機会を提供するための講座の開設等の事務を位置付けることが求められる。これにより、情報リテラシーの向上、情報格差の解消や社会の有害環境から子どもたちを守るための有害情報対策の充実を図ること等、社会の要請に応じた施策が講じられることが期待される。

(生涯学習振興・社会教育行政の実態把握の在り方)

  •  生涯学習の理念の下、より積極的に行政を展開していくためには、生涯学習振興行政及び社会教育行政に係る関連施策の基礎データの的確な整備を行うことは極めて重要と考えられる。したがって、社会教育調査等の関連統計調査について、都道府県・市町村の教育委員会だけでなく首長部局の協力も得ながら、生涯学習・社会教育の全体像を把握し、施策に関係する基礎データを整備する観点から、改善・充実を図ることが必要である。

(社会教育を推進する地域の拠点施設の在り方)

  •  より積極的に取り組むことが望まれるこれらの新たな任務も含め、生涯学習振興行政・社会教育行政が今後、地域社会の教育力を向上するための施策や国民一人一人の学習活動を支援するための施策を推進するにあっては、地域における様々な施設を地域の資源として活用することが望まれる。その中でも特に、公民館、図書館、博物館等の社会教育施設は、社会教育行政の拠点として積極的に活用される必要がある。
  •  家庭・地域の教育力の低下についての指摘や社会の要請に応じた学習機会の提供等へのニーズの高まり等を背景に、例えば、地域における課題等に関する学習活動としての場や子どもたちの学校外の居場所、自主的な学習の場、家庭教育支援の場等として、公民館、図書館、博物館等の社会教育施設は、社会教育行政を推進する拠点施設として、その機能を充実させることが求められる。また、改正教育基本法第12条においても、国及び地方公共団体は、図書館、博物館、公民館その他の社会教育施設の設置等によって社会教育の振興に努めなければならないと改めて規定されたところである。
     これらの社会教育施設が、これまで社会教育行政の推進において果たしてきた役割を引き続き果たしていくことは当然であるが、社会の変化に対応し、新たな各個人や社会全体のニーズに積極的に応えていくことが求められている。
  •  例えば、公民館においては、各地域の実情やニーズに応じて、民間等では提供されにくい分野の講座の開設を積極的に行う、子育ての拠点となる活動を行う等、「社会の要請」に応じた学習活動の機会が量的・質的に拡大し、その成果を地域における「公共」の形成に生かすための拠点となることが求められる。
  •  また、図書館についても国民が生涯にわたって自主的な学習を行う上で、その果たす役割は大きい。図書館が従来より担ってきた役割、すなわち、住民の身近にあって、図書やその他の所管資料を収集、整理、保存し、その提供を通じて住民の学習を支援するという役割のみならず、特に近年は、地域が抱える課題の解決や地域のビジネス支援、子どもの学校外の自主的な学習の支援、家庭教育支援等、社会の変化や当該地域のニーズに配慮した様々な役割を果たし、地域の住民の多様な学習ニーズや社会の要請に応えていくことが求められている。図書館はいわば地域の「知の拠点」であり、その質量両面における充実が図られるべきであり、特に身近に図書館がない市町村等の住民のニーズを踏まえ、今後早急にその充実が望まれる。
  •  同様に、博物館は、歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等に関する資料の収集・保管、調査研究、展示、教育普及活動等を通して、社会に対し様々な学習サービスを提供してきており、人々がその興味関心やニーズに応じて学習を行っていく上で、その果たす役割は大きい。特に近年、地域文化の中核的拠点としての機能や子どもたちに参加・体験型の学習を提供する機能等を高めていくこと等が期待されており、さらなる充実が望まれる。
  •  また、これらの社会教育施設のほか、地域の実情に応じて、学校施設や文化、スポーツ施設、首長部局所管の施設等の積極的な活用を図ることや、高等教育機関や企業所有の施設等で専門性の高い学習を提供できる施設との連携等、地域における様々な施設を生涯学習振興行政及び社会教育行政の拠点として活用していくことが重要である。
  •  地域の教育課題に対応するために、関係者・関係機関で横断的なネットワークを築き、そのネットワークに特定の機能を持たせることにより、生涯学習振興行政及び社会教育行政を推進していくにあたっては、社会教育施設等が地域のネットワークの拠点となることが求められる。その際に、社会教育施設が「媒介者」の役割を果たし、地域における民間施設等を含む他の施設との積極的な連携を促進していくことが特に求められる。
  •  なお、これらの社会教育施設が自らの運営状況に対する評価を行い、その評価結果に基づき課題等を把握し、組織的・継続的に施設の運営の改善を図ることにより、その水準の向上を図るよう努めることは重要であり、いわゆる行政におけるPDCAサイクルの着実な実施は、社会教育施設についても求められるものである。またその情報が地域住民をはじめとする関係者に情報提供されることは、地域における連携を促進するものである。
     このことから、公民館、図書館、博物館等の社会教育施設について、それぞれが実施する教育活動等の運営状況に関する自己評価、それに基づく改善を図る努力義務及び地域住民等の関係者に対し情報提供の努力義務を課すことが求められる。

(NPO、民間教育事業者等と行政の連携のあり方)

  •  生涯学習・社会教育行政においては、様々な学習機会の提供や学習活動の実施等において、NPOや民間教育事業者等の民間団体の果たす役割が大きく、地域の実態等に応じて行政が民間団体等との積極的な連携を進めることが大切である。
  •  民間団体との連携については、国及び地方公共団体で現在実施されている様々な施策を講じることにより、各地域における連携・ネットワークが築かれていき、その過程においても深まっていくものと考えられるが、そのような地域における民間団体との連携の蓄積を行政として目的意識を持って計画的に行っていくことが必要である。
  •  このような民間団体との連携にあたっての行政の役割は、それらの自主的な民による活動を側面から支援しつつ連携し、持続可能な活力を生み出していくことであると考えられる。その際の支援としては、例えば国においては、サービスの受け手である国民に対し、それらのサービスに対する一定の質や信頼が得られるよう基準づくりを行い、民間団体が活動しやすくなるような環境づくりを行うことや、自らも広く国民に情報提供を行うとともに、民間団体等による情報提供が積極的に行われるような方策を講じること、さらには施策を講じる際に、様々な行政機関等と民間団体との連携が促進されるよう「媒介者」としての機能を果たすこと等が考えられる。また、これらの行政としての役割は、都道府県や市町村においてもその実情において期待されるものである。
  •  また、このようなNPO、民間教育事業者と行政の連携については、NPOや民間教育事業者等の自主的な活動によるものでもあり、今後連携が進んだ際には、地域による格差が生じていくことも考えられる。一般的には、NPOや民間教育事業者が多く存在する都市部では活発な連携が促進されることが可能であるが、そもそもこれらの民間団体が少ない地方においては、地域住民等のニーズに十分に対応することが困難な場合も多い。このことから、行政の役割として、国においては国民の教育の機会を保証する観点からも、地域に配慮した方策についても今後検討していく必要がある。
  •  なお、民間団体等も含めた地域における教育力を向上させるための様々な取組においてその財政基盤の強化の必要性に対する指摘等もあるが、これについては例えば各地域において「地域の教育力向上のための基金」を創設し、地域における企業等も財政的に貢献できるような仕組みをつくること等が考えられる。このような仕組みは、同時に地域の関係者の意識改革にもつながり、持続可能な仕組みを構築するものと考えられる。

(地域の実情に応じた手続きの弾力化)

  •  地方公共団体が社会教育関係団体に対して補助金を交付する際に、社会教育法第13条は、社会教育委員の会議の意見を聴くことが必要であるとしている。この手続きについては、同条が補助金の配分と使途に慎重を期する目的をもって設けられた規定であることを考慮する必要があるが、その趣旨を十分に確保することが可能である場合は、社会教育委員の会議への意見聴取を原則としつつも、各地方公共団体の多様な実態を踏まえた弾力的な対応が可能となるような措置を構ずることが適当である。

(これからの生涯学習振興行政・社会教育行政を推進するための地方公共団体における体制について−教育委員会と首長部局等との関係)

  •  地方公共団体において生涯学習振興行政及び社会教育行政を推進していく上で、地方公共団体の任務の内容や役割等を明確にすることとともに、それらを推進するにあたって、地方公共団体における教育委員会と首長部局との関係を明確にし、それぞれがその役割を果たし積極的に連携を図っていくことが必要である。
  •  地方公共団体の長と教育委員会の関係については、平成17年の中央教育審議会答申(「新しい時代の義務教育を創造する」)において、「今後、地域づくりの総合的な推進をはじめ、他の行政分野との連携の必要性、さらには政治的中立性の確保の必要性等を勘案しつつ、首長と教育委員会との権限分担をできるだけ弾力化していくことが適当である。」との基本的な考え方が示されている。
     その上で、「教育委員会の所掌事務のうち、文化(文化財保護を除く)、スポーツ、生涯学習支援に関する事務(学校教育・社会教育に関するものを除く)は、地方自治体の判断により首長が担当することを選択できるようにすることが適当である。」と提言されている。
  •  また、平成19年の中央教育審議会答申(「教育基本法の改正を受けて緊急に必要とされる教育制度の改正について」)においても、「教育における政治的中立性や継続性・安全性の確保、地方における行政執行の多元化等の観点から、全ての地方自治体に設置する等の現在の基本的な枠組みを維持することが必要である。その上で、地方分権の理念を尊重しつつ、教育委員会の役割の明確化を図るとともに、その機能・体制を充実し、それぞれの地域の実情に合わせた弾力的な運用が可能となるよう制度改革を図ることが適当である。」という基本的な考え方が述べられており、その上で、具体的には「教育委員会の所掌事務のうち、文化(文化財保護を除く。)、スポーツ(学校における体育を除く。)に関する事務は、地方公共団体の判断により、首長が担当できるものとすること」が適当であると提言されている。
  •  このようにこれまでの中央教育審議会における答申においては、生涯学習振興に係る行政については、首長部局が行うことを可能としつつも、社会教育に関する事務は教育委員会が担当することが適切であることが示されている。
  •  生涯学習振興行政の固有の領域が、社会教育行政や学校教育行政等の個別に実施される教育に係る施策や、その他首長部局において実施される生涯学習に資する施策等について、生涯学習の理念を実現させるためその全体を総合的に調和・統合させるための行政であることにかんがみれば、生涯学習振興行政がその中核を担う社会教育行政を中心として教育委員会で担われることも、また、首長部局で実施する生涯学習に資する施策等より広い領域も含め、各施策の総合調整機能を中心として首長部局で担われることも、それぞれの役割や機能が確保されることを前提に考えられる。なお、各施策の総合的調整機能を発揮する場合には、3.で述べた目標の共有化を図っていくことも必要である。
  •  他方、社会教育に関する事務については、これまでの中央教育審議会における答申等で指摘されている教育における政治的中立性や継続性・安定性の確保等の必要性のほか、前述のとおり学校、家庭、地域住民等の連携の重要性が高まっている中、学校教育と社会教育とがより密接に連携していくことが不可欠となっていることにかんがみると、原則として、教育委員会が所管することが適当であると考えられる。また、地方公共団体の長と教育委員会の関係については、教育委員会の自主性と職務権限の独立性を侵害しない限度において地方公共団体の事務の能率的処理等を促進する補助執行等の仕組みが既に存在しており、弾力的な事務の執行を行うことは可能となっている。
  •  なお、社会教育施設の所管に関しては、地方公共団体の長へ改めてもよいとする指摘がある一方で、社会教育施設は多様で自主的な教育活動を助長することを目的とするものであり、施設の目標設定に関する政治的中立性の確保等の観点から教育委員会の所管が望ましいという指摘もある。これらを踏まえ、社会教育施設の管理及び整備に関する事務については、学校施設の管理及び整備に関する事務について地方教育行政及び運営に関する法律の特例が構造改革特別区域で認められたこと等を考慮して、引き続き検討する必要がある。
  •  このほか、生涯学習振興行政と社会教育行政との関係に関連して、地方公共団体の組織等についていずれを組織の名称とすべきか分りにくい等の声も聞かれるが、これについては、それぞれの地方公共団体が、2.の概念整理に基づき、生涯学習振興行政の中心である各施策の総合調整機能等を強調してその組織の名称とするか、あるいは社会教育行政が生涯学習振興行政の中核を占めることから、社会教育を組織の名称とするか等、各地方公共団体の実情に応じて決定されるべきものである。

(これからの生涯学習振興行政・社会教育行政を推進を支援するための国の体制のあり方)

  •  3.のとおり、これからの生涯学習振興行政及び社会教育行政の効果的な推進にあたっては、関係者・関係機関の連携を図り、ネットワークを構築する視点が重要である。現在、国及び地方公共団体で実施されている事業等においてもこのような視点が重視されており、様々な関係者が連携し、各教育課題や行政課題へ対応するための地域における機能・仕組みづくりが行われている。
  •  このような国の事業の実施等を通じた地方公共団体におけるいわば「面」としての、各機能に応じた仕組みづくりに対応して、国においてもこれまでの縦割りの個別の分野や施設等を対象としてではなく、今後、横断的な「機能」に対応して柔軟に連携を支援していくための体制を整える必要があると考えられる。例えば、社会教育行政として学校への支援やその他の地域の教育力を向上する取組を行うにあたって、教育課程内の学習等への支援と放課後における活動への支援等がそれぞれ実施される際に、それぞれの活動自体は異なるものの、地域の人材や施設等の活用に際して有機的に連携をしていくことが効率的・効果的なことも考え得る。そのような場合に、総合的に「面」としての連携のためのネットワークを支援していく視点が国においても求められると考えられる。

6.おわりに

−社会教育関係者等への期待−