第6期中央教育審議会生涯学習分科会における議論の整理(中間とりまとめ)1

平成24年8月
中央教育審議会
生涯学習分科会

はじめに

○ 平成23年6月に発足した第6期中央教育審議会生涯学習分科会では、平成20年2月に取りまとめられた中央教育審議会答申「新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について~知の循環型社会の構築を目指して~」(以下「平成20年答申」という。)の提言内容や平成23年1月に整理された「生涯学習・社会教育の振興に関する今後の検討課題等について~第5期中央教育審議会生涯学習分科会における検討状況~(以下「第5期検討状況」という。)の検討内容等を受け、東日本大震災等の社会状況の著しい変化も踏まえ、今後の生涯学習・社会教育の振興に関する具体的方策について審議を行った。

○ その際、第2期教育振興基本計画の策定に向けた教育振興基本計画部会(以下「計画部会」という)における検討が行われていたことから、計画部会の審議に資することも念頭に置きながら審議を重ねた。

○ こうした中、計画部会においては、社会の構造変化や教育の現状と課題等を受けて、今後の我が国社会が、

  • 自立(一人一人が、多様な個性・能力を伸ばし、充実した人生を主体的に切り開いていくこと)
  • 協働(個人や社会の多様性を尊重し、それぞれの強みを活かして、共に支え合い、高め合い、社会に参画すること)
  • 創造(自立・協働を通じて更なる新たな価値を創造していくこと)

が可能となるような「生涯学習社会の構築」を目指す必要があるとの方向性を打ち出した。

○ これを受けて、生涯学習分科会としては、「生涯学習社会の構築」の中心的な役割を担う社会教育行政の今後の推進の在り方について、集中的に審議を行った。

○ この「議論の整理(中間とりまとめ)」は、こうした審議内容を中間的に整理し、取りまとめたものである。

第1章 今後の社会教育行政等の推進の在り方について

1.生涯学習・社会教育を取り巻く社会が変化する中で求められるもの

(1)個人の自立に向けた学習

○ グローバル化や情報通信技術の一層の進展に伴って、人・モノの流動化・多様化が進み、経済競争の激化、産業の空洞化、雇用環境の変容、失業率の高止まり、所得格差の拡大等、我が国の経済・雇用環境は、変化が激しく、先行き不透明な、厳しい状況になっている。また、既に本格的な少子・高齢社会に突入し、今後、急速な高齢化と人口減少が予想される中、このままこの状況を放置すれば、国内経済規模の縮小、税収の減少、社会保障への悪影響などを招き、ひいては、財政破綻の懸念など危機的な状況に陥ることは免れない。

○ 我が国が、こうした状況や危機を乗り越え、新たな付加価値を創造する社会へと転換して、社会の幅広い人々が成長の果実を享受できるようにするためには、我が国社会を構成する国民一人一人の能力の向上・底上げが不可欠となる。この能力としては、平成20年答申で提言された「自立した一人の人間として力強く生きていくための総合的な力」があげられる。

○ この「総合的な力」については、学校教育など人生のある一時期のみで身につけられるものではなく、生涯にわたって、多様な場で様々な学習経験を積む中で、身につけられるものである。

○ このため、全ての国民が、いつでも、そのライフステージや置かれた状況に応じた学習(例えば、1.正規・非正規雇用者のキャリア・アップのための学習、2.出産や子育て後の女性の再就職のための学習、3.青少年のための様々な体験学習、4.若年無業者・引きこもり等の若者が社会生活を円滑に営む上で必要な社会的・職業的自立のための学習、5.子育て世代のための家庭教育に関する学習、6.中高年齢者等の地域社会への参画や生活の充実・生きがいのための学習など)の機会が得られ、学習が継続でき、その成果を社会生活・職業生活に適切に生かすことができる生涯学習社会の実現が一層求められている。

○ 特に、近年、急速なグローバル化や技術革新により、職業に必要な知識や技能等が高度化している。また、産業構造の変化や労働市場の流動化により、個人がその生涯の中で転職や職種転換する可能性が高まり、新たな知識や技能等が必要になっている。さらに、現在、雇用者の3割(※1)を超えている非正規雇用者については、正規雇用者に比べて企業内教育・訓練を受ける機会が限られている(※2)。こうした状況の中、大学院・大学や専修学校等において、学び直しなどの学習ニーズが高まっている(※3)。


※1 非正規の職員・従業員の割合 平成22年 34.4%(過去最高の数値)(労働力調査)

※2 職業教育訓練(OFF―JT)を受講した労働者の割合 正社員 41.4% 非正規社員 19.2%(能力開発基本調査 平成23年度)

※3 リカレント教育に対する社会人の意識調査によると、約9割が「受けたい」又は「興味がある」と回答している。また、利用したい教育機関としては、大学院46.4%、大学19.5%、専修学校13.9%となっている。一方、教育を受ける際の課題としては、仕事が忙しい、費用負担が大きいなど、職業生活と学修の両立に関するものが多い(職業能力開発総合大学校能力開発センター調査報告書NO128 平成17年)。

(2)絆づくり・地域づくりに向けた体制づくり

○ 都市化・過疎化や家族形態の変容、価値観やライフスタイルの多様化等により、地域社会の人間関係の希薄化や人々の孤立化が指摘されている。
 その一方で、近年は、東日本大震災の影響もあって、個々人が、積極的に社会に参画し、他者と協働しながら、主体的に「互助・共助」による活力ある地域づくりに貢献していこうとする気運も見られる(※4)。

○ こうした気運を持続的なものとし、各地で地域住民の協働による地域課題の解決や地域の活性化などの地域づくりの取組を促進するためには、地域住民が、学習を通じて、市民意識を高め、必要な知識・技術等を身につけ、その成果を社会参画や社会貢献の活動につなげていけるようにするための実践的な学習機会の提供が重要となる。

○ こうした学習機会により、地域住民が、他の地域住民や関係者・関係団体と交流やつながりを持つことになる。こうした中で、「絆」・「ネットワーク」・「規範」・「信頼」といった、社会・個人の繁栄にとって重要な「社会関係資本」(ソーシャルキャピタル)が構築されることが期待される。

○ そして、この社会関係資本の構築を円滑に進めるためには、各地域において、多様な考え方を有する地域住民・関係団体等の調整役となるコーディネーターや地域住民等の意欲・力を引き出すファシリテーターといった人材の育成・確保、地域住民や関係団体等が集う場の確保、地域住民同士や関係団体等をつなぐネットワークの構築といった体制づくりが求められる。

○ また、社会関係資本の構築を図っていく上で、地域住民のうち、生涯を通じて学習活動に積極的に参画し、豊かな経験を重ねていく者がある一方、学校卒業後は、意図的な学習や社会参画をほとんど行わなくなる者が少なからずいるという課題があり、この両者の間で、いわゆる「学習格差」が広がっているとの指摘もある。

○ より厚みのある社会関係資本を構築し、強いコミュニティを形成するためには、潜在的な学習需要を持つ人々に対しても、生涯にわたる学習の必要性の啓発や学習情報の提供等を行って学習意欲を喚起し、学習や社会参画に関心をもつよう工夫するとともに、より多くの人々が地域社会の中で「居場所」や「出番」があるようにすることが求められる。


※4 平成23年度のボランティア等への参加経験者の割合は24.6%(平成22年度21.5%)、寄附者の割合は37.2%(平成22年度14.6%)に増加するとともに、今後ボランティアや寄附等で貢献したい者の割合も増加している(平成23年度国民生活選好度調査)。

2.社会教育の役割及び課題

 社会教育は、個人の自立に向けた学習のニーズや絆づくり・地域づくりに向けた体制づくりのニーズに対応する上で、中心的な役割を担っていくことが期待される。実際に、近年、各地域において、社会教育は大きな成果をあげている。
 ここでは、社会教育の役割について整理するとともに、社会教育行政が抱える課題について示す。

(1)社会教育の役割

○ 教育基本法第1条において、教育は「人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して」行われるものとされている。また、このような教育の根本的な目的を実現するために、同法第2条において、具体的に教育が目指すべき目標が定められている。このような教育の根本的な目的や目標は、実際に地域活動に参画している成人を含め、全ての年齢層の人々を対象としている社会教育にも適用されるものである。

○ 社会教育は、「学校の教育課程として行われる教育活動を除き、主として青少年及び成人に対して行われる組織的な教育活動(体育及びレクリエーションの活動を含む。)をいう」と定義され、地域住民の生活課題や地域課題に根ざして行われる各種の学習を教育的に高める活動ともいわれるものである。具体的には、社会教育は、地域住民同士が学びあい、教えあう相互学習等を通じて、人々の教養の向上、健康の増進等を図り、人と人との絆を強くする役割を果たしている。これに加え、現代的・社会的な課題に関する学習など、多様な学習活動を通じて、地域住民の自立に向けた意識を高め、地域住民一人一人が当事者意識を持って能動的に行動(「自助」)するために必要な知識・技術を習得できるようにするとともに、学習活動の成果を協働による地域づくりの実践(「互助・共助」)に結びつけるよう努めることが求められている。

○ そして、国及び地方公共団体の任務は、このような社会教育が活発に行われるよう、公民館等の社会教育施設の設置・運営をはじめ様々な方法によって環境を醸成していくことにある。また、その環境の醸成に当たっては、社会教育委員や公民館運営審議会といった制度が設けられるなど、様々な形で「地域住民の意思を反映する仕組み」が取られてきた。

○ このような中で、公民館は、学級・講座を実施することで地域住民の学習ニーズに応え、地域住民間の絆を築くとともに、各地のコミュニティの形成にも寄与することで社会教育の中核を担ってきた。そして、国際的にも「Kominkan」として、現在も途上国を中心に広く世界の関係者からの視察を受け入れるなど評価を得ている。

○ 図書館は、地域住民の身近にあって住民の多様な学習ニーズに対応した図書や資料情報を収集・整理・提供する利用度の高い社会教育施設として、また、博物館は、歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等に関する資料の収集・保管、調査研究、展示、教育普及活動等を一体的に行い、実物資料を通じて人々の学習活動の支援を行う社会教育施設として大きな役割を果たしている。このように、図書館や博物館は、それぞれの役割に応じて地域の知の拠点となっており、それぞれの施設数や施設利用者数は、年々増加(※5)している。


※5 施設数については、平成2年の図書館数は1,950館、博物館数は2,968館であったが、平成20年には、それぞれ3,165館、5,775館に増加している。また、図書館の帯出者数(図書を借用して館外へ持ち出した者の延べ人数)については、平成元年度間の76,070千人から、平成19年度間には171,355千人へ、博物館の入館者数については、平成元年度間の244,980千人から、平成19年度間には279,871千人へとそれぞれ増加している(平成20年度社会教育調査)。

(2)近年の社会教育の成果

(学校教育との連携・協働による地域コミュニティの形成)

○ 平成18年の教育基本法の改正を踏まえ、平成20年の社会教育法の改正においては、学校・家庭・地域の連携・協力を促進することが、国及び地方公共団体の任務として位置付けられた。また、教育委員会の事務に、新たに、地域住民の学習の成果を活用する機会の充実や児童生徒の放課後の居場所づくりに関する規定等が追加された。

○ これを受けて、文部科学省でも様々な施策が展開されてきた。特に、学校支援地域本部(平成24年度:3,036本部)や放課後子ども教室(平成24年度:10,098教室)、コミュニティ・スクール(学校運営協議会)(平成24年度:1,183校)など、学校と地域との連携・協働を推進する体制づくりの取組は、子どもたちの教育環境を改善するのみならず、多くの地域住民が、学校支援や放課後等の活動に参画するなど、地域住民の間の絆をより強く結びつけ、活力あるコミュニティの形成にもつながっている。

○ 東日本大震災の被災地においても、学校支援地域本部等の取組をはじめとして、普段から学校と地域住民が連携・協力体制を構築していた地域では、そうでない地域に比べ、避難所の設置や運営、学校の再開が円滑に進められたとの報告(※6)もある。


※6 「避難所において自治組織が立ち上がる過程は順調だったか」という質問に対する宮城県内の小中学校の校長40名の回答(文部科学省聞き取り調査)
 (学校支援地域本部が設置されていた学校(20校))順調だった:95% 混乱が見られた:0%
 (学校支援地域本部が設置されていなかった学校(20校))順調だった:35% 混乱が見られた:40%

(家庭教育における学習機会の提供と地域人材の育成)

○ 平成13年及び平成20年の社会教育法の改正において、教育委員会の事務として、「家庭教育に関する学習の機会を提供するための講座の開設及び集会の開催並びに家庭教育に関する情報の提供並びにこれらの奨励」が明確に位置付けられるなど、家庭教育支援に関する内容の充実が図られた。

○ これも受けて、社会教育行政において、従来の社会教育施設だけではなく、就学時検診や乳幼児検診など、より多くの親が集まる場や機会を活用した、学校や母子保健部局との連携による学習機会の充実が図られている。また、家庭教育を支援する地域の人材の育成が図られ、こうした人材を活用した家庭教育支援チームの組織化(平成23年度:全国278チーム)が行われるなど、地域における家庭教育支援の取組が進展しつつある。

(生涯学習社会の構築に向けた寄与)

○ 社会教育法第3条では、国及び地方公共団体の任務として、「すべての国民があらゆる機会、あらゆる場所を利用して、自ら実際生活に即する文化的教養を高め得るような環境を醸成するように努めなければならない」と定められている。その環境醸成の一環として、社会教育行政では、公民館、図書館、博物館、青少年教育施設、女性教育施設、生涯学習センター等の社会教育施設を設置し、各々の施設において、多様な学習機会の提供を行ってきた(※7)。

○ 社会教育行政は、趣味・教養の向上など個人のニーズが高い学習機会のみならず、住民の地域社会への貢献やコミュニティづくりへの意識の涵養、地域独自の課題や公共の課題への対応など、民間事業者等によっては提供されにくい分野の学習機会の提供も行ってきた。また、これらの学習成果を地域課題の解決や地域の活性化などへ結びつけ、住民主体の地域コミュニティの形成に寄与している例も見られる。


※7 公民館等の社会教育関係施設において、行政が提供する学級・講座等の学習機会は増加している。507,289件(平成7年度間)、911,612件(平成19年度間)平成20年度社会教育調査

(3)社会教育行政が抱える課題

1.地域コミュニティの変質への対応

○ 社会教育行政は、歴史的には、自治会、町内会、婦人会、青年団等の地縁組織といった伝統的な地域コミュニティに大きく依存して展開されてきた。これらの地域コミュニティは、住民と行政をつなぐ中間的な組織・団体として、生活に関する相互扶助、伝統文化の維持、地域課題の解決などの機能を果たしてきた。

○ しかしながら、産業構造の変化、人口の大規模移動、都市化・過疎化、価値観の多様化など社会経済環境が変化する中で、人々の生産と生活の場は分離し、地縁的な協働の必要性が減少した。これにより、地域における人のつながりや連帯感、支え合いの意識が希薄化し、若い世代の加入率や結成率が低下するなど、地縁組織による伝統的な地域コミュニティの機能は低下した。その一方で、NPOやボランティア団体など、地域を限定することなく、特定の目的・テーマのもと活動を行う新たな地域づくりの担い手が登場し、その活動は急速に活発化してきている。

○ このように地域コミュニティが変質する中で、地縁組織は、自ら活動や組織運営の在り方について積極的に変革に取り組むとともに、NPOやボランティア団体など地域における様々な課題について活動する組織と相互に連携を図っていく必要がある。また、伝統的な地域コミュニティに大きく依拠してきた社会教育行政も、地域において住民が一定の連帯感を創出することを支援し、地域づくりの担い手となる地域住民を育成する人づくりの役割を担うとともに、社会全体が発展していく持続可能なシステムの構築を図っていくことが求められている。しかしながら、いずれも、このような動きに対して十分対応できていないという現状が見られる。

2.多様な主体による社会教育事業の展開への対応

○ 近年、新たな社会的課題や地域課題が増大し、その課題解決のための学習の必要性から、地域住民の行う学習活動は広範多岐にわたって行われるようになっている。このような中、社会教育担当部局以外で行われている普及啓発事業、NPOなどの活動、大学等の高等教育機関における公開講座の開設や学生等による社会貢献活動の推進、民間事業者における教育事業などが、質・量ともに急速な広がりを見せている。

○ このことは、社会のあらゆる場で行われる組織的な教育活動である社会教育が拡充したという一面も有している。このため、平成10年の生涯学習審議会答申「社会の変化に対応した今後の社会教育行政の在り方について」においては、ネットワーク行政を構築するために、学習資源を収集・活用することが提言されている。さらに、平成20年答申においても、地域の実態等に応じて、行政が民間団体等との積極的な連携を進めることについて提言されている。

○ しかしながら、依然として多くの地方公共団体では、公民館等の社会教育施設における講座等の実施を中心とした社会教育担当部局で完結した「自前主義」から脱却できないでいる。社会教育行政は、学校支援地域本部や放課後子ども教室など学校教育との連携・協働については、大きな成果をあげているものの、それ以外の領域については、多様な主体による社会教育事業との連携・協働が必ずしも十分に行えていないという現状が見られる。

3.社会教育の専門的職員の役割の変化への対応

○ 現在、社会教育の領域では、従来のように、行政が大部分の公共を担い、民間が補完するといった関係から、行政と社会教育関係団体、民間教育事業者、NPO、企業等が対等の立場で協働して公共を担っていくといった関係へと変わりつつある。このような関係のもと、地域の課題解決に向けて、住民が地域の実践を通じて主体的に学習し、絆を築くとともに、その成果を新たな地域づくりにつなげていく取組が活発化してきている。

○ 地域社会における人づくり、絆づくり・地域づくりを進めていくためには、地域住民が、自身の生活課題のみならず、地域社会に山積する課題についても自らのこととして捉え、学習を通じて地域社会に主体的に参画し、活躍することが期待される。そして、このような地域住民主体による地域づくりを支えていくに当たっては、行政の専門的職員が果たす役割は大きい。

○ その中で、社会教育主事は、教育委員会の事務局に置くこと(社会教育法第9条の2)とされ、社会教育事業の企画・実施による地域住民の学習活動の支援を通じて、人づくりや絆づくり・地域づくりに中核的な役割を担ってきた。具体的には、社会教育主事は、地域の学習課題を把握する能力や企画立案能力、組織化・援助の能力、調整者としての能力等を有するとともに、地域住民の主体的な問題意識を喚起し、多様で複雑な問題や課題を明確化して、自主的・自発的な学習を促進・援助するといった専門性を有することが期待される。実際、このような専門性を発揮し、人づくりや絆づくり・地域づくりにおいて中核となって活躍する社会教育主事も少なくない。

○ しかしながら、その一方で、都道府県・市町村教育委員会事務局の社会教育関係職員(※8)数の平成8年以降の推移を見ると、社会教育主事数は、派遣社会教育主事への国庫補助制度の廃止などの要因もあり、6,796人(平成8年)から3,004人(平成20年)と半数以下となり、社会教育主事を置いていない市町村も増加傾向にある。

○ 特に、小規模市町村では、財政状況が厳しい中、専門的職員を社会教育主事として発令し、組織的に位置付けること自体が難しく、仮に発令されても、社会教育主事の人数は、少ない状況(※9)にあり、積極的な活動は困難な状況にある。

○ このように、行財政改革に伴う人件費の削減や市町村合併による市町村の減少、発令の問題など様々な要因により、社会教育関係職員全体としては、一般行政部門の地方公務員とほぼ同じ割合で減少(※10)してきているが、その中で、社会教育主事の人数は、非常に大きな削減率となっている。

○ すなわち、社会教育の重要性・必要性については、一定の評価がなされているものの、社会教育主事の重要性・必要性については、首長を含めて地域の中で、必ずしも十分に理解され、評価されていないこともあり、適切な配置がなされてこなかったと考えられる。

○ そして、社会教育行政部局以外の主体においても、組織的な活動である社会教育が独自に展開されるようになったことで、全体としての市町村の社会教育行政体制の弱体化が進むとともに、市町村間での社会教育の取組の格差も拡大している。


※8 教育委員会事務局の職員として発令されている者のうち、社会教育関係(社会教育担当(文部科学省生涯学習政策局及びスポーツ・青少年局青少年課の掌握事務に直結した事務を主として行っている社会教育関係課)、社会体育担当(文部科学省スポーツ・青少年局(青少年課を除く)の掌握事務に直結した事務を主として行っている体育関係課)の職員。専任、兼任、非常勤を含む。

※9 1教育委員会当たりの社会教育主事数:2.0人(平成8年)から1.6人(平成20年)と減少(平成20年度社会教育調査)。

※10 社会教育関係職員数は38,903人(平成8年)から31,157人(平成20年)と20%の減少(平成20年度社会教育調査)。一般行政部門の地方公務員数は、1,174,547人(平成8年)から976,014人(平成20年)と17%の減少(平成20年地方公共団体定員管理調査)。

3.今後の社会教育行政の取組の方向性~「社会教育行政の再構築」~

今後、社会教育行政は、2.(3)の課題に対応し、地域住民同士が学びあい、教えあう相互学習等が活発に行われるよう環境を醸成する役割を一層果たしていくことが求められる。このため、社会教育行政は、今こそ、従来の「自前主義」から脱却し、社会教育施設間の連携の強化のみならず、首長部局や大学等・民間団体等とも自ら積極的に効果的な連携を仕掛け、地域住民も一体となって協働して取組を進めていくという、いわば「ひらく・つながる・むすぶ」といった機能を様々な領域で発揮すること、つまりは平成20年答申で提言された「社会教育行政の再構築」(ネットワーク型行政の推進)を確実に実施していくことが強く求められる。

(関係行政部局との連携・協働の推進)

○ 今日、人々の多様化・高度化した学習ニーズに応えるため、社会教育担当部局のみならず、他の行政部局においても、それぞれの行政課題に沿った普及啓発事業としての学習機会が提供されている。しかしながら、それぞれの実施主体が他の実施主体と連携することなく学習機会が提供されてきたため、事業の内容に重複や偏りがみられ、人々の学習ニーズや社会の要請に対応しきれない部分も生じてきている。

○ 社会教育担当部局以外の行政部局で行われる取組も、事業に参画する側から見れば、社会教育の対象範囲である組織的な教育活動である。このため、様々な領域にまたがる社会教育行政が従来の「自前主義」から脱却し、関係行政部局に対して、自ら積極的に効果的な連携を仕掛けていき、協働して施策を推進するネットワーク型行政の推進がますます重要となっている。

○ これにより、地域住民の学習活動を支援するプラットフォームが構築され、その中で、社会教育行政は、各々の施策等の中で様々な行政部局間をつなぐ役割を果たすことにより、幅広い分野で社会教育の機能を生かせることになる。このようなプラットフォームでは、地域内外の様々な情報が集約され、各行政部局がそれぞれの課題に応じて連携・協働することで、それぞれが有する教育資源が効果的に活用され、様々な施策の展開が可能となる。

○ なお、社会教育行政が、各々の施策等の中で様々な行政部局間をつなぎ、地域住民による自由・闊達な学習が行われるよう環境を醸成して、連携・協働体制を構築していくためには、地方公共団体の統括者としての首長の役割が重要である。このため、首長も人づくりや絆づくり・地域づくりにおける社会教育の重要性を踏まえ、連携・協働体制の構築に積極的な役割を果たしていくことが期待される。

(初等中等教育機関との連携・協働の強化)

○ 活力あるコミュニティが地域住民の学習活動を支え、生き抜く力をともに培い、住民の学習活動がコミュニティを形成・活性化させる好循環の確立に向けて、学校や公民館等を拠点とした多様な住民のネットワーク・協働体制を確立するなど、社会教育と学校教育との連携・協働を今後も一層強化していく必要がある。

○ このため、学校支援地域本部、放課後子ども教室、コミュニティ・スクールなどといった、学校と地域が連携・協働する体制を、全ての学校区において構築していくことが望まれる。

○ また、こうした連携・協働を一層強化するため、例えば、学校の建替えに際し、地域住民の社会教育の場としての活用も考慮した設計を行う、あるいは、学校施設と社会教育施設の複合化や余裕教室の活用の推進を図るなどの取組を、地域の実情に応じて推進していくことも考えられる。

(大学等の高等教育機関との連携・協働の推進)

○ 現在、多くの大学等の高等教育機関において、社会人が学びやすい環境整備の取組が行われ、また、大学等と地域との間で、様々な連携の取組も行われている。しかしながら、その多くは地域と教員の個人的な関係に基づくものであり、社会教育担当部局から、組織的に大学等に連携・協働を働きかけるといったことは必ずしも活発に行われてこなかった。

○ 今後、多様化・高度化する地域の課題に対応し、地域の活性化を図っていくためには、人材や情報・技術など様々な資源を有する大学等との連携・協働が不可欠であり、社会教育担当部局からも積極的に働きかけを行っていくことが求められる。

(民間団体の諸活動との連携・協働の推進)

○ 本来、社会教育行政は、住民のニーズに応じて、多様で豊かな学習の場を提供する観点から、社会教育関係団体、民間教育事業者、NPO、さらには、町内会等の地縁による団体を含めた民間団体の諸活動を支援すべきであり、民間団体が創意にあふれた活発な教育活動を展開できるような環境を整備していくことが重要である。

○ 今後、社会教育行政は、地域住民の多様なニーズに応えていくためにも、従来より社会教育の振興に重要な役割を果たしてきた既存の社会教育関係団体に加えて、NPO等の新たな市民活動団体や様々な民間教育事業者と連携・協働することが不可欠となる。そのためには、行政、民間団体が、それぞれの特性を認識し、尊重しあいながら、対等な立場のもとに積極的に協力し、より良い地域社会の実現に取り組んでいける関係を構築していく必要がある。

(企業等との連携・協働の推進)

○ 今後の社会教育行政においては、企業等の産業界との連携・協働も重要になる。企業は、専門的かつ高度な人材や施設設備など貴重な学習資源を有するとともに、社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)の観点から、地域社会の一員として、地域経済の活性化など地域の課題解決を担っていく役割も期待される。

○ また、その社員が自ら学習の機会をもち、自らの生活を充実させるとともに、学習の成果を活用することによる社会参画や地域貢献が可能となるよう、社員のワーク・ライフ・バランスを考慮した取組も望まれる。

(様々な主体との連携・協働を推進するための体制の整備等)

○ このような連携・協働を進めるに当たっては、首長部局による普及啓発事業の実施状況、小中学校等の状況、大学等・民間団体等が実施する活動の実態等、当該地域の実情に応じて、どのような分野に重点化し、そこでは何を行うのか、また、どのような連携・協働体制を構築していくのかを判断し、社会教育主事の適正な配置を含め、適切な体制を整備していくことが求められる。

○ なお、住民活動の広域化、市町村ごとの規模の違い、教育資源の偏在などにより、一つの市町村が独自に提供できるサービスには、自ずと限界があり、社会教育の取組の充実度は市町村間において差がある。したがって、教育委員会や各社会教育施設など、様々なレベルにおいて、必要に応じて市町村域を超えた広域的なネットワークを構築し、連携して社会教育行政に取り組むことも効果的である。

○ 都道府県においては、こうした広域的なネットワーク構築の支援も含め域内の各市町村における社会教育が活性化するよう、市町村の自主性・自立性に配慮しつつ、相互に十分な協議・調整を行いながら、支援を行っていくことが望まれる。

(地域社会を担う人材の育成)

○ 地域の課題解決にかかわる住民の活動においては、行政も含めた関係者間での意見や考え方が異なることがしばしば見られる。これらの意見や考え方の相違については、関係者間の相互学習等を通じて合意形成につなげていくことが期待される。それにより、地域の絆は、より強まり、活力あるコミュニティが形成されることになる。

○ このような地域住民の主体的な学習や地域づくりを活性化させていくためには、こうした活動のリーダーとなる人材の育成が重要である。このため、地域住民が、地域の多様な課題を総合的に捉え、他者との関係を築いていける力を身につけ、それぞれの分野におけるコーディネーターやファシリテーターとして活躍していけるようにすることが求められる。そして、各地方公共団体においては、地域の実情に応じて地域社会を担う人材の育成や確保の方策について検討することが望まれる。

○ また、このような地域住民主体による自由・闊達な学習や地域づくりが円滑に行われるような環境を醸成していくためには、社会教育主事など行政における専門的職員が、地域住民間の合意形成や絆の構築に向けてコーディネート機能を発揮し、また、関係者等の具体的な活動を触発していくファシリテート機能を発揮できるよう、資質・能力の向上を図っていく必要がある。

○ さらに、各地方公共団体においては、社会教育主事等の専門的職員をネットワーク型行政の要とし、関係部局の職員や民間団体等で活躍するコーディネーター等の地域人材とを結ぶ体制を構築していくことが期待される。

(国の役割)

○ 地域における社会教育行政の実施主体は、地方公共団体(特に市町村)であり、各地方公共団体は、各地域における多様な実情等を踏まえた「社会教育行政の再構築」に主体的に取り組むことが求められる。

○ 国の役割としては、1.各地方公共団体の主体的な連携・協働の取組が円滑に進むよう、全国的な観点から、「社会教育行政の再構築」に関する基本的な理念・考え方を示し、地方公共団体の取組の参考となるよう努めること、2.社会教育行政が中心となりながら、部局横断による取組、様々な主体との連携・協働による取組など、地域課題の解決に先進的に取り組む地方公共団体を支援し、優れた成果を全国に普及するモデル的な事業の推進を通じて各地方公共団体の多様な取組の進展を促すこと、3.国立教育政策研究所社会教育実践研究センターを中心に、社会教育の実態に関する調査や社会教育事業の質的向上を図るための実践的な調査研究を行うことにより、地方における社会教育の活性化を支援すること、4.社会教育行政の再構築を推進するために必要となる制度の改善を図ること等が考えられる。

○ また、今後、人々の学習を支える多様な主体が連携しながら地域における社会教育を推進していくに当たって、社会教育主事など行政における専門的職員は、どのような役割・専門性を持つことが求められるのかについての考え方を示すことが必要となる。そして、地域の多様な人材のネットワークの構築をコーディネートしていく高い専門性を持った専門的職員としての社会教育主事の資質・能力の向上を図るための方策を講じていくことが求められる。このため、社会教育主事の養成及び研修の内容・方法のみならず、キャリアパスも含めた社会教育主事の在り方を総合的に検討していく必要がある。

○ さらに、地域で活躍する人材の全国的な通用性や信頼性が確保されるような質の保証の仕組みの構築や地域人材のネットワークの構築など、社会教育に関わる人材の在り方全体について、引き続き検討し、その方向性を示していく必要がある。

4.生涯学習振興行政の調和・統合機能の強化

今後、社会教育行政が、個別の施策についてネットワーク型行政を展開するに当たり、生涯学習振興行政は、より一層、全体を総合的に調和・統合する機能を強化する必要がある。

(1)生涯学習振興行政と社会教育行政の関係

○ 平成20年答申で指摘されているように、生涯学習とは、各個人が行う学習のみならず、社会教育や学校教育において行われる多様な学習活動を含め、国民一人一人がその生涯にわたって自主的・自発的に行うことを基本とした学習活動をいう。また、教育基本法第3条においては、「国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない」とする生涯学習の理念が示されている。

○ 生涯学習振興行政は、この生涯学習の理念を実現するため、社会教育行政や学校教育行政等において個別に実施される教育に係る施策、首長部局において実施される生涯学習に資する施策等について、その全体を総合的に調和・統合させるための行政をその固有の領域としている。

(2)生涯学習振興行政の取組について

○ 社会教育行政が個別の施策について、関係行政部局、大学等・民間団体等との連携・協働を図るネットワーク型行政を展開していくことに伴い、生涯学習振興行政としては、その固有の領域である「全体を総合的に調和・統合する機能」をより一層強化し、各学校段階間や各ライフステージ間の円滑な接続など個々人の生涯にわたる学習の継続性にも留意しながら、域内の学習活動全体を俯瞰し、調整して、生涯学習の理念の実現に向けて、その基本的な方針等を示していくことが必要になる。具体的には、各地域の実情や課題に応じて、生涯学習振興に関する基本構想やその基本構想を実現するための基本計画等(※11)の策定等の取組が考えられる。

○ 併せて、平成20年答申において整理されているように、引き続き、1.学習情報の提供や相談体制を整備すること、2.新たな環境の変化に学習を通じて対応する必要性をあらゆる機会を通じて周知するなど潜在的な学習需要を持つ人々に対しても学習意欲を高めるための啓発活動を行うこと、3.「知の循環型社会」を目指して生涯学習の成果を生かす場や成果を生かすための評価のための仕組みを構築すること、4.関係行政機関の生涯学習に資する施策に関して連絡調整を図ることも必要である。


※11 生涯学習振興に関する基本構想や基本計画等(教育振興基本計画等の総合的な計画は除く)を策定している地方公共団体は、38都道府県、18政令指定都市、1,009市町村(平成23年5月 文部科学省調べ)。

(国の役割)

○ 国は、こうした各地方公共団体の主体的な取組に資するよう、例えば、第1章の今後の取組の方向性や第2章の「今後の生涯学習・社会教育の振興の具体的方策」といった基本的な方針等を示すことが求められる。そして、その前提としてこれまで以上に、生涯学習の全体像に関する実態の把握や調査研究等に取り組むことが必要になる。

○ また、国際的な取組の動向にも十分に留意しながら、学習者が安心して質の高い学習を行うことができるよう、学習機会や学習提供者の適切な評価等を通じて学習の質の保証を図ることが必要である。

○ さらに、学習した成果を社会全体で幅広く通用させ、個人の学習意欲を喚起させていくために、大学や地方公共団体、民間教育事業者等が実施する人材認証制度等による学習成果の評価・活用の取組を推進するほか、学校等と産業界や職能団体等との連携・協働による能力評価基準や教育プログラムの開発等の取組を推進することも重要である。

第2章 今後の生涯学習・社会教育の振興の具体的方策について

 第2章においては、今後の生涯学習・社会教育の振興に関する国の具体的方策並びに地方公共団体・大学等・民間団体等が主体的に取り組むことが期待される具体的方策について取りまとめた。
 具体的には、第5期検討状況の3つの柱、すなわち「(1)学習活動を通じた地域の「絆」の再構築と地域課題の解決」、「(2)ライフステージ等に応じて求められる学習環境の整備」、「(3)学習の質の保証と学習成果の評価・活用」の3つの柱の各検討課題等を今期の審議の出発点として、第1章で言及されている事項や計画部会の審議項目・内容との整合性等も踏まえ、以下の5つの柱に整理し直して、取りまとめた。

  1. 絆づくりと活力あるコミュニティの形成に向けた学習活動や体制づくりの推進
  2. 現代的・社会的課題に対応した学習機会及びライフステージに応じた学習機会の充実
  3. 社会生活を円滑に営む上で困難を有する者への学習機会の充実
  4. 学習の質保証・向上と学習成果の評価・活用の推進
  5. 生涯学習・社会教育の推進を支える基盤の整備

1.絆づくりと活力あるコミュニティの形成に向けた学習活動や体制づくりの推進

(1)社会全体で子どもたちの活動を支援する取組の推進

○ 地域住民が子どもたちの学びに積極的に参画・支援し、社会全体で子どもたちを育むことができるようにするためには、学校と地域が連携・協働する体制づくりが重要となる。

○ これまで、学校支援地域本部(3,036本部(平成24年度))、放課後子ども教室(10,098教室(平成24年度))、コミュニティ・スクール(1,183校(平成24年度))などの取組が展開されてきたが、地域によって取組状況に差が見られ、未だ全国に普及するには至っていない。

○ このため、学校支援地域本部、放課後子ども教室、コミュニティ・スクールなどの取組について、質・量ともに一層充実させていくことなどを通じて、学校と地域が連携・協働する体制を、全国全ての小・中学校区に構築することが求められる。

(2)学びの場を核にした地域コミュニティの形成の推進

○ 地域住民が学習活動を通じて絆を形成し、コミュニティへの参画や地域課題の解決を図っていくことの重要性が増している。

○ このため、学校や公民館等の社会教育施設をはじめとする「学びの場」が核となり、様々な学習活動を地域コミュニティの形成につなげていくような取組を支援し、普及していくことが期待される。

○ また、このような「学びの場」である学校施設と社会教育施設等との複合化や学校の余裕教室の活用を促進していくことも有効である。

○ さらに、地域コミュニティの形成のためには、地域住民などの多くの当事者が集まる公民館や知の拠点である大学等において、「熟慮」と「議論」を重ねながら課題解決・合意形成につなげる手法である「熟議」の取組を推進するとともに、「全国生涯学習ネットワークフォーラム」等の研究協議による地域課題の解決・情報発信、関係者間のネットワークの形成を図る取組を推進することも有効である。

(3)地域社会と共生する大学等の高等教育機関づくりの推進

○ 大学等の高等教育機関は、地域の知的創造活動の拠点であり、地域の課題が複雑化・高度化する中にあって、学び直しの機会の提供や地域人材の育成の取組が一層求められる。加えて、大学等は、地域だけでは解決することが困難な課題にも向き合い、その解決に向けて主体的に取り組むことも求められる。

○ そして、大学等が、これらの課題解決の取組により蓄積された知見を研究に反映させるとともに、地域連携の取組に学生を参画させ、学生の学習意欲の向上にもつなげることを通じて、大学等全体として地域社会と共生するための教育研究機能を向上させることが重要である。

○ これまで、大学等では、大学が主体となった地域課題解決に係る熟議(※12)等の取組や人材認証制度の整備、学び直しの場としての公開講座の充実(※13)等が行われてきたものの、大学によって、地域貢献に係る取組には差がみられ、また、地域との連携も必ずしも十分ではない。

○ このため、大学等の高等教育機関は、学び直しや地域の課題解決の中核的存在として、生涯学習センター等を活用しながら、大学等が本来持っている生涯学習機能をより一層強化していくことが期待される。その際には、公民館等の多様な主体との連携・協働を推進するための方策についても検討することが求められる。


※12 平成23年度から、当事者による学習・合意形成・課題解決等を促進する上で有効である熟議の活用を推奨し、全国的に地域との共生・協働関係の発展に向けた意識の共有及び機運の醸成を図る「地域と共生する大学づくりのための全国縦断熟議」を実施(平成24年8月現在、12大学が開催)。

※13 公開講座を実施している大学の数は、国立84大学、公立78大学、私立545大学(「開かれた大学づくりに関する調査」(平成23年度文部科学省委託調査))

(4)豊かなつながりの中での家庭教育支援の充実

○ 家庭環境の多様化や地域社会の変化により、家庭教育が困難な社会となっている。こうした社会においては、支援のネットワークを広げ、家庭教育支援の取組を地域コミュニティの連携・協働の中で充実していくことが必要になる。

○ そのためには、地域人材を中心としたきめ細かな活動を組織的に行う仕組みとしての「家庭教育支援チーム」型の支援を、地域の特性に応じて、小中学校区を単位として一層進めていくことが求められる。

○ また、課題を抱える家庭に対する効果的な支援のために、子どもたちの状況を日常的に把握している教員やスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー等との連携を図るなど、学校と連携した支援の仕組みづくりなどの推進が求められる。

○ さらに、現在、子育て家庭が孤立しやすい社会状況にある中、子育てについての悩みや不安を多くの保護者が抱えていることから、親の育ちを応援することが重要である。このため、子育てへの自信や対処能力を持たせることができるような、当事者の主体性を重視したり、体験型・ワークショップ型の学習を工夫したプログラムや講座を開発・充実することが求められる。その際、学習プログラムを効果的に実施するためのファシリテーター等の養成も求められる。

○ なお、乳幼児期の子育て家庭を対象とした支援を充実させていくためには、保健・福祉分野とも連携して、多様な学習機会を提供することが求められる。

2.現代的・社会的課題に対応した学習機会及びライフステージに応じた学習機会の充実

(1)現代的・社会的課題に対応した学習の推進

○ 個人や地域が抱える課題が多様化・複雑化する中で、自らの課題を自らで解決できる自立した個人や他者と協働しながら主体的に地域社会の課題解決を担うことができる地域住民の育成に資する学習が求められている。

○ このため、各分野の基本計画等に基づき実施される、男女共同参画、人権、環境保全、消費者問題、地域防災・安全等の現代的・社会的な課題についての学習について、一方的な知識の伝達にとどまらず、その成果を具体的な実践につなげていけるような学習の推進が期待される。

○ 特に、男女共同参画社会の実現に向けては、固定的性別役割分担意識の解消に資する教育・学習の推進や性別にとらわれない多様なキャリア形成を支援する学習の推進が一層求められる。

○ また、地球規模の課題に対しても、自らの問題として捉え、身近なところから取り組み、持続可能な社会づくりの担い手となるよう一人一人を育成する教育(持続発展教育:ESD)も重要である。

○ さらに、現在、社会教育施設においては、趣味・教養に関する講座等の提供が大半を占める中にあって、現代的・社会的な課題に対応した学習機会の充実に先進的に取り組む公民館等に対して、支援を行っていくことも有効である。

○ なお、現代的・社会的な課題に対応した学習機会の提供に当たっては、社会教育施設での講座等の提供のみにとどまらず、首長部局・大学等・民間団体等の様々な主体とも連携・協働していくことが重要である。

(2)ライフステージに応じた学習機会の充実

○ 個々人が、生涯にわたって、学習を継続するに当たり、生きていくライフステージによって、求められる学習内容や手法は変わってくるため、それぞれに応じた学習機会を提供することが重要となる。

○ 青少年については、自然体験活動を行ったことのある青少年の割合が年々減少していることや、早い段階から様々な体験活動を行う機会を設けることが重要であることを踏まえ、自然体験や社会奉仕体験、国際交流体験等の様々な体験活動を推進することが求められる。

○ 社会人等については、その多様な学習ニーズに応えるため、大学・専修学校等において、通信教育、公開講座、科目等履修生制度や履修証明制度の一層の活用等に取り組むとともに、産学官連携による短期学習ユニットの積み上げ方式や単位制・通信制の導入など、社会人等が学びやすい学習・評価システムの構築も求められる。

○ 関連して、中等教育から高等教育までにわたる職業や就業に重点を置いた就学の道筋として、「職業教育体系」を鮮明にすることが重要である。こうしたことから、高等教育における職業実践的な教育に特化した新たな枠組みづくりに向けて、先導的試行などの取組を進めることが求められる。

○ また、子育て世代に対しては、1.(4)において記述したように、親の育ちを応援することが必要であり、子育てへの自信や対処能力を持たせることができるような、学習プログラムや講座を開発・充実することなどが求められる。

○ さらに、全ての人々が、高齢期においても、健康で、生きがいをもって主体的に生き、地域における様々な活動において、重要な担い手として活躍していくことが求められている。このため、高齢者が身体的にも経済的にも自立した生活を送っていくための体系的な学習、これまでの人生での豊かな経験や知識・技能を社会参画・社会貢献に活かすための学習など、地域の中で自立した高齢期を送るための学習機会の充実を推進していくことが期待される。

(3)学習機会の確保のための環境整備

○ 「生涯学習に関する世論調査(平成20年度)」によれば、この1年間に生涯学習を行っていない者は半数を超え、その主な理由として、忙しくて時間がない、費用がかかる、身近なところに施設や場所がないこと等(※14)が上げられているように、現在、学習者の学習ニーズ等に即した生涯学習の機会が必ずしも十分に確保されているとはいえない状況にある。

○ これらの状況を改善するためには、地理的・時間的制約を超えるとともに双方向性の特長を有する情報通信技術(ICT)を効果的に活用することが有効である。具体的には、デジタルコンテンツの実態に関する調査研究の実施等を通じて、デジタルコンテンツの質の保証・向上のための仕組みを早期に構築することにより、ICTを活用した学習(eラーニング)を推進することが考えられる。

○ 同じく、地理的・時間的制約を受けにくい特長を有する放送大学の活用も有効である。特に、地域における課題解決に向けた学習の重要性を踏まえ、地方公共団体や他大学等とも連携し、少子高齢化、防災、環境、健康等の課題に対応した科目の充実や公開講演会等の充実を図ることが望まれる。


※14 仕事が忙しくて時間がない45.4%、家事が忙しくて時間がない18.9%、きっかけがつかめない16.4%、費用がかかる9.0%、そういうことは好きではなく、めんどうである7.3%、身近なところに施設や場所がない6.3%、特に必要はない5.9% 内閣府「生涯学習に関する世論調査」(平成20年5月)

3.社会生活を円滑に営む上で困難を有する者への学習機会の充実

(1)子ども・若者への学習支援

○ 社会の安定の基礎となる中間層を維持し、拡大させていくためには、将来の担い手である子ども・若者が社会的にも、職業的にも自立できるようにすることが求められる。また、貧困が親から子どもへ連鎖する、いわゆる「貧困の連鎖」が指摘される中で、それを断ち切るために早期から適切に対応するとともに、子ども・若者が置かれた状況を様々な観点から把握し、支援に努めることも重要である。

○ このため、幼児の健やかな成長に資する良好な環境の整備等を通じて生涯にわたる人格形成の基礎を培う幼児教育を充実するとともに、福祉・労働・保健・医療行政等の関係機関やNPO等と連携して、児童生徒に対する学習支援、高校中退者等に対する高等学校卒業程度認定試験の受検の促進を含む学び直しの機会の提供等を行うことが期待される。

○ 特に、高校中退については、早期の対応が求められており、関係機関において中退者の情報を共有するとともに、高校在学段階から支援を充実することが求められる。そして、このためには、学校とハローワーク・地域若者サポートステーションとの連携体制を構築することが重要である。

○ さらに、学校や公民館、図書館、青少年教育施設等を中核として、地域の多様な主体と連携・協働しつつ、子ども・若者の居場所を提供し、社会生活を円滑に営む上で困難を有する者への学び直しや社会参画、社会的・職業的自立を支援する体制を構築することが望まれる。

(2)成人への学習支援

○ 全ての子どもの育ちを支えていくためには、社会的に孤立し、家庭教育を行うことが困難になっている保護者への支援は重要である。また、社会の中間層を維持・拡大していく観点から、早期離職者・無業者等の成人に対する職業教育による支援も必要である。

○ このため、地域人材が行う家庭教育支援の活動に対し専門的な助言等を行う人材を確保するとともに、地域人材が行うアウトリーチを重視した家庭教育支援の取組を推進することが期待される。

○ また、早期離職者・無業者等の成人に対しては、職業に必要な知識や技術等を身につける機会を提供するため、専修学校・職業教育訓練機関等において職業教育・職業訓練等の推進が望まれる。

4.学習の質保証・向上と学習成果の評価・活用の推進

(1)多様な主体が提供する学習機会の質の保証・向上の推進

○ 国民一人一人の能力の向上・底上げを図るためには、社会全体で多種多様な学習機会が提供され、また、その提供される学習機会の質を向上させることが不可欠である。しかしながら、現在、学習機会を提供する民間教育事業者による評価・情報公開等の質の保証の取組については、各事業者によって様々である。

○ このため、各事業者が質の保証の取組に必要な手法等を容易に会得できるように、民間教育事業者における評価・情報公開に関するガイドラインの策定・普及など生涯学習・社会教育分野における評価・情報公開等の仕組みを構築し、普及させる方策について検討を深めることが必要である。その際には、国際的な動向であるISO29990(非公式教育・訓練サービスに係る国際標準)等の質の保証・向上の仕組みについても視野に入れて検討していくことが重要である。

○ また、社会通信教育の質の保証に資する仕組みである文部科学省認定社会通信教育制度については、平成23年度は27団体が112講座を開設し、約5万3千人が受講しているが、本制度をより活用しやすいものとするため、平成25年度を目途に、事業者や利用者のニーズにあわせた見直しを行うことが望まれる。

○ さらに、専修学校において、学校評価や情報公開が十分に取り組まれていない現状等を踏まえ、生涯にわたる学習活動と職業生活の両立に資するよう、教育の質を客観的に保証する仕組みの整備等が求められる。

(2)学習活動の成果の評価・活用の推進

○ 「知の循環型社会」の構築を目指すためには、学習成果が適切に評価され、社会で幅広く通用するための環境の構築が求められる。また、個人の学習意欲の増大や社会全体の教育力の向上という観点からも、学習成果が地域をはじめとした様々な場で活用されることが望ましい。しかしながら、現状は、個々の学習活動の学習成果を明示化して、評価する手法が社会的に認知されていなかったり、学習成果を活用する場とのマッチングの環境の醸成について不十分な状況にある。

○ このため、個人の学習歴を見える化し、学習成果を評価する手法について更なる検討が求められる中、まずは、既存の履修証明制度やジョブ・カード等の利用促進策の検討が望まれる。

○ また、学習成果の社会的通用性を高め、個人の学習意欲の喚起にも資するよう、これらの指標となる民間検定試験の実施事業者による情報公開・自己評価等を通じ、検定試験の質の向上を図るとともに、人材認証制度等による学習者の学習成果の評価・活用のための仕組みや認証の共通枠組みの構築に向けた検討が求められる。

○ さらに、体験活動を積極的に行った青少年が社会で評価されるよう、その成果に対する評価・顕彰の仕組みを検討することも期待される。

(3)キャリア形成のための新たな学習・評価システムの構築に向けた基盤の整備

○ 個々人が、生涯にわたり継続して学習活動と職業生活を交互に又は同時に営みながら、職業に必要な能力を習得し、向上させることができ、また、その成果が適正に評価され、就業やキャリアアップ等につなげることができる社会の実現が期待される。

○ 諸外国においては、英国のQCF(単位資格枠組み)やEUのEQF(欧州共通資格枠組み)のように、様々な職業分野において複数段階の評価基準を整備し、学校段階との対応関係を明らかにするような能力評価制度の構築が進められている。

○ このような動向を踏まえ、我が国において「キャリア形成のための新たな学習・評価システム」の構築を図るため、成長が見込まれる分野等を対象にして、学校等と産業界等との連携によるコンソーシアムを組織化し能力評価基準や教育プログラムの開発を進めたり、諸外国における資格枠組みの動向等の調査等を行うことが求められる。また、これらの成果を踏まえつつ、国際的通用性の向上も視野に入れて、我が国の実情にあった新たな学習・評価システムの在り方について調査研究を行うことが求められる。

(4)ICTを活用した学習の質の保証・向上、学習成果の評価・活用の推進

○ 情報通信技術の進展に伴い、ICTの活用が日常生活に浸透する中で、地理的・時間的制約を超えるとともに双方向性の特長を有するICTを効果的に活用した学習(eラーニング)を推進することが有効である。

○ このため、デジタルコンテンツの実態に関する調査研究の実施等を通じて、デジタルコンテンツの質の保証・向上のための仕組みを早期に構築することが期待される。

○ また、民間団体と地方公共団体等が連携して実施するICTを活用した学習成果の評価や社会的通用性の向上に資する取組(eポートフォリオ、eパスポート)(※15)を継続的に支援し、その成果を普及することが望まれる。


※15 例えば、富山インターネット市民塾推進協議会においては「一人ひとりのeポートフォリオが社会に生かされる学習基盤の構築に関する調査研究」が実施されている。

5.生涯学習・社会教育の推進を支える基盤の整備

(1)様々な主体との連携・協働を進めるための社会教育行政の体制の確立

○ 社会教育行政が、本来の役割を十分に果たしていくためには、「社会教育行政の再構築」を確実に実施していくことが強く求められる。

○ このため、地方公共団体が、様々な主体との連携・協働を円滑に構築できるよう、1.社会教育行政の再構築に関する基本的な理念・考え方の提示、2.地域課題の解決に先進的に取り組む地方公共団体を支援し、優れた成果を全国に普及するモデル的な事業の推進、3.社会教育の実態把握や質的向上のための実践的調査研究の実施、4.社会教育行政の再構築を推進するために必要となる制度の改善等の環境整備等を行うことが期待される。

(2)地域の学びを支える人材の育成・活用の推進

○ 地域住民主体の地域づくりを円滑に進めていくためには、それを支える多様な人材の育成・活用が重要となる。

○ このため、社会教育主事など行政における専門的職員の役割・専門性についての考え方を提示するとともに、地域の多様な人材をコーディネートしていく高い専門性を持った専門的職員として、社会教育主事の資質・能力の向上をより一層図っていくことが求められる。

○ さらに、地域人材の質の保証の仕組みの構築や地域人材のネットワークの構築など、社会教育に関わる人材全体の在り方についても検討していくことが重要である。

(3)社会教育施設の運営の質の向上

○ 平成20年の社会教育法等の改正により、公民館、図書館、博物館の運営の状況に関する評価の実施と情報提供についての努力義務が規定された。現在、公民館、図書館、博物館において、運営の状況に関する評価を実施している施設は約7割、運営に関する情報の提供を実施している施設は約6割にとどまっているが、社会教育行政推進の基盤である社会教育施設をより質の高いものにしていくためには、評価・情報提供の取組の推進は重要である。

○ このため、全ての社会教育施設において自己評価・情報公開が行われるよう促すほか、公民館、図書館等におけるICT環境の整備やICTの利活用を促進するなど、社会教育施設の質の向上に向けた取組を着実に進めていくことが求められる。

(4)生涯学習・社会教育分野における調査・研究の推進

○ 生涯学習・社会教育の推進方策を検討するに当たっては、学習者の学習ニーズや学習状況、学習に当たっての課題等の実態を調査し、分析して、その結果を具体的な政策形成に反映させることが重要である。

○ このため、例えば、学習者の視点から「学び」に関する意識の在り様に焦点を当てた意識調査を行うとともに、社会の変化に対応して「社会教育調査」の調査項目の見直しも求められる。

○ また、生涯学習・社会教育分野におけるPDCAサイクルの確立を念頭に置いた成果目標・成果指標等の研究・開発、国際的通用性の確保の観点も踏まえた国際的動向の把握、成人が日常生活や職場で必要とされる技能(「成人力」)を測定する国際成人力調査(PIAAC)による国際比較等を行うことが期待される。

○ さらに、調査分析機能の強化のための組織体制の整備や国立教育政策研究所との連携強化等を図ることが求められる。

(5)生涯学習・社会教育の活動を支えるための民間資金の有効活用

○ 生涯学習・社会教育関係団体が、それぞれの設立の趣旨・目的に沿って、自立した活動を持続的に展開していくためには、自らの活動について積極的に情報公開等を行い、地域社会との交流を深め、信頼を得る中で、地域住民や企業等から、寄附等の様々な資源の提供を受けられる存在となることが望まれる。

○ このため、生涯学習・社会教育関係団体の自己評価・情報公開等に係る取組の推進や平成23年度に導入された寄附金税額控除制度等の寄附税制の周知などの具体的な支援方策を検討することが期待される。

着実な実施とフォローアップ

  • 第2章の方策を計画的かつ着実に実施・推進していくためには、ロードマップの策定により、方策の実施・進捗状況を把握し、方策の効果の検証等、フォローアップしていくことが重要である。

以上

お問合せ先

生涯学習政策局生涯学習推進課

(生涯学習政策局生涯学習推進課)