【参考資料3】人口減少時代の新しい地域づくりに向けた社会教育の振興方策について(諮問)

29文科生第759号


中央教育審議会



次に掲げる事項について,別紙理由を添えて諮問します。


   人口減少時代の新しい地域づくりに向けた社会教育の振興方策について




平成30年3月2日


文部科学大臣

                  林芳正



(理由)
   我が国は少子化による人口減少の局面に入るとともに,高齢化が急速な勢いで進んでいます。人口移動の面では東京一極集中が継続しており,若者を中心に人口が大幅に減少する深刻な事態を迎えている地域も多く,このまま推移すると,少なからぬ地域が将来消滅しかねないとの指摘もなされているところです。
   こうした中,地域経済の縮小や商店街の衰退,医療・介護の需給逼迫,一人親世帯の増加等を背景とした貧困問題,地域の伝統行事等の担い手の減少,財政の悪化など,地域社会は様々な課題に直面しています。その中には,人と人とのつながりの希薄化や,それに伴う高齢者や若者の社会的孤立という課題もあります。今後の地域社会を持続可能なものとする上でも,人生100年時代における個人の充実した人生を実現する上でも,こうした課題の解決を図ることが急務です。

   地域の中には,自らの課題を認識し,厳しい現状の克服に向け,住民の学びをきっかけとした新たな地域産品の開発,住民のサロン活動を中心とした健康づくりや地域活動,観光拠点としての博物館の魅力向上,住民が主体となった極力行政に頼らない独自の集落づくりなど,創意工夫を生かした取組を行い,地域の活性化や人々の生きがいづくりにつなげている事例も少なくありません。しかしながら,こうした取組が全国に広がっているとは言い難い状況にあります。
   このような状況の中,「学びを通じた地域づくりに関する調査研究協力者会議」が平成29年3月にまとめた論点の整理においては,人々の暮らしと社会の発展に貢献する持続可能な社会教育システムの構築に向けて,「地域課題解決学習」を社会教育の概念に明確に位置付ける必要性が指摘されています。あわせて,同報告書においては,新しい「学びの場」づくりや社会環境の変化に対応した社会教育施設の運営・整備等についても提言されています。
   個々人の生活や人生は,人々が構成する社会の中で営まれるものであり,一人一人の人生を豊かなものにするとともに,住民相互の対話や相互扶助による持続可能な地域づくりや共生社会の形成を進めるために,社会教育がどのように貢献すべきかという視点から,今後更に検討を深めることが必要と考えます。
   その際,人工知能(AI)やIoTの進展等の急速な技術革新によって,「Society5.0」が到来し,国民生活や社会の在り方が大きく変化していくことが予想される中で,こうした変化に対応する力を一人一人が身に付けることや,新しい技術を使いこなし,地域における学習や活動に生かすことについても十分に留意することが重要と考えます。

   また,新しい地域づくりに向けた社会教育の振興を図るに当たっては,地域住民を支える最も身近な学習・活動拠点たるべき公民館,図書館,博物館等の社会教育施設について,その現状を改めて評価するとともに,今後求められる在り方や振興方策について具体的に検討することが必要と考えます。

   近年,公民館,図書館,博物館等には,従来の役割に加え,地域活性化・まちづくりの拠点,地域の防災拠点などとしてのより幅広い役割も期待されるようになっています。
   特に,博物館については観光資源としての観点から期待が高まっていることもあり,地方公共団体からは,博物館の運営について,まちづくり行政等の他の分野との一体的な取組を総合的に行いたいという要望も高まっています。
   また,特に過疎化や高齢化が進行する地域においては,社会教育施設の利用者に占める高齢者の割合が高くなるとともに,医療ニーズの増加等に対応した高齢者福祉施設の整備も求められることから,今後これらの施設の複合化が進むことなども予想されます。
   このように,公民館,図書館,博物館等において様々な地域課題により的確に対応した取組を行うためには,これらの施設を含む社会教育行政部局とまちづくり関係部局,福祉・健康関係部局,産業振興関係部局,教育機関,企業,NPO法人等の多様な主体との連携を強化することが欠かせない状況となっていることにも留意しつつ,これからの時代に求められる公民館,図書館,博物館等の役割と,それを実現するために必要な方策について,その施設としての所管の在り方も含め,検討する必要があります。

   以上のような問題意識の下,公民館,図書館,博物館等の役割や機能強化方策を含め,人口減少社会において,関係者の連携と住民の主体的な参画のもと,新しい地域づくりを進めるための学習・活動の在り方を中心に,今後の社会教育の振興方策について,次の事項を中心に御審議をお願いします。

 
   第一に,関係者の連携と住民の主体的な参画による新しい地域づくりに向けた学習・活動の在り方についてであります。

   人口減少の中,地域が直面する課題を解決し新しい地域づくりにつなげるために求められる学習・活動の在り方について,先進事例も参考としながら,御検討をお願いします。
   その際,地域の課題を地域住民が共有し,解決に向けて主体的に学び活動する取組を立ち上げ,持続させていくための行政・教育機関・企業・NPO法人等の役割や相互の連携方策,高校生や大学生などこれからの地域の担い手となる若者を地域の課題解決の取組に巻き込むための方策,社会教育主事や社会教育士の称号を付与された者等社会教育に知見のある者を「学びのオーガナイザー」として学校や他の行政部局を含めた幅広い分野で積極的に活用するための方策などについても御検討をお願いします。
   検討に当たっては,学習とその成果を生かした実践を持続可能なものとする方策等について,実証的な観点を重視していただくようお願いします。

   第二に,公民館,図書館,博物館等の社会教育施設に求められる役割についてであります。

   地域における最も身近な学習拠点であるべき,公民館,図書館,博物館等の社会教育施設の現状と課題を把握・分析した上で,先に述べた地域活性化やまちづくり等との関連も含め,新たな時代において求められる役割について御検討をお願いします。

   第三に,社会教育施設が求められる役割を果たすために必要な具体的方策についてであります。

   上記第二において御検討いただく役割を果たす観点から,社会教育施設が,地域の実情を踏まえつつ,地域活性化やまちづくり等の分野と効果的に連携を図るための運営の在り方や振興のための方策について,その所管の在り方も含め,御検討をお願いします。
   その際,特に博物館については,「平成29年の地方からの提案等に関する対応方針」(平成29年12月26日閣議決定)において,「公立博物館については,まちづくり行政,観光行政等の他の行政分野との一体的な取組をより一層推進するため,地方公共団体の判断で条例により地方公共団体の長が所管することを可能とすることについて検討し,平成30年中に結論を得る。」とされていることも踏まえ御検討くださるよう,お願いします。
   また,社会教育施設を活性化させる観点から,多様な手法による資金調達の活用促進等,民間の力を活用した施設運営の在り方についても御検討をお願いします。

   以上が中心的にご審議をお願いしたい事項でありますが,この他にも新しい地域づくりに向けた社会教育の振興方策に関連し,必要な事項について幅広く御検討いただきますようお願いいたします。

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