【資料1】日本図書館協会資料

「中央教育審議会生涯学習分科会公立社会教育施設の所管の在り方等に関するワーキンググループ(第4回)」

公立図書館の所管の在り方等に関する意見

2018年4月16日
公益社団法人日本図書館協会

一.公立図書館の位置づけ

1.図書館は教育機関である
   図書館は、「教育基本法」により「国及び地方公共団体が国民の文化的教養を高め得るような環境を醸成するための施設」として位置づけられている(教育基本法第12条参照)。また、上位法を受け「社会教育のための機関」(社会教育法第9条)であって、「社会教育法」の、特別法では「図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーシヨン等に資することを目的とする施設」(図書館法第2条)と規定される。
   日本国憲法の関係でみれば、学習権(教育を受ける権利)、学問の自由、生存権、表現の自由と知る権利等を保障する機関である。
   つまり図書館は、日本国憲法、教育基本法、地方教育行政の組織及び運営に関する法律、社会教育法、図書館法という法体系の中で位置づけられる“教育機関”である。
   また、ユネスコは、公共図書館宣言(1994)において「社会と個人の自由、繁栄および発展は人間にとっての基本的価値である。このことは、十分に情報を得ている市民が、その民主的権利を行使し、社会において積極的な役割を果たす能力によって、はじめて達成される。建設的に参加して民主主義を発展させることは、十分な教育が受けられ、知識、思想、文化および情報に自由かつ無制限に接し得ることにかかっている。地域において知識を得る窓口である公共図書館は、個人および社会集団の生涯学習、独自の意思決定および文化的発展のための基本的条件を提供する。」とし、図書館が教育機関として重要であることを宣言している。
   参考として述べれば、日本図書館協会の採択した「図書館の自由に関する宣言」は、上記に述べた表現の自由と知る自由を保障する図書館の行動規範を図書館自らが示したものであり、今日、図書館の現場はもとより、広く社会に受け入れられていると認識しているところである。
   最高裁判所判決(平成16(受)930)においても「公立図書館は、住民に対して思想、意見その他の種々の情報を含む図書館資料を提供してその教養を高めること等を目的とする公的な場」と述べている。

2.教育機関としての図書館に必要な要素
   教育機関として機能するためには、(1)政治的な価値判断に左右されることがない「政治的中立性」、(2)教育を担うものとしての「専門性」、(3)安定的で長期的な運営方針による「安定性・継続性」の確保が必要であり、そのため、現在は首長部局から独立した教育委員会が図書館を管理する枠組みが確立されている。


二.公立図書館の活動を実現させるための枠組み

1.図書館法にかかる条件整備
   図書館は上記に一.で見たような教育機関としての性質を実効あらしめるために、図書館法の中でその専門職の要件(図書館法第4条・5条・6条・7条)や設置運営上の全国的基準の必要性を法定(同法第7 条の2)している。その上で、運営評価にかかる努力義務(同法第7条の3)や地域住民に対する図書館運営にかかる情報提供を努力義務化(同法第7 条の4)している。これらの法規定は、図書館の教育機関としての重要性を示すとともに、図書館が長い間教育委員会の所管とされてきた所以をあらわしている。
   特に、設置運営上の全国的基準として「図書館の設置及び運営上望ましい基準」(図書館法第7条の2)が近年2度にわたって文部科学大臣から示されていることは、地方分権の今日の時代にあっても全国に標準が示されている点で、教育機関としての重要性をあらわしている。

2.図書館活動にかかる多様な振興計画
   人間が生まれてから(ブックスタート等から)老年に至るまで(認知症にやさしい図書館プロジェクトまで)の全人生サイクルにかかわる図書館の活動は、図書館法や「望ましい基準」に限らず、多様な国の教育振興計画のもとで、目標を定め予算措置を得ている。例えば、「教育振興基本計画」、「子どもの読書活動推進計画」、「学校図書館整備計画」等々であり、これらの多くは教育委員会の所管になる計画であり、このことも図書館活動が教育委員会の所管のもとに行われることを円滑にしている。


三.近年における図書館活動の特色

1.課題解決支援型図書館活動
   これまでわが国の図書館活動は、図書館を利用する個々人の読書活動の充実に重点を置いた企画が多く、そのため、図書館活動の評価も「利用者数・貸出点数・予約件数」等を基軸としたものが多かった。しかし、ユネスコ公共図書館宣言にあるように、図書館の意義は「十分に情報を得ている市民が、その民主的権利を行使し、社会において積極的な役割を果たす」ことによって、「社会と個人の自由と繁栄、並びに発展が達成される」ことにある。
   近年では、個人の読書・調査に重点を置いた運営はもちろん、市民の抱える様々な課題について解決するためのレファレンス・資料相談等を軸とした活動・取り組みに広がりが見られ、個人の読書活動を支援することで、市民一人ひとりの暮らしや課題に応えられるようになってきた。例えば地域課題に応えるビジネス支援等の課題解決支援型図書館活動はその例である。

2.自治体総合施策における地域振興施策を目的とした図書館事業アンケート
   日本図書館協会は、地域社会の課題解決に図書館がどのように取り組んでいるかについて「自治体総合施策における地域振興施策を目的とした図書館事業アンケート」を実施した(2016年8~9月、図書館設置の全自治体を対象に実施)。その結果、回答のあった1049自治体の47%(497自治体)で、図書館を活用した事業が実施されていることが判明した。大雑把に区分すると、町づくり事業39%、ひとづくり事業51%、しごとづくり事業10%であった。特筆すべきは、これらの事業が、教育委員会の所管の下にある図書館で行われていることである。

3.連携の現状と課題
   図書館法(第3条9号)と学校図書館法(第4条1項5号)に公立図書館と学校図書館は緊密に連絡し、協力することが規定されている。また、「第三次子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」には「図書館の役割と取組」として、「学校図書館との連携強化」が謳われている。
   この他、まちづくり行政、文化、スポーツ、福祉など多様な機関と連携した活動が円滑に行われている。「公立社会教育施設の所管の在り方等に関する意見について(全国都道府県教育長協議会平成30年3月22日)において、「その反面、公立図書館が首長の所管となると、公平・中立な資料収集が行われなくなるなど政治的中立性の確保が懸念されるとともに、政策課題に左右され安定的・継続的な運営が妨げられる恐れがあることや、学校図書館等と連携が図りにくくなる可能性がある」と指摘している。


四.図書館活動をより市民の身近な生活に役立つものに
   今、図書館に望まれることは、知識基盤社会における知識・情報の重要性を踏まえ、資料や情報の提供等の利用者及び住民に対する直接的なサービスの実施や読書活動の振興を担う機関として、また、地域の情報拠点として、利用者及び住民の要望や社会の要請に応え、地域の実情に即した運営に努めることである。そのために図書館は、教育機関としての基本的な資料提供サービスに立脚して、市民生活のあらゆる生活分野・人生サイクルにかかる関係機関との連携が必要と考えている。
   しかし、図書館がそのための役割を果たすためには、一.に述べた機能、「政治的中立性」「専門性」「安定性・継続性」が不可欠であり、しかもそれは絶えざる努力によってのみ実現される。

1.図書館協議会
   そのための枠組み作りとして最も重要なものが図書館協議会である。市民の目が絶えず届く仕組みのひとつとして図書館協議会は「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(平成24年12月19日文部科学省告示第172号)(以下「望ましい基準」)において「市町村教育委員会は、図書館協議会を設置し、地域の実情を踏まえ、利用者及び住民の要望を十分に反映した図書館の運営がなされるよう努めるものとする。」とされている。

2.専門性の確保
   専門性の確保の視点から2つ指摘しておきたい。一つには図書館運営の最高責任者たる図書館長に司書資格を持つ者を充てることの重要性である。
   行政職が図書館長になる、あるいは司書が行政職になるということは、公立図書館が市民の全人生サイクルの応援者になるために歓迎すべきことだが、特に「望ましい基準」においては「市町村教育委員会は、市町村立図書館の館長として、その職責にかんがみ、図書館サービスその他の図書館の運営及び行政に必要な知識・経験とともに、司書となる資格を有する者を任命することが望ましい。」としており、資格取得のための財政処置が望まれる。
   二つには図書館職員は正規職員かつ司書有資格者とすること(現在、公立図書館の正規職員は職員全数の4分の1に過ぎない。また、一般行政職員や情報技術専門職として採用された者であっても図書館に配置する場合には司書講習を受けさせるべきである。

3.安定性・継続性の確保
   安定性・継続性の確保の観点は、中立性や知る権利の保障について、首長や図書館管理者の動向によって左右されてはならず、図書館の管理運営について多元的管理体制を確立することが必要である。継続性の視点では、図書館は国民文化の継続を担保するための装置の一つであり、“今”の利用者に資料提供するだけでなく、“未来”の 利用者にも資料提供する義務がある。長期的・継続的な蔵書方針・収書方針を策定し、実践するための実効性を担保するため、教育機関であることが重要である。

4.結論
   近年、公立図書館における施設の複合化、指定管理者制度の導入の可否の検討、住民への図書館サービスの目的から乖離したイベントが見られ、公立図書館の所管を教育委員会から首長部局に移し、一体的な施設の設置や維持管理による効率化を企図した動きも見られる。公立図書館は、住民一人ひとりの資料要求に対する個別対応を基本とし、住民の公平な利用の観点からすべての住民に公平に基本的なサービスを保障することを目的とし、住民の生活・職業・生存と精神的自由に深くかかわる教育機関であることから、公立図書館は教育委員会の所管とし、基本的には図書館のありようは各自治体の自主性に委ねられるものである。


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