【資料2】日本博物館協会資料

公立社会教育施設の所管の在り方等について

平成30年3月5日
公益財団法人日本博物館協会
(専務理事半田昌之)

   地域文化財の保存と活用を推進し文化芸術立国としての発展を期す上で、各地域の公立博物館は、文化財の保存活用の拠点として、さらに、地域の創生に資する観光・経済政策との連動においても重要な役割が期待されている。また、文化財保護法の見直しが進み、改訂された文化芸術基本法に基づき手交された「文化芸術基本計画(第1期)」においても、博物館や専門的人材としての学芸員が果たすべき役割の重要性が述べられている。
   こうした状況の下で、公立博物館の所管の在り方に対し、教育委員会に限定せず首長部局が所管できる可能性が検討されることは、より現実に添った柔軟な運営を望む現場の期待も踏まえ有意義なことと考える。
   一方、公立博物館の所管の在り方については、社会教育施設としての安定的運営を確保する観点等から懸念を持つ博物館も多い状況とともに、各博物館が今後に期待される役割を果たしていくためには、単に所管の在り方の検討だけでは解決できない法律的・制度的課題が運営実態のなかに数多く存在している現状に目を向け、解決に向けた取組を行っていくことが求められる。
   ついては、今回の公立博物館の所管の在り方についての検討に際しては、以下に述べる課題に対し、より具体的な施策についての検討を並行して進めるとともに、速やかに実施に移していくことが必要不可欠である。
   ・文化審議会「文化財の確実な継承に向けたこれからの時代にふさわしい保存と活用の在り方について」(第一次答申)
   (平成29年12月)
   文化審議会「文化芸術推進基本計画(第1期)」について(答申)(平成30年2月)

1.公立博物館の所管に関する現場の懸念と課題
   今回の検討テーマに対する公立博物館の運営現場からの期待と懸念は概ね下記のような項目に整理できると思われる。

   期待
   ・地域振興に係る総合的施策と柔軟に連携できる
   ・観光、まちづくり等に対し役割を発揮しやすい環境整備につながる
   ・柔軟な事業予算の獲得が期待できる

   懸念
   ・社会教育施設としての基本的機能が損なわれることはないか
   ・事業の中立性・公益性、中長期的事業の継続性は担保されるか
   ・収益性・効率性が期待できる事業が優先されることにならないか

   以上の期待と懸念を踏まえ、公立博物館の所管の在り方に柔軟性を付与するためには、役割が多様化するなかで、社会教育施設としての基本機能を維持充実させ、持続的運営を担保するために、第三者からなる公立博物館の運営に関する協議会的会議体を常置し、その運営に対する評価・指導・助言を行える体制を整備することが必要と考える。
   ちなみに、文化審議会の第一次答申の、「4.地方文化財行政の推進力強化」の「2.地方文化財保護行政の所管」において、首長部局への移管に言及している。ここでは、文化財保護に関する事務の管理・執行について担保すべき観点(文化財保護に関する事務に係る専門的・技術的判断の確保等の四つの要請=「専門的・技術的判断の確保」「政治的中立性、継続性、安定性の確保」「開発行為との均衡」「学校教育や社会教育との連携」)を十分に勘案することが求められることから、今後も教育委員会の所管とすることを基本とすべきとしつつ、この要請に対応可能な場合は、条例により首長部局が所管できる仕組みとすべきとされている。この方向性は、今回の公立博物館の所管に対する対応にも、大いに参考となるものと思われる。
   公立博物館は、地域の社会教育施設として位置づけられ、その根拠は教育基本法を母法とする社会教育法に準拠した博物館法に拠っており、博物館法では「公立博物館は、当該博物館を設置する地方公共団体の教育委員会の所管に属する」(第19条)と規定され、地方教育行政の組織及び運営に関する法律においては「社会教育に関すること」は教育委員会の職務権限である(第23条)とされており、公立博物館の所管の見直しを抜本的に行うためには、博物館法等の見直しが不可欠である。
   昭和26年に制定された博物館法において、公立博物館については、登録博物館としての申請資格・所管が、地方公共団体の教育委員会に制限されている。指定管理者制度の導入を含め、昨今の公立博物館の運営実態が示すように、首長部局所管の博物館が増加するなかで、登録博物館においても、地方自治法に基づく委任または補助執行により首長部局が所管する施設が多く、明らかに法制度が実態と乖離していると言わざるを得ない。

2.今後の博物館制度の見直しに向けて
   公立博物館の所管に関する議論とともに、今後の博物館の振興を図っていくためには、博物館法における博物館の登録制度の在り方についての検討も不可欠である。さらに今後、公立博物館の運営等について多様化が進むなかで、公立博物館が、その求められる役割を果たすためには、博物館法をはじめとする関連法の見直しは必要不可欠であり、文化財保護法の改正に続く喫緊の課題として取組む必要がある。

   以上のように、公立博物館の所管の在り方に関する法律・制度両面からの検討は、公立博物館のみならず、日本全体の博物館の持続的発展にとっても大きな課題であり、2019年9月にICOM(国際博物館会議)京都大会が開催されることからも、文化芸術立国として世界に恥じない博物館行政の体制づくりが急務である。
   その際、以下の提言や国際的な動向を参照しつつ、現場の状況を十分に把握した上で、個々の博物館の組織運営・事業全般について、定量・定性両面から適正に評価できる基準と体制を整備し、博物館の振興に資する制度となるよう考慮することが求められる。
   ・日本博物館協会「博物館登録制度の在り方に関する調査研究」報告書(平成29年3月)
   ・日本学術会議「21世紀の博物館・美術館のあるべき姿― 博物館法の改正へ向けて」(提言)
   (平成29年7月)
   ・ユネスコ「ミュージアムとコレクションの保存活用、その多様性と社会における役割に関する勧告」(平成27年11月)

以上

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