生涯学習分科会企画部会(第4回) 議事録

1.日時

平成28年11月7日(月曜日)16時00分~18時00分

2.場所

文部科学省東館3階3F2特別会議室

3.議題

  1. 有識者からの意見発表
  2. その他

4.議事録

【明石部会長】
 定刻となりましたので,ただいまから第4回中央教育審議会生涯学習分科会企画部会を開催いたします。
 大変お忙しい中お集まりいただきまして,誠にありがとうございます。
 本日は,高齢化社会における生涯学習について,有識者の方々に意見発表いただき,意見交換を行いたいと思います。
 本日発表いただく有識者の方々を御紹介いたします。
 東京大学高齢社会総合研究機構の秋山弘子特任教授でございます。よろしくお願いします。
 次に,東京都健康長寿医療センターの藤原佳典研究部長でございます。本日は,よろしくお願いいたします。
 次に,事務局より,本日の配付資料の確認をお願いいたします。

【大類生涯学習推進課課長補佐】
 お手元の資料を確認させていただきます。
 議事次第の4,資料の所にございますように資料1から資料5を配付しております。なお,資料5につきましては,これまでの企画部会における主な御意見をまとめたものとなっております。御審議の参考とされてください。
 以上です。

【明石部会長】
 よろしいでしょうか。
 それでは,本日の進め方でございますが,まず有識者からの御意見発表の前に,事務局より関連するデータ,施策についての御説明を受けたいと思います。その後,秋山教授から30分程度で意見発表いただき,一度,質疑と意見交換を行いたいと思います。続いて,東京都健康長寿医療センターの藤原部長から25分程度,さらに,清原委員から三鷹市の取組について15分程度で発表いただきたいと思います。その後,時間の許す限り,お二人の発表に対する質疑,意見をまとめて行うという形で進めたいと思います。
 それでは,まず事務局から,高齢者関連データ,施策についての御説明をお願いいたします。
 西井課長,お願いします。

【西井社会教育課長】
 それでは,お手元の資料1に基づきまして,高齢化の状況等につきまして,統計データを中心に御説明を申し上げます。
 1枚おめくりいただきますと,高齢化の推移と将来推計でございまして,これはマスコミ等でもよく取り上げられているテーマです。総人口については,2015年に1億2,711万人ということで,今後,減少に向かっていく一方で,高齢化率,これはグラフの中で赤い線グラフで示しているものですが,2015年におきましては26.7%で,これはもう将来にわたって一貫して上昇すると予測されています。特に,団塊の世代の方が65歳以上となる2015年には,すなわちブルーと赤で示している65歳以上の方ですけれども,3,392万人となり,ほぼ一貫して増加を続けていき,将来的には2042年に一旦ピークを迎えます。一方で総人口は減少してまいりますので,高齢化率については一貫して上昇していくという状況です。
 1ページおめくりいただき,こうした状況は国際的な比較におきましても我が国は突出しており,現状におきましては26.7%ということで,世界で最も高い高齢化率です。これは欧米と比較いたしましても,アジアと比較しても最も高い数値でして,今後もその状況は続いていきます。一方,韓国においては,高齢化の進度は我が国を上回るスピードで進んでいるということです。
 1枚おめくりいただき,そのような中で高齢者の就労を希望されている方はどのような方かということです。内閣府の高齢者の日常生活に関する意識調査により,60歳以上の高齢者の方に何歳頃まで収入を伴う仕事をされたいかと伺いましたところ,働けるうちはいつまでもとお答えになった方が28.9%ということで,グラフの上段から65歳ぐらいまで,70歳ぐらいまで,75歳ぐらいまで,80歳ぐらいまでと,年齢ごとに何歳までということを足し合わせますと,全体で71.9%の方が就労を希望されているということです。
 それに対し,1枚おめくりいただきますと,生涯学習という観点で,高齢者が日常的に行っておられる生涯学習について,この1年くらいの間に取り組んだことがあるか伺いましたところ,60歳代でも,70歳以上でも4割以上,5割近い方がされている。逆に申し上げますと,5割をちょっと上回る方は生涯学習をしたことがないとお答えになっておられるということでした。
 内容については,趣味的なものが最も多く,次いで健康・スポーツということです。もう一つは,ボランティア活動のために必要な知識,技能を身に付けることを目的として,生涯学習を行っている方がおられました。
 1枚おめくりいただきますと,そのような生涯学習を進めるに当たりまして参加したい団体についての希望と実際に参加している団体を比べて伺いましたところ,趣味のサークル・団体について高齢者が参加したいとされている割合が31.5%と最も高く,次いで健康・スポーツのサークル・団体となっております。実際に参加している団体で見ますと,町内会・自治会が最も多く,約4人に1人が参加しているということでございまして,上位であります趣味のサークル・団体,健康・スポーツのサークル・団体については,希望と実情に開きが生じているということが見られました。
 1枚おめくりいただきますと,このような活動を通じまして,高齢者のグループ活動の参加によります効果について聞いてみましたところ,これも内閣府の調査ですが,自主的なグループ活動に参加したことがある高齢者の方々が活動全体を通じてよかったことといたしまして,新しい友人を得ることができたとお答えになった方が一番多く,次いで生活に充実感ができた,健康や体力に自信が付いたという順になっています。
 1枚おめくりいただきまして,このような視点から,地域におきましては様々な高齢者の方々の社会参画に関するプロジェクトが行われていまして,その一例としまして,愛媛県新居浜市で行われております事業です。これは,以前,私ども社会教育課で,公民館等を中心とした社会教育活性化プログラムというものを実施していたときに,一つのモデル事業としていたものです。新居浜市の泉川公民館におきまして,この地域のまち作りの一つとして,高齢化の社会参加でありますとか,居場所作りに関する事業に取り組んだ例です。
 1枚おめくりいただきますと,この事業のテーマの中におきましても,健康寿命の増進といったことが,いわば介護保険料や,医療費の軽減につながるということで取り組んでおります。この平均寿命,健康寿命につきまして,9ページ目の資料を御覧いただきますと,これは男性と女性を左右で分けてすけれども,このグラフの中,赤で示しておりますのが平均寿命で,緑で示しておりますのが健康寿命ということです。いずれも上昇傾向にはなっておりますが,男女のいずれの方につきましても,平均寿命の伸び率に対しまして健康寿命の伸び率は低く,健康寿命をどう延ばしていくのかということが,我が国におきまして重要な課題になっているということが見て取れます。
 1枚おめくりいただきますと,このことは正に国家財政にも非常に大きな影響を与えてございます。社会保険給付費の推移といたしまして,2013年度は110兆6,555億円となり過去最高の水準となっているということです。赤の折れ線グラフで示しておりますのは,国民所得に占める割合でして,直近では0.41%の減となっており,36.56%に及んでいるということです。特に,高齢者に関係する給付について,赤の棒グラブでお示ししている部分ですが,ずっと上昇,伸びを示しているところでして,平成25年度においては,社会保障給付費に占める割合といたしまして70%近くになっているということです。
 そのような観点で,先ほどの説明とも重複しますが,1枚おめくりいただきますと,公民館において健康作りの取組を各地域で進めていただいています。兵庫県加西市,鹿児島県龍郷町におきまして,健康体操といったことを内容とした,地域ぐるみの取組が進められているという一つの事例です。
 こうした事例は,具体的にどのような形でエビデンスとして成果を上げているかということも,地域によって分析しているところがあります。1枚おめくりいただきまして,体力年齢の若返りと医療費の抑制効果ということで,新潟県見附市の事例を示しています。この件については,平成14年から一貫して継続実施していて,かつ筑波大学との産学官連携や,そういった中で具体的な成果を示しており,年間1人当たりの医療費で見ますと,運動教室に参加される前と参加された後におきましては,10万円以上の医療費の抑制効果が得られているといったことが報告されています。
 1枚おめくりいただきますと,一般的な健康対策に加えまして,認知症患者の方々の状況というものも非常に重要な課題になっています。65歳以上の高齢者の認知症患者数と有病者の将来推計について見ますと,緑色の折れ線グラフが上昇すると見込んだ場合,赤の場合は有病率が一定の場合の推定です。いずれにしても,平成12年には認知症患者数は462万人,65歳以上の高齢者の方の7人に1人,有病率で見ますと15%です。ところが,2025年になりますと,いずれの想定でも,5人に1人くらいになると見込まれているというところです。
 1枚おめくりいただき,こういった観点から,やはり公民館におきまして認知症予防の取組も進められているところです。こちらは,福井県鯖江市と千葉県茂原市における取組について,ごく一例ですが,御紹介させていただいているところでございます。
 1枚おめくりいただき,この資料はごく一般的なものです。これは,都道府県,市町村の教育委員会において学級・講座を開設している状況を,先日公表いたしました社会教育調査中間報告に基づきまして作成しています。この中で,緑色でお示ししているのが,高齢者のみを対象としております学級・講座数です。分類をしますと,趣味・稽古事が2,137講座と一番多く,それに次いで,家庭教育・家庭生活関連,体育・レクリエーション関連が続いています。
 最後に,私ども社会教育課において,高齢者による地域活性化促進事業と称し,予算の金額としては315万円ということで,委託事業を実施し,「長寿社会における生涯学習政策フォーラム」というものを各地で開催させていただきました。内容としては,高齢者の主体的な地域参画による先導的な取組事例の御紹介や,高齢者の学習環境,ネットワーク作りの方向について研究,協議をするといった形で,高齢者の生涯学習ないしは社会参画の環境作りに取り組んでいるところです。
 簡単でございますが,私からは以上です。

【明石部会長】
 課長,ありがとうございました。
 次に,秋山教授の意見発表ですけれども,秋山教授はジェロントロジー(老年学)が御専門でございます。アメリカの国立老化研究機構フェロー,並びにミシガン大学教授などを経て,現在,東京大学高齢社会総合研究機構の特任教授でいらっしゃいます。
 また,平成24年3月まで文部科学省に置かれていた有識者会議,超高齢社会における生涯学習の在り方に関する検討会の座長もお務めになり,報告書「長寿社会における生涯学習の在り方について」の取りまとめに御尽力いただいております。
 それでは,秋山教授,よろしくお願いします。

【秋山特任教授】
 御紹介いただきました秋山弘子でございます。
 私は生涯学習の専門家ではなく,長寿社会の新しい生き方,そして新しい社会の在り方を追求しております。高齢社会総合研究機構には,全学部から八十数名の教員が出ておりまして,協力して高齢社会の課題を解決し,新しい生き方,新しい社会の在り方を提案することを目指しており,その一つとして生涯学習があるという位置付けです。
 先ほど御紹介いただきましたように,平成24年に「超高齢社会における生涯学習の在り方に関する検討会」において,清原委員など二十数名の非常に多様な分野の委員に御参加いただき,この報告書「長寿社会における生涯学習の在り方について ~人生100年 幾つになっても 学ぶ幸せ 「幸齢社会」~」をまとめました。きょう,お話しすることはこれを読んでいただくと大体お分かりいただけると思いますが,少し新しいデータも入れまして,手短に御紹介をさせていただきたいと思います。
 2030年はもう14年先になりましたが,それを展望して,日本の社会がどのように変わるのか,日本人がどう変わるのかということを,生涯学習と関連ある部分で少しレビューをさせていただきたいと思います。
 これは,人口ピラミッドを半分に切ったもので,人口を4つの年齢層に分けた図です。真ん中の2030年を見ていただきますと,65歳以上の高齢人口が3分の1になります。急速に高齢化が進みます。
 長寿社会の課題として,私が常々申しておりますのは,個人の課題と社会の課題があるということです。個人の課題は,日本には非常に長い間,人生50年,60年と言われる時代が続きました。織田信長も,仕舞(しまい)で人生50年とうたっております。第二次世界大戦が終わった当時,日本の平均寿命はまだ60歳に達していなかったわけですから,まだ人生50年時代だったわけです。それから急速に平均寿命が延び,1950年から2000年の20世紀後半に30年も平均寿命が延びて,今や人生90年,あるいは,これは検討会で樋口恵子委員がおっしゃったことですが,100年にしようということで,少なくとも100年くらい生きる心構えで生きていかなくてはいけないという時代に入ってきている。したがって,人生が倍くらいの長さになったということがまず一つございます。
 もう一つは,人生50年時代には生き方が決まっていました。みんな同じように生きたわけです。教育を受けたら,みんな仕事に就いて,その頃,結婚して,子供を何人か産んで,一番下の子供が社会に出る頃には定年がすぐ間近に来て,定年退職する。人生50年時代は,その後そんな時間がなくて,盆栽の手入れなどをしてお迎えを待つというのが,一般の人の人生だったわけです。
 そういうときに,そのレールから外れると社会から非常にプレッシャーがかかった。例えば,私が若いとき,女性が25歳までに結婚していないと売れ残りとか,いろいろ言いました。結婚して,二,三年して子供がいないと,どうした,どうしたと言われる。それから,今の学生は,3年ぐらい大企業や官庁に勤めて,ぱっと辞めて,自分の力を試すといって起業したり,外資企業に転職しますが,私たちが若い頃は,1回就職したら定年まで勤め上げるのが普通な人の人生であって,そういう人生コースから外れると,何か本人に欠陥があるとみなされた時代だった。
 ところが,必ずしもいいことばかりではないのですが,御存じのように現在はもう少し人生の生き方について自由度が出てきております。結婚をいつするか,しないか,子供をいつ産むか,産まないか。あるいは,仕事も,3年で転職して次の仕事をするということは,全て最終的には本人の選択の問題だと考えられるようになってきている。この傾向は,これから逆戻りすることはないと思います。
 したがって,長寿時代の個人は,倍近く長くなった人生を自分で設計して,かじ取りをしながら生きていく時代に入ってきております。人生90年もあれば,非常に多様な人生設計ができます。自分の能力をフルに生かして,自分の夢を実現していくということが可能になってきている。私が学生に,あなたたちはうらやましい,私が若いときにはそういう自由はなかったと言うと,うーん,なるほどという顔をしますが,決してうれしそうな顔をしない。というのは,どう人生設計して,かじ取りして生きていったらいいか分からないからです。自分の前に,モデルがないので不安なのです。
 90年あれば,多様な人生設計が可能ですし,キャリアも一つではなくて,十分二つできます。どこで次のキャリアに切り替えるかは本人の人生設計次第です。50歳まで働いて次のキャリア,あるいは65歳まで働いて次の仕事に切り替えるという,人生二毛作,あるいは三毛作でもいいですが,多毛作人生が十分可能です。人生設計を1回したら終わりではなくて,かじ取りをしながら,うまくいかなかったら軌道修正をしながら生きていける,そういう時代になりました。それが長寿社会の個人の課題だと思います。
 もう一つは社会の課題です。現在の社会は,人口がピラミッド型をしていた,若い人たちがたくさんいて,高齢者は5%しかいなかった,20人に1人が高齢者という時代にできた社会のインフラです。それは,住宅や公共の交通機関のようなハードのインフラもありますし,医療や介護制度,雇用制度,教育制度のようなソフトのインフラもあります。
 ただ,個人が自分で人生設計して,かじ取りをしながら生きていく,人生二毛作でいこうといったときに,現在の社会インフラは必ずしも都合よくできていない。例えば,日本の雇用制度は,新卒を採って定年まで勤める終身雇用,そして年功序列が基本になっておりますので,二毛作人生には余り都合がよくない。また,今の日本の教育制度は,極端に若い人の教育に注力していると思います。若い人の教育は非常に重要ですが,人生90年をかじ取りしながら生きていくためには常に学ぶ場が必要です。そういう意味では,教育制度もやはり見直す必要があります。したがって,ハードとソフトのインフラを見直して,長寿社会対応の社会を作っていくことが社会の課題であると思います。
 私たちには,少し誤解があると思います。私が学部の学生の頃,人の発達はこのよう変化すると習った。私たちはいろいろな能力を持っています。歩いたり,計算したりできますが,生まれたときには歩けないし,計算もできなかった。そういう能力が生まれてから急速に発達して,大体20代でピークに達して,そして40歳くらいからずっと落ちていく。これが人間の発達曲線だと教わりました。
 ところが,最近は,もう少し詳しく能力の発達を研究してみると,決してそうではないということが明らかになっています。これは,いろいろな能力の中の一つで認知能力ですが,認知能力一つとっても,いろいろな能力によって発達曲線は異なり,こういう右上がりの発達曲線をたどる能力もございます。
 これは,短期記憶能力です。電話番号や,無意味なつづりを見せて,それを5分後に再生してくださいと頼むと,確かに若い人は覚えていますが,私くらいの年齢になると,書いていないと覚えられない。そういう能力は,先ほどのような発達曲線をたどり,高齢になると,だんだん落ちていく。
 ところが,認知能力の中で大切な言語能力,言葉をどれだけ知っているかという語彙能力は高齢になっても発達し続ける。
 もっと大切な能力として,日常問題解決能力があります。私たちは,日々,大きな問題,小さな問題を解決しながら生きているわけですが,そのためにはいろいろな能力が要る。例えば情報処理能力,また,私ぐらいの年齢になると,いろいろな過去の経験の引き出しが頭の中にあります。こういう課題にぶつかると,あの引き出しから,この引き出しから過去の経験を引き出して使おうと,そんな引き出しがたくさんある。それと,日常問題には人間関係,相手の人がいますが,そういう対人スキルも,私が20歳のときに比べると今の方がずっと豊かになっていると思います。日々の問題は,こういう能力を総合して解決していきます。そういう能力は,高齢になってもかなり発達し続けるということが分かっています。
 何を申し上げたいかといいますと,人間の能力の変化は多次元で多方向だということです。多次元というのは,能力にもいろいろあります,発達曲線も異なります。多方向というのは,一つの年齢をとったとき,例えば50歳,あるいは70歳になったときに,落ちている,もう低下している能力もあれば,まだ発達している能力もあるし,一定のレベルを保っている能力もある。ですから,どの年齢になっても,40歳でも,60歳でも,80歳でも,自分が持っている能力を最大限に活用して生きていくということが非常に必要だと思います。落ちている能力は,なるべく補っていくことを考えるということです。
 能力が落ちるのは高齢者の専売特許ではなくて,私たちは生まれたときには世界の全ての言語の音声を弁別する能力を持っています。日本語も,フランス語も,スワヒリ語も,同じように音声を弁別する能力を持って生まれますが,日本語の環境に育つと,2歳にもならないうちにRとLの音声の弁別能力は失ってしまいます。このように,能力によっては非常に早くから,生まれてすぐ持ち始める能力もあり,能力の発達は非常に多様です。
 もう一つは,藤原部長がおいでになる東京都健康長寿医療センターで,1992年と2002年に高齢者の生活機能の調査をされて,通常の歩行スピードを測定されました。通常の歩行スピードは,人の老化の簡便な指標であると国際的にも言われております。それを92年と2002年に同年代の人で比較した場合,このグラフが示しているのは11歳ぐらい若返っているということです。どういうことかというと,2002年に75歳だった方は,1992年に64歳の人が歩いているのと同じぐらいのスピードで歩いていたということです。
 つまり,私たちは長生きするだけではなくて,元気で長生きをしているということです。握力のようなほかの身体機能もそうですし,最近,ドイツで認知機能が低下する年齢が遅くなっているという報告もございます。このように,私たちは元気で長生きをするようになっています。
 こういうデータを見てもそうですが,日々,私たちの観察でもそうですよね。私が若い頃は,60代の方は身も心もそれなりに枯れていた。60代の方を見ると,多少腰が曲がって,お年寄りという感じがしました。しかし,今の60代の方は正に中年です。さっ爽と,おしゃれして,まだ人生二,三十年ありますから,前を見て,先を見て,非常に活動的に生活していらっしゃる。非常に違ってきています。
 これは,65歳から後の人生を考えたとき自立期間が長いというデータです。きょうもメディアの方がおいでになっているかと思います。私はある程度メディアの責任があると思っていますが,高齢者が増えると要介護や認知症の人が町中にあふれるというイメージを与えて,みんな頭を抱えるわけです。ところが,こうしてデータを見ますと,65歳から後の人生の9割近い期間は,自分で生活できる自立期間です。血圧が少し高いとか,冬なら膝が痛くなるとか,そういうことはありながらも,普通に生活している期間が非常に長くて,要介護期間は比較的短いということです。ですから,高齢者人口が急増すると,もちろん要介護や認知症の人も増えますが,一番増えるのは元気な高齢者ということです。それを認識しておく必要があると思います。
 このようにリタイアされた後にサッカースクールのリーダーをされている方とか,これは私どもの研究機構の開設記念シンポジウムのハーフタイムのときに,ジャパンポンポンに来ていただいて,安田講堂の舞台でパフォーマンスをしていただきました。これはチアリーダーです。入会するためには60歳以上でなくてはいけない。御覧のように,皆さんすばらしく足もきれいで,宝塚顔負けのラインダンスをされて,チアリーダーだからピラミッドみたいに4段階ぐらいになって,上で何か振ったりされる。
 30年前には余り考えられなかったことです。このジャパンポンポンはとても人気があって,日本中に支部があります。こういうことを日々研さんされているシニアの方が増えているということです。それが今の時代です。
 人生50年時代が続いた,私は人生90年と言っていますが,先ほどの検討会の報告書では100年と言いましたので,人生100年時代と言ってもいいと思います。人生50年時代は,定年後は余生だったわけです。盆栽の手入れをするとか,お孫さんの世話をしてお迎えを待つ,それが普通でした。今や,定年後はセカンドライフの始まりだという認識が,団塊の世代辺りから広まってきていると思います。
 一昨年,私たちは,次世代の高齢者,全国の50代,60代の方5,000人を対象に調査をしました。あなたがリタイアした後,65歳になった後にどういう生活をしたいかなど,いろいろ根掘り葉掘り聞きました。そうしますと,先ほどの御報告にもありましたが,次世代の高齢者が一番やりたいと思っていることは働くということです。
 2番目は,自分を磨くということです。これは,正に学ぶということです。いろいろな学び方がございまして,次の仕事のために資格を取るという学び方もあるし,現役時代に本当は勉強したかった考古学とか,源氏物語などをもう一回じっくり,例えば大学の聴講生とか学生になって勉強したいという方もいらっしゃるし,ギターをマスターしたいとか,いろいろな学び,関心は種々ありますが,自分を磨く,学ぶということが2番目にやりたい。定年後は盆栽の手入れなんてことは考えていません。
 これはまた人口統計ですが,ここで指摘したいのは黄色の部分です。就労年齢人口が急速に減少しております。そして,上の高齢者部分が非常に厚くなっているというのが今の状況です。
 これは,財務省のホームページから取ったものです。65歳で赤い線を引くと,下が社会を支える現役世代,そして上がリタイアした方です。その比率を見ますと,1965年には現役9.1人で1人のリタイアした人を支えたのが,今は2.4人で,2050年には1.2人になるということで,初めは胴上げだったのが,今は騎馬戦で,そして肩車になると予想されています。
 これは日本だけの問題ではなくて,先進国共通の問題です。欧米の国々は,外国から若い労働者を入れて分母を増やしている。そういう形で解決しています。日本も,それは一つのオプションであって,恐らく日本の労働市場も開くことになると思いますが,その前に私たちはやることがあります。一つは,御存じのように日本は女性の就労率が非常に低い。OECDの中で24位です。したがって,子供を育てながら仕事ができるような環境作りということが一つ非常に重要な課題であります。
 もう一つは,スライド15の図で上に乗っかっている高齢者が元気で年を取っている。65歳で線を引くという科学的な根拠はない。今の65歳と20年前の65歳とは全然違うわけですから,ここのところで線を引いて,上の人は働かないでいいなんていうことはない。幸いなことに,日本の高齢者は,自分は支えられる側よりもむしろ支える側に回りたいと願っている人が非常に多い。したがって,この上に乗っかっている人をいかにして下で社会を支える側にして,みんなで社会を支えるという状況を作っていくか,ということが課題になろうかと思います。
 また,人間関係ですが,家族以外の親しい人との対面接触を全国調査で聞きました。先ほどと同じように1987年と99年のデータを同年代で比較すると,スライド16の図の右側の女性の方は,後に生まれた人,黄色のバーの方が,人付き合いが増えていますが,男性はどの年代をとっても減っている。2013年に同様の調査をしておりまして,まだ論文が出ていないのでここに書けないのですが,男性はもっと減っています。したがって,孤独死,無縁社会ということが報道されておりますけれども,こういう全国データを見ましても人間関係が希薄になっているということです。これは非常に大きな問題であると思います。
 そこで,私どもの研究機構では,長寿社会のまち作り,コミュニティで社会実験に取り組んでおります。今の日本のコミュニティは,人口がピラミッド型をしたときにできたコミュニティですので,長寿社会のニーズに合うような,90年の人生を子供も,働き盛りの人たちも,お年寄りも,元気で生き生きと,そして安心して生活できるまちに作りなおすことを目指しています。まちをさら地にして,まち作りすることはできないので,既存の町に介入して,住宅であったり,医療制度であったり,移動手段に別々のプロジェクトを組んで介入して変えていく。
 その一つ,「高齢者を地域の支え手に」というセカンドライフの就労プロジェクトを私が担当しております。これは,首都圏のまちと地方のまちということで,千葉県柏市と福井県福井市をフィールドにして行っております。きょうは,柏市のセカンドライフの就労プロジェクトを簡単に御紹介します。
 柏市は典型的なベッドタウンで,多くの方が東京に朝早く出て,夜遅く帰ってくる生活を何十年もされた後,定年退職で帰られています。皆さん60代でお元気。知識やいろいろなスキル,仕事のネットワークをお持ちです。しかし,明るいときに柏にいたことがない人たちです。皆さん,することがない,行くところがない,話す人がいないとおっしゃる。そのうち何かしようと思いながらも,多くの方は,うちでテレビを見て,時々,犬の散歩に行くとか,ジムに行くというような生活をしていらっしゃる。
 それでは,脳も筋肉もすぐ弱り始めますので,どうにかしてうちから外に出て,地域で何か活動してほしいと思ってヒアリングをしますと,働く場所があったら出やすいとおっしゃる。ボランティアだと,いや,私はそんな高まいな人間ではありませんとか,自分にできることがないとかおっしゃる。だけど,働く場があれば,仕事があれば出やすいとおっしゃるので,地域で歩いていける,あるいは自転車で行けるぐらいのところに,なるべくたくさん仕事場を作っています。
 これは,まちにどういう資源があるかによります。柏市の場合,利根川流域の肥沃な農村だったところなので,現在も農地があり,休耕地もあるということで農業がひとつの核になっています。休耕地を開墾した露地栽培,野菜工場を手掛けています。屋上農園のポット栽培で車椅子でも農業ができる,80歳になっても,やりたければ農業ができる環境をつくりたいと思っています。
 それから,食です。コミュニティ食堂を建設中です。若い方も高齢者も独り暮らしの方が多いので,3食をそこで食べて,コミュニティのダイニングルームになるように,みんながそこで情報を交換したり,交わるようなコミュニティ食堂(ワイワイ食堂)を作っています。
 近年は御夫婦で東京で働いている方が多いので,学童保育や保育事業のニーズが増えています。また,生活支援のニーズに応えるサービスも重要な就労の場となります。
 事業者は,採算を取って事業を回していける人です。これは雇用なので,最低賃金を必ず払うという条件でやっております。こういう形で,地域,あるいは全国レベルの事業者が仕事を提供しています。
 このような形で,高齢者,私たちが就労シニアと呼んでいる人たちと,仕事があって,それを中間支援組織がマッチングします。このプロジェクトの目的は,一つはなるべくたくさん仕事場を作るということと,もう一つはセカンドライフの新しい働き方を作る。セカンドライフは,マラソンの後半戦と同じで非常にばらつきが大きいです。身体機能も,70歳でマラソンしている人もいれば,自分のうちの新聞受けまでようやく歩いていける人もいるし,経済力も違います。自由になる時間も,24時間全部,自分の時間という人もいれば,介護があったり,お孫さんの世話があったり,時間の制約のある方がある。価値観や,ライフスタイルも違うということで,自分で時間を決めて働くという柔軟な働き方を採用しています。
 そのために,ワークシェアリングを導入しています。例えば,二人分のフルタイムの仕事を,5人でチームを編成し,スケジュールを組んでやっております。セカンドライフにふさわしい柔軟な,新しい働き方の開発を目指しています。
 就労セミナーという2日間のプログラムを実施しています。多くの方は東京で事務職をされていて,地域で働くには,少し心構えを変えてもらわなくてはいけません。今まで8回やりまして,約800人が修了され,就労シニアのプールとなっており,仕事とマッチングしています。
 これが元気で働いていらっしゃる就労シニアです。スライド24の右下はネクスファという非常に人気のある学童保育の塾です。ここでは,リタイアされた方が自分の専門を生かして,ワンランク上の子供を育てています。これはロボットの開発をされた方がロボットクラブを作って,ブロック玩具でロボットを作って最新の科学技術に関心のある子供を作る。
 左の方は,外国の商社でロンドンやニューヨークに駐在された方が,受験英語ではなくて,英語で生活する,あるいは英語でビジネスすることを教えて国際性のある子供を作るとかいう形で,教育に携わっていらっしゃいます。若い人たちを育てる,自分たちの知識を伝授する仕事です。
 こういう形で,シニアの就労はいろいろ良いことがあります。個人にとっては,健康,生きがい,つながり,居場所,収入。そして,社会にとっては,高齢者が生産者になり,消費者になり,納税者になり,長期的には医療や福祉の財政にプラスになるということです。そして,地域にいますから地域力,孤立防止というような,社会の支え合いのバランスを取るということです。
 ワークシェアリングをやりますので,初めは電話でやっていましたが,とてもではないけれども,もたない。それで,ソフトを開発して,タブレットでスケジューリングをやる。これは就労シニアの方に研修をしているところです。
 スライド27がコミュニティ食堂の設計図です。
 個人と地域社会への就労の効果を,筋肉量を量ったり,認知能力を測ったり,人のつながりがどのぐらい広がったかというようなことを就労前と6か月後,12か月後,18か月後という形で測定して,科学的なエビデンスに基づいた政策を提言していくことを目標にしております。データはまだ収集中ですけれども,就労のポジティブな効果が出ております。
 この柏市の就労プロジェクトの経験に基づいて,平成25年に厚生労働省に提言いたしました。私たちが柏市で経験したことは,定年退職して帰られた方は何の情報もないし,どこに行っていいか分からない。したがって,ワンストップで,そこに行けば柏市にどんな働き場があって,ボランティアの場があって,どういう学習,学ぶ場やスポーツの機会があるか,そういう情報がそろっている窓口を作ろうということです。
 そこには,コンシェルジュといいますか,カウンセラー,相談役がいて,今までの60年,65年の人生の棚卸しを手伝ってくれる。そして,柏市の仕事場や学ぶ場などの地域資源を勘案して,セカンドライフの設計の相談に乗ってくれる。
 また,自分は今まで丸の内でずっと働いていたけれども,人生,二毛作で,今度は農業をやってみたい,しかし経験がないという人に対して応援セミナーをやっています。農業の場合は農業塾というものをやっています。実際の農家の方たちが,毎週土曜日に1年間,種まきから収穫まで畑と田んぼで教える。英語を使ってビジネスをしたいという人にはそういう応援セミナーをやって,次の人生設計にスムーズに移行できる支援をしています。情報は窓口とウエブサイトでも提供しています。
 提言の翌年に6つのモデル地区で試行しました。そして,今年3月,法案が通りました。生涯現役促進地域連携事業という名称で,全国の地方自治体に普及,広めるという予算も付けていただいて,実現しました。
 私は,これ自身が本当の生涯学習ではないかと思います。セカンドライフの設計をして,それに必要なものを勉強して,働いて,人と交わって,まちを作っていくということです。
 従来の生涯学習ではないですが,こういう取組がこれからの生涯学習の視点には必要ではないかと思っています。
 柏市は,恐らく皆さん御存じだと思いますけれども,東京大学の牧野教授が岐阜市でやられた「くるる」,自動的に回っていく生涯学習,学んだ人が教える側になって,どんどん企画するという「くるる」も始めております。
 以上でございます。

【明石部会長】
 秋山教授,ありがとうございました。
 では,御質問,御意見ありましたら,よろしくお願いいたします。

【今野委員】
 大変興味深いお話,どうもありがとうございました。
 これは生涯学習に入るのかどうかということでしたけれども,正にこれは生涯学習の理念に基づいた施策と思います。生涯学習はただ学ぶだけではなくて,生きる,生き方の基盤のところで学んだり,働いたり,トータルに全部入るものですので,本当に生涯学習のこれからの良い政策事例をお話しいただいたと思います。
 新しい時代の長寿社会の一つのモデルとして,柏市の例を教えていただきましたが,特にスライド21に全体の表が出ております。かなり大きな事業になるので,基盤的なところでは行政が相当役割を担ってもらわないとできないだろうと思いますが,一番左の市とURと東京大学の役割分担,どういう形で事業全体を進めていかれているのか,その辺りを教えていただければと思います。

【秋山特任教授】
 まず,なぜ柏市かとよく聞かれます。柏市を選んだのは,ごく普通のまちということで選びました。このまちでできるのだったら,うちでもできるのではないかと思われるまちを選びました。市の行政も,とりわけ先進的であるとか,そういうことは全くなかったので,ゼロから出発しました。
 構想は大学が立てて,UR団地を核にしました。5,000戸の豊四季台団地という団地があります。そこを核にして,柏市全体に広げるという方式でやっておりますので,URとの協力関係は強いです。何か建物を造ったりしようと思ったら,URとの協力関係が必要です。
 それから,いろいろな規制については市も協力的でした。一番の問題は縦割り組織でした。大学も縦割りで,高齢者のことだったら医学部ではないか,そういう感じだった。そこに,学際的な高齢社会総合研究機構ができました。総長室直轄で全学部から人が出ているので,移動手段の問題であれば機械工学と生理学,それから法律も関わりますから法学部などの教員がチームを組んで,トヨタや行政と一緒にワーキンググループを作るという形で進めてきました。
 就労に関しても,初め市は高齢者いきいき課の業務として縦割りの一つの部署に任せるということでした。しかし,だんだんそれでは済まないということが分かってきました。休耕地を借りるときに,私たちがトントンと農家に行って頼んでも貸してくれないけども,市役所の農政課が行って,こういう理由で何年間,こういう用途で貸してほしいと言うと,うまくいくわけです。そういうことで農政課が入る。学童保育の仕事づくりでは教育関係の担当課が入るということで,最終的には,プロジェクトを回していくための部局横断の組織ができた。
 それと同じことがURでもできました。そういう部局横断,学際的な組織ができて,同じ目標を持って,それぞれの強みを生かして協力して取り組んできました。その体制作りに,1年以上掛かりました。

【明石部会長】
 ありがとうございました。
 ほかに。とうぞ,菊川部会長代理。

【菊川部会長代理】
 すばらしい事例発表を,ありがとうございました。
 本当にこれから必要な地域作りの自然なモデルだと思いますが,市とURと東京大学と三者が関係していますが,企画して,構想を立てて,フレームを作って,リードしたのは恐らく大学だと思います。そして,エビデンスを出しながら,説得を働きかけたということだと思いますが,これを,何も知的資源のない普通の地方がやっていくときに,必要な条件というのはどういうものなのか。あるいは,モデル事業ということで,ある程度フレームと普遍的な要素みたいなものを提示できるので,勉強していただければどこでもやれるとお考えになられるのか。その辺り,いかがでしょうか。

【秋山特任教授】
 就労プロジェクトも,ほかのプロジェクトもそうですけれども,モデル事業としてやりましたから,その後,ハンドブックやマニュアルを作りました。ほかの自治体で同じようなことをなさりたい場合,少なくともそれを下敷きにして,そのまちにある地域資源を活用してまちづくりをする。例えば柏市の場合は農地があるから農業で仕事を作りました。私は鎌倉市に住んでいますが,鎌倉市には農地はないけれども,観光という産業があります。5歳から90歳ぐらいまでの人が働ける産業です。そういう地域の資源をうまく活用しながら,下敷きにしていただきたいとハンドブックをつくりました。
 もう一つは,今,研修事業を計画しております。地方自治体の職員を対象にした研修事業です。1回目は座学で,概念や事例を説明します。2回目は,現地に行って,課題と資源の掘り起こしから,関与するステークホルダーの体制づくりなど,実践的な研修カリキュラムを今,立てております。JSTから助成金を頂いています。

【菊川部会長代理】
 ありがとうございました。

【明石部会長】
 では,清國委員。

【清國委員】
 清國でございます。
 何というか,未来の展望が少し開けるようなお話だったと伺いました。高齢者の社会参画によって豊かな長寿社会を作っていくということは,我々も常々思っているところではございます。その中で,高齢者を引っ張り出すためには,地方の本当に小さなところだと,基本的には役割をどう作っていくかということが課題となります。その一つの方法が就労だと伺いました。
 これまでの感覚からすると,これは偏見かもしれませんが,高齢者は社会に恩返しをしていくようなイメージがありましたが,そういうイメージはもはや通用しないということでしょうか。ボランティアではあっても,無償ではないということが一つ特徴的であるように思いました。これからの高齢者像というものに対して,私たちは大きく考え方を転換する必要があるように思います。地域へのコミットの仕方が,経済的な関係の中で役割を作り出していく方がうまくいき,継続もすると,そういう証左だったのかなと読み取りましたが,その点はいかがでしょうか。

【秋山特任教授】
 高齢者の特性には,ネガティブな側面もあると思いますが,ポジティブな特性として一つ挙げられるのは,次の世代によりよい社会を残していきたいと願っていることだと思います。今よりも良い社会を子供や孫に残していきたい。そのために何かしたい。仕事の選び方を見ても,自分が住んでいるまちに役に立つということを重視します。最低賃金をもらっても,経済効果はそんなにないわけです。ゼロよりはいいかも分からないけれども,それより,地域のために役に立っているということが報いです。
 また,働く方は結構ボランティアもやり始める。結局,働くことは,まず家から外に出る第一歩,一番出やすい理由です。仕事をきっかけにして地域に出ると,柏市にはいろいろな問題があることに気づきます。そこにボランティアで行くということが起きています。一番初めは,誰でもできるような,それぐらいだったら自分もできると思うような仕事を用意して,地域に出てもらう。働き始めると,今までの自分の経験を生かして,どんどん仕事を作っていかれるということも経験しています。
 まずは,第一歩として,簡単な仕事で,しかも自分で時間を決めて働ける場を用意しています。それがきっかけになって,ボランティアを始めたり,いろいろなことを学ぶ,友達を作って遊びに行く,そういう広がりができていきます。人のつながりがどれだけ増えたか,行動範囲がどのぐらい広がったか測定しますが,確実に行動範囲が広がります。家から出て図書館だけ,家の周りで犬を連れて散歩するだけというときから比べれば,かなり広がります。

【清國委員】
 ありがとうございます。

【秋山特任教授】
 配付していただいた報告書に,もっと具体的に書いてございますので,是非お時間があるときに御一読いただきたいと思います。

【明石部会長】
 ありがとうございました。
 では,引き続きまして,今度は自治体の取組について伺いたいと思います。まず,東京都健康長寿医療センターの藤原部長からの意見発表ですが,藤原部長は医師,医学博士でいらっしゃり,中でも健康科学,社会福祉学などが御専門で,現在は東京都健康長寿医療センター研究所の研究部長をされております。平成16年から,国内3地域におきまして,高齢者の新しいヘルスプロモーション研究や,シニア読み聞かせボランティアを展開されています。
 それでは,藤原部長,御発表,よろしくお願いいたします。

【藤原研究部長】
 今,御紹介いただきました東京都健康長寿医療センター研究所というところから参りました藤原と申します。健康長寿医療センターといいますのは,もともと東京都老人総合研究所,その前は東京都養育院といいまして,板橋区にございます。
 きょうのこのテーマとも非常に関係してきますが,設立者が渋沢栄一でございます。彼の座右の銘ですが,先ほど清國委員からのいろいろなコメントがありましたけれども,彼の著書の中で「論語と算盤(そろばん)」という本があります。何かといいますと,ビジネスと論語,つまり,道徳や福祉というものは,相反するものではなくて,両方補塡し合いながら世の中をよくしていくものだという考えです。私自身,彼の座右の銘をよく研究に生かすこともありますが,今回のテーマとしまして,高齢者の社会参加によるWin‐winということをテーマにしたいと思います。
 Win‐winとは何か。渋沢栄一が言いますには,「三方よし」ということになるかと思います。売手よし,買手よし,そして,そうすることによって世間もよしということです。恐らく高齢者の社会参加の話もそういうことになるだろうということで,いろいろなプログラムを展開しております。初めに,きょうの話題としましては,高齢者の社会参加,社会貢献がなぜ良いかといった少しエビデンスのようなものを御紹介します。二つ目に,我々が10年以上取り組んでおりますWin‐win型の世代間交流の中で,高齢者が地域の学校や,小学校,幼稚園に出前で読み聞かせのボランティアをするプロジェクトを継続しておりまして,そこからの学びというものを御紹介したいと思います。最後に,こういった単一のプログラムというのはいろいろな地域で展開されていますが,それをいかに地域のプラットホームの中でいろいろなニーズに応えて地域展開をどうしていくかといったような話をさせていただければと思います。
 初めに,高齢者の社会参加といいますのは,老年学者のロートンという人が人間の能力は七つのステージに分かれているということを言っております。一番原始的な,生きているか,死んでいるか,そして,それが例えば赤ちゃんとして誕生してきた後,一つ一つの機能が健常に動くか。五感が備わってきて,そのうち身の回りのことが自分でできるようになって,もう少し道具や手段,あるいはお金の管理ができてきて,それから後,もう少し育ってくると,単に言われたことをやるだけではなくて,状況の対応能力や,あるいは知的な好奇心というのが備わってくると言われております。それが更に成長しましてから社会的な役割を持つということになりますが,これは子供の発達の数字が上がっていくのと同時に,逆に高齢期に少しずつ老化現象とともにおりていく場合も,少しずつ階段が下がっていくのではないかと考えています。つまり,役割を持たれて,その場でのいろいろな状況対応にもこつこつできるような方々がいつの間にか,例えば日常の家事や,あるいは仕事ができなくなってきて,その後,いわゆる身の回りのこともできなくなってきてということで,おりてくるときは,いわゆるここで要支援・要介護となっていくのではないかと思います。
 厚生労働省が言っています介護予防というのは,この辺の水際作戦のことを言っているわけでして,我々は,ずっと研究のポリシーとしまして,より高度な能力といいますか,役割を持ち,あるいは知的能動性,状況対応能力というのを備えていれば,要支援・要介護も急がば回れということになるのではないかということで,全てのプログラムの理論としております。
 実際,これは,我々が以前,東京の小金井市というところで8年間の追跡研究をした結果ですが,元々生活機能が完全に自立した高齢者の方々を毎年,追跡調査して,健康調査で御協力いただいていますが,やはり一般初めに落ちやすい能力というのは役割能力で,その後,知的な好奇心,あるいは状況対応の能力というのが落ちてきまして,それから2年,3年たってから,いわゆる日常生活が要支援になってくるというようなことが分かってきました。ということは,やはり先ほどのモデルというのは,日本人の地域においての役割や,能動性知的活動というのを重視するということが早めの予防ということで重要ではないかと考えております。
 こういった社会参加,つまり,役割を持つということの重要性というのは,これはその方,その方の価値観で,例えば働きたい人,あるいはボランティアしたい人,いろいろいるかと思います。我々が研究プロジェクトとしまして,高齢者の社会参加も,その方の高齢者の方の元気度,あるいは生活背景,そういったものに合わせて,例えば先ほど秋山教授の方から御紹介ありましたように,働ける人にはどんどん働いてもらう。少しお金をもらうのが大変になってくるなということになると,例えばボランティア活動というものもありますし,人様のための活動というのはしんどいということになりますと,いわゆる生涯学習という活動が待っているのではないかと思います。
 こういった生涯学習も非常にプログラム化された社会活動ですので,人と一緒に活動するというのがしんどくなってくると,インフォーマルに御近所付き合いや,友達と気ままにお付き合いされるということも,次の社会参加だと思っております。こういったことは,高齢者の場合,1かゼロ,あるいはやっているか,やっていないかだけではなくて,働きながらボランティアもやっていたりとか,そこに趣味の稽古事もやっていたりといったように,いわゆる重層的に活動している。それが年を追うごとに少しずつ緩い方へと1枚1枚,服を脱いでいく,着物を脱いでいくように,イージーな方向へゆっくり落ちていくというのが一番のプロセスではないかと考えております。
 きょう,私の方は,特にこの中でもボランティアや生涯学習,この辺りに焦点を当ててお話をさせていただきたいと思います。
 これは,我が国の社会参加の活動というといろいろなパターンがあるかと思います。初め西井課長の方からも御紹介ありましたように,国のデータでもこういった町会活動やボランティアがいろいろありますが,ここで着目したいのは,特にボランティア活動や,社会貢献といった活動というのは案外まだまだ少ないだろうと思います。参加している人も5%くらいですし,参加したい人も10%くらいです。それに比べて趣味やスポーツが多いということですが,もう一つ注目いただきたいのは,ブルーの線,つまり,参加しているというのと参加したいというこのギャップだと思います。多くの活動は参加している人より,参加したい人が多い。つまり,まだ十分参加したい人が,参加まで至っていないということが多いかと思います。一方,町会とか老人クラブというのは逆に,余り参加したいことはないけれども,実際いろいろ役割なり当番が回ってきて参加しているということがありまして,一言で社会参加と言いましても,そのモチベーションや,あるいは取り組み方というのはいろいろ千差万別ではないかと考えております。
 これは一つの分析結果ですが,以前,私どもが秋田県のある農村地域でボランティアを進んでやっているのか,あるいはお付き合いでやっているのか,そういったパターンで四つのグループに分けて,その方々が3年後に御自身の生活機能の自立というのがどのくらい保たれているかというのを比較した調査でございます。一番標準であります,やりたくてボランティア活動に参加している方を基準とした場合に,本当はやりたくないけれど,お付き合いで参加しているという方,あるいはやりたい,やりたいと言いつつ何年も実際は参加してない方,そして,やりたくもないし,参加もしてない方で分けています。実際,やりたくて積極的に参加している方の生活機能の維持というものの予防効果を基準としたときに,残りは動機がなかったり,あるいはやりたいと思っていてもやっていなかったり,それもないというようなことになると,実際にやりたくて参加している人以外は,御自身の健康への抑制効果というのは,せいぜいこの半分くらいしかないということが分かりました。やはりやるなら,どういう活動であっても本当に楽しくてやっていないと,単なる奉仕というのではやはり余り良くないということが言えるかと思います。
 こういったことを考えましたときに,今,地域でどういう高齢者がボランティアや,あるいは生涯学習の生きがいがあるかということを考えたときに,やはり今から50年前というのは,確かに古きよき日本のコミュニティがありましたので,高齢者自体が役割を発揮しやすかったり,あるいはつながりやすかったりということがあったかと思います。今は本当に子供も忙しいですし,高齢者自身も自分の生活で大変で,あるいはもっとプライバシーの問題があったり,コミュニティ自体が崩壊したりしている。それこそどこで誰に対して何をしたらいいのかが分からない,というような課題があるかと思います。
 そうなりますと,自然発生的に何か役割を高齢者が見つけるということは,限界がございまして,やはり何か役割が生み出されるような仕掛けというのが重要ではないか。そのときの仕掛けというのが,高齢者だけが良いとか,地域だけが良いとか,あるいは子供だけが良いというものではなく,三方よしというのがその原則になるのではないかと考えております。
 これは先ほども秋山教授の御紹介もありましたけれども,本当に今,特に我々は多世代というプロジェクトをずっと継承しております。なぜ多世代というのに我々は注目しているかというと,社会保障の問題があります。結局,このしわ寄せが,これから起こってくる1.2人で1人を支える若い世代がどのくらいの負担,あるいはそれを理解で乗り越えられるか。ともすれば,自分のおじいちゃん,おばあちゃんの最後をお世話するならば分かるけれども,赤の他人のおじいさん,おばあさんの社会保障までどうするのというようなことに,今の核家族化が進んできたときに,特に若い世代がそういうような世代間の対立や確執というものを持つかと思います。
 そのときに支える側に回っていただいて,世の中全体,あるいは次の世代を支えるということが非常に期待されるところですが,ここでやはり支えることによって高齢者の方が自分も元気になれる,あるいは生きがいをもらえるというものがないと,いつまでたっても人にこき使われている,あるいは我々はいつになったら休めるのかといったような逆の対立というのも出てきます。高齢者が元気よく楽しんで,支えられるような仕組みを見つけていくということが重要ではないかと思っております。
 そういうときに,我々が高齢者の多世代交流,あるいは次世代支援というものに着目しているというのは,理論的なことを考えましても,アメリカの有名な心理学者でエリクソンという学者で生涯発達を研究している人が,どんどん人間は精熟していくにしたがって,壮年層,あるいは老年期に入ってくると,次の世代に何を残すかということを考える,これが通常の人間だとしています。その伝える内容はその人によって,ハートの部分なのか,技術なのか,あるいは環境なのか別としましても,何かを伝えるということは,これは高齢者として自然に出てくることで,そういうものをうまく活用するということが一つ,重要ではないかと考えておりました。
 そこで,実際に我々がこの10年以上にわたって行っている取組で,高齢者による学校支援ボランティアの取組がございます。元々これは私が,15年ほど前にアメリカで勉強してきましたことですが,アメリカでも,やはりこれからの高齢者の対策ということで,「Use it,or lose it」,つまり頭,体,心をどんどんフルに使ってもらって,さび付かずに元気でいてもらうというのがその根底にございます。
 その三原則というのは,高齢者にとってその活動の中に学びがある。役割があって,単独でやるのではなく,仲間とやるという,この三原則を提唱しています。その具体的な一番モデルとして提唱して実践されていたのがExperience Corpsというアメリカの学校ボランティアのプロジェクトがございます。これがどういう活動かといいますと,私はボルチモア市というところで実際この研究を少し勉強させてもらいましたが,実際これは公立の小学校ですけれども,これは学校の前で,ドラッグフリースクールゾーンと言いまして,学校の前で覚醒剤の売買をすると罪が2倍になるなど,非常に治安の悪いところです。これも鉄条網のはまっている学校の入り口ですが,非常に治安が悪い。でも,扉を開けてみるとシニアボランティアがいろいろな役割を持ってスタンバイして,それぞれ教育の支援活動をしているというところです。この子なんかは日頃,学習に付いていきにくいので放課後に,個別にアルファベット,あるいは基礎的な計算をフォローしてもらったり,あるいは教室の中で少し障害のある子が飛び出していったりすることがあるので,そういうときに先生が授業を続けられるように,このボランティアさんがフォローに行ったりとか,空いている時間に次の教材を準備したりといったような活動をしています。非常にこれこそWin‐winかと思って私どもは見ていましたが,やはりこれも地元の大学とタイアップして研究としてやっていました。高齢者自体がほぼ毎日,半日間,学校ボランティアとして通うことによって,授業のサポートをしたりというようなことでいろいろ頭も使ったり,指先も使ったりというようなこともする。また,教室の3階まで上がっていくのに足腰が強い。アメリカの高齢者の方は肥満の方で膝を痛めてつえを突いている方が非常に多いのですが,リハビリに行くのは嫌だけれども,学校のボランティアで教室に行くのはいいということで,えっちらおっちら,毎日,教室へ上がったり下がったりをする。実際データを取りますと,つえを使っている人が1年間で半分くらいに減った,あるいはこういった生活習慣病のダイエットにも,規則正しい生活をするということだけで改善されたというようなことも報告されております。
 子供がもう,これは無作為抽出でボランティアを導入する学校と導入しない学校で比較対照しましたところ,導入した学校では基礎学力の成績が上がったり,あるいは校長室へ呼び出されてしかられる子が減ったりといったようなことが報告されています。また,保護者の方も,この地域では,ネグレクトが多発するような疲弊している地域ですが,そういった子供の学校への参画というのが増えたり,あるいは教師自身のバーンアウトが減ったりといったような,いわゆる三方よしの効果が出たということを勉強してまいりました。そこで我々は,これは何かひねって,日本でそういうものを作っていく必要があるのではないかというように考えておりました。
 昨今の例えば,我々が関与しているような地域の施策を見ておりますと,特に教育,あるいは健康づくり,そういったところも,入り口が例えば学びであろうが,最終的にそれが健康づくりに至る。あるいは介護予防の健康づくりが入り口であっても,それが単なるトレーニングだけですと長続きしませんので,やはり学びが必要だということで,この辺りの学びとボランティア活動,あるいは健康づくりというのが行政のどういうシステムの中であっても,全部満たされる活動というのが一番支持されるのではないか。そういう意味でも,やはりこの学校のボランティア活動というのは重要なのではないかと考えておりました。
 実際には,小学校あるいは幼稚園で絵本の読み聞かせのプログラムを展開するという中身ですけれども,これ自身は元々2004年から厚生労働省関係の補助金で始めまして,このときは飽くまでボランティア募集ということで,ボランティアを全面的に出していました。それである程度のモデル研究としては成果を得ましたが,なかなかボランティアだけを全面的に出しても,ほかの地域に広がりが弱い。そこで,2006年から,どうして普及させるかということで,まずは自分のために例えば絵本を勉強しましょうとか,自分のために絵本を使って脳トレしましょうというように,学習としての講座ということで募集をしました。このとき,2006年から杉並区でも始めまして,支援員さんにはかなりその普及啓発のお手伝いを頂いたところですが,その後,どんどん行政の方の委託というのも増えてきまして,まず自分事からということでやっていくというのもいいのでないかと思います。
 そう考えますと,絵本に何で私も着目しましたかというと,一つには生涯学習的にも非常にフィットするのではないか。つまり,絵本の題材は高齢者を扱っているものが非常に多い。一つ一つの絵本にメッセージ性があります。子供が読むだけですと楽しかった,面白かったと思うだけですが,大人が深読みすると,これは戦争,平和のことを語っているとか,これは環境問題のことを言っているとか,非常にメッセージ性がある。それを自分の言葉で,絵本が代弁してくれてそれを聞き手に伝えることができる,そういうコミュニケーションのツールとして使えるのではないか。多種多様で,ネタが切れることもありませんし,図書館で借りればお金も掛からないというような,そういう道具としては非常に良いと思っております。
 これを単なるボランティア養成講座ではなくて,自分のための生涯学習,あるいは認知症予防といったようなトレーニングをするというところで,我々の方で絵本をリメークしました。絵本を使って,初めは物語をすらすら言うような回想法的なものを入れたり,あるいは声を出したり,教室の後ろの方まで,聞き手まできちんと声が届くには発声練習を入れたり,滑舌のトレーニングを入れたり,絵本を使った伝言ゲームを入れたり,あるいは時間どおりにてきぱき読む,そういった学びと自分の健康づくり,介護予防,認知症予防のエッセンスを入れた12回シリーズのプログラムを開発して,展開しております。
 この活動というのはどういうサイクルかというと,例えば子供の前で実際に読み聞かせをするというのは,朝の読み聞かせとか,放課後とかいったときでもせいぜい1冊5分から7分ぐらいの話ですが,それまでにかなり入念に練習をする。そして,図書館通いをする。終わった後は反省会をするということで,これをサイクリックに活動しております。しかも毎回毎回桃太郎を読んでというのでは,本人のためにもなりませんし,やはりネタをどんどん変える必要がある。ネタを変えるということは,聞き手のためにも新しいネタを用意できるということで,そのマイナーチェンジをしながらも,この形自体はずっと日常生活の中のモデルとして継続していくというのがこの一つの特徴です。
 実際,高齢者への効果というので,心理,身体,認知機能への効果というのを測ってきていますが,例えば読み聞かせのボランティア養成の講座のレッスンを受けて,トレーニングをしたことだけでも,記憶力の検査の成績が無作為割り付けで調査しましても改善したことがはっきり分かりましたし,一旦改善したものをこれから講座が終わった後,どう続けますかということを地域の方々に投げ掛けたとき,ボランティアか何かで自主活動していくしかないということに話がなりまして,そのまま継続されている方というのは大体6割から7割ほどいらっしゃる。2年たっても,一番成績が上がったときの成績というのは活動する限り維持されているということが分かってまいりました。
 同じことがこういう読み聞かせの活動という一見文化系の活動ですけれども,実はこれはファンクショナルリーチと言いまして,体のバランス力を測る調査です。人前で5分,7分,揺れずにいるために,自然に体力を付けたり,あるいは立って読む練習なんかもされています。バランス力も,7年間の長期追跡を見ると維持できている。あるいは握力も同じような傾向が出ました。子供との交流の頻度ですとか,あるいは知的な活動性というのも,7年間にわたって維持,あるいは改善が継続しているということが分かりました。
 こういったことというのは,ボランティア活動ですので,まずは子供や保護者など教員へのWin‐winというのも非常に重要です。例えば子供ですと,これは中央区の小学校ですが,2年間にわたってボランティアが読んでくれた絵本をもう一度図書室で借り直したとか,あるいは気に入った絵本が増えていったといったような感想,これは1年生から6年生まで,高学年まで含めての学校全体でこういう感想を頂きました。
 また,道徳的なところから言いますと,高齢者全体のイメージ,お年寄り全体に対するイメージというものが,このボランティアがよく入っていた教室と余り入らなかった教室を比較しますと,1年以上このボランティアの高齢者への温かい,優しいというイメージが維持できたといったようなところも一つの評価としていただいております。
 これは保護者にとっても,高齢者が学校にボランティアとして入ってくれるということで,低学年の親と中学年の親にアンケートを2年間にわたって取り,やはり物理的,時間的にボランティアに入ってもらって助かっているというような評価と,あるいは心理的にでも,忙しいママさんで,とかくお仕事を休んで行くのがつらい,あるいは全部,専業主婦のお母さん方にお願いしなければいけないというようなストレスが,高齢者のボランティアがバッファーとして入ってくれることで非常に気楽になったというような評価をもらいました。
 こういう活動ですが,基本的には,何か特別にこの活動に対して行政が支援しているというわけではなくて,それぞれ図書,絵本の読み聞かせに関する技術支援は地元の図書館がやってくれます。ボランティアセンターが例えばボランティアの保険を入れてくれたり,ロッカーを貸してくれたり,あるいは健康に関してのボランティアですので,見かけ上は元気だけれども,いろいろ介護の問題,健康の問題を抱えておりますので,定例会やボランティアの会議のときは,保健センターのスタッフなどが出ていっていろいろ啓発したりといった,そういう一般の市民団体に対してのサービスを組み合わせて提供しているというようなところがあります。
 こういった活動ですが,高齢者の社会参加,ボランティア活動というのは,高齢者7人くらいで始めて3年,4年たってくるとどんどん一人抜け,二人抜けで尻すぼみになっていくことが多いので,一つのエリアで,30人,40人で小グループに分かれてお互いの活動を支え合っていただくような体制をずっと続けておりまして,こういったことはボランティア全体のメンバーの追加や,ある程度の人数で,地域で活動しているということは,団体の社会的な信用というものにもなっているということがあります。
 こういう形でどんどん地域で,今は自主団体として,我々は飽くまで後ろから応援しているだけで,NPOも作って広がっているところですが,多世代でプロジェクトを進めていくということのいろいろなメリットというのがあるかと思います。これは例えば職員や,専門職からすると,今までは,地域の問題というのは単純化していましたが,最近はダブルケアというようなことや,あるいは障害を持っている子供を抱えているおうちに,おじいさんが認知症を発症した,そこに貧困も絡んできてといったような,専門職が1人で解決できないようなことが増えてきた。それはやはり地域での多世代のアプローチというもので対応していかないといけませんし,専門職も多世代で連携する必要がある。
 一方は,住民側も,単独で高齢者だけのグループとか,子育てだけのグループですとなかなか長続きしない。ママさんも,次の自分の子供が次のライフステージに行くと,そこでなかなか手伝えなかったり,御主人の転勤で引っ越していったりというようなことで,そこに中高年層がぽんと何人かいらっしゃると会としても継続しやすい。また,御自分たちのやっている活動が,世代が広いといろいろなところのチャンネルで支援をしてもらえるし,発信もしていきやすいので,住民の団体からしても非常に頑強な組織になるのではないかと考えております。やはり多世代のアプローチというのは重要なことです。
 こういった先ほど一つの取組というのが絵本のプロジェクトです。世の中はいろいろ,人の好み,あるいは背景というのも様々です。地域全体で多世代が交流し,あるいは多世代で支えるシステムというのが必要だろうということで,これからはプログラムからプラットホームづくりが重要です。それこそ地域全体で多世代が交流する。交流するだけではなくて,次はどう支え合っていって,それをどんどん連鎖して受け継いでいくかといったような,そういう多世代の互助,共助のシステムというのを昨年から,JST‐RISTEXの方で,我々の方は進めていっているところでございます。
 こういった取組ですが,先ほどの絵本に関しては2冊,マニュアル本も出しております。シニアボランティアのコーディネートの仕方というのは現場でかなり御苦労されている部分がありまして,これは平成24年度に社会教育の教育力強化プロジェクトの御支援を頂きましたものをもう一度やり直し,少しバージョンアップしまして,今年の6月に発行しております。我々も高齢者の就労という問題も取り組んでおりまして,いろいろな社会参加の姿を,実際にどういう形がいいのかということを結構実践的に現場で研究をしているというところでございます。

【明石部会長】
 藤原部長,ありがとうございました。
 では,次に,高齢化社会における生涯学習の先進的な取組として,清原委員から三鷹市の事例紹介をお願いします。

【清原委員】
 皆様,こんにちは。三鷹市長の清原慶子です。本日,「長寿化と生涯学習」ということにつきまして,「多世代交流」と「学習と活動の循環」というテーマに絞って,三鷹市の事例からお話しします。時間が限られておりますので,三鷹市の事例は多様にありますが,その一部について御紹介をさせていただきます。
 「長寿化と生涯学習」を考える視点ですが,高齢者の生涯学習を考えるということは,1つには「高齢者による学習の実態」を明らかにすることでありますし,「高齢者を対象とした学習機会の在り方を考える」ということでもあると思います。
 2点目に,「長寿化に関する諸課題についての学習の必要性」も出てきておりますので,どの世代においても長寿化に関する諸課題について学ぶことは必要だと考えます。
 3点目に,「長寿化がもたらす地域課題を解決するために,どのような生涯学習があり,またどのような活動があるかという実態」から考える方向性があると思います。
 4点目に,「長寿化がもたらす地域課題を解決するための高齢者による生涯学習と活動の実態を考える」ということも有意義だと思います。
 したがいまして,本日は,こうした長寿化と生涯学習を考える視点に基づきまして,幾つかの事例を御紹介したいと思います。
 三鷹市は,16.42平方キロの小さな市ですが,10月1日現在,18万5,000人余りが住んでいます。勤労者が多く居住する住宅都市で地方交付税の不交付団体です。平均寿命が長く,特に男性の平均寿命は一貫して全国でも有数です。高齢者の独居,二人暮らしが多く,ただ近年,ファミリー層が増加傾向にありますので,高齢者比率は全国平均を下回っています。
 それでは,1点目に,「高齢者を含む学習者主体による生涯学習」について御紹介します。
 まず,社会教育の事例に見る多世代交流についてお話しします。三鷹市では,数十年にわたり,「市民大学総合コース」という,市民と職員の協働で構成された企画委員会が講座のテーマや講師を選定する市民大学を継続しています。多様なテーマで社会問題であったり,文学であったり,歴史であったりを学んでいただいていますが,平成28年度開講時の受講者平均年齢は61.8歳で,最高齢者は88歳でした。また,「むらさき学苑」という60歳以上の高齢者を対象にした取組におきましても,平成28年度開講時,平均年齢は76.4歳,最高齢者は94歳。すなわち,このような学習者主体による生涯学習の現場でも高齢者の皆様が学習に参加しているということが分かります。
 二つ目の三鷹ネットワーク大学の事例で申し上げますと,三鷹市は2005年10月にNPO法人三鷹ネットワーク大学推進機構を設立しておりまして,市内の国際基督教大学,杏林大学,国立天文台等に加えて,立教大学,法政大学,明治大学等,市外の大学を含む19の教育・研究機関とともに「地域の新しい大学」を目指した取組をしています。この取組におきましても,例えば受講者登録数は平成28年3月末現在で9,486人ですが,60代16.0%,70代10.9%,80代4.3%と,実は高齢者が多く学んでいただいています。内容は,各大学との連携によるもの,地域課題の解決を目指すもの,「民学産公」,すなわち市民の「民」,大学・研究機関の「学」,産業界の「産」,公共機関の「公」の協働で,多様なテーマに取り組んでいます。
 2点目に,「長寿化による地域課題と生涯学習」についてお話しいたします。
 まず,基礎的な取組として,例えば三鷹市第4次基本計画(第1次改定)では,二つの最重点プロジェクトの一つが「都市再生」プロジェクト,二つ目が共に支え合う地域社会を生み出す「コミュニティ創生」プロジェクトですが,三鷹市の七つの重点プロジェクトの中には,いつまでも元気に暮らせる「健康長寿社会」プロジェクトを位置付けています。しかも,市長の市民の皆様へのメッセージとして,平成28年度施政方針では「協働による『都市再生』と『コミュニティ創生』の更なる充実と,多世代交流と多職種連携による『元気創造都市・三鷹』のまちづくりの推進を」とさせていただきました。
 そこで,これまでの取組を御紹介します。
 最初の地域ケアネットワークが井の頭地区でできてから,もう11年ですが,実は私は市長になりましてから,医師会,歯科医師会,薬剤師会,民生・児童委員,町会・自治会,社会福祉協議会会員等ボランティアの連携を,七つのコミュニティ住区それぞれで作っていただきたいということで働き掛けました。七つのコミュニティ住区全てで今,地域ケアネットワークが構成されています。市民と市民の相互支援の実現に向けて進めているわけですが,それは実は生涯学習と密接な関係があります。また,介護予防や体力作り等の講習会を実施しますと,卒業生の自主グループ化も盛んです。
 その中で,具体的に地域ケアネットワークを進める中の生涯学習では幾つかの学習がございますので,それを順次,御紹介します。
 1点目は,「傾聴ボランティア」の学習です。平成18年度から現在まで205人を養成し,27年度派遣実績はのべ1,300人余りです。「傾聴ボランティア」とは,高齢者や障害のある方の自宅や施設を訪ね,相手の心に寄り添って話を聞くボランティア活動です。3年に一度,養成をさせていただいております。全6回,合計20時間で,この取組で既に205人が養成され,ほとんどが地域ごとに,あるいはグループで「傾聴ボランティア」を実践してくださっています。
 2点目,幸いなことに,三鷹市には福祉を専門とするルーテル学院大学があるので,三鷹市,武蔵野市,小金井市の3市と3市の社会福祉協議会が連携して「地域福祉ファシリテーター」を養成しています。現在まで三鷹市では100人であり,様々な地域の福祉活動にコーディネーターとして実践を続けていただき,受講後,現在,11の自主グループが活動中です。
 3点目は,地域福祉人材養成基礎講座を開講したところ,「共助の地域作り」に貢献する人材が多く育っています。これは,より専門的な地域福祉ファシリテーター養成講座のプレ講座的な内容です。
 4点目は,「認知症サポーター」の養成です。本日,皆様にこの10月にできたばかりの平成28年度版『知ってあんしん認知症ガイドブック』を配らせていただきましたが,三鷹市は「認知症にやさしいまち三鷹」を推進しています。市民や市職員を対象に認知症サポーター養成講座を開催して,市長や副市長,教育長,議員はもちろん受講しておりますが,現在までの累計で7,047人が修了し,三鷹市ですべての事例を把握はしておりませんが,各事業所等でも主体的に認知症サポーターを養成していただいています。「認知症キャラバン・メイト」は認知症サポーター養成講座の講師となる人ですが,もう既に110名を超えています。
 5点目です。「みたかふれあい支援員」を今年度から養成させていただいています。介護保険制度が変わりまして,三鷹市独自の基準による訪問型サービスの必要性が生じています。従来の国の基準による訪問型サービスでは訪問介護事業所のヘルパーがサービスを提供することになりますが,新しい制度によりまして,三鷹市が責任を持って「みたかふれあい支援員」を養成することによって,掃除,洗濯,食事の準備や調理等の生活支援については可能になりました。介護保険の従来型は月ごとに定額の利用料に対して,利用回数に応じた利用料をお払いいただくことになります。
 この養成を今年の6月と10月に実施いたしまして,第1回研修で26名が修了し,第2回研修で29名が修了しました。既に介護保険の事業所に16名の方が登録をして,新しいタイプの訪問ヘルパーとして御活躍いただくことになっています。
 さて,この受講者ですが,研修参加者の多くが65歳以上の「元気高齢者」で,第1回は7割以上,第2回は5割以上の方が高齢者でした。昔は「老老介護」といって例えば悲劇のように扱われていましたが,そんなことはありません。秋山先生もおっしゃいましたし,先ほど藤原先生もおっしゃいましたが,実は元気高齢者には積極的に高齢化,長寿化の中の問題を解決していただくことが重要です。高齢者の活躍の場としては「シルバー人材センター」がありますし,生きがい作りの場としては「老人クラブ」があります。学びながら活動する循環が,ここでも顕在化しています。
 社会福祉協議会では,「ほのぼのネット」という地域の支え合いの取組を,もう約20年,重ねています。「NPO法人シニアSOHO普及サロン・三鷹」は,55歳以上の高齢者がメンバーになっていますが,元気なシニアが,「三鷹いきいきプラス」という「高齢者社会活動マッチング推進事業」を担っていただき,「わくわくサポート三鷹」で高齢者の就業相談や就職活動セミナーの支援などをしています。これも,元気高齢者が元気高齢者及び元気になりたい高齢者を支援するという取組です。
 また,三鷹市では,「コミュニティ・スクールを基盤とした小中一貫教育」を平成18年ににしみたか学園から始め,もう10年たっています。七つの中学校区全てがコミュニティ・スクールを基盤とした小中一貫教育をしておりますが,このコミュニティ・スクール委員会委員に,高齢者も地域の代表として積極的に参加をしていただいています。しかも,授業支援やクラブ支援をするNPO法人や市民ボランティアも,圧倒的に65歳以上の高齢者です。地域子どもクラブという放課後の支援,おやじの会,父親の会のキャンプ指導等にも応援に関わってくださっています。
 子ども・子育て支援活動にも多世代交流と生涯学習が顕著でして,実は三鷹市は全小学校区に「青少年対策地区委員会」,「交通安全対策地区委員会」があります。青少年委員,補導連絡員,子ども会,児童館ボランティア,ファミリーサポートでも,高齢者が学びながら活動をしてくださっています。
 特に,「ファミリー・サポート・センター」事業の援助会員は高齢化しています。60代24%,70代15%で,すなわち,一度,支援を受けた皆さんが,今度は子育てを卒業して子育て支援をボランティアでしていただいているわけでございます。
 このところ支援を求める人は増えていますが,支援をする人の確保が必要です。したがって,高齢者にも研修を受けながら子ども・子育て支援,在宅子育て支援に加わっていただいています。
 三鷹市の生涯学習施策と子育て支援施策は密接に結び付いています。少子長寿化の中で,高齢者を支援する「みたかふれあい支援員」の取組や「傾聴ボランティア」,「地域福祉ファシリテーター」の取組は,「学びと活動の循環」の例ですが,子育て支援施策につきましても,ファミリー・サポート・センターやコミュニティ・センターでの取組,子ども家庭支援ネットワークの取組などを含めて,特に在宅子育て支援には高齢者が活躍をしていただいています。
 長寿化と生涯学習を考える視点として,高齢者の生涯学習を見てみますと,学習内容や手法が「多様化」しています。また,高齢者を対象とした学習機会が「多世代化」しています。高齢者だけを対象とするのではなく,一般的な学びの場に積極的に高齢者が参加してくださっています。
 2点目,長寿化に関する諸課題も「多様化」しています。先ほどお話がありましたように,正にダブルケア,子育てをしつつ高齢者の介護をするという課題があるわけです。長寿化に関する諸課題の多様化には,学習分野の拡大が欠かせません。
 3点目,長寿化がもたらす地域課題を解決するための生涯学習の活動の分野として,実は「少子長寿化」が存在するのです。
 最後に,地域課題を解決するための活動には,多世代交流と高齢者による学習と活動の循環が見られます。活動は,ボランティア活動であったり,もちろん就労であったり,多様化しています。本日,お二人の御発表にもキーワードとして多世代交流がにじみ出ていましたし,学習と活動の循環が披歴されたことを心強く思います。三鷹市の実態でもそのようなことが進んでおりますので,是非,高齢者が学ぶことで活動と循環し,多世代が交流することで地域の活力が元気創造に結び付くことを願っています。
 以上で報告を終わります。御清聴ありがとうございました。

【明石部会長】
 藤原部長,清原市長,ありがとうございました。
 お二人の御発表に関して,残りの時間15分程度を使いまして質疑に入りたいと思います。では,山野委員からお願いします。

【山野委員】
 すばらしい御報告,ありがとうございました。初めに藤原先生がエビデンスに基づいてお話をしてくださって,しっかり効果も見せてくださり,本当にすばらしいと思いました。
 2点ほどお伺いです。一つは,多世代連携のプログラムを実行していく上で,学校や様々なところと調整しないといけないと思います。私も大阪人ですから三方よしというのは商売人の感覚でよく現場でもやっているところで,ここでの学校の反応,それぞれの個別の教員の反応,あるいはデータの共有を学校の教師たちともしているのかが1点お伺いです。
 二つ目は,これだけの多世代連携プログラムを作るためには,連絡会などを持っておられるのか,うまくいくためのポイントをお聞きしたいと思いました。同じように,三鷹市長にも,うまくいくための多機関連携のポイントがあれば教えていただきたいと思いました。

【明石部会長】
 では,まず藤原部長。

【藤原研究部長】
 学校との連携につきましては,学校にはいろいろなボランティア団体も出入りしており,信頼の置ける団体かどうかが第一関門で重要だと思います。例えば,我々が特に最近,行政とタイアップするときも,高齢支援の部署が健康作りや介護予防などの一つでボランティアの養成を受託したり,協働でやったりすることがあります。一方,実際の活動場所は,保育園の場合は健康福祉のラインですが,教育や幼稚園の場合は教育委員会のラインですので,そこで確かに少し境があるかと思いますが。そこは,実際のところは,地元のPTAでやっていらっしゃった方あるいはコーディネーターのような方を介して,信用のある団体ですということでお取り次ぎいただいた後,シニアボランティアやそれを指導してきた人と各学校を回るという形になるかと思います。
 そのときに学校側としては,役所なりどこかが養成した団体で,全く氏素性のない団体ではないということが分かれば,あとは校長先生の個別対応で話を聞いてくれるところ,聞いてくれないところがあるということです。入り口は,行政間のセクションは違いますけれども,誰か地域の方が入って一緒にコーディネートして入っていけば,そんなに問題はないかと思います。幾つかアンケートをさせていただいたときも,必ず学校の御協力を頂きながらやっておりますので,結果のフィードバックはやっております。
 こういった取組の中で,更にバージョンアップした活動に行き着いた例がございます。絵本の読み聞かせというと,普通は朝の始業前などに5分,10分読んで終わりというのがほとんどです。しかし今,子供の方も少子化しておりますので,6年生と1年生をマッチングして何か教育なり活動をさせるという取組をされており,そういう中で,シニアボランティアが絵本の読み聞かせをやってくれていることから,6年生が1年生,2年生に絵本の読み聞かせをするということを先生方が思いつかれまして,その6年生に指導する係をボランティアにお願いしますといった応用のプログラムに発展したという事例でございます。
 これは小学校だけではなくて,高校の場合も,生重委員にもかなり御尽力いただきましたが,杉並区で,総合の授業の中でシニアボランティアが高校生に絵本の読み聞かせを教えて,その子供たちが次に保育の実習に行ったりするときのスキルを身に付けるといったところに応用になった事例もあるのではないかと思います。

【清原委員】
 ありがとうございます。
 こうした取組を多くの機関で連携していくときには,やはり最初の一歩のときには市がきちんと責任を取るということが大事だと思います。特に長寿化の課題であれば,これは11月13日号ですので,本日は皆様にお配りできませんが,広報で「ケアネット特集号」を発行して地域の皆様の取組についてしっかりとお伝えすることとしています。また,最初にこうした活動を作るときには,地域で今まで活動してこられた町会・自治会,住民協議会といった皆様の活動をまず尊重して,皆様と時間を掛けて話し合いながら,医師会や歯科医師会,薬剤師会といった皆様と行政との連携の中で,マッチング,出会っていただくということだと思います。その中で,市民の皆様の「今までと違う課題が長寿化の中で生じているから学びの機会が欲しい」というお声から,傾聴ボランティア養成講座も生まれましたし,地域福祉ファシリテーター養成講座も生まれました。ですから,市民の皆様に「これが必要です」と何かお示ししたのではなく,市民の皆様から「活動するにはこのような学びが必要です」という問題提起があって条件整備をさせていただいています。
 また,子ども家庭支援ネットワークという,公共機関の連携による子育て,特に要保護児童を支援するネットワークがございます。そうした取組の中で,身近な近隣の皆様が要保護児童を発見したりすることもあるわけで,そうした皆さんから,もう少し子育てを支えたいというお声があって,当初,ファミリー・サポート・センターなども生まれたと承知しています。したがって,行政がお膳立てをし過ぎることなく,しかし,地域のニーズがあったときに一緒に考えていきませんか,ということです。
 そのときにすごく有り難かったのが,藤原部長の所属されている機関もそうだと思いますが,中立的な研究所や中立的な大学・研究機関,あるいは地域であれば生涯学習センターや社会教育会館などとの連携が有効ですし,特に三鷹市で有り難かったのは,「コミュニティ・スクールを基盤とした小中一貫教育」を始めさせていただいたので,保護者の皆様と地域の皆さんが教育や子育てについて垣根なく出会うチャンスも生まれ,余り抵抗なく出会えた点です。特にすごく有り難かったのは,学校のクラブ活動を助けている市民の皆様が「自分は縁がなくて子供を産むことができなかったけれども,学校に入っていって地域の子供を支援することができるのは本当に幸せ」と言ってくださったときです。ですから,私としては,コミュニティ・スクールあるいは学校と生涯学習,社会教育の接点というのはとてもたくさんあるのではないかと感じています。そして,行政が出過ぎることなくコーディネートしていき,地域のリーダーやコーディネーターにバトンを渡していくことが重要ではないかと思います。

【明石部会長】
 ありがとうございました。
 生重委員。

【生重委員】
 私もお二人に質問です。
 藤原部長に御紹介ただきました,紙芝居の一座についてです。高齢者の方たちの紙芝居一座を作っていただいて,地元の物語を発掘して絵を描き起こし,ストーリーを紙芝居として読むところまで作っていただくというものです。だんだん皆さん腕が上がっていって,今,杉並で始めた活動が,青葉などにも広まり,吉祥寺では,商店街と連携して,定期的にデパートの前などで高齢者の方がイベントをやると大勢集まってくるほどです。
 これをやったときに私が一番大事に考えたのが,ペイワークにならなくても持ち出しをしない。高齢者の方たちが自分のお金を持ち出すと,やはりそれは志があっても長く続いていかない。最初のうちは,お菓子の組合に掛け合って,来てくれた子供たちにお菓子を配るという昔の紙芝居のようなことをしてもらうのと,材料費を組合に出していただくというのをやっていました。しかし,いつまでも付き合ってくれるわけではないので,お菓子を配ってくださるというのは今も続いていますが,あとはそれぞれが自分たちで何とかお金を作り合いながら,イベントやお祭りに出ていって,そこでギャランティーを頂いて個人のものではなく団体のものとして,材料費等に使って,活動を自主的に続けてくださっています。
 そういうことを考えると,諸経費がずっと負担にならないようにしていくということをどうしていくかについて,藤原部長のところも清原市長のところも,今現在は行政が見ているのか,予算が付いているのか,今後どうしていくのかも含めて教えていただけたらと思います。

【明石部会長】
 では,藤原部長から。

【藤原研究部長】
 非常に切実な問題でございまして,今,りぷりんとでネットワーク化して七つの自治体のエリアが同じNPOを作っていますが,地元での通常の活動は,川崎市や中央区,杉並区などで行っています。お礼が出るか,出ないかにもかなり自治体間の格差がございます。もらえる地域はそれを基にプールして,次の新人養成に使う,あるいは交通費をみんなで分けるということができますが,それができないところもありまして,幾つかの助成金なども出すことはできますが,それも当たったり当たらなかったりがあります。そういうものにトライするのもみんな頑張っております。あとは,今,NPO化をしましたので,研修や公開講座みたいなものをやって,そこでお金を集めていくといったことで知恵を絞っているところです。都内のボランティアの場合,交通費だけでもばかにならないような方が非常に多いので,その辺を誰がどう支援していくのかは本当に考える必要があると思います。

【明石部会長】
 では,清原市長。

【清原委員】
 きょうお配りしました『知ってあんしん認知症ガイドブック』の14ページ,15ページを開いていただきたいのですが,例えば三鷹市シルバー人材センターのようなところですと,公益社団法人として経営しているわけですから,参加された方に一定の報酬もあります。また,困ったときの手助けが欲しいということで,ふれあい型食事サービスやごみ出しのふれあいサポート事業,家事などのものがあります。このように,介護保険を利用するものもありますし,高齢者等のごみ出し支援であれば三鷹市で予算を取って取組をしています。傾聴ボランティアにつきましては,養成費は三鷹市がお支払いしていますけれども,それぞれの皆様の活動についてはそれぞれで御負担いただいていることもあると思います。
 ただ,地域で学び,地域で活動する場合,交通費でいえば,例えば無料のバスパスを使っているとか,今は元気だから自転車で行く,いや,徒歩で元気にということがありまして,実はそんなに経費などについてはかかっていないのです。ただ,子ども・子育て支援の取組やファミリーサポート事業につきましては利用会員からはしっかりと一定の料金を頂いておりますので,今,御心配のように,研修などについては行政が保障しつつ,活動についてはボランティア,あるいは受益者負担という形で料金制にしたりしながらやり取りしているということだと思います。
 いずれにしても,いわゆる「金の切れ目が縁の切れ目」になってはいけないので,学習機会はしっかりと保障しつつ,適正な受益者負担も頂きながら,しかし活動の継続性をいかに支援していくかということが重要なテーマになってくるのではないかと今の御質問で再確認いたしました。

【明石部会長】
 ありがとうございました。
 この辺で本日の議題に係る審議は終わりたいと思います。どうもありがとうございました。 では,最後に事務局から御連絡をお願いいたします。

【大類生涯学習推進課課長補佐】
 今後の開催日程についてです。机上に資料を配布していますが,次回第5回は11月28日月曜日,10時から12時に開催予定です。第6回については記載のとおりです。

【明石部会長】
 それでは,本日はこれで閉会とさせていただきますけれども,有識者の先生方,そして市長,本当にありがとうございました。御苦労さまでした。

―了―

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