生涯学習分科会企画部会(第3回) 議事録

1.日時

平成28年9月27日(火曜日)15時30分~18時00分

2.場所

文部科学省3階3F2特別会議室

3.議題

  1. 教育振興基本計画部会における審議の状況について
  2. 有識者からの意見発表
  3. その他

4.議事録

【明石部会長】
 定刻となりましたので,ただいまから第3回中央教育審議会生涯学習分科会企画部会を開催いたします。大変お忙しい中お集まりいただきまして,誠にありがとうございます。
 本日は,教育振興基本計画部会における審議の状況について報告を頂くとともに,社会人の学び直しなどについての有識者の方々に御意見を頂きたいと思います。そして,意見交換を行いたいと思います。
 では,今回初めて御出席いただく委員の方を御紹介いたします。
 生重委員です。

【生重委員】
 生重でございます。よろしくお願いいたします。

【明石部会長】
 次に,本日発表いただく有識者の方々を御紹介いたします。
 労働政策研究・研修機構の小杉礼子フェローです。

【小杉特任フェロー】
 小杉です。よろしくお願いいたします。

【明石部会長】
 次に,東京大学大学院情報学環の山内祐平教授です。

【山内教授】
 山内です。よろしくお願いします。

【明石部会長】
 また,別の用件のため16時過ぎにお見えになります,株式会社ドコモgaccoの伊能美和子社長からも御意見を頂く予定でございます。
 また,文部科学省においても人事異動があったようなので,御紹介ください。

【大類生涯学習推進課課長補佐】
 文部科学省の体制が変わりましたので,御紹介させていただきます。
 大臣官房審議官(生涯学習政策局担当)の神山でございます。

【神山大臣官房審議官】
 神山でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

【大類生涯学習推進課課長補佐】
 続きまして,生涯学習総括官の佐藤でございます。

【佐藤生涯学習総括官】
 1年ぶりに皆さんと御一緒させていただきますので,よろしくお願いします。

【明石部会長】
 それでは,配布資料の確認を大類補佐,お願いいたします。

【大類生涯学習推進課課長補佐】
 お手元の資料の確認をさせていただきます。
 まず,議事次第,座席表及び資料1から6までございます。加えまして,参考資料を二点配布させていただいております。なお,資料6につきましては,これまでの企画部会における主な御意見をまとめたものでございます。御審議の参考としていただきたいと思います。

【明石部会長】
 よろしいでしょうか。
 それでは,議題1に入ります。本日は,まず教育振興基本計画部会における審議の状況について事務局より御説明を受けたいと思います。では,寺坂教育改革推進室室長補佐,お願いします。

【寺坂教育改革推進室室長補佐】
 それでは,第3期教育振興基本計画に関するこれまでの審議状況について御説明させていただきます。まず,資料1‐1をごらんください。
 資料の上側に矢印でお示ししておりますとおり,本年4月の諮問から9月まで,「2030年以降の社会の変化を見据えた「教育の目指すべき姿」」を中心に御審議を頂きました。そして,頂いた御意見を資料1‐2のとおり整理し,21日の中教審総会に報告したところでございます。今後,来年1月の「基本的な考え方」の取りまとめに向けて,計画部会において更に御審議いただく予定としております。
 それでは,資料1‐2の1ページ目の中段部分,「第2期計画を踏まえた第3期計画の在り方」をごらんいただければと思います。ここでは,第2期計画の「自立」,「協働」,「創造」の理念は第3期計画でも生かしていくべき,第3期計画では目標と指標を分かりやすくするべき,社会の側からだけでなく,個人の側からも在り方を考えるべきといった御意見を頂いております。
 次に,2ページ目でございますけれども,ここからは資料1‐3も適宜見比べながらごらんいただければと存じます。「2030年以降の社会・現状を見据え解決すべき課題(例)」でございますけれども,課題を解決し,未来を創造する上で教育の果たす役割は極めて大きいとして,解決すべき課題につきまして,「少子高齢化の進展に伴う就学・就業構造の変化」「技術革新やグローバル化の進展に伴う産業構造や社会システムの変化」「日本の国際社会での相対的地位の低下」「子供の貧困など格差の固定化」「地域間格差の固定化」「家庭や子供の現状と課題」について掲げてございます。
 続きまして,5ページ目でございますけれども,「改正教育基本法の基本理念」を掲げてございまして,これを踏まえることとしてございます。また,同ページでございますが,「国際的な教育政策の動向」といたしまして,G7倉敷教育大臣会合におきまして,教育の果たすべき新たな役割として,「社会的包摂」,「共通価値の尊重」の促進等で一致しており,「教育への公共支出の重要性」も確認していることを記載してございます。
 その上で,資料1‐3では中央に当たる部分でございますけれども,資料1‐2では5ページ目以降に,「教育の目指すべき姿」について,個人,社会という切り口でまとめてございます。
 まず,個人につきまして,6ページのところに入りますけれども,「自立した人間として,主体的に判断し,多様な人々と協働しながら新たな価値を創造する人材の育成」。そして,これにより社会について,「一人一人が活躍し,豊かで安心して暮らせる社会の実現」と「社会(地域・国・世界)の持続的な成長・発展」を目指していくべきという形で整理をしてございます。
 そして,6ページ目以降でございますが,資料1‐3では右側の部分に当たるものでございますけれども,「教育政策の基本的な方針(検討の視点案)」として,今までの御意見を九点に整理をしてございます。
 7ページ目からでございますが,「全ての人に基礎・基本を保障する」については,全ての人が社会に主体的に関わる上で基盤となる資質・能力を育成していくこと,9ページ目でございますが,「新たな価値を創造し,社会をリードする人を育てる」については,個人の資質・能力を最大限伸ばしていくということ。10ページ目でございますが,「生涯学び,活躍できる社会をつくる」については,老若男女全ての人が継続して学習する社会を実現していくこと。11ページ目,「多様な人々が協働し,一人一人が活躍できる社会をつくる」については,多様な人々が協働しながら一人一人が活躍できる社会をつくるべきであるということ。同ページの,「学校・家庭・地域・企業等が連携・協働して人づくり,地域づくりを進める社会をつくる」について,社会総掛かりで人材を育成するとともに,学校を核としたまちづくりも進めるべきであるということ。12ページ目でございますが,「貧困の連鎖を断ち切り,社会の成長・発展につなげる」では,経済的な理由を抱えている人の学習機会を確保し,社会の成長・発展につなげていくこと。13ページ目,「質の高い環境を整える」については,教職員が子供としっかり向き合える環境を整備することや,ICT環境について地域格差のないような形で整備をしていくこと。14ページ目でございますが,「安全・安心な学びの場をつくる」については,学校施設が地域コミュニティの核でもあることから,耐震化・老朽化対策等が重要であること。15ページ目,「日本の優れた教育を世界で展開する」については,諸外国との信頼・協力関係の構築でございますとか,日本の教育機関の国際化,日本の教育産業の海外進出を促進することなどを掲げてございます。
 以上が教育政策の基本的な方針についての検討の視点案ということでございまして,今後、整理・集約をしていくとともに,今後5年間の教育政策の目指すべき方向性等について御審議を深めていただく予定にしてございます。
 続きまして,16ページ目以降につきましては,第3期教育振興基本計画の策定に当たってのもう一つの諮問事項でございます,「教育投資の効果や必要性を社会に示すための方策」について御意見を整理しております。
 ここでは,「教育は未来への先行投資である」ことについての理解の醸成などのために,教育政策の効果の検証が必要であること。ただし,短期的な視点での結果追求にならないよう,様々な評価を組み合わせながら取り組んでいくことが必要であるといったようなことを掲げてございます。
 そして,16ページ目から18ページ目におきまして,教育投資の効果や必要性を社会に示すための体制作り,質的・量的な研究の充実,研究や政策への活用を担う人材育成,教育政策の効果に関する情報収集・発信の重要性,諸外国の状況について頂いた御意見を整理しているところでございます。
 以上,簡単ではございますが,第3期教育振興基本計画に関するこれまでの審議状況について御紹介いたしました。よろしくお願いいたします。
 以上です。

【明石部会長】
 どうもありがとうございました。それでは,菊川部会長代理も私もこの基本計画部会に参加しております。菊川部会長代理,コメントがありましたら。

【菊川部会長代理】
 資料1‐3に九つ視点が出ておりますけれども,生涯学習分科会の関係では,3番目,4番目,5番目が関係部分で質と量を高めていくことが求められていると思います。この5番目の「学校・家庭・地域・企業等が連携・協働して人づくり、地域づくりを進める社会をつくる」につきましては,昨年12月に中央教育審議会から出された三つの答申で理論的な整理ができていると思いますので,あとは実践を積み重ねる段階に来ていると思います。
 3番目,4番目の「生涯学び、活躍できる社会をつくる」「多様な人々が協働し、一人一人が活躍できる社会をつくる」というところについては,今後どう重点を置いていくのか今回の計画でもう少し整理、集約されないといけないと思っております。

【明石部会長】
 ありがとうございました。
 私から,同じ資料1‐3の左側で,「地域間格差の固定化」という記載があります。小学校は,この5年間でも2万4,000校あったのが1万9,000校程度になって,公民館も減ってきている。非常に地域間格差が固定化される中で,学校の良さと公民館の良さをもう少し見直したらどうかということも関心があり,特に生涯学習分科会においては,公民館で学び直しができるような仕組み作り,地域のきずな作りも可能ではないかという感じはしておりまして,それを申し上げたいと思っております。
 同時に,もう一点は,きょうもICT関連の有識者ということで山内教授に御参加いただいておりますが,東大ロボに負けない教育の在り方をどう考えればいいのかという点です。今,東大ロボの偏差値が高くなってきて,日本の子供たちの言語能力が乏しい中で,東大ロボに負けない,人工知能に負けない教育の在り方を5年間でどう作っていくかということも関心のある点です。
 以上が,菊川部会長代理と私からのコメントでございます。
 それでは,議題2に入りたいと思います。有識者の方々の意見発表に入ります。今回は,社会人の学び直しや生涯学習環境の変化について御発表いただきます。
 発表の前に事務局より,社会人の学び直し関係の平成29年度概算要求施策について説明を受けたいと思います。その後,小杉フェローから30分程度の御意見を頂きまして,質疑・意見交換をしたいと考えております。
 続いて,近年の生涯学習をめぐる先進的な取組として,株式会社ドコモgaccoの伊能社長から20分程度,その後,東京大学大学院情報学環の山内教授から30分程度,意見発表を頂き,その後,時間の許す限り,お二人の発表に関する質疑・意見交換という形で進めていきたいと思います。
 では,まず事務局から概算要求についての御説明をお願いいたします。

【小谷参事官】
 参事官の小谷でございます。資料2「平成29年度概算要求(社会人の学び直し関連)について」をごらんいただければと思います。
 前回,社会人の学び直しに関しまして,現状・課題のデータや現時点での文部科学省等の取組につきまして御説明をさせていただきました。本日は,平成29年度の社会人の学び直し関連の概算要求ということで,1ページ目に赤字を付けて書いております,この五つの事業につきまして簡単に御説明をさせていただきます。ページが飛んで恐縮ですが,9ページをごらんいただければと思います。
 まず一つ目が,「成長分野等における中核的専門人材養成等の戦略的推進」ということで,平成29年度の要求額は14億3,000万円となっております。この事業の内容といたしましては,下段の方に書いておりますけれども,「地域版学び直し教育プログラムの開発・実証」ということで,人材ニーズが高い分野におきまして,社会人等を対象として,就労等に必要な実践的な知識・技術・技能を修得するために,専修学校等におきまして,地元企業等のニーズを踏まえたオーダーメード型教育プログラムの開発・実証を行います。
 さらに,「特色ある教育推進のための教育カリキュラム等の開発・実証」ということで,高等専修学校等におきまして,高等教育や就業への継続性のある教育カリキュラムですとか,特別に配慮が必要な生徒等の特性を踏まえた支援体制・教育手法の開発・実証を行うものでございます。
 次のページでございます。「成長分野を支える情報技術人材の育成拠点の形成」ということで,29年度の要求額は22億円となっております。こちらにつきましては,中ほどで事業の内容を書いておりますけれども,大学が有しております最新の研究の知見に基づきまして,現役のIT技術者を主な対象といたしまして,高度な教育,演習・理論等を提供する大学を支援することで社会人の学び直しを促進するものでございます。下の方に図を描いておりますけれども,拠点大学を中心とした産学教育ネットワークを構築して,短期の実践的な学び直しプログラムの開発・実施に取り組むものでございます。
 続きまして,17ページをごらんいただければと思います。17ページの「男女共同参画推進のための学び・キャリア形成支援事業」でございます。29年度の要求額は4,400万円ほどとなっております。こちらにつきましては,女性が子育てをしながら学ぶことのできる環境整備とキャリア形成支援の一体的な推進が必要であることから,今年度,既に女性の学びを支援する保育環境の在り方の検討や,男女共同参画社会の実現の加速に向けた学習機会の充実事業を展開しておりますが,それらを更に発展させまして,中ほどにございますように,大学等における保育の仕組み作りのモデルの構築ですとか,保育環境整備とキャリア形成支援の一体的な実践事例調査ですとか,ライフプランニング支援の大学・社会人教育への展開あるいは地域と大学等の連携による女性の学び支援研究協議会によって,取組報告・課題の共有や人的交流による普及などを目指しているものでございます。
 そして,次のページでございますが,専修学校を活用した地域産業人材育成事業でございます。こちらにつきましては,平成29年度,2億7,200万円の要求となっております。大きく二つの取組がございまして,中ほど以下にございますけれども,一つ目は,「各分野の学校と業界団体等による教育内容の即応的改編・充実の仕組みの創設」ということで,専修学校と産業界・行政機関等を構成員とする協議会におきまして,各分野における人材育成の在り方を検討していただいて,各専修学校における教育内容の改編や充実につなげるとともに,持続可能な協議体制の整備を促すものです。
 それから,「専修学校を活用した社会人等の学び直し機会の提供」ということで,これは更に二つに分かれますけれども,「社会人等の学び直し講座の開設促進」ということで,特に公開講座を実施する際のあい路となっている課題に対する改善方策について実証的に検証・分析を行うことや,あるいは,専修学校が提供する社会人等の学び直し講座を検索できるポータルサイトを構築することなどを盛り込んでおります。
 そして,五つ目でございます。最後のページでございます。「学びを通じたステップアップ支援促進事業」ということで,2,300万円ほどの要求となっております。こちらにつきましては中ほどに趣旨を書いてございますが,国におきまして,特に就職等の厳しい高校中退者等を対象といたしまして,高等学校卒業程度の学力を身に付けさせるための学習相談や学習支援のモデルとなる地方公共団体の取組について実践研究を行うというものでございます。概要が更にその下に書いてございますけれども,教育委員会事務局OB等によります,学びに応じた教科書や副教材の紹介など学習に関する相談・助言や,図書館等を活用して学習者に対して学習の場を提供する,あるいは,それに対して更にボランティア等の協力を得て,学習者の自習を支援するといった事業でございます。
 簡単でございますが,以上でございます。

【明石部会長】
 参事官,ありがとうございました。
 では,続きまして,小杉フェローの御意見発表でございます。小杉フェローは労働政策が御専門でございまして,厚生労働大臣の諮問機関である労働政策審議会の委員のほか,文科省の中央教育審議会の実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する特別部会の委員などもお務めになっております。
 それでは,小杉フェロー,御発表をお願いします。

【小杉特任フェロー】
 小杉です。きょうは,最初お話を頂きまして,基本的には私が文部科学省の「これからの専修学校教育の振興のあり方検討会議」で発表した内容と,それから,少し前に「生涯学習学会年報」に発表させていただいた内容に御関心を持っていただいたとお聞きしまして,その枠組みでお話をさせていただきたいと思っております。
 二つの話ですが,基本は同じところにあります。日本の雇用慣行のお話です。これもよく御存じのとおりで,大企業,あるいは,こうした官公庁を中心にある雇用慣行です。新卒で採用して,長期雇用を前提にして,外の学習機会ではなくて,企業内での能力開発,特にOJT,場合によっては人を育てるための配属までする。そういう日本型の雇用慣行の世界がある。この世界があるから,一方で生涯学習が余り進展しない,そのようなことも言われています。
 そういう状態がある意味では従来型の認識だと思いますが,従来型の認識は,ある意味一面を捉えただけで,そうではないところもたくさんあるのではないか。そのようなことついてお話をしたいと思います。
 一つが,男性中心の企業に正社員で入った人たちではなく,その後,急激に増えている,女性が多く入っていた非正規雇用の分野です。この分野というのは,まさに能力開発の機会も少ないし,企業の中で一生なんていうことは全然考えられてない分野です。この分野は1970年代,80年代に広がりまして,働いている女性本人も家庭を大事にする働き方を考えていらっしゃる方が多くて,仕事そのものは低賃金ですが,就業時間などは柔軟性があって,きょうはPTAだから休みますとか,そういうことが非常に言いやすいような働き方をしていました。仕事内容は限定的で責任も小さい。こういう働き方での非正規雇用が80年代まではぐっと広がりましたが,もっと幅広く非正規雇用が拡大していったのが90年代です。
 90年代というのは,企業にとっても非常に経営環境が厳しくなる中で,要するに,グローバル化の中で変化の頻度も大きくなったし,変化の幅も大きくなるという中で企業活動を続けていくために,正規雇用,パーマネントの仕事を限定的にして,テンポラリーの仕事の仕方を増やしていくことが多くの国で起こったことだと思います。そういう中で非正規雇用が拡大していき,その結果として,限定的な働き方をしたいという人だけではなくて,本当はフルタイムで働きたい,パーマネントで働きたいという若い男女が,数多くこの非正規雇用の市場に入り込むようになった。
 ここで大きな問題が起きて,これが2000年代の初めあたりからずっと言われてきた若年非正規雇用の問題で,能力開発は企業に正社員で入ると,企業内の能力開発で,かなり手厚くされますが,そうではない人たちに対してはなかなか機会がない。そこが大きな問題になっているということで,ここの部分でもっと社会的に人を育てる仕組みが必要ではないかというのが,これがきょうの話の一つのポイントです。
 もう一つお話ししたいポイントというのは,企業の中にいる人についてもそうなのではないかというお話です。ここはもう明らかに大企業と中小企業で大きな差があって,中小企業ではもともと能力開発機会が非常に少ない。あったとしても,時間とか費用とか,そういうところでかなり弱いですし,それから,企業独自ではなかなかできなくて,業界団体とか同業者組合とか,そういうところの機会を多く使うような,そういう形の能力開発でした。
 そういう弱小な能力開発の実施機会があったわけですが,一方で,ここに大きな変化が起きてきて,きょうお話があると思います情報化,ICTの話が特に大きいと思いますが,能力開発が企業の中での封鎖的な技術ではなくなってきているというところです。技術そのもの,まさにIoTの話はそうだと思いますが,単独の企業の中,一つのある業界の中だけの話ではなくなって,例えば自動運転技術などは,いろいろな分野が全部連動しなければうまくいかないような,そういう時代になってきているわけです。
 技術も,一つの企業の中の固有の技術だからという形ではなくなって,情報化,技術革新というような方向の中で,企業横断的かつ専門性の高い技術という方に技術の需要が変わっていっているのではないか。
 また,社会的なリスクは非常に大きくなっていますし,そういう中で能力開発はもっとなされなければならない状態です。企業の中だけで済む状態ではなくなっているのではないか。もともと弱かったところに加えて,大企業分野でも,より幅広い,一企業の中だけでは済まないような技術の習得が必要になった。こういう時代背景があるのではないか。そこで,企業の外に一つの,私どもは「教育訓練プロバイダー」と言っていますが,教育訓練を提供する,ドコモgaccoさんも恐らくそうかと思いますが,教育訓練を提供するプロバイダーというのが,現在,非常に拡大してきています。
 ここのところで,私は生涯学習として,民間企業だけではなくて,あるいは,民間企業をある意味使いながら,より広い文教政策,文部科学政策としてこの分野も大事なのではないか,この二点をきょうはお話しさせてもらおうと思っています。
 最初に申し上げた,若年者雇用の「生涯学習年報」で書かせていただいたのは今お話した内容で,前回,専修学校の会議で発表させていただいたのは,実はこの認識の中を少し専修学校の方に寄った形で話させていただいたということです。
 最初の若年者雇用のお話です。論文の中ではその当時のデータを使っていますが,スライドのものは最新のデータで,非正規雇用者と正規雇用者でどのくらい格差があるかというのを数字で表したものです。特に20代に限っていますが,20代から30代は,実は一番能力開発投資が多い時期です。その時代で正社員と非正規雇用者では,OJT,off‐JTを経験した人の比率,あるいは,off‐JTの年間平均受講時間数、計画的OJT実施事業所数,どれを取ってみても非正規雇用者の割合は正規雇用者の半分から3分の1ぐらいというのが大きな違いです。
 企業は当然,能力開発投資をするのは,長期に勤続が見込めて,投資したものが回収できる人になりますので,企業の活動から言えば,正社員にウエートが掛かってしまうのは企業の論理として当然なところがあります。では,企業が余り投資してくれないとしたら,個人が努力しなければいけないのか。自己主導の能力開発,個人が自分の力で能力開発をしている状態がどうあるかを取ったものが,3ページの下の数字です。
 自己啓発を個人で実施した非正規雇用者は正規雇用者の3分の1ぐらいになります。そのときに,年間どのぐらいの時間、自己啓発をしたか。もともとレンジで捉えているものを,中央値をとって平均したので余り正確ではありませんが,平均するとこのくらいの差になります。ただ,実際はすごくたくさんやった人と少ししかやらなかった人の差が大きいので,平均で語るのは余り妥当ではありませんが,正社員と非正規雇用者では違うという話だけで見ていただければと思います。
 それから,本人が負担した受講費用ですが,20代ですと,3万2,000円と2万6,000円と差があります。もともと収入が大きく違いますので,やはり大きな差がある。1,000円未満という人が実は一番多くて,つまり,本を1冊買ったレベルです。そういうレベルの人が一番多くて,これが正社員だと29%,非雇用雇用者だと43%の割合です。
 能力開発の費用にどこかからの補助があったか、ですが,補助があったという人が,正社員だと半分ぐらい,非正規雇用者だと4分の1ぐらいです。今のデータですが,自己啓発を行った人で,費用の補助を受けた人のうち,どこから費用の補助を受けているか,ですが,正社員の場合にはほとんど勤務先です。非正規雇用者の場合,勤務先は半分ぐらいです。これは少し手前みそですが,厚生労働省の教育訓練給付金がかなり使われているという状態です。そのほか,労働組合も出しています。こういう,勤務先企業が出して足りない分は,社会的に担うことが少し広がってきたという状態です。
 ただ,正社員以外の人だと自己啓発を行った人自体が16%ですし,そのうち補助を受けた人が3分の1にも満たない。さらに,これだけしか支援を受けてないということで,実は非常にわずかな社会的支援しか受けてないということになります。これだけ非正規の若者は能力開発の機会がないという状態です。
 ここまでが,つい最近出されました能力開発基本調査という調査ですが,この調査の弱点は,調査対象が30人以上の常用労働者がいる企業なので,比較的大きいというか,本当の小さい企業は全然入ってこない。小さい企業ほど実は能力開発の投資をしてない,できない状態なので,もっともっと実は能力開発をできない人はたくさんいると思います。
 これに対して次のデータは就業構造基本調査という,世帯を中心に取っているので,中小企業まで全部入ります。そういうところに勤めている15歳から34歳の人たちが,どれだけ自己啓発をしたか。正社員の3割に対してアルバイト・パートだとその半分ぐらいの人が自己啓発をしている。その自己啓発をしたときに,どういう機関を使ったかというので,少しこれは文部科学行政に関係があると思うので出してみましたが,どれも自学・自習が一番多い。本を買って読んだというのが一番多いのですが,やはり正社員だと,会社の主導で関連される講習会・セミナーなどが結構多い。非正規雇用者の方が,実は各種学校や大学などを使っている確率が高い。恐らく,これは時間の問題だと思います。非正規雇用の方の方が時間はある。あるいは,このままではどうしようもないから何とかしたい。とすると,簡単なセミナーなどでは恐らく,社会に通用する資格は取れない。そこで,資格が取れる専修学校,あるいは,やはりきちんと学べて,何かの形でそれを,ある意味で能力証明として使えるような大学などの方が,非正規雇用の人が比較的,正社員に比べると多い。量的にそこまで多いわけではないですが,このような現状があるのではないかと思います。
 その自己啓発について,問題点としてどのようなことが言われて,本人への調査で本人がどう感じているか。一番多く言われており,もともと,どのような調査をやっても,個人にしても,企業にしても必ず出てくるのが,お金がない,時間がない,この二つです。女性だと,育児が忙しいというようなことで時間がない。それから,お金がない,費用が掛かり過ぎる。必ず,これがトップ2で出てきます。
 若い人に限ると,少し増えてくるのが,「自分の目指すべきキャリアがわからない」「どのようなコースが自分の目指すキャリアに適切かわからない」という点です。まさに自分のキャリアの方向が見つからない,見定められない。正社員と比べると非正規雇用の方が多くなって,正社員は自分が勤めている企業の中でキャリアを考えるという方向性があるのでまだ良いのですが,最も方向性がないのが非正規雇用の人たちです。この辺の能力開発とキャリアの方向性をどうするかというのは,若い人に限って言えば,必ずセットで考えていかなければいけないことだと思います。
 こういう能力開発が正社員になるのに有効だというようなこと,いろいろなことで,この辺の研究者はよく研究しているのですが,今の就業構造基本調査から,正社員につい最近替わった人たちと,ずっと非正規雇用であった人たちが過去1年間にどんな能力開発をしたかというので,はっきり差が出ている部分がこの自己啓発で,やっぱり正社員になった人は自己啓発した確率が高いというのは言えるだろうと思います。
 誰が正社員になっているか,今,いろいろな研究がされていますが,その中で大きなウエートを占めるのが,能力開発です。能力の向上を非正規雇用の時代にどうやるのか。これが正社員になるに当たってプラスになるという,そういうエビデンスがいろいろな形で得られています。
 そこで,非正規の若者に対する能力開発をどうするかというのがポイントで,そこで,生涯学習に対しても,そこをかなり期待したいところです。特に,正社員になるのが難しいのは誰かというと,年が経ってしまった人です。20代だったら,まだかなり可能性が高いですが,30代後半になってしまうと,そこまで正社員をやってこなかった方に対しては正社員の壁は大変高くなる。そこで,これは個人のキャリアをかなり詳しく聞いたデータの分析ですが,やはり資格が重要であるという話です。それも,30歳になってから新たに資格を取った人がかなり正社員になれているので,やはり30代後半を正社員にするための何か武器といったら,やはりしっかりとした職業資格を取ることが現実的です。そういう点で,やはり資格に結び付くような生涯学習がポイントだろうと思います。これが前半の話です。
 後半のお話というのは,これは教育訓練プロバイダーという,企業の外にある教育訓練機関が非常に拡大しているという話です。これはもう今から10年ほど前にやったものなのでかなり古いですが,考え方とすればこういうことです。
 政府の能力開発の予算があって,それから,企業の部門で提供している能力開発の予算がある。その能力開発の予算のうち,自家消費というのは,企業内で自分のところで講師を雇って行うもので,外の企業を雇うというのがアウトソーシングです。4,900億円くらいがこちらに来るんですが,ここでいろんなところに出てくる。
 それから,政府の能力開発投資というのも,外の機関に流れていく部分が513億円くらいあって,教育訓練給付金が404億円くらいです。今,ここがずっと拡充されていますので,もっと多くなっています。ということで,実は外の教育訓練プロバイダーのところにこれだけのお金が回っているだろうというのが10年前の数字です。
 それから,その部分だと,これは機関とか政府の投資だけなので個人投資が入ってない。個人投資を見るために何をしたかというと,教育訓練のプロバイダーがどれだけ年間に社会人に対する教育訓練によって収入を得ているかというのを別途調査して,大体その当時で1兆3,000億円くらい,個人も入れればそのくらいの教育訓練市場があるとされました,最近全く調査をやってないので分からないですが,間違いなくこれは大きくなっていると思います。そういう市場が大きくなる中で,こういう外の教育訓練をどれだけ文部科学行政は認識しているのか,そこを考えたいと思います。
 次からはまた違う調査です。ここの部分が専修学校の会議で発表させてもらったものですが,これは企業が,大学や大学院等を従業員が受けることに対してどういう認識を持っているかということを見たものです。従業員100人以上規模の抽出で,ある程度抽出はきちんとしていますけれども,そこでどれだけ業務命令で受講されている事例があるのか,業務命令での受講ではないが会社として何らかの支援をしている,また,してないという形で分けたときに,全くしてないが一番多いのですが,22.7%の企業が業務命令又は会社として支援するという形で,専修学校や大学の何らかのコースを受講させている,受講を支援しているという事実が出てきました。これを多いと見るか,少ないと見るか。私は,結構多いという認識を持ちました。
 これまでの日本型雇用慣行の世界の中で,企業は大学院等に行かせる際,アメリカのMBAを取りには行かせますが,日本国内には行かせない,そういう選択をしていて,日本国内で社会人が大学院で学ぶことを余りプラスだと思ってない企業が多かったと思います。そのあたりの認識は少し変わってきているという認識を持ちました。特に大企業分野でもこれだけ支援するところが増えていまして,ある程度認識が変わって,それだけプロバイダーである大学も提供する内容が,先ほど御説明いただきました予算でも出てきましたが,産業界と連携した部分が随分多くなってきて,企業側の認識も変わってきたと思います。
 これは支援の内容ですが,内容で多いのは,お金の問題と時間の問題がネックなので,お金と時間を何とかしてあげようということで,授業料の一部と,それから,授業のあるときにフレキシブルな勤務体制にして授業に出やすくする,こういう工夫がされている。これも,大学院等で34%,3分の1がそういうことを言っているので,かなり良くなってきていると思います。以前はよく隠して,会社に知られないように行くというようなことがありましたが,少し変わってきたかと思います。
 支援企業では,どんなところに配慮しているか。資格を取ってくれれば異動に当たって配慮する,昇進に当たって配慮する。ある程度内容について認識していて,それを企業内で生かしてもらおうとしているということです。
 これは,支援しているところと支援していないところで評価がどうか違うか。支援しているところは,専門性を高めることができるとか,専門性だけではなくて,幅広い知識を習得することが結果としてプラスになるというような認識を持っていて,それから,もう一つ,モチベーションが高まる。こういうところでも評価して,支援していることが分かります。
 以上のところまでが,企業内の支援が案外広まってきて,ある程度評価するような社会になってきたのではないか。教育訓練を提供する市場は拡大しているし,企業も認識が変わってきて,少しそういうことを活用するとように変わってきているのではない。
 最後のところは,専門実践教育訓練給付金のお話です。この給付金は,まだできたばかりですが,専門学校の中の職業実践専門課程は,基本的にこちらの給付金の対象になるわけで,あるいは,専門職大学院もこのコースの対象になり得る,そういうものです。
 まだ始めたばかりで,資料にある調査は最初の給付を受けた人です。平成27年10月末に給付を受けた人がどんな人だったかということを示しています。大体20代から30代,若い人が受けています。そして,正社員で入っている人と非正規雇用で入っている人,今,就業してない人,これが4対2対4くらいの比率です。この給付金はそもそも雇用保険に最低でも2年以上入っていた人でなければ受けられないので,非就業の方も,前の仕事を辞めてから1年以内の人だと思います。こういう人たちが,この給付金を受けて能力開発をしている。講座の受講理由というのは,恐らく,無業の方や非正規雇用の方の将来のキャリアアップのためというのが現状だと思います。
 どんな分野の訓練を受けているか。正社員の人は,専門職学位が圧倒的に多い。MOTなどです。それから,非正規雇用の方と非就業,今,仕事をしてない方というのは,これはもう完全に職業資格取得です。それも,医療,福祉系の。まさに労働力需要が今沸騰しているところです。労働力需要がある分野で受給されています。この制度では受講費用の40%,年間で32万円までとかなりの額が支給されますので,活用されているのだと思います。
 ただ,そこでどう分野で活用されているかという話になってくると,専門学校の職業実践専門課程では実は使われてないというのが結果として見えています。こちらは雇用保険データから取っています。業務独占資格ということで指定された講座では受給実績がある割合が高いのに対して,専門学校の職業実践専門課程というのは,課程数は551と非常に多く課程数が指定されていますが,この中の70講座だけしか受給実績がない。
 例えば,専門職学位だと71講座指定されていて,そのうちの50で実績がある。つまり,ここに通っている人たちが給付金をもらっています。専門実践教育課程というのは,これは受給者の数にすると,もっと違いがありまして,ここだと102人しか実は受けてない。専門職学位だと1,300人近く受けているわけです。この辺,かなり違いがあって,たくさん講座を認定しているけれども,社会人が十分活用して学んでいないのではないか。この給付金の対象になるような社会人はまだまだここは使われてない。まだこの辺は開発の余地がすごくあるところだと思います。
 何がネックか。ここで見てみますと,夜間,土日,通信,こういう講座だと受講実績のある比率が非常に高いのですが,昼間課程だと受講実績が非常に少ない。今のところ,職業実践専門課程は18歳の方をまだまだ向いているので,社会人のコースとして,社会人が学びやすいようなプログラムは今のところ,まだ提供できていないのだろうと思います。
 今必要とされているのは,一つは,非正規雇用,無業である人たちに対して資格が取れるような講座である。もう一つが,今,まさに正社員として働いている人たちに対して新しい,これから必要な技術というものを提供していけるような学びの機会,これをどう提供するかだと思います。給付した人の実際受けているコースですが,看護師の次が専門職学位,社会福祉士と並んでいます。
 最後は,専門実践教育訓練の概要です。古い資料ですが,今これにIT系の資格で4社の資格が入っています。
 以上で,発表を終わらせていただきます。

【明石部会長】
 小杉特任フェロー,ありがとうございました。
 では,これから質疑に入りたいと思います。何か御質問,御意見ありましたら,よろしくお願いします。
 清原委員。

【清原委員】
 ありがとうございます。三鷹市長の清原です。小杉特任フェローから,データに基づいて,職業能力の向上開発において,若年非正規雇用問題と企業外の教育訓練プロバイダー活用の二つの類型からお話をしていただきました。
 先ほど,来年度の概算要求の資料18ページに,「専修学校を活用した地域産業人材育成事業」というのがございました。これは,「産業界からの最新の人材ニーズに対応した教育の実施」とともに,「学び直しニーズに対応した教育機会の提供」ということになっています。特に,自治体の立場から注目いたしましたのが,この枠組みで「専修学校と産業界・行政機関等を構成員とする協議会において,各分野における人材育成のあり方を検討し,各専修学校における教育内容の改編・充実につなげるとともに,持続可能な協議体制の整備を促す」となっている点です。すなわち,地域版協議会によって,専修学校と地域の企業や業界団体と,また行政機関も,これは都道府県や市町村で類型は違うと思いますが,そうした中で学び直しと職業能力の開発あるいは強化,そういう取組というような概算要求の内容が示されました。
 そこで,小杉特任フェローの実態に即した取組の中から,若年非正規雇用の方が,意外に専修学校で学んでいる率が高いという御指摘もあって,こういうような,地域の企業や産業と専修学校が結び付きながら,恐らく自治体の就労支援や若者支援などの取組とうまくミックスをして実績を上げていくということについて,その可能性,あるいは課題について御意見があれば伺いたいと思います。よろしくお願いします。

【小杉特任フェロー】
 それは非常に可能性のある事業だと私も思います。ただ,ターゲットをどうするかということをきちんと絞らないといけないと思います。企業と学校が提携してというと,一つ考えられるのが,もう一つのプロバイダー関係の方でお話しました,企業に既に就業している人たちの能力を高めるためのプログラム,在職者を支援するプログラムです。これは,一つの枠としてこの中に収まりますが,そうすると恐らく,行政はそこでは余り役を果たさなくなる。行政の役目を果たすところは,地域でうまく社会に参加できてない人たちが社会に参加して,地域そのものの力を高めるという,そういう形だと思います。そこで行政が入るということは,ある意味で税金を使って入るわけですから,税金の意味が出てきます。
 どちらにターゲットを絞るかということだと思いますが,どちらもありで,行政もどういう行政機関が入るかが問題です。経済産業系の行政機関であれば,企業内の人材の育成をするというタイプの考え方で良いわけです。社会福祉系の行政機関であれば,社会の一体化が目的ということになり,行政がどちらのスタンスなのかもかなり影響してくるだろうと思います。
 それから,人材の養成というのは,需要と供給をうまくマッチさせる必要があるので,地域にどんな企業があるか,どんな人材需要があるかということと,地域の中で,今,就業できない人たちというのは一体どんな人材であるか。それにどのぐらいの能力アップをすれば,要請されている企業の要請に合うのか。その辺のバランスもあるので,その地域地域でどちらの課題に向かうのか十分検討して,メンバーもそこから考えなければいけないと思います。可能性はすごくあると思います。

【清原委員】
 ありがとうございます。今,「地域の実情に合わせて」というキーワードを頂きまして,やはり全国には比較的産業が集積しているところと,逆に,若年層が進学等でその地域の外に出てしまっていて,雇用機会を生み出さないと,若年層がなかなか戻ってこない,定着しないという課題のある自治体もあります。そういう意味で,専修学校の皆様の力によって,一方で若年人口の定着や,あるいは起業や創業も含めて,そういう連携もあるでしょうし,他方,相対的に研修機会などが少ない地域の産業がまた連携することによって,今の時代に合わせた,後ほどの話題になるICTの力を更に増していくなど,そのような可能性もあると思いました。方向性として今,小杉特任フェローのお話を聞いていて具体的なイメージも湧いてきましたので,今後に期待したいと思います。どうもありがとうございます。

【小杉特任フェロー】
 三鷹というと,アニメ産業などがすぐ出てきますが,やりたい若い子はたくさんいるけれども,それでは食べていけないということに問題があって,産業といっても課題が随分違うわけです。たくさんその業界に人材を投入して,食べていけない人を増やしてもしようがないので,ある意味では食べていける産業というのも大事な視点です。

【清原委員】
 ありがとうございます。

【明石部会長】
 ほかに御意見ありますか。菊川部会長代理。

【菊川部会長代理】
 専門実践教育訓練給付金の受給者を見ていますと,例えば,看護師などの非常に専門職的な,あるいは国家資格的な職業の方がいらっしゃいます。それ以外ですと,普通のホワイトカラーですと専門職学位ということになっています。今課題になっている若年非正規雇用の,特に30代以上の若年非正規雇用の方々が何らかの形で職につくとしたら,その職というのは,どちらかといえば,普通の小さな会社や,普通の小さな工場ではないかと思います。そういうところに,確実に職につなげていくための職業訓練というものはどう考えたらよろしいでしょうか。

【小杉特任フェロー】
 その辺は,公共職業訓練とか,あるいは委託訓練のような形で,もっと短い期間,3か月程度のものは既にあります。しかし,そういう訓練だけでは,本人が望むような仕事に就けない人たちがいて,そういうときに,資格を取るところまで,ある程度面倒を見られるような公共の枠組みが必要だと思います。
 今までも,この専門実践教育訓練支援給付金というのは,これまでにない高額の支援金を出して,かつ資格が取れるまで3年間出すという,すごく大盤振る舞いの提供です。それ以外のところで,既に3か月コースのようなものをたくさんやっていたし,教育訓練支援給付金の中で,もともとはもっと短い期間で取れるものがありました。恐らく,製造業のものづくりの現場に入るときには,既に公共でやっている訓練がすごく有効で,こちらの方で育成していくことはできるのですが,本人の希望,あるいは地域の状況などでそうはいかないこともあります。そういうものづくり分野に入るという方向ではない人たちもたくさんいるので,そういう意味では幾つかの選択肢が必要だということだと思います。

【菊川部会長代理】
 全然詳しくはないのですが,公共職業訓練所等で,技術革新などにより日々必要な技術が変わっていっていますけれども,それに応じて教える内容が適切に変わっていっていると見ていますか。

【小杉特任フェロー】
 労働力需要との接点は常にやっていますので,今回も文部科学省の枠組みでも,学校と企業と連携してという話ですが,全く同じことが厚生労働省の訓練でもやっていますので,今必要な,需要に応じた訓練ということに常にブラッシュアップはしています。

【菊川部会長代理】
 ありがとうございました。

【明石部会長】
 では,今野委員。

【今野委員】
 きょうはありがとうございました。特に企業で大学等の受講に対して支援等をしているのが二十数%あるとか,それから,研修後,様々な人事上の扱いでもプラスにやっているというのは数では非常にはっきりと出てきたように思いますし,また,個別のことでも評価する向きが非常にはっきり出ていると思います。15年か20年ぐらい前は,企業の人事の人と話をすると,本音のところでは,外部のいろいろ資格を取るのは余り前向きな評価をしないというような人が非常に多かったような気がしますが,こういう調査から見ると,大分企業の考え方は変わっているようですが,そのあたり,いかがでしょうか。

【小杉特任フェロー】
 全く同じ感想を持っています。この結果を見て,案外多いと思ったのはそういうことです。かつての日本型雇用慣行の世界というのは,企業の中で技術などが全部封鎖されていて,外に対して余り求めないという,そういう方向が色濃くありました。しかし今回,大企業も含めて結構評価しているというところで,それは恐らく,技術の本質が変わってきているのだと思います。その辺の話は,恐らくこれからお聞きできるのではないかと思いますが,社会変化がここまで,企業と外の学びの環境を変えてきているのだろうと,こういう時代にうまく合った形で生涯学習機会を提供していくことが大事だと思います。

【明石部会長】
 ほかに。生重委員。

【生重委員】
 ありがとうございました。小杉特任フェローが示されているデータの中で若年層の方が,自分の進路,キャリアが分からないというのがありましたが,30代,40代も含めて,そういう傾向が今結構あり,訓練を受けても早々離職するという例を幾つも見てきて,また,訓練所に戻って,3か月の短いスパンに戻ってくるという例をたくさん見てきています。先ほど部会長がおっしゃった,「新しい生涯学習,社会教育の在り方」というところの中に,キャリアカウンセラーという専門資格までいかなくても,自分たちのまちの中に,自分の状況を受け止めてくれて,常にフォローアップしてくれるような人間的なつながりみたいなものを,もう一度公民館的なところで再構築することの役割が,もしかしたらこれから問われているのかもしれない。地元に対する定着の意識などを鑑みても,もっとつながっていくことの大切さみたいなことは,地方にいろいろ行かせていただいていてすごく感じるところです。小杉特任フェローはいろいろな地域の中の若者人材が定着して,そこによしんば仕事があっても続かない現状も含めて,これからの,ここの場で今後審議していくであろう公民館などを活用しての支援のありようについてはどうお考えになりますでしょうか。

【小杉特任フェロー】
 難しいお話だと思います。厚生労働省の政策の中では,専門実践教育訓練を受けるときには,必ずキャリアコンサルティングを受けなくてはならなくて,その訓練が自分のキャリアの中でどういう意味があるかということをきちんと認識してもらって,その上で訓練を受ける,そういうコースをたどった人にだけ給付金を出す,そんなコンサルティングという仕組みを必ず入れるのを,先ほどの自分の目指すキャリアが分からないということに対する対策として入れています。
 今おっしゃっている,公民館などをキーにして人間関係を作って,いろいろ相談できる環境を作るという,そういう発想はかなり似ていると思います。自分の人生の中のこれが何なのかというのを考えてもらえるような,そういう機会は大変大事だろうと思います。
 文部科学行政ですから,公民館という話になりますが,なかなかそれを身近なものとして感じるような形で育ってこないと,公民館は自分には関係ないところだと思われてしまいます。学校教育,小中学校教育の時代から公民館を様々な機会に訪れ,その結果として公民館が頼られる存在になってくると思うので,息の長い取組として,初等中等教育局とうまく連携しながらやるしかないのではないかと思います。

【生重委員】
 ありがとうございます。

【明石部会長】
 山野委員。

【山野委員】
 大学のGP(Good Practice)で5年くらい前に,就業力GPとして,産業界と大学と学生と地元の人材という形で協議体を作って,関東や関西というようなエリアに分かれて,その地域の特性もあるだろうとブロックごとに実施していました。私の大学では私が代表になって14大学の代表校として事業委託を受けて取り組んだことがあります。トータルで5年ほど,随分頑張ってきて、その中で,企業と大学と話し合いながら協議会的な形を作って,キャリア教育であるとか,学生が中心になりがちですけれども,地域の人たちも含めてという議論をしてきました。でも,なかなか難しい。きょう,本当にすばらしいご提示を頂いてありがとうございます。この結果で示されたように,若年非正規雇用の方が訓練を受けて,実際に就職につながっていくためには,もう一押し必要だと思います。知的障害のプログラムの中には,例えばジョブコーチみたいな,就職をしながらサポートを受けて,コンサルタントとかカウンセリングにも近いかもしれませんが,そのようなフォローがあります。そういったフォローがないと難しい,あるいはインターンシップをかなり企業側が受けてくださって,ディスカッションできる場面がないと難しいとは思いましたが,小杉特任フェローの御意見として,こういう訓練を受けた人たちが実際に就職につながっていくとか,企業と大学、受講する人たちとの共有する場をどううまく持っていったらいいのかということについて,何かヒントを頂ければと思います。

【小杉特任フェロー】
 業界でかなり違うと思いますが,専門学校教育だと,ある程度職種を絞った形になってくるので,そこで話し合われる能力という話も,よりその専門領域のある程度形を持った話になってくると思います。あるいは,少し前に,同じような枠組みで職業高校の枠組みもありましたが,そこで聞いた話ですと,工業高校と地域の工業系の学校との連携で,どんなことを話し合ったか。いろいろな形がありますが,その中の一つは,どの水準まで能力を高めるかというので,技能検定3級など目に分かりやすいものだと,到達度をお互いが共有できます。専門職というか,技術などある程度領域が狭いところの連携だとそれができますが,一般の大学になると,社会人基礎力的な話になってしまう。それもそれで大事ですが,職業という,出口をかなり絞った形だと具体的な連携で,インターンシップで何をどこまでやらせるかというところを突っ込めますが,社会人基礎力的な,物を考える力や主体的に物を考える力など,そういう話だと望洋とした話になって,プログラムの成果としては,何を成果とするかというのはとても難しい。
 プログラムの成果を,何をもって成果とするかというところをきちんと話し合って,今,社会人基礎力というような話もそれなりに評価する仕組みが少しずつ整ってきていますので,何らかの形で仕上がりの水準,それを産業界と学校側が共有するということ。それから,その教育を受ける側,学生,生徒の側も何ができれば社会に通用するのかということが分かるような,その水準のすり合わせというところが多分大事ではないかと思います。

【明石部会長】
 ありがとうございました。そろそろ予定した時間が参りましたので,ここまでとさせていただきます。小杉特任フェロー,どうもありがとうございました。
 では,次に,社会人の学び直しと関連して,生涯学習の先進的な取組として,株式会社ドコモgaccoの伊能社長から事例発表をお願いいたします。

【伊能代表取締役社長】
 初めまして。きょうはありがとうございます。株式会社ドコモgaccoの伊能と申します。ドコモの95%資本の会社でございます。残りの5%はe‐Learningの会社と,NTTグループの教育研修をやっている会社からの資本でできております。私自身はドコモに昨年までおり,教育事業の新規事業を立ち上げるという仕事をしておりまして,実は,お隣にいらっしゃる山内教授との御縁がきっかけになりまして,きょう御紹介させていただきますgaccoというサービスを一昨年前からやっております。gaccoは,大人の学校にしたい,と思い,「gacco」という名前を付けております。
 きょうは,gaccoそのものを御紹介したいということもありますが,先ほどから議論を聞かせていただいて,これから重要なことは,学びのコミュニティをいかに作っていくかということだと思っています。公民館のお話等もございましたけれども,そういった拠点が地域にはたくさんあります。公民館も図書館もあります。そういったところをうまく活用して,オンラインと,そういったリアルの場所をいかにブレンドさせて,学びは一人だけでは続きませんので,学びをコミュニティにしていくかということを私たちはとても重要に考えていますので,単なるe‐Learningとは思わないでいただきたいと思っております。
 gaccoは,きょう,この後お話があります山内教授が御専門なので,詳細はそちらに譲りたいと思いますが,MOOCという,主にアメリカからスタートした新しいe‐Learning,学びのスタイルを日本に持ってきたものがgaccoでございます。日本初のMOOCというものです。なぜそういったMOOCが世界的に今,広がっているのか。今,4,000万人ぐらいの方が,このMOOCを通じて学ばれていると言われています。知識とか技術の更新頻度がものすごく速くて,1回定着してしまった学歴とか知識だけでは,もうついていかれない時代が来ています。そのため,生涯学び続けるための仕組みというものが必要で,もちろん学校に戻っていただいてもいいのですが,全ての方にそういう機会があるわけではないので,オンラインを使って,あるいはオンラインをベースに知識習得をして,みんなで学習のコミュニティに参加して学び続けるという,そういった生涯学習のプラットフォームにしたいと思い,このgaccoというのを作っております。
 これはMOOCのプラットフォームで非常に有名なものを挙げておりますけれども,Coursera,edXというアメリカのもの,ほかにもたくさんあります。あとは,各国が相次いで立ち上げまして,2012年,13年ぐらいに非常に活況を呈してきて,これは日本もやらないとまずいという危機感もあり,関係者で議論しながらgaccoというサービスを作ってきております。
 本当にMOOCというものが,これから一つのベースとして,生涯学習のベースになっていくのではないかと私自身は思っておりますけれども,日本の場合はなかなか厳しくて,実はMOOCは,我々も含めてですが,株式会社立でやっております。アメリカの場合は大学そのものがやっております。それから,イギリスとかフランスとかスペインとか,各国にありますが,国がやっています。日本だけが,私自身は経営環境が厳しくて,皆さんに無料で受けていただくような仕組みになっているので,どうやってこの形を継続していくかということは毎日非常に悩んでいるのですけれども,是非これを皆さんに知っていただいて,御利用いただきながら,ビジネスモデルも含めて確立していきたいと思っております。
 2014年の4月に最初の講座が立ち上がりました。東京大学の本郷先生という日本史のすごく有名な先生の講座からスタートしておりまして,その節は山内先生には大変お世話になり,とても人気のある,2万人も受けていただける講座でございました。
 どんなものがあるというと,今ちょうどやっているのが,ジャンルはいろいろございますが,例えば,京都大学のiPS細胞研究所の山中先生のところの研究所でiPS細胞の講座をやっていたり,専門学校の講座もやっていたりします。あと,政府系の機関や省庁,自治体などから御提供していただいている講座も大変増えてまいりました。現時点で会員登録していらっしゃる方が24万人を超えております。累積の開講した講座が136講座。1講座当たり,大体5,000人から最大2万人の方が受けておられます。今申しましたように,官公庁や自治体,あと学校での活用等も進んでまいりまして,いろいろ事例が出てまいりました。
 特徴としては,本格的な講義がいつでも誰でも無料でオンライン受講できること。それから,単にe‐Learningで学ぶだけではなくて,オンラインの掲示板がございまして,みんなでディスカッションしながら,「ここ,よく分からない」と言うと先生が答えたり,あるいは受講生の方が答えたりということで,いわゆるソーシャルラーニングと言われているような仕組みになっています。ですので,これが一つのコミュニティになっています。
 修了条件というのを講座提供側が設定し,それを満たしますと,PDFで修了証が発行される仕組みです。一部の講座は,国土交通省,観光庁が出されている,サービス業の生産性向上をしていこうというような講座がありますが,これが2講座目で,1講座目はホテル・旅館の近代的な経営をどうしたらいいかという講座をやりました。成績優秀者の方には,長官名の名前の入った額入りの修了証が授与されるという仕組みにいたしまして,ちょうどホテル・旅館はマル適マークというのを掲出しなければいけない。その横に,長官名の入った額入りのやつを掲げて,それをカメラで撮って,「取りました」と言って私たちのところにメールをしてくださるような旅館のオーナーの方もいらっしゃって,そういう使われ方もされるようになっております。
 学び方ですけれども,無料ですので,パソコンやスマートフォン,タブレットをお持ちの方は是非登録していただいて,御体験いただくとすぐ分かると思いますが,毎日,10分弱ぐらいの講義を見ていただきます。実は聴覚障害の方からもお礼の電話を頂いたことがあるのですけれども,字幕が付いているので,それを見ながら勉強ができて非常に有り難いということでした。講演会やオープンカレッジはいろいろありますが,耳が聞こえにくいので,そういう機会にも参加しにくいということで,「gaccoを使わせてもらっています。ありがとう」みたいなお電話をわざわざ頂いたことがございまして,そういう意味でも,我々,やっていてよかったと思います。あとは,毎週毎週,きちんとしたクイズ,小テストみたいなものを出してお答えいただいて,それを4週間程度続けていただいて,最終課題として,大テストの場合もあるし,レポートを出していただく場合もあります。
 レポートがなぜ出せるかというと,数万人とか数千人の方のレポートを採点するのは,先生が大変なので,実は相互採点という仕組みを取らせていただいていまして,自分でレポートを書いたらアップロードをしていただきます。そうすると,ほかの方のレポートが,これを採点してくださいということで,採点基準とともにおりてくる。それを採点していただいてアップロードすると,初めて自分のレポートが採点されて返ってくるという仕組みです。最低五人の方の採点をしていただいて,中央値を取るようにしています。ものすごく低い点を付ける人とか,ものすごく高い点を付ける人もいますので,フィギュアスケートの採点のような感じで,中央値を取るようにしております。そういう相互採点という仕組みを取らせていただいていますので,単に知識を適当に付けるというよりは,自分がそれを受けてどう考えたのかという,自分の考えを知り,人の考えを知る機会というのを,こういう仕組みを通じて作っています。適宜,その間,オンラインでディスカッションをしていただくと,これもいろんなスレッドが立って,いろいろな意見が出て,私たちも始める前,炎上したらどうしようとか,正直思ったこともありましたが,今までほぼありません。少し不用意な発言をされる方は,やはりなれていなくて,中にはいらっしゃいますが,大体ほかの方から,「ちょっと,それはどうかな」というようにたしなめる御意見があって,非常に温和な,とても知的好奇心の高い方がお集まりのコミュニティが既にできていますので,非常に良い関係性ができております。
 あとは,オンラインだけでは知識の定着もコミュニティもできにくいということで,ブレンデッドラーニングと言われているように,対面授業というのを先生方と御相談の上,やらせていただいています。実は,オンラインで学ぶだけだと無料ですけれども,この対面授業に関しては,場所代も掛かりますので有料にさせていただいています。一案ですけれども,こういった対面授業を,さっきおっしゃっていた公民館とか図書館でやられたらいかがかと思います。というのは,事前にオンラインで学んで関係性ができている方が集まりますので,議論がとても活発に行われます。あと,初めて会った気がしないというのもあって,最初からすごく仲よく多世代交流ができる場ができております。ですので,予習をオンラインでやって,議論をワークショップ,反転学習という形でやっていく。対面とオンラインをうまく組み合わせていく。山内教授の御専門の反転学習というのを最初から取り入れた仕組みになっております。
 講座を受けていらっしゃる方の属性ですけれども,30代から50代の学び直し世代がとても多いです。今時点,どうしてもICTということもあって男性が多いですが,徐々に女性も増えてまいりました。現時点ですと男性が6割ほどですが,男性の特徴が面白くて,50代,60代,シニアの方も多いです。それから,女性は20代,30代の方が多いです。ここはちょっと特徴的だと思っておりまして,まさにさっき小杉特任フェローが御指摘されていたような,いろいろな世代の方の学びの一つのプラットフォームとして利用していただいている結果がこのことなのかと思っております。
 どのような学歴,あるいは職業の方かというのがスライド9のデータでございますが,実は大学卒,大学院卒の方の割合がとても高くて,そうではない方もいらっしゃいますが,やはり学び直しだということが,ここを見ると分かります。あとは,会社員の方が多くいらっしゃいます。この「無職」という方は,私たちのアンケートの取り方が悪いのかもしれないです。御卒業されたということをおっしゃっているのか,一時的に今,職業を探していらっしゃる方なのか,細かく聞けてないということもあります。でも,明らかに,きょうの議論になっているような方々が御利用していただいていると想像しております。
 実際,ちょうど5月くらいに受講登録されている会員の方が20万人を超えたので,ありがとうキャンペーンということで,アンケートを採っておりまして,図書カード1,000円分を差し上げるので,gaccoを何でやっているのか,gaccoをやってみてどうですかというような御意見を寄せていただきました。そうしたら,本当に長いメールを頂きまして,500人分ぐらい頂きました。かなり回答数が多くてびっくりしましたが,その中から抜粋をして,きょうは持ってきております。キャリア的な観点で見ると,大学を中退したのだけれども,gaccoで受講したことをアピールしたら就職ができましたとか,教員を一旦諦めて一般企業に就職したけれども,gaccoの受講でもう一回やり直そうということで教員になりましたなど,いろいろな御意見が実際にあって,これは本当に一部なので,もっともっとありますが,いろいろな方に使っていただいているし,実際,キャリアアップ,キャリアチェンジに役立っているのではないかと考えております。
 あとは,キャリアだけではなくて,教養とか人生の楽しみということで,娘さんと一緒にやることで親子の会話が増えましたですとか,70代のお父様に勧めたら,とても好奇心が持てて,認知症予防ではないですけれども,そういったアクティブシニアとして更に活躍していただけるような,そういうことにつながったですとか,あとは,フルタイムで働く主婦で,なかなか子供さんとの時間が取れないけれども,「一緒に勉強しよう」と言うと子供も勉強がやりやすいなど,いろいろな御意見があって,あとは地域ということですと,知らないところに来たけれども,お友達がgacco上でできましたというようなお声がございました。
 私たちが生涯学習で,今アンケートを採っているもので,分布をグラフにするとスライド12のような形で,比較的高学歴で学びに関心が高い層,つまり,自律した学習者が比較的多いと思っております。ただ,ちょうどそういった層は,お子さんを持たれている層でもあるので,こういった方々がICTになれ親しんで学びのコミュニティに入っていくということで,次の世代への良い影響もあると思っていまして,この受講のスパイラルを広げていきたいと思っております。
 もう一つ,コミュニティ作りということで,先ほど,オンラインのディスカッションと対面授業の話をしましたけれども,一つの講座の受講数が5,000人とか何万人とかいっているのに,対面授業というのをやると運営上や場所の制約で100人程度になってしまう。もったいないと思いまして,何とかこれをオンラインで対面的な効果が得られる仕組みを作れないかということで,これも実は山内教授の研究室に御相談をして,オンラインでワークショップ,グループワークができる仕組みということで,学活という,名前も「gaccatz(ガッカツ)」という名前を付けました。「gacco active talking zone」の略ですけれども,gaccatzと言っています。どこからでもアクセスできる学び合いの場を作っています。
 どういうことかというと,ライブで講義を受けることができます。先ほどのgaccoは,いつでもどこでもビデオになったものを受けますが,これはライブでできます。今,先生がやっている講義を受ける。それから,その講義を受けて,「では,皆さんでグループワークしましょう」と言ってグループモードに切り替えると,遠隔地にいらっしゃる方が,パソコンさえあれば,音声のチャットとテキストのチャットでやりとりをしながら一つの成果物を作っていく。本当にワークショップ,グループワークができる。何で音声だけにしているか。これも山内教授の方がお詳しいと思いますが,映像を見せてしまうと,大体どのような人かという情報を得てしまって,先入観を持ってしまいがちです。人の話を聞かなくなってしまうのではないかということもあって,あえて音声のチャットにしております。
 それから,出来上がったものを,よく教室でやるのと同じで,グループの代表者が皆さんの前で発表してくださいみたいなことで,ルームモードというのも御用意しておりまして,各グループの成果物をみんなで鑑賞したり意見を述べたりということが,ここがいいということで投票したりということができるようになっています。
 こんな画面で,実際にスライド15は,東京大学の先生方の講義をやっているところです。
 こういったことなので,gaccoというのは自律した学習者が利用しているけれども,そういう人を増やす,維持することがとても大事で,それにはやはりコミュニティの力が大事だと思っています。ですので,これからは学習意欲が高い,あるいは,学習した内容を評価できる社会にしたいと思っていまして,学歴だけではなくて,何を学んできた人なのかということをきちんと評価できるような,そういう社会を実現していくようなお手伝いができたらと思い取り組んでいるところでございます。
 これからやろうとしていることは,先ほどのスパイラルで,今30代から50代がボリュームゾーンとなっているところから,もっと下の世代,10代の方々も,受験して,良い学校に行ったら終わりではなくて,ずっと学び続けるということ,コミュニティに入って学び続けるということを教えていくような学習スタイルを私たちとしては提供していきたいと考えています。生まれたときから生涯学習は始まる、ということです。それから,幼少期の方々にも,こういったICTを使って学ぶ環境を提供する。「Life Long Learning」,本当に生涯学習を支えていくような学習歴を自分で付けていく。お薬手帳ではないですが,学習手帳や学習アルバムのようなものです。私はこんなことを勉強してきた,私はこんな本を読んできた,そういったことも含めて,トータルに自分が学んできたことがオープンになり評価される社会を作っていけたらと思い,仕組み化をしておりますので,是非お使いいただければと思います。実はこの仕組み,法人向けの御提供もしておりまして,例えば,先ほど出てきた各種学校とか専門学校に仕組みを御提供して,そこで使っていただく。コンテンツはもちろんお持ちだと思うので,そういうことをしていけたらいいと考えております。
 御清聴ありがとうございました。

【明石部会長】
 伊能社長,どうもありがとうございました。
 では,引き続きまして,東京大学の山内教授、お願いいたします。教授は,学習環境の在り方について非常に造詣が深く,教育振興基本計画部会の委員もお務めでいらっしゃいます。

【山内教授】
 伊能社長からMOOCの具体に関してもうかなりお話を頂いていますので,スライドを少し飛ばしながら説明をしていきたいと思います。
 MOOCの話は,大体このような感じだというのは,伊能社長から御発表があった日本の例でお分かりいただけたと思うので,MOOCについて私がお話しするのは,どちらかというとグローバルな状況に関してお話をさせていただければと思います。私は東京大学でグローバルMOOCの担当もしておりますので,そこで得たグローバルな大学の動向,特に今,大学が世界的に,社会人の学び直しのプロバイダーとして自らを再定義しつつあるところがあります。オンライン学習がきっかけになって,そうなりつつある状況を御説明させていただければと思います。
 もともとMOOCは,2013年くらいに一気にトップ大学が参加するような時期があって,そのときにトップ大学が入った理由というのは,世界的なトップ層の争奪戦です。もともとMOOCがはやり始めた一番初めのきっかけになった実験というのが,2011年秋にスタンフォード大学の人工知能についての研究グループが,自分たちの授業を世界に公開したらどうなるかとやってみたら,世界中から16万人が集まりました。御承知のとおり,MOOCというのは成績が付くので,1番からずっと順番が付いていく。そうすると,トップ400にスタンフォードの学生が入れなかった。つまり,スタンフォードの学生を超えるような学習者が世界中から集まっていて,よくよく見てみると,例えば,エストニア,実はスカイプが生まれたのはエストニアですけれども,高等教育が余り整備されてないけれど高い水準の高等教育を求めるような人たちが世界中に分散していて,つまり,そういう人たちにリーチができるということで大学が一気に参入していった。大体,最初の理由はそうでした。
 ただ,中長期的な影響もあるだろうとその当時から予測されていて,二つ目の理由は,大学の授業でこのMOOCで一旦パッケージ化したものを教材として活用する。今,ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学(MIT)がこれに非常に力を入れており,ハーバード大学とMITは物すごいお金を掛けて,自分たちの授業をオンラインでパッケージ化して外に出すと同時に,それを自分たちの授業の中で予習教材として使うようにプロモートしている。つまり,どういうことかというと,今まで講義で話していたようなことは,もう予習で十分だということです。講義はもっと高度化しないと,今からの大学教育はどんどん,課題発見や創造力など高度な方にシフトしていかなければいけないので,知識習得の部分はオンラインで十分だから,パッケージ化をMOOCでしてしまって,それを授業で使おうということを始めている。要するに,これが中期的な戦略になります。
 長期的には,きょうのお話にもつながるかもしれませんが,MOOCで出てきた履修証で,例えば転職で利用する。最近,サマープログラムなどで海外から応募してくる学生は,MOOCでこういうコースを取りましたということを書いてくる子が結構多い。そういう形で,職業訓練の一部として就職とか転職に影響を与える可能性があるのではないかということでMOOCが注目されています。
 MOOCのプラットフォームは今,グローバルには大きく三つあると言われていて,航空会社のアライアンスみたいなものですが,東京大学は最大手のCoursera,1,700万人入っているこのグループと,あとは,edXというハーバード大学とMITがやっているものに加入しています。実は3位が面白くて,イギリスが国策でやっているFuture learnというもので,これはイギリスが総力を挙げてやっていて,オープンユニバーシティと大英博物館とブリティッシュ・カウンシルが入っているという,とんでもないグループになっていて,これが最近,かなり力を伸ばしてきています。
 東京大学は2013年にCourseraに加盟して,まず実証実験を行いました。村山先生の宇宙物理のコースと,国際政治学者の藤原先生の国際政治学のコースです。当然,これはグローバルMOOCで出しますので,全部英語でやっています。結果として,2コースで大体8万人を超える登録と5,000人を超える修了者を出しまして,これは東京大学の全学生数が2万8,000人で全留学生数が3,000人なので,全学生数の倍以上の学生に2か月ぐらいで,学習してもらって,全留学生を超える修了者を出したという状況になっています。
 受講者の居住国は,宇宙物理のコースは144か国で,国際政治のコースは158か国でした。国際政治のコースは,タイトルが「Conditions of War and Peace」で戦争と平和の条件というコースなので,紛争地域から学習者が来る。そうすると,ケーススタディーでシリアのことを扱っていると,本当にシリアから学習者が来ている。掲示板でも国籍を超えたディスカッションが行われて,でも,人ごとにならずに,ちゃんとシリアの人も入ってディスカッションをするという,まさにボーダーレスな学習が行われている状況になっています。
 受講者の年齢構成は,実はきょう,伊能社長から出していただいたのと非常によく似ていて,何年代生まれかでデータを出しているのですが,薄い水色から濃い青色までが大体20代半ばから50代半ばだと思ってください。なので,いわゆる働いている層が大体半分から6割,7割くらいです。あとはシニアの層と,それ以下の層です。実際に我々が確認できている最少年齢の方はカナダの9歳の少年で,最高年齢の方は90歳の方がいて,確認できているだけで9歳から90歳まで受けている。ボリュームゾーンにいるのが,やはり働いている方たちで,今回,資料に学歴は出しませんでしたけれども,学歴も非常によく似ていて,大卒だけれども学び直しをしたいという層が主流になっています。
 MOOCは今,東京大学がCourseraとedXに合計10コースほど出していて,現時点で受講登録者が延べ32万人を突破し,修了者数は1万5,000人を突破しているような状況で,ほぼ世界全ての国から履修を頂いているような状況です。
 今までの話は,MOOCがグローバルでも同じような状況だということを分かっていただけたと思いますが,実はグローバルMOOCは,この日本の状況から更に進化を遂げていて,今からそのお話をしたいと思います。
 一つ目の進化は,履修証明書が有料化されてきているということです。学習者からすると,本当は無料で出してほしいかもしれませんが,先ほどからお話が出ているように,安定して仕組みを回すために,どこかで収入を得る仕組みが必要なので,有料履修証明書というのが今主流になってきています。コースを見るだけならば完全に無料で見られますが,証明書が欲しい場合には,1コース当たり5,000円くらいかかります。非常に安いです。一つの授業で,大体,大学の1授業相当になりますので,それが5,000円ほどで個人認証付の履修証明書が発行される。成績も記載されます。これがなぜブレークスルーになったかというと,要するに,個人認証がついていて,カメラなどで認証しているので,企業内研修の替わりとして使われるようになったり教員研修として使われるようになったり,あとは,シンガポール政府が,このMOOCのプログラムの一部について,この有料履修証明書の費用を肩代わりしてくれるプログラムも労働政策的に打ったりしていて,非常に幅広く使われるようになってきています。
 実は東大のコースはシンガポール政府から認証を受けまして,シンガポール政府のお役に立っているようですが,まだ日本政府のお役に立っていないので,是非日本政府のお役にも立ちたいと思っています。
 次は,この有料履修証明書が出てくるのと同じタイミングでカリキュラム化が進行しています。画面で見ていただいた方が分かりやすいと思いますが,これがCourseraのページです。アライアンスで組んでいるスタンフォード大学とかコロンビア大学(UC)などの大学が出てきて,いきなり最初で「top specializations」と書いてあります。specializationsというのはカリキュラムのことを言います。つまり,今必要になっている高度な人材養成から考えると,大学の授業1本分だと足りない。そうすると,大学の授業10本分ぐらい束ねてカリキュラムになったものが主軸になってきています。このspecializationsで一番成功したのは,ジョンズホプキンス大学の「Data Science」というコースで,これは皆さん御承知のとおり,今,人工知能や機械学習がはやりになっていますけれども,それの基盤になるデータサイエンスに関して,カリキュラムを,提供しているものです。コース10本分くらいを束ね,それぞれのコースでテストを受け,最後にキャップストーンプロジェクトというプロジェクト学習もやって,それで5万円です。これが大当たりして,企業がやっている50万円のコースよりもこちらの方が,はるかに水準が高く,実質的にも同じぐらいのものを出せるので,ものすごく売れました。今,売上げが毎月1億円ほどあるというような状況になっていて,これがブレークスルーになっている。つまり,社会人向けだとカリキュラムでIT系,ビジネス系の分野で,社会人の再教育にそのまま使えるという話になってきています。これが一つ目の進化です。MOOCがカリキュラム化していっているということです。
 次が,いよいよ来たかという感じですが,学位です。これは大学の本丸なので,なかなか今まで,オンラインで学位を出すというのを認めていなかった。もちろん実際にはアメリカは古くからe‐Learningで学位を出すe‐Learning専門大学みたいなものがありましたが,いわゆるトップユニバーシティーというのは,絶対今までオンラインで学位を出さなかった。それが,MOOCでここまでやれるのだったらというので学位に展開する動きが出てきています。もちろん,先ほど伊能社長のお話にあったように,オンラインで学べることは限界があって,我々は逆にやっているからこそ限界がよく分かっていて,知識習得には非常に向いていますが,高度な能力を養成するにはオンラインだと正直難しい。ですので,学位に展開するときには,先ほどのオンラインカリキュラムを幾つか束ねて,つまり,specializationsみたいなものを幾つか束ねて,知識習得側はそちらで保障して,プロジェクト学習や論文執筆みたいなものは,対面や,先ほど伊能社長が御発表されたように,いわゆる同期型のテレビ会議を使ったようなシステムを使って学位を保障するというような動きが出てきています。
 CourseraとedXでそれぞれ一つずつ大きい動きがあって,Courseraの例ですと,イリノイ大学です。イリノイ大学は,MBAプログラムをこの仕組みで提供し始めていて,「iMBAプログラム」と言われていますが,先ほどのspecializationと言われている,要するに,MOOCで取れる知識習得の部分が六つ,必修が四つと選択が二つあって,オンラインでこの六つを取った上で,あとはテレビ会議の授業をそれぞれに関して同じぐらいのボリュームでやるということで,大体受講料が200万円です。学位には,イリノイ大学のMBAと記載されていて,「オンライン」などは何も書いていません。だから,対面でMBAを取った人とオンラインでMBAを取った人に,全く同じ学位記が出ます。この間,オランダでCoursera partners conferenceをやったとき,イリノイ大学の人たちがプレゼンをしていましたが,最初は不安があったものの,実際ふたを開けたら,100人の定員のところに1万人来た。インドからがものすごく多いのですが,明らかに受講生の水準は対面以上のものがもう実は確保できている。だから,同じMBAを出して全く問題ない水準まで来ていますという話をされていました。
 何でそれだけ人が来るかというと,受講料が安いからです。つまり,通常,アメリカでMBAを取ると大体5,600万円しますが,これは200万円で取れます。しかもフルオンラインなので,インドにいながらにして取れます。それが非常に効いていて,国境を越えてMBAがついに移動するような時代がトップスクールでも来ているということです。
 こういう動きは,イリノイ大学はもちろんCourseraで先べんをつけたわけですけど, MITでも,始まっていて,サプライチェーンマネジメントについて,こちらはブレンデッド・マスターという学位が出るようになっています。これは,普通のマスターとは少し違うコースになりますけれども,受講料は500万円ほどで今までと余り変わりません。基本的な仕組みはよく似ていて,edXのコースで大体基本的な知識は学んだ上で,1セメスターだけボストンに来てくださいというものです。1年間ボストンにいようとすると相当大変だと思いますが,5か月だけ,とにかくボストンに来てくださいということになっています。その間にケーススタディーや論文執筆をします。実際にMITの募集ページを見ると,5か月間の滞在だとどれぐらいコストが下がるかということが書いてあって,学費は同じだけれども,トータルコストは結構安くなるというので,その値を出しています。
 オンラインと対面型を組み合わせるのは,一般的にBlended Learning,ブレンド型学習と言われていて,これはつまり,対面型授業だけ,オンラインだけよりも,組み合わせてやることが非常に効果的であるという研究結果が明らかになっていて,これが今,ほぼオンライン学習でも主流になりつつある。だから,対面とオンラインを対立するものとして捉えるのではなくて,それを両方組み合わせることによって何ができるかを考える時代になってきています。
 実は,プレスリリースがいつになるか分からなくて資料には入れなかったのですが,おとといプレスリリースが出たedXの新しいプログラムがあって,これは資料にできなかったので画面で御説明しますが,edXがMicro Masters Programという制度を始めました。これは,先ほどの学位のプログラムの中からオンラインの部分だけ切り出したような形になっていて,さっきのMITのサプライチェーンマネジメントも入っています。サプライチェーンマネジメントだけではなくて,ミシガン大学からユーザーエクスペリエンスのコースが出ていたり,あとはコロンビア大学から人工知能のコースが出ていたりしています。全部のコースを見ると,医療福祉系など,要するに,就業に直結した知識習得をパッケージしたカリキュラムみたいなものがたくさん出てきています。
 Courseraのspecializationsに当たるものはedXにもあって,「Xシリーズ」と呼ばれているものですけれども,それとの違いは,これの修了書が出るだけではなくて,それぞれの大学に行くと単位になります。だから,このMicro Masterをある程度得て,大学に入学すると,そこから先1年間,さきほどのMBA同様,対面で学んで,非常に短い時間で安いコストでMITとかミシガン大学の修士号が取れるようになるという仕掛けです。社会人は忙しいので2年も休んだりできませんから,オンラインで知識習得を前倒しすることによって,逆に社会人をできるだけ大学に呼び込んできて,最先端の知識と技能と能力を大学が提供するということが,今,アメリカのトップスクールの中ではビジネス的な戦略としても検討されているということです。
 ちなみに,このMicro Masters Programは,その実効性を増すために企業の認証も受けていて,IBMやウォルマートやボルボやアドビなど,Micro Masterを持っている人は採用の際考慮しますというような,そういうアライアンスも組まれています。MOOCから始まった動きが,かなり大規模に,大学の学位の在り方にまで影響していることが分かると思います。
 なので,今後の生涯学習や社会人の学び直しを考えていくとき,プロバイダー,これはいろいろ考えられると思いますが,今後,やはり大学がオンライン学習を通じて生涯学習のプロバイダーになっていく。これはもちろん,例えば公民館であるとか図書館であるとか,従来のプロバイダーと対立するものではなくて,むしろ従来のプロバイダーと協力することによって,より高度な生涯学習を実現するための一つの回路がオンライン学習によって,今開かれつつあると考えられると思います。
 Courseraのトップで,前のイェール大学の学長が就任時に各加盟校に挨拶が送られてきました。従来の大学は18歳から22歳をターゲットにして,そこを教育することを主な社会的使命にしていた。これからの大学は18歳から22歳だけではなく,社会人を含めて,これだけ高等教育レベルの高い水準の知を求める人が世界中に広がっているわけだから,そういう知を求める全ての人たちのためのユニバーサルサービスに転換しなければいけないという非常にビジョナリーなことをおっしゃっていて,本当に私はそのとおりだと思いましたが,そういう時代に実は入っていきつつあるということです。
 それも,オンライン学習だけだと,なかなか実効性を担保するのが難しいわけですが,先ほどのように対面学習と組み合わせることによって,単なる知識伝授を超えるような高度な能力育成機関として,社会人も含めて広く生涯学習に大学がお役に立てる時代が来つつあるのではないかと思っています。
 ということで,20分ほどお話をしたので,私の話はこれで終わらせていただきます。ありがとうございました。

【明石部会長】
 伊能社長,山内教授,非常に刺激的な御提案ありがとうございました。これから質疑応答にいきたいと思います。
 私の方から,伊能社長に質問ですが,135講座あるということですが,講座の先生方の選択の基準は何でしょうか。

【伊能代表取締役社長】
 JMOOCという団体がございまして,山内教授と私もその設立に携わった団体があり,そこが御紹介していただくようなケースもございますし,私どもが,世の中のニーズを考えると,是非これがあった方がいいということで積極的にお願いしてやらせていただいているものも大変多くあります。特にICT系の講座を見ていただくと,データサイエンスや,あとはセキュリティといった講座は本当に人が足りないことが分かっていますので,データサイエンスは総務省とお話し,実際には入札で取りに行かせていただきましたが,セキュリティに関しては,情報セキュリティ大学院大学から講座を提供していただきました。これはNTTの研究所経由でOBの方がそちらの大学に転身されていたこともあって,お願いをして作らせていただいた講座でございまして,やはり世の中の要請を大変意識して作っています。
 ただ一方で,私自身がビジネスの世界でやっていて,ICTの業界にいて,それだけしか知らないとか,あるいはMBAみたいな知識だけしか知らないと,交渉はできない。例えば海外の方とお話しするときに,相手の方のバックグラウンド,例えば,宗教であるとか歴史であるとかそういったことを知らないとお話ができないので,そういった,いわゆるリベラルアーツのようなものも積極的に取り入れております。特に先ほどの日本史の講座は受講者が2万人も来たということは,自分の国の歴史を知らないで大きくなって時を過ごしてしまっている人も多くて,違ったアプローチで今知ることが人生を豊かにするという点もあるので,リベラルアーツ等,バランスよく取り入れるようにしております。

【明石部会長】
 そうしますと,人気のある講座とない講座があると思います。サッカーのプロリーグみたいに1部から2部の入れ替え戦というのは考えていますか。

【伊能代表取締役社長】
 そこはある意味,講座をやりたい先生には,どんどんお出しくださいというスタンスです。生徒が多い少ない,人気があるないはございます。実は受講生の方から,星マークなどを付けて評価したいという御意見もあることはあります。ただ,今はそれをやって先生方に尻込みをされてしまうより,どんどんこういったものに御自分の研究成果や教育を出していただきたいという,そういうステージだと思いますので,入れ替え戦も特にしておりません。
 ただし,人気があるものに関しては2回,3回と再開講というのをやっております。開講期間が,先ほど申しましたように決まっています。あえて決めている。それは,レンタルビデオと一緒で,返す日が決まってないと勉強しないので決めています。MOOC全体がそうなっていますが,逆に開講期間が終わってしまうと,もう一回やってくださいという御意見を頂くことが多いです。そういう場合は2回,3回と,少し動画を撮り直すケースもございますけれども,再開講いたします。

【明石部会長】
 最後ですけれども,山内教授のお話では,海外の場合は履修登録書で,例えば,5,000円ほど頂く。経営をうまく回すというのは,gaccoは無料ですけれども,これからはどうやって運営していこうとお考えですか。違うところで広告を掲載する,バナー広告を取るなどお考えでしょうか。

【伊能代表取締役社長】
 皆さん,実は,いつもとても御心配していただいていて,受講生の方からも,お願いだから続けてくださいという御意見を頂いたりして有り難いのですが今,ビジネスモデルとしてどうなっているかと申しますと,先ほども言いましたが,この仕組みを企業に貸し出すようなことをしております。実際にいろいろな講座を受けられて,このやり方はすごく良いから,うちの会社の研修で使いたいというようなお話を頂く。ですから,企業研修向けに仕組み,プラットフォームを貸し出しするというやり方,あとは,講座をセットで選んでいただけるようになっていまして,MBAコースとかICTコースというような形でお選びいただいて,研修としてやっていただくというようなことがございます。
 あとは,山内教授からのアドバイスも頂いておりまして,少し講座も増えてきましたので,いずれ修了書の有料化は考えたい。その方が,ある種の権威付けにもなりますし,資格としての流通がしやすくなるという観点もあるかと思いますので,本人認証をした上で有料化して,かつ就職あっせんまでつなげるというようなことをしていけたらと考えております。

【明石部会長】
 ありがとうございました。

【菊川部会長代理】
 私は放送大学の福岡学習センターの所長をしておりまして,放送大学と比べながらお話を聞かせていただいたところです。それで,伊能社長にお伺いですけれども,コンテンツの基準みたいなものはあるのかということです。例えば,何分番組の何コマなど,10分とおっしゃっていたかもしれませんが,全体としてどのくらいの量なのかという質問が一点です。
 それから,どのくらいまで増やすことが可能と考えていらっしゃるかということ,二点,お尋ねしていいでしょうか。

【伊能代表取締役社長】
 二点目の増やすという御質問は,コンテンツの量のことをおっしゃっているのですか。

【菊川部会長代理】
 科目のコマ数です。

【伊能代表取締役社長】
 まず,どういう基準になっているかということですが,ガイドラインを作らせていただいていまして,こういうガイドラインに沿って作っていただきたいということで,大体1週間,大学の先生は90分1コマで授業をおやりになっているので,その90分の1コマを1週間で受けられるようなイメージで,大体4週間というのが基本パッケージになっています。
 ただし,講座によっては8週間とか6週間というのもございます。あとは,4週間のものを初級と上級みたいな形で分けていただいて,それを連続受講していただくということもやっております。あと,裏表みたいな形で,今,ちょうどやっているのが,「はじめてのP」という講座で,プログラミングの講座で,国立情報学研究所から出していただいていますが,表講座と裏講座みたいになっていまして,表講座は少し難しいのですが,裏講座はサイエンスコミュニケーターの方がNHKの副音声のように講義して,少しカジュアルな感じで学んでいただけるようにして,ダブルで取っていただく作り方もしております。講座のコンテンツに関しては,インターネットの世界なので,際限なくと言えば際限なく増やすことができますので,先生方に合わせて設計しております。

【菊川部会長代理】
 1週間で90分ということは,その90分を分散してあるのですか。

【伊能代表取締役社長】
 そうです。大体こま切れにして,90分相当のものを1週間で毎日見ていただいてもいいし,私は自分で受講するときは,土日にまとめ見をします。社会人は,平日はなかなか時間が取れないので、そういう仕組にしています。速度調整ができますので,例えば,1.5倍速や2倍速で早回しして聞いたり,先ほど申し上げました字幕が出ていますので,字幕をコピー・アンド・ペーストしてノートに取っておいて,それを読み直す。テストを受けるときは,それを見ながらテストを受けるとか,そのような学び方をいろいろやっております。

【菊川部会長代理】
 ありがとうございました。
 山内教授に一点よろしいでしょうか。こういう形でMOOCが進むことの大学教育への影響といいますか,具体的に言いますと,JMOOCに東京大学の先生方がどんどん自分の授業を今後出していかれるようなことになるのか,あるいは,こういう形でどんどん進むことの日本の大学に対する影響というのを,先ほどおっしゃったかもしれませんけれども,もう一度教えていただけませんか。

【山内教授】
 グローバルMOOCと地域MOOCで大分状況が違うと思っていて,基本的には日本のトップユニバーシティーはむしろ国際の方を向いています。今,東京大学でも,「日本で学ぶこと」という海外の留学生向けのコースを出しています。ペンシルバニア大学が同じようなコースを出して留学生を増やしている。国際戦略の一部としてやっているところがあって,国際的なプレゼンスや学生を呼ぶということなど,そういう戦略という意味で日本の大学はグローバルMOOCの方を向いているというのが現状です。
 ただ,私が何でgaccoのお手伝いをさせていただいているかというと,グローバルMOOCでいろいろな生涯学習の学びの場を見ると,これが日本にないと,とんでもない格差になると思ったからです。片方は,いろいろな大学の授業をただで受け放題なのに,日本語になった途端に受けられないということになり,これは非常にまずいことになると感じました。特に地域の問題があって,大学に行ける地域はまだいいですが,大学がなかなか身近ではない地域でもアクセスすることができますから,そういう意味でもやはりユニバーサルサービスとして日本語のMOOCが今後きちんと展開できるように,日本の大学が自律的にどんどん動いていければいいのですが,日本の大学は文部科学省の方を見ているので,是非文部科学省の方で頑張れと言っていただくような政策を打っていただけると,日本の大学も生涯学習に向けて,海外と同じような形で資源を投下するという姿にだんだん変わっていけると思っています。

【菊川部会長代理】
 ありがとうございました。

【明石部会長】
 では,清原委員。

【清原委員】
 ありがとうございます。三鷹市長の清原です。伊能社長のスライドの7ページのところに,幾つかヒントを頂いています。例えば,字幕付であるということで,聴覚障害者の方にも有効であるということであり,私は極めて重要なことだと思います。音声であれば,視覚障害の方もそれを利用して学ぶことができますが,聴覚障害の方にも字幕付で講座をしていただいているということで,生涯学習の機会が本当に拡充されていると思いました。
 あわせて,「対面授業は有料だけれども,多世代交流の場になっています」とおっしゃいました。これも,ものすごく大事なことで,オンラインのチャットでも恐らくそうだろうし、掲示板もそうだろうと思いますが,生涯学習の魅力の真骨頂というのは「多世代交流」だと私はつくづく思っています。一人の人が幼いときから一貫して学ぶということと,ほかの世代の人と交流して学ぶということ。恐らく小学生や中学生も,少ないけれども,この3%の中にいるかもしれないと思っておりました。
 私としては,もう一つ,とても大事な指摘がされていると思いました。予習はオンライン学習でして,議論はリアルワークショップでということを「学びの質の向上」という表現をされていて,私は,量的に機会が広がっていくことも大事だと思いますが,「学びの質の向上」と伊能社長発表の中で指摘されたのは本当に意味あることだと思います。
 そこで,これらを踏まえて質問ですが,私たちの生涯学習分科会の方で5月に,「個人の能力と可能性を開花させ,全員参加による課題解決社会を実現するための教育の多様化と質保証の在り方について」という長いタイトルの答申を出した最後のところに,実は重要な今後のICTを活用したものとして,「生涯学習プラットフォーム(仮称)の構築」というのを提案しています。その中の重要な機能に,単なる生涯学習の情報提供だけではなくて,伊能社長は御発表の中で,「Life Long Learningを支える学習歴」ということを,自ら履歴を生かして,学びの継続性を高めるために,この生涯学習プラットフォームが重要であるという指摘をされています。具体的なイメージをgaccoの取組の中で提案されたように聞いておりました。この間の取組の中で,学習活動履歴を記録し証明するICTの活用として,更に具体的なイメージを教えていただければと思います。
 山内教授にも一点教えていただきたいことがあります。山内教授のMOOCが注目される理由の中に,もちろん高等教育がグローバルに新たな良い競争関係の中で質を高めていくということや,既存の大学の授業に影響を与えるとともに,最後に,就職,転職に影響を与える可能性を指摘されました。今回はグローバルMOOCの例なので,MBAや外国の大学の例で紹介されていて,千ではなくて万単位で受講生がいるということで,イリノイ大学のMBAなどはすごくなると思います。山内教授が進めていらして,言語の壁はあると思いますが,日本発の就職,転職に影響を与えるような,「個人認証付き履修書によるジョブマッチング」ということで,何か展望があればお聞かせ願いますか。それがグローバルMOOCではなくて,地域MOOCのgaccoとの取組の中で,何か活動や就職に,例えば,特に今,保育士不足で悩んでいる自治体,また,介護福祉士とか精神保健福祉士という資格を持っている人を求めている自治体としては,教授の御経験から,gaccoの中に何らかの資格付与の地域MOOCの可能性などがあれば,教えていただければと思います。よろしくお願いします。

【伊能代表取締役社長】
 ありがとうございます。多世代交流という点では,この写真に出ているのは,実は東京大学の福武ホールというところで,山内教授もいらっしゃったところですが,このとき100名ほど来られて,一番年齢が下の方が13歳の女子中学生で,大阪からお父さんに連れられてこられました。一番お年の方が84歳のおじいさまで,100名のうち20名ほどが高校生でございまして,みんな同じものを学んでからやってきているので,本当に議論が活性化して,とても感動しました。すごく感動しまして,これが新しいコミュニティの在り方なのではないかと考えました。同じ学びというものを共通項とすると,こういうことになるというのを目の当たりにしたので,これを是非いろいろなところで進めていきたいと今思っています。
 先ほどの学習歴に関してですけれども,これはやはりお薬手帳と同じように,まず自分が学んだことを,子供に付けていただく。子供というよりは,例えば,私のイメージとしては,中学生になったら,お母さんが,お父さんでもいいですけれども,「あなたの学びの履歴を付けておいたわよ」と言ってログインするアクセスコードみたいなものを渡して,あとは自分で付けていくような仕組みを作っていけないかと私自身も思っています。昔描いた絵や,いろいろ表彰されたこととかはどこ行ってしまったのだろうか。絶対捨てられてしまっているわけで,今だったら写真に撮って,こんなコメントをもらったというのを親が記録しておいてあげて,お子さんがある年齢に達したら,それをお誕生日のプレゼントとして差し上げて,あとは自分が読んだ本や描いた絵,作文や学んだことなど,様々な学習に関わるようなものを記録していく。それを逆に,この部分はオープンにしたいけど,この部分は嫌ということはオンラインの世界ではできます。就職や受験ということになったら,こんな人間なんだということをオープンにできるようにしたらいいのではないか。そういう仕組みを実は御用意したいと思っています。
 あとは,例えば,SNSなどで,修了書を取ったら,バッチか何かを差し上げて,取ったということを少し自慢できるような仕組みを用意したら,もっと良いのではないかということで,オンライン上のサービスだからこそ,幾つかできることはありそうだと思っていますので,今から具体化したいと思って準備をしております。

【清原委員】
 ありがとうございます。

【山内教授】
 実は,東京大学自身もカリキュラム化ということに関しては,それほど経験がなく,1個だけ,「Visualizing Postwar Tokyo」という東京の戦後史に関するコースが前例としてあります。「Visualizing Japan」というコースをハーバード大学とMITが出していて,それをカリキュラム化してxシリーズにしました。日本語のリージョナルMOOCもそうですが,要するに,今からやらなければいけない非常に大きい課題です。ここが乗り越えられないと,先ほど,知識へのアクセスで格差があると言いましたが,今,格差は知識へのアクセスではなく,体系立ったプログラムにアクセスできるかどうかまで広がってきてしまっていて,それがさっきのMicro Masters Programまで来たのかというところがあって,少し絶望的な気分になります。
 つまり,そういう意味では,委員がおっしゃっているところが一番大事なところで,これから日本のオンライン学習もどんどん体系化してカリキュラム化して,しかも,保育士もそうですし,いろいろなところに恐らくニーズが潜在的に埋まっていると思います。それをいろいろなプレーヤーが協力して,一つのこういう教育プログラムに仕立てていって,たくさんの人が受けられるようにするということを,今後数年でやっていかないと非常にまずいことになると思っています。

【清原委員】
 ありがとうございます。私たちの課題を反映して,もう先駆的に,世界の国際競争の中で御努力いただいていることに心から敬意を表します。そして,是非日本の実情,また地域の実情に合わせて,ウエブ上にオープンなプログラムとして入れていただければ,確かに小さなお子さんから御長寿の方まで自分自身を客観化できるようなものもできますし,今後大学はもちろんのこと,高等専門学校などいろいろな英知がいい意味でネットワーク化して,課題解決に結び付けていただけるのではないかという未来のビジョンを頂きました。どうもありがとうございます。

【明石部会長】
 では,生重委員。

【生重委員】
 ありがとうございます。すごく希望が持てるような面白い話で,恐らく,最終学習履歴というものが今後重要視されるようになっていかないと,就労に対しての意識というものも変わっていかない。閉塞感や自分が取り残されている感が,地方都市に行くととても感じるので,先ほどもおっしゃっていましたが,公民館,図書館,博物館,様々な地方の財産を活用して,対面型が年のうちに何回か,何か月か行われるみたいなものまでいったら相当面白いことになると思います。どうしても離れられない地元で,自分が有資格者になれるというところまで学習できたならば,年老いた親を面倒見ながらでも自分が資格を取って,地元に貢献できる人材になっていけるというように,いろいろな意味で夢を奪われている人たちの次への希望が見えるような気がいたしますので,是非グローバルとグローカルの観点からそういうところを推進していただきたいと思います。ありがとうございました。

【伊能代表取締役社長】
 一つ,よろしいですか。図書館に関してですが,2014年の夏に,MOOCに関する講座がオンラインでございまして,それを活用して,実は指宿と熊本の図書館で,実際に図書館職員の方をファシリテーターとして,熊本大学の先生をお呼びして,反転学習,対面授業をやって,熊本はまだ高等教育へのアクセスは悪くないですが,指宿の方は,鹿児島まで行かないといけない。同じ県ですけれども,遠いです。ですので,すごく喜ばれて,生まれたところで高等教育への身近さが全然違って,こういうものができるということをとても喜んでいただきました。トライアルで終わってしまったので,なかなか続けられなかったのですが,そういったものがまた,いろいろな場所でできたらいいと願っておりますので,是非よろしくお願いいたします。

【山内教授】
 私も一点だけ。グローバルな状況の補足をしたいと思います。アメリカでペンシルバニア大の英文学のコースを,ニューヨーク公共図書館において対面で勉強会をしています。そこは,ペンシルバニア大学の助教クラスが1人行ってオーガナイズをして,さきほどの指宿のものによく似ていますが,そういう形でアメリカの公民館や図書館で学習会をするようなことはかなり広く行われています。公民館だけではなくて,カフェでやったりすることも多いのですが,そういう勉強会や学習会ということが,逆にこれによって喚起されて,それは生涯学習社会としては非常に健全なことだし,それが広がると,逆に公民館や図書館は使われるようになってきますから,そういう正のサイクルになるためのある種のカンフル剤にもなると思います。それが一点。
 それから,全然逆のベクトルで,これのプロバイダーに博物館などがなっている例があって,実はCourseraは大学だけじゃなくて,例えば,MoMAとかエクスプロラトリアムはCourseraのメンバーで,彼らのアウトリーチプログラムをここで出している。教員が受けたり世界中の人が受けたりしています。そういう意味で,生涯学習には,公民館や地元のネットワークの中に行くのもそうですが,ある種,例えば東京にある大きい組織,博物館や図書館などあると思いますけど,そこがこういう世界にむしろ主体的に乗り出していって,オンラインでの情報発信を積極的にやっていくという両方のベクトルがあり得るかと思います。

【生重委員】
 私は今のお話を伺っていて,建築家学会と子供たちのプログラムを作っていたときのことを思い出しました。ワシントンでアーキテックミュージアムが,建物とまちづくりという観点から,必ず1年に1回,先生たちが研修を受けられるという。アメリカの中でも歴史が深いワシントンのまちづくりと建物に対する造詣を,子供たちに向かう教員が常に学び続けるというのを勉強したことがあります。今のような形態で,博物館や公民館,図書館という地方の様々な所で,こういう形態で行われるようになったときには,是非もう少しゆとりを持てるようになった学校の教員が学びをしていただける場所になってほしいと思います。

【山内教授】
 ありがとうございます。

【山野委員】
 御発表、本当にありがとうございました。非常にわくわくしながら聞かせていただきました。生涯学習のところは,ほかの皆さんおっしゃったので,私は貧困のことにも携わっているので,どこにいても学んでいけるという点が気になりました。今,学習支援プログラムということで,子供の貧困対策の方でもどんどん進めていますが,子供たちがなかなか出てこられない,不登校の問題などいろいろありますので,是非そういうところにも期待したいと思うのと,先生方のこの研究に対して私たちに何ができるのか。また教えていただけると、うれしいです。どう取り入れていき,どうやっていけばいいのか,すごく興味を持たせていただきました。ありがとうございました。

【明石部会長】
 では,最後に,今の山野委員の質問に関連して,この企画部会に対して,文部科学省に対して,こうやれば,もっともっと生涯学習が伸びていきますというのを一言ずついただきたいと思います。まず,伊能社長からお願いします。

【伊能代表取締役社長】
 本当にきょうは貴重な機会を頂きまして,ありがとうございます。オンラインということで,最初,導入が悪かったかもしれませんが,私たちは先ほどから申しましたように,地域社会にどう溶け込んでいかせるかということをすごく考えています。特に,今おっしゃったように,お子さんや病院に入っておられる院内学習みたいなもの,もちろんひきこもりなどもそうですが,あとは,高齢者になると,なかなか手足が良くないなどございますので,いろいろな方にどうやって社会参画していただくかということを考えたときに,まずオンラインをきっかけにして,同じ内容に興味を持っている方を見つけ出して,できれば地元で会って,もっと興味,関心があるのであれば,一緒に出掛けて見に行こうなど,そのようなきっかけ作りのメディアになるのではないかと思っています。そういう活用方法を,いろいろな方々とお話をさせていただきながら,プラットフォームとしての御提供をしていますので,御活用いただけるように私どもも頑張っていきたいと思います。引き続きアイデアや機会を頂けましたら,どんどん考えてまいりたいと思いますので,よろしくお願いいたします。

【明石部会長】
 山内教授,お願いします。

【山内教授】
 今まで恐らく,制度的な教育は,例えば,小学校,中学校,高等学校の初等中等教育と高等教育,いわゆる生涯学習のような形で分かれてきたと思います。オンライン学習の面白いところは,そういう分かれていたものが全部壊れてしまう。つまり,小学生からお年寄りまで受けているということは,世代による壁がもう完全に壊れている世界だということです。こういうオンラインで壊れたことをむしろ逆手に取って,今まで,本来はここがこうつながったらもっと付加価値が高いことができたはずなのに,つながってなかったところをつなげることによって,より実質的な生涯学習のための仕組みを作っていっていただきたいと思いますし,私も,もしお役に立つことがあったら何かしたいと思っております。
 以上です。

【明石部会長】
 非常に元気が出て,わくわくするような御意見,ありがとうございました。時間が参りましたので,本日の議題に係る審議はこのあたりで終わりたいと思います。
 引き続きまして,事務局から参考資料の説明がありますので,お願いいたします。

【大類生涯学習推進課課長補佐】
 参考資料1をごらんください。こちらは生涯学習政策局の平成29年度概算要求の資料でございます。1枚おめくりいただきまして,総額だけ御紹介させていただきます。
 1ページ目の一番下の下段にございますように,平成28年度予算額が347億6,500万円でございましたが,それの36億9,300万円増の384億5,800万円を要求したところでございます。
 付随する資料については,お時間のあるとき,どうぞごらんください。
 また,参考資料2になります。こちらは,青少年の体験活動の推進方策に関する検討委員会の設置要綱でございます。こちらの委員会は,平成25年に出ました,青少年体験活動の推進に関する答申,この取組の検証を行うとともに,これからの青少年の体験活動に関する推進方策について御議論いただく予定となっております。あさって,29日に第1回が開催され,本委員会には明石部会長が御参加されます。こちらの青少年体験活動の委員会と,この企画部会,連携しながら今後の検討を進めていただきたいと思っております。よろしくお願いいたします。

【明石部会長】
 ありがとうございました。青少年の体験活動の推進方策に関する検討委員会も,きょうのオンラインの問題や対面授業など,体験をいかに豊かにするかという,学力テストで言うところのA問題とB問題がありまして,B問題に強い人をどうやって育成すればいいかということを総合的に検討してまいりたいと思っております。
 では,最後に事務局から事務連絡をお願いいたします。

【大類生涯学習推進課課長補佐】
 今後の予定について,机上資料を別途配布しておりますが,次回第4回は11月7日,月曜日16時から,高齢化社会における生涯学習について御審議いただきたいと思っております。第5回につきましては,11月28日,月曜日の10時から開催予定でございます。以上,よろしくお願いします。
 連絡事項は以上です。

【明石部会長】
 それでは,本日はこれにて閉会とさせていただきます。どうもありがとうございました。

―了―

お問合せ先

生涯学習政策局生涯学習推進課

電話番号:03-5253-4111(内線3273)
ファクシミリ番号:03-6734-3281
メールアドレス:syo-bun@mext.go.jp

(生涯学習政策局生涯学習推進課)