生涯学習分科会企画部会(第1回) 議事録

1.日時

平成28年6月21日(火曜日) 16時00分~18時00分

2.場所

文部科学省15階15F1会議室

3.議題

  1. 部会長の選任等について
  2. 生涯学習振興をめぐる現状と今後の方向性について
  3. 有識者からの意見発表
  4. その他

4.議事録

  1. 事務局より,挨拶が行われた。
  2. 事務局より,各委員及び文部科学省出席者の紹介が行われた。
  3. 委員の互選により,企画部会長に明石委員が選任された。部会長代理については,明石部会長から菊川委員の指名があった。
  4. 生涯学習分科会企画部会運営規則について了承された。

【明石部会長】
 では改めまして,部会長に就任いたしました明石でございます。一言,御挨拶を申し上げたいと思います。
 最近の事例で,例えば家庭教育が問題あると言われていますけれども,若いお母さん,お父さん方が朝食で目玉焼きを作らなくなったという傾向があるそうです。話を聞きますと,理由の一つはまず作れない。それ以上に,作ると残ったものを台所に持っていって洗うのが嫌だから,出来上がった乾パンを朝御飯にするという現象が,保育所や幼稚園のお子さんを抱える家庭で増えつつあるというのが1点あります。
 もう一つは,3歳児,4歳児のままごと遊びが,作る遊びから配膳遊びに変わりつつある。10年前までは,まないたを切る遊び,フライパンで揚げる遊びが多かった。最近はそういう遊びが減ってきて,テーブルをきれいに拭き,お皿を置き,買ってきたものをてんこ盛りして,いただきますと言う。これが配膳遊びです。作る遊びから,できたものを頂く遊びに変わりつつある。これは,家庭教育がそういう形に変わりつつあることを示しています。
 二つ目は,先週,青少年教育振興機構の中で,4か国の高校生に対して安全に関する調査をしました。結論を言いますと,日本の高校生は,池に入ってはいけない,ここは危ないという明示があれば冒険はしない。しかし何も表示がないと,例えば地震のときにどう逃げていけばいいかということに,全然関心を持たない。あらかじめ想定されたことは非常に忠実に守る,しかし何も明示がないと,自分で自己判断ができないという調査結果でした。それゆえ,これまでの15,16年間で,ほとんどけがをした体験がない。一番けがをしている,事故に遭っているのはアメリカの青年たちです。彼らはすごく大胆に動き回る。野外で動き回るから,けがもするし,事故も遭っている。日本と韓国は,ずっと幼児期から15歳ぐらいまでは外に出ていないから,けがに遭っていない。
 これが一番心配です。高校生に野外体験をしたいか聞いても,余りしたいと思っていない。両親が小さい頃,野外に連れて行ってくれたかと聞いても,そういう経験もない。親が野外体験を子供に勧めていますかと聞いても,勧めていないという結果が出ています。アメリカの昔のカウボーイというか,ワイルドな青年と,非常に静かな日本の青年の対比があるというのが気になっております。
 三つ目は,千葉市が,この6月から新たに放課後子供教室を民間団体に委嘱しました。今のところ,うまくいっています。NPO法人にお願いして,10校で実験をやっています。市全体の統括コーディネーターが良く,10校の地域コーディネーター同士がうまく連絡がとれている。昨年12月に学校地域協働答申を出していますが,県レベルで統括コーディネーターがうまく機能すると,地域の地域コーディネーターとうまく連携できる。やはりこれからは,地域を束ねる統括コーディネーター育成が大事になってくるという感じがしています。
 四つ目は,夏に短大で教員免許更新講習と,幼稚園の先生と保育士の免許がある方への特例講座というのをやっています。こういう資格があって補助金が出ると,非常に自分で勉強しようという気持ちになります。大人の学び直しは,縛りがあるととても頑張る。それがどうも縛りがないと,このデータがあるように,大学にも行かないし,社会人の大学進学者が少ないというのが,ずっと教育振興基本計画で気になっている問題です。今後,そういう縛りがない中で,社会人の学び直しをどうするかという問題もあります。
 そういう意味で,今回のこの企画部会を設けたのは,様々抱える問題を,本当に大胆な発想で意見を出していただいて,論点の整理できればと思い,こういう部会を設置したわけでございます。よろしくお願いいたします。
 それでは,最初の部会ですから,部会長代理の菊川委員からも一言お願いいたします。

【菊川部会長代理】
 菊川です。明石部会長のように楽しい話はないですが,昨年の12月の中央教育審議会の答申は,本当に社会教育関係者の長年の悲願だったと思います。それから,学習成果活用部会の答申も,小さな一歩かもしれませんけれども,本当に長年の懸案だったように思います。
 それで,そういう意味では,今回,教育振興基本計画を検討するに当たって,少し幅広に,今までの施策を振り返りつつも,大胆に自由に発想していくといいのではないかと思っておりましたところ,こういう形で企画部会ができましたので,本当に有り難いと思って参加させていただいております。すごく自由な発想で議論できると思って,楽しみに参加させていただこうと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

【明石部会長】
 ありがとうございました。
 では,続きまして事務局を代表して,有松生涯学習政策局長から一言御挨拶をお願いいたします。

【有松生涯学習政策局長】
 御挨拶申し上げます。委員の先生方には御多用中のところ,企画部会への委員の就任,そして本日御出席いただきましてありがとうございます。改めてお礼申し上げます。また日頃より文部科学行政に多大の御理解,御協力いただいておりますことにお礼申し上げます。
 さて,先ほど既に明石部会長からいろいろなお話があったところでございますが,少しこの部会の設置の経緯,趣旨について御説明申し上げたいと思います。今年4月18日の中央教育審議会におきまして,第3期教育振興基本計画の策定について文部科学大臣から諮問をさせていただきました。第3期教育振興基本計画は平成30年度から始まるものでございます。そこでは諮問事項の一つとして,2030年以降の社会の変化を踏まえた教育施策の基本的な在り方についてというのが挙げられております。
 この教育振興基本計画の策定についての御審議の中心となるのは,総会直下に置かれました教育振興基本計画部会というのがございまして,全体としては,教育振興基本計画部会を中心に議論が進んでいくことになっております。しかし,生涯学習の課題につきましても,先ほど部会長からお話ありましたような状況もございまして,第3期教育振興基本計画の策定に向けて,生涯学習振興の今後の基本的な方向性について,専門的見地から御検討を頂くことが必要かと存じまして,新たに企画部会を設置いただいたわけでございます。
 従いまして,この部会では,次期の教育振興基本計画に向けて,様々な関係する分野の有識者の方々からお話を伺うとともに,委員の先生方から忌たんのない御意見を賜りまして,今後の生涯学習振興全般に関する基本的な事項について整理をしていただきたいと思っているところでございます。
 また本部会以外に今後,地域との関わりを中心とした社会教育の在り方や,家庭教育の支援に関しては有識者会議を設けて御検討いただく予定でおります。そちらの御検討とも連携をしながら議論を進めていただきたいと思っております。どうぞよろしくお願い申し上げます。

【明石部会長】
 局長ありがとうございました。
 それでは早速,議題に入らせていただきたいと思います。まず事務局から,生涯学習振興をめぐる現状と今後の方向性について御説明いただきたいと思います。まず岸本課長からお願いします。

【岸本生涯学習推進課長】
 それではこの後,資料4に沿いまして御説明をさせていただきますけれども,それに先立ちまして,簡単に今後の議論の方向性等につきまして御説明させていただこうと思います。
 先ほど明石部会長,菊川部会長代理からお話しいただきましたとおり,今回のこの企画部会におきましては,第3期教育振興基本計画に向けて,自由な見地から,特定のテーマについてということではなくて,幅広な議論ができればということで進めさせていただきたいと思っております。本日もこの後ヒアリングのために,有識者の先生にお越しを頂いているところでございます。
 ただ,この第8期生涯学習分科会も残り半年ほどということで,余り時間があるわけでもございませんので,ある程度この企画部会で何を議論していくのか,議論する必要があるのかということについて,少し方向性を考えていく必要があるのではないかと思っております。
 その御議論の材料としていただくために,資料4を御用意させていただいております。これは第2期教育振興基本計画における生涯学習振興の柱に沿って整理したものでございます。こちらにつきまして,先に事務局より説明をさせていただきます。

【大類生涯学習推進課課長補佐】
 それでは,資料4につきまして御説明いたします。生涯学習推進課長の岸本から説明がありましたが,この資料は,今年3月,生涯学習分科会におきまして第2期教育振興基本計画のフォローアップについて御審議いただきました際の御議論を踏まえて作成したものです。3月にフォローアップしていただいたときは,教育振興基本計画の施策に従いまして現状,データ的な部分,また国の取組として今後どのように取り組んでいくか,今後の方向性を整理していただいたところです。さらに時点更新を行い,その今後の方向性について更に書き加えるべきところを整理して,お示ししたものです。
 なお,生涯学習分科会関係では第2期教育振興基本計画の17の施策が関係してございましたけれども,その中でも特に課題があると認められた六つの施策を本日は整理してお示ししたものでございます。
 基本施策ごとに現状と国の施策を順番に整理させていただきまして,三つ目の行につきましては今後の対応の方向性を整理しております。丸の記載は,今年3月の時点で整理いただいた内容でございますが,強調した文字の部分,この矢印の部分は,更に今後の方向性を追記させていただいた部分でございます。
 それでは成果目標3,4,8と大きなブロックごと,施策ごとに御説明差し上げます。
 まず施策11-1は現代的・社会的な課題に対応した学習を推進するという柱でございました。現状としましては,平成24年度から現代的な社会的な課題に対応した学習を行った人の割合は減少してしまっているということから,3月時点では公民館等により提供される講座において,今後更に地域課題の解決に資する学習機会を十分に提供されることが期待されると整理いただきました。
 加えまして,今後取り組むべきこととしましては,矢印にございますように,様々な主体と連携・協働した地域課題解決のための取組が推進されるよう,「学びを通じた地域づくりの推進に関する調査研究協力者会議」を設置し,社会教育の在り方について論点整理を行ってまいりたいと考えております。
 また,現代的・社会的な課題に対応した教育の振興を図ることが必要であると御指摘いただきましたので,今後この点の推進に当たっては,第4次男女共同参画基本計画,消費者教育の推進に関する基本的な方針等に基づきまして,関連施策を推進していきたいと考えてございます。
 次の柱は施策11-2,青少年の体験活動及び読書活動の推進に関する部分でございます。現状に記してございますけれども,体験活動はいまだ十分ではないということ,また読書活動についても,特に高校生を中心に不読率の割合が高いということから,3月時点の整理では,今後も幅広い関連機関,地域の多様な人材による連携した活動を促進するということとともに,関係団体への支援や企業による取組を推進すると方向性を示していただきました。
 さらに今後,平成25年1月に出された青少年の体験活動に関する答申のフォローアップを深めるとともに推進施策を検討していきたいと考えております。
 読書活動につきましては,次の第4次子供読書推進計画の策定作業の中で推進策を検討していきたいと考えております。
 次の柱は学習成果の評価・活用に関する部分でございます。施策12-2の柱でございます。この点につきましては,昨年来,学習成果活用部会におきまして,検定試験の活用・質の保証,ICTを活用した学びと活動を活性化するための基盤の構築などについて十分に御議論を頂いてきたところです。その成果として先月,答申がまとまったところですが,この答申の提言を踏まえまして,今後具体化に向けた取組を推進していきたいと考えております。具体的には検定試験の評価に関するガイドラインの策定や生涯学習プラットフォームの構想に向けた調査研究の推進などに着手していきたいと考えております。
 おめくりいただきまして,成果目標4に関する部分でございます。成果目標4に関しましては,特に社会人の学び直しの機会の充実について課題を整理させていただいております。国の施策の部分をごらんください。
 これまでも社会人入学者数の増加に向けて,あらゆる取組を推進してきてございます。具体的には社会人や企業等のニーズに応じた実践的・専門的なプログラムの充実や,学びやすい環境の整備ということで,放送大学における資格関連科目の増設といった取組,さらには学び直しに対する経済的支援の充実,こういった取組を推進してきました。
 これに加えまして,今後の対応の方向性の一つ目の丸にありますように,昨年4月の諮問を受けまして,実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化等についての検討を進めてまいりました。これにつきましても先月,5月に答申が取りまとめられまして,特に新たな高等教育機関の部分につきましては今後,法制化等の具体化に向けた検討に着手するという予定でございます。
 また,この社会人の学び直しの関係につきましては,社会人の入学者数を成果指標と掲げてございましたけれども,この数字の達成状況がかんばしくない背景として,達成度合いを示す指標の在り方が妥当なのかどうか,この見直しも必要ではないかと方向付けしていただきました。
 したがいまして,矢印のところにありますように,今後,成果目標の在り方も含めまして,これからの社会人に求められる資質を踏まえた,社会人の学び直しの機会の充実に向けて論点を整理していきたいと考えております。具体的には学び直しのニーズについて,あるいは学び直しを支援する環境の整備について,さらには企業等における学び直しの支援体制について,こういった部分の現状について把握,検討を深めていきたいと考えております。
 3枚目に移り,成果目標8の互助・共助による活力あるコミュニティの形成でございます。
 施策の一つ目として,「学校支援地域本部」や「放課後子供教室」といった,社会全体で子供たちの学びを支援する取組の推進等でございます。
 いずれもデータ的には進捗が図られているところですが,先ほど菊川部会長代理からのお話もありましたように,平成27年12月に出されました学校地域協働答申の提言内容を速やかに具現化していく必要がございます。具体的には矢印のところにありますように,答申及び「次世代の学校・地域」創生プラン,いわゆる「馳プラン」を受けまして,可能なものから速やかに具体化に向けて着手したいと考えております。
 一つ目としましては,「地域学校協働活動」の推進に向けて,法律上の明確化を図るための社会教育法の改正案を検討していきたいと考えております。
 また,「地域学校協働本部」の全国的な整備,さらには,それを支える地域コーディネーターの配置の推進等に向けた支援を図っていきたいと考えております。
 さらに,こういった地域学校協働の取組を推進するための参考事例集の普及や,フォーラム等の開催によって普及啓発活動を進めていきたいと考えております。また,ガイドラインの策定も予定してございます。
 最後に,施策22-1,家庭教育支援の推進に関する部分でございます。現状としましては家庭教育支援チームの数が増加しているなど進捗が見られるところでありますが,引き続き,今後の対応の方向性にありますように,身近な地域における家庭教育支援の一層の充実が求められているところでございます。また教育・福祉関係機関・団体等とのネットワークを構築しつつ,課題を抱える家庭への訪問,相談対応など,こういった取組の推進が一層求められているところでございます。
 これらの現状を受けまして,矢印のところにありますように,全ての保護者が充実した家庭教育を行うことができるように具体的な推進方策につきまして,有識者会議において検討を進めていきたいと考えております。
 具体的には家庭教育のヒントとなる普及啓発の資料を作成など,全ての親の学びや育ちを応援するための方策を検討すること,また,家庭教育支援を行う人材を確保するため,循環型人材養成システムモデル,この構築など,家庭教育支援基盤を確立していくための在り方,さらには子供たちの基本的な生活習慣づくりを社会全体で支える取組の推進方策。こういったテーマを中心に有識者会議で検討していきたいと考えているところでございます。
 以上,資料についての説明は終わりたいと思います。よろしくお願いいたします。

【明石部会長】
 ありがとうございました。今,事務局から教育振興基本計画に関する御説明がございました。これに関して何か御意見,また御質問がありましたらお願いいたします。では,菊川部会長代理。

【菊川部会長代理】
 何度も出ていますように,実務的に整理をし,粛々と検討していくべき領域については,恐らくもう事務局の方でこのように仕分をしていただいていると理解しております。ですから,本部会では,今までの政策と少し断絶があるかもしれないようなことについてそ上にのせる場という理解だろうと思っております。そういう観点で幾つか申し上げたいと思います。
 一つは言葉の整理ですが,御説明の中にも生涯学習という言葉と学び直しという言葉が交じって出てきます。それから,様々なアンケート調査にも,生涯学習と聞いているときと学び直しと聞いているときがあり,回答する方は,それぞれ違うイメージで回答しているのではないかと思います。
 ですから,歴史的経緯はあると思いますが,新たにスポットライトが当たっている学び直しという言葉をどのように捉えるか。あるいは別の言葉で,例えば「学び続ける社会」という言葉等,既存の生涯学習分野の用語をどう位置付けていくのか。それは単に言葉だけではなくて,少しニュアンスが違ってきていると思います。生涯学習といったときに,やはりどうしても趣味,教養という形でのインプットが非常に強いのではないかと思っているのが1点です。
 それから,ここの一覧表の中には,成人の学習を職業にどう生かしていくかという視点が出てきていないと思います。もちろん,厚生労働省と文部科学省の関係もあると思いますし,それから日本は企業内教育が非常に豊かに整備されているというようなこともあります。しかし時代は既に変わっていますし,今からの学習の動機付けとして,先ほど明石部会長もおっしゃったように,何のために学ぶのかといったときに,やはり生活を懸けて学ぶというところが非常に大きなインセンティブになっていて,そこに応えない生涯学習はあるのだろうかというのが2点です。
 それと,3点目は高齢期の問題です。高齢化社会の中で,やはり最後まで元気を維持していくということが,社会の持続可能性という観点から非常に重要だと思います。そういうところに対して,教育施策はどういうことができるのかという視点も必要なのではなかろうかと思います。

【明石部会長】
 ありがとうございました。ほかに何かございますか。では山野委員。

【山野委員】
 今の事務局の御説明に対して,成果目標3で,今,菊川部会長代理もおっしゃったように,学習成果を生かしていないという方が24.1%いらっしゃる。例えば,厚生労働省の所掌にはなりますが,民生委員等の地域でいろいろ活動されている方が,もっと学んだことを生かしたいと思っておられますが,なかなか生かせる場面がないという領域もあるなど,生涯学習は趣味や教養である,というレベルではどんどんなくなってきている。
 冒頭,明石部会長からもお話があった家庭教育の視点も,単に親がさぼっているということではなくて,ダブルワーク,トリプルワークになっているひとり親家庭の問題等があって,なかなか生活に余裕が持てないというような実態もあります。つまり,趣味や教養ということの学びではなく,お互いに地域を豊かにしていくような学習成果を生かせる場をどのように作っていくのかということが重要です。
 例えば私の関連する福祉とか子供の貧困の部分であれば,内閣府の沖縄関係の会議でこども食堂や学習支援を行う際,地域でやっていきたいという方と,なり手を求めているところ,需要と供給がうまくマッチしていないということがありました。そこがうまく流れるような仕組み,福祉領域に関してだけのお話を私は例を挙げて言っていますが,しかしながらほかの分野でも,学んだことがうまく生かせるような流れが見えていないということもあると思いました。

【明石部会長】
 ありがとうございました。では清原委員。

【清原委員】
 事務局でおまとめいただいたものの順に沿って,幾つか気付きをお話しします。
 成果目標3の「生涯を通じた自立・協働・創造に向けた力の修得」で,現代的・社会的な課題に対応した学習をした人の割合が減少傾向にあるということを問題提起されました。ここで,こうした調査の対象の場合に,公民館での学習などの機会をどのように捉えるかですが,いわゆる首長部局でも,特にこうした地域課題解決のための学習機会や資格を取っていただくような機会というのを提供している例が増えています。
 例えば,震災を受けた地域では,同時に土砂災害など,深刻な自然災害との闘いがあるわけですが,防災につきましては,とりわけ首長部局の方で,例えば三鷹市であれば出前講座をするなど,町会,自治会や地域の住民協議会のメンバーや,様々な団体に,自ら自助・共助の力を身に付けていただくような機会を用意しております。長寿化の中で,民生児童委員も,例えば首長部局が開催する「傾聴ボランティア養成講座」や「地域福祉ファシリテーター養成講座」などを受講して,ボランティア的な仕事を果たしつつ,学びつつやっているという例なども幅広く,今後,現代的・社会的な課題に対応した学習の範囲としては位置付けて視野を広げていくということが重要ではないかと思います。
 社会教育については,また別途検討されるということなので,この企画部会の方では,どちらかといえば「教育委員会所管の分野以外の自治体行政の学びの機会に視野を広げる」,あるいは「企業の用意した取組や民間団体等のものにも視野を広げていく」ことが有用ではないかと思いました。
 その関連で,成果目標4の「社会的・職業的自立に向けた能力・態度の育成等」ですが,自治体の現場は今,少子長寿化の中で動いております。例えば待機児童の解消と申しましても,なかなか都市部ではそれがかなわないのは,保育士不足という現実があります。したがって,厚生労働省にお願いして,保育士試験を年2回にしていただく,あるいは潜在的に,資格はあるのに少し現場を離れた方にいかに復帰していただくかというようなことは,正に喫緊の課題です。
 また,長寿化の中で介護保険制度というのもかなり改正が続いておりまして,必ずしもケアマネジャー,あるいは資格を持ったヘルパーだけで介護を担えるような状況ではありません。
 一例で申し上げますと,介護保険制度は平成27年度に改正されまして,三鷹市でも,例えば要支援の皆様で,身体介護を必要としないけれども家事支援サービスは必要だという方には,ヘルパーの資格をない方にも活躍をしていただかなければならない状況になりましたので,三鷹市主催の,愛称として「みたかふれあい支援員」の研修を公募したところ,すぐ定員が埋まりました。
 先ほど高齢者の方が更なる社会参加を考えることもある,という御指摘がありましたが,正に介護支援の支援員を三鷹市独自に養成しようとしたときに,60歳以上の方も積極的に応募をされるわけです。今後そうした機会を増やしていきますが,一定の研修を経ることによって,資格を持ったプロフェッショナルとは違うけれども,社会的・職業的に自立するだけではなくて,コミュニティの必要なサービスで,しかも行政の連携の中で,民間の介護事業サービスに参加される住民の方が増えつつある。これは制度が変わっていけば,先ほど明石部会長がおっしゃいましたように,放課後子供クラブにしても,今後多様なNPOや民間の方が参加されることになったときに,その方たちの能力あるいは態度をどのように育成するかということは,正に職業的自立だけではなくて地域課題の解決にもつながるという両面の目的を果たすようなことがあります。成果目標3と4の関連性及び成果目標8の「コミュニティの形成」とにつきましては,分析的に分けて整理をされていますが,実態は目標が横串を刺すような状況ではないのではないかと思いました。
 しかし,私たちは一定の指標を持って成果を検証していくときには分析的である必要はありますが,これからの教育振興基本計画の在り方によっては,今,例示しましたような目標の3,4,8を通底するような目標が存在するのではないかと思います。
 最後に,菊川部会長代理が問題提起されましたように,この「学び直し」という言葉の定義については,やはり一般の国民,市民の皆様は大変注目されるものだと思います。今まで何らかのことを学んでいるから「学び直し」になるわけです。何か一定の学びがあって,それをもう一回学ぶ。でも,何か今までの学びが社会人としての基礎を形成しているとすると,それに付加価値を付けていくのを「学び直し」と言うのか,あるいはある目的を持った生涯学習の一つとして捉えるのか,職業的学びの一つに捉えるのかというあたりで,とても包括的な言葉が「学び直し」であるだけに,それを前面に出して生涯学習の中の一分野にしたいという思いがあります。曖昧さの良さと包括的な良さとありますが,少し整理しなければいけないということで,今,答えがあるわけではなくて,私は,この言葉が何かキーワードになっていくということを,今の御説明で感じました。

【明石部会長】
 では今野委員。

【今野委員】
 これからの新しいテーマを考えるとすれば幾つか,きょうの議論の中で出てこない新しいものを,と思って考えたのが,一つが市民の市民性の教育推進という側面ではないかと思います。大きな社会の流れの中で,少子高齢化や知識社会化等,いろいろなことがあります。その一つに,着実に市民社会が日本でも進展をしているということがあります。ボランティアも非常に多くなってきていますし,NPOも様々なところで活躍している。行政においても,市民と協働型のローカル・ガバナンスなども目指されることになってきて,市民が地域の統治の中に主体的に関わっていこう,行政もそれを前提にして,新しい行政の枠組みを作っていこうということになっております。一番問題なのは,それを担える市民性の高い積極的な大人たちがどのぐらいいるのか,どのぐらい育成できるのかという点で,それはやはり社会教育や生涯学習の担う役割だと思います。
 今までの言葉の範囲からすると,本日の資料の一番上の現代的・社会的な課題が十分かどうかという中に入ってきていたと思いますが,市民の市民性を育成させるのは,いわゆる学習で,公民館でいろいろ社会のことを勉強するというものとは少し違って,実社会の中,地域の中での活動で学ぶ,あるいは人とのネットワークの中で考えるという側面が非常に強いので,従来の現代的・社会的な課題の学習といった中に入り切らないものがあるのではないか。むしろ,そういうものが大切ではないかと思います。
 したがって,狭い意味での学習というのはなくて,地域の様々な課題意識,活動,地域の活動との連動した学習,学びというものに少し広げて考えると,この枠の中に考えるよりは市民教育,あるいは市民性の育成ということが少しはっきり出てきた方が分かりやすいのではないかと思います。
 そういう意味では,今もお話出ていました,第2期教育振興基本計画の中では地域コミュニティを作るということが大きな柱で出てきておりまして,それが生涯学習と非常に関わりのあることになっているわけですけれども,その連動の中で市民の市民性を高めていくという活動を明示的に捉えていく必要があるのではないかと思いました。
 それから,このところの個人的な経験で思ったことですが,オリンピックセンターで国際交流の事業がありまして,ドイツの調査団の方が日本の福祉,教育,青少年のための活動をずっと見て回って,勉強されていきました。終わった後に懇談する機会がありまして,日本についてどんなことを一番感じましたかという中で,二つ参考になりそうなことがありました。一つは,青少年施設はどこでも非常に現場の努力で,工夫で,様々な施策をとっていて,非常に関心をしたということです。地域のボランティアもたくさん参加をされて,良い活動になっていたということです。一つ足りないのは,専門家の専門性。中核になる専門家の人が,どうもいない。こういう人がいれば,もっと良いのにということでした。ドイツでは,そういう国家資格が非常によくできていて,教育や福祉の分野では,そういう資格制度があるので,日本では専門性というところでは足りないと感じられたのかと思いました。
 そこから本日の話に無理やりこじつけるとすれば,生涯学習,社会教育の場では,社会教育主事や,あるいは社会教育主事だけでは仕事はできません。民間の人たちの中でもリーダー的な人たちと一緒になって,社会教育主事というのは仕事すべきものだろうとすれば,社会教育主事の資格制度も少し前から課題だと思いますし,それから一般の人たちの資格制度みたいなものも改めて考える必要があるのではないかと思いました。
 それからもう一つ,そのドイツの人たちの話の中で,青少年教育施設では,子供対象の工夫はよくやっているけれど,家庭,親に対する施策を併せてドイツではやっているということでした。それぞれの分野ごとで,家庭教育というと,我々の場合には固有の問題ということで家庭教育事業を展開しているかと思いますけれども,それぞれの青少年,あるいは福祉,いろいろ分野の中に入り込んでいって,一緒にやっていくことが必要だと思いました。
 個人的な経験でも幾つかサポートステーションなどを見に行ったときに,ひきこもり,ニートなど,いろいろな子供たちの事業を展開していますが,どうもその基本にあるのが,社会教育的な活動で,家庭の親に対する取組も大切だけれども,なかなかできにくいという話もありました。そういう現場に行くと,社会教育との連動性というのが是非必要だし,これからすべきポイントではないのかと思いました。
 幾つか是非,今までにない新しいということで取り上げることができれば取り上げていきたいと思っております。

【明石部会長】
 私も一つ申し上げたいのは,健康寿命を延ばす政策はできないかということです。健康寿命の日本一は,静岡県です。健康寿命というのは,高齢者社会において,人生の最後まで元気でいるということです。誰にも迷惑を掛けない生き方,新しい人間像を,こういう企画部会では出していけないかと考えています。人間像と同時に社会像も出していけるとよりよい。健康寿命を延ばすという施策を,厚生労働省も農林水産省もやりますが,この文部科学省でもできないか。
 よく聞いてみますと,静岡県で健康寿命が長いのは三つの条件がそろっているからだそうです。一つは栄養的な面。食育が熱心で,山の幸も海の幸もたくさんあって,豊かな食材がある。健康というのは,まず食が大事です。
 二つ目は,運動面です。幼児,児童,高齢者も体をよく動かす。
 三つ目に,ボランティア活動が熱心だということです。要するにこれは,菊川部会長代理がおっしゃっていたように,社会に参画するということが重要なようです。アメリカではそういう研究は多いようで,ボランティア活動した人が一層,健康寿命が長いという結果があるようです。日本では余りそういう研究はなされていませんが,そういう結果も出ているようです。
 その食育とスポーツ,社会体育を含めて,清原委員がおっしゃった学校教育でない視点からの社会づくりができないか。それは多分ボランティアも含むものです。これが1点です。
 2点目は,菊川部会長代理と清原委員もおっしゃった学び直しを,キーワードなので,この企画部会で1回,1時間ぐらい掛けて概念を詰めていくことが必要かと思います。例えば,新たな学びというのが一つあります。今はやりの人工知能に負けない新たな学びというのは。一つ考えることができると思います。
 二つ目は複数の学び直しという観点です。一つだけではなく,たくさんの学びがある。例えばマイケル・ジョーダンはプロバスケットで成功したけれども,野球でも成功する,テニスもできる。多様な学び方,スポーツでも多様な学びがあるということです。そういう学び直しもあると思います。
 3番目は温故知新といいましょうか,ふるきをたずねて新しきを知るという観点があります。
 以上,三つの学び直しの観点があると考えています。そういうことを含めて議論できればと思っております。

【清原委員】
 先ほど「学び直し」という言葉の中で私が感じたのは,生涯学習分科会でも「学習と活動の循環」ということも言ってきました。学習をすれば何か地域社会に貢献したいという意欲が生まれ,それをしていると,また学んで補強したい気持ちになる。その「学びと活動の循環」,ずっと上昇していく学びと,活動のらせん形のような議論がされてきたことを,本部会の議論の中で生かしたいということが1点です。もう一つは,健康長寿の秘けつとして,例えば児童館で昔遊びをボランティアされている方で80歳以上の方が結構いらして,小学生,中学生,幼児に物事を教えると元気になるとおっしゃいます。子供たちも,お父さん,お母さんだけではなくて地域の長寿の方と出会うということは,極めて大事です。地域の学びには,「多世代交流」ということに大変大きな意義があると思います。若い人は若い人だけ,高齢者は高齢者の人だけで健康寿命が延びるとは私には思えないので,地域や社会の学びの中では,多世代の交流をするということが重要だと考えます。

【明石部会長】
 ありがとうございました。
 それでは,議題3でありまして,有識者からの意見発表をお願いしたいと思います。今後求められる社会人の資質能力等について,神戸学院大学教授の立田教授から意見を頂き,その後,意見交換をしてまいりたいと思います。
 それでは,立田教授,お願いします。

【立田教授】
 皆さん,こんにちは。立田慶裕です。
 きょうは社会人の学び直しということで,大人の生きる力を中心に話をします。資料5-1をごらんください。
 自己紹介を簡単にさせていただきます。2014年春まで国立教育政策研究所で仕事をしておりました。20年以上にわたって,生涯学習に関わる研究をしております。情報社会,高齢社会,それから防災教育,特にこの10年ぐらいは読書教育に関わる研究をし,青少年教育振興機構の田中理事長や明石部会長等いろいろお世話になりまして,神戸に移ってからも少年自然の家などで講師等をさせていただいております。
 今年の調査では,家庭内の読書の調査を行いまして,大人の中にも本を読む親と本を読まない親がおります。ただ,本を読まない親の子供が全部本を読まないかというと,そうでもなくて,そういう親の3分の2の子も本を読む。本を読む親の子もまた,実は12%ぐらい本を読まない子供がいる。それはなぜなのかの分析をやっていこうと考えているところです。
 また国立教育政策研究所に在職中はほぼ20年以上にわたり,国際的な教育動向について研究しましたので,きょうはその話を中心にいたします。
 1ページ目は,きょうの話のストーリーです。まず,世界の急激な変化について簡単に説明し,それからコンピテンシーをめぐる議論のお話をして,最後に,きょうのテーマである社会人に求められる学び直しをどう捉えるかについての見解をお話しさせていただきます。
 まず1ページは,急激な世界の変化の状況を示す図です。実はこの50年,世界は余り変わっていないような気はしますが。実際にOECDの統計を見ますと,Trend Shaping educationというシリーズに,非常に大きな変化が示されております。
 社会,世界が教育を変える一方,教育も世界を変える。その両方のフィードバックの検討がTrend Shaping educationのテーマですが,例えば政治状況の変化,知識集約型のサービスの増大やテクノロジーの進歩,エコの問題,それから少子高齢化の問題や家族形態の変化などが大きく社会を変えつつある。
 ところが,成人には,学校教育のときに学んだ知識や考え方のままでいる人がたくさんいる。そのマインドセットを,ビッグデータのセットの説明で変えようという試みがあります。ハンス・ロスリングというスウェーデンの学者がいますが,ギャップマインダーというソフトを使って,ほぼ100年近い世の中の変化をぱっと見てしまう。そうすると,今の大学生でさえ,50年前の古いマインドセットを持ったままで物を見ていると言います。実際,このTrend Shaping educationを見る限り,やはり,そこに大きな変化がある。
 自然災害の日常化については,皆さん直感しておられると思います。台風,日照り,それから洪水や水害が統計上も増えています。ただし,これによって被害者が増えているかといったら,そうでもない。防災の努力や技術も進歩してきているので,救える人も増えてきている。
 次の6ページ目は一人世帯の増加です。こちらの方は確実に増えてきていて,統計上,2030年までに40%に至ると考えられています。この場合の一人世帯は,ひとり親世帯だけではなくて,高齢者の一人世帯も含まれます。この一人世帯の増加問題が,例えば地域の教育力をどう維持するかとか家庭の教育力をどう支援するかとかいった問題につながってきています。
 さらに,子供の貧困率の増大です。これは国によって状況が異なります。図では,右と左とで増大する国と減少する国に分かれていますが,子供が豊かになっている国もあれば,貧困の格差がついている国もあるということを理解する必要があります。
 次のページは,高齢化の全世界的な進行を示しています。日本も,あと20年ほどしたら,2人に1人が高齢者の時代になると言われております。特に教員や地域の指導者も含め,専門家の高齢化は進んでいます。
 それから,各国で進むグローバル化です。貿易総額に占めるGDPの割合がグローバル指数と呼ばれていますが,グローバル化に応じて知識やスキルをどう身に付けたらいいかという問題です。
 9ページ目はインターネットの普及です。例えばアップロード,ダウンロードという言葉を学生に問うと,「ダウンロードってどうするんですか」「アップロードってどうするんですか」と聞いてくる学生が最近いたので,びっくりしましたが,若い世代でさえパソコンの知識が不足する状況が今起きつつある。
 インターネットが世の中を変えつつあるということは確かです。私もこの1か月ほど,TEDという20分程度のネット上の番組を見ていますと,世の中が非常に変化してきていることがよく分かりました。日本語バージョンも多数あるので,是非皆さんも見ていただけたらと思います。認識が全く変わってしまいます。
 知識基盤社会の変化を示した図が10ページです。この変化は日本だけではなく,世界的に知的サービス産業が増えつつあります。日本の産業別人口の構成も,私が生まれた1953年は1次産業が5割近かったのが,もう2005年には5%を切っています。一方,3次産業は3割から7割に増えています。次の図は2013年の数値ですが,1次産業が3.8%,第3次産業が7割を超えています。世界的にこういう状況です。このことの意味ですが,第1次産業,第2次産業に従事する人々が減る。2次産業ではロボットが工場に置かれ,第1次産業も,バイオテクノロジーなどの高度な知識を必要とする産業に変わりつつある。第3次産業はほぼ知識産業と人間の対人サービス産業の二つから構成されますが,知識産業に従事していない人は対人サービス産業に従事せざるを得ない状況が生まれつつある。
 知識基盤社会の教育という点で,知識を創造する学習という考えが出てきたわけです。知識や創造という言葉は,すごく難しい。いかにこれを分かりやすく説明するかと,いつも考えています。
 例えば私が翻訳した「知識の創造・普及・活用」という本では,知識を生み出し,それを普及し活用するという流れが大切なのですが。どうすれば知識を活用できるかという点が非常に難しいと思います。そのための機会の充実という点で,さっき話題に挙がったように,学習機会の保障や能力の保障などがなされない限り,なかなか活用することができないでしょう。だから,授かった知識をそのまま使うだけでは活用に至らないという部分がある。活用の工夫として,創意工夫,知識の共有化,グッド・プラクティスと最良の実践モデルなどが出てきています。
 例えば,学校の世界でも実は調べる学習,探究学習という動きが出てきています。これは単なる知識伝達型学習から,学校の世界は知識生成型の学習に入りつつあることを示すものですが,実際には,学校の現場では相変わらず伝達学習が続いています。
 昨年,「図書館における調べる学習コンクール」の調査に参加しましたが,そこでも子供たちが教科を超えて調べる学習を行います。教科にこだわらないテーマを設定し,情報を探してまとめるのですが,その子供たちは,知的好奇心をもって非常に面白い生き生きした学習に参加しています。
 知識を生成する学習,生成型学習といういい方は少し難しいのですが,図の下部を見ていただけたらと思います。知識の生成プロセスは,単なるばらばらの情報があって,それを一定の関心でもって集め,いろいろな視点でデータを取りまとめる。その取りまとめたデータをストーリー化して構成することによって新しい知識が生み出される。知識が生み出される生成のプロセスがある。ともすれば学習は,この情報を知ることだけに終わってしまって,それ以降のデータをまとめる,ストーリー付けをする,新しい知識を生み出すまでに至っていないのが,恐らく学校の現状だと思います。
 そこで2000年頃から,OECDを含め世界でコンピテンシーをめぐる議論というのが始まりました。実は中央教育審議会の答申でも平成20年に,子供たちの生きる力に加えて大人の生きる力という言葉が出てきました。子供だけではなくて大人もまた生きる力を持つことが必要な時代ということが述べられ,非常に有意義な答申です。
 1999年からOECDが主催するDeSeCoプロジェクトが始まりました。「コンピテンシーの定義と選択」のプロジェクトと呼ばれるもので,22か国の参加を得て,専門家と教育から多様な政策関係者が参加する国際シンポジウムの結果,コンピテンシーという概念が考えられました。
 その全体的枠組みは,基本的に社会を発展させると同時に,個人も幸福になろうということを目標にし,そのためにはどんな力が必要かということで出てきた三つの力があります。その三つの力を用いれば社会も正常に機能するし,人生の成功にもつながるという形で考えられたものです。哲学から心理学,経済学などいろいろな専門にわたる,欧米を代表する学者が考えたので,普遍性が高いものになっています。
 三つの力は以下の通りです。「相互作用的に道具を用いる」,「異質な集団で交流する」,「自律的に活動する」,の三つです。
 コンピテンシーとは何かと簡単にいえば,一つは,従来の能力,知識や技能に加えて態度,動機が含まれる力です。その活用によって課題解決につなげていく力がコンピテンシーだと考えていただくと分かりやすいでしょう。
 コンピテンシーにもレベルがあります。全く意欲がない人もいれば,人に教えられたらできる人もいるし,一人でもできる,状況に応じて能力を活用できる人もおり,それから人に教えることができる人もいる。コンピテンシーをわかりやすく示す面白い動画がありますので,御覧ください。

(動画上映)

【立田教授】
 ウサギとカメの話です。皆さん,よく御存じの話です。それが途中で変わっていきます。最初,競争に負けたウサギはふり返る。今度はカメが反省します。自分の得意なコンピテンシーを生かそうと考えて,しかしただ,それだけでは話が終わらない。更に成果を伸ばそうとするにはどうしたらいいか。協働やチームワークが重要となります。要するに,人それぞれ違うコンピテンシーを持っているから,そのコア・コンピテンシーを集めれば,もっと優れた学習成果を出すことができるという話です。キー・コンピテンシーは,特定の問題状況に対応するため,知識や技能,態度を含むいろいろ資源を活用して,動員して,複雑な需要やニーズに応える力ということです。ただ,大事なポイントは,やはり社会全体の発展と個人の幸福をいかにしてもたらすかということを目標として考えられたという点です。
 三つのキー・コンピテンシーは更に下位のコンピテンシーから構成されています。異質な集団で交流するコンピテンシーには,他者とうまく協働するという考え方が含まれますし,自律的に活動するコンピテンシーには,大きな展望を持ちビジョンを変える,ライフプランニングも含めたプランニングの力,ストーリー・テリングの力なども含まれています。相互作用的に道具を用いるコンピテンシーには,言葉や科学的思考,テクノロジーを相互的に活用する力が含まれます。
 コンピテンシーの視点では,「相互作用的に」という言葉が重要です。一人ではなくて,たくさんの人とともにツールを用いれば,もっと良い成果を生み出せるということです。ですから,キー・コンピテンシーは全ての人の能力向上を考えた上で,共に生きることを学び,各個人の有能感をもたらすための考え方だということです。この考え方を広めたDeSeCoの参加者に,アンドレア・シュライヒャーというOECDの国際指標分析官がいました。彼は,PISAを代表とする国際調査の責任者でもありました。
 実は近年,教育に関わる国際調査が幼児教育から大人までを対象として行われています。この点については余り詳しい説明は省き,きょうは特にコンピテンシーに関わるPISA型学力を中心に考えたいと思います。
 PISA型学力の中では,先ほどチームワークの話が出てきましたし,その定義では,社会に参加するという点が重要です。例えばこのPISA型学力のliteracy定義にも,「engaging with written text」という用語,これに取り組む,関わる力が強調されています。PISA型読解力は,これまでの読解力,単なるliteracyや識字とは違います。その考え方は,なかなか学校現場に浸透しにくく,少し高度な能力であり,テキストを単に読むだけではなくて,どう個人が読解力を活用できるかという能力の測定も含んでいます。
 TOEICやTOEFLを主催している,アメリカ合衆国のETS,エデュケーション・テスティング・サービスという機関がこの考え方を生みだし,1990年代以降に,OECDと協力して開発したテストが,このPISA型テストの原型です。PISA型読解力の要素には,情報の取り出し,解釈,それから熟考・評価,考えるという面があります。
 科学的コンピテンシーや数学的コンピテンシーでも,例えば科学的証拠の活用,科学的なエビデンスを用いて説明しないといけないという考え方もありますし,数学では,もっと広い熟考能力,リフレクションが求められたりする。考える力がコンピテンシーの核ですから,それが各コンピテンシーに含まれています。
 PISA以前にも,ETSは新たな成人のリテラシーテストを開発していましたが,PISAの成功をふまえ,発展型として,PIAACという国際成人力調査も行われるようになってきました。PISA以前に,PIAACの基礎になったALLやIALSという成人力の国際調査が1990年代に行われ,それをベースにPISAやPIAACという調査が開発されたわけですから,ここのところは両方並行して作られたと考えた方がいいと思います。
 PIAACの内容とその成果については詳しい本も出ているので簡単に説明しますけれども,PIAACは16歳以上65歳以下の男女を対象にして行われている調査です。特に成人のコンピテンシー,読解力や数的思考力,ITを活用した問題解決力の測定を目標とし,PISAの大人版のような形で作られています。内容的にはほぼPISAに似ていますが,15歳児を対象としたPISAが変わればPIAACも更に工夫されると考えた方がいいと思います。
 PISAやPIAACの調査内容では,特に15歳児や成人の生活背景に即した問題が考えられていますが,この点は教育を考えるときに非常に重要なポイントです。
 私は別に「学習の本質」という本を訳していますが,そこで「オーセンティックな学習」,「真正の学習」,真(しん)に正しい学習という言葉が出てきます。真(しん)に正しいとは表現が難しいので,生活に即していると言った方がわかりやすいでしょう。自分の現実の生活に即した学習をする方が学習者にとって学びやすく,動機付けとなるという考え方が教育理論にはあるので,その考え方がPISAやPIAACにも反映されています。
 他方,DeSeCo以降,アメリカやオーストラリアが中心になって,21世紀型スキルという考え方も生じています。科学的な思考の重要性が強調される一方,特に21世紀型スキルの場合は,マイクロソフトなどの企業との関係があるのでテクノロジーを重視する面が強く,「真正の学習」という考え方から離れる危険性があります。
 PIAACの結果から,例えば図1-1を見ますと,年齢が上がるにつれて読解力は下がっていく。学歴別では学歴の高い人ほど読解力が高い。企業規模別では,大企業従事者,知識従事者ほど読解力が高いといったように,出身背景によって読解力が変わってくる。日本もOECDもよく似た状況にある結果が統計ではっきり出てきています。仕事やメモで電子メールを書く頻度別に見ても読解力に差異が生まれ,本を読む人ほど読解力は高いという状況が出てきています。
 教育社会学では,このような格差が生まれることを学習のマタイ効果と呼んでいますが,貧しい者がますます貧しくなるのと同じように,富める者がますます富む。そういう格差が大人になっても出てきていて,マタイ効果が大人では更に大きくみられる。このことを,やはり念頭に置いていただきたいと思います。
 社会人に求められる学び直しに関してですが,私たちはそれぞれの年代ごとに受けてきた学校教育が違うわけです。1940年代,1950年代でそれぞれ受けてきた学校教育の内容や方法が違う。社会的な背景としても,知識やスキルの高度化や価値の多様化が進んでいます。
 その間には知識やスキル,価値観の大きなジェネレーション・ギャップが生じてきていると思います。だから,学び直しという言葉を聞いたときに,私がすぐに思い浮かぶのが,やはり,この大人と若い世代のギャップ,それから成人の仕事では,職業別,企業規模別のギャップ。そのギャップをどう埋めて,誰もが分かりやすい形で自分の能力を向上する学習を行うにはどうしたらいいかという課題があると考えます。
 言い換えれば,小学校のときから能力格差が生まれるのは分かっているのですけど,中学校,高校になるほどその格差が広がる。大人になると,もっとその格差が大きくなる状況をどうやって平等化するかという壮大な課題がある。この問題にチャレンジされる方には敬意を払いますが,はっきり言ってこれは大変な試みであることも確かです。
 さらに,これからの社会で子供に必要とされる資質や能力は何かという点で,PISAは次々と新しい能力の必要性を打ち出していっています。
 コンピテンシーの高度化,PISA型読解力の展開ですが,ここに注意していただきたいと思います。2009年以降もPISA調査は次から次へと難しい課題に取り組んでいますが,その背景には,世界のグローバル化や知識の高度化に応じた形でテストの内容を変える必要があるからです。
 第1に,2009年以降「メタ認知能力」のテストが入ってきます。第2に,デジタル読解力のテストも入っています。「メタ認知能力」の向上のためには,学校でスタディ・スキルや考える力を教えればいいのですが,デジタル読解力は,コンピューター用語で言えば,ハイパーテキストをどう読むかという力です。また,こうした能力変化の背景には,知識の構造や理解自体が変わっていることを知る必要があります。私たちが学校時代に習っていたツリー型の知識体制,ダーウィンに代表されるようなツリー型の知識体系から,近年は,知識や世界の万物が複雑なネットワーク型の体系にあると考えられるようになっています。
 問題解決能力はチームによる問題解決で,アクティブ・ラーニングとも関わりますが,私はアクティブ・ラーニングとは基本的に,先ほどからこの部会で出ていた社会参加型の学習がアクティブ・ラーニングであると考えます。このアクティブ・ラーニングの普及のためには,先生方自身の学習や研修をどうするかという課題につながっていくものだと思います。それが必要な理由は,個人の知性に限りがあって,集合知性やコレクティブ・インテリジェンス,分散型の知性の導入によって,個人の能力を更に発達させ,開発できる可能性があるからです。
 加えて,2018年からはグローバル・コンピテンスという考え方がPISAに導入されます。そのポイントとして,コンピテンスの基礎になる考え方は,知識といっても学問的知識だけではなくて学際的知識,実践的知識を含む。スキルにもメタ認知スキルや情動的スキルや実践的スキルを含む。だから,今までのものとは違う知識やスキルがこのグローバル・コンピテンスに含まれていきます。
 2030年のOECDの教育フレームワークでは,伝統的な学問のカリキュラムを更に発展させて21世紀の理解を生むために進められるべきであるという考え方や,私も賛同する点として,差別的な偏見や行動に対する価値観や態度を作り出していくことがあります。このフレームワークでは,現代の学習の本質は,最高の学び方を考える力にあるという点が強調されます。ここでは,成人の場合,いかに難しい知識を分かりやすく,古い世代の人々に伝えたらいいかという問題があると思います。
 学習の保障が重要となります。先ほどの皆さんの意見に一言だけ付け加えさせていただきたい点は,障害者支援や高齢者支援の視点をもっと入れていただければ,それが実はすべての大人全体の支援につながると思います。
 例えば高齢者支援でしたら,ともすれば職業的な成人を頭に置くと,達成的欲求を前提にした学習を想定してしまいますが,高齢者になれば,別に達成しなくても仲よくおしゃべりしていたらそれでいい。これは親和的欲求と呼ばれます。達成的欲求よりは,親和的欲求の満足がもとめられます。人に勝つことより,人に役立つことが重要となります。
 高齢者になってくると足が弱くなるし,目も弱くなります。健康の確保や移動手段の確保が重要になってきます。先ほど明石部会長が,健康維持が大事だとおっしゃっていました。そのとおりで,地域間格差の問題を考えたら,高齢者がばらばらの地域に住んでいて,その移動手段をどう確保したらいいかいう問題が,生涯学習の課題として生まれると思います。
 もう一つはテクノロジーによる支援です。障害者の場合も学習する可能性はあります。障害者の学習機会をソフトウエアをはじめとするテクノロジーによって提供できるのではないか。キー・コンピテンシーの枠組みでは,自律的に生きる,Story Tellingを行う,道具を使う,世界で行動するなどの活動が大人の生きる力のベースになる気がいたします。

【明石部会長】
 ありがとうございました。立田教授,非常に刺激のある御発表でした。ありがとうございました。
 では,これから立田教授の御発表に対して御質問,御意見があればお願いいたします。
 立田教授,この成人力のデータをどう読めばいいのでしょうか。日本もOECDも同じ傾向ですが。

【立田教授】
 OECDも同じ傾向です。

【明石部会長】
 これが非常に興味深い。同じ傾向で,びっくりしました。これは,日本は成人力が高いと読んでもいいのでしょうか。

【立田教授】
 平均的に日本は高い。日本はOECD平均より高い成人力を持っています。ただ,私がひっかかっているのは,現実にITによる問題解決能力は,ITの利用者だけの結果について見たら高い。しかし,調査の報告ではITを利用していない人々を含んでいない。ITを利用していない人々の問題解決力を調査に入れると,そうはならないということです。それといろいろ格差が,OECDであれ,日本であれ,出てきている。年齢の問題,それから学力の問題,学歴の問題,それから企業間の格差の問題などが全部出てきているということです。

【明石部会長】
 はい。実はアメリカとドイツとフランスと韓国,イギリスの放課後を視察したことがあります。先進国は皆,同じ共通な課題を抱えている。移民の問題と忙しい人で子供の放課後が消えてしまっている問題です。

【菊川部会長代理】
 質問と意見です。
 このPIAACの調査の12ページですが,日本人は本をたくさん読むと思っていましたら,アメリカの方がはるかに高い,あるいは本を読まない人の割合が高い。これはこのとおりでしょうかというのが1点質問です。
 それと,先ほど大人の学力格差の話をされていて,例えば小学校5年生の学級を考えた場合でも,40人いたら学力の格差というのは,40通りあるわけです。それが,それぞれの生活を踏まえ,40歳,50歳,60歳になってくると,その生活履歴,学習履歴でずっと差が開いてくる。だから,それを一斉に平等に引っ張っていくのは大変であると,先ほどおっしゃっていたと思います。
 一方で,これは意見ですが,私は現在,放送大学におりますけれども,放送大学の学生の学歴は,3分の1が高校卒,3分の1が短大卒と専門学校卒,3分の1が大卒という感じです。それで,職歴や学歴を見ても非常に多様ですが,一方で,しばらくしているうちに皆さん慣れてきて,試験に通っていかれるという事実があります。だから,私も大人の学習能力をどう捉えるかというのは,まだ考えている途中です。それだけ多様な学生に対して,教材は同じ,試験も同じものをしている。放送大学に入るときに試験はありませんが,勉強しようと思って入るのだから,それだけ学習意欲があるというところは,一般の大人とははるかに違うわけです。それにしても,そういう多様な背景の方が同じように試験を受けて,同じように頑張っていかれるというこの事実を,私は今少しびっくりしながら,いつも見ています。
 昔の義務教育が良くて,そういう世代の学校教育は良かったのではないかというのが一つです。それともう一つは,大人の人がやろうと思って学習したときの意欲が,学習効果を生むのではないか。今のところ二つ,自分の中では考えています。大人の学習は難しいとおっしゃった先生の立場として,何かコメントがあればという質問です。

【立田教授】
 第1点の,なぜアメリカ合衆国の方がこんなに本を読む人の比率が高いのかということについて,私もデータを何回も見直しました。一つの解釈は,本を読まない人は多いけれども,読みたくないわけではないという解釈です。もしチャンスがあれば本を読みますかと聞くと,大体7割近くの人が本を読みたいと答える。そのときに,アメリカ合衆国は田舎と考えるという手もあります。日本は忙しい人が多い。本を読まない理由は,時間がないからです。忙しい人が多いというのは,TALISという教員の調査の結果でも,日本の教員は世界で一番忙しいという結果出ていましたから,同じことで,日本人は忙しいために本を読まないという理由も考えられる。飽くまで,これは推測です。
 だから,アメリカ人の平均から考えたら,確かに米国の方が本を読む割合は高いが,これを同じ職業や学歴とか地域で比較したら,必ずしもこの結果が正しいと言えるかどうか分からない。サンプリングの問題であると思うのと,それから職業別に見たらどうかという結果も見ていないので,それを考慮に入れないと,このデータからは読み取れない。それが1点目です。
 2点目は,学習のスタイル,伝統的な学習のスタイルは悪くないと思います。確かに知識の習得を考えたら,語彙や読解力をしっかり学びながら知識を身に付けるというやり方は悪くないと思います。ただその一方で,それを身に付けると同時に,もっとほかの広い視点,多様な分析の視点を入れていくといったときに,協働学習をやると,どうしても個人の学習に走ってしまいます。その方が自分個人の知識を習得しやすいので,そこから先へ行けない。
 つまり,賢い人は自分の勉強を進めればいいわけですが,賢くない人を実は助けてあげられない。だから,そこで協働学習をしてチーム学習をすれば,自分の修論でも卒論でも,もっと良くなるはずです。それが,先ほど私が話していた集合的知性というものです。学習の高度化を図ったりするときには,集中と分散という考え方があります。今おっしゃった学習のスタイルは,集中的に学習していれば,それで大人の学習はうまくいくと思います。
 ただ,分散的な学習というスタイルも入れていくことで,より大人の学習を多様化,高度化する可能性が出てくるのではないか,というのが私の意見です。

【明石部会長】
 ほかに何かございますか。どうぞ。

【亀岡文部科学戦略官】
 実は私もこのPIAAC,3年前に公表されたときに担当しておりまして,そのときの経験から一つだけ発言させていただきたいと思います。
 今の学力別に見た読解力のこのチャートでございますけれども,飽くまでもここに出ている点数というのは平均を出しているものでございまして,例えば日本の後期中等教育修了者について,数値が約289とか,未了者が270とかなっておりますけれども,これは飽くまでも平均でございます。要は,同じ学歴の方でも人によってスコアの幅が非常にあります。ですから,後期中等教育を修了していない方でも大卒並みのスコアを持っている方も少数いらっしゃいます。実は個々人の能力には,ここに表しきれていない差があるということを御理解いただければと思います。

【明石部会長】
 立田教授,最後に,この3ページの図1-1の「性別・年齢別にみた読解力」とございます。その読解力が高いのは,44歳までです。その後の世代では,下がってきます。

【立田教授】
 はい。

【明石部会長】
 そうすると学び直しをする場合に年齢制限があって,もう50歳になってしまうと,学び直しは駄目なので付加価値を付ける必要がある,というように読んでもいいのでしょうか。鉄は熱いうちと言いますが,一番働き盛りの社会人になったときが読解力が高い。

【立田教授】
 それは,後にも出てくる,仕事をしていると読解力が高いというのと関係しています。だから,仕事や家事をしていると頭を働かせるから,ずっとある程度どこかで能力を維持できますが,45歳から54歳って,ある程度一定のポストに就いて,もうこれ以上勉強しなくてもいいという状況も出てくる。ですから,そういう必要がなくなってきたら勉強しなくなる。
 また,学習をどう捉えるかにもよります。別にリテラシーでなくても,それからニューメラシーでなくても,チーム学習で問題解決する力が伸びればいいと考えたら,地域づくりや人に教える力が大事になってくる。だから,必ずしも難しい本を読んでそれを理解するのではない,別の能力が必要だと考えれば,別に悪くない。
 これは飽くまでリテラシーの力だけで,人間の力は別にリテラシーだけで判断されるのでありません。

【明石部会長】
 納得しました。どうぞ,清原委員。

【清原委員】
 御発表ありがとうございました。立田教授が最後に高齢者や障害者の視点も重要だとおっしゃっていました。改めて本日の資料の23ページ,24ページのキー・コンピテンシーの意義について確認をさせていただければと思います。もちろん自律的に活動するという力は重要であります。しかし,多様な集団で交流するということが23ページに整理され,24ページでは,全ての人の能力向上だけではなくて,「人と比較して競争的な状況に置くのではなく,共に生きることを学ぶ」ということが定義をされています。そして,無能感ではなくて有能感,自己効用感,自己肯定感という,自分自身に対して,正に社会とのつながりの中で自信を持っていくということが重要です。最終的に,今のお話にもありましたように,いわゆるリテラシーではなくて,「コンピテンシーの核心は考える力だ」と整理されていました。
 私は恐らく,義務教育であるとか,高等教育においても,やはり基本的にはリテラシーや知識が極めて重要だと思います。しかし,成人になってからの学びになると,やはり,社会や地域社会の中における暮らしの文脈,職業の文脈,ボランティア活動の文脈と,いかに自分自身を結び付けながら学んでいくかという力が重要になってくるはずです。知識量ということではなくて,なかなか測りにくい「考える力」,「つなぐ力」,自分だけで頑張らないで,ほかの人と「協働する力」というようなものが重要です。
 そうすると,当然のことながら,高齢者や障害者のような立場の人にも,共感しながら寄り添えるということになると,お話を伺って感じました。
 そういう力を確かに従来の社会教育や,あるいは生涯学習というのは,きっと育んできた事例がたくさんあると思います。それをどう,いかに整理しながら,今の社会の中でポジティブに整理をしていくかということで,コンピテンシーという,なかなか日本語には訳せないキー概念を頂いて感謝しております。
 併せて思いましたが,そうであるならば,先ほど,時代によって核となる学び方が違うというダイナミックな図をお示しいただきました。私は1950年代生まれで,立田教授と同じぐらいの年齢ですが,工業化社会の学校教育を受けた世代です。私たちは時代を乗り越えながら生きているわけです。そうすると,本当に高度化し価値が多様化している世界に順応できていればいいのですが,今や10代も選挙権があるという意味では大人のパートナーとなっている。そういう多世代で,教育の基本が違っても,今2016年を生きる私たちとして,どうすれば,その世代のギャップを乗り越えられるかということについて,何かビジョンや展望があれば教えていただければと思います。

【立田教授】
 ありがとうございます。今の御質問を聞いていて,御質問の中にほとんど,答えが入っているような気がします。
 一つは,きょうの発表でコンピテンシーなど片仮名ばかり並べましたが,西洋的なコンピテンシーと別に,東洋的なコンピテンシーをどうしたらいいかということです。先ほど文脈づくりとおっしゃっていましたが,それぞれの時代ごとに私たちは,単なる知識とかスキルだけではなくて,経験を持っている。エピソードや経験や歴史というのを持っているわけですから,そのエピソードや経験や歴史をどう学び直すかということが,伝統文化の学び直しにつながってくる。それは体験学習でも何でもなくて,何かそういう中で生まれてきた生きる知恵というか,老人の知恵とでも言いましょうか。例えば夫婦であったら,もう何十年も一緒に暮らしてきた夫婦の場合は我慢する力がないと生活できない。それから,人の話を一生懸命聞く,そういう力が大事です。その辺は必ずしも西洋の力,コンピテンシーだけではない,何か東洋的なコンピテンシーのようなものを逆に,企画部会で考え出していっていただくと,すごく面白い。何か考えていただくと有り難いです。
 特に高齢者が社会生活に参加することを含めて,人と話すチャンスをどう追求するか。それが学び直しに当たるかどうか分かりませんが,高齢者の方々で,独り暮らしをして生きる力を失っていくのも,人と話すチャンスがないからです。ペットと話していても,ペットが答えてくれるわけではない。何かそういう話す機会をどう提供するかは学び直しにはならないのかと考えています。
 これも福祉の問題と関わってくると思いますが,そういうものを考えていただければいいと思います。

【清原委員】
 ありがとうございます。

【明石部会長】
 ありがとうございました。用意した時間が参りましたので,この辺でよろしいでしょうか。
 今,清原委員と立田教授の話をお聞きしながら,千葉大学の先生で,きんさんぎんさんのお子さんの3姉妹がいて,その方々が長寿であることの研究をしている方がいます。なぜ長寿かというと,3人とも非常に話がうまい。人の意見を聞く。しゃべりっ放しではなくて,非常に相手の顔色をうかがって,空気を読んで,聞き上手で,しゃべりがうまい。だから長生きできたという面白い研究をしている先生がいる。今お話をお聞きしまして,東洋的,和の感覚という,良いヒントを頂きました。ありがとうございました。
 以上で用意した議題が終わりました。事務局で今後のスケジュール等について御説明をお願いします。大類課長補佐。

【大類生涯学習推進課課長補佐】
 資料6をごらんください。今後の予定についてまとめております。
 本日,立田教授に今後求められる社会人の質能力等につきまして御発表いただき,次回のテーマ,社会人の学び直しについての導入をしていただきました。次回は更に掘り下げて,7月15日16時から,社会人の学び直しについて御審議いただきたいと考えております。
 なお,次々回以降の開催につきましては,明石部会長とも御相談させていただきながら決定したいと考えております。

【明石部会長】
 ありがとうございました。
 それでは,本日これで閉会とさせていただきます。本当に皆さん,ありがとうございました。

―了―

お問合せ先

生涯学習政策局生涯学習推進課

電話番号:03-5253-4111(内線3273)
ファクシミリ番号:03-6734-3281
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