資料4 土曜日の豊かな教育環境の実現に向けた新たな方策について(素案)

1.これまでの経緯と土曜日の教育活動の理念
○ 土曜日における教育活動の理念については、文部科学省に設置された「土曜授業に関する検討チーム」において、昨年9月に、次のとおり整理された。
・学校、家庭、地域の三者が連携し、役割分担しながら社会全体で子供を育てるとい う理念は、普遍的に重要。
・学校週5日制は、このような基本理念を踏まえて導入されたものであるが、一方で、 土曜日を必ずしも有意義に過ごせていない子供たちも少なからず存在するとの指摘。
・子供たちにこれまで以上に豊かな教育環境を提供し、その成長を支えることができ るよう、学校、家庭、地域が連携し、役割分担しながら、学校における授業や地域 における多様な学習、文化、スポーツ、体験活動等の機会の充実に取り組むことが 必要。


○ このような観点から、学校における学習機会の提供の一つの方策として土曜授業を捉え、設置者の判断により、土曜授業を行うことが可能であることをより明確化するため、昨年11月に学校教育法施行規則の一部改正が行われたところ。


○ また、土曜日の教育活動の推進に当たっては、質の高い土曜授業の実施のための支援策を講じるとともに、地域における学習やスポーツ、体験活動など様々な活動を一層促進するための方策など、子供たちの土曜日をトータルとしてより豊かで有意義なものとするための施策についても検討する必要がある、といった基本的な考え方が示された。


○ これらを踏まえ、本ワーキンググループでは、土曜日の豊かな教育環境の実現に向けて、今後の新たな方策の在り方について、検討を行うこととする。

 

2.土曜日の豊かな教育環境の実現に向けた具体的方策

(1)土曜日の教育活動の実施主体と実施体制

○ 土曜日の教育活動については、その実施主体は扱う内容等により、以下のような幾つかの形態に整理できる。
・児童生徒の代休日を設けずに土曜日を活用して教育課程内の学校教育活動を行う「土曜授業」
・学校が主体となって、希望者を対象として学習等の機会の提供を行うなど、教育課程外の学校教育を行う「土曜の課外授業」
・教育委員会など学校以外の者が主体となって、希望者に対して学習等の機会を行う「土曜学習」


○ このうち、「学校支援地域本部」や「放課後子供教室」などが主体となって、土曜日の教育活動を行う場合は、「土曜学習」に該当し、原則として市区町村教育委員会等(高等学校や特別支援学校の場合には都道府県等)の責任の下、学校や地域、企業等との連携により行われるものとなる。


◯ ただし、具体の教育活動の実施に当たっては、子供たちの教育環境を整えていくため、学校区等を範囲に活動するコーディネーターが中心となり、学校側の要望と、地域や企業側のプログラム内容を組み合わせ、十分な調整を図りながら行われることとなる。


◯ また、「土曜授業」や「土曜の課外授業」に、「学校支援地域本部」や「放課後子供教室」などが協力し、学校の教職員が行う教育活動に地域や企業等の外部の人材が連携して実施する場合も考えられる。


(2)土曜日ならではの工夫や教育効果

○ 土曜学習には、平日には参加が難しい現役の社会人も含め、地域や企業の人材が参画することが可能であり、実社会の経験を踏まえた多様なプログラムが可能となる重要な日といえる。


◯ また、学習集団としても、学校の学級単位等だけでなく、異学年や異学校種も含めた多様な集団を形成することが可能であり、学習プログラムの内容等に応じた効果的な工夫がなされることが期待される。


○ 実施場所についても、学校施設だけでなく、地域の公民館、図書館、博物館等の社会教育施設や、企業が有する施設や博物館など多様な場所を活用することにより、子供たちの学校での学びが深まり、豊かな体験につながることが重要である。

◯ なお、土曜学習においては、子供だけではなく、保護者や地域住民とともに学べる機会とすることも可能であり、子供たちの学びや育ちに関する保護者や地域住民の理解が促進され、学校・家庭・地域の連携により、地域ぐるみで子供を育む体制づくりが推進されることが期待される。

(3)多様な地域人材が土曜日の教育活動に参画する仕組みづくり

◯ 身近な地域には、地域の歴史や文化・産業等に詳しい人材や、在外経験者、農業や林業、漁業に関わる人材、個人事業主を始め、多様な職業経験を有する人材、子育て経験者など、豊かな社会経験を持つ多くの人材がいる。

◯ 土曜日の教育活動の推進に当たっては、こうした多様な地域人材が、自らの経験や知識を生かし、土曜日の教育活動に参画できるような仕組みを構築する必要があり、例えば「学校支援地域本部」や「放課後子供教室」、PTAなどの仕組みを活用することも効果的である。


(4)企業・団体等の協力により土曜日の教育活動を進める仕組みづくり

ア.学校等と企業等のニーズをマッチングする仕組みづくり
○ 土曜日の教育活動の実施に当たっては、学校における学習が実社会にどのようにつながっているかを学べるよう、また、学校における教育をより効果的なものとするため、地域の人材だけでなく、企業や団体の協力を得ることも効果的である。


◯ 近年、企業等においては、学校における出前授業等を実施し、経済団体等が企業のプログラムのポータルサイトを作成するなど、教育支援のプログラムを実施してきている。

○ しかしながら、個々の学校からの要請に応じた実施にとどまるなど、一部の学校や地域に限られており、広くすべての子供たちが土曜日ならではの生きた学習プログラムに参加することができるよう、学校と企業等のニーズをマッチングできる仕組みが必要である。

○ そのための方策として、土曜日の教育活動の実施方針を企画・立案する委員会組織等への、経済団体や企業等の関係者の参画を促進したり、学校や企業・団体等のニーズを把握し、調整を行うコーディネーターが配置されたりすることが重要である。

◯ また、例えば企業等との連携が進んでいる東京都においても、「外部団体がどのような教育プログラムを持っているのか詳しい情報がわからない」「事前打合せの時間を確保することが難しい」といった声が多く、学校側のニーズと企業側のプログラムの双方の情報が共有できるような仕組みを国や都道府県等が構築していくことが必要である。

イ.企業等の人材が教育活動に参画するための職場環境づくりや研修の必要性
◯ 企業等の人材の参画に当たっては、経営者等の理解が重要であり、例えば、経済同友会の「学校と経営者の交流活動推進委員会」の取組のように、経営者等の教育活動への参画を促す仕組みも効果的である。


◯ また、経営者だけでなく、多様な人材が教育活動に参画できるよう、ワーク・ライフ・バランスの推進や、企業内のボランティア登録制度の構築など、職場環境づくりを推進していくことが重要である。


◯ なお、産業界の視点から考えると、ボランティアやCSR(社会貢献)としての参画に加え、持続性の観点からも、業務の中で教育活動に関わる仕組みも必要である。


◯ 企業等の人材の参画を促進するためには、学校組織や教育活動の理解、子供たちとの接し方等について、事前に研修できる体制を構築することも重要である。


(5)NPO、民間教育事業者等の協力により土曜日等の教育活動を進める仕組みづくり

ア.特定非営利活動法人(NPO)等との連携の推進

◯ NPO法人の認証数は、年々増加しており、過去10年間で約3倍となっており(平成15年度:16,160、平成25年度47,973。内閣府調べ)、そのうち、子供の健全育成や社会教育の推進、まちづくりの推進、保健・医療又は福祉の増進を図る活動を行う法人は、それぞれ2万法人を超えている。


◯ NPO法人は、行政と民間の両者の特徴を併せ持つところがあり、幅広い関係者や団体等の人的なコーディネートや寄附金等の資金を集める仕組みやノウハウを有していることも多い。


○ しかしながら、現在の「放課後子供教室」においては、NPO法人との連携は1%にとどまっており、多様な企業や団体等の協力を得て、土曜日の教育活動をより豊かなものとするためには、NPO法人等との連携を積極的に進め、例えば、コーディネート機能の一部をNPO法人等が担うことも期待される。


イ.民間教育事業者との連携の推進 
○ 民間教育事業者は、学習塾を始め、文化、スポーツ、音楽など、幅広い教育分野において、重要な役割を果たしており、その従事者はそれぞれの分野で高い専門性を有している場合も多い。

○ こうした民間教育事業者のリソースを積極的に活用することは、子供たちの多様で豊かな学びを促進するとともに、子供たちが「学ぶ楽しさ」に出会い、学習意欲の向上や学習習慣の形成の支援にも大きく寄与することが期待される。

◯ 行政と民間教育事業者が連携するに当たっては、行政の公平性・中立性の担保や民業圧迫とならないための配慮など一定の課題が伴うが、例えば、大阪府大東市と公益社団法人全国学習塾協会の連携による土曜日の学習会などの取組のように、特定の民間事業者との連携ではなく、複数の民間教育事業者からなる団体と連携し、講師が団体から派遣される仕組みをつくることによって、専門性を有する人材の活用が促進されることも重要である。

(6)大学の協力により土曜日等の教育活動を進める仕組みづくり

◯ 大学は、高度な教育研究拠点として、また地域活性化の中核的拠点としての多様な教育・研究資源を有しており、例えば、先端分野で活躍する研究者やポストドクター等の人材が、土曜授業における理数系の学習や外国語等の特定の専門性が必要な学習プログラム等に参画することが期待される。


◯ また、子供たちにとって、大学生・大学院生等は身近で接しやすいロールモデルとしての効果も期待されるとともに、とりわけ教育・福祉など子供に関わる分野を専攻する学生等にとっては、学生自身の将来の仕事につながる学習や実習としても大きな役割を果たすことから、持続的に学生が土曜日等の教育活動に参画できる仕組みづくりを行っていくことが重要である。


(7)学校と地域・企業・団体・大学をつなぐコーディネーターの役割と位置づけ

ア.学校と地域・企業・団体・大学等をつなぐコーディネーターに求められる役割・人材

◯ 「学校支援地域本部」や「放課後子供教室」などの取組における「地域コーディネーター」には、学校と地域をつなぐ人材が求められ、学校の組織や教育活動と地域の多様な人材・団体に精通した、PTA役員経験者や自治会関係者、教職員退職者等が担っている例が多く見られ、効果的である。


◯ 土曜日等の教育活動の推進に当たっては、学校と地域に加え、多様な企業や団体等の協力が得られるよう、産業界に精通した企業OB、経済団体や商工会議所関係者等の参画も期待される。


○ また、例えば、学校と地域をつなぐ「地域コーディネーター」と学校と企業をつなぐ「企業コーディネーター」を配置し、両者が連携することにより、地域と企業の両面から多様な参画が得られるよう工夫することも考えられる。

◯ なお、企業等の連携により教育活動を行う場合には、企業等のプログラムが学校の教育活動のどこと関連するのか、その地域にあったものかなどを検討しながら調整を図っていくことが、学校側にとって教育効果を高めていく上で、企業側にとって子供のニーズにあったものにしていく上で重要であり、今後のコーディネーターの役割の一つとして期待される。

 イ.コーディネーターの研修や情報共有の必要性

◯ 学校と地域をつなげるコーディネーターの養成は多くの自治体で行われているが、地域だけでなく、民間企業やNPOのリソースの活用の仕方まで含めた育成がなされている例は少ない。

◯ 今後は、コーディネーター同士の学び合いや好事例を通じた学習などを通じて、コーディネーターの養成をしていくことが重要である。


○ また、学校や地域、企業等の様々な組織のコーディネート機能を持つ人たちをつないでいくことも必要であり、広域的なネットワークにつなげる中間組織も必要である。


(8)「土曜日ならでは」のプログラムの在り方

 ア.体系的・継続的なプログラムの基本的な考え方

◯ 土曜日は学校での授業だけでなく、地域や企業の協力を得て、実社会での経験を踏まえた「土曜日ならでは」の生きた学習プログラムが行われることが期待される。


◯ その実施に当たっては、学校での学習が実社会とどうつながっているかを体験的に学ぶことができるよう、学校の教育課程と連動し、体系だったものとなるよう、コーディネーターが中心となって、教職員と地域や企業等の人材が連携してプログラムを構築することが重要である。


◯ また、学びを深めていくためには、その場限りのイベントにとどまることがないよう、子供たちが継続的に学べるプログラムとすることが重要である。


◯ また、子供たちを主体者として捉え、プログラムの計画、展開、評価等を行っていく視点が必要であり、土曜日の教育活動は、子供たちが主体的に「やりたい」と感じる多様性に富んだものであることが重要である。


◯ 具体的にどのようなプログラムとしていくのかは、学校や地域における子供たち の特性や問題などを踏まえ、より効果的なものになるように関係機関で十分協議していく必要がある。


 イ.実社会につながるプログラムの在り方
◯ 教育の一つの目的を「子供の自立」と捉えると、実社会で役立つ経験をたくさんすることが重要であり、生きた体験を社会の中で経験することが子供たちの豊かな育ちにつながる。


◯ 特に、地域等においては、多様な体験プログラムが提供されているが、与えられたプログラムを子供がこなすという受動的なものではなく、子供たちの主体性を引き出し、社会で力を試すような経験をたくさんできるプログラムであることが重要である。


◯ 例えば、プログラムを子供自らが企画し、運営等を担う経験をするなど、子供が持っている力を発揮する機会を創造することにより、主体性や企画力、創造性等が培われ、「自ら考え、判断し、表現する力」といった、いわゆる「生きる力」が育まれる機会となることが期待される。


◯ また、小学校・中学校段階から、企業等で活躍する社会人に出会うことにより、将来の目標を持って学ぶきっかけとなるよう、多くのロールモデルに触れる機会をつくることが重要である。


 ウ.企業のリソースを生かしたプログラムの在り方
◯ 企業等においては、学校内や教職員だけでは教えることが難しい、実社会の知識・経験に裏付けられたプログラム、教育課程の単元のねらいと合致したプログラムの提供が期待される。


◯ また、ボランティアやCSRとしてのプログラムだけでなく、業務にもプラスになるプログラムであることが、企業にとっても、子供たちの本気を引き出す上でも重要である。


◯ 例えば、パナソニックでは、企業の特性を生かし、環境教育、キャリア教育、理科教育のプログラムを開発しており、経済同友会の出張授業では、働くことの意義、学ぶことの大切さ、これからの社会で求められる力、社会の仕組み、国際理解・グローバル化、といったテーマを中心に実施するなど、それぞれの企業リソースを生かしたプログラムが展開されている。


○ さらに、出前授業だけでなく、企業が開発した教材を学校やコーディネーター研修等に提供することや、企業財団等によるフォーラム、○○全国大賞といった表彰の実施なども効果的であり、子供たちの教育活動への多様な参画が考えられる。


エ.学習意欲・習慣の形成につながるプログラム
○ 土曜日の教育活動の推進に当たっては、子供たちが「学ぶ楽しさ」に出会い、学習意欲の向上や学習習慣の形成が図られるようなプログラムが展開されることが重要である。
 
◯ その一つの方策として、小学校入学段階から、新たな集団生活に順応し、豊かな学習・学校生活を送ることができるよう、就学前の子供を対象として、小学校等を活用して、平仮名の読み書きや読み聞かせ、集団遊びなどのプログラムを、例えば親子参加のもとで実施していくことも考えられる。


◯ また、学校での学習の理解が必ずしも十分でない子供たちを対象として、例えば、振り返り学習プログラムを実施し、「わかる楽しさ」を感じ、学習が進んでいる子供たちを対象として、発展的な学習を実施し、創造性や企画力を養うといった、補充的・発展的学習の充実を図ることも考えられる。


オ.“全国どこでも学べる”「地域ならでは」のプログラム
◯ 都市部と地方部では課題やニーズ、地域資源も多様であり、全国一律でなく、各地域が「地域ならでは」の特性を生かし、自律的に教育活動を進めることが重要である。


◯ 地域が「どのような子供たちを育てたいのか」を踏まえ、多様性に富んだプログラムを実施する地域や、「ふるさと教育」といった地域の特性を生かしたプログラムを中心的に実施する地域、「学力向上」など地域課題に即したプログラムなど、地域の実情に応じたプログラムを展開することが重要である。


◯ ただし、地域間格差によって子供たちの学習機会の格差が生じないよう、ICTの積極的な活用等により、「届けるプログラム」の充実を図り、全国どこでも学ぶことのできるコンテンツと体制の充実を図るなど、国による支援体制が求められる。

 

3.今後の推進に当たって

◯ 今後の土曜日の教育活動の推進に当たっては、全ての子供たちの土曜日の教育環境が豊かで有意義なものとなるよう、全国各地で、土曜日ならではの生きた学習プログラムが実践されていくことが重要である。

◯ また、様々な企業が実施する効果的なプログラムの事例や、地域ならではのプログラムの事例、コーディネートの手法などの先進事例について、全国の多様な関係者が共有することにより、工夫・改善が図られていくことが重要である。

◯ そのため、国が、全国のコーディネーターや、教育委員会、学校、企業、NPO等の多様な関係者が効果的な事例や課題等を学び合う機会や、全国の関係者のネットワーク組織を設け、土曜日の教育活動の質の向上や量の拡大のために必要な支援策を講じることを通じて、社会総掛かりでの土曜日の豊かな教育環境の実現が図られることが期待される。
 

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生涯学習政策局社会教育課地域・学校支援推進室