資料7 池本委員配付資料

諸外国の放課後対策の動向

日本総研「初等教育に関する調査研究プロジェクト」として、フランス、ドイツ、スウェーデン、フィンランド、イギリス、アメリカ、オーストラリア、韓国の8か国について、初等教育における学童保育、学校外活動について2008年10月より調査。調査結果は『子どもの放課後を考える―諸外国との比較でみる学童保育問題』(2009年・勁草書房)として刊行。

1. 調査対象国の放課後対策で重視されている視点

人づくり/教育の生産性
諸外国では社会保障政策の一環として教育を重視。かつ、放課後対策が人間形成、学力向上など、人づくりの重要な施策として位置づけられている。放課後対策の不備は学校教育にも悪影響を及ぼすため、限られた財源で教育の生産性を高める観点から、放課後対策のあり方を議論。日本も学校教育と放課後対策で役割を分担して人づくりの充実を目指すべき。

親に対する支援/親のエンパワメント
諸外国ではより高い年齢まで放課後対策が議論されており、親の不安・負担が少ない。また、親の抱える問題にも放課後対策として対応。親や地域住民のエンパワメントにより、教育の充実を図る。親の就労を促進し子どもの貧困を減らすことで、子どもの能力向上を図ることも重視されている。日本でも乳幼児期同様、小学生以上の親に対する子育て支援の視点が必要。

社会的統合/子どもの福祉
諸外国では放課後対策において、教育格差の縮小や、社会から取り残される子どもをなくすことを重視している。ほとんどの国では、国連の子どもの権利委員会が奨励している子どもオンブズマン(コミッショナー)を国レベルで設置。子どもの権利の観点から、放課後対策のあり方を議論。日本でも子どもの貧困率がOECD平均を上回っており、格差の縮小、社会的統合の観点から、放課後対策を議論すべき。

2. イギリスの放課後対策

政府の基本方針「すべての子どもが大事」(Every Child Matters: Change for children)
政府が2004年に策定。きっかけは2000年に起きた虐待による子どもの死亡事件。2005年に初の子どもコミッショナー任命。2007年の「子どもプラン」(The Children’s Plan)の目標は、「イギリスを子どもたちにとって世界で最もよい場所にすること」。初等教育の目標に「能力の向上(excellence)+子どもが楽しいこと(enjoyment)」を掲げる。

2002年の学校関係者による小学生殺人事件をきっかけに、子どもにかかわる人の犯罪歴等のチェック体制を強化、採用の可否を審査する機関(ISA)も設置。スポーツ指導の名の下に子どもが被害者になることを防ぐため、2007年には政府が保護者向けに「スポーツにおける子どもの安全を守るために」(Helping keep your child safe in sport)というリーフレットも発行。障がい児の遊び場づくり、児童擁護施設の子どもの学力向上、有能な子どもに対する支援のあり方、商業主義的な活動が子どもに及ぼす影響など、きめ細かな議論。

拡大学校(Extended School)
2005年に政府が、すべての学校において、8時から18時の学童保育のほか、スポーツ、音楽など様々なプログラムの提供、親の支援、専門家のサービスへの取り次ぎ、地域住民への施設の開放を進めていく方針を打ち出す(Extended Schools: Access to opportunities and services for all)。その狙いは、子どもの体験を豊かにして、教育効果を高めることと、教員のワーク・ライフ・バランスの促進。

拡大学校は、子どもの意欲が向上し、学力向上にも効果が出つつあることや、家族の安定性が増し、地域住民の生活も向上するなど、コストを上回る社会的な利益があると評価されている。社会経済的に不利な環境にある子どもへの補助も行われている。学童保育の設置が必須であるため、親が安心して働くことができるというメリットも大きい。

イギリスの学校は、親や地域住民が参加する学校理事会によって運営されており、拡大学校の取り組みについても、親や地域住民の意向が反映される。学校は定期的に監査を受けており、拡大学校の取り組みも、学校運営の一部として評価の対象となる。利用状況などの調査も行い、女子の利用が少ないことがわかり、女子向けのプログラムを追加するなど、利用者のニーズや教育効果を意識して展開。

拡大学校は、学校単独で取り組むほか、他の学校とグループを作って取り組む方法、外部に委託する方法がある。社会的企業を立ち上げる方法、親や地域住民が協同組合を作って運営する方法、授業のある日は各学校で学童保育を提供し、長期休暇中の学童保育は地域の中学校で行うなど、やり方は自由。拡大学校の取り組みに関する様々な情報を一元化したウェブサイト(www.learning-exchange.org.uk)を設置して、各学校の取り組みを支援。

イギリスでは、乳幼児期についても同様に、親や地域住民に様々なサービスを提供する子どもセンター(Children’s Centre)の整備を進めている。これにより0~19歳の子どもの教育の充実を図る。

遊びの国家戦略(The Play Strategy)
2008年12月に子ども・学校・家族省と文化・メディア・スポーツ省共同で発表。子どもにとって「遊びは必需品」という考え方で、遊びの充実を図る動きが活発化。安全すぎる遊び場を問題視、冒険遊び場も増やす計画。子どもが道路でも遊べるように、歩行者優先の新しい道路づくり(Home Zone)など、交通政策まで議論。森を遊び場に活用する取り組みなどもある。ロンドンには、障がいのある子ども専用の遊び場が7ヶ所ある。

3. その他の興味深い事例

子どもにやさしいまち(Child Friendly Cities)
まちのなかを子どもだけで安心して歩く権利、友達と会い、遊ぶ権利、草木や動物のための緑の空間を持つ権利など、まちづくりを通じて子どもの権利を促進しようという世界的な動き。1996年に世界的なネットワークを構築する取り組みが始まり、現在イタリアのユニセフ・イノチェンティ研究所に国際事務局が置かれている。

たとえば、ストックホルムでは公園に犬を入れることが許されていない。アムステルダムでも、公園の砂の質が定期的に検査され、必要に応じて取り替えられる。ドイツのフライブルクでは、費用を節約することと子どもにとってよりよい遊びの環境を提供するという二つの目的で、従来の公園をすべて自然の遊び場に変えたとの報告もある。

家庭的学童保育
イギリスでは、学童保育利用者に占める家庭的保育利用者の割合は、5~7歳では24%と、5歳未満の13%より高い(2008年)。オーストラリアでも、家庭的保育利用者の23%が小学生(2006年)。スウェーデンでも、集団が苦手な子どももいるという考え方から、利用者は少ないが、制度上家庭的学童保育がある。

メンタリング・プログラム
オーストラリアでは、青少年自殺率が高まったことなどから、子どもも大人の抑圧から解放されるべきであり、両親以外の大人との親密な支援的関係が必要との議論が起こり、メンタリング・プログラムが普及。政府の助成のほか、民間企業もスポンサーになっている。韓国でも、大学生メンタリング事業が2006年から実施されている。

フィンランドの子どもの居場所
児童公園には、キッチン付の屋内施設を併設していることが多く、職員(公園おばさん)を常駐させる事業がある。おやつや長期休暇中には食事が無償で提供されるところもある。

人気が高いのは地域の図書館。読み聞かせなどのイベントのほか、本や漫画、パソコンなど、子ども用のスペースが設けられているところが多い。

ドイツの子どもの居場所
政府が2006年から「多世代の家」を推進。多世代のプログラムがあり、ダンス、スポーツ、外国語会話、宿題の支援、泥んこ遊びまで多様なメニューがある。

放課後日常的に生き物の飼育を体験できる「青少年農場」があり、土地と資金は政府が支給、運営は地域のボランティアサークルが行う。そのほか、「子どもの健康には土と緑が必要」という医者の呼びかけから、クラインガルテン(小さな庭)が都市部に整備され、自然保護と余暇の充実が図られている。

公園の鉄道を子どもたちが運転しているところもある(西森聡『ぼくは少年鉄道員』)。職業体験として子どもに任せる取り組み。

※調査対象国の学童保育の状況については、社会保障審議会少子化対策特別部会第25回(2009年7月28日)において説明。(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/07/dl/s0728-8a.pdf)

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