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第1章 キャリア教育・職業教育の課題と基本的方向性

 第1章においては、「キャリア教育」「職業教育」とは何か、を明らかにし、現在見受けられる課題を踏まえた上で、その基本的方向性や視点をまとめた。
 「キャリア教育」とは、「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」である。キャリア教育は、特定の活動や指導方法に限定されるものではなく、様々な教育活動を通して実践されるものであり、一人一人の発達や社会人・職業人としての自立を促す視点から、学校教育を構成していくための理念と方向性を示すものである。
 「職業教育」とは、「一定又は特定の職業に従事するために必要な知識、技能、能力や態度を育てる教育」である。職業教育は、学校教育のみで完成するものではなく、生涯学習の観点を踏まえた教育の在り方を考える必要がある。また、社会が大きく変化する時代においては、特定の専門的な知識・技能の修得とともに、多様な職業に対応しうる、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる能力の育成も重要であり、この能力は、具体の職業に関する教育を通して育成していくことが極めて有効である。

 キャリア教育と職業教育の基本的方向性は次の3つである。
(1)幼児期の教育から高等教育まで体系的にキャリア教育を進めること。その中心として、基礎的・汎用的能力を確実に育成するとともに、社会・職業との関連を重視し、実践的・体験的な活動を充実すること。
(2)学校における職業教育は、基礎的な知識・技能やそれらを活用する能力、仕事に向かう意欲や態度等を育成し、専門分野と隣接する分野や関連する分野に応用・発展可能な広がりを持つものであること。職業教育を再評価し、実践的な職業教育を体系的に整備していく必要があること。
(3)学校は、生涯にわたり社会人・職業人としてのキャリア形成を支援していく機能の充実を図ること。

 キャリア教育と職業教育の方向性を考える上での重要な視点は次の2つである。
(1)仕事をすることの意義や、幅広い視点から職業の範囲を考えさせる指導を行う。
(2)社会的・職業的自立や社会・職業への円滑な移行に必要な力を明確化する。
(力に含まれる要素)
 「基礎的・基本的な知識・技能」「基礎的・汎用的能力」
 「論理的思考力・創造力」「意欲・態度及び価値観」「専門的な知識・技能」
(基礎的・汎用的能力の具体的内容)
 「人間関係形成・社会形成能力」「自己理解・自己管理能力」
 「課題対応能力」「キャリアプラニング能力」

1.キャリア教育・職業教育の内容と課題

(1)「キャリア教育」の内容と課題

○ 人は、他者や社会とのかかわりの中で、職業人、家庭人、地域社会の一員等、様々な役割を担いながら生きている。これらの役割は、生涯という時間的な流れの中で変化しつつ積み重なり、つながっていくものである。また、このような役割の中には、所属する集団や組織から与えられたものや日常生活の中で特に意識せず習慣的に行っているものもあるが、人はこれらを含めた様々な役割の関係や価値を自ら判断し、取捨選択や創造を重ねながら取り組んでいる。

○ 人は、このような自分の役割を果たして活動すること、つまり「働くこと」を通して、人や社会にかかわることになり、そのかかわり方の違いが「自分らしい生き方」となっていくものである。

○ このように、人が、生涯の中で様々な役割を果たす過程で、自らの役割の価値や自分と役割との関係を見いだしていく連なりや積み重ねが、「キャリア」の意味するところである。このキャリアは、ある年齢に達すると自然に獲得されるものではなく、子ども・若者の発達の段階や発達課題の達成と深くかかわりながら段階を追って発達していくものである(※1)。また、その発達を促すには、外部からの組織的・体系的な働きかけが不可欠であり、学校教育では、社会人・職業人として自立していくために必要な基盤となる能力や態度を育成することを通じて、一人一人の発達を促していくことが必要である。

○ このような、一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育が「キャリア教育」である。それは、特定の活動や指導方法に限定されるものではなく、様々な教育活動を通して実践される。キャリア教育は、一人一人の発達や社会人・職業人としての自立を促す視点から、変化する社会と学校教育との関係性を特に意識しつつ、学校教育を構成していくための理念と方向性を示すものである。
 また、キャリア教育の実施にあたっては、社会や職業にかかわる様々な現場における体験的な学習活動の機会を設け、それらの体験を通して、子ども・若者に自己と社会の双方についての多様な気付きや発見を得させることが重要である。

○ キャリア教育の必要性や意義の理解は、学校教育の中で高まってきており、実践の成果も徐々に上がっている。
 しかしながら、「新しい教育活動を指すものではない」としてきたことにより、従来の教育活動のままでよいと誤解されたり、「体験活動が重要」という側面のみをとらえて、職場体験活動の実施をもってキャリア教育を行ったものとみなしたりする傾向が指摘されるなど、一人一人の教員の受け止め方や実践の内容・水準に、ばらつきがあることも課題としてうかがえる。

○ このような状況の背景には、キャリア教育のとらえ方が変化してきた経緯が十分に整理されてこなかったことも一因となっていると考えられる(※2)。このため、今後、上述のようなキャリア教育の本来の理念に立ち返った理解を共有していくことが重要である。

○ さらに、第5章に述べるように、生涯学習の観点に立ったキャリア形成支援の充実を図っていくことについても留意が必要である。


※1 このような、社会の中で自分の役割を果たしながら、自分らしい生き方を実現していく過程を「キャリア発達」という。
※2 中央教育審議会「初等中等教育と高等教育との接続の改善について(答申)」(平成11年)では、キャリア教育を「望ましい職業観・勤労観及び職業に関する知識や技能を身に付けさせるとともに、自己の個性を理解し、主体的に進路を選択する能力・態度を育てる教育」であるとし、進路を選択することにより重点が置かれていると解釈された。また、キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告書(平成16年)では、キャリア教育を「『キャリア』概念に基づき『児童生徒一人一人のキャリア発達を支援し、それぞれにふさわしいキャリアを形成していくために必要な意欲・態度や能力を育てる教育』」ととらえ、「端的には」という限定付きながら「勤労観、職業観を育てる教育」としたこともあり、勤労観・職業観の育成のみに焦点が絞られてしまい、現時点においては社会的・職業的自立のために必要な能力の育成がやや軽視されてしまっていることが課題として生じている。

(2)「職業教育」の内容と課題

○ 人は、専門性を身に付け、仕事を持つことによって、社会とかかわり、社会的な責任を果たし、生計を維持するとともに、自らの個性を発揮し、誇りを持ち、自己を実現することができる。仕事に就くためには、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる能力だけではなく、それぞれに必要な専門性や専門的な知識・技能を身に付けることが不可欠である。
 このような、一定又は特定の職業に従事するために必要な知識、技能、能力や態度を育てる教育が「職業教育」である。

○ 職業教育を考える際に留意しなければならないことは、専門的な知識・技能の育成は学校教育のみで完成するものではなく、生涯学習の視点を踏まえた教育の在り方を考える必要があるということである。専門的な知識・技能は、学校から社会・職業へ移行した後も身に付け向上させていくことができるものである。このため、学校は、産業構造や就業構造が大きく変化する中、地域や産業との結びつきをより強化することにより、学校から社会・職業へ移行した後までを見通して、その中で、学校教育において身に付けさせるべき知識・技能を見定めつつ、教育課程を編成していくことが必要である。
 しかしながら、現状において、職業教育は、一部を除いて、基本的には学校内で完結する内容として教育課程を編成するという側面が強調されてとらえられがちであり、今後、上述のような職業教育の考え方を共有し、その実効性をより高めていくことが必要と考えられる。

○ また、社会が大きく変化する時代においては、特定の専門的な知識・技能の修得とともに、多様な職業に対応し得る、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる能力の育成も重要である。このような能力は、具体の職業に関する教育を通して育成していくことが極めて有効である。他方、社会・職業との関連が薄く、実践性が伴わない教育(例えば、高等学校の普通科等)については、後述するとおり、教育内容・教育方法を工夫していく必要があると考えられる。

(3)キャリア教育と職業教育の関係

○ キャリア教育と職業教育の内容を踏まえ、両者の関係を、育成する力と教育活動の観点から改めて整理すると、次のとおりである。

(ア)育成する力
◆キャリア教育
 一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度
◆職業教育
 一定又は特定の職業に従事するために必要な知識、技能、能力や態度

(イ)教育活動
◆キャリア教育
 普通教育・専門教育を問わず様々な教育活動の中で実施される。職業教育も含まれる。
◆職業教育
 具体の職業に関する教育を通して行われる。この教育は、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる能力や態度を育成する上でも、極めて有効である。

2.キャリア教育・職業教育の基本的方向性

(1)幼児期の教育から高等教育に至るまでの体系的なキャリア教育の推進

○ キャリア教育は、キャリアが子ども・若者の発達の段階やその発達課題の達成と深くかかわりながら段階を追って発達していくことを踏まえ、幼児期の教育から高等教育に至るまで体系的に進めることが必要である。その中心として、後述する「基礎的・汎用的能力」を、子どもたちに確実に育成していくことが求められる。また、社会・職業との関連を重視し、実践的・体験的な活動を充実していくことが必要である。

○ このようなキャリア教育の意義・効果として、次の3つがあげられる。

○ 第一に、キャリア教育は、一人一人のキャリア発達や個人としての自立を促す視点から、学校教育を構成していくための理念と方向性を示すものである。各学校がこの視点に立って教育の在り方を幅広く見直すことにより、教職員に教育の理念と進むべき方向が共有されるとともに、教育課程の改善が促進される。

○ 第二に、キャリア教育は、将来、社会人・職業人として自立していくために発達させるべき能力や態度があるという前提にたって、各学校段階で取り組むべき発達課題を明らかにし、日々の教育活動を通して達成させることを目指すものである。このような視点に立って教育活動を展開することにより、学校教育が目指す全人的成長・発達を促すことができる。

○ 第三に、キャリア教育を実践し、学校生活と社会生活や職業生活を結び、関連付け、将来の夢と学業を結びつけることにより、生徒・学生等の学習意欲を喚起することの大切さが確認できる。このような取組を進めることを通じて、学校教育が抱える様々な課題への対処に活路を開くことにもつながるものと考えられる。

(2)職業教育の意義の再評価と実践的な職業教育の体系的整備

○ 職業に必要な専門的な知識・技能は、生涯にわたって継続して修得されていくものである。このため、学校教育で行う職業教育は、基礎的な知識や技能、それらを活用する能力、仕事に向かう意欲や態度等を育成することが必要である。特に技能については、実践がなければ身に付かないものであり、学校教育で技能を身に付ける場合には、学校の種類によって程度の差はあるものの、実践性がより重視されなければならない。

○ また、職業教育は、専門分野の学習とその後の進路を固定的にとらえるものではなく、特定の専門分野の学習を端緒として、これに隣接する分野や関連する分野に応用したり、発展したりしていくことができる広がりを持つ教育であるという観点も重要である。

○ このような職業教育は、我が国の経済・社会の発展を支えるなど、一定の役割を果たしてきており、このことを改めて評価し、再認識しなければならない。また、今後の社会に必要な人材の需要等も踏まえつつ、実践的な職業教育を体系的に整備していくことが必要である。

(3)生涯学習の観点に立ったキャリア形成支援の充実

○ 職業に従事するためには、必要な専門的な知識・技能を身に付けることが不可欠であり、そのための学習は、職業生活への移行後も継続して、生涯にわたり行われるものである。特に、我が国においては、少子・高齢化の進展により、労働力人口の減少が予測される中、次代の経済・社会の担い手として、生徒・学生を社会・職業に円滑に移行させるとともに、移行後も、学習活動を通じて、生涯にわたりそれぞれの社会人・職業人としてのキャリア形成を支援していくことが、我が国の持続的発展にとって、極めて重要な意味を持つに至っている。

○ 学校教育を離れた後の職業に関する学習の場としては、自己学習のほか、企業内教育・訓練等様々な場や方法等があるが、中でも学校は、その中核的な機関として保有する教育資源をいかし、生涯学習の観点に立ってキャリア形成を支援する機能の充実を図ることが期待される。

3.キャリア教育・職業教育の方向性を考える上での視点

(1)仕事をすることの意義と幅広い視点から職業の範囲を考えさせる指導

○ 「働くこと」とは、広くとらえれば、人が果たす多様な役割の中で、「自分の力を発揮して社会(あるいはそれを構成する個人や集団)に貢献すること」と考えることができる。それは、家庭生活の中での役割や、地域の中で市民として社会参加する役割等も含まれている。その中で、本審議会では、学校から社会・職業への移行の課題を踏まえ、特に職業生活において「仕事をすること」に焦点を当てた。

○ 日本国憲法では、すべて国民は勤労の権利を有し、義務を負うとされている。仕事をすることの意義は、例えば、やりがい、収入を得ること、社会での帰属感、自己の成長、社会貢献等様々なものが考えられ、個人によってどの部分を強調して考えるかは異なる。そこで重要なことは、個人と社会のバランスの上に成り立つものであるということである。

○ 仕事に就く場面を考える上では、どんなに計画を立てても必ずしもそのとおりに進むものでもないと考えることが必要である。また、仕事を選ぶ際、社会にある職業のすべてを知って選択することは不可能であるから、身近な仕事との出会いも重要になる。そのため、自らが行動して仕事と出会う機会を得ること、行動して思うように進まないときに修正・改善できることが重要である。このような行動を支えるため、生涯にわたり自ら進んで学ぶことも極めて大切である。

○ 勤労観・職業観は、仕事をする上で様々な意思決定をする選択基準となるものである。この基準を持つことが重要であるが、それは固定化された価値観ではなく、自己の役割や生活空間、年齢等によって変化するものである。そのため、社会・職業に移行する前に、その価値観を形成する過程を経た上で、自ら進路を選択する経験をしておくことが望ましい。特に現在、仕事をすることは一つの企業等の中で単線的に進むものだけではなくなりつつあり、社会に出た後、生涯の中で必ず訪れる幾つかの転機に対処するためにも、また自ら積極的に選択して進むべき道を変更するためにも、このような価値観を形成する過程を経験しておくことが必要である。

○ 職業は、個人の目的も様々あるが、社会から見れば社会にある仕事を分業することである。これまではその多くが企業、官公庁等の場を中心とした職業や自営業主として働くことを想定していた。しかし、現在では、非営利活動等も出てきており、このような活動が社会の中で重要な役割を担っている。学校から社会・職業への移行に課題がある状況を踏まえれば、職業の範囲は、幅広い視点から考えさせるような指導が必要である。

(2)社会的・職業的自立、学校から社会・職業への円滑な移行に必要な力の明確化

1.社会や学校の変化と、必要な力を明確化することの必要性

○ 中央教育審議会では、平成8年7月答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」において「生きる力(※1)」を提言し、平成20年1月答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」において、「知識基盤社会」の時代などといわれる社会の構造的な変化の中で、「生きる力」をはぐくむという理念がますます重要になっていることを提言した。
 また、平成20年12月答申「学士課程教育の構築に向けて」では、大学の学士課程の専攻分野を通じて培う力として、分野横断的に、我が国の学士課程教育が共通して目指す学習成果に着目した参考指針である「学士力(※2)」を提唱した。
 これらは、初等中等教育、大学学士課程の各段階それぞれの基本となる考え方であり、このような考え方を引き続き重視していかなければならない。

○ 序章で述べたような経済・社会や雇用、学校が変化する中で、社会に出て生活する上で必要となる能力、あるいは仕事をする上で必要となる能力が変化し、このような能力を育成する仕組みが社会全体の中で低下していることが指摘されている。社会的・職業的自立、学校から社会・職業への円滑な移行に必要な力は、「生きる力」や「学士力」に含まれるものと考えられるが、キャリア教育・職業教育を進める上で、その要素を具体化して明示することは十分に意義があると考える。

○ 例えば、国立教育政策研究所においては、これまで児童生徒が将来自立した社会人・職業人として生きていくために必要な能力や態度、資質として「キャリア発達にかかわる諸能力(例)」を提示しており、初等中等教育段階を中心とする各学校が、キャリア教育を推進する上での参考としている。

○ また、現実の社会で生き、社会をつくる人間が有する資質・能力という観点や職場等で求められる能力という観点等から、「人間力(※3)」「社会人基礎力(※4)」「就職基礎能力(※5)」等の考え方が提案され、このような能力の育成に企業や学校が取り組んでいる例も見られる。経済団体等においても、新規卒業者に求める資質・能力等についてアンケート等を行っている。このような能力は、それぞれの着眼点から整理されているが、既に共通する要素が多く含まれており、参考となる。

○ 国際的には、OECDが、「知識基盤社会」の時代を担う子どもたちに必要な能力を、「主要能力(キーコンピテンシー)(※6)」として定義付けており、国際的な学力調査においては、こうした能力の一部について調査をしている。この主要能力(キーコンピテンシー)で設定されている個人と社会との相互関係、自己と他者との相互関係、個人の自律性と主体性といった観点も考慮して考えることが必要である。

○ このような観点を踏まえ、社会的・職業的自立、学校から社会・職業への円滑な移行に必要な力としては、人の生得的な力ではなく、義務教育から高等教育までの学校教育において育成することができる力であること、その能力が子ども・若者にとって夢や希望、目標を持ち、それらを具体的に行動に移していくことで実現を図ることができるような力であることを明らかにする必要がある。その力の育成にあたっては、社会への出口が中学校卒業段階から高等教育修了段階まで多岐にわたっており、その発達の段階にも配慮が必要である。また、このような力は、時代によって変化するものであることにも留意が必要である。


※1 「生きる力」については、p136参照。
※2 「学士力」については、p137参照。
※3 「人間力」については、p137参照。
※4 「社会人基礎力」については、p138参照。
※5 「就職基礎能力」については、p138参照。
※6 主要能力(キーコンピテンシー)は、OECDが2000年から開始したPISA調査の概念的な枠組みとして定義付けられた。PISA調査で測っているのは「単なる知識や技能だけではなく、技能や態度を含む様々な心理的・社会的なリソースを活用して、特定の文脈の中で複雑な課題に対応することができる力」であり、具体的には、1.社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する力、2.多様な社会グループにおける人間関係形成能力、3.自立的に行動する能力、という3つのカテゴリーで構成されている。

2.社会的・職業的自立、学校から社会・職業への円滑な移行に必要な力の要素

○ 本審議会におけるこれまでの審議では、社会的・職業的自立、学校から社会・職業への円滑な移行に必要な力について、例えば次のような意見が出された(※1)。

●能力(態度・行動様式)
 コミュニケーション能力、粘り強さ、課題発見・課題解決能力、変化への対応力、協調性、共に社会をつくる力、健全な批判力、段取りを組んで取り組む力 等

●知識
 労働者としての権利・義務 等

●価値観
 勤労観、職業観、倫理観 等

○ これらの意見を踏まえつつ、社会的・職業的自立、学校から社会・職業への円滑な移行に必要な力に含まれる要素としては、次などで構成されるものと考える。

◆基礎的・基本的な知識・技能
◆基礎的・汎用的能力
◆論理的思考力、創造力
◆意欲・態度及び価値観
◆専門的な知識・技能

○ 「読み・書き・計算」等の基礎的・基本的な知識・技能を修得することは、社会に出て生活し、仕事をしていく上でも極めて重要な要素である。これは初等中等教育では、学力の要素の一つとして位置付けられ、新しい学習指導要領における基本的な考え方の一つでもある。小学校からの「読み・書き・計算」の能力の育成等、その一層の修得・理解を図ることが必要である。また、社会的・職業的に自立するために、より直接的に必要となる知識、例えば、税金や社会保険、労働者の権利・義務等の理解も必要である。

○ 基礎的・汎用的能力(※2)は、分野や職種にかかわらず、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる能力であると考える。例えば、新規学卒者については、企業が就職の段階で「即戦力」といえる状態にまで学校教育を通じて育成することを期待されているわけではなく、一般的には「コミュニケーション能力」「熱意・意欲」「行動力・実行力」等の基礎的な能力等を挙げることが多い。社会人・職業人に必要とされる基礎的な能力と現在学校教育で育成している能力との接点を確認し、これらの能力育成をキャリア教育の視点に取り込んでいくことは、学校と社会・職業との接続を考える上で意義がある。その具体的内容は、次の3で述べる。

○ 論理的思考力、創造力は、物事を論理的に考え、新たな発想等を考え出す力である。論理的思考力は、学力の要素にある「思考力、判断力、表現力」にも表れている重要な要素である。また、後期中等教育や高等教育の段階では、社会を健全に批判するような思考力を養うことにもつながる。創造力は、変化の激しい社会において、自ら新たな社会を創造・構築していくために必要である。これら論理的思考力、創造力は、基礎的・基本的な知識・技能の修得と相互に関連させながら育成することが必要である。

○ 意欲・態度は、学校教育、特に初等中等教育の中では、学習や学校生活に意欲を持って取り組む態度や、学習内容にも関心を持たせるものとして、その向上や育成が重要な課題であるように、生涯にわたって社会で仕事に取り組み、具体的に行動する際に極めて重要な要素である。意欲や態度が能力を高めることにつながったり、能力を育成することが意欲・態度を高めたりすることもあり、両者は密接に関連している。

○ 意欲や態度と関連する重要な要素として、価値観がある。価値観は、人生観や社会観、倫理観等、個人の内面にあって価値判断の基準となるものであり、価値を認めて何かをしようと思い、それを行動に移す際に意欲や態度として具体化するという関係にある。
 また、価値観には、「なぜ仕事をするのか」「自分の人生の中で仕事や職業をどのように位置付けるか」など、これまでキャリア教育が育成するものとしてきた勤労観・職業観も含んでいる。子ども・若者に勤労観・職業観が十分に形成されていないことは様々に指摘されており、これらを含む価値観は、学校における道徳をはじめとして豊かな人間性の育成はもちろんのこと、様々な能力等の育成を通じて、個人の中で時間をかけて形成・確立していく必要がある。

○ また、どのような仕事・職業であっても、その仕事を遂行するためには一定の専門性が必要である。専門性を持つことは、個々人の個性を発揮することにもつながる。自分の将来を展望しながら自らに必要な専門性を選択し、それに必要な知識・技能を育成することは極めて重要である。専門的な知識・技能は、特定の資格が必要な職業等を除けば、これまでは企業内教育・訓練で育成することが中心であったが、今後は、企業の取組だけではなく、学校教育の中でも意識的に育成していくことが重要であり、このような観点から職業教育の在り方を改めて見直し、充実していく必要がある。


※1 その他、新規採用にあたって重視する点、今後求められる人材養成の方向性に関する提言等、技術者に求められる能力については、p139・140参照。
※2 「基礎的・汎用的能力」の名称については、現在、「基礎的能力」と、その基礎的能力を広く活用していく「汎用的能力」の双方が必要であると考え、両者を一体的なものとして整理する。

3.基礎的・汎用的能力の内容(※1)

○ 基礎的・汎用的能力の具体的内容については、「仕事に就くこと」に焦点を当て、実際の行動として表れるという観点から、「人間関係形成・社会形成能力」「自己理解・自己管理能力」「課題対応能力」「キャリアプランニング能力」の4つの能力に整理した。

○ これらの能力は、包括的な能力概念であり、必要な要素をできる限り分かりやすく提示するという観点でまとめたものである。この4つの能力は、それぞれが独立したものではなく、相互に関連・依存した関係にある。このため、特に順序があるものではなく、また、これらの能力をすべての者が同じ程度あるいは均一に身に付けることを求めるものではない。

○ これらの能力をどのようなまとまりで、どの程度身に付けさせるのかは、学校や地域の特色、専攻分野の特性や子ども・若者の発達の段階によって異なると考えられる。各学校においては、この4つの能力を参考にしつつ、それぞれの課題を踏まえて具体の能力を設定し、工夫された教育を通じて達成することが望まれる。その際、初等中等教育の学校では、新しい学習指導要領を踏まえて育成されるべきである。


※1 基礎的・汎用的能力の具体的内容である4つの能力は、前述1.のとおり、各界から提示されているさまざまな力を参考としつつ、特に国立教育政策研究所による「キャリア発達にかかわる諸能力(例)」を基に、「仕事に就くこと」に焦点をあて整理を行ったものである。両者の対応関係については、p140参照。

(ア) 人間関係形成・社会形成能力

○ 「人間関係形成・社会形成能力」は、多様な他者の考えや立場を理解し、相手の意見を聴いて自分の考えを正確に伝えることができるとともに、自分の置かれている状況を受け止め、役割を果たしつつ他者と協力・協働して社会に参画し、今後の社会を積極的に形成することができる力である。

○ この能力は、社会とのかかわりの中で生活し、仕事をしていく上で基礎となる能力である。特に、価値の多様化が進む現代社会においては、性別、年齢、個性、価値観等の多様な人材が活躍しており、様々な他者を認めつつ、それらと協働していく力が必要である。また、変化の激しい今日においては、既存の社会に参画し、適応しつつ、必要であれば自ら新たな社会を創造・構築していくことが必要である。さらに、人や社会とのかかわりは、自分に必要な知識や技能、能力を気付かせてくれるものでもあり、自らを育成する上でも影響を与えるものである。具体的な要素としては、例えば、他者の個性を理解する力、他者に働きかける力、コミュニケーション・スキル、チームワーク、リーダーシップ等が挙げられる。

(イ) 自己理解・自己管理能力

○ 「自己理解・自己管理能力」は、自分が「できること」「意義を感じること」「したいこと」について、社会との相互関係を保ちつつ、今後の自分自身の可能性を含めた肯定的な理解に基づき主体的に行動すると同時に、自らの思考や感情を律し、かつ、今後の成長のために進んで学ぼうとする力である。

○ この能力は、子どもや若者の自信や自己肯定観の低さが指摘される中、「やればできる」と考えて行動できる力である。また、変化の激しい社会にあって多様な他者との協力や協働が求められている中では、自らの思考や感情を律する力や自らを研さんする力がますます重要である。これらは、キャリア形成や人間関係形成における基盤となるものであり、とりわけ自己理解能力は、生涯にわたり多様なキャリアを形成する過程で常に深めていく必要がある。具体的な要素としては、例えば、自己の役割の理解、前向きに考える力、自己の動機付け、忍耐力、ストレスマネジメント、主体的行動等が挙げられる。

(ウ) 課題対応能力

○ 「課題対応能力」は、仕事をする上での様々な課題を発見・分析し、適切な計画を立ててその課題を処理し、解決することができる力である。

○ この能力は、自らが行うべきことに意欲的に取り組む上で必要なものである。また、知識基盤社会の到来やグローバル化等を踏まえ、従来の考え方や方法にとらわれずに物事を前に進めていくために必要な力である。さらに、社会の情報化に伴い、情報及び情報手段を主体的に選択し活用する力(※1)を身に付けることも重要である。具体的な要素としては、情報の理解・選択・処理等、本質の理解、原因の追究、課題発見、計画立案、実行力、評価・改善等が挙げられる。

(エ) キャリアプランニング能力

○ 「キャリアプランニング能力」(※2)は、「働くこと」の意義を理解し、自らが果たすべき様々な立場や役割との関連を踏まえて「働くこと」を位置付け、多様な生き方に関する様々な情報を適切に取捨選択・活用しながら、自ら主体的に判断してキャリアを形成していく力である。

○ この能力は、社会人・職業人として生活していくために生涯にわたって必要となる能力である。具体的な要素としては、例えば、学ぶこと・働くことの意義や役割の理解、多様性の理解、将来設計、選択、行動と改善等が挙げられる。


※1 地域格差や教育格差を生じさせることなく身に付けさせるためには、教材の充実や教職員の量・質の向上、このための研修が必要である。
※2 「プランニング」は単なる計画の立案や設計だけでなく、それを実行し、場合によっては修正しながら実現していくことを含むものである。

お問合せ先

生涯学習政策局政策課

電話番号:(内線3458)

-- 登録:平成23年01月 --