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キャリア教育・職業教育のあり方について

寺田盛紀(名古屋大学)

1.キャリア教育再論

キャリア教育のあり方について、これまでの発言を図示すると,下記の通りである。

キャリア教育のあり方についてこれまでの発言を図示した画像

<ポイント>

1. 具体的(実質的)な知識・スキルの育成(到達目標)と形式的(抽象的)能力形成や内面形成(選択的)に関する「方向」目標は異次元である。

2. 教育は広義には形成(非意図的)とも言われるが、形式陶冶的能力(「汎用的能力」「基礎力」)自体を追い求めても内容が伴わないと「迷路」に入る。それらの特別のプログラムは、就職支援等、移行期のごく特別な取り組みに限られる。教育とは狭義には学習・探索的経験と教授・指導の意図的・計画的な作用であり、教科・科目、特別活動等におけるカリキュラム化、プログラム化なくして成り立たない。抽象的目標は具体的な題材や体験を通して達成される。

3. 社会的要請と公的教育課程・学習者の発達過程を突き合わせる「学・産(地域)・官・研」によるカリキュラムづくり・プログラム作りが必要。

4. キャリア教育は普通、職業・専門の各段階にわたる。後者は前者の完成(出口の)段階(一般的キャリア教育と専門的キャリア教育=新たな職業教育)

5. キャリア教育には、キャリア(仕事の世界)に関する課程、経験の活動の中に、理解、準備、気づき、探索、協働、選択の内容・過程を含むこと。

定義(ゴシックでつなぐ)
《キャリア教育は、小学校段階から高等教育段階において、普通教育・教養教育、職業教育・専門教育段階にわたり、全教育活動の中で行われる、仕事や職業に焦点づける教育の1つの本質的な側面(改革原理)であるとともに、生徒・学生が仕事・職業の世界への洞察・スキルの準備、職業人とのコミュニケーションおよび協働体験、自己の進路・職業への気づき・探索・選択などを行うことを支援するプログラム・カリキュラムの体系であり、これらを通して彼・彼女らの多様な生き方や価値観形成を促す活動である。》

2.大学におけるキャリア教育について

(1)1997年以降本格的に推進されたインターンシップ、おもに就職支援的なものと職業人の招聘による職業体験の吸収・内面化(職業意識の形成)を企図したキャリア関連科目、学生のキャリア発達・デザインを促進するためのポートフォリオやワークシートの開発等が、個々の大学で進められてきた。

 今後の課題として、

(2)インターンシップであれ、キャリア科目であれ、移行期や初年次のキャリア支援・動機づけの取り組み(たいていは全学共通科目・教養科目)を超えて、専門学部・大学院研究科におけるキャリア学習・キャリア科目を起し、専門課程における講義的と実習的なキャリア学習(キャリアへの気づき、探索、仕事世界の洞察、専門の応用の視点を組み込むような科目・体験の取り組み)をどう展開していくかが課題であろう。
工学系大学院の研究インターンシップや文系の海外調査実習、各種の臨地実習等を含めたインターンシップ、その長期化等も必要である。こういう授業の中に、学生のキャリア形成を揺さぶる豊富な内容と可能性が内在している。

 そのためには、

(3)キャリア教育を学生支援の枠組みとともに、教育課程・学務事項の問題として位置づけ、教育課程のキャリアの観点を加えた再検討が必要。一般にコンピテンシー志向の教育目標(認証評価・法人評価絡みで)を立てる傾向があるが、学校教育法第83条(大学の目的)にいう「応用的能力」(実社会で生かすことのできる力)やキャリアコンピテンシーを加えることが重要である。
  認証評価等外部評価・自己評価の項目にこの面の配慮、また個々の大学におけるシラバス作成へのキャリアの視点の位置づけが考えられてよい。

(4)「外圧」だけでなく、積極的な支援も必要である。現代GPの「実践的総合キャリア教育の推進」にはH18年度33件、19年度30件が採択され、おおいにキャリア教育の機運を高めた。学生が目先に就職を控えていることからいって当然であるとはいえ、初等・中等教育以上に全国の大学でキャリア教育を行うことが普通になりつつある。
  ただし、「なりつつある」のであって、支援プログラムの枠組みが20年度末、21年度末であいついで終結する。次の枠組みを創設し、(2)の方向に引き上げて行く必要がある。 

(5)大学におけるキャリア支援・キャリア教育を推進する上で、そのファシリテーター、実践的専門家を育成する必要がある。中教審の答申(「学士力」)にいう、「安易な外注に偏らない大学の自立的取り組みが必要である。そのための養成と研究の拠点が必要であろう。

キャリア教育・職業教育の体系の図

3. 諸外国の高等職業教育の展開から見たわが国の課題

(寺田「職業教育の高等教育化とその課題」『生涯学習・キャリア教育研究』第4号2008所収参照)

1.諸外国の高等職業教育整備の動向(別添参照)

(1)ドイツの職業教育と専門大学

(2)アメリカの職業教育とコミュニティ・カレッジ

(3)中国の高等職業教育

(4)オーストラリアの高等職業教育

2.わが国の高等職業教育整備の課題 

 職業資格制度(それによる就業制限)、企業内教育、職業教育における産学連携のシステムの普及の程度や、制度の質的相違などがあるとはいえ、以上の欧(とくに独)米諸国とわが国の職業教育、とくに高等教育段階のそれを比較の視点から見ると、以下のことが学び取れるように思われる。

(1)高等職業教育機関の整備・教育機関(「専門大学」「職業大学」)
 どの国も中等職業教育の制度化・成熟という段階を経て、その中等職業教育に直接(中等・高等職業教育間のアーティキュレーション)、間接(中等職業教育修了者の大学、専門大学等への進学)に接続する形で高等職業教育が発展してきている。
 中等職業教育修了者の高等教育進学のシステムや職業系大学の創設・再編が課題になるのではないか。具体的に言うと、短期大学という暫定的高等教育機関、高専という「奇妙な」(中等教育が前段階にある)短期の高等教育、法的位置づけ上は各種学校時代の「その他各種学校」の性格を引きずっている専修学校、これらの時代性(いずれも1962年という再建期日本で認知・誕生)を乗り超える必要がある。

1 看護師養成課程に見られるような最低3年ないし4年制の、しっかりした基礎教育と専門職業教育を行うことのできる新たな高等教育機関に再編すべきではないか。短大、高専、専修・専門学校を1つの屋根で統合するなら、「専門(専科)大学」、専修学校単独なら「職業大学」の創設を提案したい。

2 とくに、職業系高等教育機関に学ぶ学生数がメジャーな専修学校の公的・法的位置づけは急務である。

3 中国のように高等職業教育を職業教育の単独法で対応する場合もあるが、私立学校であれ、州立学校の形態であれ、その高等職業教育は、概念としても制度としても、高等教育法上整備(認知)する必要がある。職業教育は企業の課題、離職者の課題、個人の財産形成の営みという考え方を脱し、法人運営であっても、明白に「公的機関」とすべきで時期ではないだろうか。

(2)その際に配慮すべきこと

1. 高等教育諸機関間の関係調整
  歴史的に、概ね、以下のように機能分化されているし、今後もその方向で考えてはどうかと思う。

a.産業分野ごとの専門分野(科学)対応型の職業教育機関:やや座学重視
・高等専門学校:工業、船舶の中堅技術者養成を中核に
・短期大学:教育、家政を中心にした専門家養成を中核に

b.職業(職種)ごとの国家資格対応型の職業教育機関:やや実技重視
・専修学校・専門課程:医療、衛生、商業実務、服飾、文化等高専・短大・能開が持たない分野を中心に展開
・能力開発大学校(応用課程)・短期大学校(専門課程):工業系技能分野

2. 新機関を象徴する学位の授与
  この点では、学位機構の関与(4.の整備がない場合)を含め、「準学士」や「専門士」などでなく、明白に新たな学位を考慮する必要がある。3−4年制の機関でもあり、「学士(専門)」とか「学士(福祉)」などという学位名称はどうであろうか。

3. 高等教育機関としての規模の確保
 どの国も高等職業教育機関としての一定の規模が担保されている。公立機関はいうまでもなく、ドイツの私立専門大学の場合も、相当の規模を確保している。一定規模・条件を満たした学校が高等教育機関とされるものと考える。

4. 質の確保(教員と教育課程)
 高等教育機関であるためにも、教員の資格が問題になる。学位取得(少なくとも修士)等が当然求められる。実践的職業教育機関であるとすれば、数年間の専門的実務経験を課すことも必要であることは言うまでもない。

5. 産業界の理解・連携
 就職先確保、実践的カリキュラムの構築のためにも、パートナー企業との連携体制の構築が鍵であるように思われる。

お問合せ先

生涯学習政策局政策課

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