今後の地方教育行政の在り方に対する意見について

全教委連発第37号
平成25年6月20日

文部科学大臣
下村 博文 様

全国都道府県教育委員長協議会会長 木村 孟
全国都道府県教育長協議会会長 比留間 英人

今後の地方教育行政の在り方に対する意見について

 現在、中央教育審議会において審議している「今後の地方教育行政の在り方」について、下記の通り意見を申し上げます。

1 地方教育行政の現状・課題の正確な把握
   審議に当たっては、まず、全国の各都道府県・市区町村における教育行政の現状を十分に踏まえる必要がある。特定の事例をもって、すべての教育委員会が同様であると判断すべきではない。全国のできる限り多くの都道府県・市区町村教育委員会や学校等を視察されるとともに、関係者から幅広く意見聴取を行 っていただきたい。
    その上で、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下「地教行法」という。)のこれまでの改正の結果も含め、現状を詳細に評価し、現行の教育行政の課題を正確に把握していただきたい。

2 「今後の地方教育行政の在り方」の検討において重視すべき事項
    「今後の地方教育行政の在り方」の検討においては、次の点を十分に踏まえていただきたい。

(1)教育の充実につながること
     教育行政の第一の目的は、教育の充実である。様々な見直しの視点の中で、何より、教育の充実につながるかどうかを重視すべきである。見直しにより、教育の内容や質等が損なわれるような結果になってはならない。

(2)課題に正対した見直しを検討すること

     見直しの内容が、課題に正対し、その解決につながるものとなっているか、十分審議していただきたい。特に、「制度上の課題」と「運用上の課題」とを明確に区別して審議していただきたい。

(3)各教育委員会等の関係者の意見の尊重
     地方教育行政は、多くの関係者の献身的な努力により支えられている。このような関係者の熱意を損なうような一方的な見直しであってはならない。
 各都道府県・市区町村教育委員会や教職員、保護者、地域住民等の関係者の意見を十分に聴取するとともに、その意見を最大限尊重していただきたい。

(4)現行の教育委員会制度が果たしてきた役割・機能を損なわないこと
   現行の教育委員会制度は、教育の政治的中立性と継続性・安定性の確保、多様な意見の教育行政への反映という観点から、極めて重要な役割・機能を果たしてきた。見直しに当たっては、この役割・機能が損なわれることがないようにしていただきたい。
     教育再生実行会議の第二次提言では、新たな教育委員会の権限等位置付けが明らかではないが、その内容次第によっては、教育の政治的中立性と継続性・安定性の確保、多様な意見の教育行政への反映という役割・機能が損なわれるおそれがあるという意見が、全国都道府県教育委員会連合会における議論において数多く出された。
     こうした意見も踏まえ、中央教育審議会においては、第二次提言の見直しの方向性のみならず、その他の見直しの方向性も含め、幅広く、十分な審議を行っていただきたい。

(5)各教育委員会の役割・機能や運営体制等の実態を踏まえたものであること
     都道府県教育委員会と市区町村教育委員会とでは、それぞれが担う役割・機能や管轄する範囲・規模、事務局の体制等が異なっている。さらに、同じ市区町村であっても、人口360万人を超えるものから人口数百人のものまで、規模等に大きな違いがある。
      したがって、すべての教育委員会を、同じ教育委員会として一律に取り扱うのは現実的ではなく、各教育委員会の役割・機能や運営体制等の相違を十分に踏まえ、審議を行っていただきたい。

(6)各教育委員会等の運営体制の充実
     地方教育行政の充実を図るためには、単に教育委員会の制度改正のみを検討するのではなく、各都道府県・市区町村教育委員会の運営体制を充実するための国の支援策も、併せて検討されるべきである。
     例えば、学力向上はもとより、不登校やいじめの問題、発達障害への対応など、教育を巡る問題が複雑化していることから、特に小規模の町村教育委員会の運営体制の強化や、各都道府県・市区町村教育委員会における指導主事等の専門職員の配置の充実のため、必要な財源措置を図っていただきたい。

(7)地方自治の原則を踏まえたものであること
     国全体としても地方分権を推進しており、自治事務に対する国の関与は最小限とすべきである。また、国等による違法確認訴訟制度が創設され、是正の要求等の実効性が制度的にも担保されていることから、国の是正・改善の指示等については、地方自治の原則を踏まえ,審議を行っていただきたい。

3 全国都道府県教育委員会連合会としての意見表明
    中央教育審議会教育制度分科会における審議を進める中で、全国都道府県教育委員会連合会として、意見を申し述べる機会を設けていただきたい。
なお、教育再生実行会議の第二次提言の内容について全国都道府県教育委員会連合会において議論したところ、別添「教育再生実行会議の第二次提言について」のような意見があったことを申し添える。


(注)なお、大阪府教育委員会教育長は、「2 『今後の地方教育行政の在り方』の検討において重視すべき事項」の「(4)現行の教育委員会制度が果たしてきた役割・機能を損なわないこと」については同意していない。
 

別添

教育再生実行会議の第二次提言について

 教育再生実行会議の第二次提言について、全国都道府県教育委員会連合会として議論を行ったところ、各都道府県教育委員会から様々な意見が出された。以下は、その意見の一例である。

1 教育委員会制度の在り方について
(1)地方教育行政の責任者について
 ○ 教育長を教育行政の責任者とする第二次提言の見直しの方向性は評価する。ただし、教育の政治的中立性等が確実に確保されるよう、首長、新「教育長」、新「教育委員会」それぞれの法的位置付けや権限、相互の関係等について、十分な制度設計が必要である。
 ○ 第二次提言の見直しの方向性では、教育の政治的中立性と継続性・安定性の確保、多様な意見の教育行政への反映という役割・機能が損なわれるとともに、教育委員会の審議が形骸化するおそれがある。合議制の執行機関である教育委員会が不可欠である。
 ○ 首長の任命によるとはいえ、選挙により選ばれていない教育長が単独で、教育行政の責任者になるのは適切ではない。教育の政治的中立性等を確実に確保するための制度上の措置を講じた上で、選挙により選ばれた首長を教育行政の責任者とすべきである。
 ○ 首長を教育行政の責任者とすることについては、教育の政治的中立性等を確保する観点から懸念があるため、反対である。

(2)首長による教育長の任免について
 ○ 首長が議会の同意を得て教育長を任命することは、地域住民の意向を反映するという観点から妥当である。
 ○ 首長が教育長(=教育行政の責任者)を任命・罷免することとした場合、教育の政治的中立性等の確保が困難となることが懸念される。
 ○ 首長が教育長を罷免できることとする場合には、その罷免要件や議会のチェック機能について、十分な検討が必要である。
 ○ 教育長の任命の際の議会同意については、首長と議会との間に「ねじれ」が生じた自治体で、教育長不在による混乱が生じないよう、何らかのルールの設定が必要である。

(3)その他
 ○ 地方自治法等の既存の法制度と矛盾しないか、十分な検討が必要である。
 ○ 新「教育委員会」による「教育事務の執行状況に対するチェック」については、議会及び監査委員によるチェックや、地教行法第27条(教育に関する事務の管理及び執行の状況の点検及び評価等)との関係について、整理が必要である。

2 教育行政における国、都道府県、市区町村の役割分担と各々の関係の在り方について
(1)国の是正・改善の指示等について
 ○ 現行の地教行法第49条(是正の要求の方式)及び第50条(文部科学大臣の指示)も適用された実例がない中にあって、新たな仕組みを設ける必要性があるのか検討が必要である。
 ○ 自治事務に対する国の関与は限定的であるべきという地方自治の原則を踏まえる必要がある。
 ○ 子どもの教育を受ける権利が著しく侵害されている場合等に、国が最終的な責任を果たしていくことは考えられるが、国の関与は最小限とすべきである。

(2)市区町村への人事権移譲について
 ○ 市区町村への人事権移譲については、一定の教育水準や教育環境を確保する観点から、慎重な検討が必要である。
 ○ 給与負担並びに教職員定数及び学級編制基準の決定について、早期に政令指定都市に権限を移譲すべきである。 

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