教育制度分科会 意見発表

平成25年6月13日

-教育委員としての10年間の経験を踏まえて-

横浜市教育委員長  今田忠彦 

≪教育委員に対する一般的な見方≫

 しっかり機能していない、責任を果たしていないのではないか!
・首長の認識 、議会側の認識 、事務局の意識 、委員自身の気持ち等は自治体により、また過去と現在ではかなり変わってきたのではないか!
現状は、レイマンコントロールで出来るほど簡単な任務ではないと思う…
   (真に強い使命感があれば、果たして引き受けるか否か!)

≪横浜市の基本データー≫

○学校数等

学校数510校  (小342、中147、特別支援12、 高校9)
児童・生徒数 約27万人    教職員数 約16000人

○教育委員

6人 (男性2人、女性4人  *平均年齢 62歳 )

○開催頻度等

定例会・臨時会  

2回/月 (第2・第4金曜日)  10時00分~12時00分
原則公開 (非公開…人事案件等)    *ほぼ毎回傍聴者あり
但し、  別途  9時15分~10時00分     スケジュール確認等
13時00分~15時30分      懸案事項等勉強会

意見交換会      

1回/月 (第2月曜日)    13時30分~15時30分

その他

全員での学校訪問 、各自の自主的な学校訪問等

就任時の状況 …机・椅子も無い 深い議論なし これではダメだ
各委員に机・椅子、自主的な学校訪問、積極的な情報収集と提案
現在の気持ち … 教育委員会形骸化論等の汚名の挽回を期して頑張ってきた積りだが(教科書採択等)制度の持つ限界を感じている

(1) 教育委員会制度の実情について (現行制度のメリット・ディメリット)

私自身の具体的経験から感じたこと

 (メリットと思われること)
 丸1 非常勤で、ある種の身分保障があること
首長と一定の距離間が保てる 教育委員の立場でより主体的・客観的判断がしやすい

≪事例≫中学校 歴史・公民 教科書採択における判断
全体での勉強会・読み比べ、各自の自主的勉強、関係法令等に照らした真剣な検討を重ね、教育委員として権限と責任に基づいて判断、
記名投票の結果  多数決にて決定  教育長とは異なる意見
 教育委員会の「首長からの独立性」を示し得た

☆一部の首長からは「民意の代表である首長の意向が素直に反映されにくい」との指摘があるが、教育委員・教育長の人選を通じて、自身の(政治的)考えを示しうるのではないか

丸2 教育委員長が責任者であること
 事務局の判断に対する二重チェック機能の役割を果たす
 時には、事務局の誤った判断に対し、適切な変更の指示が可能

 通知表の誤記載防止のために、評価を含めて通知表を事前に保護者に知 らせるということを事務局独断で決定し実行
 委員長として、緊急に教育委員を招集し協議、早急に方針の変更を決定させ併せて議会でお詫びした。(学校現場の混乱・保護者の誤解を解消)

☆このことは、委員長が責任者であるから出来た対応である
判断の是非、その後の対応等、教育長が責任者であれば、随分と手続きを要することになっていたであろう

丸3 合議制の執行機関であること
教育委員が重要な課題について経験・専門性を生かし広範な角度から議論を展開、その事を幹部職員も聞きながら自分達の反省やヒントにしていく
そうした刺激が本気度を高め、新たな意欲と施策の展開に繋がっていく

成長過程にある児童・生徒数を抱える現場では、いつも事件事故が絶えない
極端に言えば、日常の事を処理するだけで、一日が終わる日も多い
そうした日々の連続では、教育長も含め現状を見つめ直す余裕が無くなる

☆教育長をトップとする事務局内部では、日常業務の実態から教育委員相互間でのような、原点に返っての本質的かつ活発な議論の展開は、なかなか期待し難いのではないか!

(ディメリット:教育委員長の立場の組織上の実質的な曖昧さ)

丸4 事務局職員は、法律上の規定よりも、日常の教育長の教育委員に対するスタンス大きく影響を受ける
 (情報伝達のスピード・質・量に変化、意欲の低下に繋がる場合がある)

☆教育委員長の勤務条件のあり方を工夫すること(提言)
法律上非常勤という位置づけであり、そのメリットは前述の如くある
委員会の責任者と言う立場を考える時、他の委員よりも一段重い職責を担うわけで勤務上も強い制約を課してよいのではないか

例えば「最低でも週2回は事務局に顔を出すこと」を就任時の条件にする等
その事が制度上確立すれば、事務局からの情報伝達もよりスムーズになり、一層信頼関係が高まり、教育委員会としてより有効に機能するのではないか

☆ 非常勤の教育委員長が責任者であることの解釈
総ての責任が委員長にあることを意味するのではなく
自ずと事柄により教育長が責任者となる場合もある
多少違和感を感じているが、教育委員会制度トータルとして、現行の責任制度のもつ意味を冷静に考える必要があるのではないか

(2) 教育再生実行会議の提言を踏まえ、今後の制度の在り方を検討する際に留意すべき事項

 丸1 スペシャリストとしての教育長の育成の重要性

教育行政の一番の実力者は教育長である (教育のプロの中では常識)
教育問題を考える時点で、その人選・育成の重要性が、従来どこまで真剣に議論されてきたか
多くは、一般の行政職員の人事異動と同じように扱われてきたのではないか

教育現場は専門性が高く
、一般行政とは組織風土の異なる誇り高い世界でありそのリーダーたる教育長は相当の見識・情熱、・覚悟経験年数等が要求される
京都市のように、専門性に深く着目した人事を行ってきた都市は少ないが、採用時から教育行政職として採用、将来の教育長候補として育成する方法もあろう

教育と行政の両方の世界が分かり、特に教育と言う機能の重要さ・影響力の大きさ・奥深さ等を理解し謙虚に自信をもって舵取りをやっていける人が必要

☆現実には、その人選は難しいことだが第二次提言でもいう通り、議会同意事項とし、当該自治体内に人選の重要性を喚起する事は極めて重要である。
当然、その際処遇の改善についても検討すべきである
併せて、「学び続ける」教育長の育成を自覚促すことが大切

丸2 横浜市の如く規模の大きな現場の特徴

全体で500校を超える学校現場があり、長年に亘って、教育委員会と学校現場が、いわば車の両輪のような形で、連携・協力の下に教育行政を進めてきた
(平成22年から四つの方面別教育事務所を設け新たな出発をした)

小・中それぞれの校長会も、教育行政の一翼を担う立場にあるとの強い自負がある。加えて、教育界独特の誇り高く・閉鎖的な体質、やや反体制的な傾向も否定し難い

教育委員会内部での権限と責任の明確化が図られたとして、学校現場の抱える様々な課題 (職場環境の改善、処遇の改善等)の解決に向けた取り組みがなされない限り、両者の一体感・連帯感の醸成は難しく、効果は期し難い
 (現場の視点からすれば、単なる責任者の交代にすぎない)

優秀な若者が教師を志すような教育現場にしていくことが喫緊の課題である
 (社会的気運の盛り上げ、教師に対する尊敬、処遇の改善等)

☆教育長を責任者とするか否かは、
前述の現行教育委員会制度のメリット
等からして、当該自治体の教育委員会が所管する規模の大きさ・歴史・ある種の成熟度等も考慮し、
その上で当該自治体の選択制とする案もあるのではないか!

教育委員会を諮問機関にしていく事は、教育長が権限も・権威も両方とも握ってしまうことであり大きな危険性を孕んでいる
その慎重さが、スピード感に欠け教育現場の無責任体制を生んでいるとの厳しい意見があるが、多様な考え方がある時代であり丁寧さは必要である

その立場にある人間の資質によって、大きな間違いを起こしかねない
( 自戒・自重を求める戒めだが、先輩からの話に …
〝教育長室には魔物が棲みついている〟との言葉がある )

★その他
委員会を廃止し首長と教育長の連携による教育行政を目指すというのは
教育の本質的な機能、その影響力の大きさ、更には現在の制度が現場の意見も取り入れた委員会制度(大方の委員会で学校関係者のOBがメンバー)であること等を考える時、少し踏み込み過ぎではないかと思う
 

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