教育委員会制度の在り方に関する意見

茨城県知事  橋本 昌  

1 茨城県教育委員会の現状

(1)組織
(教育委員会)
・教育委員は,6名(うち教育長 1名)で組織
・教育委員は,男性5名,女性1名で,50代2名,60代4名
・職業別では,企業等経営者2名,保護者代表1名,医師1名,元学校長1名,行政経験者1名(教育長)
・教育委員は,一人当たり年間約40日活動

(教育委員会事務局)
教育長 - 教育次長(2名) - 9課

(2)委員会開催状況(平成24年度年度)
・会議回数      (回)

定例会

臨時会

12

1

13

 
   ・議事内容      (件)   

任免

規則

条例

基本
方針

予算

教科書

議会
報告

文化財

事業
報告

その他

合計

24

15

10

5

5

4

3

3

1

7

77


(3)その他の活動状況
丸1 教育委員協議会
 教育委員,教育長,教育次長等との自由討議を実施
 平成24年度実績 7回(教科用図書選定(2回),いじめ問題(2回),体罰問題(1回),教育委員会の活性化(2回))
  
丸2 教育委員会事務局との意見交換会
 教育委員会定例会終了後,毎回,執行部との意見交換を実施
 平成24年度実績 12回(学校防災,政策(事業)評価,通学路の安全対策など)

丸3 教育懇談会
 生徒,教員,保護者,地域住民,教育委員,教育庁職員が意見交換を行う
 平成24年度実績 2回 (懇談テーマ:いじめ問題を考える)
 中学校1校 高等学校1校

丸4 県内・県外事情調査(学校視察)
 平成24年度実績 県内26校 県外1校

丸5 県内・県外事情視察(教育機関等)
 平成24年度実績 5か所(近代美術館,陶芸美術館,歴史館 等)

丸6 教員応援団研修会への出席
 教育委員OB等が中心となって組織した「いばらき教員応援団」が講演会を主催し,総合的な教師力の向上を図っている。 
 対象:新任校長・教頭,教務主任
 講師:五木寛之(作家),上甲晃(松下政経塾初代塾頭) 等
 平成24年度実績:3回

(4)知事と教育委員・学校長との意見交換
丸1 知事と教育委員との意見交換

丸2 「教育懇談会」(県学校長会主催)

丸3 学校長会定期総会

丸4 教育振興大会

丸5 「いばらき教育の日」推進大会

2 現行教育委員会制度の問題点

・ 教育委員会と教育長の権限と責任が不明確である。
・ 教育委員会の指揮監督の下で教育長が事務を執行することになっているが,実際にはほとんどの事務を教育長及び事務局が行っており,制度と実態が乖離。
・ 教育長は教育委員の中から互選することとなっているが,他の委員はPTAの代表や現役の企業経営者などで教育長になれるような人材を任命しておらず,形骸化。
・ 教育委員が非常勤であり,教育委員会が合議制であるため,機動性,弾力性に欠ける。
・ 継続性,安定性が言われるあまり,時代の変化への適応力や突発的事態への対応力に欠ける面がある。
・ 地方自治体の教育行政についてのみ行政委員会制度を採用している。

 

都道府県

   会計検査院
   人事院
   中央労働委員会
   中央選挙管理会
   国家公安委員会
       ×

   監査委員
   人事委員会
   労働委員会
   選挙管理委員会
   公安委員会
   教育委員会

 

3 教育再生実行会議第二次提言について

(1)教育長の在り方
丸1 教育長を教育行政の責任者とすることには賛成
・ 非常勤の教育委員長が教育行政全般について権限や責任をもつことは,実際上困難であり,常勤の教育長が責任者となることが適切。
・ 教育委員会は首長又は教育長のアドバイザリーボードとして存続させる。
・ 「教育長を教育行政の責任者とする」とあるが,それがどういう意味か不明。
丸2 教育長を現行よりも首長から独立した責任者とすることには反対
・ 多岐にわたる地方行政の中で教育行政だけを分離して特別な責任体制の下におくことは適切でない。
・ 国では,文部科学省は総理大臣の下にいくつもある省庁の一つとして位置づけられ,文部科学大臣も他の大臣と違った位置づけはされていない。
・ 教育行政は,極めて重要な分野であり,地域住民の意向をより的確に反映するためにも,住民から直接選出された首長が責任をもつべき。
・ 地方行政においては,近年,総合行政の必要性が高まっており,首長が行政全体を総合的に運営し責任をとることが適当である。

(2)教育の政治的中立性,継続性,安定性について
・ 今回の教育再生に係る動きも総理の強い政治的リーダーシップの下で行われており,極めて政治的行為であると言えるが,国では教育委員会というシステムはとられていない。
・ 地方教育行政の大部分は,文部科学省の細部にわたる指導要領の下で実施されており,政治的中立性を犯すとか,継続性や安定性が大きく損なわれることはない。
・ 教育長は法により,政治活動の制限を受けている。
・ 文部科学大臣は,最近は1年ごとに変わっているが,継続性,安定性が問題になったことはない。

(3)是正の要求・改善の指示
・ 教育委員会は,文部科学省,都道府県,市区町村という縦系列の指導体制が大きく働いており,現状でも文部科学省の力が強すぎるので,これ以上中央集権的な体制にすべきでない。
・ 国等による違法確認訴訟制度が創設され(平成25年3月施行),是正の要求等の実効性が制度的に担保されている中,あえて地教行法の指示権の範囲を拡大しても,実質的な効果はない。
・ 国全体として地方分権を推進しようとしている時に,国の関与を強めることは時代に逆行する。 

4 結論等

(1)教育長の在り方
・ 教育行政は住民の選挙により選ばれた首長が住民の負託を受けて行うべきであり,首長を教育行政の責任者とするとともに,教育長を事務執行の責任者,教育委員会を首長又は教育長のアドバイザリーボードとすることが適当ではないか。
・ 執行機関は,選挙で選ばれた人間あるいは合議制による行政委員会が担うべきであり,教育長が独任制の執行機関になることは,民主主義的な統制が弱くなり,地方自治制度としてふさわしいのか疑問。

(2)教育長の任命に係る議会の同意について
・ 教育長任命に係る議会の同意が得られず,首長交代時等に教育長の任命がスムーズに行えないケースが少なからずある。
・ 都道府県の教育長については,平成11年度以前には議会の同意を要しなかったが,特に支障はなかった。
・ 議会の同意が不要なら,教育長が欠員になった際に,議会を招集しなくても,後任者をスムーズに選任できる。
・ 首長と議会との関係もあり議論が必要。

(3)議会のチェック(議院内閣制との違い)
・ 国は,与党が内閣を形成し,一体となって国会を運営する議院内閣制であるため,内閣の政策等に対して,国会のチェック機能が働きにくい。
・ 都道府県は,二元代表制であり,議会により予算等教育行政全般について厳しい審査があるので,政治的中立性などについて国よりもチェックの目が行き届いている。 

 

参考資料1

第28次地方制度調査会
「地方の自主性・自律性の拡大及び地方議会のあり方に関する答申」

(平成17年12月)<抜粋>

(2) 行政委員会制度
 行政委員会制度は、戦後、国家行政組織の改革と連動し、首長への権限集中排除や民主化政策の推進の観点から導入されたものである。地方自治法及び個別法で都道府県に8の委員会と監査委員、市町村に5の委員会と監査委員を置くこととされており、いずれの機関も必置とされている。
 国の行政委員会は、責任の帰属が不明確であるなど導入当初から批判があり、行政改革の流れの中、戦後間もなく大幅に廃止又は審議会化されたが、地方公共団体においては、さまざまな行政委員会が今日まで維持されている。しかしながら、準司法的機能を有する機関を別にすれば、戦後60年を経て、社会経済情勢が大きく変化している中で、制度創設時と同様の必要性がすべての機関について存続しているとはいえない状況にある。
 すなわち、住民から直接選出された長が責任を持つことが求められているにもかかわらずこの要請を満たすことができない行政分野が生じている状況を改善し、また、地方行政の総合的、効率的な運営や組織の簡素化を図るため、以下の点について必置規定の見直し、組織・運営の弾力化を図るべきである。
丸1 教育委員会のあり方
 教育委員会については、上記のほか、保育所と幼稚園、私立学校と公立学校等、長と教育委員会がそれぞれ類似の事務を担任しているなどにより地方公共団体の一体的な組織運営が妨げられているという問題がある。
 教育委員会を必置とする理由として、教育における政治的中立性の確保や地域住民の意向の反映等の必要性が挙げられているが、これらの要請は審議会の活用等他の方法でも対応できると考えられる。国においては教育行政に関し行政委員会制度をとっていないが、これらの要請が地方における教育行政に特有のものであるとは考えられず、また、地域住民の意向の反映はむしろ公選の長の方がより適切になしうると考えられる。
 このため、地方公共団体の判断により教育委員会を設置して教育に関する事務を行うこととするか、教育委員会を設置せずその事務を長が行うこととするかを選択できることとすることが適当である。

(以下略)

参考資料2

1 地方自治体における行政委員会の必置規制の見直し
(1)教育委員会
 教育委員会制度は、戦後、教育の民主化を徹底する見地から、直接公選の委員から構成される行政委員会として発足した。その後、委員の直接公選制は廃止され、委員は議会の同意を得て、長が任命することとされたが、なお行政委員会の形態を存続させる根拠として、教育の政治的中立と教育行政の安定があげられていた。
 教育の政治的中立の要請が言われながら、国の教育行政には行政委員会制度は採用されてこなかったのに対して、地方自治体の教育行政に対してのみ行政委員会制度の採用を強制している制度的不均衡について、納得のいく説明はなされてこなかった。
 しかも、教育委員会制度がほぼ現在の姿になって半世紀以上を経た今日、その運用については、本来は委員会が決定すべき事務の多くが委員会事務局によって処理されているなど委員会の会議が形骸化している、合議制であるが故に機動性・弾力性に欠けるなどの指摘がなされている。
 また、教育委員会及びその事務局は、長から半ば独立した執行機関として、地域住民の意思を反映することよりも、文部科学省、都道府県教育委員会、市区町村教育委員会という縦系列の指導助言に重きを置いた運営がなされがちであるとの批判も根強い。委員及び事務局職員の多くを学校教職員又はそのOBで占めることによって閉鎖的な世界を形成している、との批判もある。
 さらに、自治体政策の企画立案と実施にあたっての横の総合調整の問題もある。

(中略)

 教育委員会制度が導入された当初は、その理由の一つとして、地域住民の意向の的確なる反映があげられていた。しかしながら、この点についてはむしろ、直接公選の長の方がより適切に達成し得ると考えられる。その上になお一層多様な地域住民の意向を反映する必要があると判断される場合には、審議会等の住民参画機関を設置するなど工夫の余地が大きい。

(中略)

 地方自治体が、地域にあった教育を自由に展開することが、地方分権改革の観点からも求められている。その際、教育委員会がこれまで通り主体となるのか、それとも長が主体となるのかについて、地方自治体の自由度を高めることにより、各地方自治体が創意工夫し地域にあった地方教育行政体制の構築を図るべきである。

(以下略)

参考資料3

教育委員会制度等に関する意見

 去る4月15日、教育再生実行会議は、第二次提言として「教育委員会制度等の在り方について」をとりまとめ、内閣総理大臣に提出した。

 今回の提言において、現行の教育委員会制度について責任の所在の不明確さ、教育委員会の審議の形骸化等、地方と軌を一にする問題意識に立ち、検討が進められたことは理解できる。

 しかしながら、提言では、「教育長が地方公共団体の教育行政の責任者」として教育事務を行い、住民から直接選挙で選ばれた首長は、教育長の任命・罷免の権限を有するに止まり、指揮監督の権限は有しないとされている。

 もとより、行政権の執行は住民の直接選挙により選ばれた首長が住民の負託を得て行うという原則にかんがみれば、首長による教育長の任命・罷免権と指揮監督権は一体のものとして認められるべきである。

 これまで地方は、教育委員会の必置規制を緩和し、地方公共団体の選択により首長の責任の下で教育行政を行うことができるようにすることを求めてきたところであり、こうした選択制も含め、重ねて、首長と教育長の関係について、幅広く議論する必要がある。

 また、現行法では「子どもの生命・身体の保護のため緊急の必要があるとき」に限定されている国の地方公共団体に対する是正・改善の指示を、「教育行政が法令の規定に違反した場合」及び「教育を受ける権利が侵害される場合」にまで拡大することに関しては、自治事務に対する国の関与は限定的であるべきという地方自治法の立法原則が定められていることを踏まえ、地方分権の観点から、地方の教育行政に対する国の関与の在り方について、改めて議論するべきである。

 よって、政府においては、今後、新たな地方教育行政体制の在り方を検討するに当たっては、中央教育審議会をはじめ、機会あるごとに地方の意見を聴取するとともに、地方公共団体が地域の実情に応じた教育行政を責任を持って展開できるよう、上記の意見を十分に踏まえて改革を進めるべきである。

平成25年4月19日

地方六団体
 全国知事会会長  山田啓二
 全国都道府県議会議長会会長  山本教和
 全国市長会会長  森 民夫
 全国市議会議長会会長  関谷 博
 全国町村会会長  藤原忠彦
 全国町村議会議長会会長  髙橋 正

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課

(初等中等教育局初等中等教育企画課)