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資料4



2004年10月6日


中教審教育制度分科会・地方教育行政部会第13回会議への文書発言

小川 正人

 部会第13回会議に出席できませんので、9月22日の部会第12回会議で配布された「主な意見のまとめ(案)」について文書で発言させていただきたくお願い致します。
   (添付資料: 拙稿「『素人』教育委員会と教育長の役割分担の明確化を−『素人』教育委員会再考とそれに伴う制度改正の必要性−」(『教育展望』2004年9月号))

1. 1-(3)−1 指摘されている問題点、2−問題点の要因」の内容について
 
 現行教育委員会制度に対して指摘されている問題点やその要因が整理されているが、それらに加えて、教育委員会制度の創設目的とその目的を果たすために制度化されたしくみが運用の仕方によっては、関係者の間に過度の「抑制」「均衡」等や「責任所在の不明確性」を生じやすくさせている面もあることをおさえておくことが必要ではないか。
 教育委員会制度の創設目的は、周知のように、(1)日本の自治体の特徴となっている“強首長型”の政治・行政システムで権力集中の抑制や多元化を図ること、また、(2)教育についての多様な考え方・意見等の存在を前提にそれらの多様な考え方・意見等の慎重な集約によって意思決定と執行を図ること、更に、(3)教育・教育行政の「専門家」主導の政策決定や教育行政運用の抑制・均衡、チェックの機能として住民の参加・意向反映が期待されていること等であり、それらの目的を実現するために、制度的なしくみとして、それぞれ、(1)→行政委員会としての教育委員会、(2)→合議制の決定・執行機関としての教育委員会、(3)→専門的リーダーシップとレイマンコントロールの原則に基づく教育委員会と教育長の権限関係・役割分担の明示等が装置されている。
 しかし、これらの目的とそのしくみは、(1)では首長乃至首長部局と教育委員会の関係、(2)教育委員会内部、(3)教育委員会と教育長・事務局の関係、といった幾層もの関係者の間における「抑制」と「均衡」、チェックの機能を装置化したもので、運用次第によっては、それらの「抑制」と「均衡」、チェックの機能が関係者の活動を過度に拘束したり責任所在の不明確化を生じさせやすくさせる面もあることは否定できない。そのため、教育委員会制度の目的としくみを是認するとしても、それらしくみが関係者の活動に対して過度の「抑制」や「均衡」を負荷したり、責任所在の不明確化を助長していないかどうか等を点検し、必要によっては教育委員会制度を支えているしくみの運用を今日的状況に見合うように改善していくべきこともあってよいのではないか。
   
2. 2−(1)、(2)−1教育委員の選任の改善」について
 
  2−(1)教育委員会の組織等の弾力化」で指摘されている「教育委員会制度を弾力化し、各自治体の自由度を高めることにより、それぞれの状況に応じた制度運用の改善を促すこと」、「教育委員会の組織や運営について各自治体が選択できるようにすること」等の必要性については賛同する。そのことの延長線上で、「(2)−1教育委員の選任の改善」を考えたとき、教育委員選任の過程に住民の意向をより直接的に把握して首長による教育委員選任の判断材料に活用していく公選制的な工夫も排除されるべきではない。現行地教行法下において、首長の教育委員任命権と議会による承認制を確認したうえで、自治体が教育委員選任過程において広範な住民の意向を知る工夫の一つとして公選制的な試みを実施したいという選択をした場合には、そうした自治体の判断、試みを最大限尊重し認めることが必要ではないか。
   
3. 3−(1)教育委員会の使命の明確化」に関連して
 
  3−(1)教育委員会の使命の明確化で指摘されている内容に賛同する立場から、更に、そこで指摘されている内容を具体的な制度的しくみとして実現していけるような検討を望みたい。

   1 現行教育委員会制度に対する強い批判の一つは、教育委員会の「形骸化」「形式化」という指摘である。具体的に言えば、教育委員会は地域の教育政策決定や教育行政運営について広範な権限を保持しているにもかかわらず、実際はそうした権限を主体的に行使し活動しておらず、「専門家」教育長・事務局への大幅移譲と「追認」となっているのが実態であるとする指摘である。

 確かに、上記のような「素人」教育委員会に対する批判は、現行の教育委員会制度の有する「矛盾」「曖昧さ」を的確に指摘しているように思われる。というのも、地教行法第23条に規定されているように教育委員会に付与されている政策の決定や執行・管理に関する職務権限は広範囲に及んでいる。しかし、そうした教育(行政)の専門的な政策決定と執行・管理を素人で非常勤・兼職の教育委員が月1〜2回程度の会議で実質的にこなしていくという考え方には本来矛盾があるし無理があるように思える。そうした批判を受けて、これまでの本部会の審議では素人教育委員会の政策立案や執行の能力・機能を高めるために教育委員(その一部)を常勤化してはどうかという提案もあったが、むしろ、基本的な問題は、専門的な政策の決定や執行・管理の仕事を素人で非常勤・兼業の教育委員に委せるような「矛盾」や「無理」にあるように思える。そのため、教育委員(その一部)の常勤化という方策ではなくて、そうした教育委員会制度に孕まれている「矛盾」や「無理」を是正していくために、素人の教育委員の役割分担を地域の教育政策課題のアジェンダ設定や大綱的方針設定に限定しつつ、その具体的な政策立案と執行・管理という専門的事項は専門家である教育長−事務局に任せるという両者の役割分担を明確に区別することと、その役割分担を機能させていく仕組みづくりが必要なのではないか。

   2 「素人」教育委員会と「専門家」教育長の役割分担明確化と両者の法的でアカウンタブルな関係構築の必要性

 確かに、現行の地教行法の下でも、上記で述べたような現実を踏まえて、「素人」教育委員会と「専門家」教育長の役割分担を自覚しつつ日常の教育委員会運営が行われていることが多いが、しかし、その役割分担が道義的なものに留まり、法的でアカウンタブルな関係として制度化されているわけではない。
 例えば、地教行法の定番的解説書として評価の高い木田宏『逐条解説 地方教育行政の組織及び運営に関する法律』(第一法規)では、地教行法第17条の教育長の職務に関係する説明を次のように述べている。

  (「教育長は、教育委員会の指揮監督の下に、教育委員会の権限に属するすべての事務をつかさどる」については、)
「しかし、教育委員会は、公正な住民の意思を反映し、地方の実情に即して、教育行政の根本方策の樹立その他の重要事項を決定することを本来の職務とするものであるから、個々の具体的な事務処理についていちいち教育長を指揮し、命令することは適当ではなく、大綱について教育長の行動を規律するにとどめ、細部については、教育行政の専門家である教育長の判断を尊重し、教育長の行動を無用に束縛することのないようにすべきである。」
(アンダーライン−引用者)

 ここでは、教育委員会の本来の役割を教育行政の根本方策の樹立その他の重要事項を決定することにとどめ、個々の具体的な事務処理については、教育長を指揮、命令すべきではないこと、教育長の判断を尊重しその行動を無用に束縛することのないようにと両者の役割区分を明確化することを述べている。しかし、この解説書で述べられているように、教育委員会と教育長の役割分担と教育長への「専門的」な仕事・権限の移譲や教育長の仕事については道義的、規範的な運用指針として留めているところに、教育委員会の役割や権限を曖昧にさせ教育長主導の教育委員会運営が生み出されてくる一因にもなっているのではないか。この解説書でも説明されているように、「素人」教育委員会と「専門家」教育長の役割分担が避けられず、その効率的な有効な運営を図ろうとする場合には、その役割分担とその両者の関係を道義的、規範的な運用方針に留めないで、法的でアカウンタブルなしくみとして制度化していくことが必要ではないか。

地教行法第26条(教育長に対する事務の委任等)による教育長への委任等も本来は、教育委員会の教育長に対する一般的な指揮監督権が伴うものであるが、その教育委員会による教育長の指揮監督も形式化していることが多い
**  そういう点で、第9回中教審地方教育行政制度部会会議 団体ヒヤリング(平成16年8月9日)における中核市教育長連絡会「意見」で、「教育長へ教育委員会の権限の一部移譲・委任・専決規程の整備等運用面について個々の自治体ではなく、全国的な制度として改善していくことが望ましい」等の提案があったが、全国的に望ましいそうした運用面でも整備を進めながら、移譲・委任・専決規定等に対応した教育長の教育委員会に対するアカウンタブルな法的なしくみの整備も考えられてよいのではないか。
 
cf: 拙稿「『素人』教育委員会と教育長の役割分担の明確化を−『素人』教育委員会再考とそれに伴う制度改正の必要性−」(『教育展望』2004年9月号)



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