5 教育課程及び指導の充実・改善のための教育環境の整備等

(1)各学校の取組に対する各教育委員会及び国による支援等

 以上述べてきたような取組が各学校で行われるためには,各教育委員会及び国による支援が必要不可欠であることは言うまでもない。以下に,本審議会が提案する当面の充実・改善方策を実現可能にしていくために,その支援策について具体的に提案する。

1.各教育委員会等による支援等

 各教育委員会等は,各学校が創意工夫に満ちた多様な教育課程を編成・実施することが,学習指導要領に示された基礎的・基本的な内容の確実な定着,個性を生かす教育の充実のために重要であることを十分踏まえ,その取組を積極的に支援することが必要である。このため,各学校における創意工夫に満ちた教育課程の編成に資するよう,各地域の教育センターや拠点校等においてはカリキュラムを収集・蓄積・情報提供する等のカリキュラムづくりの支援を行うためのセンター的機能を充実すること等について,今後検討していくことが必要である。
 これを踏まえ,各教育委員会等における具体的な取組としては,例えば,以下のようなことが考えられる。

  • 「総合的な学習の時間」をはじめとする地域や学校の実態に応じた優れたカリキュラムづくりの事例等を集めた参考資料の作成や情報の提供
  • カリキュラムづくりに関する実践的な研究とその成果の普及や顕彰の実施
  • 関係機関・団体等との連携・協力体制づくり,地域の小・中・高等学校等で相互に情報を共有するための機会の提供等

 また,校長や教員等が学習指導要領や教育課程についての理解を深め,教育課程の開発や経営(カリキュラム・マネジメント)に関する能力を養うことが極めて重要である。このため,都道府県教育委員会等においては,例えば,以下のような取組を行うことが考えられる。

  • 学習指導要領の「基準性」の趣旨について,校長や教員等に対するあらゆる機会を通じての一層の理解の促進
  • 創意工夫に満ちた特色ある教育課程の編成,実施,評価等について,教務主任を対象とした研修や個々の能力・適性等に応じて実施される10年経験者研修等をはじめとする各種研修における実践的な研修
  • 「総合的な学習の時間」等の教育課程を各学校で編成する際にリーダーとなる教員を対象とした研究協議会などの各種研修

 なお,教員が教材研究,指導の打合せ,地域との連絡調整などに充てる時間を可能な限り確保できるよう,各教育委員会等や各学校では,会議等の持ち方や時間割の工夫など時間の効果的・効率的な利用等に配慮することも重要である。
 さらに,各学校における創意工夫を生かした取組を支援するため,各教育委員会等では,必要な予算の確保や地域人材活用の支援等に努めるとともに,教育センターや教育委員会事務局等の指導主事等がその専門性を生かして,各学校や関係機関・団体等に適切な指導や具体的な助言を行う機能を充実することが期待される。

2.国による支援等

 まず,国においては,各学校において創意工夫に満ちた教育課程を編成し,学校行事等を適切に実施しながら,各教科等の指導に必要な時間を適切に確保することができるよう,関連する情報の提供などの支援を積極的に行う必要がある。具体的には,学校における特色ある教育課程の編成・実施,会議等の効果的・効率的な持ち方などの校内体制等の工夫や教育委員会における特色ある取組についての事例集を作成するなど,である。
 また,各学校における「総合的な学習の時間」の一層の充実を図るために,学習プログラムの開発,教材の開発,学習資源を充実させるための学校間・学校種間連携や社会教育関係団体等の各種団体との連携等の実践研究や評価の研究を行うとともに,各学校が参考にし得る実践事例等の収集・提供を更に行うことが求められる。
 同様に,「個に応じた指導」の一層の充実を図るためにも,理解や習熟の程度に応じた指導や少人数指導などに取り組む「学力向上フロンティアスクール」等の拠点校における実践研究の成果の普及や教材の開発,教員志望の大学生等の地域の人材が児童生徒の学習支援に当たるモデル事業の実施,指導資料や事例集の作成・配布等を行うことが必要である。
 また,施設設備や教員定数など条件面の整備,充実に配慮することも必要である。

(2)保護者や地域住民等との連携・協力

1.保護者や地域住民等の理解と支援等の重要性

 新学習指導要領のねらいの実現に向けて,「総合的な学習の時間」や「個に応じた指導」の取組を実りあるものとするためには,各学校が,校長のリーダーシップの下に全校を挙げて取り組むことが必要であることは言うまでもない。そして,これと同時に,子どもたちの教育は,学校・家庭・地域社会が,それぞれの特質を生かした適切な役割の分担をしつつ全体として行うものであるという視点を持ち,様々な形で保護者や地域住民等との連携・協力を得ることが不可欠である。
 このため,保護者や地域住民等にあっては,各学校の教育課程や指導の状況等に関心を持ち,学校の取組に積極的にかかわることが求められるところであり,また,それを通じて,衰弱してきたと言われる地域のコミュニケーションや教育の力を活性化することが期待される。例えば,小学校区単位で校区に居住する人々が地域に根ざして連携し,学習や体験活動の機会を提供したり,体験の不足によって人やものとかかわる力が低下していると言われる子どもたちに,地域の人々が豊かな経験を伝えたりするなど,学校・家庭・地域社会間の分担と協力によって子どもたちを教育していくという視点を持つことが求められる。
 なお,社会全体から学校に対して様々な役割・機能が期待される中で,学校がその本来の役割・機能を十全に果たすためには,各学校が現在行っている教育活動全体について,自己評価等を通じて不断に検証し,改善を図ることが必要である。その際,家庭や地域社会が分担・協力した方がよりよい成果が得られると考えられる教育活動等については,家庭や地域の実態等を踏まえつつ,保護者や地域住民等の理解を得ながら,家庭や地域社会がその役割を分担したり,協力したりするように促していくことも必要である。その一環として,児童生徒に[生きる力]をはぐくむ上で多様な体験が重要であることを踏まえ,今後,地域におけるスポーツ・文化活動との役割分担など学校部活動の在り方についても,地域の実態等を踏まえながら,国や各教育委員会を含めて検討していくことが必要であろう。

2.学校からの保護者や地域住民に対する働きかけ

 また,各学校においては,創意工夫に満ちた教育課程の編成・実施に取り組むに当たって,年間の行事予定や各教科の全体計画,年間指導計画及びそれらの実施状況についての自己評価の結果の公表や学校公開等を行うことが重要である。これらを通じて,そのねらい,進捗(ちょく)状況,成果等について保護者や地域住民等への説明を行うとともに,協力への呼びかけを更に行うことが期待される。その際,既に学校評議員制度の導入等により進められつつある,学校運営に保護者や地域の関係者等の協力を得ようとする取組を一層推進するとともに,学校の状況に応じて外部評価を実施することが重要である。さらに,例えば,子どもたちの体験活動等の機会を充実させるため,保護者や地域の関係者等から成る学校サポート(学校協力)委員会を設けるなど推進体制を整備することも考えられる。

3.各教育委員会及び国による支援

 各教育委員会は,これらの取組を支援するため,学校・家庭・地域社会を包含する子どもたちの教育のネットワークをつくるために中心的な役割を果たすべきであろう。具体的には,例えば,教育の日,学校公開週間などを設けることにより,学校・家庭のみならず,学校の取組を日ごろから支援する各種団体をはじめとした地域社会の関係者が一堂に会して教育について語り合い,考える機会を設けることや,学校を開放しPTAや地域住民,ボランティアの協力を得て休日や放課後に子どもたちの学習機会を提供するなど学校・家庭・地域社会の関係機関・団体の連携による取組を推進すること,各種団体が放課後や休日等に子ども向けに実施する学習プログラムを認定して,その結果を適切に評価したりする仕組みの導入を検討することなどが考えられる。また,学校運営に対する保護者や地域の関係者等の協力,外部による学校評価及び結果の公開等を積極的に促進するため,必要な支援を行うことも重要である。
 国においては,このような各学校や各教育委員会,保護者や地域社会等の取組を支援するため,先進的な取組等の例示など関連する情報提供を積極的に行うことが必要である。また,これからの教育が前述のように学校のみならず,広く家庭や地域社会との分担と協力により行われることが大切であることについて,国民の意識の醸成に努めていくことが必要である。さらに,いわゆるコミュニティ・スクールなど保護者や地域の関係者等が学校運営に参画する仕組みについても引き続き研究することが必要であろう。

(3)新学習指導要領のねらいについての継続的かつ積極的な周知等

 国や各教育委員会においては,各学校に対する学習指導要領の「基準性」の趣旨や新学習指導要領のねらい等についての周知が不十分であるとともに,保護者に対する意識調査の結果等からは,保護者や国民一般に対しても,新学習指導要領のねらいやその実現のための取組の実情等の周知が十分に行われているとは言えない状況にある。
 このような状況を踏まえ,国及び各教育委員会は,各学校において創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開し,個性を生かす教育が行われるため,今後とも,特に,校長や教員等に対し,直接・間接に様々な方法で,新学習指導要領のねらいについての継続的かつ積極的な周知を図ることが必要である。また,保護者や国民一般に対しても,国及び各教育委員会,各学校において,「総合的な学習の時間」や「個に応じた指導」の取組等も含め,新学習指導要領のねらいが正確に理解されるよう分かりやすく周知を図っていくことが必要である。
 一方,国は,今後とも新学習指導要領のねらい,実施状況等について,校長や教員がどのように受け止め,保護者や国民一般がこれについてどう考えているか等について,広く耳を傾ける必要がある。これを踏まえて,新学習指導要領の不断の検証,必要に応じた見直しを図っていく必要があることは言うまでもない。

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