(1)導入の基本的な考え方

 近年、学校教育をめぐる状況は大きく変化しており、教員免許状の取得後も、教員に必要とされる資質能力は常に変化している。教員として必要な資質能力の確実な保持を図るためには、教員免許状の在り方を根本的に見直すことが必要である。
 教員免許状に一定の有効期限を付し、有効期限の到来時に合わせて、その時々で求められる教員として必要な資質能力が確実に保持されるよう、必要な刷新(リニューアル)を行うことが必要であり、このための具体的方策として、教員免許更新制を導入することが必要である。
 平成14年の本審議会の答申で指摘した課題等を踏まえ、どのような制度が現在必要とされており、また制度としても導入可能であるのかという観点から、更新制の在り方を検討した結果、今回、「その時々で求められる教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に必要な刷新(リニューアル)を図るための制度」として、導入することが適当ではないかとの結論に至った。

1.導入の必要性及び意義

 教員免許状が、教職生活の全体を通じて、教員として必要な資質能力を確実に保証するものとなるためには、免許状の授与の段階だけでなく、取得後も、その時々で求められる教員として必要な資質能力が保持されるようにすることが必要である。
 教員は、子どもが一生を幸福に、かつ有意義に生きることができる基礎を培うことを職務の本質としており、子どもの側が教員を選ぶことができない中で、一生を左右しかねない重要な役割を担っている。このため、教員には、常に研究と修養に努めることが求められているが、特に近年、学校における教育内容の基準である学習指導要領の不断の見直しが行われており、教員には、新しい学習指導要領に対応した資質能力を身に付けることが不可避的に求められている。また、例えば、子どもの学ぶ意欲や学力・体力・気力の低下、様々な実体験の減少に伴う社会性やコミュニケーション能力の低下、いじめや不登校等の学校不適応の増加、LD(学習障害)・ADHD(注意欠陥/多動性障害)など子どもに関する新たな課題の発生等、学校教育をめぐる状況は大きく変化しており、教員免許状の取得後も、教員に必要とされる資質能力は常に変化している。

 このような状況に適切に対応して、教員として必要な資質能力の確実な保持を図るためには、個々人の自己研鑽や現職研修に委ねるだけではなく、恒常的に変化する教員に必要な資質能力が常に保持されていることを、免許制度上担保するため、教員免許状の在り方を根本的に見直すことが必要である。
 現在、教員免許状は、臨時免許状を除き、有効期限に制限は無く、一度取得すれば生涯有効とされているが、教員免許状に対する上記のような社会的要請に鑑みれば、今後は、免許状に一定の有効期限を付することとすることが適当である。

 その上で、教員免許状の有効期限の到来時に合わせて、その時々で求められる教員として最小限必要な資質能力が確実に保持されるよう、必要な刷新(リニューアル)とその確認を行うことが必要であり、このための具体的方策として、教員免許更新制(以下「更新制」という。)を導入することが必要である。

 更新制を、上記のような目的の制度として位置付けた場合、導入の意義としては、主に次の点が挙げられる。
即ち、更新制を導入することにより、すべての教員が、社会状況や学校教育が抱える課題、子どもの変化等に対応して、その時々で必要とされる最新の知識・技能等を確実に修得することが可能となる。特に、近年、学校教育をめぐっては、上述のように、これまでの知識・技能だけでは対応できない本質的な変化が、短期間の間に生じてきている。このような激しい変化に対応して、すべての教員が自らの職責を果たしていくためには、教員として必要な資質能力を定期的に刷新(リニューアル)し、その時々で必要とされる資質能力が確実に保持されるよう制度的な措置を講ずることが重要である。
 また、教員免許状は、国・公・私立学校を通じた教員資格であり、現職教員以外にも、多くの免許状保有者がいることを考えると、更新制の導入により、免許状がその時々で求められる教員として必要な資質能力を確実に保証するものとなることは、免許状保有者や教員全体に対する保護者や国民の信頼を確立する上で、大きな意義を有するものと考える。
 なお、現在のように、民間企業経験者等、教員への多様な人材の登用が進んでいる状況においては、現に教職に就いていない免許状保有者も対象とする更新制を導入することは、教員採用者全体の質を維持することにも寄与するものと考える。

 さらに、教員免許状の更新時に、その時々で必要とされる最新の知識・技能等の修得を求めることとした場合、これを契機に、教員の自己研鑽が促進されるなど、教員としての専門性向上への動機付けとなることが期待できる。また、こうした向上意欲に富む教員の増加により、教員同士が互いに学び合ったり、自主的な研究活動が活発化するなど、教員全体としての専門性向上が促進されるなどの効果も期待できる。

2.平成14年の本審議会の答申との関係

 平成14年の本審議会の答申「今後の教員免許制度の在り方について」では、更新制の導入の可能性について、1)教員の適格性確保のための制度としての可能性、2)教員の専門性を向上させる制度としての可能性の2つの視点から検討を行った結果、「なお慎重にならざるを得ない」との結論に至っている。今回は、当時指摘した課題等を踏まえ、どのような制度が現在必要とされており、また制度としても導入が可能であるのかという観点から、更新制の在り方を検討した結果、「その時々で求められる教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に必要な刷新(リニューアル)を図るための制度」として、導入することが適当ではないかとの結論に至った。

 平成14年の答申においては、前述した2つの視点それぞれについて、具体的な課題を指摘したが、これらは大別すれば、1)分限制度との関係、2)専門性向上との関係、3)一般的な任期制を導入していない公務員制度との関係、4)我が国全体の資格制度との関係の4つに分類できる。

  • 1)分限制度との関係については、資格制度としての教員免許状は、あくまでも個人が身に付けた資質能力を公証するものであり、個人の素質や性格等に起因するような適格性が確保されているかどうかについては、基本的に任用制度により対応すべき問題である。したがって、このような意味での適格性に欠ける者については、現在すべての都道府県教育委員会等で進められている指導力不足教員に対する人事管理システムや分限制度等の厳格な運用により、対応することが適当であると考える。
     一方、今回検討する更新制においても、更新時に、その時々で求められる教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に必要な刷新(リニューアル)とその確認が行われることとなる。
  • 2)専門性向上との関係については、基本的に教員の専門性の向上は、現職研修により対応すべき事柄であるが、今回検討する更新制において、定期的に必要な刷新(リニューアル)を図ることとした場合、国・公・私立学校を通じて、その時々で求められる資質能力が確実に保持されることになる。このことは、現職研修を個々の教員の能力や適性等に応じたより効果的なものに改善する上で、大きな意義を有する。また、後述する免許更新講習の受講をきっかけとして、個々の教員の専門性向上への自己研鑽が期待できること等も考慮すると、専門性向上を目的とする現職研修とは異なる施策として、更新制を導入する必要性は高いものと考える。
  • 3)一般的な任期制を導入していない公務員制度との関係については、更新制はその時々で求められる教員として必要な資質能力が保持されるよう、教員免許状に有効期限を設け、その満了時に、一定の更新要件を課し、これを満たせば、免許状が更新される資格制度上の制度である。これに対して、任期制は、あらかじめ一定の任用期間を定めて職員を採用するという任用上の制度であり、業績評価等に応じて、再度任用することはありうるものの、一定の要件を満たせば、再任用されることを前提とした制度ではないことから、基本的に更新制とは趣旨・目的を異にするものである。
  • 4)我が国全体の資格制度との関係については、本来、資格制度の在り方は、当該制度の特性や業務の性質等を踏まえて検討されることが基本であると考える。一度取得した職業上の資格が、事後において一定の要件を満たさない場合に失効となることは、職業選択の自由に関連する問題であり、慎重な検討が必要なことは言うまでもない。しかしながら、上記1で述べたような教員の職務の重要性や特殊性、影響等、さらには、これからの変化の激しい時代の中で、教員に必要な資質能力をいかに確実に保持させていくかということを考えた場合、教員免許状に更新制を導入する必要性は高いものと考える。

 平成14年の答申は、将来的な更新制の導入を否定しているものではなく、科学技術や社会の急速な変化等に伴い、再度検討することもあり得ることを示している。1.1.において述べたとおり、近年の学校教育をめぐる状況は、従来とは大きく変化している。これらの変化の萌芽は、平成14年の答申当時も一部現れていたが、現在、こうした変化が、より明確に、かつ複合的に生じてきており、そのことが学校に対する保護者や国民の信頼を揺るがす主な要因となっている。平成17年10月の本審議会の答申「新しい時代の義務教育を創造する」においても、これからの学校は保護者や地域住民の意向を十分反映する信頼される学校でなければならず、「教師に対する揺るぎない信頼を確立する」ことが極めて重要であることを指摘している。このような状況を考慮しつつ、これからの社会の進展や国民が求める学校像を展望すると、教員の資質能力を確実に保証するための方策を講ずる必要性は、平成14年の答申時に比べて、格段に高まっているものと考える。

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