第4章 確固とした教育条件を整備する-教育の質の向上、財源確保の確実性・予見可能性、地方の自由度の拡大-

(1)教育条件整備に関する共通理解

  • 義務教育を支える教育条件の整備に関しては、以下の2点を大きな前提として具体的な在り方を考えていく必要がある。
    1. 義務教育は、国全体を通じての最重要事項であること
      ・義務教育は国全体を通じての最重要事項であり、その質の向上のため、国と地方が協力して、教職員配置、設備・教材、学校の施設など教育を支える条件整備を確固たるものとする必要がある。
    2. 義務教育に必要な財源を確実に確保する必要があること
      ・義務教育費は全ての予算において最優先すべき経費であり、教職員給与費をはじめとする必要な教育費は、確実に確保される必要がある。
  • また、義務教育の質の向上のためには、学校の施設、設備・教材、教職員配置等の条件整備が十分充実していることが肝要であり、特に、義務教育への投資の在り方について、多くの委員から以下の意見が出された。
    • OECDの調査によれば、1995年から2001年の6年間における公財政による教育費支出の変化を国際的に比較すると、多くの国が教育費支出を伸ばしている中で、我が国の公財政支出は微増にとどまっている状況にある。
    • また、初等中等教育について、OECD平均(2001年)では対GDP比3.5パーセントが公財政支出に充てられているのに対して、我が国は2.7パーセントにとどまっている。
    • 今後とも我が国が教育立国としての地位を確保し続けるために、また、保護者の経済的格差が子どもたちの教育環境の格差につながらないようにするために、公財政支出を一層拡充する必要があると考える。
    • また、教育に対する公財政支出の拡充のためには、公債発行対象経費である投資的経費に比べて、消費的経費が大半を占める教育支出が増えにくい財政制度や公財政支出構造の仕組みを見直すことが必要である。
    • なお、公財政支出の拡充について、国民の理解を得るためには、教育の成果についての評価を行うことや、必要な効率化を図ることも併せて検討する必要がある。
  • さらに、教育条件の整備に関連しては、以下も重要である。
    • 教育の分権改革を推進するため、教育内容、学級編制、人事、予算の執行等について、できる限り市区町村や学校の裁量を拡大する必要がある。
    • 地方・学校現場の裁量に委ねつつ、教職員配置の改善を通じて、少人数教育を一層推進する必要がある。
    • 教職員給与費は、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」(義務標準法)に基づいて算出される人数に対応して、所要額が確保される必要がある。
    • 学校の教材、図書等の整備や、司書の配置など、子どもたちの教育環境を充実させる必要がある。
    • 条件整備の状況を把握するための学校の評価制度の導入を検討する必要がある。評価の具体的な実施方法については、学校の序列化などの弊害を生じさせないよう十分な配慮が必要である。
  • なお、費用負担の在り方を検討する際には、義務教育の経費の7割以上を占める教職員人件費(給料・諸手当に、退職手当、共済費などを加えたもの)の将来の動向を踏まえるべきであるとの観点から一定の前提条件の下に推計を行った。
     これによると、平成16年度の公立義務教育諸学校の教職員人件費は5兆8,900億円と見込まれるが、今後、教職員の定期昇給や退職手当、共済費の負担の増大等のため、教職員配置基準を現状のまま改善しない場合でも、平成18年度には6兆円を超え、平成26年度には6兆3,200億円とピークを迎えることが推測される(平成30年度には6兆2,000億円)。これに公立高等学校の分を加えると、教職員人件費の合計は、平成16年度の8兆2,400億円が、平成28年度には8兆8,600億円(平成16年度比6,200億円増)でピークを迎え、平成30年度においても8兆8,400億円となる。平成16年度から平成30年度までの負担増の累積は6兆4,300億円に達することが推測される。

(2)義務教育費国庫負担制度の在り方

ア 義務教育費国庫負担制度の概要とこれまでの経緯

  • 現在、全国的な義務教育水準の維持向上と教育の機会均等を保障するため、公立義務教育諸学校の基幹的職員の給料・諸手当に係る経費については都道府県が負担することとされており(以下、これらの教職員を「県費負担教職員」という。)、国は都道府県が負担する経費の二分の一を負担する義務を負うという「義務教育費国庫負担制度」が設けられている。
     この国庫負担制度を規定する「義務教育費国庫負担法」は、「学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法」(人材確保法)及び義務標準法と相まって、義務教育の水準確保の機能を果たすとともに、国による義務教育費の最低保障の基礎をなしてきた。
  • 教職員の確保と適正配置という目的を達成するため、義務教育費国庫負担制度においては、昭和15年の制度創設以来、義務教育の経費の大半を占める教職員給料と諸手当を一貫して負担対象としている(終戦後の昭和25~27年度にシャウプ勧告により一時的に廃止されたが、全国知事会からの要請もあり昭和28年度に復活)。
     その間、国と地方の役割分担、国と地方の財政状況等を踏まえて、国庫負担の対象の見直しが行われてきた。昭和18年度に旅費が、昭和23年度に退職手当が、昭和28年度に教材費が、昭和31年度に恩給費が、昭和37年度に共済費が、それぞれ国庫負担の対象として追加されている。その後、昭和60年度の旅費及び教材費の一般財源化、平成元年度の恩給費の一般財源化等を経て、最近では平成15年度の共済費長期給付等の一般財源化(平成16年度に所得譲与税による財源措置)、平成16年度の退職手当等の一般財源化と税源移譲予定特例交付金による財源措置が講じられた。平成17年度には、その年度限りの暫定措置として4,250億円の減額が行われ、減額相当分が税源移譲予定特例交付金で措置されている。
  • 平成16年度には、人件費のうち中核をなす給料と諸手当については、その二分の一負担を根幹としつつ、国が総額を確保した上で地方の裁量を拡大する「総額裁量制」が導入されている。
     平成13年度から学級編制の弾力的運用が可能になったことにより、平成15年度には30道府県で少人数学級が実施されていたが、総額裁量制の導入等により、その傾向がさらに進み、平成16年度には42の道府県に、平成17年度には45の道府県に広がっている。

イ 地方案を活かす方策と義務教育の在り方

  • 地方六団体「国庫補助負担金等に関する改革案」(平成16年8月)においては、義務教育費国庫負担金に関し、「第2期改革(平成19~21年度)までにその全額を廃止し税源移譲の対象とすることとした上で、第1期改革(平成16~18年度)においては、中学校教職員の給与等に係る負担金を移譲対象補助金とする」とされている。
     さらに、「併せて実施・検討すべき」事項として以下をあげている。
    • 国は、義務教育における地方公共団体との適切な役割分担を踏まえ、その責務を法律上明記するとともに、都道府県間において教育費の水準に著しい格差が生ずることのないよう法令に明記するなどの措置についても考慮すべきであること
    • 地域の実態に即した義務教育の推進のため、運営全般について、小中学校の設置者である市区町村の意向を十分に尊重するとともに、市区町村の義務教育に関する権限と役割の拡大を推進すること
    • 義務教育等に対する財源確保のため、企業から寄せられる教育・文化等に係る寄付金について、非課税措置を拡大すること
  • なお、地方六団体案には、義務教育費国庫負担金の一般財源化への反対意見又は慎重論に関する13都県の知事の意見が掲載されている。
  • 平成16年11月の政府・与党の合意に基づき、中央教育審議会では、義務教育制度の根幹を維持し、国の責任を引き続き堅持する方針の下、費用負担についての地方案を活かす方策を検討するとともに、教育水準の維持向上を含む義務教育の在り方について幅広く検討することとされている。そして、平成17年秋の中央教育審議会の答申を得て、平成18年度において恒久措置を講ずることとされている。
  • こうした経緯を受けて、本審議会において、地方六団体委員から義務教育費国庫負担金に関して以下のような説明がなされた。
    • 地方六団体は、平成18年度までの三位一体の改革として概ね3兆円規模の国庫補助負担金改革の具体案を取りまとめるように政府から要請され、平成16年8月24日に内閣総理大臣に「国庫補助負担金等に関する改革案」を提出している。
    • 義務教育費国庫負担金の全額一般財源化により、地方が自主的・自立的な教育を実施することを提案する。その際、平成18年度までの第1期改革においては中学校教職員の給与等に係る負担金を一般財源化する。
    • 地方案の提案の背景の一つは、平成5年の衆・参両議院における「地方分権推進に関する決議」を契機にして、地方分権が時代の大きな流れとなり、平成12年の地方分権一括法の施行により、義務教育に関する事務についても自治事務になったことがあげられる。
    • また、昭和60年以降、文部科学省も、義務教育財源の一般財源化を推進している。国の一方的な都合により、なし崩し的に、しかも必ずしも税源移譲を伴わない形での一般財源化(税源移譲のない地方交付税の振替)よりも、税源移譲で義務教育財源を確保する方が確実である。
    • 政府・与党合意に沿って、地方案を活かす方策を検討するべきであり、地方自治、住民自治を尊重し、地方を信頼する、財政力格差については地方交付税で対応するということを前提にした上で、義務教育費国庫負担金を税源移譲した場合に、どのような問題があるか、仮にあるとすれば、それをどう解決するのか、そういう方向で議論する必要がある。
  • 義務教育に関する事務が自治事務になったことについては、以下の観点から、自治事務の在り方と費用負担は直接関係しないことに留意する必要がある。
    • 地方分権一括法が地方分権の推進に果たした役割は評価されるべきであるが、公立小・中学校の設置管理は、戦後一貫して市区町村の事務であり、地方分権一括法の前後で、市区町村の事務ということが変わったわけではない。
    • 「自治事務」とは、「法定受託事務」を除く様々な性格を有する事務の総称であり、地方公共団体がどのような裁量をもつか、その処理に国がどの程度関与するか、国と地方の経費負担の在り方をどうするかは、それぞれの事務の性格によって判断されるものであることなどから、「自治事務」であることと、その費用を誰が負担するかは直接には関係しない。
    • 平成10年5月に閣議決定された地方分権推進計画において、地方公共団体の担う事務に要する経費については、その地方公共団体が全額負担することが原則とされている。一方、同計画においては、真に国が義務的に負担を負うべきと考えられる分野として義務教育があげられている。
  • なお、平成17年度には1,044市区町村(全国の市区町村の47パーセント)の議会から義務教育費国庫負担制度の堅持を求める意見書が提出されている(10月25日現在)。これは平成16年度から通算すると全国の市区町村の65パーセントに達する。
  • 地方の意見に関して、三位一体の改革により地方が真に税源移譲を求めているのは、配分に当たって国の裁量が大きく地方の主体性を阻害しているもの、国の補助基準に合わせるために無駄な事業を招いているもの、国に陳情をして配分を求める必要があるものなどであって、教職員給与費のための義務的経費である義務教育費国庫負担金のようなものではないとの意見が出された。
  • 政府・与党合意は、義務教育制度に関して、その根幹の維持と、国の責任の堅持を大きな前提としており、中央教育審議会も、このことを審議の全体を通じて優先すべき理念と位置づけている。
     さらに、政府・与党合意は、費用負担についての地方案を活かす方策と、教育水準の維持向上を含む義務教育の在り方の検討を中央教育審議会に求めている。これらの検討は、「義務教育制度の根幹の維持と国の責任の堅持」という優先すべき理念の中で行われる必要があり、中央教育審議会では、その前提で義務教育費国庫負担制度に関する検討を行った。
     義務教育費国庫負担制度の検討に当たっては、大きく3つの観点に着目した。

ウ 義務教育費国庫負担制度の検討に関する3つの観点からの議論の概要

【観点1:教育の質の向上】

  • 義務教育の根幹である無償制、機会均等、水準の維持向上を具体的に保障するには、地方が学校を設置管理し、国が学習指導要領により全国的な教育水準を明らかにした上で、その水準を維持・向上するための資質・能力を備えた教職員を確保することが必要である。
     多くの委員から、義務教育費国庫負担制度は、こうした教職員を確保するための最も確実な財源保障制度であり、我が国の質の高い義務教育を支える前提となっているとの意見が出された。
  • 地方六団体委員からは、義務教育費国庫負担金の一般財源化による教育上の効果として、1.公立小・中学校が地方の税によって運営されることになると、住民は自分の納めた税の使途である学校をより厳しい目で見ることとなる、2.児童生徒・保護者だけでなく、地域全体への責任を実感することにより、教職員の自覚が高まり、ひいては教師の質の向上にもつながる、との意見が出された。
     また、地方六団体委員から、国庫負担制度と義務教育の根幹を維持するということは関係ない、現在、義務教育費において国が負担している割合が3割にも満たず、これを税源移譲して一般財源化してもなんら影響はない、国庫負担金制度を廃止しても、税源移譲と地方交付税により確実に財源を確保できるのであるから、義務教育の根幹は維持される、との意見が出された。
  • この議論に関しては、住民が学校を厳しい目でみるかどうか、あるいは教職員の自覚が高まるかどうかといった議論は、学校の組織運営の見直しや、教師の質の向上によって可能になるものであり、義務教育費国庫負担金の一般財源化により生じるものではない、例えば、義務教育費について地方が負担している割合が7割を超えている現在でも、住民意識が高いと言えないのであれば、残り3割弱を一般財源化して住民意識が高まることになるのか、むしろ、住民は国庫負担事業かどうかに関わらず学校に厳しい目を向けているのではないか、住民税のフラット税率化により住民の学校を見る目が高まるということの必然性が明らかでなく、むしろ、地方で教育目的税を導入した方が、自らの税で学校が運営されているということがわかりやすくなるのではないかとの意見が出された。
  • 地方六団体委員からは、義務教育費国庫負担金の一般財源化による教育上の効果として、以下のような意見が述べられた。
    • 地域住民の間では学校まかせという意識が低くなり、地域ぐるみで教育を支えようという意識が高まり、開かれた学校、開かれた教育が実践されることになる。
    • 家庭、地域、学校が、それぞれの立場を尊重しながら、連携を深めていくこと、また、地域の資源や伝統行事などを教育活動の場としたり、地域の人材を実技指導員等として学習活動に参画させることにより、総合的な教育が展開できる。
  • これに関して、以下のような意見が述べられた。
    • 現時点でも、地域と密接に連携した活動を行っている学校は多く、義務教育費国庫負担制度が、地方が目指している教育上の効果の実現に対する妨げになっているということはない。
    • 例えば、多くの地域で取り組まれている少人数指導やティーム・ティーチングなどのきめ細かい指導方法は、現行制度でも行われており、一般財源化の教育上の効果として新たに生じるものではない。
    • 地方六団体からは、義務教育費国庫負担金の一般財源化による教育上のメリットや、地方における教育のあるべき姿について、財源とそれ以外の問題を整理した上で、説得力のある説明がなされていない。

【観点2:財源確保の確実性・予見可能性】

  • 義務教育費国庫負担制度は、義務教育費国庫負担法により、都道府県が教職員給与費として実際に支出した額の二分の一を国が負担することを義務づけているものである。また、地方財政法第10条は、教職員人件費を、国と地方の相互の利害に関係があり、国が進んで経費を負担するものとして位置づけている。
     このことから、多くの委員から、義務教育費国庫負担金は、国の責任で必ず予算措置されるものであり、一般財源化するよりも、財源確保の確実性・予見可能性が高いとの意見が出された。
  • 地方六団体委員からは、以下の意見が出された。
    • 義務教育費国庫負担金については、その100パーセントが税源移譲され、地方財政全体で財源不足は生じない、地方公共団体によっては、国庫負担金に見合う税収が税源移譲では確保されないところもあるので、そうした団体に対しては、地方交付税により適切な財源調整がなされる。このことは総務省の説明にもあったとおりである。
    • 内閣総理大臣も、平成17年2月22日の衆議院本会議における質疑の中で、「三位一体の改革においては補助金を廃止して税源移譲を行う場合であっても、個人住民税の税率をフラット化することなどにより税源分布の偏りを緩和するとともに、地方交付税の財政調整機能によって地域間の財政力格差に対応する考えであります」「地方交付税の財源保障機能については、その全般を見直し、縮小する一方、地域間の財政力格差を調整し、一定水準の行政を確保する機能は今後とも必要としております」と答弁している。
    • 国庫負担法があっても、昭和60年度以降負担率の引下げなどで義務教育費国庫負担金はカットされてきている。
    • 今後、教職員人件費が推計通り増大するとしてもピーク時においても7パーセント程度の伸びでしかなく、かつ、地方財政計画全体の規模の中で0.7パーセント程度を占めるに過ぎないことから、十分吸収可能である。また、現実には、退職者が生じても、そのすべてを新規採用でまかなうことはせずに、退職者の再任用や嘱託の制度を活用することで人件費を抑制するので、将来推計のような人件費の増加は生じない。
    • 義務教育費国庫負担金の一般財源化は、地方交付税ではなく税源移譲によって行われ、国庫負担金と同額が税源移譲されること、各都道府県ごとの国庫負担金の減少額と税源移譲額との過不足は地方交付税により調整されること、したがって地方交付税総額を変える必要がないことから、地方交付税総額に関する将来の不安は義務教育費国庫負担金の一般財源化とは関係がない。
  • この議論に関しては、以下の意見が出された。
    • 「三位一体の改革」は、1国庫補助負担金、2税源移譲を含む税源配分、3地方交付税の在り方を一体的に見直すことである。国から地方への税源移譲を基本とすると同時に各地方公共団体の税源移譲の不足分を地方交付税で補うことを前提としている。しかしながら、その地方交付税の総額は、将来的に抑制される方向であり、今後、教職員人件費の増額が見込まれる中で、教育費が確保されるか懸念がある。
    • 義務教育費国庫負担制度について「カットされてきている」と言うが、制度創設以来、教職員を必要数確保するために必要な財源のうちその大半を占める給料・諸手当については、国が一貫して負担してきている。
    • 義務教育費国庫負担金が一般財源化されれば、これまで現金で地方に届いていたお金が地方税と交付税と地方債でまかなわれることになるが、基準財政需要額に占める地方債の元利償還費の割合が増加している。平成16年度には地方交付税と臨時財政対策債をあわせた金額が2兆8,600億円、対前年度比で12パーセントも減少しており、今後もそうしたことが生じない保障がない。地方交付税が「瀕死の重傷」であるとの意見もある。
    • 基準財政需要額は、実際の支出と乖離があり、必ずしも実際の地方における支出を反映していないので、基準財政需要額に算入することでは財源保障にはならない。
    • 教職員の給与費については、国庫負担金が100パーセント税源移譲されたとしても、他の国庫補助負担金の中には全額税源移譲されないものもあるため、全体のやりくりの中で、教育費の削減が生じかねない。
    • 義務教育費国庫負担金を一般財源化すると財政力の弱い県ほど地方交付税依存度が高まり、将来、地方交付税が削減された場合の打撃が大きくなる。
    • 現在計画中の中期財政ビジョンでは、地方財政の総額が将来的に減少する見込みであり、その状況で、今後増大が見込まれる教職員人件費の増額が保障される担保はない。
    • むしろ、義務教育費については、全額国庫で負担することがもっとも確実な財源保障制度である。

【観点3:地方の自由度の拡大】

  • 多くの委員からは、1.義務教育費国庫負担制度は、教育の機会均等とその水準の維持向上を図ることを目的とするものであり、地方における教育活動に関して制約を課すものではない、2.義務教育費国庫負担制度の運用については、総額裁量制の導入によりかなり柔軟なものになっている、3.地方六団体が目指している地方における教育の裁量の拡大は、現行の負担金制度の下でも実現されているとの意見が出された。
  • 地方六団体委員からは、1義務教育費国庫負担金を一般財源化することにより、国の予算に頼ることなく、独自の教育競争をやっていこうという意識改革の観点から三位一体の改革を進めようとしている、2地方公共団体によっては、国庫負担金に見合う税収が税源移譲では確保されないところもあるので、そうした団体に対しては、地方交付税により適切な財源調整がなされる、3一般財源化により、地方では、義務標準法などの国の基準を満たしつつ、当事者意識を持って、地域の教育環境や児童生徒の実情に応じた学校配置や弾力的な学級編制、教職員配置が可能となるとの意見があった。
     また、一般財源化により地方の裁量が拡大する例として、1教職員の配置や学級編制に関して国の基準を満たした上で、多種多様な取組が促進される、2教職員給与に限らず、教育効果の高い外部人材の活用や外部委託、教材の購入・開発、教育関係施設の整備等のさまざまな取組に財政資源を効果的に配分できるとの意見があった。
  • この議論に関しては、1国庫負担は、都道府県の実支出額の二分の一を国が後払いするものであり、都道府県の予算編成の自由を奪っているかのような主張はあたらない、2教育行政で、学校やその設置者である市区町村が拘束性を感じているとすれば、それは教育内容や教職員配置等の他の法令によるものであり、国庫負担金とは関係のないものである、3一般財源化で拡大する自由として具体的にあり得るのは、地方において教育費を“減らす自由”だけである。しかしながら、義務的経費である教職員給与費の一般財源化で自由度は拡大せず、結局、地方六団体の主張する教育行政の在り方には具体性がないものと解さざるを得ない、との意見が出された。

エ 地方案を活かす方策の検討

  • 以上、3つの観点に関する検討を通じて、義務教育の主たる経費である教職員の給与を保障する方法として、1全額を国庫負担する制度、2現行の国庫負担制度のように国と地方が負担割合を法定し、それにより給与費の全額が保障される制度、3全額一般財源化により、地方が全額を負担する制度、などが考えられる。
  • 義務教育の機会均等と水準の維持向上を図ることは国の存立に関わるもっとも重要な基本政策である。義務教育の成果は、一地方にとどまらず、国全体に関わるものであり、義務教育の経費はこの観点から考えられなければならない。また、教育の質の向上のためには、教職員が安心して職務に従事できる基盤の保障と強化が重要である。
  • このような観点からは、本来は、義務教育費の全額保障のために、必要な経費の全額を国庫負担とすることが望ましいと言える。
  • 義務教育の構造改革を推進すると同時に、義務教育制度の根幹を維持し、国の責任を引き続き堅持するためには、国と地方の負担により義務教育の教職員給与費の全額が保障されるという意味で、現行の負担率二分の一の国庫負担制度は、教職員給与費の優れた保障方法であり、今後も維持されるべきである。
     その上で、地方の裁量を拡大するための総額裁量制の一層の改善を求めたい。例えば、国庫負担における対象職種の拡大や、小中盲聾学校と養護学校の二本立てとなっている現行の国庫負担制度を一本化し、教職員配置の弾力化を図ることなどが考えられる。
  • 中学校に係る国庫負担金を対象から外すという考え方については、同じ義務教育である小学校と中学校の教職員の取扱いを分けることになり、合理性がなく、適当ではない。
  • 教材購入費や図書購入費など教育環境整備に不可欠な経費は、現在、地方の一般財源により措置されており、その措置実績が国の基準を下回っている、あるいは地域ごとに格差が生じている状況にある。今後、国と地方の協力により、その総額が確実に確保されるよう努める必要がある。
  • 地方六団体が目指す教育の実現についての提案は、本答申を貫く一つの理念として十分尊重されている。学校や市区町村が、特色ある教育活動、柔軟な学級編制などを行い、それぞれの地域の伝統や独自の文化を生かし、個性ある多様な人材を育てることが重要である。それは、学校とその設置者である市区町村の裁量権限と自由度の拡大を進めることにより実現されるものであり、義務教育費国庫負担金や公立学校施設整備費負担金等を通じ国がその財源を担保することが重要であると考える。

(3)公立学校施設整備費負担金・補助金の在り方

  • 平成16年11月の政府・与党合意「三位一体の改革について」において「公立文教施設費の取り扱いについては、義務教育のあり方等について平成17年秋までに結論を出す中央教育審議会の審議結果を踏まえ、決定する」とされており、公立学校施設整備費の扱いについても審議を行った。

ア 公立学校施設整備費負担金・補助金

  • 公立学校施設の整備は、設置者である地方自治体が行っているが、教育の機会均等を担保し、全国的な教育水準の維持向上を図る観点から、国は、地方自治体に小・中学校等の設置義務を課すとともに、義務教育諸学校施設費国庫負担法及び地方財政法第10条等に基づき、新増改築について所要経費の一定割合を進んで負担しなければならず、加えて、耐震補強等について所要の補助を行っている。
  • 地方六団体委員からは、以下の理由により、公立学校施設整備費負担金・補助金を廃止し、一般財源化するべきであるとの意見が出された。
    • 公立学校施設整備費負担金・補助金の額は、当初予算ベースで年々減額されており、負担金・補助金があるからといって、安定的に必要額が確保され、施設整備が進んでいるという状況にはなっていない。
    • 義務教育は自治事務ということであり、公立学校施設の整備については、当該地域の児童・生徒数や配置の現状、将来の見込み、教育の方針等を踏まえつつ、各地域が自主的、計画的に整備していくものである。全国的に経常的に行われる公立学校施設の整備については、より幅広い地域のニーズに応えるため、税源移譲を行い、地方自治体が自らの判断で計画的に整備できるようにする必要がある。
    • その際の財源措置として、地方に確実に税源移譲をするとともに、個別の地方自治体に対しては、地方債と地方交付税により万全の措置を講じる必要がある。
    • 施設整備費が建設国債を財源としていることは税源移譲の障害とはならない。
    • 負担金・補助金の現状について、金額算定の基礎となる建築単価が現実と乖離していることや、対象となる施設部分が限定されていることから、多くの地方自治体では、制度上の補助率を大きく切り込んだ補助金しか受け取ることができず、地方の超過負担が大きい、国による事業採択時期が地方自治体の事業計画と合わない、全国で画一的な補助基準であるため住民のニーズに十分応えられない、補助申請に係る手続きが煩雑である、などの問題がある。
  • これに関しては、
    1. 義務教育における機会均等を実質的に担保するためには、公立学校施設が確実に整備されることが重要であるが、法律上一定の財源措置が担保されている負担金等について一般財源化すれば、公立学校施設の整備に優先的に使われる担保がない、
    2. 公立小・中学校施設の耐震化率などにみられるような地方自治体間の格差については、国の責務として是正する必要がある、
    3. 税源移譲のほか、一般財源化した場合の財源の一つとして考えられている地方交付税については、その総額は将来的に抑制傾向にあり、例えば公立高等学校の改築事業の償還財源に充てられていた事業費補正に係る地方交付税措置が平成17年度以降廃止されたことにみられるように、地方交付税措置による財源確保は安定的とはいえない、
    4. 地方交付税とともに、一般財源化した場合の財源の一つとして考えられている起債については、長期にわたって償還が続くことになることから、長期間にわたる償還や金利の上昇が、将来的に地方財政を圧迫することが予想される、
    5. 補助対象の限定や煩雑な補助手続き等の課題は、制度の改善によって解決すべきである、
    などの理由から、国が公立学校施設の整備に目的を特定した財源を保障することが適当である。
  • なお、公立学校施設整備費負担金・補助金においても、地方の自由度を拡大し、公立学校施設を整備するインセンティブを高める観点から、義務教育費国庫負担制度における総額裁量制のように地方の裁量を拡大するための改革を行うべきである。

イ 学校施設の耐震化

  • 公立学校施設は、重要な教育基盤であり、子どもの生命の安全に直結するとともに、地域住民の応急避難場所ともなるものであるが、公立小・中学校施設で耐震性が確認されている建物は半数程度にすぎず、その耐震性の確保を図ることが喫緊の課題となっている。
  • 地方六団体委員からは、耐震化について、以下の理由により、一般財源化すれば地方自治体の判断による計画的な施設整備が進むはずであるとの意見が出された。
    • 公立学校施設整備費負担金・補助金の予算額が足りないため、補助金待ちが生じている。
    • 現在、施設整備に対する負担・補助制度のない公立高等学校と、負担・補助制度のある公立小・中学校を比較した場合、耐震診断実施率と耐震化率は、ともに高等学校が上回っている。
  • これに関しては、
    1. 耐震化が進まないのは補助金待ちというよりむしろ、地方財政の硬直化により、地方自治体の自主財源が教育関係に回っていない実態があるためであり、目的が特定されている財源がなくなれば、従来以上に財源の確保が困難になる、
    2. 都道府県と市区町村の間に大きな財政力格差があるのに、市区町村が設置する公立小・中学校と都道府県が設置する公立高等学校の耐震診断実施率、耐震化率を比較してもほとんど変わらず、その耐震化の進捗状況に大差がないが、これは公立小・中学校施設への負担・補助制度によるところが大きい、
    などの理由から、一般財源化により耐震化が急速に進捗することにはならず、公立学校施設の整備に目的を特定した財源を国として保障し、その耐震化は国が責任を持って推進することが適当である。
  • なお、膨大な公立学校施設の早急な耐震化を図るためには、改築(全面建て替え)からコストの安い改修への転換など、より効率的な整備手法に重点を移すとともに、国が耐震化のための整備方針を示した上で、期間を定めて重点的・計画的な整備を進めることが必要であり、国としてもそのための十分な財源を確保すべきである。

(4)教科書無償給与制度の在り方

  • 義務教育の教科書については、憲法第26条に掲げる義務教育無償の精神をより広く実現するものとして、我が国の将来を担う児童生徒に対し、国民全体の期待をこめて、国民の負担によって無償給与されている。
     この制度に対しては、これまでも財政制度等審議会から貸与制の導入を含め有償化の実現に向けた検討を進めるべきなどとする指摘がなされてきている。
  • 教科書については、一部の教科を貸与とすることについて議論の余地があるが、予習・復習など家庭学習においても使用し、教師の指導上、様々な創意工夫を可能とすることから貸与ではなく自分自身の教科書を所有することが求められ、保護者に新たな負担を課すことなく、家庭の経済力に係わらず無償給与される必要がある。
  • 義務教育教科書の無償給与制度については、教科書の質の向上を図りながらコストを下げる努力をしつつ、義務教育無償の精神から今後とも国による義務教育に係る費用負担の重要な施策として必要である。

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