第1章 教育の目標を明確にして結果を検証し質を保証する-義務教育の使命の明確化及び教育内容の改善-

(1)義務教育の使命の明確化

ア 義務教育の目標の明確化

  • 義務教育については、憲法第26条において、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」こと、また、「その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ」ことが規定されており、具体的には、学校教育法において、保護者にその子女を満6歳から9年間、小学校、中学校等に就学させる義務が課されており、市区町村には小・中学校を設置する義務が課されている。
  • 義務教育の目的は、一人一人の国民の人格形成と、国家・社会の形成者の育成の二点に集約することができ、この両者の調和のとれた教育を実現することが必要である。
     このため、学校では、子どもたちに「確かな学力」として基礎的な知識・技能と思考力、創造力などを育むとともに、「豊かな心」、「健やかな体」を培い、これらをバランスよく育成することが求められる。
     このような義務教育の内容・水準は、ナショナル・スタンダードとして、全国的に一定基準以上のものを定め、その実現が保障されることが必要である。
  • 国際的に質の高い教育の実現のためには、義務教育の目的に照らし、今日のグローバル社会、生涯学習社会において、義務教育段階の学校教育で具体的にどのような資質能力を育成することが求められるのかを明らかにすること、すなわち、義務教育の到達目標を明確化することが必要である。
     このため、義務教育9年間を見通した目標の明確化を図り、明らかにする必要がある。その内容としては、一人一人の子どもたちの個性や能力を伸ばし、生涯にわたってたくましく生きていく基礎を培うととともに、国家・社会の形成者として必要な資質能力を養うということを基本に据え、今後、教育基本法の改正の動向にも留意しながら、更に検討を進める必要がある。
  • 国は、このような義務教育の目標が確実に実現されるよう、義務教育への十分な投資を行い、教育条件の整備に万全を期すとともに、示した目標が実現されているかどうかについて評価し、それを踏まえ、義務教育の質の保証と更なる向上に取り組んでいく必要がある。
     教育条件に関しては、義務教育の目標を実現する上で最も基本的な要素、すなわち、教育を直接担う教職員、子どもたちが学ぶ場である学校施設、主たる教材である教科書については、特に確実な条件整備が図られる必要がある。
     また、義務教育の目標の実現状況の評価・検証について、今後、国として力を注いでいく必要がある。学力だけではなく、体力や道徳性の育成なども含め、地域性や教師の指導方法などとの関係を含めて結果を検証し、それを学校の指導や国の施策の改善に生かし、義務教育の質の保証・向上を図っていくことが必要である。

イ 学校の役割の重要性の再認識

  • 学校は、子どもたちが集団生活をする中で、義務教育の目標が実現されるよう、発達段階に応じて、教育内容を体系的に編成して提供し、組織的、計画的な教育を行うことを、その基本的な役割としている。また、学校がその役割を果たす上で、家庭や地域との連携・協力が大変重要である。
  • 特に、平成8年7月の中央教育審議会答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について(第一次答申)」以来、学校の役割を巡っては、学校、家庭、地域の連携、とりわけ家庭、地域の教育力の充実が必要であるとの基本的な方向がとられ、それに沿って、学校週5日制が導入され、子どもの居場所づくりなどの施策が推進されている。
    学力の向上をはじめ子どもたちの健全な育成のためには、睡眠時間の確保、食生活の改善、家族のふれあいの時間の確保など、生活習慣の改善が不可欠である。子どもの育成の第一義的責任は家庭にあり、教育における保護者の責任を明確化することが必要である。
  • また、学校外の多様な学習活動について、情報提供や支援を行い振興を図っていくことも有効である。
  • さらに、大人が家庭や地域で子どもの教育に十分役割を果たせるようにするためには、大人の働き方の問題がかかわっており、企業の協力も必要である。男女共同参画社会において、職業を持つ母親が増えており、子育てと職業が両立できるようにするための行政や企業の取組、父親の子育てへの参画のための環境作りも求められる。
  • 他方、今日、朝食をとっていない子どもの問題など、家庭や地域の教育力が依然として不十分な現状、あるいは今後更にそれらの教育力が低下する懸念、格差拡大の懸念などを背景として、学校と家庭、地域との役割分担の在り方が改めて議論されている。
     本審議会でも、家庭や地域の教育力を取り戻すことは難しく、学校への期待は大きいとの意見、一方で、本来家庭や地域が果たすべき機能を学校に持ち込むのではなく、家庭や地域がその責任を果たすことが必要であるとの意見、家庭の教育力が低下しているからといって学校の役割を拡大しても、子どもの心の満足は得られず、家庭の教育力は学校で代替できる性質のものではないとの意見などが出された。学校週5日制についても、両方の立場から様々な意見が出された。
     このほか、家庭の支援のための福祉行政との連携の必要性、ゲーム・テレビの影響などマスメディアを含め大人社会の在り方の問題なども意見として出された。また、学校と、家庭・地域とが共同し、両方が教育力を高めるべきとの意見も出された。
  • これらも踏まえると、学校週5日制についても、学校、家庭、地域の三者が互いに連携し、適切に役割を分担し合うという基本的な考え方は今後も重要であり、それを基本にしつつ、地方や学校の創意工夫を生かすことについて、今後さらに検討する必要がある。その際、特に、学校、家庭、地域の協力・共同の取組をこれまで以上に強化するための方策、土曜日や長期休業日の有効な活用方策等を更に検討する必要がある。
  • 工業化社会から知識基盤社会へと大きく変化する21世紀においては、単に学校で知識・技能を習得するだけではなく、知識・技能を活かして社会で生きて働く力、生涯にわたって学び続ける力を育成することが重要である。
     そのためにも、21世紀の学校は、保護者や地域住民の教育活動や学校運営への参画等を通じて、社会との広い接点を持つ、開かれた学校、信頼される学校でなければならない。

(2)教育内容の改善

ア 基本的な理念・目標

  • 「ゆとり」の中で「生きる力」をはぐくむことを理念とした現行の学習指導要領については、実施されて3年以上が経過しており、そのねらいは十分達成されたのかを、しっかりと検証していく必要がある。
  • 現行の学習指導要領の学力観について、様々な議論が提起されているが、基礎的な知識・技能の育成(いわゆる習得型の教育)と、自ら学び自ら考える力の育成(いわゆる探究型の教育)とは、対立的あるいは二者択一的にとらえるべきものではなく、この両方を総合的に育成することが必要である。
     これからの社会においては、自ら考え、頭の中で総合化して判断し、表現し、行動できる力を備えた自立した社会人を育成することがますます重要となる。
     したがって、基礎的な知識・技能を徹底して身に付けさせ、それを活用しながら自ら学び自ら考える力などの「確かな学力」を育成し、「生きる力」をはぐくむという基本的な考え方は、今後も引き続き重要である。
  • 他方、子どもたちの学力の現状については、昨年12月に公表された国際的な学力調査の結果から、成績中位層が減り、低位層が増加していることや、読解力、記述式問題に課題があることなど低下傾向が見られたところである。
     また、本年4月に公表された国立教育政策研究所の教育課程実施状況調査の結果からは、国語の記述式の問題について正答率が低下するなどの課題が見られた。
     しかし、同調査からは、学校における基礎的事項を徹底する努力等、学力向上に向けた取組による一定の成果も現われ始めている。一方、学習意欲、学習習慣・生活習慣などは、若干の改善は見られるが、引き続きの課題である。
     このような子どもたちの学力の状況を踏まえると、現行の学習指導要領については、基本的な理念に誤りはないものの、それを実現するための具体的な手立てに関し、課題があると考えられる。
  • 以上のことを踏まえつつ、学習指導要領の見直しに当たっては、
    • 「読み・書き・計算」などの基礎・基本を確実に定着させ、教えて考えさせる教育を基本として、自ら学び自ら考え行動する力を育成すること
    • 将来の職業や生活への見通しを与えるなど、学ぶことや働くこと、生きることの尊さを実感させる教育を充実し、学ぶ意欲を高めること
    • 家庭と連携し、基本的な生活習慣、学習習慣を確立すること
    • 国際社会に生きる日本人としての自覚を育てること
     などを重視する必要がある。

イ 学習指導要領の見直し

  • 前項で述べた基本的な考え方のもとに、以下のような点について、教育内容の改善を図る必要がある。
  • 義務教育の目標を明確化するため、学習指導要領において、各教科の到達目標を明確に示すことが必要である。
     また、学習の評価についても、目標に照らして子どもたちのより確実な修得に資するようにすることなど、具体的な評価の在り方について今後検討が必要である。
  • 学習指導要領は、すべての児童生徒に対して指導すべき内容を示す基準であり、学校においては、必要がある場合には、これに加えて指導することができるものである。国民として共通に学ぶべき学習内容を明確に定めた上で、学校ができるだけ創意工夫を生かして教育課程を編成できるようにすることが求められる。
  • 国語力はすべての教科の基本となるものであり、その充実を図ることが重要である。また、科学技術の土台である理数教育の充実が必要である。このため、全体の見直しの中で、それらの授業時数の在り方について検討する必要がある。また、グローバル社会に対応し、小学校段階における英語教育を充実する必要がある。具体的な実施方法については専門的な検討が必要である。さらに、社会のIT化に対応し、学校の情報環境を整備し、情報リテラシーを高める教育を充実することも重要である。
  • 総合的な学習の時間については、大きな成果を上げている学校がある一方、当初の趣旨・理念が必ずしも十分に達成されていない状況も見られる。
     また、義務教育に関する意識調査の結果によると、総合的な学習の時間については、全体として評価は高いが、小学校と中学校とでは教師、保護者、子どもの意識や評価に差があることが明らかになった。
     思考力、表現力、知的好奇心などを育成する上で総合的な学習の時間の役割は今後とも重要であるが、同時に、授業時数や具体的な在り方については、各教科との関係を明確化するなど改善を図ることが適当である。その際、全国的に一律に定めるのか、学校の裁量による弾力的な取扱いができるようにするのかなどを考慮する必要がある。
     また、学習が効果的に行われるよう、学校に対する支援策を充実することが必要である。さらに、総合的な学習の時間の充実のためには、学校外の人材の協力や地域との連携が重要である。
  • 学校図書館は、子どもたちの読書活動や主体的な学習を支えるために欠くことのできないものであり、その充実を図る必要がある。その際、司書教諭や学校図書館を担当する職員の役割が更に重要になることから、それらの充実を図る必要がある。
  • 指導方法については、従来の一斉指導の方法も重視することに加えて、習熟度別指導や少人数指導、発展的な学習や補充的な学習などの個に応じた指導を積極的かつ適切に実施する必要がある。これらの指導形態における指導方法の確立が望まれる。
  • 教科書、教材の質、量両面での充実も必要である。特に、教科書については、義務教育の質の向上を図る上で主たる教材として重要な役割を果たすものであり、子どもたちが学習内容について十分に理解を深め、基礎・基本を確実に身に付けられるよう工夫され、かつ、特色ある教科書が提供されることが必要である。
  • 子どもたちの健やかな心と体の育成も重要な課題である。学校生活を通じて社会性や集団性を育成すること、健康で安全に生活できる能力を身に付けさせること、子どもたちの創造力や体力をはぐくむ教育活動の充実を図ることが必要である。

ウ 学習到達度・理解度の把握のための全国的な学力調査の実施

  • 各教科の到達目標を明確にし、その確実な修得のための指導を充実していく上で、子どもたちの学習の到達度・理解度を把握し検証することは極めて重要である。客観的なデータを得ることにより、指導方法の改善に向けた手がかりを得ることが可能となり、子どもたちの学習に還元できることとなる。このような観点から、子どもたちの学習到達度・理解度についての全国的な学力調査を実施することが適当である。なお、実施に当たっては、子どもたちに学習意欲の向上に向けた動機付けを与える観点も考慮しながら、学校間の序列化や過度な競争等につながらないよう十分な配慮が必要である。
  • 具体的な実施の方法、実施体制、結果の扱い等について更に検討する必要がある。その際には、自治体や学校が全国的な学力状況との関係でそれぞれの学力状況を把握することにより、教育の充実への取組の動機付けとなることが重要な視点であると考えられる。
  • また、併せて、収集・把握する調査データの取扱いに慎重な配慮をしつつ地域性、指導方法・指導形態などによる学力状況との関係が分析可能となる方法を検討する必要がある。なお、学力調査の調査内容に関しては、知識・技能を実生活の様々な場面などに活用するために必要な思考力・判断力・表現力などを含めた幅広い学力を対象とすることが重要である。

エ 関連する課題

  • 小・中・高等学校の各学校段階を通じて、自然体験、職場体験、就業体験(インターンシップ、デュアルシステム)、奉仕体験などの体験活動を計画的・体系的に推進する必要がある。ニートやフリーターの問題が指摘される中、キャリア教育の推進が求められており、このような観点からも、苦労して成果をあげる体験は意義が大きい。
     さらに、少子化の中で、兄弟姉妹の少なくなっている子どもたちが年齢や学年、学校種を超えて交流する機会や、自然の中での長期の集団宿泊体験の機会などを拡大することが必要である。
  • 家庭教育や幼児教育との連携を図り、基本的な生活習慣を確立し、学ぶ意欲を高めるため、幼児教育と小学校教育との連携を図ることが重要である。
  • 教育活動の充実のためには、子どもたちが過ごす学校の規模が適正であることも必要と考えられる。
  • 義務教育において、個性的で特色ある教育機会を提供する上で、私立学校の役割は重要である。平成14年には小学校及び中学校の設置基準が制定され、私立の小・中学校の数も増加傾向にあるが、今後とも、公立学校、私立学校それぞれの充実が図られ、互いにその役割を発揮し合うことが重要である。
  • 公立の小・中学校については、学力の育成の面で不安があり、これが理由となって子どもを学習塾に通わせる保護者が少なくないとの指摘がある。また、このことが、教育費の家計負担の増大や家庭の経済的な条件による教育格差の拡大につながっていることも懸念されている。
     義務教育においては、教育の機会均等や一定の水準確保が損なわれたり、無償制が損なわれたりすることは許されない。公立義務教育諸学校は、子どもたちが成長発達していく上で必須不可欠な学力、体力、道徳性を育成する責任を負っている。関係者はこのことをしっかりと自覚し、基礎・基本の確実な定着、家庭と連携した学習習慣の確立などに取り組む必要がある。

(3)義務教育に関する制度の見直し

  • 義務教育を中心とする学校種間の連携・接続の在り方に大きな課題があることがかねてから指摘されている。また、義務教育に関する意識調査では、学校の楽しさや教科の好き嫌いなどについて、従来から言われている中学校1年生時点のほかに、小学校5年生時点で変化が見られ、小学校の4~5年生段階で発達上の段差があることがうかがわれる。研究開発学校や構造改革特別区域などにおける小中一貫教育などの取組の成果を踏まえつつ、例えば、設置者の判断で9年制の義務教育学校を設置することの可能性やカリキュラム区分の弾力化など、学校種間の連携・接続を改善するための仕組みについて種々の観点に配慮しつつ十分に検討する必要がある。
  • 少子化、家庭の教育力の低下などの状況の中で、幼児教育の充実、幼小連携の推進に資するため、幼稚園への就園を一層推進し、そのための奨励事業を拡大する必要がある。また、幼稚園の保育内容の改善充実や預かり保育の拡充、幼稚園と小学校の教育課程の連携、幼稚園と保育所との連携、就学前の教育・保育を一体として捉えた一貫した総合施設の実現などを図ることも重要である。
  • 不登校への対応を考えるに当たっては、不登校児童生徒の減少に成功した学校の取組例を参考にすることも重要である。さらに、不登校等の児童生徒について、一定の要件のもとで、フリースクールなど学校外の教育施設での学修を就学義務の履行とみなすことのできる仕組み等について検討することも求められる。
  • 特別支援教育について、障害の種別ごとの盲・聾・養護学校を、障害の重度・重複化に対応し、小・中学校等を支援するセンター的機能をもつ特別支援学校に転換すること、また、小・中学校等において、特別支援教育の体制を整備し、LD、ADHD等の児童生徒への支援を充実することが必要である。
  • このほか、幼稚園や高等学校を義務教育の対象とするなど義務教育の年限を延長すべきとの意見、義務教育への就学年齢を引き下げ5歳児からの就学とすべきとの意見なども出されたが、これらについては、学校教育制度全体の在り方との関係など慎重に検討すべき点があること、義務教育に関する意識調査の結果ではこれらの事項について賛成する割合が全体として低かったことなども踏まえ、今後引き続き検討する必要がある。

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