5.教員養成・免許制度の改革の方向

 「大学における教員養成」及び「開放制の教員養成」の原則は、今後とも、尊重する必要があるが、今日的課題等に適切に対応するためには、いま一度これらの原則の理念を明確にするとともに、現在を我が国の教員養成の大きな転換期と捉え、必要な改革を果断に進めていくことが重要である。
 その上で、教員養成・免許制度については、以下の2つの方向で改革を進めることが適当である。

  1. 大学の教職課程を、教員として最小限必要な資質能力を確実に身に付けさせるものへ
  2. 教員免許状を、教職生活の全体を通じて、教員として最小限必要な資質能力を確実に保証するものへ

○ 戦後の我が国の教員養成の歴史を振り返ると、「大学における教員養成」及び「開放制の教員養成」の原則は、今後とも、尊重する必要があるが、教員養成が抱える今日的課題等に適切に対応するためには、いま一度これらの原則の理念を明確にするとともに、現在を我が国の教員養成の大きな転換期と捉え、必要な改革を果断に進めていくことが重要である。

○ 現行の制度は、幅広い分野から人材を求めることにより、教員組織を多様なものとし、活性化することが期待できるという意味で、教員の資質能力の向上に積極的な意義を有するものである。一方、教員は、本来的に高度な専門的職業として、十分な専門的知識・技能を備え、子どもたちの発達段階に応じ、適切な指導をしていかなければならないものである。このように、「開放制の教員養成」の原則とともに、教員としての専門性の確立・向上を図ることが重要であり、「開放制の教員養成」の原則を尊重することは、安易に教員養成の場を拡充したり、希望すれば誰もが教員免許状を容易に取得できるという開放制に対する誤った認識を是認するものではないことを、まず再認識する必要がある。

○ このような基本的認識を踏まえ、前述のような課題に対応し、教員に対する揺るぎない信頼を確立するためには、教員養成・免許制度について、以下のような2つの方向で、改革を進めることが適当である。

1 大学の教職課程を、「教員として最小限必要な資質能力」(注1)を確実に身に付けさせるものに改革する

  •  我が国の教員養成システムが大学の教員養成の機能に期待して制度が構築されていることに鑑みれば、教職課程の認定を受けている大学(以下「課程認定大学」という。)は教員養成を自らの主要な任務として強く自覚する必要があり、教員として必要な資質能力を身に付けた学生を送り出すべく、質の高い教育活動を行うことは、課程認定大学としての当然の責務である。また、近年、大学教育において、教員養成のような中・長期的視点に立つ教育活動が軽視されることが懸念されている。このため、課程認定大学は、大学教育における教員養成の重要性を改めて認識し、教職課程の改善・充実等に積極的に取り組むことが必要である。
  •  具体的には、各課程認定大学は自らが養成する教員像を明確に示し、その実現に向けて、体系的・計画的にカリキュラムを編成するとともに、必要な組織編成を行うなど、大学全体として組織的な指導体制を確立することが重要である。また、教職課程の履修を通じて、学生が教職への理解を深め、教職に就くことに対する確固たる信念を持つことができるようにするとともに、専門的な知識・技能を自己の中で統合し、教員として必要な資質能力の全体を確実に形成することができるよう、教職課程における教育内容や指導の充実を図ることが必要である。一方、教職課程に係る事後評価機能や認定審査の充実等、教職課程の質の維持・向上を図るための方策を講ずることも必要である。
  •  さらに、教職課程改善のモデルとして、大学院において高度専門職業人としての教員の養成に特化した枠組みを制度化することが必要である。近年、我が国では、社会の様々な分野において、専門的職業能力を備えた人材が求められるようになっている。専門的職業の一つである教員についても、社会構造の急激な変化や学校教育が抱える課題の複雑・多様化等に対応し得る、より高度な専門性と豊かな人間性・社会性を備えた力量ある人材が求められている。このため、学部段階の教職課程において養成される基礎的・基本的な資質能力を基盤として、専門職大学院制度の中に教員養成の専門職大学院として必要な枠組みを整備することにより、専門職大学院制度を活用した教員養成教育の改善・充実を図ることが必要である。

2 教員免許状を、教職生活の全体を通じて、教員として最小限必要な資質能力を確実に保証するものに改革する

  •  教員免許状は、学校教育法で規定される初等中等教育段階の学校における、いわゆる公教育の直接の担い手である教員の資格を定め、その資質能力を一定水準以上に確保することを目的とする制度である。このような性格に鑑みれば、教員免許状の保有者が、一定水準以上の資質能力を身に付けていることを、社会に対して明らかにし、公証していくことは、公教育の円滑な実施を図る観点から、教員免許状に本来的に求められる役割である。
     他方、教職課程の認定の際には厳正な審査を行っているものの、近年、教員として必要な資質能力を責任を持って育成しているとは必ずしも言いがたい教職課程が増加しており、教員免許状がいわば「希望すれば、容易に取得できる資格」とみなされ、社会的に評価が低下してきていることは否定できない。
     このような状況を抜本的に改善するためには、教員免許状について、授与の段階から、その後の教職生活の全体を通じて、教員として必要な資質能力を確実に保証するものとなるように制度的な整備を図ることが必要である。
  •  具体的には、教職課程の履修を通じて、教員として必要な資質能力の全体について、確実に身に付けさせるとともに、新たな科目を設けるなどにより、その修了段階において、身に付けた資質能力を明示的に確認することが必要である。
     また、教員免許状の取得後も、社会状況や学校教育が抱える課題、子どもの変化等に対応して、その時々で求められる教員として最小限必要な資質能力が保持されるよう、定期的に必要な刷新(リニューアル)とその確認を行うことが必要であり、このための方策を講ずる必要がある。
  •  なお、近年、特別免許状や特別非常勤講師制度の活用や、いわゆる民間人校長の登用が行われているが、これらの制度は、学校教育の活性化等を図る観点から、「大学における教員養成」の原則や、いわゆる相当免許状主義(初等中等教育段階の学校の教員は、学校種や担当教科に応じた相当の免許状を有しなければならないとするもの)の例外として講じられている措置である。国立・公立・私立学校を通じて、およそすべての初等中等教育段階の学校において、一定水準以上の教育を保障するためには、大学において、教職に就くための専門教育を受けた人材が教育活動に当たることが原則であり、多様な人材の登用も、このような基盤があってはじめて成果を生むものである。このような意味で、今後とも、教員免許制度の基本は堅持することが必要である。

○ 一方、以上のような方向で改革を進めるに当たっては、次のような点に留意しつつ、具体的な改革方策を講ずることが必要である。
 1) 教員に質の高い人材を迎え入れるためには、教職や学校が魅力ある職業、職場であることが不可欠であり、教員や教員志願者の意欲を高め、励ますような方向で改革を進める必要があること
 2) 教員の地位や処遇が引き続き安定したものであるようにするとともに、優れた教員が適切に評価され、処遇されるよう、教員の評価や処遇等の在り方について検討する必要があること
 3) 教員の多忙感を軽減し、本来の職務に専念できるよう、学校の事務・業務の見直しや、国・都道府県・市町村が行う調査等の精選、事務処理体制の整備を進めるとともに、教員の精神面を支えるための相談体制を整備するなどの環境整備に努める必要があること
 4) 子どもの学ぶ意欲や学力・気力・体力の低下、いじめや不登校、校内暴力等の問題の深刻な状況等、学校教育における複雑・多様化する課題及びLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥/多動性障害)や高機能自閉症等の子どもへの適切な支援といった新たな課題に、学校全体として組織的に対応するための体制整備を進める必要があること

(注1) 「教員として最小限必要な資質能力」とは、平成9年の教養審第一次答申において示されているように、「養成段階で修得すべき最小限必要な資質能力」を意味するものである。より具体的に言えば、「教職課程の個々の科目の履修により修得した専門的な知識・技能を基に、教員としての使命感や責任感、教育的愛情等を持って、学級や教科を担任しつつ、教科指導、生徒指導等の職務を著しい支障が生じることなく実践できる資質能力」をいう。

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