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第3章 青少年の意欲を高め、心と体の相伴った成長を促すために−重視すべき視点と方策−

 すべての青少年が意欲を高め心と体の相伴った成長を果たすため、我々は、それぞれ重視すべき視点と方策を示して次の5つの提言を行い、教育関係者だけではなく、家庭・学校・地域そして企業等のすべての大人がこれらを自らの課題として受け止め、積極的に行動することを期待する。

提言

  1. 家庭で青少年の自立への意欲の基盤を培おう
  2. すべての青少年の生活に体験活動を根づかせ、体験を通じた試行錯誤や切磋琢磨を見守り支えよう
  3. 青少年が社会との関係の中で自己実現を図れるよう、地域の大人が導こう
  4. 青少年一人ひとりに寄り添い、その成長を支援しよう
  5. 情報メディアの急速な普及に伴う課題に大人の責任として対応しよう

1.家庭で青少年の自立への意欲の基盤を培おう

視点

  • ○家庭の役割を強く自覚し、家族全員で子どもに積極的に関わる
  • ○学校や企業、地域社会が家庭での自立への基盤づくりを支援する

方策

  • ◎求められる基本的生活習慣や基礎的な体力の重要性について、実践的な調査研究を通じて啓発する
  • ◎家庭での基盤づくりを進める国民運動を展開し、地域での取り組みを支援する

重視すべき視点

【家庭の役割を強く自覚し、家族全員で子どもに積極的に関わる】

  •  基本的生活習慣や基礎的な体力の向上とともに、親子間の愛着形成と受容関係の構築は、青少年の自立への意欲の基盤として欠かせないものであることが明らかとなっている。
     こうした自立への意欲の基盤は、親子関係が密接な乳幼児期から学童期にかけて、生活を通じて青少年に培われることが必要であり、家庭で築かれるべきものである。
     このため、まず保護者には、家庭教育にこそ青少年の意欲の基盤を築く重要な役割があり、意欲の基盤をしっかりと築くことがその後の成長過程における意欲の減退を防ぐために必要であるという自覚を持ってほしい。そして、家庭教育を家族の誰かに任せきりにするのではなく、家族全員が子どもに積極的に関わるという姿勢で臨んでほしい。
  •  青少年は、こうした自立への意欲の基盤に裏打ちされ、保護者の愛情や励ましに支えられることによって、自立に向けて意欲を持ち行動に踏み出すことができるのである。
     このため、保護者には、子どもとの衝突をおそれることなく、かつ愛情や励ましの意図が伝わるような肯定的な接し方を基本としながら、積極的に子どもと関わってほしい。

【学校や企業、地域社会が家庭での自立への基盤づくりを支援する】

  •  データも示すとおり、育児不安を感じたり子どものことが分からないと感じたりする保護者が増加している。これは、家庭教育の重要性が指摘される一方で、保護者がしつけや家庭内の問題について助言や援助を求めたくとも受け止めてくれる相手がいなかったり、職業生活と家庭生活の両立に困難をきたしていたりするため、その教育機能を十分に発揮できていないことの現れともいえる。
  •  すべての児童生徒を対象に発達段階に応じて組織的・計画的な教育を実施している学校教育については、青少年の自立への意欲を高めるに当たって、その果たす役割が極めて大きいことはいうまでもない。また、青少年の自立への意欲の基盤が家庭においてしっかりと築かれることは、学校教育を通じた青少年の育成を実効あるものとするためにも大変重要である。
     このため、家庭と学校が連携を図り、ともに青少年の自立への意欲を高めるよう努めることが重要であると考える。
  •  また、家庭において保護者が青少年の自立への意欲の基盤の育成に十分な役割を果たすためには、大人の生活や価値観を見直す必要があると考える。
     まず、家族全員が積極的に子育てに携わることの重要性を、保護者本人だけでなく国民一人ひとりが認識してほしい。その上で、家族全員が子育てに携われるように、例えば、企業が雇用者の家庭生活と職業生活の両立を図れるよう、また、父母ともに子育てと職業生活とを両立できるよう育児支援制度を充実するとともに、行政が企業の取組を支援すること等が考えられる。
     また、企業自体が社会貢献・地域貢献として青少年の健全育成に携わることや、子育て経験の豊富な高齢者等が、地域の子育て世代の相談を受けたり子育て支援を行ったりすることも、家庭での自立の基盤づくりを地域社会全体で支える方策として奨励されるべきである。

方策

◎ 求められる基本的生活習慣や基礎的な体力の重要性について、実践的な調査研究等を通じて啓発する

 これまで文部科学省では、家庭でのしつけのあり方や心の成長に関して配慮すべき事項を記載した『家庭教育手帳』の作成・配付や、家庭教育に関する様々な学習機会の提供を通じて、保護者等に家庭教育の重要性を啓発している。
 また、平成15年7月に成立した「次世代育成支援対策推進法」に則り、国、自治体及び事業主が次世代育成支援のための行動計画を策定し、子育て家庭への支援を中心とした様々な対策が官民挙げて講じられているところである。
 今後は、国において、保護者等が自信を持って子どもの生活習慣の確立や体力づくりに取り組めるよう、基本的生活習慣の青少年の心身への影響について養護教諭・栄養教諭等を中心として実践的な調査研究を進めるとともに、運動科学や発育発達学等の知見も取り入れつつ、家庭で取り組める子どもの体力向上プログラムの開発等を行い、その結果を広く提供して家庭での取組や自治体・事業主及び地域での子育て支援をより一層促すことが必要である。
 また、自治体や企業等においては、他の自治体や企業等の好事例も踏まえつつ、保護者のニーズに合った子育て家庭支援策を進めていただくことを期待したい。
 家庭においては、各種の子育て支援策を活用しつつ、子どもの意欲の基盤の育成に全力を注いでいただきたい。
 なお、家庭教育への支援を推進していくに当たっては、行政や関係機関が学習や相談の機会を提供し、保護者の利用を待つのみではなく、乳幼児を抱え、家庭外に出て行きづらい保護者や地域で孤立している保護者などの存在にも十分留意し、行政や支援団体の方から自ら出向いたり、地域のネットワークを指導し地域全体で家庭教育を支援するなどきめ細かい対応を行っていくことも重要である。

◎ 家庭での基盤づくりを進める国民運動を展開し、地域での取り組みを支援する

 これまで、文部科学省では、「子どもは社会の宝、国の宝」との考え方に基づき、『子どもと話そう全国キャンペーン』の展開などを通じて社会全体で子どもを育てる機運の醸成に努めてきた。また、『子どもの体力向上キャンペーン』を通じて、子どもが日常生活の中で主体的に運動・スポーツに親しむ態度や習慣を身に付けていくことの重要性を啓発してきた。
 さらに、平成18年には「早寝早起き朝ごはん全国協議会」が民間主導で設立され、子どもの望ましい基本的生活習慣を育成し、生活リズムを向上させるための全国的な普及啓発活動が始まっており、これに呼応して、子どもの生活リズム向上のための取組が各地域で進められている。
 今後とも国において、これらの全国的な啓発活動をさらに国民全体での運動として推し進めるため、「早寝早起き朝ごはん」のように国民に強く訴えるスローガンを定めたり、各家庭における「我が家のしつけ三原則」づくりを促す等の取組を展開し、家庭での基盤作りとそのための支援への社会的機運を醸成するとともに、これまでに家庭教育の支援に取り組んできた学校・地域や企業のノウハウ等を全国へ普及し、その支援を図るべきである。また、これらの取組を通じて、すべての家庭で子どもの意欲の基盤づくりが進められ、学校・地域・企業等が連携・協力して家庭での意欲の基盤づくりを支える方策の充実が図られることを期待したい。

2.すべての青少年の生活に体験活動を根づかせ、体験を通じた試行錯誤や切磋琢磨を見守り支えよう

視点

  • 多様な体験活動の機会を提供し、体験活動をすべての青少年の生活に根づかせる
  • 体験を通じた青少年の試行錯誤や切磋琢磨を大人が見守り支援する

方策

  • ◎青少年の生活圏内に多様な体験を提供する場や機会をつくる
  • ◎青少年教育施設等を中核として、教育効果の高い体験活動を計画的に提供する

重視すべき視点

【多様な体験活動の機会を提供し、体験活動をすべての青少年の生活に根づかせる】

  •  これまで述べてきたとおり、青少年が学ぶことの価値を実感し、社会的に評価される意欲の対象や行動の手段・方法を学ぶためには、体得すること、すなわち体験を通じて理解し自らのものとして定着させることが必要である。
     また、基礎的な体力は意欲の形成に不可欠であることや、自然体験は社会性を育成し、仲間と交流する体験は自己を客観的に見る力を培うとともに社会性を培う集団活動への意欲を高め、いずれも青少年が自立への意欲を持ち行動するために必要な資質能力を育成することがこれまでの知見から明らかになっている。
  •  このように、青少年の自立への意欲を高めるためには、運動・スポーツや自然体験活動、仲間と交流する活動等の多様な体験が必要不可欠である。しかし、現代の青少年はこれらの体験が少ない生活を送っており、日常生活の中で自らの力で多様な体験活動に取り組み、自立への意欲を高めることを期待するのは大変難しい状況にある。
  •  このため、運動・スポーツや自然体験活動、仲間と交流する活動をはじめとした多様な活動を青少年が体験できるよう、その機会を組織的・計画的に提供して、体験活動を通じた学習習慣を青少年の生活に根づかせることが必要である。

【体験を通じた青少年の試行錯誤や切磋琢磨を大人が見守り支援する】

  •  青少年が自立に向けて意欲を高め行動に当たっての手段・方法を身に付けるためには、机上の学習だけでは十分でなく、経験によって得られる技能や体感などの生きた知識、すなわち経験知(暗黙知)を体得することが欠かせない。経験知とは、失敗や苦労を重ねつつそれを乗り越え、挑戦を繰り返す中で体得できるものであり、また、このような試行錯誤を通じて、青少年は「自分にもできたのだ、がんばればできるのだ」と自らの成長を実感するとともに、判断力や選択能力等を培い主体性を育むことができる。
     このため、青少年の成長過程にあっては、効率を追求して間違いや失敗のない必要最小限の経験を大人が選んで青少年に体験させることが必ずしも最善とはいえず、青少年自身が多様な体験を通じて試行錯誤する中で成長実感を得るとともにつまずきを乗り越える自信と力量を養い、経験知を獲得し、主体性を育むことが必要である。
  •  また、仲間とともに行う活動では、対面コミュニケーションを通じて対人関係能力を培うことができるだけでなく、「友達には負けないようがんばるぞ」と良きライバルとして互いを高めあったり、「一緒にがんばろう」と協力して知恵を出し合ったり、励まされ慰められたりすることなどを通じて、一人きりでの体験では味わえない多くの物事を学ぶことができる。また、体験に踏み出すことを躊躇しているときにも、体験に踏み出した仲間の姿を見たり仲間に背中を押されたりすることによって、結果をおそれずに挑戦することができ、その結果、挑戦できた自信を得て新たな意欲を持てることもある。
     例えばスポーツは、体力を培うのみならず、同一のルールの下で仲間が互いに競うことを通じて、互いの能力を最大限に発揮してこれを伸ばすとともに、ルールを大切にして他人に対する思いやる気持ちを持つというフェアプレイの精神を培う活動であり、青少年期には、このような仲間と切磋琢磨できる体験活動が欠かせない。
  •  このように、試行錯誤や切磋琢磨ができる体験は、経験知を体得し主体性を育む機会と成長実感を青少年に与え、新たな意欲を喚起し、青少年の自立への意欲を高め行動を促すという高い教育効果をもたらす。このため、大人側には、青少年の体験を通じた試行錯誤や切磋琢磨を見守り支える許容力と忍耐力が求められる。

方策

◎ 青少年の生活圏内に多様な体験を提供する場や機会をつくる

 これまで、文部科学省では、放課後や週末等における青少年の様々な体験活動や地域住民等との交流活動などを進めるため、学校等に安全・安心して活動できる子どもの居場所を設ける「地域子ども教室」や、地域のスポーツ施設等を拠点として楽しみながらスポーツ活動を行う「総合型地域スポーツクラブ」といった活動拠点づくりを、地域のニーズ等を踏まえて積極的に進めるよう促してきた。
 この他、子どもたちが優れた芸術文化や歴史的な文化の所産に触れる文化活動に参加できるよう、学校や公立文化会館等で本物の舞台芸術に触れる機会の確保、学校の文化活動の推進、文化体験プログラム、学校や文化施設等で伝統文化に関する活動を計画的、継続的に体験・修得できる「伝統文化こども教室」などの取組を行っている。
 また、平成13年7月に学校教育法が改正され、学校においても社会奉仕体験活動や自然体験活動等の体験活動の充実に努めることとされたことを受け、各学校において、発達段階に応じて様々な体験を通じた学習が行われている。
 さらに、平成13年4月に創設された「子どもゆめ基金」を通じて、地域の草の根団体が行う子どもを対象とした様々な体験活動や読書活動に対して助成が行われており、子どもに多様な体験活動を提供する動きが全国各地に広がっている。
 青少年の生活に体験活動を根づかせるためには、青少年の生活圏内に多様な体験活動を提供する場や機会が幅広く用意されることが必要である。このため、国や自治体等において引き続き上記のような青少年の活動拠点づくりを積極的に進めるとともに、各拠点での活動が地域に根づくよう、必要な支援を行うべきである。
 特に、安全・安心して活動できる子どもの居場所づくりに対応した取り組みについては、厚生労働省の「放課後児童健全育成事業」と一体化あるいは連携した「放課後子どもプラン」の創設に向けて、その具体的内容が検討されており、同プランの効率的かつ円滑な実施が期待される。また、「総合型地域スポーツクラブ」は、青少年に対して身近な地域でスポーツに親しむ機会を広く提供できるものであることから、すべての青少年がその機会を得られるよう全国の各市町村において少なくとも一つのクラブ創設が目指されるとともに、各クラブの活動が地域の青少年の実態等に応じてより一層充実されることを強く期待したい。加えて、青少年がよりスポーツに親しむためには、発達段階や性別の違いなどに応じて多様な指導ができるスポーツ指導者の存在が不可欠である。自治体やスポーツ団体等が中心となって指導者養成、資質の向上にも取り組むことを期待したい。
 学校においては、学校教育の機能を生かして計画的・体系的に体験活動を推進し、児童生徒の生活に体験を通じた学習を根づかせるよう努めるべきである。特に、児童生徒の運動に親しむ資質や能力の育成に当たっては、児童生徒が体を動かすことを楽しみ、スポーツや体力の向上に自ら積極的に取り組むようになることに留意しつつ、始業前や休み時間に体を動かす場や機会を確保するなど、体育の授業だけでなく学校教育活動全体を通じた工夫が期待される。
 また、各地域において様々な青少年団体が活躍しており、青少年に様々な体験活動の機会を提供するとともに、地域での異年齢交流や異世代交流の機会を提供し、青少年がこれらの活動を通じて地域に愛着を感じ地域社会へ参画・貢献する意欲を高めるよう支援している。
 多様な人々との交流が自己を客観視できる力や社会性を培うことから、より多くの青少年が地域の青少年団体に参加するなどして多様な交流体験を積むことも大切である。このため、青少年団体については、より多くの青少年が団体での活動を通じた成長の機会が得られるよう、青少年の参加を促し青少年の現代的課題に対応した魅力ある活動を提供するなど、各団体の活動の充実が望まれる。
 家庭においては、地域で行われている体験活動の情報を学校や「子どもセンター」等を通じて積極的に入手し、特に週末や夏休み等に子どもが多様な体験活動に継続して参加できるよう、子どもと一緒に計画を立てることなどを通じて子どもの体験活動への参加を促すとともに、子どもの挑戦や体験の成果を積極的に評価し、愛情を持って励まし、体験を通じた心と体の成長を図っていただきたい。

◎ 青少年教育施設等を中核として、教育効果の高い体験活動を計画的に提供する

 集団で行う自然体験活動には学習等への意欲や道徳観・正義感を高め、積極性や協調性、判断能力を育む効果が高いことが明らかとなっている。しかし、自然体験活動は変化の予測が難しい自然を題材として行うため、活動を企画し指導する者に教育者としての専門性に加え、安全管理等の専門性も要求されることもあり、自然体験活動の重要性は広く認識されているにもかかわらず、青少年の自然の中での活動は年々減少している。特に、学校や青少年教育施設、青少年団体の活動を通じた経験に比べ、家族や友人と自主的に行う活動を通じた経験の減少が著しい。青少年に教育効果の高い自然体験活動を経験させるには、学校や青少年教育施設、青少年団体による活動の提供の充実をより一層図り、青少年にそれらへの積極的な参加を促す必要がある。
 国公立の青年の家や少年自然の家等の青少年教育施設は、これまで青少年に集団で行う体験活動を提供する地域の中核的な施設として、学校等の関係機関と連携して体験活動プログラムを開発して提供し、指導者の育成を行っている。また、自然体験活動の提供や指導者養成を目的とする民間団体も多数存在し、国公立施設や学校等とも連携・協力しつつ、青少年に様々な自然体験活動を提供している。
 しかし公立施設においては、近年、自治体の財政状況悪化等の理由により指導者数や事業数が削減されたり、施設の統廃合が進められたりしている例がみられる。また、指定管理者制度の導入に当たって、これまで施設が蓄積してきた指導ノウハウやプログラムをいかに円滑に管理者に引き継ぎ、施設における教育効果の高い体験活動の提供を維持するかが課題であるとの指摘もある。
 国立の青少年教育施設については、これまで独立行政法人国立オリンピック記念青少年総合センター、独立行政法人国立青年の家及び独立行政法人国立少年自然の家が青少年に宿泊を伴う体験活動の提供等を行ってきたが、青少年期全体を見渡して青少年をめぐる諸課題に総合的・実践的に対応するため、平成18年4月に3法人が発展的に統合し、独立行政法人国立青少年教育振興機構が発足した。今後は、独立行政法人国立青少年教育振興機構が青少年教育のナショナルセンターとしての機能を果たし、公立施設等の事業の質や指導者の専門性を高めるよう、これまで以上にモデルとなる体験活動プログラムの開発や指導者育成事業に力を注ぐことが強く期待される。
 また、公立施設においては、地域の保護者等に青少年が体験活動を行うことの重要性を強く訴えるとともに、国立施設や民間施設・団体等とも連携・協力し、地域の青少年の実態や学校等のニーズを的確にとらえた体験活動プログラムの開発と提供に努めることが期待される。
 特に指導者の専門性が要求される自然体験活動については、国公立や民間の青少年施設・団体等が連携・協力して、これまでの自然体験活動の効果等に関する知見も踏まえ、青少年の発達段階に応じた教育効果の高い体験活動として、例えば幼児を対象とした五感を存分に使い自然とふれあう体験活動や、小中学生を対象とした主体性を育む長期の自然体験活動、高校生・大学生等を対象とした自然体験活動のリーダー養成など、サマーキャンプ等の諸外国の事例も参考としながら、青少年の意欲を育み生活に根づくような自然体験活動プログラムの開発を進め、その普及を図るべきである。

3.青少年が社会との関係の中で自己実現を図れるよう、地域の大人が導こう

視点

  • 社会との関係への興味・関心を育て、社会との関係の中での自己実現を導く
  • 「第三の大人」として地域の大人が青少年に関わっていくという価値観を醸成する

方策

  • ◎社会との関係の中で自己実現を図った大人の生き方から学ぶ機会を提供する
  • ◎青少年の努力や社会貢献を積極的に評価する
  • ◎地域の大人が地域の青少年の成長に継続して関わることのできる場や機会を広げ、その連携を進める

重視すべき視点

【社会との関係への興味・関心を育て、社会との関係の中での自己実現へ導く】

  •  人間は生来、好奇心のかたまりである。幼児は接する外界の一つひとつに対して「なに?」「なぜ?」と疑問を発し、知ること、発見することを積み重ねて成長していく。
     この好奇心はあらゆる方向に向けられるが、ある対象に焦点が定められ、その対象と自己との関係を見つめることを通じて、例えばその対象に近づくために何かをしたいという意欲が生まれる。
     すなわち、生来の好奇心は、対象と自己との関係性を見つめることを通じて、意欲へと「育てられる」のである。
  •  青少年の成長とは、自己の素質や能力などを発展させてより完全な自己を実現していく、すなわち自己実現を目指していくことであるが、自己実現の方向性については個人の好奇心の赴く方向に全て委ねてしまうことは適当ではない。青少年が社会的な自立を果たすためには、社会的期待と自己の現状との関係をとらえ、自己実現の方向を社会に受容される範囲で適切に設定することが必要である。
  •  このため、青少年期にあっては、まず好奇心を持つこと自体を大切にするとともに、その好奇心を他者や社会と自己との関係への興味・関心に発展させ、社会との関係の中での自己実現を図り社会的自立を目指す意欲に結実させていくことが必要である。
  •  その際、青少年が自立に向けて自分を高めるために努力を重ねたときや、地域の大人や実社会と関わり社会貢献をした機会等をとらえて、そうした青少年の意欲を積極的に評価することが、青少年の意欲を社会的自立に導くために大変重要である。

【「第三の大人」として地域の大人が青少年に関わっていくという価値観を醸成する】

  •  青少年は、地域社会と関わる体験を通じて、人間は一人で完結して生きていくことはできず、社会の中で相互依存により共生する存在であることを実感できる機会を得ることができる。こうした体験は、青少年の自立への意欲を高めるに当たって極めて重要である。
  •  また、地域における多様な年齢層の人々との交流は、家庭内における家族との人間関係や学校での教師、友達との関係では必ずしも十分には得られない、社会における社会規範や対人スキル等について体得する機会を青少年に提供する貴重な機会でもある。
     これらの社会規範や対人スキル等は、青少年が社会に評価される意欲を持ち社会に受容される行動を選択するために、必要な資質であり手段である。
  •  このため、青少年育成は家庭でのしつけや学校教育の問題だととらえるのではなく、社会全体で「社会の子」として青少年の自立への意欲を育てるという考え方に立って、青少年にとって保護者、教職員に次ぐ「第三の大人」として地域の大人が青少年に積極的に、そして徹底的に関わっていくという価値観を社会全体で共有すべきであると考える。

方策

◎ 社会との関係の中で自己実現を図った大人の生き方から学ぶ機会を提供する

 これまで学校においては、児童生徒の職業観や勤労観を培うため、地域の大人を招いて職業についての話や勤労観、人生観等について聞く機会を設けたり、地域に出向いた職業体験活動を通じて大人が実際に働く場面に参画する機会を設けたりしている。また、教育活動の様々な場面に地域の大人の参画を得ることにより、児童生徒が多様な大人から社会と自己との関わりについて学ぶ機会を提供している。
 また、文部科学省では、スポーツ選手や芸術家をはじめとしたその道の達人を学校等の青少年が集まる場に派遣し、社会との関係の中で自己実現を図った達人の生き方から青少年が刺激を受けて新たな夢や目標への意欲を高めるなど、様々なことを学ぶ機会を提供している。
 青少年が社会との関係の中で自己実現を図るためには、社会を構成する一員として社会的役割を担うことを通じて自己実現を図った大人の生き方から、そうした志向を学ぶとともに、自己実現を図りたいという意欲を高め、そのための手段・方法を学ぶことが極めて重要である。特に、年齢の近い先輩層や地域の大人達からこれらを学ぶことは、彼らが身近なモデルとして青少年に親近感を与え、青少年の意欲を高め行動の変容を促す効果が高いと考えられる。このため、引き続き国や自治体、学校等は、青少年に対して、大人の生き方から学ぶ機会を提供するとともに、特に年齢の近い先輩層や地域の大人達との交流を深められる機会の提供に努めるべきである。また、企業等に対しても、こうした取組に雇用者を派遣したり、職場体験や雇用者の子どもの職場見学を実施するなど、青少年と社会を結ぶための積極的な取組を期待したい。

◎ 青少年の努力や社会貢献を積極的に評価する

 青少年の学校教育や部活動における活動に対しては、努力の結果としての成績や順位の評価が従来から行われており、また、学校においては、児童生徒のよい点や進歩の状況を積極的に評価し、学習意欲の向上を図ることを目指した教育活動が展開されている。
 しかし、例えば青少年が学校外での社会貢献活動等に積極的に参画しても、これが社会から評価される機会が多いとは必ずしもいえず、青少年が積極的に評価される機会は学校等の一部に限定されていることは否めない。青少年の努力や社会貢献を社会が評価することは、社会的期待や社会の許容範囲を青少年が体得するために極めて重要であり、また、青少年の社会参画への意欲を喚起することにもつながるものである。
 各自治体においては近年、いわゆる「子ほめ条例」(児童生徒表彰に関する条例)の制定等を通じて、地域の大人が地域の青少年の長所や優れた個性、努力、思いやりや善き行い等を積極的に認めて、地域ぐるみで青少年の社会性の育成や自立の支援を図る取組が進められている。また、青少年団体の中には、課題の達成や技能の修得、社会貢献や団体内での責任分担に応じてこれらを評価し認定する制度を設け、青少年の努力を喚起しているものもある。
 今後とも、国において、社会全体で青少年の努力や社会貢献を積極的に評価する機運の醸成を図るとともに、自治体や各種団体におけるこうした取組を広く紹介し、これらの普及を促すことが必要である。また、家庭・学校・地域が連携して青少年の努力や社会貢献を積極的に評価し、青少年のさらなる努力や社会貢献への意欲を高め、社会性を培うことが望まれる。

◎ 地域の大人が地域の青少年の成長に継続して関わることのできる場や機会を広げ、その連携を進める

 これまで、2.で述べたように官民挙げて青少年が地域で多様な体験活動を行える拠点づくりを進めているが、今後は、より多くの大人がこうした拠点での活動に参加できるよう促すとともに、様々な分野で青少年の成長に関わっている大人達が連携を深め、各自の活動の充実を図ることが必要である。
 より多くの大人の参加を促すためには、例えば、青少年の身近なモデルとなる大学生等がリーダーとなって行う体験活動や、定年後の社会貢献活動として高齢者が企画・実施する青少年への体験活動など、青少年が多様な年齢層と交流できるような活動に対して、国や自治体等がより積極的に支援することが考えられる。
 また、様々な分野で青少年の成長に携わる大人が連携を深めるには、例えば、総合型地域スポーツクラブと学校における体育の授業や運動部活動が連携を図ること等を通じて、総合型地域スポーツクラブに参画する大人が地域の青少年の成長により一層深く関わることが考えられる。また、様々な種類の自然体験活動を提供している各種団体等が地域で学校、行政機関も交えたネットワークを構築し、個々の団体の活動の一層の充実を図るとともに、地域の多様な大人が一体感を持って地域の青少年の成長を支援する体制を整えることが考えられる。

4.青少年一人ひとりに寄り添い、その成長を支援しよう

視点

  • ガイダンスの発想に立ち、青少年一人ひとりの成長を支援する

方策

  • ◎国民一人ひとりがガイダンスの発想に立って青少年を支援できるよう、意識の涵養と指導力育成に努める
  • ◎学校における教育相談体制の整備や関係機関が連携したサポート体制の充実などにより、一人ひとりの成長をきめ細やかに支援する

重視すべき視点

【ガイダンスの発想に立ち、青少年一人ひとりの成長を支援する】

  •  青少年の生活実態は多様であり、意欲をめぐる様相や抱える課題は一人ひとり異なっている。課題を抱えている青少年についても、その解決に向けて誰に相談し、あるいはどのように解決したらよいか分からず、大人に助けを求めることを躊躇している状態や、青少年自身が自らの状況を客観的につかめないために、意欲の方向や行動の在り様について悩み、つまずいていていると自己認識できず、立ちすくんでいる状態など、様々な状態が考えられる。
     このような青少年の多様な課題や状態に適切に対応するためには、我々大人側に、青少年一人ひとりの考えや気持ちに寄り添い、青少年自身の主体性を尊重しつつ自立に向かっての意欲と行動に導くといった、ガイダンスという発想に立って青少年の成長を支援することが大切であるという認識を持つことが必要である。
  •  その際、これまでの我々大人の青少年への関わり方において、問題行動など外面に現れる事象への対応に傾注しがちであったかもしれないと省みた上で、青少年一人ひとりの状況を見つめ直すことが大切である。
     一見、問題行動もなく従順でおとなしくみえる青少年も、保護者、教員や周囲の大人が「期待する青少年像」を必死に演じているだけであり、演じている像と自らの実像とのギャップに悩み、心に課題を抱えつつもそれらを外面に現すことにより大人の期待を裏切ってしまうのではないかとおそれ、相談できずに苦しんでいるのかもしれない。そのような青少年は、見過ごしてしまいがちな小さなものであるかもしれないが、大人に助けを求める何らかのサインを出しているものである。
     我々大人は、青少年の成長に期待するあまりに、青少年の実像を見つめることなく無意識に否定してしまっていないかを省みる必要がある。また、青少年が悩みもがいていることを示す小さなサインを見逃さない目を養い、青少年のありのままの姿を認め、その姿に寄り添って課題の解決に向かってともに歩みを進める覚悟を持つことが求められる。

方策

◎ 国民一人ひとりがガイダンスの発想に立って青少年を支援できるよう、意識の涵養と指導力育成に努める

 青少年は、生活の中で様々な経験を通じて、自立した社会人の基礎となる体力、社会性や判断力、向上心や耐性等を身に付けていくが、青少年一人ひとりの成育歴、状態や置かれている環境、抱えている課題等がその時々により様々であるため、例えば青少年達が集団体験として同じ活動を行っても、その活動を通じて学ぶものは青少年によって様々である。
 このため、青少年の多様な状態や課題に対応し、その自立への意欲を高めるためには、青少年一人ひとりの状態や課題に応じてその成長を支援するガイダンスという発想に立ち、その時々の経験からその時点で青少年が抱える課題の解決に向けた学習ができるよう適切に指導するとともに、その過程全体にわたって青少年と向き合い、課題を解決し自立に至るまで根気よく支援することが必要である。
 特に、自立に向かって何をすべきか自己分析できていなかったり、社会との関わりを持てないなどの課題を抱えている青少年に対しては、一人ひとりの葛藤や挑戦に寄り添い、励ましながら導いていく存在として、指導者の力量がより一層問われることとなる。
 このため、国においては、まず、ガイダンスの発想に立って青少年一人ひとりへ支援を行うことが重要であるという認識を、青少年にとって最も身近な指導者である保護者も含め、青少年の育成に携わる国民一人ひとりに涵養する必要がある。
 また、青少年教育指導者等に対しては、ガイダンスの発想に立った指導能力の向上が図れるよう、先進的な事例も参考としながら指導能力養成カリキュラムを開発するなどの支援を行う必要がある。
 なお、カリキュラム開発に当たっては、他者からの評価だけに依拠するのではなく、自分自身を客観的にとらえた上で、自分の可能性を信じこれを伸ばすよう努力することに価値を置けるような自己評価能力の育成や、従来は青少年の日常生活の中で獲得できた集団での遊び方や基礎的な対人コミュニケーションスキルなどの対人関係能力の育成が、青少年が抱える現代的課題に対応するために必要であるとの指摘を踏まえ、これらの育成を指導する能力の養成に留意すべきである。
 さらに、自治体等において、保護者も含め青少年の育成に携わる指導者等に対して、ガイダンスの発想に立った指導能力養成ための学習機会が広く提供されるよう、研修の実施等の取組が進められることを期待したい。

◎ 学校における教育相談体制の整備や関係機関が連携したサポート体制の充実などにより、一人ひとりの成長をきめ細やかに支援する

 これまで、国においては、児童生徒の心の問題に対し専門的な観点から助言を行うスクールカウンセラーや、教員OBなどの地域の人材を活用した「子どもと親の相談員」の学校への配置などを進め、児童生徒の訴えや内面的な葛藤にきめ細やかに目を向けるための教育相談体制の充実に取り組んできた。各学校や地域においても、教職員のほか保護者、PTAなど地域の方々、教育委員会や警察等関係機関が連携して、児童生徒を取り巻く環境や行動について情報を共有するとともに、児童生徒の問題行動等に対する行動連携が効果的に展開できるよう、ネットワークづくりやサポートチームの形成等様々な取組が進められてきたところである。
 こうした取組については、問題行動等のきっかけとなった心理的背景をも踏まえた個々へのきめ細やかな対応や教職員のみならず児童生徒を取り巻く関係者の連携による対応など指導方法の改善や機敏な対応につながるとして、教育の現場から評価を得ている。しかし、不登校やいじめ、暴力行為等が依然として絶えない中にあっては、今後も、児童生徒に対する教育相談体制の整備や、課題の解決に向けて家庭・関係機関と連携したサポート体制の充実を引き続き図っていく必要があるとともに、課題解決に効果的な取組について調査研究を進めるなど、各地域における創意工夫を凝らした取組を更に推進していく必要がある。
 また、平成16年12月に犯罪被害者等基本法が成立し、翌年12月に犯罪被害者等基本計画が策定されるなど、政府全体として犯罪被害者等に対する支援を拡充する取組が進められており、この点からも、スクールカウンセラーの配置等による児童生徒への支援体制整備の一層の推進が必要である。
 さらに、児童生徒の心の発達過程を踏まえた効果的な教育活動等を実施することが必要となっていることから、国においては、子どもの情動やこころの発達等に関する研究を振興し、その科学的成果を教育現場の指導に反映するための取組を進めることが必要である。

5.情報メディアの急速な普及に伴う課題へ大人の責任として対応しよう

視点

  • 情報メディアを通じて社会規範等を学び社会参画を図れるようにする
  • 青少年への悪影響を予防する観点から情報メディア環境を見直す

方策

  • ◎青少年の健全成長に資するコンテンツづくりを促進する
  • ◎コンテンツの作成・発信者と受信者がともによりよい情報メディア環境づくりに貢献できる仕組みを整える
  • ◎情報メディアを悪用した犯罪等に巻き込まれないよう青少年一人ひとりに届くメッセージを送る

重視すべき視点

【情報メディアを通じて社会規範等を学び社会参画を図れるようにする】

  •  書籍・雑誌や新聞、テレビやインターネットといった情報メディアは日常生活に浸透しており、これらは青少年が社会状況や社会規範等を知るための貴重な情報源となっている。
     また、インターネットや電子メール、携帯電話等が大人だけでなく青少年にも急速に普及している中で、青少年がこれらを情報の入手手段としてだけでなく、情報の発信手段や創作・表現の場として、また新しいコミュニケーション手段として使いこなしていることは、情報化社会を生きる青少年が社会と意欲的に関わり成長していくに当たって大変頼もしいことである。
  •  このような情報メディアの青少年への浸透状況に鑑み、情報メディアの発信側にいる大人に対しては、青少年が社会的に評価される価値観や行動規範等を情報メディアを通じて学んだり、情報メディアの活用や報道活動等への参画により青少年が社会と関わる体験や社会参画の機会を得たりすることができるよう支援すること等を通じて、青少年の健全成長に資する情報メディア環境の整備に向けて不断の努力が求められる。

【青少年への悪影響を予防する観点から情報メディア環境を見直す】

  •  一方で、青少年と情報メディアとの関わりについては、情報メディアを悪用した犯罪等に巻き込まれる青少年が増え、情報メディアへの長時間接触と生活習慣の乱れとの関係が懸念されるとともに、メディア上の暴力表現が青少年の暴力への志向性を高め暴力に拠る行動様式を身に付けさせる可能性や、情報メディアを利用したバーチャルコミュニケーションの急速な普及が青少年の脳の発達に重大な影響を及ぼす危険性が指摘されるなど、青少年の自立への意欲や行動に対する悪影響が懸念されている。
     このため、青少年が情報メディアを活用するに当たっては、青少年の自立への意欲や行動への悪影響を防ぐ観点から、予防的な対応も含めて適時適切な教育的支援が必要である。
  •  その際、青少年自身の情報活用能力を育成することはもちろん必要であるが、情報メディア分野の技術開発の進展は著しく、これに伴う変化は大人でさえ予測が難しいことに加え、青少年は判断力等が発展途上であることから、情報メディアの影響に対して青少年自身に自力で全て対処させることが適切とはいえない。
     このため、保護者や情報発信者、メディア事業者等も含めた大人が社会全体として、情報メディア環境が青少年の健全成長に資するよう、情報メディアの実態を検証し必要な改善や実効ある取組を講じることが必要である。
     また、特に情報メディアを悪用した犯罪やトラブルから青少年を守り、これ以上の被害者を出さないためにも、青少年一人ひとりに直接届く形での啓発や情報提供を早急に行う必要がある。

方策

◎ 青少年の健全成長に資するコンテンツづくりを促進する

 出版業界や放送業界においては、業界団体が策定した倫理綱領等において健全な社会秩序や公衆道徳を尊重し、青少年の健全育成に貢献するよう配慮すること等を定め、これに則った各事業者によるコンテンツ作成や販売・放送が行われている。また、社団法人日本民間放送連盟では、青少年の知識や理解力を高め情操を豊かにする番組を「青少年に見てもらいたい番組」として各事業者が週3時間以上放送するという取組が進められている。新聞業界は、NIE(教育に新聞を)という取組により、青少年の社会への関心を高め自ら学び考える力を育成するため、新聞記事を活用した学習を推進している。
 コンテンツの質的向上に関しては、文部科学省では、教育に利用される映画をはじめとした映像作品等について審査を行い、教育上価値が高く、学校教育又は社会教育に広く利用されることが適当と認められるものを選定して公表している。このほか、各業界において各種顕彰事業等を実施するなどにより、各事業者における質の高いコンテンツづくりを促す取組が行われている。
 このように、各業界において青少年の健全成長に資するコンテンツづくりが進められているが、残念ながらこうした取組が青少年や保護者等に広く知られているとはいえない。今後は、青少年や保護者等が良質なコンテンツを活用できるよう、これらの取組が広く周知されるとともに、青少年の健全成長に資するより良質なコンテンツづくりが進められるよう、各業界の一層の取組が強く期待される。

◎ コンテンツの作成・発信者と受信者がともによりよい情報メディア環境づくりに貢献できる仕組みを整える

 放送番組については、放送への視聴者からの苦情・意見に対して、第三者の立場から迅速・的確に対応するための自主的に独立した機関として、BPO(放送倫理・番組向上機構)が設置されている。BPOには「放送と青少年に関する委員会」が設けられ、視聴者からの青少年に対する放送のあり方や放送番組への意見をもとに、各事業者へ意見の伝達と審議を行い、各事業者の対応と審議結果等とを公表している。また、中学生モニター制度を設けたり中学生を対象としたフォーラムを実施するなど、青少年自身の意見を直接聴く取組も行い、これらの取組を通じて視聴者と事業者を結ぶ回路の役割を担い、青少年が視聴する番組の向上に努めている。
 情報メディアに関わる各種業界において、青少年の健全育成に寄与する観点から様々な取組が行われているが、そうした取組が真に効果を発揮するためには、コンテンツの受信者である青少年やその保護者等の意見が発信者に確実に届けられ、双方のコミュニケーションが深まることが不可欠である。このため、放送以外の各業界においても、BPOのような第三者的な機関の設置等により、情報の発信者側と受信者側がともによりよいコンテンツづくりに貢献できる体制が整えられるべきである。なお、BPOの存在や意見受付制度等についても、残念ながら青少年や保護者等に十分知られているとはいえず十分に活用されているとまではいえないのが現状である。このため、青少年の健全育成を目指した放送業界の自律的な取組が効果を発揮するために、BPOの存在や意見受付制度についてより一層広く国民に周知されることが必要である。
 また、情報メディアに関わる各種業界と青少年の健全育成のために活動している団体や関係者、自治体の青少年担当部局、教育委員会や警察等の行政機関等が相互に情報の共有と連携を深め、共通認識の下にそれぞれの立場を生かしてよりよい情報メディア環境づくりに貢献できるよう、これら関係者のネットワークを構築し、青少年の健全育成を妨げるおそれのある情報に係る規制の在り方やその運用改善方策を検討するとともに、コンテンツ作成・発信にかかる共通ルールづくりや、作成・発信者側と受信者側が協同した啓発活動等を実施することが必要である。

◎ 情報メディアを悪用した犯罪等に巻き込まれないよう青少年一人ひとりに届くメッセージを送る

 インターネットや電子メール、携帯電話等の青少年への急速な普及により、青少年が大人の監督や保護を受けることなく、これら情報メディアを悪用した犯罪等の被害に遭う例が増えている。また、これらのメディアは個人との密着度が高いため、青少年がこれらを介したトラブルに巻き込まれても保護者や周囲の大人にその状況が見えづらく、周囲が青少年の状況に気づかずにいる間に、あるいは青少年が周囲に助けを求めることを躊躇している間に犯罪に巻き込まれてしまう例も少なくない。
 これら情報メディア分野の技術進展は著しく、それに伴ってこれらを悪用した犯罪等の手口も多様化・高度化している。こうした犯罪等から青少年を守るためには、犯罪等の被害を防ぐために必要な最新の情報をすべての青少年に確実に届ける必要がある。
 このため、これら情報メディアを悪用した犯罪等に巻き込まれないための対策や、情報メディアを安心して安全に利用するための留意点、トラブルに巻き込まれた場合の相談機関等に関する情報などを、青少年一人ひとりに確実に届く方法で提供するためのキャンペーン活動を、国や自治体、学校、情報メディア関係業界や地域社会等が一体となって早急に実施すべきである。

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