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第3章 大学院教育の改革を推進するための計画と社会的環境の醸成

1 大学院教育の改革に向けて早急に取り組むべき施策

 今後の大学院教育の改革の方向性,展開方策等について,国は,今後5年間程度の期間において早急に取り組むべき重点施策を明示し,体系的かつ集中的な施策展開を図っていくとともに,各大学は,それを踏まえつつ,大学院教育の充実を図っていくことが望まれる。

 これまでに述べた今後の大学院教育の改革の方向性,展開方策等を名実ともに実現し,実効性を持って機能させるためには,国,大学等の関係者が本答申の趣旨・内容を理解し,組織的な検討と取組が活発に行われなければならない。このため,国は,大学院における今後5年間程度の体系的かつ集中的な取組計画(大学院教育振興プラットフォーム(仮称))を策定し,それに基づいた施策展開に努めていくことが適当であり,大学院教育の実質化に係る諸改革(課程の目的の明確化,教員組織等の編成など)や教育課程,研究指導の確立と大学院教育の質の確保などについて,例えば,数値目標や年次目標,定性的な指標等を組み合わせて掲げることが必要である。その際,各大学院における自主性・自律性に配慮し,一律の数値目標等が多様な取組を阻害することがないよう留意するとともに,その進捗状況等に応じて,機動的に見直しを図っていくことが重要である。また,地域社会,産業界等の幅広い理解と支援を得たものとしていく必要があることにも留意する必要がある。
 この「大学院教育振興プラットフォーム(仮称)」は,生涯学習社会における学校教育の体系的位置付けを踏まえた大学改革の一環として実施していくことが基本であるが,科学技術創造立国を掲げる我が国としては,高度な人材養成の中核機関である大学院が今後の我が国の科学技術の振興の基盤をなすという視点を持つとともに,現在,策定に向けて検討中の「第3期科学技術基本計画」との関係に留意して進めていく必要がある。さらに,国公私立大学それぞれの特色や教育研究目的,中期的な目標計画等に即して,世界的研究教育拠点の機能や高度専門職業人養成の機能といった,大学院の教育研究機能に重点を置く大学は,この「大学院教育振興プラットフォーム(仮称)」の策定・実施に合わせ,自らの大学院の教育改革計画を策定・公表していくことも効果的であり,その場合,国の各種支援の実施に当たっては,その支援の目的に応じ,各大学院の教育改革計画について,その実現可能性,将来性等を,審査・評価の一指標としていくことも考えられる。

2 大学院教育の改革を推進するための社会的環境の醸成

<高等教育への支援の拡充>

 本審議会答申「我が国の高等教育の将来像」で述べたとおり,高等教育機関は,国公私立を通じ,その特色に応じて,教育・文化,科学技術・学術,医療,産業・経済等社会の発展の基盤として中核的な機能を有する極めて重要な存在であり,人文・社会科学,自然科学の各分野におけるバランスのとれた教育研究の推進が欠かせない。高等教育に関しては,学生個人と共に,高等教育を受けた人材によって支えられる現在及び将来の社会もまた受益者である。これを踏まえ,大学院教育を含めた高等教育に要する費用は,学生個人のほかに,産業界等を含む社会全体も負担すべきものであり,高等教育への公財政支出の拡充とともに民間企業や個人等からの資金の積極的導入に努めることが必要である。とりわけ,今後の知識基盤社会にあって,大学院の教育研究機能の強化は,科学技術・学術の振興や産業・経済の発展等と密接な関連を持つ。大学院が,社会の多様なニーズに的確に対応しながらその役割を果たしていくための基盤をより一層確かなものとしていくためには,授業料等の自己資金,公的資金,外部資金等の多様な資金の適切な組み合わせによる各大学院の財政的基盤の一層の充実が必要なことは論をまたない。
 高等教育の重要性にかんがみ,各国で高等教育への投資を充実しつつある。例えば,英国では,授業料を増額する一方で,高等教育に対する財政支出の対GDP比を0.7パーセントから0.8パーセントへと増加させつつある。我が国においては,私立大学が高等教育の普及と発展に大きな役割を果たしてきたという沿革もあり,伝統的に私費負担の割合が高く,高等教育に対する公財政支出の対GDP比は0.5パーセントと,諸外国に比べて極めて低い状況にある。注1高等教育への公財政支出については,GDPに対する公財政支出の割合や教育制度の相違など国により様々な条件が異なるため単純な比較は困難であるが,今後,高等教育に対する公的支出を欧米諸国並みに近付けていくよう最大限の努力が払われる必要がある。その際,厳しい財政状況や高等教育への社会の負託をも踏まえつつ,すべての関係者が,高等教育の社会的価値や重要性について国民(イコール納税者)の理解を得られるよう説明責任を十分果たしていく必要がある。

  • 注1 また、学生納付金、生活費や奨学金等の財政支援を基に学生の経済的な負担を算出すると、欧米各国に比べ日本は負担が大きいとの指摘もある。

<高等教育機関の多様な機能に応じたきめ細やかなファンディング・システムの構築>

 今後の財政的支援は,国内的のみならず国際的な競争的環境の中にあって,高等教育機関が持つ多様な機能に応じた形に移行し,各機関がどのような機能に比重を置いて個性・特色を明確にするにしても,適切な評価に基づいてそれぞれにふさわしい適切な支援がなされるよう,機関補助と個人補助の適切なバランス,基盤的経費助成と競争的資源配分を有効に組み合わせることにより,多元的できめ細やかなファンディング・システムが構築されることが必要である。また,競争的に配分される資金制度で行われる世界的な教育研究拠点の形成や優れた人材養成を目的とした魅力ある教育取組などの大学院教育の改革が一過性のものに終わらず,各大学院において組織的な不断の改善の取組が行われることにより,その成果が大学の更なる発展につながるよう,支援に努めていくことも重要である。その際,競争的資源配分の間接経費を充実することなどにより,学長のリーダーシップの発揮による大学の組織的な教育研究環境の充実を支援することも必要である。

<自己資金調達と外部資金導入に係る環境醸成と条件整備>

 高等教育機関への公財政支出の拡充を図る一方で,産業界等には,国内の大学を投資対象として一層積極的に評価・活用することが求められる。そのためには,我が国の大学の教育研究水準や経営状態等に関する大学側からの適時適切な情報の提供が不可欠であるが,より効率的な投資行動のため,産業界等の側にも最新の正確な情報を能動的に収集する努力が自ずと求められる。共同研究の実施や寄附講座の開設などの大学における産業界等からの外部資金の受入れは着実に増加してきているが,大学におけるバランスのとれた財政基盤を確立し,社会のニーズにこたえた教育研究活動を活発に行っていくためには,起債等自己資金の調達や寄附金,技術移転等も含めこれまで以上に資金面を含めた産学官の連携を促進していくことが重要であり,企業等が投資しやすくする環境の醸成に努めていく必要がある。また,各企業の人材養成,経営・研究開発戦略において,共同研究や共同教育プログラム等を産学官連携の柱の一つとして明確に位置付けることも期待される。
 今後の知識基盤社会にあって,短期的な経済情勢や国の支援策のいかんによらず産業競争力を持続的に維持・強化していける産学官連携の体制の構築が求められる。なお,研究面については,平成15年度から特別共同試験研究税額控除制度が設けられ,また,教育・人材養成面については,平成17年度から人材投資促進税制が創設された。企業側には,産学官連携の体制の構築に当たり,このような税制面の優遇措置を積極的に活用していくことが期待される。


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