戻る

第1章  新学習指導要領や子どもたちに求められる学力についての基本的な考え方等

1  新学習指導要領についての基本的な考え方

(新学習指導要領の基本的なねらい)

  未(いま)だかつてなかったような急速かつ激しい変化が進行する社会を一人一人の人間が主体的・創造的に生き抜いていくようにするために、教育に今求められているのは、子どもたちに、基礎的・基本的な内容を確実に身に付けさせ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性、たくましく生きるための健康や体力などの[生きる力]をはぐくむことである。[生きる力]の重要性とその育成は、平成8年の中央教育審議会答申(「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について(第一次答申)」)において提唱されたものである。この[生きる力]は、学校において教育課程の内外を問わずその教育活動全体を通じてはぐくむことが重要であるが、同時に、学校のみで対応できるものではなく、家庭や地域社会などとの密接な連携の下に育成していくことが必要不可欠なものである。
  平成14年4月から順次実施されている新学習指導要領においては、このような考え方に立って、知識や技能を単に教え込むことに偏りがちな教育から[生きる力]を育成する教育へとその基調を転換するため、教育内容の厳選、選択学習の幅の拡大、「個に応じた指導」の充実、「総合的な学習の時間」の創設などを行ったところである。ただし、このことが、知識や技能を軽視するものでないことは、前述の中央教育審議会答申においても、ホワイトヘッド(1861-1947イギリスの哲学者)の「あまりに多くのことを教えるなかれ。しかし、教えるべきことは徹底的に教えるべし」という言葉を引用して基礎・基本の徹底の重要性を示していることからも明らかである。また、平成10年の教育課程審議会答申(「幼稚園、小学校、中学校、高等学校、盲学校、聾(ろう)学校及び養護学校の教育課程の基準の改善について(答申)」)においても、「改善のねらい」の一つとして「基礎・基本の確実な定着を図り、個性を生かす教育を充実すること」が、「自ら学び、自ら考える力を育成すること」などとともに掲げられているところである。
  このように、新学習指導要領では、基礎・基本を徹底し、自ら学び、自ら考える力などの[生きる力]をはぐくむ観点から、個性を生かす教育の充実のため、学校教育の質的な転換を求めているところである。

(新学習指導要領の実施状況とその課題)

  小・中学校の新学習指導要領が全面実施されて1年余りが経過し、また、高等学校の新学習指導要領が本年4月から学年進行により実施に移されているところであるが、その実施状況をみると、現在、各学校及び各教育委員会では、その基本的なねらいの実現に向けて創意工夫に満ちた多くの取組が進められている。一方、各教科等の指導においては、創意工夫が十分行われずに指導に必要な時間が確保されていない事例や、学校行事等の意義が十分踏まえられていない事例、「総合的な学習の時間」で身に付けさせたい資質や能力等が不明確なままで実施している事例があるなど、新学習指導要領のねらいを十分に踏まえた指導がなされていない取組も見受けられる状況にある。
  このように、各学校において、新学習指導要領の趣旨を踏まえた取組とそうでないものに分かれている状況がみられるのは、国や各教育委員会において、これからの変化の激しい社会の状況やそのために子どもたちに求められる資質や能力などの新学習指導要領のよって立つ背景や、これを踏まえて新学習指導要領が基本的なねらいとしている点等について、各学校や国民一般に対する周知が結果として不十分となっていることが、その一因であると考えられる。

(新学習指導要領の下での[確かな学力]の育成を)

  今後の社会においては、少子高齢化社会の進行と家族・地域の変容、高度情報化・グローバル化の進展、科学技術の進歩と地球環境問題の深刻化、国民意識の変容といった歴史的変動の潮流の中で既存の枠組みの再構築が急速に進むものと考えられるが、こうした状況にあって学校教育の果たすべき役割を考えたとき、先に述べた新学習指導要領の基本的なねらいを踏まえ、学校・家庭・地域の連携の下、その方向で学校教育を一層充実していくことの重要性はますます増大していくものと考えられる。本部会としては、このような観点に立ち、[生きる力]の育成を一層進めるため、まずは[生きる力]を知の側面からとらえた[確かな学力]をはぐくむための各学校における取組の充実を提案する。
  このために、各学校において、基礎・基本を確実に習得させ、個性を生かす教育の充実を目指して、教えるべき内容、考えさせるべき内容、それらに応じて教員が必要な指導を行い、個に応じた指導などの工夫をした「わかる授業」を一層推進するとともに、「総合的な学習の時間」などを通じて体験的・問題解決的な学習活動を展開することを求めたいのである。

ページの先頭へ