現行の教員免許制度は,教育職員免許法に規定され,学校種別,教科別等に区分されており,教員は,免許法により授与される各相当の免許状を有する者でなければならず,いわゆる「相当免許状主義」が採られている。
特別非常勤講師制度,免許外教科担任の許可,特殊教育諸学校の教員にかかる特例,中学校免許状による小学校専科教科担任,高等学校免許状による中学校での教授,自立活動に係る免許状の特例等の例外措置は,現行制度上,既に教員免許状が弾力化されている例ということができる。
教員養成を行っている大学においては,複数の校種の教員免許課程の認定を受けている大学があることから,所定の単位を修得することにより,複数校種の免許状を取得する者も多数存在する。
幼児児童生徒の様々な変化や高等学校への進学率の状況を踏まえたとき,幼児期から高等学校段階までを一貫したものととらえて指導を行うことが必要であり,各学校段階間の連携を一層強化することが求められている。この観点から,教員が他校種で教授できるような弾力的な制度を創設することも必要であるとともに,教員が隣接する学校種の免許状の併有を促進する制度の創設や幼稚園,小学校,中学校,高等学校の学校種を越えた総合的な免許状の可能性が検討課題となる。
特殊教育については,特に近年,児童生徒等の障害の重度・重複化や多様化が急速に進んでいる中で,障害のある児童生徒等の一人一人のニーズを把握し,特別な教育的ニーズに応じた教育を推進することが必要である。今後,複数の障害に対応した専門性と実践的指導力を有する教員を養成するため,盲・聾養護学校のすべての校種において教授することを可能とする総合的な免許状の創設を検討することが喫緊の課題となっている。
幼稚園・小学校・中学校・高等学校免許状の総合化について検討するためには,教育要領・学習指導要領の構造分析を含め,それぞれの免許状を取得するにあたって履修すべき科目について固有の専門性を有する部分と共通する部分についての整理,及び,心身の発達や生徒指導等に関する部分について,子どもの発達段階から見て,幼稚園・小学校・中学校・高等学校の教員に共通の部分及び固有の専門性を有する部分の分析が不可欠である。そのため,今後,中長期的課題として,専門的・学術的な調査研究を進める必要がある。
障害を持つ児童生徒等の重度・重複化等の課題に対応するため,盲・聾養護学校の免許状の総合化を早期に行うことが必要である。
専修免許状はある特定の分野の単位を修得した場合に取得するものとし,その修得単位の分野を適切に示すものとするよう改善すべきであるが,専修免許状の種類を専攻分野別の区分とするのは将来的な課題とし,現時点においては,現在の学校種教科別は維持しつつ,専修免許状に,免許状取得のために履修した専攻分野を記載することにより,専修免許状の専門性(教員の得意分野)を明確にすることが必要である。
現在,中学校の音楽,美術等の免許状に限られている他校種免許状による小学校での専科担任制の分野の限定等を撤廃し,例えば,中学校又は高等学校理科免許状を有する教員が小学校の理科等を担任できるようにするなどの措置を行う。
中学校又は高等学校外国語免許状や高等学校情報免許状を有する教員などが小学校の総合的な学習の時間で教授できる方策を検討する。
現職教員が他校種免許状を取得できる機会を拡大し,複数校種の免許状を併有する者の増加を図るため,隣接校種免許状の取得を促進する制度を創設する。
盲・聾養護学校の別となっている特殊教育諸学校免許状の総合化については,早急に実現すべき課題として,教員養成部会に専門委員会を設けて具体的な検討を進めることとする。
専修免許状に記載すべき大学院等での専攻分野の区分を免許法施行規則に具体的に規定する。
子どもたちに基礎・基本を確実に身に付けさせ,自ら学び自ら考える力などの「生きる力」を育成し,「心の教育」の充実と「確かな学力」の向上を実現することが求められており,教員にはこれらの要請にこたえられるよう,一層の指導力や力量の向上が求められる。一方で,一部の問題教員,指導力不足や研修に不熱心な教員,保護者や地域住民とのコミュニケーションが成り立たない学校や教員が不信感を生んでいる。そこで,教員をめぐる状況を踏まえ,教員免許更新制の導入を議論するに当たって,適格性の確保,専門性の向上,信頼される学校づくりの三つの視点を設定した。そして,免許更新制の導入の目的をとに置いて制度を想定し,その導入の可能性を検討した。
任命権者である都道府県教育委員会等が,知識・技能を判断するための学力試験及び人物を判断するための面接試験等を中心とした選考を実施し,教員として適格性のある者を教員の職に任命している。
国家公務員及び地方公務員度において,職員についての勤務成績を評定し,人事管理の資料として活用されることとなっている。
一般職の公務員の採用は,すべて条件付のものとし,その職員がその職において6か月を勤務し,その間その職務を良好な成績で遂行したときに初めて正式採用となるが,教員については,教育公務員特例法により条件付採用期間が1年間となっている。
公務員組織内における秩序維持のために一定の義務違反に対してその責任を追及し制裁を科すること。職員に,法令違反,職務上の義務違反又は職務怠慢,全体の奉仕者たるにふさわしくない非行があった場合において,戒告,減給,停職又は免職の処分をすることができる。
勤務実績が良くない場合等一定の事由がある場合には,職員の意に反する身分上の変動(降任,免職,休職,降給)をもたらす処分。
分限免職又は分限休職までには至らないが,児童生徒への指導が不適切である県費負担教職員について,研修等必要な措置が講じられたとしてもなお児童又は生徒に対する指導を行うことができないと認められる場合には,市町村立学校の教員を免職し,引き続き都道府県の教員以外の職に採用することができる。
教員は職責遂行のため絶えず研修に努めなければならず,任命権者は計画的にその実施に努めなければならないこととされており,教員の任命権者である各都道府県・指定都市教育委員会をはじめとして各教育委員会において,初任者研修,教職経験者研修等の教職経験に応じた研修,職能に応じた研修,専門研修等様々な体系的な研修を実施している。
免許更新制の可能性について検討する視点として,その目的を,教員の適格性確保に置く場合と教員の専門性向上に置く場合とに分けて,その仕組みを想定し検討する。
免許状にある一定の有効期限(例えば10年間)を付し,更新時に教員としての適格性を判断する制度の可能性について検討する。
これまで,公務員全体について分限制度がうまく機能しなかったことから,教員免許に更新制を導入することができれば,適格性を欠く教員への対処が格段に進む可能性が広がる。
現行の教員免許制度において,免許状は大学において教科,教職等に関する科目について所要単位を修得した者に対して授与されるものであり,免許状授与の際に人物等教員としての適格性を全体として判断していないことから,更新時に教員としての適格性を判断するという仕組みは制度上とり得ず,このような更新制を可能とするためには,免許授与時に適格性を判断する仕組みを導入するよう免許制度自体を抜本的に改正することが前提となる。
また,更新時のメルクマールは分限制度がよるべき基準と類似のものとなると考えられ,このためには,更新制の導入以前の課題として分限制度を有効に機能させていくことが不可欠である。
免許状にある一定の有効期限(例えば10年間)を付し,更新時までに教員に新たな知識技能を修得させるための研修を義務付けることにより免許を更新する制度の可能性について検討する。
科学技術や社会の急速な変化に伴い,教員としての専門性の維持向上を図るには教員一人一人の不断の努力が不可欠であるが,教員免許の更新制が導入され,更新のために厳しい研修を課すことができるならば,個々の教員がその 力量の維持向上のため日々研に努めることになり,教員の研修全体が活性化する。
主な資格においても有効期限を付しているものは存在しないこととの比較,一般的な任期制を導入していない公務員制度全般との調整の必要性等の制度上,実効上の問題がある。また,免許状の一定の資質能力を公に証明するという機能から,現職教員に更新制の対象を絞ることができず,人によって研修内容に差異を設けることにも一定の限界があることから,教員の専門性向上のためという政策目的を達成するには必ずしも有効な方策とは考えられない。
以上観てきたように,現時点における我が国全体の資格制度や公務員制度との比較において,教員にのみ更新時に適格性を判断したり,免許状取得後に新たな知識技能を修得させるための研修を要件として課すという更新制を導入することは,なお慎重にならざるを得ないと考える。
今後,科学技術や社会の急速な変化等に伴い,我が国の資格制度全体について,一度取得した資格が生涯有効でよいかという議論も生じる可能性があると考えられる。このような状況が生じ,教員免許の更新制を検討する場合には,我が国全体の資格制度や公務員制度との調整という問題に加え,一定の単位の修得のみをもって一般大学・学部においても教員養成を行っている現行の開放制を含めた教員免許制度全体の抜本的見直しも視野に入れた検討が必要となろう。
指導力が著しく不足する等,教員として適格性に問題があるものを教壇に立たせないようにすることについては,現行の分限制度等の的確な運用によって対応することが適切であり,すべての都道府県・指定都市教育委員会において指導力が不足する教員等に対する人事管理システムを早急に構築すべきである。
現行の免許法において,現職教員については,「懲戒免職の処分を受け,その情状が重いと認められるときに限る」とされているが,「その情状が重いと認められるとき」を要件からはずすこと,現職教員が,国家公務員法又は地方公務員法の規定に基づき,分限免職の処分を受けた場合には,免許状を取り上げることができるものとすること,現在は2年とされている取り上げられてから授与を受けることができるまでの期間を延長することを他の制度との整合性や私立学校教員への適用の在り方を考慮しつつ検討する。
より適格性を有する教員を確保するため,各都道府県教育委員会等において選考方法をより一層工夫することにより,教員志望者の人物を重視する方向で選考方法の一層の改善を推進することが必要である。
教員が中堅段階に進んでいく期間の中でも,特に重要な時期である教職経験10年を経過した教員に対し,勤務成績の評定結果や研修実績等に基づく教員のニーズ等に応じた研修を各任命権者が行うものとする。すなわち,一定の力量を備えた教員に対しては,さらに指導力を高めるための研修や,これからの学校や教員に求められるマネジメントや学校の説明責任に関する素養を身に付ける研修などその得意分野作りを促し,苦手分野や弱点を抱えている教員に対しては,その分野の必要な指導力等を補うことのできるような,個々の教員の力量に応じた研修を各任命権者において実施することとする。
教員の資質能力の向上にとって,日々の職務を通した校内研修は特に重要であり,校長のリーダーシップの下,各学校において,教授技術,教材研究,各学校や地域の具体的な教育課題等について,各教員が相互に評価し合うことなどが必要である。
教員においても,勤務時間外などを積極的に活用し,自費で様々な研修に取り組むことが求められるとともに,研究授業を実施したり,学会や研究会において研究論文を発表するなどの自主的・主体的な取組が求められる。また,教員の自主研修を支援する大学と教育委員会・学校との連携による取組も一層促進されることが期待される。
各教員の研修実績については,研修歴を作成し,これを自己努力と得意分野を示す一種の研修修了書や研修証明書として活用することも考えられる。この修了書や証明書については,特色ある学校づくりを進めている学校への教員の赴任希望申告として活用したり,保護者や地域住民に自らの得意分野をアピールし社会的評価を得る資料として活用する方策を今後検討することが望まれる。校長にも学校運営の中で個々の教員の研修成果が校務分掌等に生かされるよう努めることが求められる。
研修成果は一般に研修後の教員の授業や学級経営等の諸活動において力量の向上が見られたかどうかによって測られるものであり,研修後の勤務実績の評定が適切に行われ,その後の教員に対する指導や研修計画に生かされるよう努めることが必要である。身に付けた知識技能を当該研修の過程で測ることが可能な研修については,その評価についても積極的に行い,その後の教員に対する指導等に生かしていくことが必要である。研修やその成果についての評価については,新たな教職10年を経過した教員の研修においても適切に実施されることが必要である。
信頼される学校づくりには,学校は保護者や地域住民に積極的に情報を公開し共通理解を得る努力が不可欠である。このため,校長や教員には説明責任を果たす力量の向上が不可欠であるが,このような力量は,組織としての学校づくりを進める中,主に日々の職務によって形成し得るものであり,また,学校が日常的に地域に開かれ,外から常に観られる環境にあることも必要である。したがって,学校と学校外との双方向のコミュニケーションを拡充することが必要であり,次のようなことが求められる。
学級担任には,学校及び学級の教育目標,授業の進め方や子どもたちの様子,これらの教育成果等について保護者に十分説明し,保護者の意向も把握しつつその理解を深める日常的な努力が極めて重要である。このような教員の努力を支援する校長のリーダーシップに期待するとともに,教員一人一人は,このような説明責任を果たす力量の向上が必要である。
保護者や地域住民の学校への理解を深め,その信頼が得られる学校づくりには,予定された日時ではなく,いつでも保護者や地域住民が観にこれるよう,授業の公開を拡大していくことが最も効果的な方策である。
地域住民等が学校運営に参画する仕組みである学校評議員制度等については,その設置が一層促進されることが望ましい。また,校長は学校評議員に対し学校の活動状況等について十分説明を行って,学校の教育方針・教育目標や成果についての共通理解を図るとともに,学校運営に対する提案や提言をもらうよう運営されることが必要である。
学校と学校外との双方向のコミュニケーションの成立を確実にするため,学校の自己点検・自己評価の実施とその結果を保護者や地域住民等に公表する学校評価システムを早期に確立することを提言する。各都道府県教育委員会等において,学校や地域の実情に応じた評価を行うための具体的方策について,先進的な取組を参考にしつつ,調査研究を進め,自己点検・自己評価の実施とその結果の公開の進展に併せ,外部評価が加味され,外部評価の導入へと段階的に進めていくことが求められる。
教員がその資質能力を向上させながら,それを最大限発揮するためには,教員一人一人の能力や実績等が適正に評価され,それが配置や処遇,研修等に適切に結びつけられることが必要である。このため,各都道府県教育委員会等において教員の勤務評価について,公務員制度改革の動向を踏まえつつ,新しい評価システムの導入に向け,早急に検討を開始することを提言する。
今日,学校教育において,情報化,国際化等の社会の変化に対応し,児童・生徒の多様な興味・関心に積極的にこたえつつ,児童・生徒に生きた社会に触れる機会を与え,社会との関わり方を身につけさせていくことは極めて重要な課題となっており,優れた知識・技術をもつ学校外の社会人を学校教育に積極的に活用していくことが必要である。
学士の学位,担当する教科の専門的知識・技能,社会的信望,熱意と識見を持つ者に対し,その者を教員として任命又は雇用しようとする者の推薦に基づき,学識経験者からの意見聴取を経て,教育職員検定により授与される特別免許状は,5年以上10年以内で教育委員会規則で定める期間,授与した都道府県内のみで有効となっている。
社会経験を有する人材の学校現場への招致を目的として,教科の領域の一部等を担任する非常勤講師について,都道府県教育委員会にあらかじめ届け出て免許状を有しない者を充てることができる制度。
小学校,高等学校の教科の一部(看護,情報,福祉)又は教科の領域の一部(柔道,剣道,情報技術,建築,インテリア,デザイン,情報処理,計算 実務),特殊教育に関する免許(盲・聾養護学校の自立活動)について文部科学省が実施する資格試験の合格者に免許状を授与。
特別免許状の性格から,学歴よりその専門性を評価することが重要であるため,特別免許状の授与要件として,学士の学位を求めない。
特別免許状を授与する場合,学識経験者から意見聴取を行うこととされている手続を,免許状の授与権者として教育職員検定を行う都道府県教育委員会の判断に委ねることができるよう検討すべきである。
特別免許状の授与を受ける者の身分の安定を図るため,特別免許状の有効期限を撤廃する。また,これに伴い,教員資格認定試験の在り方については,廃止することを含めその見直しを行うことが必要である。
特別免許状は普通免許状と同じ教諭の免許状であることから,臨時免許状の授与要件を,「普通免許状又は特別免許状を有する者を採用することができない場合に限り」とするよう検討すべきである。
都道府県教育委員会等においては,新卒者とは別の,例えばその者の民間企業等での勤務経験を適切に評価するような,社会人特別選考の実施を促進すべきであり,また,その中で教員免許状を持たない社会人に特別免許状の授与を前提とした特別選考の実施を検討すべきである。
特別免許状は,社会人として培った知識・技能を活用するという性格から,社会での実務経験が強く生かされる,工業,商業,看護,情報,福祉,理科,公民等の教員について活用を検討すべきである。
教員定数を使って非常勤講師を任用する場合など,非常勤講師に対しても,特別免許状の授与を促進することが望まれる。