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2  教員免許更新制の可能性

1.教員免許更新制をめぐる背景と検討の視点

  教育改革が進む中,子どもたちが真に楽しいと感じる学校,楽しいと感じる授業,よくわかる授業を実現することは,保護者や地域住民をはじめとする国民の願いであり,その実現は,学校としての組織的な取組や一人一人の教員の熱意や指導力にかかっていると言って過言ではない。特に,近年の都市化,核家族化等に伴い,総じて家庭や地域の教育力が低下しているが,保護者や地域住民の学校や教員に対する期待は非常に大きくなっている。このような期待が高まる中,平成12年12月,教育改革国民会議最終報告において,「教師の意欲や努力が報われ評価される体制をつくる」観点からの提言の一つとして,「教員免許更新制の可能性の検討」が提言された。
  今,学校には何が期待され,子どもたちはどのような状況にあるのだろうか。そして,教員には何が求められているのだろうか。
  学校には新しい学習指導要領のもと,基礎・基本を確実に身につけさせ,自ら学び自ら考える力などの「生きる力」を育成し,「心の教育」の充実と「確かな学力」の向上を実現することが求められている。今の子どもたちは,概して,自分に自信がない,やりたいことが見つからない,自己実現の喜びを味わう機会がないと言われている。子どもたちのやる気を引き出し,良い点を伸ばすことにより,単なる知識の詰め込みではなく,基礎・基本をきちんと身に付けさせ,自ら考える力をはぐくみ,確かな学力を育てることによって,すべての子どもたちがのびのびと多様な個性を発揮できるよう教育していくことが期待される。また,道徳教育の充実や,社会奉仕体験活動・自然体験活動などの体験活動等を促進することによって,心豊かな日本人をはぐくむことが求められる。本年度から実施されている教職員定数改善計画により,少人数授業やティームティーチングなど,子どもたちのニーズに応じた発展的学習や補充的学習のための条件整備が進み,学力向上に向けた指導の充実が課題となっている。同時に,総合的な学習の時間の展開など各学校で特色を生かした教育が一層求められる中で,各教員の意欲や得意分野を発揮する機会が増えていくと考える。教員にはこれらの要請にこたえられるよう,一層の指導力や力量の向上が求められる。
  また,科学技術や社会の急速な変化に伴い,教員免許が終身有効であることを見直すべきとの意見もある。これは,このような状況において,教員としての専門性の維持向上を図るには,教員一人一人の不断の努力と主体的な取組が一層強く求められるとの考えに基づくものと解される。
  一方,児童生徒等に対するわいせつ行為や体罰など一部教員の不祥事は,わかる授業,子どもたちにとって楽しい学校づくりに日々努力している数多くの教員の志気を低下させるとともに,これら一部教員のために教員社会全体が批判に晒されている。たしかに,保護者とのコミュニケーションがうまくいかなかったり,指導力不足が指摘される教員が存在することも事実である。教員には教材研究をはじめ自己研鑽が不可欠であるのにもかかわらず,研修に消極的な教員の姿も一部見られる。さらに,複雑な要因が絡み合ってはいるものの,いじめ,不登校,校内暴力等の問題行動が深刻な状況にある。保護者や地域住民の期待に学校や教員が十分にこたえきれておらず,大きな期待の裏返しとして不信感を生んでいることも否定できない。地域に開かれた学校づくりを進め,保護者等への説明責任を果たせるようにしていくことが課題であろう。
  多くの教員が子どもたちのために一生懸命努力し,使命感や情熱を持って優れた教育成果をあげている教員も少なくない。しかしながら,一方で,いわゆる問題教員の存在,保護者とのコミュニケーション不足,家庭でのしつけ不足や教育力低下,学校や教員に対する過大な期待などがあいまって,学校や教員をめぐるある種の閉塞感のようなものが生じており,それを打開する方策が求められている。
  以上のような教員をめぐる状況を踏まえ,我々は,教員免許更新制の導入の可能性を議論するに当たって,次のような視点を設定し,検討することとした。すなわち,今教員に求められているのは,1教職への使命感,情熱を持ち,子どもたちとの信頼関係を築くことのできる適格性の確保であり,2教科指導,生徒指導等における専門性の向上である。そして,これからの学校に求められるのは,説明責任を果たすことを通じての3信頼される学校づくりであると考える。このような学校づくりを支えるべき教員には,1及び2の教員の適格性の確保や専門性の向上を当然としつつも,新たな資質能力が求められているのではないかと考える。
  本審議会としては,教員免許更新制の導入の目的を,これら三つの視点のうち個々の教員の基本的な資質に直接かかわる上記1及び2の二つに置いて制度を想定し,その導入の可能性を検討した。また,これら三つの視点について検討を行い,教員の資質向上に向けて実効性ある具体的方策を模索した。我々は,一部の適格性を欠く教員には厳しく対処していく一方,とかく閉鎖的であるとされる学校組織や教員社会に良い意味での緊張感を醸成し,子どもたちのために日々地道に努力している教員を適切に評価することによって,多くの教員の士気を高めその専門性の向上を促したいと考えている。

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2.  教員の適格性確保や専門性向上にかかわる制度

  教員免許更新制の可能性を検討するに当たり,まず,国立学校及び公立学校の教員の適格性確保や専門性向上にかかわる現行の制度について概観する。

(1)採用制度

  任命権者である都道府県・指定都市教育委員会が,教員として有すべき知識・技能を判断するための学力試験及び人物を判断するための面接試験等を中心とした選考を実施し,教員として適格性のある者を教員の職に任命している(教育公務員特例法第13条)。近年,採用の段階で教員にふさわしい優れた人材を確保するため,人物評価重視の方向で採用選考の改善が進んでいる。

(2)教員の勤務を評価するための制度(勤務評定)

  国家公務員の勤務評定制度については,国家公務員法第71条及び第72条,それに基づく人事院規則10−2(勤務評定の根本基準)等において,地方公務員の勤務評定制度については地方公務員法第40条において定められており,職員についての勤務成績を評定し,人事管理の資料として活用されることとなっている。
  なお,公務員の人事評価システムについては,昨年3月に人事院の「能力,実績等の評価・活用に関する研究会」が「公務員の新人事評価システム」について報告書を取りまとめている。この報告書においては,公務員のための新人事評価システムが提案されており,新たな評価システムの必要性や,評価システムの機能や構成,評価結果の人事管理諸制度への活用とともに,評価の具体的な仕組み,実施方法や評価票及び導入に当たっての手順や支援体制の整備等について,幅広い検討の結果が示されている。
  また,昨年12月には,国民の立場から公務員制度を抜本的に改革することにより,行政の在り方自体を改革することを目指して,「公務員制度改革大綱」が閣議決定された。この大綱においては,新たな公務員制度として,能力等級制度の導入,能力・職責・業績を反映した新給与制度の確立とともに,現行の勤務評定制度に替え,「能力評価」と「業績評価」から成る公正で納得性の高い新たな評価制度の導入が掲げられている。

(3)現職教員の適格性を確保するための制度

1  条件付採用制度

  一般職の公務員の採用は,すべて条件付のものとし,その職員がその職において6か月を勤務し,その間その職務を良好な成績で遂行したときに初めて正式採用となる(国家公務員法第59条,地方公務員法第22条)。教員については,教育公務員特例法により条件付採用期間が1年間となっている(同法第13条の2)。

2  懲戒制度

  公務員組織内における秩序維持のために一定の義務違反に対してその責任を追及し制裁を科すること。職員に,1法令違反,2職務上の義務違反又は職務怠慢,3全体の奉仕者たるにふさわしくない非行があった場合において,戒告,減給,停職又は免職の処分をすることができる(国家公務員法第82条,地方公務員法第29条)。

3  分限制度

  勤務実績が良くない場合等一定の事由がある場合には,職員の意に反する身分上の変動(降任,免職,休職,降給)をもたらす処分(国家公務員法第78及び79条,地方公務員法第28条)。

4  他職種への転職制度

  分限免職又は分限休職までには至らないが,児童生徒への指導が不適切である県費負担教職員について,研修等必要な措置が講じられたとしてもなお児童又は生徒に対する指導を行うことができないと認められる場合には,市町村立学校の教員を免職し,引き続き都道府県の教員以外の職に採用することができる制度(地方教育行政の組織及び運営に関する法律第47条の2)で,平成14年1月11日から施行されている。 
  なお,指導力が不足している教員等については,継続的な観察・指導を実施して研修を行う体制を整えるとともに,必要に応じ分限制度を的確に運用することが必要である。このため,文部科学省では,平成13年度には,このような教員に対応する人事管理システムを構築するための実践的な調査研究事業をすべての都道府県・指定都市教育委員会に委嘱して実施している。

(4)現職教員の専門性向上のための制度(研修制度)

  教員は職責遂行のため絶えず研修に努めなければならず,任命権者は計画的にその実施に努めなければならないこととされている(教育公務員特例法第19条)。これは,教員の資質能力が養成,採用,研修の各段階を通じて伸長が図られるものであり,現職教員段階においては,大学での養成段階で身に付けた資質能力を,職務と研修を通じて更に高めることが求められるからである。
  このため,教員の任命権者である各都道府県・指定都市教育委員会をはじめとして各教育委員会において,初任者研修,教職経験者研修等の教職経験に応じた研修,職能に応じた研修,専門研修等様々な体系的な研修を実施している。
  各都道府県・指定都市教育委員会等が実施している現職教員に対する研修の概要は,以下のとおりである。

1  初任者研修

  初任者の時期は,大学における養成段階と学校現場における実践とをつなぐ重要な時期であり,この時期に教職への自覚を高め,自立した教育活動を展開していく素地を作るため,組織的,計画的な教職研修を実施する必要がある。こうした認識の下,国・公立学校の教員の現職研修の最初の段階に位置付けられる制度として,昭和63年に初任者研修制度が創設され,平成元年度から学校種ごとに段階的に開始され,平成4年度からは,小学校・中学校・高等学校・特殊教育諸学校の教諭の初任者を対象に実施されている。
  初任者研修においては,指導教員の指導・助言による校内研修(週2日・年間60日程度)及び教育センター等における受講,他校種参観,社会教育施設・社会福祉施設等の参観,ボランティア活動体験等の校外研修(週1日・年間30日程度)が実施されている。

2  教職経験者研修

  教職経験に応じた研修は,初任者研修とともに研修体系の基本を成すものと位置付けられ,5年,10年,20年等といった一定の教職経験を有する教員全員を対象として実施されている。
  各都道府県・指定都市における教職経験者研修の実施状況は,平成12年度小・中学校教諭について見ると,59県市中,5年経験者研修は全県市,10年経験者研修は49県市,15年経験者研修は19県市,20年経験者研修は9県市で実施されている。
  内容面に関しては,平成12年度の講座数で見ると,5年経験者研修では教科指導が,10年経験者研修では教科指導及び情報教育が,15年経験者研修では生徒指導・教育相談が重視されている。また,管理職に近い20年経験者研修では,学校経営及び情報教育に関する研修の割合が高くなっている。

3  中堅教員の研修

  中堅教員の研修には,職能に応じた研修としての主任研修や教科に関する専門的な知識・技能を身に付けることを目的とした専門研修などがあり,主として各都道府県・指定都市教育委員会が実施している。国レベルにおいても,中堅教員を対象とした中央研修講座を実施している。

4  管理職研修

  管理職研修は,校長,教頭及びそれらの候補者を対象に実施する研修で,主として各都道府県・指定都市教育委員会が実施しているが,国レベルにおいても,校長・教頭を対象とした中央研修講座を実施している。

5  長期社会体験研修

  近年,視野の拡大,対人関係能力の向上等を目的として教員を民間企業,社会福祉施設等学校以外の施設等へおおむね1か月から1年程度派遣して行う長期社会体験研修の機会が拡大しており,平成13年度(計画)は72県市で1,292人の教員が派遣されている。

6  大学院修学休業制度

  教員の自主的・主体的研修活動の機会を拡充するため,国公立学校の教員が,大学院等で学び専修免許状を取得するため,1年から3年の間休業することができる大学院修学休業制度が平成12年4月の教育公務員特例法等の一部改正により創設され,平成13年4月現在,全国で155人の教員がこの制度により大学院に修学している。

7  上位免許状の取得(上進制度)

  国立,公立,私立に共通のものとしては,現職教員の研修意欲を高め,資質能力の向上を図るため,教育職員免許法において,所定の在職年数と免許法認定講習等による単位取得により,教育職員検定で上位の免許状を取得できることとなっており,現職教員の研修等が免許状に反映される仕組みとなっている。
  現職研修の見直しについては,平成11年の教育職員養成審議会第3次答申において,現職研修の現状,問題点を指摘した上で,具体的改善方策を提言している。具体的には,初任者研修については,校内研修の実施体制が確立していなかったり,その内容が画一化している例があることなどの問題点を指摘し,初任者の指導教員が指導事務に専念できるよう適切な校務分掌等の措置を講ずることや,校内研修の内容を個々の初任者の経験や力量に応じたものにすることなどの改善方策を提言している。また,教職経験者研修についても,その内容・方法が画一化され,教員のニーズに応じた研修の機会が少ないことなどの問題点を指摘し,教員のニーズや学校の課題等に応じて多様な選択ができるようにするなど今日的な観点から内容・方法の見直しを図ることなどの改善を各教育委員会に促している。

  国立学校及び公立学校の教員の適格性確保や専門性向上にかかわる現行制度の概要は以上であるが,私立学校の教員においては,使用者の判断により,採用,人事管理等を通じてその適格性の確保や,研修を通じてその専門性の向上が図られている。

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3.教員免許更新制の可能性の検討

  • (1)検討の視点  教員免許更新制の可能性について検討する視点として,その目的を,1教員の適格性確保に置く場合と2教員の専門性向上に置く場合とに分けて,その仕組みを想定し検討する。
  • (2)教員の適格性確保のための制度としての可能性
    • 1  形態
        免許状にある一定の有効期限(例えば10年間)を付し,更新時に教員としての適格性を判断する制度の可能性について検討する。
    • 2  意義
        これまで,公務員全体について分限制度がうまく機能しなかったことから,教員免許に更新制を導入することができれば,適格性を欠く教員への対処が格段に進む可能性が広がる。
    • 3  検討
        現行の教員免許制度において,免許状は大学において教科,教職等に関する科目について所要単位を修得した者に対して授与されるものであり,免許状授与の際に人物等教員としての適格性を全体として判断していないことから,更新時に教員としての適格性を判断するという仕組みは制度上とり得ず,このような更新制を可能とするためには,免許授与時に適格性を判断する仕組みを導入するよう免許制度自体を抜本的に改正することが前提となる。
        また,更新時のメルクマールは分限制度がよるべき基準と類似のものとなると考えられ,このためには,更新制の導入以前の課題として分限制度を有効に機能させていくことが不可欠である。
  • (3)教員の専門性を向上させる制度としての可能性
    • 1  形態
        免許状にある一定の有効期限(例えば10年間)を付し,更新時までに教員に新たな知識技能を修得させるための研修を義務付けることにより免許を更新する制度の可能性について検討する。
    • 2  意義
        科学技術や社会の急速な変化に伴い,教員としての専門性の維持向上を図るには教員一人一人の不断の努力が不可欠であるが,教員免許の更新制が導入され,更新のために厳しい研修を課すことができるならば,個々の教員がその力量の維持向上のため日々研鑽に努めることになり,教員の研修全体が活性化する。
    • 3  検討
        一般的な任期制を導入していない公務員制度全般との調整の必要性等の制度上,実効上の問題がある。また,免許状の一定の資質能力を公に証明するという機能から,現職教員に更新制の対象を絞ることができず,人によって研修内容に差異を設けることにも一定の限界があることから,教員の専門性向上のためという政策目的を達成するには必ずしも有効な方策とは考えられない。以上見てきたように,現時点における我が国全体の資格制度や公務員制度との比較において,教員にのみ更新時に適格性を判断したり,免許状取得後に新たな知識技能を修得させるための研修を要件として課すという更新制を導入することは,なお慎重にならざるを得ないと考える。今後,科学技術や社会の急速な変化等に伴い,我が国の資格制度全体について,一度取得した資格が生涯有効でよいかという議論も生じる可能性があると考えられる。このような状況が生じ,教員免許の更新制を検討する場合には,我が国全体の資格制度や公務員制度との調整という問題に加え,一定の単位の修得のみをもって一般大学・学部においても教員養成を行っている現行の開放制を含めた教員免許制度全体の抜本的見直しも視野に入れた検討が必要となろう。

(1)検討の視点

  教員免許更新制とは,免許状に有効期限を設け,一定の要件を満たした教員に免許状を再授与する制度である。これにより,教員の適格性を担保することや,専門性などの向上を図ることに主たる目的がある。
そこで,教員免許更新制の可能性について検討する視点として,その目的を,1教員の適格性確保に置く場合と2教員の専門性向上に置く場合とに分けて,その仕組みを想定し検討する。

(2)教員の適格性確保のための制度としての可能性

1  形態

  免許状にある一定の有効期限(例えば10年間)を付し,更新時に教員としての適格性を判断する制度の可能性について検討する。教員の適格性確保を目的としたより現実的な更新制の可能性を検討するため,併せて仮免許制度の可能性についても検討する。

2  意義

  適格性を欠く教員に対処する制度として分限制度(2.(3)3)がある。また,児童生徒等への対応が不適切な教員に対処する制度として,他職種への転職制度(2.(3)4)が創設された。
これまで公務員全体について分限制度がうまく機能しなかったことに任命権者等の苦悩がある。したがって,教員免許に更新制を導入することができれば,適格性を欠く教員への対処が格段に進む可能性が広がる。

3  検討

  現行の教員免許制度において,免許状は大学において教科,教職等に関する科目について所要単位を修得した者に対して授与されることとの関係が問題となる。すなわち,免許状授与の際に人物等教員としての適格性を全体として判断していないことから,更新時に教員としての適格性を判断するという仕組みは制度上とり得ない。
したがって,このような更新制を可能とするためには,免許授与時に適格性を判断する仕組みを導入するよう免許制度自体を抜本的に改正することが前提となろう。
  しかし,他の資格が身体能力を授与時に適格性の判断のメルクマールとして求めている(運転免許における視力検査等)が如く,そのような人物等教員としての適格性を客観的に判断できるようなメルクマールがあるのかという難しい課題がある。
  また,更新時のメルクマールは分限制度がよるべき基準と類似のものとなると考えられ,このためには,更新制の導入以前の課題として分限制度を有効に機能させていくことが不可欠である。
  仮免許制度(最初に授与を受けるのは更新不可の仮免許状とし,一定期間の勤務を経て本免許状を授与するもの)についても,採用後1年間の条件付採用制度(2.(1)1)の厳格な運用が求められる。
  なお,このほか,別添資料に掲げるような,一般的な任期制を導入していない公務員制度全般との調整の必要性等,制度上,実効上の問題がある。
  現在,文部科学省の委嘱によりすべての都道府県・指定都市教育委員会において指導力が不足している教員等に対する人事管理システムの構築に向けての実践的調査研究が進められている。そして,このようなシステムの構築により,分限制度等の適切な運用が進むと考えられ,今後,人事管理システムを構築するための取組が着実に進められるよう,注視していきたい。

(3)教員の専門性を向上させる制度としての可能性

1  形態

 免許状にある一定の有効期限(例えば10年間)を付し,更新時までに教員に新たな知識技能を修得させるための研修を義務付けることにより免許を更新する制度の可能性について検討する。
  仮に,教員の専門性向上を目的とした更新制の導入が可能であるならば,意義があることから,更に内容の濃い研修を行うために現職教員に限定してできないか,この場合において,専門性の向上という導入目的から,一律の研修ではなく,個々の教員の実態(指導力等)に応じて研修の内容に差異を設けることができないかについても併せて検討する。
  さらに,現行免許法に規定されている上進制度を活用した更新制の可能性についても検討する。

2  意義

 科学技術や社会の急速な変化に伴い,教員としての専門性の維持向上を図るには教員一人一人の不断の努力が不可欠であるが,教員免許の更新制が導入され,更新のために厳しい研修を課すことができるならば,個々の教員がその力量の維持向上のため日々研鑽に努めることになり,教員の研修全体が活性化する。

3  検討

 免許状は教員という一定の業務に従事するために必要な資格であり,この資格を失えば,教員としての身分を喪失する。このような性格の資格について,有効期限を付し更新時に新たな知識技能を修得させる研修という要件を課すことは,教員に免許状取得時に課されていなかった新たな要件を後で更に課すことになり,しかもこの新たな要件を満たすことができないときは,資格がはく奪され,その業務が遂行できなくなる可能性を生じることになるが,主な資格においても有効期限を付しているものは存在しないこととの比較において,教員にのみ有効期限を付すことは慎重な対応を要する。
  また,一般的な任期制を導入していない公務員制度全般との調整の必要性等の制度上,実効上の問題(別添資料参照)があるが,内容の濃い研修とするため更新制の対象を現職教員に限ること,また,その研修も一律のものではなく,教員の実態(指導力等)に応じ,研修内容に差異を設けることが可能であれば,導入の意義は十分あると考えられる。
  しかしながら,免許状はそれを有する者が職に就いていようがいまいが,一定の資質能力を公に証明するという機能に変わりがなく,したがって,現職教員のみを更新制の対象とすることは大きな困難が伴う。また,更新時の研修についても,同じ資格であればその更新のための研修も標準的でなければならないことから,人によって研修内容に差異を設けるには一定の限界がある。教員免許の上進制度(2.(4)7)を活用した更新制についても,同様である。
  このように現職教員に更新制の対象を絞ることができず,また,人によって研修内容に差異を設けることにも一定の限界があることから,教員の専門性向上のためという政策目的を達成するには必ずしも有効な方策とは考えられない。

以上見てきたように,現時点における我が国全体の資格制度や公務員制度との比較において,教員にのみ更新時に適格性を判断したり,免許状取得後に新たな知識技能を修得させるための研修を要件として課すという更新制を導入することは,なお慎重にならざるを得ないと考える。
  なお,主要先進諸国の中で教員資格,免許の更新制が導入されているのは,アメリカ合衆国のみであるが,その仕組みについては各州により異なっている。我が国におけるアメリカ型の更新制の適用可能性については,同国の各州の更新制度が教員の専門性向上ために有効に機能しているのかどうかを,研修プログラムの内容,研修実績の評価方法,教員評価システムとの連動,他の資格制度との関連等の観点から分析することが必要であろう。また,開放制の教員養成制度を採用している我が国において,更新制が開放制に及ぼす影響といった課題もあろう。
  今後,科学技術や社会の急速な変化等に伴い,我が国の資格制度全体について,一度取得した資格が生涯有効でよいかという議論も生じる可能性があると考えられる。このような状況が生じ,教員免許の更新制を検討する場合には,我が国全体の資格制度や公務員制度との調整という問題に加え,一定の単位の修得のみをもって一般大学・学部においても教員養成を行っている現行の開放制を含めた教員免許制度全体の抜本的見直しも視野に入れた検討が必要となろう。

 

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4.教員の資質向上に向けての提案

  • (1)教員の適格性を確保するために
    • 1  指導力不足教員等に対する人事管理システムの構築
      指導力が著しく不足する等,教員として適格性に問題があるものを教壇に立たせないようにすることについては,現行の分限制度等の的確な運用によって対応することが適切であり,すべての都道府県・指定都市教育委員会において指導力が不足する教員等に対する人事管理システムを早急に構築すべきである。
    • 2  教員免許状の取上げ事由の強化
      現行の免許法において,1現職教員については,「懲戒免職の処分を受け,その情状が重いと認められるときに限る」とされているが,「その情状が重いと認められるとき」を要件からはずすこと,2現職教員が,国家公務員法又は地方公務員法の規定に基づき,分限免職の処分を受けた場合には,免許状を取り上げることができるものとすること,3現在は2年とされている取り上げられてから授与を受けることができるまでの期間を延長することを他の制度との整合性や私立学校教員への適用の在り方を考慮しつつ検討する。
    • 3  人物重視の教員採用の一層の推進
      より適格性を有する教員を確保するため,各都道府県教育委員会等において採用選考方法をより一層工夫することにより,教員志望者の人物を重視する方向で選考方法の一層の改善を推進することが必要である。
  • (2)教員の専門性の向上を図るために
    • 1  新たな教職10年を経過した教員に対する研修の構築
      教員が中堅段階に進んでいく期間の中でも,特に重要な時期である 教職経験10年を経過した教員に対し,勤務成績の評定結果や研修実績等に基づく教員のニーズ等に応じた研修を各任命権者が行うものとする。すなわち,一定の力量を備えた教員に対しては,更に指導力を高めるための研修や,これからの学校や教員に求められるマネジメントや学校の説明責任に関する素養を身に付ける研修などその得意分野づくりを促し,苦手分野や弱点を抱えている教員に対しては,その分野の必要な指導力等を補うことのできるような,個々の教員の力量に応じた研修を各任命権者において実施することとする。
    • 2  学校における研修の充実
      教員の資質能力の向上にとって,日々の職務を通した校内研修は特に重要であり,校長のリーダーシップの下,各学校において,教授技術,教材研究,各学校や地域の具体的な教育課題等について,各教員が相互に評価し合うことなどが必要である。
    • 3  自主研修の活性化
      教員においても,勤務時間外などを積極的に活用し,自費で様々な研修に取り組むことが求められるとともに,研究授業を実施したり,学会や研究会において研究論文を発表するなどの自主的・主体的な取組が求められる。また,教員の自主研修を支援する大学と教育委員会との連携による取組も一層促進されることが期待される。
    • 4  研修実績の活用
      各教員の研修実績については,研修歴を作成し,これを自己努力と得意分野を示す一種の研修修了書や研修証明書として活用することも考えられる。この修了書や証明書については,特色ある学校づくりを進めている学校への教員の赴任希望申告として活用したり,保護者や地域住民に自らの得意分野をアピールし社会的評価を得る資料として活用する方策を今後検討することが望まれる。校長にも学校運営の中で個々の教員の研修成果が校務分掌等に生かされるよう努めることが求められる。
    • 5  研修の評価
      研修成果は一般に研修後の教員の授業や学級経営等の諸活動において力量の向上が見られたかどうかによって測られるものであり,研修後の勤務実績の評定が適切に行われ,その後の教員に対する指導や研修計画に生かされるよう努めることが必要である。身に付けた知識技能を当該研修の過程で測ることが可能な研修については,その評価についても積極的に行い,その後の教員に対する指導等に生かしていくことが必要であり,研修やその成果についての評価については,新たな教職10年を経過した教員の研修においても適切に実施されることが必要である。
  • (3)信頼される学校づくりのために
    信頼される学校づくりには,学校は保護者や地域住民に積極的に情報を公開し,共通理解を得る努力が不可欠である。このため,校長や教員には説明責任を果たす力量の向上が不可欠であるが,このような力量は,組織としての学校づくりを進める中,主に日々の職務によって形成し得るものであり,また,学校が日常的に地域に開かれ,外から常に見られる環境にあることも必要である。したがって,学校と学校外との双方向のコミュニケーションを拡充することが必要であり,次のようなことが求められる。
    • 1  学校からの情報提供の充実
      学級担任には,学校及び学級の教育目標,授業の進め方や子どもたちの様子,これらの教育成果等について保護者に十分説明し,保護者の意向も把握しつつその理解を深める日常的な努力が極めて重要である。このような教員の努力を支援する校長のリーダーシップに期待するとともに,教員一人一人は,このような説明責任を果たす力量の向上が必要である。
    • 2  授業の公開の拡大
      保護者や地域住民の学校への理解を深め,その信頼が得られる学校づくりには,いつでも保護者や地域住民が見に来られるよう,授業の公開を拡大していくことが最も効果的な方策である。
    • 3  学校評議員制度等の活用
      こ地域住民等が学校運営に参画する仕組みである学校評議員制度等については,その設置が一層促進されることが望ましい。また,校長は学校評議員に対し学校の活動状況等について十分説明を行い,学校の教育方針・教育目標や成果についての共通理解を図るとともに,学校運営に対する提案や提言をもらうよう運営していく必要がある。
    • 4  学校評価システムの確立学校と学校外との双方向のコミュニケーションの成立を確実にするため,学校の自己点検・自己評価の実施とその結果を保護者や地域住民等に公表する学校評価システムを早期に確立することを提言する。各都道府県教育委員会等において,学校や地域の実情に応じた評価を行うための具体的方策について,先進的な取組を参考にしつつ,調査研究を進め,自己点検・自己評価の実施とその結果の公開の進展に併せ,外部評価が加味され,外部評価の導入へと段階的に進めていくことが求められる。
    • 5  新しい教員評価システムの導入
      教員がその資質能力を向上させながら,それを最大限に発揮するためには,教員一人一人の能力や実績等が適正に評価され,それが配置や処遇,研修等に適切に結び付けられることが必要である。このため,各都道府県教育委員会等において教員の勤務評価について,公務員制度改革の動向を踏まえつつ,新しい評価システムの導入に向け,早急に検討を開始することを提言する。

  3.において教員免許更新制の可能性の検討を行ったが,1適格性の確保又は2専門性の向上のいずれの目的を達する上においても,導入には,なお慎重にならざるを得ないとの結論に至った。しかし,教員免許更新制の可能性の検討に当たり設定した三つの検討の視点,すなわち1.で述べた1教員の適格性の確保,2専門性の向上及び3信頼される学校づくりの三つの視点を,教員の資質向上にかかわる課題ととらえ,これらの解決に向けての取組が必要ではないかと考えた。そこで,国立学校及び公立学校の教員に関する制度を中心に幾つかの具体的な提案を行いたい。これらはそれぞれ単独のものとしてではなく,総合的に展開されることによって,より実効性あるものとなり得ると考える。

(1)教員の適格性を確保するために

1  指導力不足教員等に対する人事管理システムの構築

  免許更新制の導入目的のうち,指導力が著しく不足する等,教員として適格性に問題があるものを教壇に立たせないようにすることについては,更新制度ではなく,現行の分限制度等の的確な運用によって対応することが適切である。そのため,すべての都道府県・指定都市教育委員会において指導力が不足する教員等に対する人事管理システムを早急に構築すべきであり,現在文部科学省が都道府県・指定都市教育委員会に委嘱して実施している実践的な調査研究事業等を通じて,人事管理システムを構築するための取組が着実に進められるよう提言する。

2  教員免許状の取上げ事由の強化

  現在,現職教員の免許状の取上げは懲戒免職の処分を受けた場合で,かつ,その情状が重いと認められるときに限られている(免許法第11条)。この趣旨は,現職教員の身分保障の観点から規定されているものであるが,情状が重い場合に限られていることから,例えば,教員が児童生徒にわいせつ行為を行って懲戒免職された場合であっても,都道府県教育委員会の判断により免許状を取り上げないケースも見られた。しかし,懲戒免職となった教員については,すべて免許状の取上げ処分とすることについても検討すべきである。
  また,勤務実績が良くない場合,心身の故障のために職務の遂行に支障があり,又はこれに堪えない場合又はその職に必要な適格性を欠く場合(国家公務員法第78条第1号,第2号又は第3号,地方公務員法第28条第1項第1号,第2号又は第3号)に該当し分限免職の処分を受けた教員についても免許状の取上げ処分とすることの可能性を検討すべきである。さらに,現行法上は免許状の取上げから再授与を受けられるまでの期間が2年とされている(免許法第5条)が,教員として不適格な者が2年間で教職に復帰できる可能性があるというのは適当でない。
  したがって,現行の免許法において,1現職教員については,「懲戒免職の処分を受け,その情状が重いと認められるときに限る」とされているが,「その情状が重いと認められるとき」を要件からはずすこと,2現職教員が,国家公務員法第78条第1号,第2号若しくは第3号又は地方公務員法第28条第1項第1号,第2号若しくは第3号に基づき,分限免職の処分を受けた場合には,免許状を取り上げることができるものとすること,3現在は2年とされている取り上げられてから授与を受けることができるまでの期間を延長することを他の制度との整合性や私立学校教員への適用の在り方を考慮しつつ検討することを提案したい。

3  人物重視の教員採用の一層の推進

  2.(1)で述べたように,近年,採用の段階で教員にふさわしい優れた人材を確保するため,各都道府県教育委員会等で人物評価重視の方向で採用選考の改善が進んでいる。より適格性を有する教員を確保するため,教員採用に際しては,教育職員養成審議会第3次答申で提言されているとおり,学力試験については一定の水準に達しているかどうかを評価するために活用することにとどめ,面接試験を重視したり,様々な社会体験,ボランティア経験や教育実習以外の学校現場体験を評価するなど,各都道府県教育委員会等において選考方法をより一層工夫することにより,教員志望者の人物を重視する方向で選考方法の一層の改善を推進することが必要である。

(2)教員の専門性の向上を図るために

  更新制の導入目的のうち,専門性の向上については,これまで任命権者である都道府県教育委員会等を中心に研修の体系化に努めてきたところであるが,教員のライフステージに応じた研修を更に推進するため,任命権者が教員の資質能力の変化に対応して研修を実施するための制度を設けることが必要であると考える。このため,採用されてから教職経験10年を経過した全教員に対する研修を新たに構築することを提言する。
  なお,今回提言するのは,国立学校及び公立学校の教員についてであるが,私立学校においても教員のライフステージに応じ適時適切な研修を実施することが期待され,また,下記に提案する研修に私立学校教員の参加の機会が与えられることが望まれる。

1  新たな教職10年を経過した教員に対する研修の構築

  教員のライフステージを考えたとき,教職経験の各段階に応じた資質能力が求められる。これについては,平成11年の教育職員養成審議会第3次答申の23.において,初任者段階,中堅教員段階,管理職段階に分けて具体的に記述されている。
  このような教員のライフステージを念頭に置いた場合,初任者段階から中堅教員段階に進んでいく期間における資質向上が特に重要と考える。すなわち,中堅教員の段階においては,学級担任,教科担任として相当の経験を積んだ時期であり,学級・学年運営,教科指導,生徒指導等の在り方に関して広い視野に立った力量の向上が必要であり,若手教員への助言,援助など指導的役割が期待される。この段階に進んでいく期間において,教員は,一般に,様々な経験を通じることによって,教科指導や生徒指導等に関し,基礎的・基本的資質能力を確保し,一定の自信を持って臨むことができる力量を備えるとともに,各人の得意分野作りや個性の伸長を図り始めていくのであり,また,それが強く求められている。そして,これからの学校運営に必要とされるマネジメントや下記(3)で述べる学校の説明責任に関する素養もこの段階で身に付けることが必要である。
  また,2.(4)に述べたように,教育職員養成審議会第3次答申において,現在各都道府県教育委員会等で実施されている教職経験者研修については,その内容・方法が画一化され,教員のニーズに応じた研修の機会が少ないことなどの問題点が指摘されており,この点からも改善のための具体的方策が必要である。
  さらに,科学技術や子どもを取り巻く社会の急速な変化,これに伴う教育方法・技術の変化等に伴い,教員としての専門性の維持向上を図る観点から,一定の期間ごとに変化に対応するための研修を行うことも必要である。
  このため,この中堅段階に進んでいく期間の中でも,特に重要な時期である教職経験10年を経過した教員に対し,勤務成績の評定結果や研修実績等に基づく教員のニーズ等に応じた研修を各任命権者が行うものとする。すなわち,一定の力量を備えた教員に対しては,更に指導力を高めるための研修や,これからの学校や教員に求められるマネジメントや学校の説明責任に関する素養を身に付ける研修などその得意分野作りを促し,苦手分野や弱点を抱えている教員に対しては,その分野に必要な指導力等を補うことのできるような,個々の教員の力量に応じた研修を各任命権者において実施することとするものである。この研修においてなお指導力の改善を要すると認められた教員については,更にその指導力を高めるための個別の研修を行うことも可能であろう。これらの研修の具体の実施については,各都道府県教育委員会等の実情に応じ,教職経験10年を経過した者ではなく,例えば11年を経過した者を対象とすることも考えられ,実施時期についても一律にではなく,一定の期間(例えば,数年程度)内に該当するすべての教員に対する研修が実施されるよう計画的に進められることが考えられる。
  また,これらの研修は教育センター等において各都道府県教育委員会等が自ら実施するものに限らず,大学・大学院等との連携に基づき大学・大学院等の授業参加を研修に位置付けたり,民間組織等が開設する研修コース等を活用することによって,個々の教員の力量の向上のための研修プログラムを多彩かつよりきめ細かく整備することができよう。国においても,このような研修プログラムの整備のために財政的支援等適切な措置を講ずることが求められる。
  このように,この新たな教職経験10年を経過した教員に対する研修については,次のような点において従来型の教職経験研修とは内容を異にする。
  ア研修内容は,勤務成績の評定結果や研修実績等,教員のニーズに応じて決められるものや,時代の変化に対応したものであること。
  イしたがって,研修プログラムは,その期間,内容について,相当程度多様なものになり得ること。
  ウ研修プログラムは教育センターにおいて開設されるものばかりでなく,大学・大学院等の授業や民間組織等の研修コースも活用し,多彩であり,かつ選択の幅も考慮できるものとなること。

2  学校における研修の充実

  教員は日々の職務に傾注することにより様々な力量を身に付けるものであり,校内研修の充実は,教員の資質能力の向上にとって特に重要な意義を持つものである。このため,例えば,教授技術,教材研究,各学校や地域の具体的な教育課題等について,校長,教頭及び他の教員が日々の職務の遂行に必要な助言・協力を行ったり,教員が相互に日常の授業実践を公開し,評価し合ったりすることなどが必要である。その際,校長はそのリーダーシップを発揮し,校内研修の充実に向け,校務運営上,十分に工夫することが求められる。なお,教員の校内研修を支援する大学と教育委員会・学校との連携による取組も一層促進されることを望みたい。

3  自主研修の活性化

  学校現場における様々な教育課題に真摯に対応するために日々研鑽に努めている教員も少なくない。教員には,教育公務員特例法により研修に関する努力義務が課されており,個々の教員が自らの力量を高めていくためには,職務命令による研修だけではなく,このような教員自らの自主研修を奨励することが重要であることは言うまでもない。他の職業人が自己能力伸長のため様々な研修に自費で参加しているように,教員においても,勤務時間外などを積極的に活用し,自費で様々な研修に取り組むことが求められるとともに,研究授業を実施したり,学会や研究会において研究論文を発表するなどの自主的・主体的な取組が求められる。また,上記2と同様に,教員の自主研修を支援する大学と教育委員会・学校との連携による取組も一層促進されることを望みたい。

4  研修実績の活用

  研修実績については,例えば,大学院修学休業制度や科目等履修制度を活用した大学院での学修,青年海外協力隊への参加など社会貢献活動,新たな教員免許状の取得,民間組織等の開設する研修への参加によって得られた資格の取得なども考慮されるべきであろう。このような資質向上に向けての教員の自発的な取組にも期待したい。
  また,各教員の研修実績については,研修歴を作成し,これを自己努力と得意分野を示す一種の研修修了書や研修証明書として活用することも考えられる。この修了書や証明書については,特色ある学校づくりを進めている学校への教員の赴任希望申告として活用したり,保護者や地域住民に自らの得意分野をアピールし社会的評価を得る資料として活用する方策を今後検討することが望まれる。校長にも学校運営の中で個々の教員の研修成果が校務分掌等に生かされるよう努めることが求められる。このような取組ともあいまって,新たな教職10年を経過した教員に対する研修の導入が,教育職員養成審議会の提言する方向に沿った初任者研修を起点とする既存の研修体系の見直しや,教員の自主研修の一層の活性化を促進するものと考える。

5  研修の評価

  ここで,研修の評価の必要性について強調しておきたい。これまで初任者研修をはじめ任命権者等の実施する研修や,個々の教員の自主研修について,研修やその成果についての評価が十分になされてきたとは言えない。
  研修については,その成果について評価し,個々の教員に対するその後の指導や研修の在り方にフィードバックすることが求められる。
  研修成果は一般に研修後の教員の授業や学級経営等の諸活動において力量の向上が見られたかどうかによって測られるものであり,研修後の勤務実績の評定が適切に行われ,その後の教員に対する指導や研修計画に生かされるよう努めることが必要である。なお,この場合にあっても,研修においては受講するにとどまるだけではなく,研修後に必ずレポートを提出するとともに,その評価を受けることも求められる。研修内容によっては,例えば,情報機器の操作など,研修により身に付けた知識技能を当該研修の過程で測ることが可能と考えられるものがある。このような評価についても積極的に行い,その後の教員に対する指導等に生かしていくことが必要である。教科の指導力を育成する研修等を受けても,学校現場に戻ってから余り改善が見られない場合は,更に特別な研修を課すべきであり,それでもなお研修成果が現れない場合は,他職種への配置転換の措置につなげることも必要である。
  また,研修後の教員に対する評価結果を研修の在り方の検討に反映させ,研修プログラムを不断に改善していくことが求められる。さらに,研修やその成果については,教員自身もきちんと自己評価を行うことが求められよう。  これらの研修やその成果についての評価等については,1で述べた新たな教職10年を経過した教員に対する研修においても適切に実施されることが必要であろう。また,この機会に教員自身が進んで自己評価することにより,自らの適性や得意分野等について再確認することが望まれる。
  なお,個々の教員の自主研修についても,校長は計画段階及び事後に報告を受け,その努力について適正に評価するとともに,教員の自主研修計画に適切な助言を行うことが望まれる。

(3)信頼される学校づくりのために

  これからの学校は,校長のリーダーシップの下,多様な得意分野を持った教員が集まり,教員以外の専門性を有する職員と一緒になって,組織として力を発揮するとともに,地域に開かれ,地域と連携し,地域を挙げての学校づくりがますます重要となってきている。信頼される学校づくりには,学校は保護者や地域住民に積極的に情報を公開し,共通理解を得る努力が不可欠である。特に,各学校が地域の実態等を踏まえた特色ある教育を展開するためには,学校は教育目標や教育計画だけではなく,その目標の達成状況,例えば,子どもたちに目指す学力が身に付いたかなどについても保護者や地域住民に説明し,その理解を得る責任があることをしっかり認識する必要がある。そのことによって,保護者や地域住民は学校の力強いサポーターとなり,学校運営や学校の諸活動を共に支えてくれると考えられるからである。学校は閉鎖社会であるといった指摘や,学校組織や教員には緊張感が欠けているのではないかといった指摘がある。しかし,保護者や地域住民への説明責任を果たすよう努めることにより,共通の目標達成に向けての一体感が学校組織の中に生まれるであろう。また,このような信頼される学校づくりに向けた取組が,個々の教員の資質向上に極めて緊密な関係を有しており,それに大きく資するものであると言える。
  ここで,10年経験教員に対する研修をはじめ,自己研修を含む各種の研修と信頼される学校づくりとの関係について述べておきたい。教員の専門性向上を目指した研修成果は,個々の教員の力量だけではなく,組織としての学校づくりにも現れる。
  校長や教員には説明責任を果たす力量の向上が不可欠であるが,このような力量は,組織としての学校づくりを進める中,主に日々の職務によって形成し得るものであり,それに勝るものはない。また,学校が日常的に地域に開かれ,外から常に見られる環境にあることも必要である。したがって,学校と学校外との双方向のコミュニケーションを拡充することが必要であり,次のようなことが求められる。そして,これらの取組に対する教育委員会の一層の支援も必要となる。

1  学校からの情報提供の充実

  学校の教育方針を保護者が知ることができるのは,まず,学級担任を通してであろう。学級担任には,学校及び学級の教育目標,授業の進め方や子どもたちの様子,これらの教育成果等について保護者に十分説明し,保護者の意向も把握しつつその理解を深める日常的な努力が極めて重要である。このような教員の努力を支援する校長のリーダーシップに期待するとともに,教員一人一人は,このような説明責任を果たす力量の向上が必要である。
  また,学校の教育方針・教育方法や学級経営などについての情報は通常,定期的な学校便りや学級通信等によって保護者等に伝えられている。このような情報提供を行うに当たっては,学校として伝えたい情報だけでなく,保護者等の立場から見てどのような情報が求められているかを十分考慮して行われることが必要である。今後,インターネットを活用した保護者を含む地域住民への情報提供も充実することが求められる。

2  授業の公開の拡大

  保護者や地域住民の学校への理解を深め,その信頼が得られる学校づくりには,予定された日時ではなく,いつでも保護者や地域住民が見に来られるよう,授業の公開を拡大していくことが最も効果的な方策と考える。確かな学力を子どもたちにはぐくみ,心の教育の充実が求められている中で,教員としての力量を最も発揮し得る授業がいつでも見られる環境を作っていくことにより,教員や学校への信頼が深められると考える。保護者や地域住民のサポートが必要であれば,なおさら,学校や子どもたちの様子をありのままに見てもらいその協力を求めていくことが不可欠である。

3  学校評議員制度等の活用

  地域住民等が学校運営に参画する仕組みである学校評議員制度等については,その設置が一層促進されることが望ましい。また,学校評議員の活動に資するよう,校長は学校評議員に対し学校の活動状況等について十分説明を行って,学校の教育方針・教育目標や成果についての共通理解を図るとともに,学校運営に対する提案や提言をもらうよう運営していく必要がある。そのような運営によって,学校の力強いサポーターが生まれ,サポーターとしての意識の高まりも期待できる。

4  学校評価システムの確立

  我々は,以上述べてきたようなコミュニケーションの成立を確実にするため,学校の自己点検・自己評価の実施とその結果を保護者や地域住民等に公表する学校評価システムを早期に確立することを提言する。各都道府県教育委員会等において,学校や地域の実情に応じた評価を行うための具体的方策について,先進的な取組を参考にしつつ,調査研究を進めることを提案したい。そして,自己点検・自己評価の実施とその結果の公開の進展に併せ,外部評価が加味され,外部評価の導入へと段階的に進めていくことを求めたい。
  今後,公開授業の実施など保護者や地域住民とのコミュニケーションの拡充を図ることを通じて,教員個々の力量や学校としての取組が日常的に外からの評価を受けることになり,良い意味での競争原理が働き,力量ある教員やしっかりした取組をしている学校は,その意欲と努力が外からも評価されることになる。また,教員個々の力量の発揮や学校の取組は,校長のマネジメント能力等の力量の表れでもあり,これらを通じて,校長のマネジメント能力等も外から評価されることになろう。

5  新しい教員評価システムの導入

  学校教育の成否は何よりも教員の在り方にかかっている。教員がその資質能力を向上させながら,それを最大限発揮するためには,教員一人一人の能力や実績等が適正に評価され,それが配置や処遇,研修等に適切に結び付けられることが必要である。このため,各都道府県教育委員会等において教員の勤務評価について,公務員制度改革の動向を踏まえつつ,新しい評価システムの導入に向け,早急に検討を開始することを提言する。また,各都道府県教育委員会等において,優秀教員に対する表彰制度とそれに連動した特別昇給等を実施するための調査研究などを実施し,教員の意欲や努力を適正に評価する取組が進むことが期待される。日々努力し,成果をあげている教員が適切に評価されることによって,教員は自信を持って,分かる授業や子どもたちにとって楽しい学校づくりに更に努力を傾けることができよう。

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