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1  教員免許状の総合化・弾力化

1.教員免許制度の現状

  教員免許状の総合化・弾力化について検討するに際し,教員免許制度の現状を概観し,総合化・弾力化との関係を整理する。

(1)相当免許状主義

  • 1  現行の教員免許制度は,教育職員免許法(以下「免許法」という。)に規定され,学校種別(小学校,中学校,高等学校,幼稚園,盲学校,聾学校,養護学校)に区分されており,中学校及び高等学校は,教科別(国語,数学,理科等)に区分されている。また,各学校種の免許状は,専修(大学院修士課程修了レベル)・一種(大学学部卒業レベル)・二種(短期大学卒業レベル)に区分されている。
  • 2  教員は,免許法により授与される各相当の免許状を有する者でなければならず,いわゆる「相当免許状主義」が採られている(免許法第3条第1項)。
      教員について相当免許状主義が採られている趣旨は,教職の専門性に由来する。すなわち,教育の本質は幼児児童生徒との人格的触れ合いにあり,教員は,幼児児童生徒の教育を直接つかさどることから,その人格形成に大きく影響を及ぼす。また,教科指導を通じ,将来の我が国社会を支える児童生徒に社会人,職業人となるために必要な知識・技能の基礎・基本を身に付けさせるという極めて重要な使命を負っている。この専門性は,幼児児童生徒の発達段階に応じ,幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特殊教育諸学校の教員でそれぞれ異なっていることから,教員は各相当の免許状を有する者でなければならないとされている。

(2)総合化・弾力化と相当免許状主義

  教員免許状の総合化は,現在の学校種別の免許状を複数校種で一くくりとすることなどを意味するが,これは学校種別となっている現行免許制度の根本を変更することを迫る課題である。一方,教員免許状の弾力化は,現行の相当免許状主義を原則としつつ,その例外措置を講ずることを意味するが,現行制度上認められている以下の例外措置は,既に教員免許状が弾力化されている例と言うことができる。

1  特別非常勤講師制度

  社会的経験を有する人材を学校現場に招致するため,特別免許状制度とともに昭和63年に創設された制度。英会話等の教科の領域の一部又は小学校のクラブ活動等を担任する非常勤講師について,都道府県教育委員会にあらかじめ届け出て,免許状を有しない者を充てることができる(免許法第3条の2)。

2  免許外教科担任の許可

  都道府県教育委員会は,ある教科の教授を担任すべき教員を採用することができないと認めるときは,当該学校の校長等の申請により,1年以内の期間を限り,当該教科についての免許状を有しない教諭が当該教科の教授を担任することを許可することができる(免許法附則第2項)。

3  特殊教育諸学校の教員

  小学校,中学校,高等学校又は幼稚園の教諭の免許状を有する者は,特殊教育諸学校の教諭の免許状を有さなくとも,当分の間,盲学校,聾学校又は養護学校の相当する各部の教諭(講師を含む。)となることができる(免許法附則第19項)。

4  中学校免許状による小学校専科教科担任

  音楽,美術,保健体育又は家庭の教科について中学校の教諭の免許状を有する者は,それぞれの免許状に係る教科に相当する教科の教授を担任する小学校の教諭又は講師となることができる(免許法附則第3項)。

5  高等学校免許状による中学校での教授

  高等学校の農業、工業、商業、水産等の免許状を有する者は,中学校でその免許状に相当する事項を教授する教諭又は講師となることができる(免許法附則第4項)。

6  自立活動に係る免許状

  盲学校,聾学校又は養護学校若しくは特殊学級において自立活動の教授を担任する教諭又は講師は,いずれかの学校の自立活動の免許状を有する者であれば足りる(免許法第17条の2)。

(3)複数免許状併有の状況

  教員養成を行っている大学においては,複数の校種の教員免許課程の認定を受けている大学があることから,所定の単位を修得することにより,複数校種の免許状を取得する者も多数存在する。
  例えば,現職教員のうち,他校種の免許状を保有する割合が高いのは,中学校免許状と高等学校免許状であり,中学校教員の76.0%が高等学校免許状を保有し,高等学校教員の55.5%が中学校免許状を保有している。また,小学校教員の63.0%が中学校免許状を保有しているが,中学校教員のうち小学校免許状を保有している者の割合は28.0%にとどまっている。

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2.教員免許状の総合化・弾力化を検討する背景

(1)幼稚園・小学校・中学校・高等学校

  前述のとおり,現行の教員免許制度は,初等中等教育における幼稚園,小学校,中学校,高等学校の学校種の区分に対応した形でその区分が設けられているが,このような学校種別に区分されている教員免許状が,幼児児童生徒の発達状況に必ずしも合わない面も生じてきている。幼児児童生徒の身体の発達に早まりが見られる一方で,幼児児童生徒を取り巻く,激しい社会環境の変化の影響を受けて,生活の自立に必要となる行動様式の習得や進路意識の面において遅れが見られ,心身の発達において個人差も広がる傾向が明らかとなっている。また,高等学校への進学率が97%に達するなど後期中等教育が広く普及してきている。このような幼児児童生徒の様々な変化や高等学校への進学率の状況を踏まえたとき,幼児期から高等学校段階までを一貫したものととらえて指導を行うことが必要であり,各学校段階間の連携を一層強化することが求められている。このような観点から,中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」(平成11年12月)において,幼児教育から高等教育までの全体を通じた連携・接続の課題が指摘されている。
  同答申を踏まえつつ,教員免許状の総合化・弾力化を検討する背景には,次のような要請がある。

1  幼稚園と小学校

  幼稚園と小学校低学年段階の教育においては,幼稚園と小学校が連携し,幼児期にふさわしい主体的な遊びを中心とした総合的な指導から,児童期にふさわしい学習等への移行を円滑にし,一貫した流れを形成することが重要となっており,幼稚園及び小学校のそれぞれの教員が共通の子ども理解を持ち,互いの教育に対して理解を深めることが重要となっている。

2  小学校と中学校

  小学校と中学校段階の教育については,小学校が全教科担任制であり,中学校が教科担任制であることから,これまで相互の連携・接続が難しい面もあったことは否定できない。しかしながら,小学校と中学校段階においても,児童生徒の心身の発達に応じて一貫性のある継続的な指導を行う必要があることから,相互の連携・接続が重要であることは言うまでもない。特に,小学校高学年は,各自の個性が現れ,興味・関心が分かれる時期であり,児童の授業への関心・集中力を高めるためにも,専科指導の充実を含めた指導方法の多様性が求められている。また,児童の心身の発達に関する変化も生じてきており,これまでの学級担任制を中心としながら,学級担任と専科教員などがチームを組んで指導に当たることも求められている。このような状況に対応するためには,小学校と中学校の双方の経験を持つ教員を増やしていくことが一層必要となってくる。

3  中学校と高等学校

  中学校と高等学校の連携・接続については,平成11年度からは中等教育学校など中高一貫教育を実施するための制度が導入されたところであるが,事実上全員入学に近づいた高等学校進学率を背景として,カリキュラムや生徒指導に一貫性を持たせる必要性が従来から指摘されている。特に,高等学校の生徒がある教科や科目を嫌いになる契機の一つには,中学校においてその教科の内容の理解が十分でないまま,高等学校で更に高度な内容を学ぶというケースも少なくない。このため,中学校と高等学校の同じ教科を担当する教員が,生徒の学習状況の把握に努め,お互いの指導方法を学ぶことも必要である。なお,中等教育学校の教員については,免許法上,原則として中学校及び高等学校免許状の両方を有することが必要となっている(免許法第3条第4項)。
  現在の教員免許状は学校種ごとに分かれているが,以上見てきたように,各学校段階・学校種間の連携・接続を円滑に進めるためには,直接,幼児児童生徒の指導に当たる教員が,一学校種のみならず隣接する学校種においても教授できる資質能力を身に付けることが必要となる。
また,今後の学校教育は,地域のニーズに応じた教育を実施していくことが必要であるが,これを実現するためには,地域の幼稚園,小学校,中学校及び高等学校の連携や各学校間の教員の連携,交流が不可欠である。
  以上の観点から,教員が他校種で教授できるような弾力的な制度を創設することが必要であるとともに,教員の隣接する学校種の免許状の併有を促進する制度の創設や幼稚園,小学校,中学校,高等学校の学校種を越えた総合的な免許状の可能性が検討課題となる。

(2)特殊教育諸学校

  特殊教育については,特に近年,児童生徒等の障害の重度・重複化や多様化が急速に進んでいる中で,障害のある児童生徒等の一人一人のニーズを把握し,特別な教育的ニーズに応じた教育を推進することが必要である。このため,障害児教育に関する基本的な専門性を構築しながら,各障害種別に対応した専門性を確保しつつ,多様な障害へ対応することが可能となる総合的な専門性が求められている。しかし,特殊教育諸学校免許状については,昨年1月の「21世紀の特殊教育の在り方に関する調査研究協力者会議」の最終報告において提言されているように,特殊教育諸学校免許状が盲・聾・養護学校に分かれていることが現実に合わない状況が生じている。今後,複数の障害に対応した専門性と実践的指導力を有する教員を養成するため,盲・聾・養護学校すべての校種において教授可能とする総合的な免許状の創設を検討することが喫緊の課題となっている。
  なお,特殊教育諸学校の教員は,小・中学校等の教員のいわゆる基礎免許状に加えて,各学校種ごとの特殊教育諸学校免許状の保有が必要とされているが,1.(2)3で述べたとおり,特殊教育諸学校免許状を保有していなくても盲・聾・養護学校の教員となることができる特例が設けられていること等から,特殊教育諸学校教員の特殊教育諸学校免許状の保有率は,盲学校20%,聾学校27%,養護学校52%(平成12年5月1日現在)と低い状況にある。このため,特殊教育諸学校免許状を一本化することにより,盲・聾・養護学校の教員の特殊教育諸学校免許状を保有しやすくし,全体としての専門性の向上を高めることが必要である。

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3.教員免許状の総合化・弾力化の方向性

  • (1) 幼稚園,小学校,中学校,高等学校免許状
    • 1  早期に対応すべき課題
        小学校高学年では,専科指導の充実も含めた指導方法(学習集団)の多様性が求められており,チームによる指導を推進する指導方法の在り方が課題となっていることから,小学校における各教科及び総合的な学習の時間の指導充実を図るため,教科に関する専門性の高い教員が担当できるよう免許制度上の措置を講じることが重要である。  隣接学校種への理解や教員の複数校種での交流の促進を図るため,現職教員が他校種の免許状を取得する際に,教職経験を評価することによって,その取得を促進する制度の創設を図るべきである。
    • 2  中長期的課題
        幼稚園・小学校・中学校・高等学校免許状の総合化について検討するためには,教育要領・学習指導要領の構造分析を含め,それぞれの免許状を取得するに当たって履修すべき科目について固有の専門性を有する部分と共通する部分についての整理,及び,心身の発達や生徒指導等に関する部分について,子どもの発達段階から見て,幼稚園・小学校・中学校・高等学校の教員に共通の部分及び固有の専門性を有する部分の分析が不可欠である。そのため,今後,中長期的課題として,専門的・学術的な調査研究を進める必要がある。
  • (2) 特殊教育諸学校免許状
      障害を持つ児童生徒等の重度・重複化等の課題に対応するため,盲・聾・養護学校の免許状の総合化を早期に行うことが必要である。
  • (3) 専修免許状
      専修免許状はある特定の分野の単位を修得した場合に取得するものとし,その修得単位の分野を適切に示すものとするよう改善すべきであるが,専修免許状の種類を専攻分野別の区分とするのは将来的な課題とし,現時点においては,現在の学校種教科別は維持しつつ,専修免許状に免許状取得のために履修した専攻分野を記載することによりその専門性(教員の得意分野)を明確にすることが必要である。

  教員免許状の総合化・弾力化については,その検討の背景を2.で概観したとおり,幼稚園,小学校,中学校及び高等学校免許状と特殊教育諸学校免許状とに分けて検討することが必要である。

(1)幼稚園・小学校・中学校・高等学校免許状

1  早期に対応すべき課題

  隣接学校種への理解や教員の複数校種での交流を促進するための措置をとることは,各学校段階間の連携を一層強化するため,早期に進めるべき課題である。
  現在,小学校においては,人間性を豊かにするために学級担任ができる限り子どもたちと触れ合い,一人一人の子どもを理解することが重要であることから,全教科担任制(「学習集団」と「生活集団」が一致)となっている。一方,前述したとおり,小学校高学年では,専科指導の充実も含めた指導方法(学習集団)の多様性が求められており,チームによる指導を推進する指導方法の在り方が課題となっていることから,小学校における各教科及び総合的な学習の時間の指導充実を図るため,各学校の事情等に応じ,教科に関する専門性の高い教員が担当できるよう免許制度上の措置を講じることが重要である。平成14年度から実施される新しい教育課程においては,体験的な学習や問題解決的な学習が重視されるとともに,国際化や情報化,環境問題等多様な課題への対応を踏まえつつ各教科の指導を行うことが求められており,小学校においても,教科に関する専門分野についての深い理解を持ち,多様な教授技術を備えている教員を確保し,各教科の指導を充実していくことが必要となっている。例えば,理科については,観察・実験などの過程や得られた結果について考察する中から,科学的な見方や考え方を育成するという特徴を持っており,また,近年の理数離れと指摘されている状況に対応し,児童の興味・関心・意欲を引き出す魅力ある授業を展開していく観点からも,発展的な学習を指導するなど各学校の実情等に応じ,高度な専門性が求められる場面もある。本年度から実施されている教職員定数改善計画により習熟度に応じた少人数指導を支援しているが,こうした場面での専門性の高い教員の確保も早急に対応すべき課題である。
  また,平成14年度から小学校において本格的に実施される総合的な学習の時間においては,国際理解,情報,環境,福祉・健康その他の課題について多様な学習活動が行われる。総合的な学習の時間を実施する上では,地域の人々など多様な人材の活用が求められており,その一環として,各学校の必要に応じ,専門性の高い教員を活用していくことが重要である。例えば,国際理解に関する学習の一環として外国語会話等の学習活動を行ったり,情報に関する学習を行ったりすることも考えられるが,小学校の教員は養成段階で専門的にこれらを学んでいないなど,小学校の各教科に含まれていない分野を指導できる教員の確保なども検討課題と考える。
  したがって,小学校における専科指導等の拡充を図るための措置を講ずる必要がある。また,小学校教員が中学校で自己の得意教科を教授したり,中学校教員が高等学校で教授することも有効な方策であるが,1.(3)で述べたように,小学校教員の63.0%が中学校免許状を保有しており,また,中学校教員の76.0%が高等学校免許状を保有する状況にあることから,当面は,複数校種免許状を保有する教員の活用により対応することが可能である。
  さらに,現行制度では,現職教員が他校種の免許状を取得しようとする場合,教員資格認定試験に合格する方法を除き,教職希望学生と同様,大学等で所要の単位を修得する方法しかない。例えば,幼稚園一種免許状を持つ教員が隣接する小学校一種免許状を取得しようとする場合,平成13年3月の免許法施行規則の改正により履修科目の弾力化が図られたが,それでも大学等で39単位を修得することが必要である。そこで,隣接学校種への理解や教員の複数校種での「双方向」の交流の促進を図るため,現職教員が他校種の免許状を取得する際に,教職経験を評価することによって,その取得を促進する制度の創設を図るべきである。
  この制度の創設により,幼稚園教員が小学校の各教科の指導に関する専門性を身に付けて小学校免許状を取得することにより小学校低学年等での指導を行ったり,小学校教員がある特定の教科に関する専門性や生徒指導の専門性を身に付けることにより中学校での指導を行ったり,高等学校教員が教職の専門性を身に付けることにより中学校における指導を行うことがより促進されると考える。
  これらの制度創設により,学校間連携が更に促進され,例えば,小学校・中学校の9か年を連続した児童・生徒の心身発達としてとらえた教育課程を実施することや,小学校の専科担当教員と中学校の教科担当教員とのティーム・ティーチングや合同授業,小・中学校間の連続性ある教育課程やカリキュラム編成のための連携協力といった様々な連携を積極的に展開し,地域が期待する学校教育を実施していくことが促進されると考える。

2  中長期的課題

各学校段階間の連携を一層強化する方策として,教員が複数校種で教授できるよう学校種ごとの教員免許の総合化が考えられる。
  総合化のパターンとしては,例えば,幼稚園と小学校を一くくりにする「初等教育免許状」,中学校と高等学校を一くくりにする「中等教育免許状」,小学校と中学校とを一くくりにする「義務教育免許状」などの形態が考えられる。しかし,今すぐにこのような総合化を行おうとすると,

  • ア 現状の各免許状の専門性を低下させずに免許状の総合化を行えば,当然のことながら要修得単位数が増加することとなる。例えば,小学校一種免許状と中学校一種免許状との総合化を行おうとした場合,現在の免許法の規定で考えた場合,要修得単位数59単位に加え44単位が必要となり,免許取得者の全体の単位数が卒業必要単位数を大幅に上回ることになりかねないため,教員の一般大学での養成が事実上困難となり,現行の開放制免許制度の維持が困難になるおそれがあること
  • イ 免許状の総合化に関して出された意見については,関係団体から出されたものも含め,例えば,
    •   幼稚園・小学校,中学校・高等学校の総合化を図るべきとの意見
    •   小学校・中学校,中学校・高等学校の総合化を図るべきとの意見
    •   幼稚園と小学校低学年,小学校高学年と中学校の総合化を図るべきとの意見
    •   中学校・高等学校のみの総合化を図るべきとの意見
    •   小学校・中学校のみの総合化を図るべきとの意見
    •   小学校・中学校の総合化は困難とする意見
    •   幼稚園・小学校の総合化は困難とする意見
    など様々であり,それぞれの意見の評価を的確に行う必要があるにしても,現時点で総合化の在り方について一定の方向性を見いだすのが困難であること
  • ウ 平成10年に改正されたばかりの免許制度(平成12年度大学入学者から適用)による養成の結果がまだ出ていない段階で,大学の教員養成カリキュラムに再び大幅な変更を余儀なくすること

  などの大きな問題点も指摘できる。今後,幼稚園・小学校・中学校・高等学校免許状の総合化について検討するためには,教員養成課程における要修得単位の単純な増加を避ける観点から,幼稚園・小学校・中学校・高等学校の教育要領・学習指導要領の構造分析を含め,それぞれの免許状を取得するに当たって履修すべき科目について固有の専門性を有する部分と共通する部分についての整理をすることが必要である。また,心身の発達や生徒指導等に関する部分について,子どもの発達段階から見て,幼稚園・小学校・中学校・高等学校の教員に共通の部分及び固有の専門性を有する部分の分析が不可欠である。そのため,今後,中長期的課題として,専門的・学術的な調査研究を進める必要がある。
  この幼稚園・小学校・中学校・高等学校免許状の総合化に関する専門的・学術的調査研究を実施するに際しては,現在研究開発学校において取組がなされている幼稚園・小学校,小学校・中学校の連携,中高一貫教育などの学校間接続に関する実践研究を一層推進するとともに,その成果を積極的に活用することが有益と考える。なお,中学校及び高等学校においては,免許教科の壁が教員の連携の障害となっているとの指摘もある。これについては,当面は学校経営や教育実践上の課題として克服することが重要である。
  なお,免許状の総合化の検討に際しては,現在,小学校免許状の「教科に関する科目」については,1以上の教科につき8単位以上,幼稚園免許状の「教科に関する科目」については,幼稚園の教育課程に教科がないにもかかわらず一種免許状では6単位以上修得することとされているが,小学校及び幼稚園の「教科に関する科目」を見直し,各教科の指導法と合わせて幼稚園教育要領及び小学校学習指導要領に即した内容を教授する新たな分野を設けて,その中において指導することとすることも課題となろう。
  これらの中長期的課題については,小学校における専科指導の充実,研究開発学校における幼稚園・小学校・中学校の連携や中高一貫教育などの学校間接続に関する実践的研究の推進状況及び後述する特殊教育諸学校の総合免許状の創設とその運用状況を見極めつつ,今後,取り組まれることが望まれる。

(2)特殊教育諸学校免許状

  特殊教育諸学校免許状については,21世紀の特殊教育の在り方に関する調査研究協力者会議最終報告において提言されているように,障害を持つ児童生徒等の重度・重複化等の課題に対応するため,盲・聾・養護学校に区分されている免許状の総合化を早期に行うことが必要である。

(3)専修免許状

  教員免許状の総合化に関連して,専修免許状の在り方についても検討することが必要となろう。
  専修免許状は,昭和63年の免許法改正により創設された大学院修士課程修了レベルの免許状である。専修免許状は,大学院修士課程修了レベルの資質の高い教員を確保するとともに,一種免許状を有する現職教員が専修免許状を取得する道を開くことによりその研修意欲を高めることをねらいとして創設されたものであるが,処遇面を含めその位置付けが必ずしも明確でなかったことから,現職教員の保有率は,小学校教員が0.9%,中学校教員が1.7%,高等学校教員が28.0%(平成10年度)と低い割合にとどまっている。
  専修免許状については,従来から,例えば,学校教育専修の科目の修得で教科ごとの一種免許状が専修免許状になる現行の方式は専門性の観点から疑問が呈されてきた。このため,専修免許状はある特定の分野の単位を修得した場合に取得するものとし,その修得単位の分野を適切に示すものとするよう改善すべきである。専修免許状を教員の専門性を表すものとするためには,教員免許状の種類として,現在の一種免許状及び二種免許状を基礎となる免許状として,当該教員の教授可能な学校種及び教科を示すものとし,専修免許状は,当該教員の得意分野を示すものとして再構築し,現行の学校種別の区分を廃止して専攻分野別の区分(例えば,理科教育,環境教育,生徒指導等)として専門性を明確にすることが必要である。この場合,教員は,基礎となる免許状の1種類,又は,基礎となる免許状と専修免許状の2種類の免許状を持つことになり,また,専修免許状は専門分野別となるため,複数の取得が可能となる。
  さらに,専修免許状の取得要件として一定の現職経験と教育職員検定を必ず課すことにより,教員としての実践的な指導力や専門性を更に高めることができることなどから,専修免許状取得者について将来の給与面等における処遇の改善に資することが期待できる。このような制度改正を行った場合,学部から直接大学院修士課程へ進学した者については,大学院修了の際に専修免許状が取得できないこととなるが,大学院において必要な単位数を修得した者については,採用後の現職経験と教育職員検定のみで専修免許状を取得できるとする方法を設けることも考えられる。
  以上のような専修免許状の改善については,専修免許状取得者の処遇改善の見通し,免許状の総合化の検討状況,平成10年及び11年において,平成10年免許法改正による再課程認定を行ったばかりであること等大学の状況にかんがみ,専修免許状の種類を専攻分野別の区分とするのは将来的な課題とし,現時点においては,現在の学校種教科別は維持しつつ,専修免許状に免許状取得のために履修した専攻分野を記載することにより,専修免許状の専門性(教員の得意分野)を明確にすることが必要である。
  学校において様々な得意分野を持った教員が集まり,組織としての力を発揮することが期待されている。専修免許状に専攻分野を明記することにより,それぞれの得意分野を意識した教員配置を促進し,特色ある学校づくりが可能となると考える。

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4.具体的方策

  • (1) 中学校免許状等による小学校専科担任の拡大
      現在,中学校の音楽,美術等の免許状に限られている他校種免許状による小学校での専科担任制の分野の限定等を撤廃し,例えば,中学校又は高等学校理科免許状を有する教員が小学校の理科を,中学校又は高等学校数学免許状を有する教員が小学校の算数を担任できるようにするなどの措置を行う。  中学校又は高等学校外国語免許状や高等学校情報免許状を有する教員などが小学校の総合的な学習の時間で教授できる方策を検討する。
  • (2) 現職教員の隣接校種免許状の取得を促進する制度の創設
      現職教員が他校種免許状を取得できる機会を拡大し,複数校種の免許状を併有する者の増加を図るため,隣接校種免許状の取得を促進する制度を創設する。
  • (3) 特殊教育総合免許状の創設
      盲・聾・養護学校の別となっている特殊教育諸学校免許状の総合化については,早急に実現すべき課題として,教員養成部会に専門委員会を設けて具体的な検討を進めることとする。
  • (4) 専修免許状に記載する専攻分野の区分の規定
      専修免許状に記載すべき大学院等での専攻分野の区分を免許法施行規則に具体的に規定する。

(1)中学校免許状等による小学校専科担任の拡大

  1.で述べたとおり,現在,当分の間の措置として,音楽,美術,保健体育又は家庭の教科について中学校の教諭の免許状を有する者は,それぞれその免許状に係る教科に相当する教科の教授を担任する小学校の教諭又は講師となることができることとされている(免許法附則第3項)。この規定については,免許法制定当初は,これらの教科を担任できる教員が不足していたことから当分の間の措置として規定されたものであったが,当分の間の措置とする現在の免許法附則第3項を,相当免許状主義の原則は維持しつつ小学校における専科指導の拡充の観点から見直し,分野の限定等を撤廃し,例えば,中学校又は高等学校理科免許状を有する教員が小学校の理科を,中学校又は高等学校数学免許状を有する教員が小学校の算数を担任できるようにするなどの措置を行う。
  
また,中学校又は高等学校外国語免許状や高等学校情報免許状を有する教員などが小学校の総合的な学習の時間で教授できる方策を検討する。
  なお,以上の措置は,全教科担任制や小学校教員の専門性を否定するものではなく,教科専門性の高い教員を小学校で活用することにより,児童一人一人の学習の進展や,学級担任が学習や生活への全体的な支援に専念できることなどを目的としたものである。中学校や高等学校の教員が小学校における授業を担うとしても,小学校段階における教科等の目標やねらい,児童の発達段階等を踏まえ,教員間の連携を密にして指導に当たらなければならないことは言うまでもない。

(2)現職教員の隣接校種免許状の取得を促進する制度の創設

  現職教員が他校種免許状を取得できる機会を拡大し,複数校種の免許状を併有する者の増加を図るため,隣接校種免許状の取得を促進する制度を創設する。具体的には,教職経験による要修得単位数の軽減を図り,また,免許法認定講習等での単位修得により,幼稚園教員が小学校免許状を,小学校教員が幼稚園免許状又は中学校免許状を,中学校教員が小学校免許状又は高等学校免許状を,高等学校教員が中学校免許状を取得することを可能とすることが考えられる。

(3)特殊教育総合免許状の創設

  現在,盲・聾・養護学校の別となっている特殊教育諸学校免許状の総合化については,早急に実現すべき課題として,教員養成部会に専門委員会を設けて具体的な検討を進めることとする。

(4)専修免許状に記載する専攻分野の区分の規定

  現在の免許状の区分を維持しつつ,専修免許状の専門性(教員の得意分野)を明確にするため,専修免許状に記載すべき大学院等での専攻分野の区分を免許法施行規則に具体的に規定する。区分例としては,例えば,以下のようなものがあると考える。

  •   国語科教育,理科教育,社会科教育等
  •   生物学・化学・物理学・地学等
  •   国際理解教育
  •   環境教育
  •   日本語教育
  •   生徒指導
  •   進路指導
  •   教育臨床
  •   幼児教育
  •   学校経営
  •   生涯学習

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