| 1.答申案についての意見 |
| 1)答申案の採択について |
義務教育特別部会において採択された答申案を中教審答申とすることに賛成。
理由: 特別部会では、40回以上、100時間以上にわたって真剣な審議が重ね、その審議結果を踏まえて取り纏められた答申案である。 義務教育費国庫負担金に関する少数意見の扱いについて議論されたが、その扱いを含めて、10月18日付けの答申案は採択された。 以下に述べるように、私としては賛成できない内容も含まれているが、上記 と、今回の特別部会の任務・権限、及び答申案作成期限を考慮し、上記答申案を特別部会案とすることに私も賛成した。 |
| 2)答申案の内容について |
答申案は、総論と各論、総論は六つの柱、各論は序章を含めて五つの章で構成されていますが、内容的には次の3領域に分けられると思います。
| (a) |
義務教育の基盤整備と費用負担‥‥第 部総論(5)(6)、第 部各論第4章 |
| (b) |
教育における地方分権改革の促進…第 部総論(4)、第 部各論第3章 |
| (c) |
義務教育の構造改革…第 部総論(2)(3)、第 部各論第1章、第2章 |
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(a)では、義務教育費国庫負担制度の堅持と義務教育の基盤整備の諸施策、(b)では、地方教育行政の改革として、人事権の一定規模以上の地方自治体への委譲、諸権限の市区町村や学校への委譲、教育委員会の活性化など、(c)では、義務教育の質の向上と構造改革の具体的施策として、全国一斉学力テストの実施、教員養成制度の改革と教員免許更新制の導入、学校評価の標準化及び全国的な第三者機関による学校評価などが提案されています。
(a)については、以下の理由で妥当なものだと考えています。
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義務教育のナショナル・スタンダードを確保し、その充実・発展を担保するために、全国すべての自治体で、その財政力に関わりなく、義務教育の財源を安定的に確保する方法として、国の負担率1/2以上を含めて、義務教育費国庫負担制度の維持・拡充が適切かつ重要である。 |
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教育における地方分権改革は重要であるが、義務教育費負担金が三位一体改革・地方への税源委譲の候補財源とされなければならないかについての合理的根拠が示されなかった。 |
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教育における分権改革及び義務教育の充実・発展を図るうえで義務教育費負担金を廃止・一般財源化が不可欠であると言える合理的な理由および具体的な改善可能性が示されなかった。 |
(b)についても、以下の理由で、妥当なものだと考えています。
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従来から指摘されてきた中央集権的な教育行政の問題点、首長・教育長等の経験に基づく地方教育行政の問題点などが具体的に確認され、その改善策として基本的に合理的な提言になっている。 |
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提言内容の多くは、平成16年度に地方教育行政部会において審議検討され、同部会の「審議のまとめ」でも提言されているものでもある。 |
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義務教育特別部会(以下、特別部会)での審議において概ね合意の成立した内容が基本となっている。 |
(c)については、非常に問題の多い内容になっていると思います。特に下記3)の諸項目については問題が多く、さらなる検討が必要だと考えていますが、以下の理由で、今回の答申案のとりまとめに同意しました。
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特別部会としては、(a)(b)の諸問題を中心に審議検討し、本年秋(10月)までに結論を出すことが要請されていた。 |
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特別部会では、審議過程の早い段階で、義務教育の在り方全般についても合わせて検討することが確認され、私も、慎重かつ十分な検討をしていただきたい旨の発言はしたが、検討すること自体に特に反対はしなかった。 |
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下記の諸項目を含めて盛り込まれている提言内容の多くは、教育課程部会、教員養成部会等で目下検討されているところであり、特別部会の主たる役割・権限は、それらの部会における今後の審議検討への意見・要望を提示することにあった。 |
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特別部会での審議検討は十分なものであったとは思わないが、また、特に下記の諸項目については私を含めて幾人かの委員が反対意見・消極的意見を述べたが、答申案に盛り込むべきでないとの結論を出すには至らなかった。 |
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私は、意見書の提出を含めて、教育課程部会、教員養成部会等において今後さらに慎重審議していただきたい旨の意見・要望を繰り返し表明したところであるが、鳥居・特別部会部会長・中教審会長より、私の意見・要望の検討を含めて当該部会等において引き続き審議検討されるとの説明があった。 |
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| 3)義務教育の在り方、義務教育の質の向上に関する提言について |
10月12日、18日の特別部会での配付資料・意見表明で述べたことを含めて、同部会において繰り返し疑問・異議を提起してきた以下の諸事項については、予想される弊害が大きく、プラスに作用する可能性は乏しいと考えている。以下の意見も参考にして、それらの事項について検討している教育課程部会、教員養成部会等や総会において、今後さらに十分な審議検討を行っていただきたいと思います。
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全国学力調査の実施(16頁) |
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学校の序列化・歪んだ競争・教育の歪みを招く。「多様な個性・能力の育成」や「特色ある学校づくり」という改革のスローガンとも矛盾する。税金の無駄遣い。適切な規模とサンプリングによるサンプル調査で十分。 |
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9年制義務教育学校の設置(18頁) |
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学校選択制の拡大、教育機会の差別化、義務教育の混乱を招く。一貫校への各種の優遇措置にも問題がある。学校の評判やその教育の成否は入学する生徒にも左右されるから、たとえ実験校・特区校等の評判がいいとしても、それを拡大・一般化することは適切でない。 |
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教員免許更新制の導入(21頁) |
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教職の魅力の低下、教員の迎合・萎縮を招く。時間・労力・費用の無駄。形式化・形骸化への批判が強まり、排除論理への圧力が強まる危険性がある。また、そうなれば、恣意的・思想的な統制の危険性も強まる。現在ほとんどの教育委員会が導入している指導力不足教員の認定・研修・異動(排除)システムの改善・充実を図ることで十分。講習の義務化には賛成。 |
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教員評価の客観化(22頁) |
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適切な教員評価は必要だが、評価の客観化は管理主義的・成果主義的評価の傾向を強め、教師の協働性・献身性の低下を招く危険性がある。重要なのは、授業・学級運営・生徒指導や各種の校務分掌の仕事に取り組む情熱・努力・時間に対する適切な評価と処遇面での適切な配慮。また、現在しばしば自弁で行われている公務活動への保障も重要。スーパーティーチャー等には賛成。 |
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学校の自己評価結果の外部評価及び第三者機関による全国的な外部評価(25頁) |
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学校の自己評価や現在多くの学校で行われている類の外部評価については、必ずしも積極的というわけではないが、義務化しても構わないと考えている。しかし、自己評価結果の外部評価や第三者機関による全国的な外部評価は、評価の標準化・画一化と権力的な統制を招く危険性が極めて大きい。また、地域の特色や事情を踏まえた「特色ある学校づくり」の改革スローガンとも矛盾する可能性がある。
自己評価であれ外部評価であれ、重要なことは、その学校をよくしようとする視点から、当事者としての保護者や地域住民も参加し、情報と課題を共有し、協力して学校の改善・充実に取り組んでいくことであり、それに資する学校評価の方法を工夫し推進することである。 |
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| 2.教育改革の動向と答申案に見られる考え方について |
| 1)答申案の改革基調で危惧される点 |
今回の答申案(特に上記2)の(c)領域、上記3)の諸事項)の基本的な特徴として、次の三つの考え方が際立っているように見受けられます。
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競争主義・成果主義 |
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学校間・地域間や教師間・子ども間の競争を強調し、その成果を競い合わせることで、教育の改善・効率化と学力の向上を図ろうとする、(権力的な)外発的動機づけを重視した改革案が目立つように見受けられる。 |
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査察主義・管理主義 |
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学校評価・教員評価の客観化・標準化や全国一斉学力調査、及び、教員免許更新制に見られるように、学校運営・教育実践や子どもの学習を定期的・日常的に点検・監視し、その結果を踏まえて、教職員や子どもの活動とその成果を管理しようとする傾向が目立つように見受けられる。 |
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改革至上主義 |
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私の認識では、義務教育特別部会は、「三位一体の改革」で義務教育費国庫負担金が地方への税源委譲の候補財源とされたことを契機として設置されたが、そこには当初から、特別部会の審議を枠づけた2つの重大な構図があった。第一は、財政面での地方の自主性・裁量性を高めるという、三位一体改革の趣旨を重視するなら、他の国庫補助負担金(公共事業費や奨励的経費)を候補にする方がはるかに合理的かつ適切であるにもかかわらず、そうはしないで、義務教育費負担金を廃止・一般財源化するという歪んだ政治的方針(最終判断が変わることを期待しているが)とそれを当然視するマスコミの論調が、特別部会の課題と審議を特定の方向に枠づける働きをしていたと考えられる点である。すなわち、義務教育費負担金を三位一体改革の生贄・スケープゴートにして当然という周囲の議論の構図の中で特別部会がスタートしたという点である。第二は、義務教育費負担金問題及びそれとも関連する地方教育行政の在り方だけでなく、義務教育の在り方全体についても検討するという課題を持ってスタートしたという点である。現政権の進める構造改革・三位一体改革・地方分権改革それ自体に反対ではないが、義務教育費負担金の廃止・一般財源化には反対するとすれば、守旧的ではないことを示すためにも義務教育の構造改革という側面で、さらに生贄を差し出す必要があるというような構図になっていたということである。しかも、それらの実質的な内容については、教育課程部会や教員養成部会等、別の部会で検討されており、したがって、その点での特別部会の役割・権限は限定的なものであり、そのためもあって十分な審議はなされなかった。むろん今回の答申案をまとめた責任は私も含めて特別部会にあるが、こうした審議を枠づけていた政治的構図を確認しておくことは重要だと思う。
上記3)で挙げた5項目については、例えば教育改革国民会議等でも検討ないし提案されたものであり、現在、中教審・教育課程部会及び教員養成部会等において審議検討されているものであるが、例えば全国一斉の学力調査や教員免許更新制に代表されるように、「改革幻想」が際立っている現下の社会状況と現政権の進める「聖域なき構造改革」という方針の下、「三位一体の改革」における税源委譲の財源として義務教育費国庫負担金の廃止が政治的に俎上に載せられることになったことへの対応戦略として検討の俎上に載せられるようになったものでもあると言える。その意味で、それらの改革案は、「改革幻想」や政府の「聖域なき構造改革」方針に応じて、義務教育費国庫負担金を堅持するための生贄・スケープゴートとして盛り込まれることになったと見ることもできる。少なくとも私はそう見ているが、このような改革が進められていくなら、日本の義務教育はますます歪み、その機能も低下する危険性がある。
義務教育特別部会では、「エヴィデンスに基づく(evidence-based)議論・検討を!」ということが強調されたが、それらの諸項目に関する限り、特別部会において、それらを是とする主張の根拠として表明されたのは、エヴィデンスに基づく議論でも合理的な推論でもなくて、「評価は時代の趨勢だ」「納税者や国民への説明責任を果たすことは当然だ」「教育の質の保証や教員の資質・力量の向上には評価や更新性は不可欠だ」「民間企業や官公庁・地方自治体などでもすべてやっていることだ」といった近年の風潮や改革論議とそこでの優勢な思考のスタイルに同調したものでしかない。教育や学校組織や教職の特徴を十分に考慮・検討したものでもなければ、保護者・国民や教職員の意向・関心を十分に精査・検討し、それを反映したものでもない。 |
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| 2)教育改革・教育政策の検討・推進に対する要望 |
私は、学校週5日制導入以来の「ゆとり教育」政策や、新自由主義的・市場原理主義的な改革には一貫して批判的な発言をしてきましたが、今回の答申案に盛り込まれた主要な提案は、新自由主義的・市場原理主義的傾向に加えて、競争主義・成果主義と査察主義・管理主義の傾向を強めようとするものが多いと考えています。諸外国の経験を含む様々の知見・研究成果(evidence)を踏まえても、こうした方向で改革が進むなら、日本の義務教育はますます歪んだものになり、教職員のモラルの低下、教育の質と機能の低下を招き、子どもたちの問題行動や社会病理現象も悪化することはあっても改善することはないと予想されます。日本の教育にはいろいろな課題や問題があることは事実ですが、そのほとんどは、制度改革よりも、運営・実践面での改善・改良によって対応すべきものです。
地方分権改革を適切に進め、保護者・地域住民の参加を促進し、教職員と保護者・地域住民が連携・協力しつつ、地域の自主性と創意工夫で地域に根ざした地道な改革・改善を進めていくこととそのための条件整備が重要なのだと思います。その点で、今回の答申案の上記(a)及び(b)の提言内容は妥当かつ重要なものですが、(c)の主要提案、特に全国一斉学力テストの実施、教員養成制度の改革と教員免許更新制の導入、学校評価の標準化や全国的な第三者機関による学校評価は、「百害あって一利なし」だと考えています。
「改革すればよくなる」「改革しなければよくならない」といった改革幻想や改革すること自体を目的とするような改革至上主義によって改革を進めるのでなく、日本の教育の優れている点を正当に評価し、その問題・課題の構造・背景を的確に把握し、改革が教育現場に及ぼす影響や改革の目的が達成されるかどうかを十分に検討し、適切かつ有効な改革を進めていただきたいと切に願います。 |