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青少年の野外教育の振興に関する調査研究者会議

青少年と野外教育  
1.青少年と野外教育

(1)野外教育とは
1  野外教育の概念
  野外教育については,様々な考え方があり得るが,本協力者会議では,野外教育を「自然の中で組織的,計画的に,一定の教育目標を持って行われる自然体験活動の総称」と捉えた。
  なお,自然体験活動とは,自然の中で,自然を活用して行われる各種活動であり,具体的には,キャンプ,ハイキング,スキー,カヌーといった野外活動,動植物や星の観察といった自然・環境学習活動,自然物を使った工作や自然の中での音楽会といった文化・芸術活動などを含んだ総合的な活動である。したがって,野外教育は,自然体験活動を取り扱う教育領域であると位置付けることもできる。

2  野外教育の目標
  野外教育の目標としては,一般的に,自然に対する興味・関心の醸成,自然と人間の望ましい在り方の理解,自然体験活動の楽しさや技術の習得,自主性,協調性,社会性,創造力,忍耐力の育成など,様々な目標が考えられる。また,青少年を対象とした野外教育は,総じて,青少年の知的,身体的,社会的,情緒的成長,すなわち全人的成長を支援するための教育であると言える。
  ただし,個々の野外教育が,どのような教育目標を持っているかは,社会の要請,組織や指導者の理念によって大きく異なり,対象者の年齢,経験,人数,関心,さらには,実施場所,活動内容等によっても左右される。

(2)今なぜ野外教育か
1  「生きる力」の育成
  来たる21世紀は,国際化,情報化,科学技術の発展,価値観の多様化など,これまで以上に社会の激しい変化が予想される。
  平成8年7月における第15期中央教育審議会の第一次答申においては,これからの教育の在り方として,「生きる力」を育成することが重要であると指摘している。そして,「生きる力」とは,「いかに社会が変化しようと,自分で課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する資質能力であり,また,自らを律しつつ,他人とともに協調し,他人を思いやる心や感動する心など豊かな人間性であり,そして,また,たくましく生きていくための健康や体力である」としている。
  また同答申では,「生きる力」の育成方策の一つとして,青少年の生活体験・自然体験の機会の増加を求めている。
  そのような意味で,教育として自然体験活動を捉える野外教育の充実は,青少年の「生きる力」を育成する上で極めて重要であると考える。

2  野外教育への期待
  心身の調和のとれた青少年を育成するためには,家庭,学校,地域社会それぞれの場において,青少年が自主的,主体的な活動体験を豊富に積み重ねることが必要である。
  かつては,自然との触れ合いや異年齢の交流など,日常的な遊びが,青少年の人間形成に重要な役割を果たしてきたが,今日の社会の進展や生活の変化に伴い,青少年にとってそのような遊びの機会や場が減少してきた。このため,意図的,計画的に,青少年に様々な体験の機会を提供する必要性が生じてきている。
  特に,青少年にとっての野外教育は,自然の厳しさや恩恵を知り,動植物に対する愛情を培うなど,自然や生命への畏敬の念を育て,自然と調和して生きていくことの大切さを理解させる機会を与えることとなる。さらに,自然の中での組織的な活動は,きまりや規律を守ること,協力することの大切さや,自ら実践し創造する態度を学ぶなど,体験活動を通じた総合的学習の機会を提供するもので,青少年の育成にとって極めて有効である。

3  野外教育に期待される成果
  野外教育に期待される成果には,次のようなものが考えられる。

ア,感性や知的好奇心を育む
  野外教育の最大の特徴は,自然の中で,自然を活用して教育が行われる点である。自然については,自然そのものが教育力を持っていると言われる。すなわち,自然の美しさ,雄大さ,神秘性,厳しさなどは,直接人間の五感に働きかけ,人々に感動や驚きを与えるものである。野外教育におけるこうした感動や驚きの体験は,青少年の感性を育み,また,知的好奇心や探究心を育むものと言える。

イ,自然の理解を深める
  自然の中での体験的活動をとおして,青少年は,動植物,水,土,気象などに関する知識やその関連性,さらにはその重要性を学ぶことができる。こうした自然に対する理解は,日常生活における環境保全や自然愛護への積極的な態度を培い,今日問題となっている地球規模の環境問題への認識を高めることとなる。さらには,生物としての人間の内的しくみや生命の尊さを学ぶことにもつながる。
  野外教育は,自然現象や自然のしくみを総合的に学び,環境問題への認識を高める最良の機会である。

ウ,創造性や向上心,物を大切にする心を育てる
  野外教育は,非日常的な自然の中での素朴な生活や活動が伴う。物質的な豊かさや便利さの中で暮らす青少年にとって,こうした素朴な生活や活動は,不便なものであり,時には苦痛を感じることもある。
  しかし,このような環境の下での困難を乗り越える体験は,青少年に成就感や達成感をもたらし,向上心や忍耐力を培う。
  また,自然の中での素朴な生活は,水や火の大切さ,物を工夫して使うことの楽しさなど,創造性や物を大切にしようとする心を育てるとともに,素朴な生活の楽しさなどを実感する場ともなる。

エ,生きぬくための力を育てる
  青少年は,自然の中での様々な活動の実践・反復を通じて,知識や技術を単なる理解としてではなく,いわば生活の知恵として身に付ける。また,このような知恵は,災害などの緊急時において,生きぬくための力ともなる。
  さらに,自然の中での各種活動は,危険を回避したり,安全を確保したりする能力や,自らの安全は自らが守るという意識を高める。

オ,自主性や協調性,社会性を育てる
  野外教育では,一般的に小グループでの生活や活動が主体となる。こうした生活や活動では,自分のことは自分でする,仲間とよく相談し協力する,弱い者を助ける,といった態度や行動が求められる。このような生活や活動の実践・反復は,青少年の自主性や協調性,社会性の育成に大いに役立つものである。

カ,直接体験から学ぶ
  近年のめざましい情報化の進展は,人々の生活に豊かさをもたらしている。しかし,その一方で,子どもたちのテレビゲームへの没頭に見られるように,間接体験や擬似体験の増加など,情報化の「影」と言われる負の影響が生じており,今後は直接的な体験が必要となってくる。様々な直接体験の機会を提供する野外教育は,こうした情報化の「影」の部分を補う機会として重要である。

キ,自己を発見し,余暇活動の楽しみ方を学ぶ
  野外教育で取り扱われる各種の自然体験活動は,青少年にとって新鮮であり,印象深い体験となることが多い。こうした新しい体験によって,青少年は,これまで気が付かなかった自己の長所や能力を発見することができる。また,この時期の体験は,生涯にわたって余暇活動を楽しむための新たな興味・関心を喚起し,健全で豊かなライフスタイルの形成にも資するものとなる。

ク,心身をリフレッシュし,健康・体力を維持増進する
  今日のような複雑な人間関係や時間に追われるゆとりのない生活から,自然の中に足を踏み入れると,時間的にも空間的にも,落ち着きやすがすがしさを感じさせる。自然の中での生活や活動は,心身をリフレッシュさせ,健康・体力の維持増進にも役立つものである。


(生涯学習局  青少年教育課)




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