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6.「デジタルミュージアム」構想実現に向けた体制づくり

 5.で述べた研究開発を計画的かつ効率的に進めるためには、それを実証するためのシステム開発等必要な制度や仕組みを整備することが必要である。今後、「デジタルミュージアム」構想の実現に向けて、以下のような体制づくりを進めることが必要である。

(1) 人材の育成と融合
 各地の博物館・美術館等でデジタル・アーカイブやデジタル機器の使用等が行われているが、実際の現場にはICTに精通した専門家は不足している。このことは、全体としての人員削減もあり、国立博物館・美術館も例外ではない。このため、各館においてICT専門職員を配置することが望ましいが、困難な場合には、効果的なアウトソーシングや、IT人材の客員教授やインターンシップ生としての受け入れを行っている大学や研究機関等との連携・協力について、検討を行う必要がある。
 また、学芸員や先端科学の研究者、アーカイブやICT等に精通した専門家等だけでなく、画家、音楽家、作家など幅広い分野の人材にも参加を呼びかけ、分野横断的な「可視化」手法を開発することが必要である。
 江戸時代の浮世絵師、東洲斎写楽や喜多川歌麿は、版元・蔦屋重三郎のプロデュースによって、世に広く知られるようになった。分野を超えた専門家が参加し、様々な創造性がぶつかり合う新しいデジタル文化の創造・発信のためには、版元・蔦屋重三郎の役割を果たす従来の学芸員とは違った人材(プロデューサー、オーガナイザー、メディエーターなど)が求められる。すなわち、「新しい知の出会い」の場に参加する専門家どうしをオーガナイズし、創造性の連鎖をコーディネートし、博物館内外のコミュニケーションを先導する役割を担う人材である。分野を横断した専門家をまとめるための、多様な知識と高いプロジェクト管理能力を有する高度な人材が、実質的に異分野の文化の融合のリーダーとなることが期待される。

(2) コンテンツの提供とシステム改革
 「デジタルミュージアム」の実現のためには、博物館・美術館等の文化資源の保有者側からの円滑なコンテンツ提供が不可欠であるが、現状では、これらの保有者は自らの文化資源や施設の管理・運営で手一杯の状況で、デジタル化とその利活用への対応が難しい状況にある。文化資源のデジタル化業務に関しても、(1)で述べたように各館にICTや基本的な手法に関する知見を有する職員が配置されていない場合が多く、適切なコンテンツ作成・管理が困難である。
 このため、以下のような施策を推進する必要がある。
 文化資源の保有者を対象にデジタル化に関する集中的なセミナーを継続的に開催するなど、理論及び技術に関する基礎的な知識の習得を支援する。
 博物館・美術館等における文化資源の管理システム技術や日常的な業務運営に関する基本的なソフトウェア技術をオープンソース化することで、コンテンツ管理のための共通基盤の普及を図るとともに、市場化への一助とする。
 上記施策の実施に際しては、「文化遺産オンライン」や独立行政法人人間文化研究機構のメタデータ共有等の既存の取組と幅広い連携が確保できるよう、適切な方策を講じる。

(3) 博物館情報の標準化
 平成17年度社会教育調査によれば、全国1,162館の登録博物館及び博物館相当施設の独自のホームページ保有率は76.2パーセントと高い。しかし、デジタル・アーカイブの導入状況は、市町村立が13.9パーセント(505館中70館)、都道府県立が34.4パーセント(151館中52館)、国立は38.5パーセント(26館中10館)と運営母体により様々で、また館によって作成されたデジタルデータの管理体制や情報化の進展具合も一様ではない。例えば、我が国の各博物館等で作成されるデータベースは、異なったハードウェアとソフトウェアを利用しており、データベースの仕様も異なっている。また、博物館で利用されている情報は様々であり、資料の階層構造の設定等の合意形成が全国的のみならず国際的な規模で必要とされている。このことはデジタル情報も例外ではなく、国際的に博物館活動の効率的な運用を行うためには、フォーマットの標準化が求められている。
 博物館情報の国際標準確立に向けて、国際博物館会議(ICOM)の国際ドキュメンテーション委員会(International Committee for Documentation:CIDOC)は、1995年に「博物館資料情報のための国際ガイドライン:CIDOC情報カテゴリ」(International Guidelines for Museum Object InformationThe CIDOC Information Categories)を作成している。今後、我が国も博物館分野のデータ標準に関する基礎的研究を推進し、国際標準のルール作りに戦略的に対応していく必要がある。

(4) 権利関係
 これまで述べてきた研究開発や「デジタルミュージアム」構想を実現する上では、文化資源のデジタル・イメージの制作やその後の利活用に関して、様々な権利関係を適切に処理しなければならず、留意が必要である。例えば、所蔵品の所有者との関係(寄附の際の約束や管理契約など)においてデジタル化やその後の利活用が許されるかどうか、特に著作権が存している場合や、無形文化財について演者の肖像権等が問題になる場合なども考えられる。
 また、デジタル・イメージの制作に際しても、別途、制作を行った者に新たな著作権が生ずる場合があるため、デジタル・イメージの利活用を円滑に行うためには、著作権の譲渡に関する契約や、少なくとも、インターネット上での公開や放送利用等の後々の利活用方法を明確に想定した著作権に関する契約を制作者等との間で結んでおくことが重要である。
 これに関連して、教育・研究等の目的に使用する場合や国公立の博物館・美術館等の所蔵作品の権利処理については、著作権法に米国のようなフェア・ユースの規定を導入するよう検討すべきとの意見もある。このことに関しては、現在文化審議会著作権分科会において、アーカイブ事業を円滑に行うための著作権法上の課題について検討中であり、同分科会における審議を見極める必要がある。
 今後、このような点を踏まえつつ、必要に応じ、円滑な権利処理のための助言や支援など、「デジタルミュージアム」構想の実現に向けた体制づくりに努めることが望まれる。

(5) 次世代型「デジタルミュージアム」技術実証モデルの推進
 これまで述べてきたように、「デジタル化」の流れは、文化財等の保存・公開等の面にも大きな変革をもたらしている。一般的な家庭等に対する情報提供も、それほど遠くない未来に、世界に先駆けて我が国において実現することが期待されるが、これをより加速するため、技術開発の実証モデルとして産学官・地域の連携による新たな取組を進めることが有効であると考えられる。その際、情報科学分野の研究者・研究機関のみならず、独立行政法人国立文化財機構や国立美術館、文化芸術系大学、さらには諸外国の研究者・研究施設・機関との連携・協力が不可欠である。また、地域の学校教育との連携や地域住民の利用も視野に入れつつ、研究現場直結型の実験公開を兼ねた施設の設置を検討することも有効であろう。
 さらに、「デジタルミュージアム」構想実現のための技術開発やメディア芸術活動等を行っている大学・研究機関等の活動が広く支持されるだけでなく、地域の様々なポテンシャルが同時に有効活用され、地域と一体となった活動が展開されることが重要である。具体的には、社会全体に対する影響の大きさ等の点から、一般家庭への応用も視野に入れた超高精細映像関連技術、オープン・ミュージアムの実現のためのバーチャル・リアリティ技術等関連技術を中心とした技術開発を進めることが適切であると考えられる。

(6) 「デジタルミュージアム」構想実現に向けた産学官連携体制の整備
 「デジタルミュージアム」構想実現のためには、(5)で述べた技術課題のみならず上記(1)から(5)までの広範かつ多様な検討課題について、常に全体の進捗状況を把握しつつ、歩調のとれた解決策を講じていくことが必要である。また、これらの課題の解決を担う主体は、それぞれの専門性に応じ、産学官及び地域の機関等様々であることが予想される。「デジタルミュージアム」構想実現を目指した取組は、世界的にも初めての試みであり、次世代の社会や生活の姿を先取りしようとするフロントランナーとして位置づけられ得るものである。このような取組は、今後、我が国が圧倒的な国際競争力を強化する上で極めて有効であることから、これを確実に成功させ、世界の範となるものとする必要がある。
 かかる観点から、「デジタルミュージアム」構想実現に向けて、我が国の関係者や関係機関が緊密な連携の下に、共通の目標を頭に描きつつ戦略的な取組を進めていく必要があり、常に基本的方向性を見失わず、迅速かつ適切な意思決定ができる体制を構築することが重要である。このため、関係する産学官及び地域の責任機関等がそれぞれの役割を明確に意識しつつ、戦略の策定からその実現までを一貫して取り組む「デジタルミュージアム」開発コンソーシアムとも言うべき共同事業推進組織が、適切な場に早期に設置されることが期待される。

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