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1.文化資源等のデジタル・アーカイブについて

 文化財や美術作品、学術資料等の文化資源は、国民ひいては人類すべての共有財産でもあることから、これらを適切な環境のもとで管理・保存し、後世に引き継いでいくと同時に、時間的・地理的制約等を超えて鑑賞できる状況を創り出していくことが重要である。しかしながら、これらの文化資源は、たとえ細心の注意を払って適切な温湿度のもとで保存されていたとしても、年月の経過とともに色や文様、音等の劣化・退色等は避けられない。博物館・美術館等においては、実物の展示に勝るものはないが、それらの文化資源を展示・公開すれば、なおのこと劣化が促進されることになる。
 一方、それらが貴重なものであればあるほど、鑑賞したい、あるいは触れてみたいという国民の欲求は高まり、博物館・美術館や大学、研究所等の担当者は常に、保存と公開のジレンマに悩まされてきた。
 これを解決する手段として、文化資源をデジタル・アーカイブ化する試みが各地で進められている。デジタル化された文化資源は、情報の損失なく半永久的に保存することができ、ネットワーク技術の活用によって博物館等の展示ケースの中だけでなく時間と空間を超えてすべての人々のもとへ送ることが可能となる。従来、博物館等の展示室には面積の制約があり、解説情報や収蔵情報の提供にも自ずから限界があったが、情報端末等を設置することによって来館者がより多くの情報を得ることが可能となっている。さらに、様々なデータを組み合わせマルチメディアで表現することによって、「見えないもの」も「見えてくる」。その結果、文化資源の利用価値が格段に高くなり、鑑賞のみならずこれを利用した研究を促進することも可能になる。
 デジタル・アーカイブの対象となる文化資源には、文化財保護法で定義されている文化財にとどまらず、美術作品や様々な学術資料、古文書、日常的な生活文化、市民アート、さらには無形の文化財等も含まれる。これらのデジタル化された文化資源がデータベース化され、インターネット等によって配信がなされていけば、新しい「デジタル文化(Digital Culture)」として、新たな価値と使命が創造されていくこととなる。また、インタラクティブで細部まで見ることができる超高精細デジタル画像に作品の解説や材料の科学データ等を付与したり、音声等によるポータブルなガイド機能を付与したりすることなどによって、多様なミュージアム体験ができ、新たな感動を与える「デジタルミュージアム」への展望が開けてくる。
 さらに、将来的には、博物館等に直接来館することが困難な高齢者や障害者、あるいは遠隔地に暮らす方々等が自宅のモニター等で実物とまったく同じ感覚で文化資源に接することができるようになるなど、ユビキタスネット社会の実現により、ユニバーサルな鑑賞が可能となる。
 これに加え、人工現実感(バーチャル・リアリティ;Virtual Reality)技術を用いることにより、文化資源の過去の状態など時間的な再現や物理的に保存不可能なものの公開・活用等が可能となる。また、欠けた部分を修復したり透視して見えない部分を見せるなど拡張現実(オーグメンティッド・リアリティ;Augmented Reality)技術の応用や、博物館等に実際に行かなくとも行ったときのように展示物等を見ることができる遠隔存在(テレイグジスタンス;Telexistence)技術の活用も可能であろう。博物館・美術館等では、これらを活用して文化資源をインターネット上で公開するための取組が進められている。
 他方、「デジタル化」に際しては、情報量と再現性、伝送性の関係についての制限もある。実物をデジタル信号として記述する際に、どこまで多くの情報量を記録するかによって、どの程度忠実に実物を再現できるのか変わってくる。人間が連続的な情報の集合体である実物を見ることによって得られる直感的な美しさや感動などを、どこまで非連続的な情報の集合体であるデジタル情報によって再現しようとするのかについては、情報の伝達を含めた様々な活用方策との関連の中で最適化が図られるものであるが、究極のデジタル化、つまり人間の視覚能力にできる限り近づけたデジタル化の技術開発の努力も進められている。
 なお、デジタル・アーカイブ化の取組自体は、図書館や公文書館、大学、地方自治体、企業等においても多くの実績があるが、本報告書においては、主に博物館・美術館等を中心に述べることとする。ただし、これらの既存のデジタル・アーカイブ化の取組と連携し、その蓄積を活用することが必要であることは言うまでもない。

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