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おわりに

 何百年、何千年にもわたって保存・継承されてきた我が国の貴重な文化財等を後世に伝えていくことは、現代に生きる我々の責務である。近年、博物館等の行政評価や指定管理者制度の導入、さらには市場化テスト等の議論を背景に、ともすれば入館者数の増加等の表面的・短期的な成果のみが求められる傾向がある中で、カビの問題を契機として博物館等が有する文化財等の収蔵品の保存対策について検討する場が設けられたことは、誠に時宜を得たものであると考える。
 高松塚古墳壁画のカビ対策に当たっては、最先端の保存科学の知識と成果が活用されているが、実は「保存科学」という言葉が市民権を得たのは、まさに高松塚古墳が発見された1972年頃からであるといわれており、その頃から各大学における文化財等の保存科学に関する科目・講座は、増加の一途を辿っている。保存科学分野のさらなる充実を図るためには、生物科学系の学部学科を有する大学との連携も視野に入れる必要があると思われる。また、例えば古墳壁画の関連ではフランスのラスコー洞窟やスペインのアルタミラ洞窟、イタリアのタルキニア地下墳墓、中国の敦煌・莫高窟の壁画保存など、諸外国における取り組みについて、参考にすべき事項も多いと思われ、文化財保存科学に関する国際的連携も緊密に図っていかなければならない。
 これまで、文化財等の生物劣化の対策には、主として燻蒸処理が用いられてきた。しかし、オゾン層の破壊など地球環境の保全のため臭化メチルを成分とする燻蒸薬剤の使用が禁止され、燻蒸に頼る手法から人体や環境並びに文化財等の材質へ与える影響の少ない新しい処理法へ転換することが、IPMの考え方が主流となった今日、緊急に解決すべき課題となっている。このような折から、この報告書が現場での安全性に対するリスクをも考慮した効果的な保存法の確立に向けての第一歩として機能し、カビを中心とした微生物による劣化を防止するという目標の達成に貢献することができれば、本会合で取り組んできたことの大きな成果といえるだろう。最後に、これを契機に、全国津々浦々に存在する博物館や美術館、図書館、公文書館、大学、さらに文化財等を所有する寺社や個人、各種団体・機関等におけるカビ対策の充実が図られることを切に期待したい。

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