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有機系薬剤の種類
抗菌製品技術協議会では、薬剤の活性がある菌の種類によって、カビ(真菌類)に効果を持つ「防カビ剤」と、細菌に効果を持つ「抗菌剤」とに区別して定義している。抗菌剤の多くはカビへの効果がほとんどなく、防カビ剤の多くは細菌への効果が低い。カビと細菌の両者に充分な効果を持つ薬剤もあり「抗菌防カビ剤」と呼ばれている。有機系薬剤とは、有効成分に有機合成された化合物や天然物を用いた薬剤を指し、有効成分そのものを「原体」、その原体にさまざまな助剤を配合し使用目的に合わせて適用しやすい形に調合したものは「製剤品」と呼ばれている。一般に「防カビ剤」とは、この「防カビ製剤品」を指す。 |
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防カビ剤の効果
防カビ剤の効果はその有効成分の種類によって左右され、効果は短時間だが活性が強い剤と、長期残効型の剤とがある。工業的に広く用いられている防カビ原体は、多くの菌種に十分な効果を示すものがほとんどだが、中には一部のカビにのみ特異的に効果が低い剤もあるため、それを補う目的で複数の原体を併用配合した防カビ製剤品も多い。薬剤の効果評価方法としては「最小発育阻止濃度(MIC値)測定法」、防カビ製剤品の効果評価方法としては「JIS−Z−2911カビ抵抗性試験方法」等がある。 |
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防カビ剤の工業用途の使用場面について
工業用途における使用方法例としては、プラスチック製品への練り込み、外壁塗料やコーティング剤への添加、水希釈液への浸漬や薬剤塗布、液体製品への溶解、加圧含浸、蒸気燻蒸等、いろいろな方法があり、防カビ剤はその用途や使用場面に合わせて配合が工夫されており、水溶剤、水溶性粉剤、水和剤、燻蒸剤、分散剤(懸濁スラリー)、エアゾル、乳剤、エマルジョン剤、粒剤等の様々な剤型が用意されている。水に溶けない有効成分の水性液状化や、液体の粉体化といった物理化学的性質の変更による使い勝手の改善や、複数の有効成分の組み合わせによる効果の調整も可能である。薬剤選定には文化財や学術資料等の対象物への影響、特に材質劣化を十分に考慮し、また対象物それぞれについて過去のカビ被害事例がある場合には、その原因菌種や発生要因、適用薬剤等の情報を参考にすることが重要である。 |
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有機系防カビ剤の安全性と注意点
有機系防カビ剤は生理活性のある化合物である以上、一般化合物に比べ、ある程度の生体毒性と環境毒性を持つため、安全性評価のデータ(ハザードアセスメント情報)が整備されており、メーカーからMSDS(Material Safety Data Sheet;製品安全データシート)の形で提供されている。さらに危険性を持つ原体については、想定される使用場面ごとにリスクを考慮した用途や使用濃度の制限等が設けられ、リスクアセスメント情報として、同じくMSDSに盛り込まれている。さらに同じ有効成分を使用した防カビ剤であっても、その製剤のタイプによって安全性は大きく異なることも忘れてはならず、原体の種類・製剤タイプ・処理方法によって効果と安全性のバランスをとる必要がある。防カビ剤の法規制については、医薬・農薬・食品以外の分野においては「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(略称;化審法)」を主として「労働安全衛生法」「消防法」「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(略称;PRTR法)」等に従う必要がある。 |
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工業用防カビ剤の適用例
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カルベンダジム(Carbendazim)水分散製剤品
無臭、低刺激性かつ低毒性で長期残存効果が期待できる。糊、樹脂、塗料に添加し塗布することで防カビ性を持たせることができる。水希釈し、筆や刷毛塗りもできる。処理後、白華(粉吹き)が顕著な場合、同有効成分でより粒子径の細かい製剤を用いることで、これを低減できることがある。カビに対する活性は強くないが、水溶解性が低いため、湿気や水分、雨等への耐候性の点で優れ、変色も少ない。 |
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オクチルイソチアゾロン(OIT)乳剤製剤品
溶剤を含む上、皮膚刺激性があり注意を要するが、即効性でかつ高い効果がある。水ないし溶剤で希釈し、塗布・含浸させることで、発生したカビを死滅させた後も防カビ効果が付与される。処理対象によっては変色のおそれがあり、表面への使用は慎重を要する。皮膚接触の可能性のない用途のみ適用可能である。 |
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カルベンダジム(Carbendazim)テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)ピリジン(TCMSP)水分散製剤品
無臭で浸透性がよく低毒性で長期残存効果がある。木材・木部に発生しやすいカビの発生を抑える。皮膚接触の少ない用途にのみ適用可能である。水希釈液に浸漬処理することで長期にカビ及び木材腐朽菌の発生を抑える。希釈塗布も可能。木肌への着色や変色が少なく、臭気も少ない。汚染が顕著な場合あるいはさらに長期の効果や多菌種への効果を持たせる場合は、OIT製剤との併用が望ましい。 |
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ジンクピリチオン(Zinc pyrithione)製剤品
無臭、低刺激性で、長期残存効果が高い。細菌への効果を併せ持つ防カビ剤のため、複合した微生物汚染への適用に優れている。化粧品原料であり安全性は高いが、鉄との変色反応の可能性があるため、用途に注意が必要である。また、環境毒性も懸念されるため、水環境への適用はできない。 |
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