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1.現状と基本的考え方

 我々の身の回りは様々な微生物であふれている。浴室や洗面所、衣類や食品など、身近なところでカビが発生するのを見ることができ、それに対応して除菌・抗菌グッズや防カビ剤など様々な抗菌製品が販売されている。また、最近ではミュージアムパーク茨城県自然博物館、千葉県立中央博物館、神奈川県立生命の星・地球博物館など各地の博物館で菌類(カビ・きのこ)を題材にした企画展示が開催されたり、国立科学博物館・日本菌学会関東支部共催で子どものためのサマースクールとして「微生物は働きもの」(2005、2006年度夏の企画)が開催されたり、カビに関するマンガが人気を博したりするなど、一種のブームのような様相を呈している。
 しかしながら、実際にはほとんどの人がカビと細菌の区別がつかず、中学校の理科や高等学校の生物の時間に学んだ微生物に関する基礎知識程度にとどまっていることが多い。文化財等に直接触れるだけで、手の脂や汗などが付着して好乾性のカビが発生する原因になるが、博物館等の現場においても、収蔵物や展示ケースに発生した汚れや変色がカビであると認識しても対応が遅れ、被害が大きくなってから対処に困るケースも見られるのが現状である。
 これまでヒアリングを実施した様々な博物館、美術館、図書館等のほとんどがカビの被害に悩まされている。特に、脆弱な文化財については、劣化防止の観点から直接クリーニングするなどの処置も頻繁にできず、また、文化財そのものに直接影響を与える調査・点検を避ける必要があるため、カビ対策も後手にまわってしまう面が見受けられた。
 一般に、カビが発育する条件として「温度」、「水分」、「栄養素」、「酸素」、「水素イオン濃度(pH(ペーハー))」の5つが挙げられる。文化財に発生するカビの栄養源となるのは、文化財自体の構成材料(紙、木材、絹、毛等)や修復・復元時の糊や膠等の新しい材料、革製品や動物標本、植物標本等に含まれる炭水化物、脂質、タンパク質成分等が考えられる。したがって、カビを発生させないためには、1室内空間が高温多湿になるのを防ぐこと、2天井、壁面、床面等での結露の発生を防ぐこと、3清掃してカビの栄養となるホコリや汚れを取り除くことなどが基本であり、ほとんどの博物館等で共通認識がなされていると思われる。しかしながら、実態として施設設備面の問題や人員・経費の不足等によって、その徹底がなされていないケースが散見されるのは残念なことである。さらに、管理された収蔵庫を持たない大学や個人蔵のコレクション、寺社やその宝物、直接外気や土壌と接触している古墳や歴史的建造物、屋外展示物、発掘初期の出土遺物等の場合は、常にカビ等の微生物災害の危険にさらされているといっていい。
 以上のような基本認識のもと、カビの発生を予防するためには、(1)人材の育成、(2)カビ対策ネットワークの構築、(3)カビ劣化の実態等に関する調査研究、(4)カビ制御技術の一層の研究開発について、早急にその具体化を図る必要がある。以下、そのために必要な具体的方策について説明する。

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