国立女性教育会館の在り方に関する検討会報告書(素案)

1.ヌエックの成果と情勢の変化

(1)開設の経緯

 国立女性教育会館(以下、「ヌエック」と言う。)は、国連が「国際婦人年」と定めた昭和50年に着工、昭和52年に開設された。国立としては唯一の女性教育に関する社会教育施設であり、その創設は、「女性の地位向上」という当時の国連方針に呼応した日本政府のシンボリックな事業であった。国立だが、構想から開設地選定、設計、植林に至るまで、全国の女性団体等と連携して実現した。
 当時は、「女性の地位向上」のために「女性が社会に参加・参画する」ことが目標とされた時代であり、それには「女性の教育こそが重要」という認識であった。このため、ヌエックには、女性教育の振興を目的に、全国の女性リーダーを対象とする研修・交流を始め、調査研究や資料・情報の収集・提供等の業務を一体的に行うことにより、女性の自発的な学習を促進する役割が期待された。
 特に研修・交流機能を重視し、全国の女性リーダーが都会の喧騒から離れて落ちついて学習し、交流できる環境として、現在地が開設場所として選ばれた。 

(2)ヌエックの成果

 創設から今日に至るまで、ヌエックは、研修・交流・調査研究・情報の各機能を一体的に発揮することにより、次のような成果を上げてきた。

ア)宿泊機能を備えた施設で寝食を共にしながら学習・交流することにより、全国の女性リーダーが育成され、人的ネットワークが形成された。

イ)地域の男女共同参画センターに対する指導的役割を果たすことにより、各センターの機能を充実させ、もって地域の女性の地位向上に貢献した。

ウ)女性教育に関する資料・情報を専門的に収集し、WEB上や貸出し等を通じて提供することにより、関係者の研究・教育・広報活動等を支援した。

エ)日本を代表する女性教育機関として、アジア・太平洋地域の女性リーダーの養成への協力など、女性教育の分野における国際協力に寄与した。

オ)女性学・ジェンダー論など研究者による最新の研究成果を、講座等を通じて現場の社会教育活動や実践活動に橋渡しすることにより、その普及に貢献した。

 また、各事業の実施に当たり、全国の女性リーダーが主体的に事業に参画することを重視することにより「自発的な学習による人材育成」で大きな効果を上げるなど、ヌエックは日本の女性教育の振興に大きく貢献してきた。

(3)ヌエックを巡る情勢の変化

 一方、ヌエックを巡る情勢も、大きく変化している。
具体的には、平成11年の男女共同参画社会基本法の制定等を通じ、国の方針が「女性の地位向上」から「男女共同参画社会の実現」へとシフトし、男女共同参画社会の実現に向けた官民一体の取り組みの必要性が増した。
 また、関連して、地域の男女共同参画センターが増加し(平成23年現在388館)、地域特性を活かした取り組みが期待されるなど、各センターの役割がより重要なものとなった。
 さらに、経済の停滞と国の財政の深刻化に伴い、行政組織の徹底的な見直しと効率的・効果的な運営が強く要請されるようになり、ヌエックに対する国からの交付金も、過去10年間で2割を超える大幅な削減が行われた。
 このような情勢の変化、とりわけ「女性の地位向上」から「男女共同参画社会の実現」にシフトした国の方針を十分に踏まえ、ヌエックの機能・あり方を抜本的に見直すことが必要である。 

2.男女共同参画の現状と課題

(1)男女共同参画の意義

 「男女共同参画」とは、男女を問わず一人一人の構成員が能力・個性を十分に発揮できる社会を目指す理念であり、また、暮らしや社会を見つめる「目」を多様化して、課題を見つけ、解決に導こうとする営みであり、人々の幸福と豊かな社会を実現する上での手段として、重要な意義を持つ。
 特に、少子高齢化が急速に進む時代の経済・社会のサステナビリティ(持続可能性)が問われ、また、経済社会の活性化の観点からダイバーシティ(多様性)の必要性が指摘される中、男女共同参画の重要性・必要性は、ますます高まっている。

(2)男女共同参画の現状

 男女共同参画社会基本法の制定以降、男女共同参画会議の設置など推進体制が強化され、男女共同参画基本計画に基づき関係施策が講じられてきたが、日本の男女共同参画の現状は極めて厳しい。
 まず、女性の社会参加・参画については、固定的性別役割分担意識がいまだに根強く、進学率の男女格差が残り、結婚・出産・子育て期に就業を中断する女性が多いなど、多くの課題が解決されていない。
 また、政策・意思決定過程への女性参画も、政府目標(2020年に30%)に比べ、低い水準(国会議員11.3%、企業の課長7.0%)にとどまっており、国際比較でも極めて低い順位にある(男女差の国際指標(GGI)は135カ国中98位)。
 さらに、育児期男性の育児休業取得率が低く(1.72%)、家事・育児に費やす時間は世界的に最低の水準である。退職後の高齢者男性の地域社会への参加・参画が難しく、特に単身男性の地域からの孤立の問題が指摘されている。
 これらの状況を見る限り、これまでの取り組みは「失敗ではなかったか」との評価を払拭し得ない。官民問わず、改めて厳しく、かつ正確な現状認識に立ち、従来の施策や推進体制を抜本的に見直す必要に迫られている。

(3)戦略的推進機関の確立

 厳しい現状を打開するためには、制度、慣行、環境、意識など様々なレベルでの改革が必要だが、男女共同参画会議は、男女共同参画が進まない主な理由に、1.固定的性別役割分担意識が根強い、2.男女共同参画が働く女性の問題と認識され、男性を含む多くの国民の共通認識となっていない、3.社会の各主体のリーダーの認識が不足している、などを挙げ、「意識の変革」こそ最大の課題であることを示唆している。
 しかし、「意識の変革」への対策は、国民自身の主体的な「学び」や「気づき」を十分尊重しつつ、対象者の違い(男性・女性、一般従業員・管理職、若年層・高齢者など)に応じた戦略的な対応を要するものであり、その意味では、一般的な「広報・啓発」にとどまらず、より踏み込んだ「教育・学習支援」の対応が不可欠だが、国として、そのための効果的な政策ツールを持ち合わせていないのが現状である。
 国は、このような「意識の変革」を巡る現状と課題を正確に認識し、「意識の変革」への対策を施策の中心に据えるとともに、戦略的なアプローチを可能とする政策ツールとして、男女共同参画に関する「教育・学習支援」のための「戦略的推進機関」を確立する方向で、施策と推進体制を見直すべきである。 

3.「戦略的推進機関」としてのヌエックの適格性の検証

(1)ヌエックの課題と強み

 男女共同参画に関する教育・学習支援のための「戦略的推進機関」の確立が求められる中、ヌエックがその「戦略的推進機関」たり得るか検証する必要がある。そのような視点で見たヌエックの課題と強みは、次のように整理することができる。

(課題)

▲目的が法律上「女性教育」に限定されているため、男女共同参画実現に必要な業務、特に男性に対する働きかけを本格的に実施することが困難である。

▲所有施設での研修中心の運営のため、男女共同参画を図る上で働きかけ・協働が必要な関係者へのアプローチが消極的になりがちである。

▲対象に応じた戦略的な教育・学習支援を行う上で不可欠な調査・研究・プログラム開発のための機能・体制がきわめて脆弱であり、その能力に欠けている。

▲利用者は、男性38%、50歳以上約半数、3回以上の利用者9割、関東地域9割と、著しい偏りがあり、国民の幅広い層への対応ができていない。

▲宿泊施設等の「ハード」の維持管理に固定的コストを要する一方、収入拡大が十分には進まず、結果的に「ハード」が「ソフト」を圧迫している。

(強み)

○男女共同参画を進める上でも引き続き不可欠な「女性教育」の分野では、日本で最も豊富なノウハウを蓄積している。

○地域の男女共同参画センターや民間団体とのネットワークを構築しており、男女共同参画の全国展開を図る上で活用が期待できる。

○大学の教育研究への支援や客員研究員制度など、調査・研究・プログラム開発機能の強化を図る上で効果が期待される大学との連携・ネットワークの実績がある。

○日本における女性教育の中核的機関として、国際的なネットワークを有し、国際的に相当程度の知名度・信用力を獲得している。

○宿泊施設を始め会議場、研修室、スポーツ・文化施設など、運営方法の見直しや活用次第で自己収入を増加できる手段を現に保有している。

(2)「○○○○○○」(仮称)の創設

 以上のように、男女共同参画に関する教育・学習支援のための「戦略的推進機関」として、ヌエックは、改革を要する課題も少なくないが、培った実績に基づく強みもある。他方、「戦略的推進機関」を一から創設すると、ヌエックが培った貴重なネットワーク等を喪失することにもなりかねず、必ずしも効率的・効果的とは言い難い。
 この際、ヌエックが持つネットワーク等を活かしつつ、ヌエックが来るべき日本社会に求められる男女共同参画推進に基幹的役割を果たせるよう、ゼロベースで機能・あり方を見直すこととし、これにより、教育・学習支援を通じて男女共同参画社会の実現を図る国の「戦略的推進機関」としての「○○○○○○」(仮称。以下同じ。)を創設する方向で検討することが適当である。

 4.「○○○○○○」の在り方 

(1)中心となる機能・取り組み

 「○○○○○○」が、男女共同参画に関する「意識の変革」を戦略的に促進していくためには、1.対象者に応じた戦略的な教育・学習支援の展開、2.戦略的な教育・学習支援を支える調査・研究・プログラム開発、3.調査・研究・プログラム開発のための情報・資料の収集とその活用、といった機能が特に重要となる。

1.対象者に応じた戦略的な教育・学習支援

 男女共同参画会議が指摘するように、「意識の変革」のためには、特に、男性に対する働きかけ、社会の各主体のリーダーへの働きかけ、若年層からの理解の促進、地域社会の新たな担い手としての高齢者対策等が必要であり、経済社会のニーズを踏まえつつ、以下のように、各対象に応じた効果的な取り組みが求められる。

○一般社会人(特に男性)を対象に、各機関の職員研修や各種研修機関等に協力して、女性登用の意義・成功事例やワーク・ライフ・バランスの重要性等を学習するための研修プログラムを提供し、講師の紹介・派遣等を行う。

○企業・官公庁・大学等の管理職や人事担当者等を対象に、各機関の統括団体等と協力して、男女共同参画の意義・メリット等を国内外の成功事例を含めて学習できる研修を実施する。

○生徒・学生を対象に、各学校や学校団体と協力して、教育活動の一環として、女性の多様なキャリア形成の可能性や雇用・社会保障等の社会の仕組みを学習する教育プログラムを提供し、講師の紹介・派遣等を行う。

○地域の男女共同参画センターの職員等を対象に、地域社会における身近な男女共同参画の取り組みや高齢者への働きかけを進めるための関係施策や学習プログラム開発等に関する研修を行う。

2. 調査・研究・学習プログラム開発

 対象に応じた戦略的な教育・学習支援を支える基盤として、例えば、国の内外の様々な分野における男女共同参画の先進事例・成功事例・失敗事例等の調査・分析など、教育・学習支援の効果を上げるために必要な調査・研究・学習プログラム開発に重点的に取り組む。

3. 情報・資料の収集・活用

 調査・研究・プログラム開発等のために必要となる各種情報・資料を重点的に収集するとともに、収集した情報・資料や調査・研究等で得られた知見を活用して、必要に応じ国や地方自治体等への政策提言等を行う。

(2)機能・あり方の見直しの方針

(1)に掲げたような機能を担う「○○○○○○」を創設するためには、ヌエックの機能・あり方を、以下の方針に基づき抜本的に見直す必要がある。

1.  「女性教育から、男女共同参画の教育・学習支援へ」

女性の地位向上のため「女性教育の振興」を目指す機関から、「男女共同参画社会の実現」を目指して教育・学習支援を担う機関に発展させる。

2.  「もっぱら女性から、男性もターゲットに」

教育・学習支援の対象者を、女性だけから男性にも拡大するとともに、男性の中でも管理職等を重点対象とするなど、ターゲットを絞り込む。

3.  「自前の研修から、研修プログラムの提供へ」

所有施設での自前の研修中心の機関から、開発した研修プログラム等を各機関に提供し、自主的な教育・研修活動を支援とする機関に転換する。

4.  「“唯一のNational Center”の視点に、“Center of Centers”の視点を加えて」

“唯一のNational Center”の視点に加え、“Center of Centers”の視点から、多様な機関とのネットワークを活用し、「ハブ機能」を重視する。

5.  「ハード(ハコ)を分離し、ソフト(機能)中心の機関へ」

 宿泊施設等の「ハード」の管理運営を全面的に民間に分離・委託し、効率的運営とサービス向上を図りつつ、資源を「ソフト」に集中できる構造に転換する。 

(3)業務・組織・運営の見直しの方向

 (2)の見直しの方針を踏まえ、具体的な業務・組織・運営については、以下の方向で見直すのが適当である。

○ 主催研修は、地方自治体・男女共同参画センターの職員、各機関の管理職等を対象とするものや先導的・モデル的なもの等の中から精選する。

○ 交流事業は、ヌエック主導による運営から、施設等を活用しつつ、女性リーダーのグループや適切な民間団体等の主導による運営の方式に移行させる。

○ 女性教育にとどまらず男女共同参画推進の観点から、諸外国の関係機関等との国際的なネットワークを構築し、「ハブ機能」を発揮する。

○ 共同研究の実施、学生指導への協力など、大学等との間に有機的な連携を強化する。

○ 客員研究員を大幅に拡充し、研究職と客員研究員による戦略的な調査・研究・学習プログラム開発を担う体制・組織を確立する。

○ 外部研究資金の活用を図るとともに、寄付金拡大や学習プログラムの提供等による自己収入確保の仕組み(支援法人の活用等を含む)を導入する。

○ 資産の有効活用とサービス向上のため、本来目的利用の利便性にも配慮しつつ、施設の管理運営を全面的に民間に分離・委託(PFI、リースバック等)する。

○ 所在地は、所蔵する膨大な資料の管理、各種施設を利用する際の利便性、移転費用の問題等を総合的に考慮し、当面、現在地にて引き続き運営する。

(4)見直しの進め方

 今後、本報告書を踏まえ、施設部分(ハード)の分離・委託方法(PFI・リースバック等)の専門的な検討など移行準備のための検討を進めることとし、必要な法改正が行われ、移行準備が整い次第、新しい法人としての運営を開始する。その上で、新法人としての中期目標期間終了後に、改革の実績を検証・評価した上で、必要であれば、更なる抜本的な見直しを検討することが適当である。

お問合せ先

生涯学習政策局男女共同参画学習課男女共同参画推進係

(生涯学習政策局男女共同参画学習課男女共同参画推進係)