専修学校は、学校教育法の改正により昭和51年に制度が創設されて以来、「職業若しくは実際生活に必要な能力を育成し、又は教養の向上を図る」ことを目的として、職業人の養成など我が国の教育において重要な役割を担ってきている。
専修学校制度は、実践的な知識及び技術を修得するための実用的かつ専門的な教育を幅広い分野にわたって行い得るように、修業年限、設置者、教員資格、施設・設備等の基準が、比較的緩やかで弾力的な設計となっている。
また、専修学校は、その入学資格に応じて、高等学校を卒業した程度の学力を有する者等を対象とする専門課程(専門学校)(注1)、中学校を卒業した程度の学力を有する者等を対象とする高等課程(高等専修学校)(注2)、及び特に入学資格を問わない一般課程の3つの異なる課程を置くことができるという特徴を有している。
なお、専修学校は、学校教育法第124条に規定される教育機関として、学校教育法第1条に規定される学校とは、法令上の取扱いが異なっている。
平成20年5月現在、専修学校は3,402校、生徒数は657,406人となっている。そのうち専門課程は、2,967校(全体の約87パーセント)、生徒数は582,769人(全体の約89パーセント)を占めている(注3)。
専門課程の特徴をその8つの教育分野(注4)それぞれの生徒数の割合から分析すると、全生徒数に対する割合は、医療分野が約34パーセントと最も多く、次いで、文化・教養分野が約19パーセントとなっている。
制度発足時からの推移で見れば、約50パーセントを占めていた服飾・家政分野は、平成20年度には、約3.6パーセントにまで大きく減少している。工業分野及び商業実務分野は、制度発足以来堅調に生徒数の割合が増加し、それぞれ平成3年、平成5年にピークを迎えたが、景気動向等と連動して近年は減少している。これらと対照的に平成3年以降、生徒数の割合が増加しているのは、医療分野や衛生分野である。
医療分野や衛生分野における看護師、介護福祉士、柔道整復師等の指定養成施設の総定員に占める専修学校定員の割合は、例えば、看護師で約63パーセント(注5)、介護福祉士で約70パーセント(注6)、柔道整復師で約92パーセント(注7)となっており、当該分野の担い手養成に大いに貢献していると言える。
また、文化・教養分野においては、グラフィックデザイナーや写真家・漫画家・画家・書道家・通訳等、日本文化を支える幅広い人材を養成している。
このように、専門課程は、その柔軟な制度的特徴を十分に生かして、産業社会の変化等を踏まえた人材の需要を適切に反映した教育を行い、職業資格の取得を第一義的な目的とするものや、文化・教養分野のように必ずしも資格取得を目的としないもの等へ多様な発展を遂げてきた。
高等課程については、503校に38,730人の生徒が在籍し、一定の基準(注8)を満たした課程を卒業した者には大学入学資格が付与される等、大学や専門課程等への進学を前提として実質的に高等学校と同等の教育を行うものがある一方で、高等学校中退者や不登校の児童・生徒に対してきめ細やかな職業教育を行うことにより、彼らの自立を支援する役割を果たしているものもあり、特色ある教育を展開している。
さらに、一般課程については、198校に35,907人の生徒が在籍しており、語学、文化芸術等の幅広い学習内容について多様な教育の機会を提供する等、生涯学習社会における教育機関としての役割を担っている。
平成19年5月現在、私立専修学校における自己点検・自己評価の実施状況は約990校であり、私立専修学校全体の約31パーセントである(注9)。なお、平成19年の学校教育法の改正により、教育機関としての信頼性の一層の向上を図るために、平成20年度から専修学校にも自己点検・自己評価の実施が義務づけられた。
職業に直結した教育を行っている専修学校においては、特に産業界からの評価は重要な意味を有することから、ここでは、企業へのアンケート調査等を基に、専修学校、とりわけ専門課程(専門学校)に対する企業からの評価や要望を概観する。
専門学校を卒業した者のうち就職した者の割合は、約80パーセントであり、そのうち履修内容と関係した分野に就職した者の割合は、約74パーセントとなっている(注10)。これは、専門学校が産業界との接続や地域社会からの要請を踏まえ、体系的かつ実践的な教育訓練を行っていることを反映しているものと考えられる。
また、専門学校卒業生の企業における活用状況や専門学校卒業生に対する評価等に関する調査(注11)がある。
本調査によれば、新卒者の人材の水準に対する評価としては、10年前と比べて、「質が高くなった・やや高くなった・変わらない」と答えた割合が約55.8パーセントとなっており、専門学校は過去と同等以上の教育水準を保持していると評価されていることが窺える。
また、同調査によれば専門学校卒業生の採用理由として「専門の職業教育を受けている」(57.8パーセント)、「仕事に必要な資格を持っている」(42.6パーセント)ことを挙げる企業が多い。これは、前述のように専門学校が高い就職率を維持していることと併せて考えれば、専門学校における教育は、社会環境の変化を踏まえた実践的な教育を行い、職業に必要とされる技術・技能といった専門性を身に付けていることについて産業界から一定の評価を得ていることを示すものと言える。
一方で、同調査では、専門学校卒業生を活用する上での課題として、「専門家意識が強く、他の分野の仕事に就きたがらない」(20.5パーセント)、「期待されるほど即戦力として役に立たない」(20.1パーセント)、「基礎的な能力に弱く、幅広く活用することが難しい」(19.6パーセント)を挙げている。
調査結果を踏まえると、専門的な能力を向上させるための教育を充実するとともに、コミュニケーション能力など各職業分野に共通して必要とされる基礎的な能力を向上するための教育についても、より一層改善・充実する余地があると言える。
専修学校における社会人に対する学習機会の提供については、例えば、私立専修学校における社会人受入れ総数(一般課程・高等課程・専門課程における受入れ数及び附帯事業としての受入れ数)は約7万8千人となっており、そのうち私立専門学校における社会人受入れ数は、約4万4千人となっている(注12)。
社会人を対象とした職業教育・訓練は、大学・専修学校等の教育機関以外に、民間教育事業者・公益法人・NPO法人・他省庁所管の大学校等の様々な主体によっても提供されており、市場規模は、事業収入ベースで1兆3千億円とも言われる。ただし、組織形態別の市場に占める割合については、専修学校は事業収入ベースで約5パーセント程度に止まっている(注13)。
中央教育審議会答申「新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について」(平成20年2月)においても、各個人の職業能力や就業能力を向上させる必要があることから、専修学校と職業訓練校との制度的な役割分担を踏まえつつ、職業能力開発行政と連携して教育訓練を提供することが適切であるとしている。
また、平成19年12月の学校教育法等の改正により、社会人等に対する多様な要請に応じた体系的な学習機会の提供を促進することを目的として、大学・専門学校等における履修証明制度が創設されたが、本制度の適切な活用の促進による専門学校における社会人の一層の受入れのための環境整備が重要な課題となっている。
今後は、社会環境の多様化と急速な変化に対応して職業に必要な知識・技能を発展させていくことが必要であり、専修学校にも社会人や退職後の高齢者の再教育の場としての機能が期待され、社会人に対する学習機会の提供の必要性はより高まると考えられる。また、国民一人一人が生涯にわたって主体的に多様な選択を行いながら人生を設計していく生涯学習社会において、いつでも「学び直し」や新たな学びへ挑戦することが可能な環境整備を行うことが必要である。
このことから、専修学校がその柔軟な制度的特徴を生かし、多様な学習機会の提供主体としての役割を担うことが期待される。
総合教育政策局生涯学習推進課専修学校教育振興室