道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議(第1回) 議事録

1.日時

平成27年6月15日(月曜日)15時~17時

2.場所

文部科学省東館15階 15F1会議室
東京都千代田区霞が関3-2-2

3.議題

  1. 道徳教育及び道徳科における評価について
  2. 指導要領の具体的な改善策について
  3. 道徳教育の指導の充実方策について

4.議事録

【美濃教育課程課課長補佐】
 第1回道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議を開催します。本日は,初めての会議ですので,座長が選任されるまでの間,事務局において議事を進めさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。
○ 事務局からの配布資料の確認
 次に,本会議の委員の皆様を御紹介します。資料2として委員名簿を配布させていただいておりますので,名簿順に御紹介します。
天笠委員でいらっしゃいます。
岡安委員でいらっしゃいます。
佐藤委員でいらっしゃいます。
島委員でいらっしゃいます。
柴原委員でいらっしゃいます。
髙木委員でいらっしゃいます。
中橋委員でいらっしゃいます。
橋本委員でいらっしゃいます。
樋口委員でいらっしゃいます。
古屋委員でいらっしゃいます。
村田委員でいらっしゃいます。
吉田委員でいらっしゃいます。
脇田委員でいらっしゃいます。
 続きまして,文部科学省からの出席者を紹介します。
小松初等中等教育局長でございます。
合田教育課程課長でございます。
井上特別支援教育課長でございます。
教科調査官の赤堀でございます。
同じく教科調査官の澤田でございます。
 続きまして,本会議の座長についてお諮りしたいと思います。せん越ではございますが,事務局としては,中央教育審議会の委員を務められ,平成21年の学習評価の在り方に関するワーキンググループの委員も務められるなど,学校教育全般に造詣の深い天笠委員に座長をお願いできればと考えておりますが,いかがでしょうか。
(「異議なし」の声あり)
【美濃教育課程課課長補佐】
 ありがとうございます。それでは,天笠委員に座長をお願いしたいと思います。天笠委員は,座長席に御移動いただきたいと思います。
 今後の議事進行は,天笠座長にお願いしたいと思います。よろしくお願いします。
【天笠座長】
 天笠です。よろしくお願いいたします。挨拶につきましては,後ほどさせていただきます。
 副座長の選任をお願いしたいと思います。私がやむを得ない事情等で欠席する場合などを考慮し,副座長を柴原委員にお願いしたいと思いますが,いかがでしょうか。
(「異議なし」の声あり)
【天笠座長】
 ありがとうございます。
 柴原委員は,副座長席に移動していただければと思います。
 それでは,議事に入らせていただきます。まず,本会議の公開の取扱いを定めたいと思います。内容につきまして,事務局より説明をお願いいたします。
【美濃教育課程課長補佐】
 本会議は,検討の円滑な実施に影響が生じるものとして,「本会議において非公開とする」ことが適当と認める場合を除き,「原則公開」としていただいてはどうかと考えています。
 また,会議の資料につきましては,検討の円滑な実施に影響が生じるとして,「本会議において非公開とすることが適当である」と認める資料を除き,「可能な限り公開」とすること,議事録を作成・公開すること,その他,会議の傍聴や取材に関する取扱いについて定めていただければと考えております。
【天笠座長】
 ただいま説明いただきました,会議の公開の取扱いについての案につきましてお諮りをしたいと思います。この案でいかがでしょうか。
(「異議なし」の声あり)
【天笠座長】
 ありがとうございました。それでは,本会議の公開の取扱いにつきましては,案のとおりとさせていただきます。
 それではここで,報道関係者,一般傍聴者の方の入室を許可いたしたいと思います。なお,本日,報道関係者よりカメラ撮影を行いたいという申出があり,許可しますので,御承知おきください。
(傍聴者入室)
【天笠座長】
 それでは,続けさせていただきます。まず,小松初等中等教育局長から挨拶をお願いします。
【小松初等中等教育局長】
 時間も限られていますので,この会議の背景を説明することによって,挨拶に代えさせていただきたいと思います。
 委員の皆様方におかれましては,御多用中,委員をお引き受けいただきますとともに,本日の会議に御出席いただきまして,誠にありがとうございます。
 文部科学省では,中教審での検討等を踏まえて,本年3月に道徳の時間を新たに「特別の教科」として位置付けるとともに,その指導内容をより充実するため,学習指導要領の一部改正を行いました。これを受けて,どのように評価等の問題を考えていくかということが,私どもにとっても大変重要な課題になっています。
 今回の改正の一番の眼目は,子供たちが,答えが一つではない問題に向き合って,「考え,議論する道徳」に取り組む中で,自立した人間としてよりよく生きようとする意志や能力を育むことを,道徳科の目的とするということです。約60年に及ぶ道徳教育のこれまでの成果も踏まえながら,今後の方向を確立していく大きな転換点に立っていると考えています。
 評価の問題も,これを踏まえて,御議論いただきたいと考えています。
 中教審の答申では,道徳教育の評価についての基本的な考え方として,幾つかの点を述べています。それは,教員と児童生徒との人格的な触れ合いによる共感的な理解が存在することが重要であり,その上で,児童生徒の成長を見守り,努力を認めたり,励ましたりすることによって,児童生徒が自らの成長を実感し,更に意欲的に取り組もうとするきっかけとなるような評価を目指すべきであるという提言になっております。
 それから,指導要録等に示す評価として,数値などによる評価は導入すべきではないということも提言されています。さらに,道徳教育の評価については,指導要録の具体的な改善策等について,今後文部科学省において更に専門的な検討を行うことが求められるという提言になっています。
 この会議は,その位置付けによって出発させていただくものです。
 したがいまして,この専門家会議においては,中教審の答申や,今回の学習指導要領の改正の趣旨を踏まえていただいて,道徳科や教育活動全体を通じて行う道徳教育の評価や指導の充実に関して,発達障害等のある児童生徒への配慮や,指導要録の在り方等も含めて御検討いただきたいと考えています。
 委員の皆様方には,学校現場にとって分かりやすく,かつ実効性のある道徳教育が展開されるような評価の在り方などについて,それぞれの御専門の見地から御意見を頂きたいと思っておりますので,よろしくお願いします。
【天笠座長】
 ありがとうございました。
 続きまして,私から挨拶をさせていただきます。このたび座長を務めさせていただきます天笠です。よろしくお願いいたします。副座長をお願いします柴原委員のお助けを頂きながら,委員の皆様と共に,局長からお話しいただいた事項等について検討を進めていきたいと思いますので,よろしくお願いします。
 道徳教育が,国民の皆様の大変高い関心事であるということは,既に御承知のとおりです。さらに,昨今,深刻ないじめによって尊い命が絶たれるといった痛ましい事案が発生するなど,心と体の調和の取れた人間の育成をより一層図る観点から,道徳教育の充実が強く求められる状況になっているのではないかと認識しています。
 このような状況を踏まえて,今年の3月に,いわゆる「道徳の教科化」のための学習指導要領の改正が行われましたが,道徳科の評価の在り方については,今後の検討課題とされており,この検討が本会議に求められているところです。道徳科における評価の具体的な在り方については,報道機関や国会等において頻繁に取り上げられるなど,社会的にも大変関心や注目が集まっています。
 今後,本会議に与えられたテーマについて,委員の皆様の幅広く深い知見を十分に生かし,丁寧かつ迅速な検討を図りながら,道徳教育の充実に資する評価の在り方や,その充実の方策について具体的な方向性を示すことができるよう進めてまいりたいと思います。
 つきましては,委員の皆様の衆知を集めさせていただければと思います。また,関係各位の皆様の協力を頂きながら検討を進めたいと思いますので,よろしくお願いします。
 簡単ですが,私からの挨拶とさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。
 カメラの撮影につきましては,ここまでとさせていただきたいと思います。
 次に,事務局より配布資料について説明をお願いしたいと思います。
【合田教育課程課長】
 本日は,全ての委員の皆様に,お忙しい中お集まりいただきましたことに重ねてお礼申し上げます。
 これから議論を重ねていただくに当たり,道徳の「特別の教科」化について,現状と,今後の検討課題について報告いたします。
 まず,資料1を御覧ください。本専門家会議における検討事項は,(1)道徳教育及び道徳科における評価について,(2)指導要録の具体的な改善策について,(3)道徳教育の指導の充実方策について,(4)その他となっています。これらの検討課題について,この専門家会議に御検討をお願いする背景について,お話させていただきたいと思います。
 御案内のとおり,平成20年度に現行の学習指導要領の改訂がなされた際にも,道徳を教科として教育課程上位置付けてはどうかという御議論がありました。しかし,それについては,道徳教育の内容をより体系化・構造化して発達の段階に応じてきちんと指導していくことや,道徳教育推進教師を置いて校内の体制を整えることで,まずは道徳の時間を更に充実させるという御意見があり,教育課程上の変更は行いませんでした。
 平成25年2月26日には,教育再生実行会議から,道徳の特性を踏まえた新たな枠組みにより教科化し,指導内容を充実させ,効果的な指導方法を明確化するということを検討してはどうかという御提案を頂きました。
 そこで,文部科学省では,憲法学者や社会学者など,幅広い分野の方々に参加いただき,道徳教育の充実に関する懇談会を立ち上げ,10回ほど御議論いただきました。
 平成20年の改訂では,内容の構造化・体系化と,校内の体制の確立によって道徳教育を充実していくという方針が示されましたが,参考資料5に示されている通り,学校間や教師間の差が大きいことや,指導方法に不安を抱える教師が多いこと,学年が上がるにつれて児童生徒の受け止めがよくないといった課題が浮かび上がってきました。
 特に,よい教材をいかに探すかということ,効果的な指導方法をいかに確立するかということ,道徳教育の成果の把握が難しいといったことが,先生方の率直な感触として浮かび上がってきました。
 道徳教育の充実に関する懇談会からは,こういった点を克服するため,道徳教育の充実の方策として,道徳の時間を「特別の教科 道徳」として教育課程上位置付けてはどうかという御提案を頂きました。その後,中央教育審議会においても,昨年の3月から10月にかけて御議論いただき,「特別の教科 道徳」に位置付けることが適当であるという答申を頂いたきました。
 それを踏まえ,本年3月27日に学習指導要領の改正等を行い,道徳を「特別の教科」として位置付けました。
 この「特別の教科」化は,学校間や教師間の差が大きく,場合によっては道徳の授業が学校行事の準備などに利用されているという実態もあることから,道徳教育をいかにより実質化するかという観点に加えて,道徳教育の質を変化の激しい時代にふさわしい形でいかに転換をするのかという二つの観点で,道徳教育の充実のための御提案を頂き,学習指導要領の改正を行ったものです。
 道徳の時間は,学習指導要領に示された内容を体系的に学ぶという教科と共通する側面がある一方で,道徳教育全体の要となって道徳性を育成するという側面から,原則として学級担任が担当することが望ましいこと,数値による評価はなじまないことなど,教科にはない特性があることを踏まえて,「特別の教科 道徳」として位置付けてはどうかという御提案を頂きました。また,専門の免許は設けずに学級担任が指導するという点や,数値による評価を行わないという点で通常の教科とは異なりますが,検定教科書を導入するという点では教科と共通するということから,「特別の教科 道徳」として位置付けました。
 資料6を御覧ください。これは,3月27日に学習指導要領等を改正した際の事務次官通知です。平成26年10月の中央教育審議会答申を受けて,道徳教育の改善・充実を図るため,道徳の時間を教育課程上,特別の教科である道徳として位置付けるとともに,いじめの問題への対応の充実や,発達の段階をより一層踏まえた体系的なものとする観点からの内容の改善を図り,問題解決的な学習を取り入れるなど,指導方法の工夫を図るということを示したものです。このことにより,特定の価値観を押し付けたり,主体性をもたず言われるがままに行動するよう指導したりするといったことは,道徳教育が目指す方向の対極にあるものと言わなくてはならず,多様な価値観の,ときに対立がある場合も含めて,誠実にそれらの価値と向き合い,道徳としての問題を考え続ける姿勢こそ,道徳教育で養うべき基本的資質であるという中央教育審議会答申を踏まえ,発達の段階に応じ,答えが一つではない課題を一人一人の児童生徒が道徳的な問題と捉え向き合う「考える道徳」「議論する道徳」へと転換を図るものです。
 次に,今回の改正の中身を説明させていただきます。
 まず,小学校について説明させていただきます。「A 主として自分自身に関すること」とあります。これまでは自分自身に関すること,他者,自然や崇高なもの,集団や社会という順番でしたが,発達の段階や児童生徒の指導の必要性を踏まえて,「主として自分自身に関すること」,「主として人との関わりに関すること」,「主として集団や社会との関わりに関すること」,「主として生命や自然,崇高なものとの関わりに関すること」という順序に変更しました。
 その上で,「善悪の判断,自律,自由と責任」という言葉を記載していますが,これが答申で提案のあったキーワードというものです。内容項目について,より分かりやすく体系的に示すという観点から,「善悪の判断,自律,自由と責任」などのキーワードを記載した上で,これまでは2学年ごとに内容項目を示していたものを,キーワードごとに低学年,中学年,高学年というまとまりで内容項目を示しています。
 「個性の伸長」について,第1学年及び第2学年の「自分の特徴に気付くこと」は,今回の改正で加えたものです。
 内容項目は,基本的には従来の内容項目を踏襲していますが,何点か修正している部分もあります。特にいじめ等への対応において,自らの長所や短所に早い段階で気付くことが大事であるという観点から,低学年に,自分の特徴に気付くことを入れました。
 また,「相互理解,寛容」について,中学年の内容項目は,今回新たに加えたものです。異なる意見もしっかり聞き,自らの意見もきちんと伝えるということに関する内容項目を加えました。
 それから,「公正,公平,社会正義」について,低学年及び中学年の内容項目を今回新たに加えました。
 「勤労,公共の精神」,「家族愛,家庭生活の充実」,「よりよい学校生活,集団生活の充実」ついては,基本的には従来の内容項目を踏襲をしています。
 「国際理解,国際親善」の低学年の内容項目は,今回新たに付け加えたものです。今まではこれがなかったので,小学校の低学年では国際理解に関する内容を指導しなくてもよいのではないかという御議論も学校現場にはあるということでした。多文化や多言語との接し方の重要性を踏まえ,小学校の低学年から国際理解や国際親善についてしっかりと位置付けたものです。
 他国の人々や文化に親しむということとあわせて,小学校の低学年の「伝統と文化の尊重,国や郷土を愛する態度」に,これまで郷土だけでしたが,「我が国の」という言葉も入れています。
 「よりよく生きる喜び」の高学年の内容も,今回新たに加えたものです。これにより,中学校における,「人間には自らの弱さや醜さを克服する強さや気高く生きようとする心があることを理解し,人間として生きることに喜びを見いだすこと」につながっていくという構造にしています。
 「指導計画の作成と内容の取扱い」についても,幾つかの大きな変更を加えています。2の(2)で,道徳科が教育活動全体を通じて行う道徳教育の要としての役割を果たすということや,様々な教科等における道徳教育としては取り扱う機会が十分でない内容項目に関わる指導を補うことや,児童や学校の実態等を踏まえて指導をより一層深めること,内容項目の相互の関連を捉え直したり,発展させたりすることに留意することなど,従来,補充,深化,統合と言われていた役割を,より分かりやすく記載しました。
 また,児童の発達の段階や特性等を考慮し,指導のねらいに即して,問題解決的な学習や,道徳的行為に関する体験的な学習等を適切に取り入れるなど,指導方法を工夫することとして,問題解決的な学習等の重要性を明確に記載しています。
 さらに,児童の発達の段階や特性を考慮して社会の持続可能な発展など,現代的課題の取扱いにも留意するということや,これらの問題と向き合うに当たっては,多様な見方や考え方ができる事柄について,特定の見方や考え方に偏った指導を行うことのないようにするということを加えています。
 教材については,児童が問題意識をもって多面的,多角的に考えたり,感動を覚えたりするような充実した教材の開発,活用を行うこととした上で,検定教科書が導入されることを前提として,三つの留意点を明記しました。
 「教育基本法や学校教育法,その他の法令に従い,次の観点に照らし適切と判断されるものであること」として,「ア 児童の発達の段階に即し,ねらいを達成するのにふさわしいものであること」,「イ 人間尊重の精神にかなうものであって,悩みや葛藤等の心の揺れ,人間関係の理解等の課題を含め,児童が深く考えることができ,人間としてよりよく生きる喜びや勇気を与えられるものであること」,「ウ 多様な見方や考え方のできる事柄を取り扱う場合には,特定の見方や考え方に偏った取扱いがなされないものであること」ということです。
 現在,教科書検定審議会において,「特別の教科 道徳」の教科書に関する検定基準の議論を,別途行っているところです。
 それから,この専門家会議に極めて重要な関わりを持つ規定として,「児童の学習状況や道徳性に係る成長の様子を継続的に把握し,指導に生かすよう努める必要がある。ただし,数値などによる評価は行わないものとする。」という規定があります。この規定は,「ただし」以降は現行でも同じですが,前段部分は,現行学習指導要領では,「児童の道徳性については,常にその実態を把握して指導に生かすよう努める必要がある。」となっており,これを,「児童の学習状況や道徳性に係る成長の様子を継続的に把握し,指導に生かすよう努める必要がある。」と改正しました。
 以上が,主な改正点です。現在は移行期間ですが,小学校につきましては平成30年度から,中学校につきましては平成31年度から教科書を活用した「特別の教科 道徳」がスタートします。その評価をどうしていくのかという議論が,この専門家会議の重要な論点の一つです。
 資料7につきまして,「特別の教科 道徳」については,様々な角度から国会でも取り上げられています。特に,この専門家会議に関係するものを紹介します。本年3月25日に与党の国会議員から道徳の評価について,文部科学省の基本的な考え方と今後の検討の在り方に関する御質問を頂きました。
 評価については,児童生徒一人一人のよさを伸ばし,成長を促すための適切な評価を行うことが必要であり,数値などによる評価は不適切という提言を既に頂いており,評価の問題は専門性が非常に高いので,専門家による会議を設け,専門的な検討を経た上で,教師用指導資料の作成や指導要録の改正を行うという手順で進めたいと思っています。
 具体的なアウトプットとしては,ここでの御議論を教師用指導資料の中身や指導要録の改正という形で生かしていくことを考えています。
 文部科学省としては,数値による評価ではなく記述式であること,ほかの児童生徒との比較による相対評価ではなく,児童生徒がいかに成長したかを積極的に受け止め励ます個人内評価として行うこと,ほかの児童生徒と比較して優劣を決めるような評価はなじまないことに留意する必要があること,個々の内容や項目ごとに細かく評価するのではなくて,大くくりなまとまりを踏まえた評価を行うこと,発達障害等の児童生徒について配慮すべき観点等を,学校や教員の間で共有すること,現在の指導要録の書式は,「総合的な学習の時間の記録」「特別活動の記録」「行動の記録」「総合所見及び指導上参考となる諸事項」,小学校の場合はこれに加えて「外国語活動の記録」と,既にかなり記述欄が多くなっており,その在り方を総合的に見直すことといった基本的な方向性をお示しした上で,これを前提に専門的な検討を行っていきたいと考えています。
 こういった考え方をお示ししながら,委員の皆様に専門的な観点で御指導を賜りたいと思っています。
 なお,過去の教師用指導書には,教師が教材の中の物語はこのように読み取るべきだ,このように考えるべきだということが書かかれていました。この指導書というのは,文部科学省が作成した指導書ですが,子供たちが主体的に多様な価値観の中で自ら道徳について考えるというものではありませんでした。これを転換し,「特別の教科 道徳」は,考え,議論し,子供たちが主体的に考えることに対して,どれがよいか悪いかを評価するということではない在り方が,アクティブ・ラーニングとしても必要ではないかと考えます。
 それから,検定教科書を導入しますが,引き続き地域教材の活用も必要です。その重要性や,地域の方々や地域の専門家のお力添えを頂くという観点からも,開かれた道徳であるべきだという答弁を,大臣からさせていただいています。
 なお,参議院の予算委員会におきまして,安倍内閣総理大臣からも,今回の道徳の教科化の趣旨について答弁しているものがあります。
 これ以外にも様々な御議論があります。6月9日,参議院の文教科学委員会での御議論も紹介させていただいています。これについては正式な議事録がまだ届いておらず,私どもでまとめたものですから,若干誤り等あろうかと思いますが,お許しいただければと思います。
 その中では,特に評価に当たって,発達障害をおもちの子供たちに,どのような配慮をする必要があるのかということについて,特に御質問いただいています。
 道徳教育についても,発達の段階を踏まえるということについて,一人一人違う個性を持った個人であり,それぞれが能力・適性,興味・関心,性格などの特性が異なっていることから,教育課程編成や指導内容,指導方法を考える上では,個々人としての特性等から捉えられる個人差に配慮することが求められます。指導に当たっては,発達の段階とともに,個々人としての特性等から捉えられる個人差にも意を用いる必要があるという考えを前提とさせていただいています。
 この評価について,局長の小松から,発達障害等の児童生徒について配慮すべき観点等を学校や教員間で共有するといった基本的な方向性を前提に専門的な検討を行っていくという答弁を行った上で,国会議員からは,自閉症についても検討すべきではないかという御質問を頂いております。小松からも,自閉症を含めてしっかり検討してまいりたいというお答えをさせていただいています。
 検定教科書以外は使えなくなるのかという御質問も頂き,局長の小松から,そうではないというお答えをさせていただいた上で,発達障害の児童生徒の学習指導に当たっては,その特性を踏まえた上で,例えば視覚を利用した情報の提供や,実際に体験する機会を多くすること,学習活動の順序が分かりやすくなるような活動予定表を活用するなどの配慮を行うことが有効であるということを前提に,道徳科の指導においても,このような観点から,教科書とは別に写真や図面など,視覚を活用した教材を併用するなど,授業において扱う道徳的な課題を分かりやすく示すなどの工夫が考えられるところであり,このことを更に専門的に検討していきたいということをお答えをさせていただいています。
 道徳の教科化については,このような背景や考えなどに基づき,本専門家会議において評価や発達障害の子供たちへの配慮も含めて,幅広い観点から御議論いただいています。
 現在,学習指導要領の改訂全体についての議論も,進んでおります。その中では天笠委員や髙木委員にも御審議に加わっていただいて,これまでの学習指導要領の改訂の際と同様に,何を学ぶかということを中心に御議論いただいており,加えて,何ができるようになるのかということ,どのように学ぶかということについても御議論いただいています。アクティブ・ラーニングも,その一環です。
 現在の検討状況について,ごく簡単に説明させていただきますと,何ができるようになるかということについては,まずコンピテンシーを上のレベルで整理した上で,各教科にブレークダウンするという考え方より,むしろ各教科の本質を上げて,それがコンピテンシーになるという筋道も考えるべきではないかという御議論を頂いております。教科の本質と離れたところで抽象的にこういう力が必要だという議論をするのではなくて,それぞれの教科で育むべき本質的な問いや概念を大事にして,それを構造化することによって何ができるようになるかということを議論すべきではないかという御議論を頂いています。
 豊かな授業を行っている学級は何が違うのかというと,子供たちがこの教科を学ぶ意味は何かということを,先生と一緒に考えていることであるという御指摘も頂いております。これは,道徳教育の議論にも重なるものではないかと思っております。現在,学習指導要領の改訂という観点から,全ての教科等を通じて,このような議論が行われています。
 どのように学ぶかということ議論は,学習指導要領に学び方を書き込むということではなくて,解説や指導事例集なども含めた全体の中で,アクティブ・ラーニングなどの指導方法の事例と,基本的な方向性や資質・能力などをつなげて,全体としてどう整えるかということについて,御議論いただいているということです。
 評価についても,評価の観点としては,知識・技能,思考・判断・表現,態度や情意的な力という,学力の重要な要素である3観点が,分かりやすいのではないかという御指摘も頂いています。
 また,学び方の転換をしていくのであれば,教員養成・研修や,それに伴う時間の確保が必要です。それから,新しい学習指導要領にのっとったカリキュラムを現場の先生方が描くには,教科書と学習指導要領以外の様々なリソースが重要であるという御指摘を頂いています。これは,道徳も同じです。
 また,天笠委員から,御指摘いただいておりますように,今回こそはカリキュラム・マネジメントが多重的な意味で重要になってくるという御議論を頂いています。この改訂の全体の議論には,道徳教育の質的転換に通底するものがあると考えています。
 このような状況を踏まえ,「特別の教科 道徳」について,この専門家会議で御議論いただきたいと考えているポイントを申し上げます。
 まず,道徳教育及び道徳科における評価について,数値ではなく,記述式で評価を記載するに当たって,どのような点に留意すべきか。あるいは他の児童生徒との比較による相対評価ではなくて,児童生徒がいかに成長したかを積極的に受け止め,励ます個人内評価,個々の内容項目ごとではなくて,大くくりなまとまりを踏まえた評価ということを考えたときに,どういう在り方を考えていくべきか。その際,これらの評価を行うに当たっての基本的な考え方,具体的な取組例についても,必要に応じ委員の皆様から,あるいは別途ヒアリング等で情報共有,交換をしていく必要があるのではないかと思っています。
 また,現在の指導要録の書式も,記述欄がかなり増えていますので,全体的な見直しの基本的な考え方や,具体的な改善の方向性について御議論いただきたいと思っております。
 また,先ほども国会の御議論を御紹介申し上げましたが,発達障害等の児童生徒への配慮についても,樋口委員を始め専門家の方々からのヒアリング等も踏まえて御議論いただきたいと思っています。
 これらを踏まえた上で,道徳の指導の充実方策について,具体的には教師用指導資料をどう作っていくかという観点から,御議論いただきたいと思っています。
 道徳教育の充実についての現状と,今後の検討課題について御報告をさせていただきました。どうぞよろしくお願いいたします。
【天笠座長】
 ありがとうございました。
 それでは,これから各委員に御発言をお願いしたいと思います。学習評価や道徳教育の在り方に関する御意見などをお願いできればと思います。可能であれば,課長に御説明いただいた資料10についても言及していただきたいと思います。
 発言の時間は,お一人当たり4分ほどでお願いできればと思います。
 座席順に御発言いただき,最後は副座長にお願いしたいと思います。まずは岡安委員から,自己紹介も含めて御発言をお願いいたします。
【岡安委員】
 埼玉県教育局高校教育指導課の岡安と申します。よろしくお願いいたします。指導主事になって2年目,主な業務として入学者選抜を担当しております。高校教師を勤めた後,埼玉県教育委員会に勤めております。
 評価の在り方についてですが,主に入学者選抜にどのように生かしていくのか,どのように反映させていくのかという観点から何らかのお力になれればと考えております。
 現時点で,同様の状態にあるものを考えたときに,総合的な学習の時間があるかと思うのですが,埼玉県教育委員会においては,入試において調査書を作成するようにお願いしており,その中で総合的な学習の時間も記録等に残ることになっています。埼玉県では,入試において各学校で選抜基準を作っていますので,各学校の選抜基準に基づいて総合的な学習の時間の記録を点数化しているところもあります。
 これは私の個人的な意見ですが,指導要録等に道徳の評価等を導入するのであれば,教育委員会としては,それを調査書に書くことになると考えております。その上で,埼玉県においては各学校において選抜基準を作っていますので,評価をするか,点数化するかどうかというのは,各学校に任せるという形になると考えます。
 指導要録に書いてあるものを調査書に載せないということは,少し考えづらいです。道徳教育の目的等から考えたときに,指導要録の記述の方法等を深く考えなければならないのではないかと考えています。
【佐藤委員】
 関西学院大学の佐藤です。よろしくお願いいたします。私の専門は教育学でして,とりわけ教育課程論,それから教育方法論,教育評価論です。文部科学省におきましては,学習指導要領の総合的な学習の時間の解説と評価規準,見通し・振り返り学習,言語活動等に関わっています。生徒指導提要にも関わらせていただきました。道徳の評価については,まず第一に現行の学習指導要領解説道徳編の128ページにある「評価の創意工夫と留意点」の徹底が,まだなされていないのではないかと思っています。
 先ほど合田課長からも説明がありましたが,似たようなことが,こちらにも書かれています。とりわけ児童生徒との心のふれ合いを通して得られる共感的理解を基盤としたよりよく生きる意欲や道徳に目を向け,道徳性に関する自己理解,自己評価を内面から理解するように努めること,児童生徒一人一人の姿や変化を具体的に記述できるよう努力し,個に目を向けた評価になるようにすることですとか,自分を表現するのが得意な児童生徒もいれば,そうでない児童生徒もいるため,多様な評価を生かしながら評価に努めること,また,可能な場合は複数の人の評価資料を得て評価できるようにすること,1時間の様子だけで速断することなく,継続的に観察するなどして長期的視点に立った評価を心掛けるなど,先ほど御説明のあったことに通じるものがたくさんあろうかと思います。この徹底が,まずなされるべきではないかと思います。
 今日の御説明にありましたことは,非常に学習評価に近いわけですけれども,私の専門からいいますと,評価は,まずは学習評価,それから授業評価,それからカリキュラム評価という,子供を見る評価と教師の指導性を見る評価と,教育内容自体の評価という三つに区分されていくと考えています。その中では,とりわけ学習評価に焦点化されるわけですけれども,学習評価の場合には,相対評価は,現在の評価等においてももちろん行われていません。現行では絶対評価とされていますが,絶対評価には目標準拠評価と絶対者準拠評価があると思います。しかし,目標に準拠した評価を徹底する場合に,どうも個々人によって違う,絶対者に準拠する評価になっているのではないかということがあります。
 そういう点では,教科は目標準拠評価ですが,これを乗り越えて,道徳の場合には個人内評価というところにまで目を向けるということです。個人内評価の場合には,横断的な個人内評価,すなわち道徳性の幾つかの観点を設けて,資質や実践力といった点に目を向けて評価する場合と,横断的に対して,縦断的と申しますか,過去のその子供の能力の様々な点と比較しながら評価する場合があります。そういう点では,この個人内評価の在り方という意味について,もう少し積極的な議論が必要かと考えています。
 さらには,現在,企画特別部会でも議論が行われていますように,アクティブ・ラーニングの中でパフォーマンス評価をする場合,この評価をどのようにしていくのかという,子供自身のパフォーマンスをどう見ていくかという点について議論が必要だと思います。
 指導に返す評価と,評定などに結び付ける評価がありますが,どちらかといえば現在の議論では評価は指導に返すために,子供のよさや可能性をどう見ていくかということを中心に話し合っています。しかし,評定での評価という点も大きな問題で,指導要録上の記載事項については,教師の多忙感を考慮に入れながら,どのような記載事項や方法がよいのかという点について考えていかなければいけないのではないかと考えています。
【島委員】
 畿央大学の島です。私は道徳教育を専門にしておりまして,年間に多くの小学校や中学校におじゃまして,授業を拝見しながら道徳教育について一緒に考えています。
 道徳教育に関しては,中教審の道徳教育専門部会でもお世話になりました。
  特に,先ほど局長から,「答えのない問題に対して,その解決に向けて議論し合い,自立した一人の人間として」ということとともに,「それぞれの立場によって価値観や考え方が違ってくるということが大事だ」というお話がございました。社会で生きていく中では,一人一人の中で,価値観が多様化していかないといけない。自分はこのようにしか考えないのだということではなくて,自分はこう考えるが,自分とは違う考えの人もいて,その考え方も分かるというように,自分の中で価値観が多様化していくことがとても大切なことであると考えます。
 道徳は,それぞれの人の,友情や思いやりに対する向き合い方を扱っており,その考え方が,例えば,それまではこのようにしか見てなかったけれども,こういう見方もできるようになってきた,こういう点から捉えることもできるようになってきたということが大切で,このようなことを授業のねらいとして行っていくのです。そこを指導者が積極的に認め,子供たちを励ましていく評価が必要になってくるのではないかと思います。
 中学校でも小学校でも,2,3年間,道徳の時間に力を入れてみんなで取り組んだ学校の先生方の一番の成果は,児童生徒への理解の深まりだというのです。これまでの道徳の時間では,先生が一生懸命伝えよう,伝えようとしていたのだけれども,共に考え合うという授業になるにしたがって,この子はこういうことを考えているのだなとか,この子の考え方は面白いなと,児童生徒への理解が深まったということを一番におっしゃるのです。まさにそれが評価だと私は考えています。
 そのようにして積極的にその子供のよさを見るとともに,授業自体も子供たちが自由に発言をし,そして道徳的価値について議論し合う授業をしながら,そのことを評価し,子供たちを励ましていくことは,とても大切ではないかと考えています。
 その意味から,授業と評価を切り離して考えることはできず,評価は道徳科に限っては道徳科の目標や授業のねらい,内容をしっかりと押さえながら指導の一環として評価を行い,それを記載していくことになるのではないかと私は考えています。
【髙木委員】
 横浜国立大学の髙木です。専門は教育法学の中の,特に授業研究を行っています。その中でも,授業研究として評価の研究も行っています。
 グローバル化している社会や,知識基盤社会の中で,求める学力観が大きく変わってきている。その中で,道徳教育の位置付けも必要ではないかと思います。
 そのように考えますと,これは教科でもそうなのですが,これまで行ってきた評価,さらには評価というものに対する私たちの考え方や捉え方のイノベーションを図っていかないと,次の時代を生きる子供たちに育成すべき学力が,見えにくい状況になってきていると考えます。
 例えば,評価という言葉は日本語では一つなのですが,英語では,「evaluation」や「assessment」という言葉があります。「evaluation」というのは,簡単に言うと値踏みとか仕分するといった意味で,どちらかというと上から目線で分けていくような評価です。「assessment」というのは,支えるとか支援するという意味で,子供たちを一緒によりよくしていくといった形の評価です。
 先ほど佐藤委員もおっしゃいましたが,評価というと評定の意味だけで用いられることが多くありますので,子供たちをいかによりよくしていくかという「assessment」支援としての評価を,これから道徳の中でも是非考えていきたいと思っています。
 どういう力が伸びたか,何を学んだ,これからどうやって生きていくかなど,子供たちを支えることのできる評価が必要であると思っています。
 評価の妥当性や信頼性が求められてくると思います。評価を行うときに,どのように学校教育の中で道徳に関する評価の妥当性と信頼性が担保できるかについて,この会議の中でも話し合い,新しい道徳の評価,要するに数値に頼らない評価をどのようにするかということを,そこから再構築していきたいと考えています。
【中橋委員】
 私は,NPO法人わははネットという,主に乳幼児とか就学前の子育て家庭を対象に,子育て支援をしているNPOに所属しています。
 私たちは,赤ちゃんとお母さんを連れて中学校に行く,赤ちゃんふれあい授業というものをずっとやっています。先週の金曜日も行いました。中学校2年生の思春期真っ最中の生徒のところに,まだ首の据わらないような生後3か月から6か月ぐらいの赤ちゃんとお母さんを連れて授業に行きましたところ,ちょうど今朝,先生からお礼のメールが届きました。赤ちゃんと接したり,お母さんの話を聞いたりした生徒の感想を送っていただきました。「涙が出るぐらい,生徒の変化に感謝します。」という内容でした。
 また,先生の表現の中に,「『特別に』配慮の必要な生徒は一人もいませんけれども,そういう意味では『特別に』という言葉を付けさせてもらいます。」とありました。特別に配慮の必要な生徒のとても大きな変化,思春期で非常に難しくて,道徳観や倫理観をうまく表現できないもどかしい心の中でも,赤ちゃんを見たときの素直な表現に先生はとても感動したというメールでした。
 この会議でも,発達に障害のある子供について,評価をどうするかということもありますが,それ以外にも,多分道徳ということで考えると,家庭教育と非常にリンクしている部分があるのではないでしょうか。私は家庭教育の授業もずっと行かせていただいておりますので,特に中学生ぐらいになると,複雑な家庭背景をもっている生徒で,表現が難しい生徒への道徳の評価をどうしていくのかというのが気になります。
 文部科学省では,ずっと家庭教育手帳というものが作られていました。家庭で子供に伝えていくものを伝えてきた上での道徳の授業であればいいのですが,今それがない中で,私ども香川県は継続して,香川県独自の家庭教育のハンドブックのようなものを使って,小学校に入る前の就学前健診のときに,親御さんに向けても,家庭でこういうことを伝えてほしいということをお話ししています。道徳でお伝えすることと重なることもたくさんあります。そのような点も見直していただけると有り難いと思いますし,道徳の授業の評価が,どのように家庭に伝えられるのか分からないですが,親への評価につながらないようにしていただけると有り難いと思います。
【橋本委員】
 東京都の世田谷区立池之上小学校の橋本ひろみと申します。よろしくお願いいたします。この中では唯一学級担任で,子供と一緒に現役で道徳の授業を行っている者となるかと思います。その立場でいろいろ申し上げることができればと思っております。
 30年間以上教員をしてきまして,道徳の研究を30年以上続けています。その中でいろいろ感じることがあり,今,十分に道徳が広まらないということも感じながらも,最近,皆さんの関心が道徳に向いていて,先生たちも授業を一生懸命やるようになっている実態があります。
 東京都では指導教諭というシステムがありまして,私は道徳の指導教諭として,自分の学校の先生だけではなくて,他校の先生たちにも助言やアドバイスをしています。その中で何を先生たちに広めているかというと,二つのことです。まずは,道徳教育は教育活動全体で行うものとされていますが,実際どうやるかがとても曖昧になっている部分があり,何となく毎日子供たちと過ごしていても,全て道徳教育につながっているから,それでいいのではないかという捉え方があります。しかし,実は道徳教育は意図的,計画的なものであるわけですから,そこに計画が必要です。全体計画,道徳教育をこのように学校で行いますというもの以外に,いつ,どのような内容で行うのかという計画を別葉にして示していくことが望まれます。かなり量の多いものになるのですが,学校全体で別葉を作って道徳教育を意図的に行っていこうという取組をしている学校もあります。それをまず道徳教育全体で行うということを広めています。
 二つ目は,授業です。今,答えが一つではないというフレーズが出てきましたが,答えが一つではない授業をするには,道徳の時間に対するかなりの理解と指導技術がないと難しい。それはしっかり勉強すればできるようになるのですが,学ぼうとしなければ,そのような授業は絶対できないと私は考えています。
 ですから,しっかりと授業の計画を立てることと,一つの方向にもっていこうとすることは全く別のものです。しっかり授業の計画を立てた人間が,答えが一つではないものを子供たちに多角的に考えさせることができるという考えに基づいて,先生方に授業の計画を立てることの大切さを助言させていただいています。
 授業の計画を立てると,おのずとそれは授業の評価につながる。評価において最も重要なのは,目標だと考えています。学校全体の道徳教育も,それから道徳の時間の授業も,何をどのように指導するのかという教員のしっかりとした目標が大切です。これを指導観と呼んでいます。この指導観をもっていないと,一つではないものを引きだす授業はできないし,それから評価もできない。先生方は,評価がどうなるのかをとても気にしています。でも,私は,「評価の心配をする前に,まず授業の心配をしましょう。授業ができてこその評価です。」と先生方に申し上げています。
 それから,子供の道徳性を評価できるのだろうかという声もたくさん聞くのですが,子供の道徳性は,こうしたらこのように育つなどという一元的なものではないので,とても難しいことですが,道徳性に関わる成長の様子は認めてあげることができるのです。なぜならば別葉を作って計画を立てて,きちんと道徳教育を行っているわけですから,その中で子供の様子を学級担任なり教員は見て取れるわけです。
 ですから,そのような基本的な道徳教育をまずはきっちりやる。そこから評価の話は始まると考えております。30年度まであと2年少しで,私は非常に焦っています。あと2年の中で,どれだけ私が伝えたいことが現場に浸透していくか。本当に一つ一つの学校の一つ一つの学級の先生ができるようになっていくかなと焦っています。自分にできることを着々とやっていくしかないと思っています。
【樋口委員】 
 樋口と申します。兵庫教育大学大学院の特別支援教育コーディネーターコースで,主に現職教員の先生で大学院で2年間の勉強をしている院生を相手に,仕事をさせていただいております。その前は文部科学省で特別支援教育調査官をさせていただいておりました。今回の会議で,発達障害のある子供たちに,いかに道徳を教え,また評価するのかということが国会でも何回も質問され,大臣や局長が非常に丁寧にお答えいただいているということ知り,大変有り難い時代になったと感じています。
 ただ,非常に向学心に燃え,ある程度地元で実践をしてこられた先生方であっても,答えが一つに決まらないものを一生懸命討論するような授業構成をすることについては,最終的には何か一つの答えが欲しいなという感想を漏らすのです。そういう現況の中で,答えが一つに決まらないものを一生懸命議論することを通して,子供たちが充実感を得ていく授業をするのは,なかなか難しいものなのではないかと感じています。
 発達障害のある子供たちに対して,道徳という特別の教科を行うときに,幾つかの問題があると思います。まず正しくテキストに書かれている内容を伝えるという段階で,幾つものバリアがあるだろうということです。特に自閉症のある子供は,言葉の使い方が独自であったり,他者の心情を理解すること自体が非常に難しかったりする障害ですので,どうやって正しく内容を伝えるのかということです。それから,内容が分かったとしても,そのものに含まれている道徳的な意味,思いやりですとか,優しさなどについて,同年齢の子供たちと同じ程度の理解ができるのかということについては,非常に難しいだろうと思っています。場合によっては5年生,6年生の段階になっても,その子供の個人内では,1年生,2年生の段階の内容が,ちょうどいいという状況もあると思っています。
 それから,理解したとしても,実践力が付くかということです。特にADHD,注意欠陥多動性障害の子供は,分かっていても,そのときの衝動で行動してしまうことが非常に多いので,個人の中でどのように変わっていったかという視点で見ていくと,成長は確実にあると思いますが,同年代の子供と比較したときに,我慢強いかとか,ルールを守れるかといったことについては,どう評価していくのかが重要だと思います。
 障害のある子供については評価の基本的な考えは同じですが,「一層丁寧な評価が必要である」という提言は,非常に有り難いことです。現場ではかなり丁寧に実践をしています。例えば,LDのある子供については,ペーパーテストを行う際に,分かりやく仮名を振ったり,解答用紙の欄を大きくして書きやすくしたりといった工夫がされています。道徳についても,どのように理解しているのかということについては,そのときの単なる行動だけを見るのではなく,いかに内面に踏み込んだ評価ができるのかということが大きな課題になるだろうと思っております。
 発達障害のある子供たち一人一人は,本当にいろいろな個性をもっており,私も日々発見の連続です。少しでもお役に立てるように参加させていただきたいと思っています。
【古屋委員】
 東京都国分寺市立第四小学校の校長,古屋です。よろしくお願いいたします。15年ほど教員をやりまして,その後,教育行政に関わらせていただきました。その後,校長になり2年目になります。東京都教委にいたときには,道徳教育教材集というものを作らせていただきました。先ほども,そういう教材集も是非活用しながらというお話があり,大変有り難いと思っております。
 久しぶりに学校現場に戻り,教員の授業なども見る機会が増えました。その中で,本当に道徳の授業をしっかりやれるようになってきたなと私は感じています。子供たちが,ねらいとする価値について様々な考え方を発表し合いながら深めていくような授業が本当に増えてきたと思っています。
 ただ,1時間の授業を見ますと,なかなかいい授業だと思うのだけれども,子供たちが感じたり,考えたり,発表したりしたことが次の授業へ,また,同じ内容項目の授業へとつながっているかというと,そういう点では,まだ十分ではないと思います。また,学校全体で行われる道徳教育へどう生かされているかという点でも,まだまだ改善の必要があると感じています。
 そういった意味では,道徳教育の評価の充実が必要であると思っています。これまでも,子供たちの評価,いわゆる道徳性に関する評価,また指導に関する評価,そして計画に関する評価を行ってきたつもりですが,特に子供たちの道徳性に関する評価は慎重に行うべきということで,なかなか強調されなかったり,教員が控えてしまったりすることも,もしかしたらあったのではないか。そこに今回の検討の中で切り込んでいくことの大切さがあろうかと思います。
 教員が自信をもって,子供たちのよりよい生き方に関する感じ方や考え方,思いというものをしっかりと評価して,成長の過程を伝え励ましていくという評価はとても大切だと思います。教員が自信をもってできる評価というものを伝えられたらと思っています。
 そして,教員が伝えたことが,子供たちの納得のもとの自信となり,さらには子供たちだけではなくて,保護者や地域に発信するものにもなる必要があると思っています。子供たちがこのように成長しています,このような点が伸びています,このような子供たちに育てていきたい,そういうことを示すことができたらと思っています。
 特に中心として考えていきたいのが,授業の充実です。今回,「特別の教科 道徳」ということで抜本的に改善・充実をしていくわけですから,授業が充実していくような評価にしなくてはいけない。先ほど島委員もおっしゃったように,評価が充実していくと,授業が充実していくと私も考えています。子供たちを十分に理解し,その理解を深めていく中で,授業がどんどん変わっていく。そのことによって更に評価する力が教員にも身に付いていくと感じています。
 ただ,危惧する部分も様々あろうかと思います。1時間の学習の様子や変化の中で,それがイコール道徳性の変化だといわれると,なかなかそこは根拠を示せないところもあります。子供たちがわずかずつでも変化していく,それを具体的に記述していくことが大切ではないかと思っています。今後,具体的な検討がなされると思いますので,その中でお話をさせていただきたいと思います。
 私が考えているのは,子供たちの思いをしっかりと受け止める受容的で共感的な理解のある評価です。さらには,子供たちをしっかりと多面的,多角的に見ていく評価を考えていけたらと思います。
 また,本校には自閉症情緒障害の固定の学級も併設しています。もちろん道徳の授業も行っています。そのために教員も,視覚的な教材の提示や,子供たちの発言をどう受け止めるかというところも様々な工夫をしています。日々悩みながら取り組んでいます。
 例えば,思いやりについて考える授業があったときに,子供から,その話を聞いているといらいらするという話がありました。でも,いらいらするというのは,実はよく聞いてみると,もっと早くその困っていることに気付いて行動すればよかったのではないか,そういうことを言いたいためにいらいらするという言葉を使った。そのような発言もありました。ですから,じっくりと教員が受容的・共感的に受け止める評価が必要だと感じています。
【村田委員】
 京都府の城陽市立東城陽中学校の村田と申します。よろしくお願いします。私は現在,中学校1年生の担任をしていまして,毎週生徒と一緒に授業を行っています。教科は英語を教えています。今年度,東城陽中学校に転勤をしました。昨年度までいた学校は,道徳の研究をずっと推進してきた学校でした。私は,授業がとても好きです。楽しいと思っています。何が楽しいかというと,一つのテーマに向かって子供たちと一緒に考えて,こうでもない,ああでもないと話をして,いつも私が思っている以上のことを生徒が出してきて,それはどういうことかと話をするのがとても楽しいのです。これが本当に道徳の授業の醍醐味(だいごみ)や楽しさだと思っています。
 例えば,「勇気」という言葉が出たときに,「勇気」とは一体何だろうかとか,「信頼」とはどういうものが「信頼」だろうかとか,本当に信じ切ることができるのだろうかとか,いろいろな話を子供たちとしていると,本当に私の思っていること以上のことを生徒が発言します。そのことから自分が教えてもらえたと感じることがたくさんあります。それが道徳の授業の魅力の一つであると思っています。
 今の学校は行っていませんが,昨年度までの学校では通知表に道徳の所見欄がありました。それはどのようにしているかというと,道徳の感想文をずっと蓄積して,年度末にその中でとても深く考えられたと思う所見を書き,家庭に返したり,今まで発言が少なかった子供がどんどん発言する様子を伝えたりしています。
 ただ,評価というのは難しいと思います。私自身は,一つのテーマに向かって子供たちと同じ方向を向いて,子供たちと一緒に考えていったというイメージでいます。評価というと,自分のイメージの中で,生徒と教師である私が対面してしまうようなイメージをもってしまって,評価は道徳が楽しいと思っている思いをそいでしまわないかとか,子供自身が本当に評価を気にせずに自分の意見を言えるのだろうかとか,評価の在り方によっては,純粋な子供たちの意見を引き出すことができるのだろうかということを先に考えてしまいます。
 もう一つは,中学校2年生は顕著に価値観を崩す時期とされます。新しく価値観をつくろうとしているのか,意見が少なくなってくる傾向があると思います。ですので,ちょうど中学校2年生の子供たちの評価は,とても難しいだろうと思います。紙面に書いている感想文では表せない内面を実はもっているのではないかと思うこともありますので,大変難しさを感じています。
【吉田委員】
 筑波大学の吉田と申します。現在は筑波大学の教育学類長をやり,4月から大学の本部の方からグローバル教師力開発推進室という,これからの教員養成の方向を決めていく役を担当しています。道徳教育学は専門です。筑波大学の博士課程で道徳教育学というのは,多分日本で唯一だと思います。そちらで道徳教育の教師を育てる,あるいは学問をやることが本業です。自分の研究自体はドイツのシュタイナー学校という研究で,もともとは学習指導とか授業方法をやっていたのですが,ふとしたことで,今の専門をやるようになりました。
 現場には余り関わりがなく,副読本などは一切担当してきませんでした。この中では,私もアウトサイダーかなと,あるいはアウェーかなと思いながら,ここに座っております。
 そのような中,一応高校で倫理の教科書を書くという形で,道徳教育とは少し違う形で,今まで社会的にはやってきております。そのため,どうしても自分の考え方は長期的というか,広いというか,そのような考え方をしてしまうところがあります。ピント外れなことを言うかとは思いますが,それが研究者としての立場かなと思っております。
 私の意見をここで述べさせていただけるということで,有り難い場を頂いたと思っております。実は来月もドイツに行きます。日本では,幼児教育というのは道徳性の芽生えと書いてあります。これでは遅いのではないかと思っております。最近,ドイツの方でどのような道徳教育をやっているのだろうか,あるいは高校レベルでどうなのだろうかということで,小・中学校ではなくて,あえて少し違うところから見ております。
 幼稚園から高校まで,いわば学校全体・教育課程全体を見通した形で評価を考えていく必要があるのではないかと思っています。もちろん小・中学校を中心とするのですが,その見通しが必要ではないかということです。
 それから,教科になった以上は,責任と義務が発生してくるのではないかと思っております。つまり,今までのように,道徳の時間だからよいというのは許されない。先生方は子供たちに責任と義務があるわけですが,我々自らが責任と義務という形で,教育課程全体の中で道徳教育の枠の中で縛られながらも,自分たちの独自性をどこまで示せるかということを考えていく必要があると思います。
 それから,先ほどからも出ております内面への評価については,どこまで介入できるかという問題があると思います。特に内面を評価するということは,慎重にやらなければいけないと思っています。しかし,内面のない道徳など考えられないので,そこをどう工夫できるかということを考えたいと思っています。
 それから,道徳教育の目的や内容,あるいは体系化という点から考えると,まだ他の教科に比べて,十分でない部分があると思います。そのような状況の中で,厳しい評価規準を作ってしまうと,誤解を招きかねないと思っております。個人的には,もう少しゆっくり,あるいはゆったりとした評価から出発して,内容,方法,目標がきちんと体系化していく中で,次第に評価を固めていくという,長期的な視点で進めていってはどうかと考えております。
【脇田委員】 
 福岡教育大学の脇田でございます。私は,本年の4月1日から福岡教育大学教職大学院におります。教員として36年間勤め,現場から行きました実務家教員です。昨年1年間は県の行政の方におりましたが,その前は5年間校長として学校経営を行いました。
 その学校に勤めているときは,幸いなことに非常に荒れた学校に勤めさせていただきまして,職員とどのようにしてこの学校を普通の学校にしていくのかということを考えながら勤めさせていただいた5年間でした。私は,36年間ほとんど特別活動を研究させていただき,学級担任も,指導主事も,管理職になっても,特別活動で学校経営をしていくことなどに取り組ませていただきました。記述式で評価を記載するに当たって,何をよりどころにして記述をするのかということを考えてきたわけです。
 特別活動の評価は,評価の観点を関心,意欲,態度,思考,判断,実践,そして知識,理解ということで,望ましい集団活動を作っていくための観点で行うのですが,その評価の観点は学校がつくることになっています。校長先生が,その学校の子供たちを特別活動でどのように育てるのかという視点で作っていくわけです。
 道徳教育も,そのような観点から申しますと,校長がその学校の道徳の指針,方針を作っていくわけです。先ほどから,授業を行う,評価を行うという言葉が出ていますが,学校には道徳教育をずっと研究してきた教員ばかりではありません。ただし,全ての教員が道徳の授業をやらなければいけません。校長の明確なビジョンの下,授業をやっていかなければならない。その学校で子供たちに必要な道徳性というものは,どういうものなのかを教職員全員が共通理解を図っていく必要があります。そのためには指針が必要になってくるし,観点が必要になってくる。それに基づいて授業や評価を行い,評価を記述していくためにも,それぞれの教員が好き勝手なことを書くのではなく,ある程度学校で観点をそろえて評価をしていかなければなりません。どの程度評価をするかというのは,これからのこの会議の中で詰めていかなければいけないところだろうと思います。基本的にはそういう考え方に立って道徳教育の評価というものはやらなければならないのではないかと考えています。
 道徳教育と特別活動の関連は非常に深いと私は思っています。一人一人の内面が耕された子供たちが作る集団活動,友達と一緒に関わりを深めながら道徳的な実践を指導する場でもあるのが特別活動です。今後,この会議の中で勉強をさせていただきたいと思っております。
【柴原副座長】
 京都産業大学の柴原でございます。冒頭に合田課長より,国会の審議内容についても,限られた時間の中ではありましたが,分かりやすく御説明いただきました。国会議員の方々を始め多くの国民の皆様の関心やお考えのある中で,本専門家会議が開催されているということを,改めて確認させていただきました。
 このたびの道徳教育に関わる学校教育法施行規則改正等に対するパブリックコメントにおきましても,本専門家会議で扱う評価に関連する意見の数が圧倒的に多かったようです。それぞれの立場からの知見や実践,研究に基づく質的にも大変内容の深いものも多数ございました。そうした中で,この専門家会議の委員委嘱を受けることは,私では任が重いという思いをもったというのが正直な気持ちです。一方で,この評価の部分を何とかしないと,我が国の道徳教育のさらなる充実は望めないのではないかという思いも強くもっています。
 このたびは,委員を委嘱されたということもさることながら,身に余る任に御指名賜りました。天笠座長をお支えし,皆様方に御協力を賜りながら,本専門家会議が我が国の道徳教育の充実に大いに資するものとなり,児童生徒一人一人の道徳的成長へと確かにつながるものとなりますよう精一杯務めたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
 さて,道徳の時間の特設以降,文部省が道徳についての評価に関わる資料を示したのは昭和37年だったでしょうか。実践事例に基づく具体的な方法についても多く紹介しており,今日の取組と,内容的にそれほど大きくは変わっていないものもあります。ただ,このたびの教科化の動きの中で,委員の皆さんのお話にもありましたように,少しずつですが,評価への新たな胎動が感じられるようになってきているのも事実です。そのことは,文部科学省による道徳教育の実施状況調査結果にも,教師の評価への意識として報告されているとおりです。
 また,先ほど佐藤委員から御指摘がありましたように,道徳教育における評価の基本的な考え方や具体的な方法については,これまでも学習指導要領解説道徳編等において示されてきております。しかしながら,実際のところは学校現場において十分な取組には至っていないという実態があります。そこで,本専門家会議においては,そうした実態の要因分析をしっかり踏まえた上で,このたびの改正が最大限生かされた実効性と実現性のある,児童生徒一人一人のための評価活動として,すべての学校現場で展開されることとなるような議論や具体的な提言等が求められていると考えます。
 そうした会議としていくためにも,私の考えているところを3点述べさせていただきます。
  まず,学習指導要領に道徳科における評価として新たに規定された児童生徒の「学習状況」に関する評価活動を,実現可能性のあるものとして実質化できるような議論を行えればと考えています。もちろん,道徳教育全体もその要となる道徳科も,その目標とするところは道徳性にあるのですから,理論上,評価の本丸は道徳性に関わる評価が求められるところではあります。しかしながら,この点については,これまでの中教審等での審議において確認されてきている基本認識に立脚した上で,これは極めて丁寧に扱うべき部分であって,他教科と全く等質に扱えるものではないことでもあり,学習指導要領においても「道徳性に係る成長の様子を・・・」と示されています。他教科における評価につきましても,関心,意欲,態度に関する評価は最も難しいということからも御理解いただけるところでしょう。この部分に関する評価については,各学校での記述による評価の具体的実践の交流等が可能となるような資料提示につながる議論を行い,児童生徒の学習状況に関わる評価,ひいては道徳科の授業改善に資するような評価がどうあるべきなのかという点により意識をもちつつ議論を深めたいと考えています。このたびの学習指導要領に規定されている道徳科に求められる学習状況が実際に成立しているかどうかといった基本的な部分も含め,その学習指導をしっかりと評価するための資料提示や指導要録の改善につながるものとしたいと考えています。学校現場の多くの先生方がそうした学習指導観や評価観をもちながら,指導や評価,その一体化を考えていく中で,先ほどもそういった実践から児童生徒への理解が深まったという事例も紹介されていましたが,道徳性に係る成長の見取りや授業改善に生きる評価,その在り方や具体的な方法・事例についての議論が深められればと考えています。
 2点目は,児童生徒自身による自己評価,いわゆる振り返りをこれまで以上に大事にすべきではないかと考えています。児童生徒自身が自己の道徳性の育みに対する意義を理解し,意欲をもって主体的に学習していくこと,どう生きるべきなのか,どう生きたいと自分は考えているのかといったことを,メタ認知の重要性からも,大いに意識して取り組むことが肝要だと考えています。さらに,そうした自己評価を生かした評価が,評定という形ではなく,児童生徒や保護者に返されます。このような評価の取組は,やがて地域の人々にも,広く国民にも理解されていくのではないでしょうか。児童生徒による主体的な道徳的成長を継続的に把握し,その成長を勇気づけ,しっかり支えていけるような評価の基本的な考え方や具体的な方法・事例についての議論を深め,すべての学校において実践が積み重ねられることを通じて,道徳教育の充実への機運を国民全体のものとしていけるのではないかと考えています。
 3点目は,理論的な評価可能性と今日の学校現場の実態における評価活動の実現性というのは,ステージの違う問題だということです。もちろん,完全なものとしてではなく途中段階のものとしてでも,そうしたギャップを考えずに,単純に学問的な評価理論だけで,議論を行い,一定の見解が示されたり,資料が作成されたりしていくことは避けたいです。学校現場に不安や負担感等からの不要な混乱や,これまで道徳教育の充実に腐心してこられた先生方の取組に疑問や疑念,ためらいや停滞を生むことには,少なくともならないような専門家会議としての打ち出しや資料提示をする必要があると思います。私自身,そうした思いをしっかりもって本専門家会議に臨みたいと考えています。
 最後に,委員の皆さんからも御紹介がありましたように,既に学校現場においては,評価の在り方ということに関わる実践や研究の蓄積が徐々に広がりつつあります。そこで,本会議におきましても,同時並行的にそのような取組のすそ野を広げていく中で,何らかの取りまとめや実践事例等の資料を提示していくことができればよいのではないかと考えています。
【天笠座長】
 委員の方からの発言は,ここまでとさせていただきたいと思います。
 なお,私は学校経営学とか,カリキュラムということで,教育課程全体,学校の教育活動全体として事柄を見ようという視点で,今回の道徳の授業などについて考えてきました。
 また,これまでも学習指導要領に関わらせていただいたことがありまして,それは主として特別活動や総則に関してでした。現在は,先ほど御紹介いただきましたけれども,企画特別部会で髙木委員と御一緒させていただいています。
 その中で,問題意識や関心をもっているのは,教育課程の在り方を語ることと,授業の在り方を語ることとに,うまく接点が見いだせない場合が往々にしてあるということです。学習指導要領などの組み立て方を,どのように現場に伝達していくかということを考える際にも,同様です。現場において日々の教育活動は基本的にカリキュラムがあって,教育課程があって,その下での授業なのですが,教育課程ということと,授業というところが,とかくうまく接合し切れない。何が大切かというと,道徳は教育課程全体を通してということが長年追求されてきましたが,これをどのように実現していくのか,具体化していくのかということも,今回の評価の在り方などと非常に重なり合っている部分があるのではないかと思います。評価というのは,もしかすると,それを接合するところに入ってくる可能性をもっているのではないかと思います。そういう点で,これから委員の皆様方と知恵やアイデアを出し合いながら,その方向を開いていきたいと思っております。委員の皆様のお力添えをお願いします。
 今日はここまでにさせていただきたいと思います。最後に事務局からありますか。

○ 次回の会議の期日について事務局から説明

【天笠座長】
 委員各位におかれましては,これからの進め方について,何か事務局に要望等ございましたら,後ほどでも結構ですので,直接事務局にお伝えいただければと思います。
【合田教育課程課長】
 まだおっしゃり足りないこともあろうかと存じますので,是非そういったことについて,事前に事務局にお伝えいただければと思います。
 引き続き,どうぞよろしくお願いいたします。
【天笠座長】
 本日は,ここまでとさせていただきます。どうもありがとうございました。
―― 了 ――

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