資料1 道徳教育の充実に関する懇談会 報告の骨子案

1. なぜ今道徳教育の充実が必要なのか

1 道徳教育の現状

○道徳教育は、道徳的価値とは何か、自分はどのように生きるべきかなどについて、時には悩み、葛藤しつつ考えを深めるとともに、社会で共通に求められるルールやマナー、規範意識などを身に付けることにより、人生を他者とともにより良く生き、また、より良い社会の形成に努める態度を養うことを目指すもの。   
   こうした道徳教育は、万人に必須のものとしてすべての教育活動の根本に据えられるべきものであり、諸外国の教育においても大切にされている。
○道徳教育の重要性はこれまでも強く認識され、その充実に向けた支援がなされるとともに、優れた実践も行われるなど改善されてきた面もあるが、その実情を全体として捉えると多くの課題が存在。一部に「道徳教育は機能していない」との厳しい指摘もあるなど、期待される姿に遠い状況。

○本懇談会でも、例えば次のとおり、道徳教育の課題として多くの事柄が議論された。

・歴史的経緯に影響され、いまだに道徳教育そのものを忌避しがちな風潮がある。
・道徳教育の目指す理念が関係者に共有されていない。
・道徳の時間に何を学んだかが印象に残るものになっていない。
・他教科に比べて軽んじられ、道徳の時間が、実際には他の教科に振り替えられていることもあるのではないか。

2 今後の社会における道徳教育の重要性

○今後、社会が一層複雑化するとともに、変化のスピードを増す中、新たな課題に向き合い、自分の頭でしっかりと考え、他者と協働しながら、より良い解決策を生み出していく力が不可欠。
○一方、我が国の児童生徒については、自ら考える力や学ぶ意欲に課題が見られること、自己肯定感や社会参画の意識が低いことなどが指摘されている。多くの若者がコミュニケーションや対人関係に悩んでいるとの指摘もある。
○特に、昨今大きな社会問題となっているいじめの防止の観点からも、人間としての 根源的な理解を深めながら、社会性や規範意識、思いやりなどの豊かな心を育むことが求められている。

○道徳教育が、個人の幸福の実現や国家・社会の発展に果たすべき役割はきわめて大きく、道徳教育は人間教育の普遍的で中核的な構成要素であると同時に、その充実は、今後の時代を生き抜く力を一人一人に育成する上での緊急課題。

○これまでの取組への反省も踏まえつつ、道徳教育の目標や内容、指導方法、教材、教員の指導力向上の在り方、教育課程における位置付けなどについて、改めて検討を行い、道徳教育が教育活動全体の真の中核としての役割を果たすこととなるよう、早急に抜本的な改善・充実を図ることが必要。
   あわせて、社会全体としても、大人一人一人が道徳教育に向き合い、人間として生きる姿を示すことができるよう、それぞれの立場で取り組んでいくことが重要。

2. 道徳教育をどのような方向に改善することが求められるか

1 道徳教育の目標について

○学校教育においては、知・徳・体のバランスのとれた人間を育成することが必要。改正教育基本法では、教育の目標として新たに「豊かな情操と道徳心を培う」ことなどが規定されるなど道徳教育が重視されており、これを踏まえて、学校教育法の改正や学習指導要領の改訂が行われた。
  全人格的な教育である道徳教育を、道徳の時間を要として、学校の教育活動全体を通じて行うという考え方は、今後とも重要であり、引き続き維持していくことが適当。

○道徳教育の充実には、学校・教育委員会はもとより、保護者も含めたすべての関係者が、道徳教育や道徳の時間の目標を正しく理解し、理念を共有し、その趣旨に沿って日々の教育活動に取り組むことが必要。一方で、現状では、道徳教育や道徳の時間の目標が関係者に十分に理解されているとは言い難い。

○学習指導要領における道徳教育及び道徳の時間の目標を見直し、より具体的でわかりやすい記述に改め、両者の関係をより明確にすべき。その際、道徳教育の目標は、道徳的な心情のみならず、道徳的な判断力、実践意欲と態度、習慣などの育成も含む総合的なものであり、道徳の時間の目標の「道徳的実践力」の育成においても、このことを明確に認識して取り組む必要があることを示すべき。 

○道徳の時間の位置付けについて、各教科等との関係を改めて整理し、道徳教育の要としての中核的な役割を強化するとともに、発達段階を踏まえた目標の示し方を工夫するなど、その構造がより明確なものとなるよう改善すべき。

2 道徳教育の内容、指導方法、評価について

 (1)道徳教育の内容

○学習指導要領に示す道徳の内容項目については、児童生徒の発達段階や児童生徒を取り巻く環境の変化などに照らし、改めて必要な見直しを行うことが必要。

○発達段階ごとに特に重視すべき内容や共通に指導すべき内容についても、さらに精選し、これまで以上に明確化を図ることを検討すべき。その際、いじめの防止や生命の尊重、社会を構成する一員としての主体的な生き方、グローバル社会の中でのアイデンティティや国際社会とのかかわりなど、今後特に重要と考えられる内容の示し方に特に留意することが必要。

 (2)道徳教育の指導方法

○児童生徒の実態を一番良く把握し、指導に生かすことができる学級担任が、道徳の時間の指導を行うことが適切。

○また、現在の道徳教育の指導方法については、多くの課題が指摘。学習指導要領に示されている趣旨・内容をより良く実現するためにも、特に以下のような観点を中心に改善に取り組むことが必要。

○今後、教師間で切磋琢磨し合い、子供たちの実態や発達段階に即したより柔軟な道徳教育の指導方法を生み出していくことができるよう、国においても積極的に支援すべき。

 
    ア 児童生徒の発達段階をより重視した指導方法の確立・普及    
○児童生徒の発達段階を踏まえ、道徳的価値の理解やマナーなどの習得に重点を置く段階から、道徳的価値の意義や普遍性等について多様な角度から考えを深め、実生活をいかに生きるかを模索させる指導に重点を置く段階へと発展させることが必要。

○学年が上がって行くにつれ、道徳の時間では、多角的・批判的に考えさせたり、議論・討論させたりする授業を重視することが必要。そのためにも、思考力・判断力・表現力等を育むための言語活動を取り入れた指導を更に充実・強化すべき。

○発達段階を踏まえ、社会参画の在り方など、社会を構成する一員としての主体的な生き方に関わる教育(いわゆるシティズンシップ教育)の視点に立った指導も重要。その際、互いの人格や権利を尊重し合い、自らの義務や責任を果たし、安定した社会関係を形成することの重要性やそのための具体的方策について考えを深めさせる視点も重視すべき。このことは、いじめ防止等についての児童生徒の主体的な参画を促す上でも重要。

○より現代的で児童生徒の実生活に即したテーマの素材や、特に小学校高学年や中学校では、現実社会で顕在化している生命倫理や情報倫理、環境問題など、複数の価値が相互に対立する状況を内包した素材ももっと積極的に活用すべき。

 

   イ 振る舞い方などの技法的な面も取り入れた指導や問題解決的な指導等の充実
○これまで、各学校における道徳の時間の実情として、内面的資質である「道徳的実践力」の育成に当たり、指導の内容が座学中心の静的なものに偏りがちとなり、技法的な活動や実践的な活動に係る指導を遠ざけることになった面もあるのではないか。

○本来、「道徳的実践力」は、将来における道徳的行為の実践につながってこそ意味があるもの。そうした「生きて働く道徳的実践力」を育成する上で、例えば心のこもったあいさつや礼儀、コミュニケ―ションの方法など、自分が動き、他者と関わり合って初めて実感され、身に付く力も少なくない。

○他教科等や家庭・地域での体験活動などとの役割分担を踏まえた上で、道徳の時間においても、例えば、児童生徒に特定の役割を与えて即興的に演技する活動(ロールプレイ)や実生活の中での振る舞い方などのスキルに関する学習、問題解決的な学習などの動的な活動がもっとバランス良く取り入れられるべき。

○その際、道徳的価値や自己の生き方との関係において、なぜそうした活動が必要なのかねらいを明確にするとともに、そこで何を学んだのかについて、児童生徒が振り返り、自ら考えを深めることができるよう留意することが重要。

○指導に当たっては、こうした活動を単に活動として終わらせるのでなく、それが内面的な「道徳的実践力」の育成につながり、さらに、道徳的実践力を基盤とした道徳的実践につながっていくよう配慮すべき。


    ウ 各学校における「道徳教育の全体計画」の実質化   
○学校全体としての道徳教育の重点目標の明確化とその目標達成に向けた全体計画の作成はきわめて重要な意義を有する。

○各学校において、校長をはじめとする管理職、道徳教育推進教師のリーダーシップの下に、全教職員の参画によって実質のある「道徳教育の全体計画」となるよう見直し、「道徳の時間の年間指導計画」等としっかりと連携させながら実践し、学校全体として道徳教育を推進することが必要。

○その際、例えば、社会科において学んだ知識について、道徳の時間において道徳的価値に照らして再吟味し、考えさせるなど、道徳の時間と各教科、特別活動、総合的な学習の時間等の学習を明確に関連付け、双方の効果を一層高めることができるよう留意すべき。 

 

 (3) 道徳教育の評価

○道徳教育については、一人一人の道徳性を培うというその性格上、一般の教科のように数値による評価を行うことは不適切であるとの考え方は、維持すべき。

○一方、児童生徒の成長の振り返りや指導計画・指導方法の改善のためにも評価は重要であり、指導要録に、例えば、児童生徒の学習の様子を記録し、その意欲や可能性をより引き出すような記述式の欄を設けることや、「行動の記録」をより効果的に活用する方策等を検討すべき。

3 教育課程上の位置付けについて

○道徳教育は、体系的な指導により道徳的価値に関わる知識・技能を学ぶという「教科」と共通する側面と、道徳性という人格全体に関わる力を育成する側面を有する。
  今後、その双方の側面からより総合的な充実を図ることが課題。道徳の教育課程における位置付けについても、その特性によりふさわしいものに改めることが必要。
○道徳の時間については、一定の道徳的価値についての体系的な学習を求めるものである一方、
  ・ 人格全体にかかわる力の育成という性格に照らし、数値による評価はなじまないこと
  ・ 児童生徒に日常密接にかかわっている学級担任を中心に授業を行うことが適切であること
  ・ 教育活動全体を通じた道徳教育の要としての役割という他教科にない使命があること
  などの特性がある。こうした特性を踏まえ、道徳教育の抜本的な改善・充実を図るためには、道徳の時間を、例えば、「特別の教科 道徳」(仮称)として新たに教育課程に位置付けることが適当。

○小・中学校の道徳の時間を、学校教育法施行規則及び学習指導要領において「特別の教科 道徳」(仮称)として位置付けた上で、道徳教育の目標や指導方法等について所要の改善を行うことについて、今後、文部科学省においてより専門的な検討を行うべき。

○なお、私立の小中学校の教育課程について、宗教をもって道徳に代えることができるとされていることについては、引き続き尊重する方向で検討することが適当。

3. 道徳教育の充実のために求められる条件整備

○上記2.で述べた道徳教育の目標や内容、指導方法(より発達段階を重視した指導や技法的な面も取り入れた指導等の充実など)等の改善の方向を踏まえつつ、次のような条件整備に取り組む必要。

1 教材・教科書について

 (1)「心のノート」の全面改訂について

○「心のノート」については、現在、改訂を行っているところであり、新「心のノート」(仮称)については、26年度から全国の小・中学校等に配布される予定。道徳の時間をはじめ道徳教育において十分に活用され、効果を上げることを期待。


  (2)教科書について

○教材についての議論の中では、新「心のノート」(仮称)を活用していくべきとの意見や、教師一人一人の取組や努力によって多様なものを活用させる方向が適切との意見もあったものの、
  ・どの学校でも一定水準を担保した道徳の授業が実施されるようにするためには、道徳の時間の主たる教材として活用できる質の高い教材が必要であること
  ・こうした教材を全ての児童生徒に安定的・継続的に提供するためには、教科書として位置付けることが必要と考えられること
  などを踏まえれば、「特別の教科 道徳」(仮称)に教科書を導入することが適当。

○その場合、文部科学省著作教科書とすることについては、文部科学省著作教科書は、需要数が希少で検定教科書の発行が期待されない場合に限って発行されているが、既に複数の出版社が道徳の時間に使用する副読本を作っており、民間の教科書発行者による教科書の発行の可能性が高いなどの理由から、導入は適切でないという意見が多数を占めた。

○検定教科書については、それを用いることが望ましいとの立場から、以下のような意見が出された。
  ・教科書検定制度の下で出版社がより良いものを作ろうと互いに切磋琢磨することで質の高いものが生まれる。
  ・複数の民間発行者が作成する検定教科書の方が多様な価値観を反映できる。
  ・憲法、法律、学習指導要領の趣旨に沿っているかなどの大きな基準の中で多様な教材を開発することを考えれば、検定も可能。
  ・既に複数の出版社で学習指導要領の記述をベースにした副読本が作られており、それが教科書になっても大きな問題が生じるとは考えにくい。
  ・公正性や正確性など、検定の基本を押さえた上で、限定的・抑制的な検定の下で、出版社の創意工夫が生かされる形で検定が行われれば良い。

○一方で、検定教科書に慎重な意見としては、以下のようなものがあった。

  ・現段階ですぐに検定教科書を考えるよりは、当面は新「心のノート」(仮称)を使って考えさせる方向を基本的に維持していくのが良い。
  ・新「心のノート」(仮称)を現場に浸透させ成熟させていくことが必要。ゆくゆくは検定教科書へと移行するのが良いのだろうが、丁寧に時間をかけるべき。

○これらの意見を踏まえ、「特別の教科 道徳」(仮称)の主たる教材として検定教科書を用いることが適当と考える。また、教科書検定の具体的な制度設計に当たっては、民間発行者の創意工夫を最大限生かすとともに、多様な価値観を反映した教科書を認めるという基本的観点に立ち、検討を行うべき。

○今後、文部科学省において、検定に際しての具体的な判断基準となる学習指導要領や検定基準の具体的な在り方など、検定教科書の発行に伴う課題への対応について、慎重かつ丁寧な検討を行うとともに、教科書の無償給与に必要な予算措置が適切になされることが必要。
    あわせて、道徳教育の性格にかんがみ、検定教科書とともに、各教育委員会や各学校の判断により多様な教材を引き続き有効に活用していくことができるよう、支援の方策を検討していくことが必要。

○検定教科書を用いることとなるまでの間は、新「心のノート」(仮称)を中心に、地域や学校の創意工夫を生かした教材も適切に用いながら、指導が行われるべき。また、教科書の作成においても、新「心のノート」(仮称)の良さが引き続き生かされるよう、適切に配慮されることを期待。   

2 教員の指導力向上について

 (1)学校における指導体制

○学級担任が、「特別の教科 道徳」(仮称)の指導を行うことを原則としつつ、校長をはじめとする管理職や道徳教育に識見のある外部の人材の協力・支援により、授業をより豊かなものとすることが重要。 

○校長がリーダーシップを発揮し、学校全体としての取組方針を明確にし、全教員の共通理解を図りながら、具体的な改善策に取り組むことが必要。
  道徳教育推進教師が担う役割を明確にし、全教師の参画、分担、協力の下に機能的な協力体制を確立することが必要。

○道徳教育に優れた指導力を有する教員については、当該地域における道徳教育の中核的な推進役となる「道徳教育推進リーダー教師(仮称)」として加配措置し、地域単位での道徳教育の充実・強化を図ることも求められる。
  教育委員会においては、校長がリーダーシップを発揮できるような指導・助言や支援等を行う体制を整備することが必要。

○公開授業などを通じて、保護者はもとより、地域の人々や団体等との共通理解を深め、協力体制を構築するとともに、社会全体で道徳教育に取り組む気運を高めていくことが必要。

 (2)教員研修等について

○校長等の管理職や教員の意識改革と資質・能力の向上を図るための研修の抜本的強化が急務。

○効果的な指導方法の研究開発や共有などを通じて、教員の指導力の抜本的な向上を支援できるよう、教育委員会担当者、道徳教育推進教師等に対する研修を充実することが必要。視野を広げるために、民間企業など社会の多様な分野との接点を重視した取組も有効。

○教員免許更新講習において、道徳教育に係る内容の一層の充実が図られることを期待。

 (3)教員養成・免許について
○今後教員になる者が、道徳教育の実践の基盤となる資質・能力を修得できるよう、大学の教員養成課程における道徳教育に関する理論面、実践面、実地経験面の充実を図っていくべき。

○履修については、道徳教育の理論面や実践面の充実が図られるよう、カリキュラムを改善するとともに、履修単位数(2単位)を増加させることも検討すべき。
  教育実習において、道徳教育の実地経験を充実させることについても検討すべき。

○指導力のある大学教員の確保をはじめとする体制整備が不可欠。各大学においては、教育委員会との連携・協働による実践的なカリキュラムへの改善、学校現場での指導経験のある教員の採用、道徳教育の専攻の設置などに積極的に取り組むべき。

○専修免許状に関し、大学院で道徳教育専攻の者はもちろん、道徳教育専攻以外の者であっても、道徳教育の分野に関する一定以上の単位を修得した場合には、大学院での専攻に加えて「道徳教育」の専門性を標章する制度について、積極的な活用を促進すべき。教育委員会や学校において、こうした教員免許状を有し、高い授業力を有する者を積極的に登用することを期待。

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