資料3-2 委員提出資料

「『道徳教育の充実に関する懇談会』これまでの主な意見」について

土井 真一

(1)<道徳教育の現状>

 道徳の授業の改善・工夫のために校長のリーダーシップは重要だと思います。しかし、校長の個人的な意欲や資質に任せることには限界があり、道徳教育の充実に向けて校長がリーダーシップをとれるように、教育委員会等において、必要な助言等を行うことができる体制を整備する必要があると思います。ただ、こうした体制が名目的なものになってはならず、各学校を訪問し、道徳教育の全体計画の策定について指導・助言を行ったり、授業改善の援助を行ったりするなど、実質的な指導・助言を行えるようにすることが大切です。また、こうした指導・助言の体制は、高圧的なものであってはならず、教育現場の状況を十分に踏まえて、校長あるいは各教諭の授業改善の努力を支援していく形になるように工夫をしていく必要があると思います。

(2)<道徳教育の改善方策>(評価について)

 道徳教育全体の中で「教科」化した道徳をどう位置付けるかという問題と関係して、児童・生徒の道徳性について評価を行う場合には、「教科」化した道徳に限って評価を行うのか、道徳教育は教育課程全体の中で実現していくべき教育であるという基本的な考え方を堅持し、教育課程全体の中で児童・生徒の発言・行動などを見て、児童・生徒の道徳性を向上させていく上で必要な評価を行っていくのかが問題になると思います。私は、後者の考え方が適切であると思います。道徳教育は、一般の教科のような到達目標とその達成度という観点からの評価になじむものではなく、あくまで、児童・生徒が道徳性を向上させていくために必要な助言・援助を行うために、行動の記録などを参考にしながら、記述的な評価を行うことを検討すべきであると考えます。

(3)道徳性の発達段階について

 道徳性の発達段階に関する問題については、まだ十分に議論されていませんので、今後、検討を深めていくことが必要ではないかと思います。特に、前回の会議で議論が行われた中学生に対する道徳教育の在り方を考える場合には、この問題を検討することが重要であると思います。
 これまでの発達心理学の研究によりますと、道徳性の発達は必ずしも直線的ではなく、その発達に伴って、道徳性あるいは規範意識に揺らぎが生じる段階があると言われています。つまり、道徳性には一定の段階性があり、より高次の道徳性に移行する前段階に規範意識の低下が見られることになります。このような観点から見ますと、一時的な規範意識の低下は、それ自体悪いことではなく、それを抑圧するよりも、早期に受け止めて、より高次の段階に移行させることが教育的には重要になります。例えば、幼児が、「お母さんが怒るから約束は守らないといけない」という理由で強い規範意識を持っているとします。しかし、成人になっても、お母さんが怒るからという理由で強い規範意識を持ち続けることを期待することはできません。「お母さんに怒られる」ということが、道徳性あるいは規範意識の根拠として十分ではないということを認識する段階に至りますし、この段階で多かれ少なかれ規範意識が一時的に低下します。小学校におけるギャングエイジなどはこのような観点から理解できます。したがって、学校教育においては、児童・生徒の心理的発達に伴って生じる一時的な規範意識の低下を適切に受け止めて、これを次の道徳性の段階に移行させることが大切です。
 この移行のためには、発達段階に応じて、より広い社会性を獲得させることが必要です。つまり、内的な発達に応じて、外部環境が適切に変化していく必要があり、内的発達と外部環境の相互作用によって、自己と社会に関する新たな概念的認識が形成されていくこと、これが、今後の道徳教育において重要なのではないかと思います。とりわけ中学生の道徳性を向上させるためには、特別活動や社会との交流など、外部環境との関係を真剣に考える必要があると思います。これまでの道徳教育においては、自分の心の在り方を考える個人道徳が主流あり、このことの重要性を否定するものではありませんが、発達段階が進むにつれ、個人道徳だけでは、本当の意味での道徳性を獲得することはできないのではないかと思います。

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