資料1 教員の資質能力の向上に係る当面の改善方策の実施に向けた協力者会議ワーキンググループ報告書(案)

教職大学院を中心とした大学院段階の教員養成の充実と改善のために

目次
<1>はじめに
<2>学校教育を取り巻く現状と教員養成における課題
 (1)学校教育を取り巻く現状
  a)新しい学びへの対応
  b)学校現場での今日的課題への対応
  c)大量退職・採用時代への対応
  d)スクールリーダー養成の必要性
 (2)これまでの教員養成・研修
  a)これまでの主な経緯
  b)教員養成・研修の課題
<3>大学院段階の教員養成の充実と改善
 1.教員養成の高度化の必要性
 2.高度専門職業人養成の取組状況
 (1)教職大学院
  a)教職大学院制度の創設
  b)制度創設後五年間の取組
  c)教職大学院における教員養成の成果
 (2)国立の教員養成系修士課程
  a)これまでの位置付け
  b)国立の教員養成系修士課程の課題
 3.今後の教員養成機能の在り方の方向性
 (1)教員養成の高度化への対応
 (2)大学院段階の教員養成機能の在り方
 (3)今後の教職大学院の拡充方策
 4.教職大学院の在り方
 (1)基本的な性格・在り方
 (2)教職大学院の教育課程
  a)共通5領域
  b)特化コース等の設置
  c)学部新卒学生と現職教員
  d)学校における実習
  e)教育実践研究のとりまとめ、教育成果の検証
 (3)教職大学院の教員組織
  a)教員組織の在り方
  b)教職大学院の教員
  c)実務家教員
 5.国立の教員養成系修士課程の改善
 (1)基本的な性格・在り方
 (2)教育課程
 (3)教員組織

<1>はじめに

○ グローバル化や情報化、少子高齢化など社会の急激な変化に伴い、学校教育において求められる人材像が変化しているとともに、学校現場の抱える課題も複雑化・多様化している。このため、これからの教員は、課題探究的な活動を自ら体験し、新たな学びを展開できる実践的指導力を修得するとともに、複雑かつ多様な新たな課題に柔軟に対応できる広い視野に基づく指導力、同僚と協働して困難な課題に対応し、組織として的確に対応できる力、地域との連携等を円滑に行えるコミュニケーション力等を身につける必要がある。

○ このような資質能力の向上のために、これからの教員は、社会の急速な進展の中で必要な知識・技能を絶え間なく刷新し、教職生活全体を通じて学び続けることが求められている。こうした「学び続ける教員」を支援するため、養成は大学、採用・研修は教育委員会等というこれまでの役割分担から脱却し、教育委員会・学校と大学との連携・協働により、教員の養成・採用・研修の一体的な改革を行っていくことが極めて重要である。

○ 教員は初任段階の者であっても学級担任を任されることが多いなど初任者が負う責務が大きい職業であり、養成段階にあっても、学部においては、体系的な教育課程によって教員としての基礎・基本を確実に身に付けさせるとともに、学校現場と結んだ能動的な学修を通じて基礎的な実践的指導力が育成されるべきである。
 その上で、学部卒後教職に就く者について、学校現場において適切な初任者研修等により教師としての基礎的な資質能力を磨くとともに、学校の新たな課題に応える力量を形成していかなければならない。
 これら一連のプロセスにおいて、大学が学校教育の課題に即した教員養成を進めるとともに、教育委員会・学校が大学の知見を生かし充実した研修等を図るなど、教育委員会・学校と大学との連携・協働を継続的に推進することが不可欠である。

○ 大学院レベルの教員養成は、こうした中では、学校課題に即した学校マネジメント、教科指導、生徒指導、学級指導などについて、専門的知見に基づく高度の実践的指導力を修得させることにより、学校全体や地域の中で幅広い指導力を持つスクールリーダー(※1)として、他の教員集団を指導しうる中核的な教員を養成する意義を有する。

○ このような方向性に基づき、中央教育審議会は、平成24年8月に、教員を高度専門職業人として明確に位置付け「学び続ける教員像」を確立することを中心とする「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」を答申した。本答申では、当面の改善方策として、「教職大学院の教育課程の見直し」、「教職大学院の教員組織の見直し」、「国立の教員養成系修士課程の改善」が示されている。

○ その後、教職大学院については、教員養成・採用を改革する観点から、教職大学院の充実方策を検討し実行に移すこと、修了者の優先採用と採用試験免除を行うこと、教職大学院における研修の充実によるマネジメント力にたけた管理職を養成することなどを求める提言がなされている(※2)。

○ また、今後の教員養成大学・学部の在り方について、教育再生実行会議(※3)においては、学校現場での指導経験のある大学教員の採用増、教員養成課程の実践型のカリキュラムへの転換、組織編成の抜本的見直し・強化等を推進すると提言されている。
 さらに、国立の教員養成大学・学部の在り方については、文部科学省では、教育再生実行会議の提言を踏まえて、今後の人口動態・教員採用需要等を踏まえた量的縮小を図りつつ、初等中等教育を担う教員の質の向上のため機能強化を図るとされ、組織編成の抜本的見直し・強化の中で教職大学院への重点化することが示されている(※4)。今後、文部科学省では、国立大学の教員養成分野のミッションを再定義していくことにより、各大学の強み、特色、社会的役割、今後の方向性を整理し、各大学の改革を促していくこととしており、これらを教員養成改革促進の指針とすることが求められている。

○ 上記のことから、本ワーキンググループでは、中央教育審議会の答申「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」(※5)を受け、平成24年9月に設置された「教員の資質能力向上に係る当面の改善方策の実施に向けた協力者会議」のワーキンググループとして検討を行い、「教職大学院の教育課程の見直し」、「教職大学院の教員組織の見直し」、「国立の教員養成系修士課程の改善」の三点を中心に、上記諸動向を踏まえ、学校現場と密着した教員養成改革と教員の資質能力向上の具体的な提言を行うものである。

<2>学校教育を取り巻く現状と教員養成における課題

 (1)学校教育を取り巻く現状

 「<1>はじめに」で示したような社会の急激な変化に伴う学校教育を取り巻く現状と課題については以下のようなものがある。

 a)新しい学びへの対応
○ 子どもたちに21世紀を生き抜くための力を身につけさせるには、子どもたちの基礎的・基本的な知識・技能の習得に加えて、思考力・判断力・表現力等を育成するために、知識・技能を活用する学習活動、課題探究型の学習、協働的な学びなど、新しい学びをデザインできる実践的指導力を有する教員を養成する必要がある。

○ また、知識基盤社会が進展し、専門分化した膨大な知識の全体を俯瞰(ふかん)しながら、イノベーションにより新たな価値を創造できる高度な人材が求められている中で、我が国の将来を担う人材養成の重要な使命を持つ教員についても、修士号以上の学位取得者を含む高度専門職業人にふさわしい高度な人材が求められている。

 b)学校現場での今日的課題への対応
○ 今日の学校教育では、いじめ・不登校等生徒指導上への諸課題への対応、特別支援教育の充実、外国人児童への対応、新たな学びに対応するICTの活用の要請を始め、学校現場の複雑かつ多様な課題に対応することが求められている。また、体罰やいじめ問題への学校現場の対応について、課題が指摘されている。このような諸課題に対して、学校が、保護者や地域住民の力を生かして地域ぐるみで課題解決に取り組んだり、組織として機動的に対応したりするため、校長のリーダーシップのもと教職員全体がチームとして課題に対応できる力量の形成が必要である。

 c)教員の大量退職・大量採用を踏まえた対応
○ 現在、公立学校教員の年齢構成は、50才以上の教員が全体の約4割を占めていることから、全国的に、教員の大量退職や新人教員の大量採用が進行している。また、児童生徒数の減少などにより学校が小規模化しており、初任段階の教員を指導できる体制を学校内に確立することが困難になってきている。このため、学校現場の課題に初任段階の教員が十分対応できずに困難を抱えていることが指摘されており、教員としての採用後の研修と大学における養成段階での学びの接続が不可欠になっている。

 d)スクールリーダー養成の必要性
○ このような学校現場の現状の中、困難な課題に学校が組織として適切に対応していくためには、学校の管理職を始め、学校内の若手教員の指導を含めて学校現場でリーダーとしての役割を果たせる教員の養成が喫緊の課題となっている。スクールリーダーには、学校現場が直面する諸課題について、構造的・総合的な理解を共有し、自らの担当する教科・学年・学校種以外との関連を広く見据えながら、学校内や地域においてリーダーシップを発揮できることが求められる。

(2)これまでの教員養成・研修

 a)これまでの教員養成・研修の主な経緯
○ 我が国の教員養成制度は、昭和24年の教育免許法制定及び新制大学発足以降、幅広い視野と高度の専門的知識・技能を兼ね備えた多様な人材を広く教育界に求めることを目的として、国・公・私立のいずれの大学でも制度上等しく教員養成に携わることができる開放制の原則の下、大学における教員養成が行われてきており、戦前の師範学校とは異なり、学位プログラムとしての体系と教職課程としての体系の両方を重視した教育課程が設定されてきた。

○ 昭和50年代には、大学院における現職教員の再教育を目的とした新構想の教育大学(※6)が設置され、教員養成学部を基礎とした大学院修士課程が順次設置され、平成8年にはすべての都道府県に整備された。平成10年には、現職教員の資質能力の向上を図るため、修士課程を積極的に活用した教員養成を行うことが提言されている(※7)。

○ 昭和62年には、教員免許の一種免許状を基礎として、大学の修士課程等において特定の分野について深い学識を積み、当該分野において高度の資質能力を備えていることを示すものとして専修免許状を設けることが教育職員養成審議会で答申され、翌年の教育職員免許法の改正により、新たに専修免許状が創設された。

○ 平成18年の中央教育審議会の答申(※8)で示された教員養成・免許制度の改革方策を受け、教職課程における教職実践演習の必修化、教員免許更新制講習の導入、専門職大学院としての教職大学院制度の創設など、時代の趨勢(すうせい)に合わせた教員の資質能力の向上に資する改革が行われてきた。

 b)これまでの教員養成・研修の主な課題
○ 学部段階での教員養成については、教員になるための基礎的・基本的な最小限の知識・技能を重視した教育が行われてきており、その下に、教科の専門的知識の確実な修得とともに、学校現場での体験機会の充実、特別支援教育や道徳教育の充実、ICTの活用など新たな分野への対応などの改善・充実が求められている。そのような中で、現在の教育課程に加えて高度の専門的知識に基づく実践力指導力の育成という応用的な学びまで求めることは、量的な面からも、また学びの深まりから考えても学部段階では困難がある。

○ 大学院段階については、国立の教員養成系修士課程において、平成10年以来、現職教員の再教育と実践的指導力の養成を目的に掲げてきたにもかかわらず、これまでともすれば個別分野の学問的知識・能力が過度に重視される一方、学校現場での実践力・応用力など教職としての高度の専門性の育成がおろそかになっており、学校現場で活躍する中核的な教員を養成する体系的なプログラムを必ずしも提供してこなかった。

○ 長年行われてきた学校内や地域での授業研究などの取組は、日本の学校教育の貴重な伝統であり、教員の資質能力の向上に貢献してきた。しかし、教員の大量退職・大量採用による経験豊富な教員の減少と若手教員の増加や、学校の小規模化、多忙化等により、教員間の学びの共同体としての学校の機能(同僚性)が昨今では十分に発揮されていないという指摘があり、教員間での知識や経験の伝承が困難な傾向が見られる。

○ 大学や大学院で行われてきたこれまでの教員の資質能力の向上に関する取組は、教員として採用後に行われる校内研修や教育委員会等の研修との連携・協働が十分ではなかったと指摘されており、今後は、例えば大学や教育委員会等の関係機関が、教員の養成や継続的な研修に対する支援を連携・協働して行っていくことの重要性が高まってきている。

<3>大学院段階の教員養成の充実と改善

1.教員養成の高度化の必要性

○ 「<2>学校教育を取り巻く現状と教員養成における課題」で述べた社会状況の変化に対応するため、これからの教員に求められる資質能力は、子どもの基礎的知識や技能の確実な習得に加えて、思考力・判断力・表現力等を育成する学びをデザインできる実践的指導力や、社会の変化に伴う新たな課題に柔軟に対応できる広い視野をもった高度専門職業人としての能力である。
 また、スクールリーダーとしての資質能力は、学校課題に即してチームの中で他の教員を指導できる力やマネジメント能力であり、その育成のためには現職の教員が専門的知識を学び直し、自らの実践を理論に基づき振り返ることが必要となる。
 総じて、これからの教員には、高度の専門性に基づく実践力指導力が要求されるものであり、教員は教職生活全体を通じて学び続け、このような高度な資質能力を身に付けていく専門職であると位置づけられる。

○ 子どもが自らの主体的な関心に基づいて課題を探究していく新たな学習の導入は、その学習をデザインする教員にも、課題を設定しその解決に向けた探究的活動を行う学びを体験することが必要不可欠である。
 新たな学びをデザインする力を養成するためには、学部段階における能動的な学修等の導入に加えて、大学院段階において、教育活動における実践を踏まえつつ、研究課題に沿った探究的活動を行うことが効果的である。

○ 学校現場の複雑かつ多様な課題に対応するためには、経験に基づく既存の方法だけではなく、新たな課題に対して柔軟な解決策を導き出せる力が求められる。したがって、初任段階も含めてすべての教員は、学校内や地域の教育活動を俯瞰する広い視野を身につけ、自らの知識を活用した実践的指導力を養成するため、学校教育に関する体系的な学修が求められる。

○ 平成20年以降設置されてきた教職大学院では、学校における実習を通じて学校現場の課題を解決する試みを教育課程に取り入れることで、理論と実践を往還させた省察力による新たな学びのデザインや複雑な学校課題に対応する探究的な実践的指導力の育成を可能とし、学部や教員養成系修士課程でなし得なかった学修成果を生み出している。

○ 学校における組織力の向上のためには、校長のリーダーシップの下、複数のミドルリーダーがチームをまとめて校長をサポートする必要がある。このような教員には、学校や地域の教育全体を総合的に理解し、幅広い分野で指導性を発揮できる力や、同僚と協働し、組織として的確に対応できる力、さらには地域との連携等を円滑に行えるコミュニケーション力が必要となる。初任段階の教員についても、他の教員と連携し組織の一員として課題に対応できる力を養い、将来のスクールリーダーとなる素地を育成していくことが重要である。

○ さらに、スクールリーダーには、授業指導や学級経営など教員個人の力量とは別に、他の教員を指導する力やマネジメント能力が必要となる。特に、校長や教頭等の管理職の養成においては、リーダーとしての意欲と適性を有する教員を選抜し、キャリアパスの中で、学校経営等の専門的知識を学ばせる必要があるが、日常の勤務の中でのOJTでは、目の前の業務に専念せざるを得ず、自らの担当業務を超えた総合的な視点を養成することは難しい。そこで、リーダー養成のためには、中堅教員が、大学院等における理論と実践の往還による学び直しによって、学校経営や生徒指導等の高度の専門的知識を体系的に学びながら、リーダーとしての能力を伸ばす必要がある。

○ このように、社会状況の変化に併せて教員に求められる新たな指導力や俯瞰的な幅広い視点を養成するために、大学と教育委員会・学校との連携・協働により、教職生活全体を通じて学び続ける教員を支援する必要がある。このため、高度専門職業人養成のための体制が、学部、大学院及び学校現場を一貫して整備されていない現状を改め、従来の教員の養成・採用・研修の制度を一体的に改革し、教員に新たな学びを行う場を提供する必要がある。

2.高度専門職業人養成の取組状況

(1)教職大学院
 a)教職大学院制度の創設
○ 教員養成系の修士課程が高度専門職業人としての教員の養成機能を十分果たしていないとの課題が指摘されてきた中で、平成18年の中央教育審議会答申(※9)を受け翌年に、専門職大学院制度を活用して、高度専門職業人養成に特化した教職大学院制度が創設された。

○ 教職大学院は平成20年4月から設置され、平成25年度には、全国で25大学(※10)に設置され、入学定員815人となっている。

○ 教職大学院制度は、地域の教育委員会・学校との密接な連携のもとで、力量ある教員の養成のためのモデルを制度的に提示することを目的としており、a)新しい学校づくりの有力な一員となり得る新人教員の養成(学部新卒学生等対象)、b)管理職候補者を始めとする指導的役割を果たし得るスクールリーダーの養成(現職教員を対象)の二つを目的・機能としている。

 b)制度創設後5年間の取組
○ 教職大学院は、「教職課程改善のモデル」として、高度専門職業人としての教員養成システムを確立し、次のような取組を行ってきた。
 ・大学院における「理論」の学修と学校における「実践」を組み合わせ、理論知と実践知を往還する探究的な省察力を育成する体系的な教育課程の確立
 ・学校現場に精通した実務経験と卓越した教育能力を併せて有する大学教員の登用
 ・学校現場など養成された教員を受け入れる側(デマンド・サイド)と教員を養成し供給する大学(サプライ・サイド)との連携・協働による高度専門職業人養成
 ・管理職候補者を教職大学院に派遣すること等による学校管理職養成における教育委員会と大学の連携
 ・学習指導において、教科の専門分野を重視した教育から転換し、カリキュラムマネジメント、教科横断的な指導法、総合的な学習の時間のデザイン、授業評価等の学習指導のプロセスを重視

 c)教職大学院における教員養成の成果
○ 教職大学院では、現在は学生全体の約4割は現職教員、約6割は学部新卒学生が学んでいるが、教職大学院を修了した現職教員の多くが、学校において副校長・教頭・主幹教諭等に登用されたり、教育委員会において教育行政の中核的な業務を担当したりするなど、スクールリーダーとして活躍している例が多く見られている。例えば、教職大学院を修了した現職教員は、所属校の校長及び同僚からミドルリーダーとして活躍していると認められているという調査結果がある(※11)。

○ 教育委員会・学校との様々な連携の強化、学校における実習の充実、理論と実践の往還による学修、優秀な現職教員と共に学んでいること等により、教職大学院を修了した学部新卒学生の教員就職率は、平成19年度の制度創設以来、毎年9割を超えており(※12)、国立教員養成系の学士課程、修士課程と比べてはるかに高い。

○ 理論と実践を往還させる教員養成カリキュラムの確立、実務家教員が参画した教員組織、学校現場の課題解決に資する教育実践研究の推進・深化、大学の学校支援機能の向上等の取組により、学部における教員養成への影響を与えた。

○ なお、教職大学院の今後の課題としては、教科の取扱いや実習の在り方などを含めた教育課程の更なる充実、教職大学院で必要となる学校経営分野などの研究者養成、教職大学院設置数増加のための方策、教職大学院進学のためのインセンティブの付与などが残されている。

(2)国立の教員養成系修士課程
 a)これまでの位置付け
○ 国立の教員養成系修士課程については、昭和41年に東京学芸大学に設置されたのを始めとして、教員養成学部を基礎とした修士課程が順次設置され、平成8年にはすべての都道府県に整備され、現在でもほぼ各県に設置されている。また、昭和50年代には、大学院における現職教員の再教育を目的とした新構想の3教育大学が設置されている。

○ 国立の教員養成系修士課程は44大学に設置され、入学定員は約3,300人となっており、その設置目的は、研究機能と併せて現職教員の再教育の観点から高度専門職業人養成とされ、教育内容・方法の充実等の一定の改善が図られてきている。一方、設置時に連携協力校や教育委員会との協力が求められる教職大学院に比べ、修士課程では、教育課程や教員配置について、教育委員会・学校の意向を取り入れて整備したものにはなっていない。

 b)国立の教員養成系修士課程の主な課題
○ 上記の位置づけを踏まえ、その後、学校現場の課題に即した実践的な内容を充実させる教育課程の改革を行った大学院もあるが、いまだ研究機能と高度専門職業人養成の機能区分が曖昧であり、高度専門職業人養成としての役割を十分果たしているとは言い難い。例えば、平成13年の「今後の国立の教員養成系大学・学部の在り方について」(※13)で指摘されたように、修士論文の内容が明らかに理学や文学など他の研究科と変わらないような場合でも「修士(教育学)」を授与している例がいまだに少なからず見られる。

○ 高度専門職業人養成の目的からすると、教育学や教科専門に関する理論研究に偏ったり、個別分野の学問的知識・能力が過度に重視されたりする状況は、本来期待されている役割を果たしているとは言えず、学校現場での実践指導力など教員としての高度の専門性を育成する教育と、児童生徒に関する喫緊の教育課題や指導法の改善等の学校教育実践に関する研究の推進が必要である。

○ 修士課程の教員組織については、大学院設置基準及びその告示において、教科の専攻ごとに置くものとする教員の数が定められているが、組織の柔軟な見直しや、他大学・学部との柔軟な連携、機能分担の支障になっているとの指摘もある。

○ また、教育委員会は、現職教員の資質向上を期待して、地元を中心とした大学院に教員を派遣してきているが、平成20年の教職大学院の設置後は、修士課程ではなく教職大学院に現職教員を派遣する傾向が見られ、現職教員の再教育の機能を十分果たせなくなってきている。

○ また、多くの大学院で定員未充足の教科等の専攻があること、学部新卒学生の修士課程修了後の教員就職率が教職大学院に比べて極めて低い(※14)ことに加え、近年はすべての教科について十分な人員配置を維持することが困難な大学が出てきていることなどから、組織編成について改革が急務となっている。

3.今後の教員養成機能の在り方の方向性

 (1)教員養成の高度化への対応
○ 「1.教員養成の高度化の必要性」で示された新たな学びと複雑化する学校課題に対応した実践的指導力等の資質能力を身につけるためには、それぞれの教員が教職生活全体の中で大学院等での学修を通じて高度な専門的知識・指導力を身につける必要がある。
 また、大学院での学位取得によらない場合も、例えば、教職大学院と連携・融合した初任者研修を行うなど、教職大学院を中心とする大学院と学校現場との連携による教育力を活用することは、教員養成の高度化にとって有益である。

○ このような「学び続ける教員」を支援するため、教育委員会・学校と大学との連携・協働により、教員の養成・採用・研修の一体的な改革を確実に進めることとし、総合大学においては教員養成系以外の一般の研究科との機能分担などを行いながら、教員養成系修士課程の在り方を見直し、教職大学院を中心として高度専門職業人としての教員の養成を抜本的に充実・強化していくこととする。

○ 教育委員会・学校との密接な連携・協働のためには、大学は、教育委員会の幹部職員や連携協力校の長等が構成員となる常設の会議を設置して、養成する人材像、教育課程の内容、現職教員の再教育の在り方について定期的に実質的な意見交換を行い、教育への社会の要請を受けとめ、その質の向上を図ることが求められる。

○ 大学院の充実のみではなく、その基礎となる学部教育の質の向上も不可欠であり、特に教員養成学部においては、学部教育と大学院教育の接続も踏まえ、学校現場における理論と実践の往還を核とした教職大学院の取組を生かしていくなど、教育課程の改善・充実を継続的に図る必要がある。

 (2)大学院段階の教員養成機能の在り方
○ 教職大学院は、「学び続ける教員像」の確立と教員の高度専門職業人としての明確な位置付けの下、現職教員の再教育を含め、高度専門職業人たる教員養成の主たる担い手となるものとし、授業研究や特別支援教育等の特定の分野に強みを持つ教員の養成や、高度な学校マネジメント能力を有する管理職の養成などを含め、学校現場で幅広く指導性を発揮できる人材を養成する。
 このことを前提としつつ、当面は引き続き高度専門職としての教員養成システムにおいてモデル的役割を担うものとし、
 ・学校現場における職務についての広い理解を持って自ら諸課題に積極的に取り組む資質能力を有し、新しい学校づくりの有力な一員となり得る新人教員
 ・学校現場が直面する諸課題の構造的・総合的な理解に立って、教科・学年・学校種の枠を超えた幅広い指導性を発揮できるスクールリーダーを養成する(※15)。

○ 国立の教員養成を主たる目的とする修士課程については、高度専門職業人としての教員養成機能は、今後教職大学院が中心となって担うことから、原則として教職大学院に段階的に移行する。
 段階的な移行期における修士課程については、児童生徒に関する喫緊の教育課題や指導法の改善等の教育実践研究を行い、当面、例えば教科を大括り化した専攻などにおいて、学校実習など実践的な科目を大幅に取り入れ、総合大学の場合は他研究科の専門科目も活用しつつ、組織編成の見直しを行い、教職大学院への移行の準備を行う。

○ また、養護教諭やスクールカウンセラーの養成など資格取得の観点から教職大学院で担うことが困難な人材を養成することは修士課程の人材養成機能と考えられる。

○ 教職大学院に加えて、教員養成系修士課程を置くことについては、社会的要請等を考慮しつつ、個別に検討する。

○ 専修免許状の課程認定を受ける国・公・私立大学の一般の修士課程は、実践的な科目を導入するなど実践的指導力を保証する取組を進めつつ、一定の分野について学問的な幅広い知識や深い理解を強みとする、主として中学校・高等学校教員を養成する。

 (3)今後の教職大学院の拡充方策
○ 今後の教職大学院の拡充方策については、教職大学院の教育成果、教育課程の体系性を維持した上で、学校現場や社会からの様々な要請を踏まえながら制度を発展・充実させる。また、教育委員会・学校と大学との連携・協働により、すべての都道府県に教職大学院が設置されることが望ましいことから、教員養成系修士課程の在り方を見直していく必要がある。なお、教職大学院の拡充に当たっては、現職教員の派遣を支援するために教員定数の積極的な活用などが望まれる。

○ 教職大学院が設置されていない都道府県においては、当該都道府県に所在する大学が、地元の教育委員会等と学校や地域におけるスクールリーダー養成のための十分な協議を行い、教職大学院の新たな設置の具体的な方策について、早期に検討を進めることが望まれる。その際、複数の大学による設置を検討することも考えられる(※16)。文部科学省においては、教職大学院の新たな設置や拡充のための効果的な支援策について検討を行う。

○ 教職大学院をはじめとする教員養成や現職教員の再教育を行う大学院においては、教育の現状や成果等が、現職教員や教育委員会等に十分な理解が得られるよう努める。
 教育委員会においては、現職教員の教職大学院などへの研修派遣について、その意義についての積極的な理解の上で、教員の人事方針やキャリア形成の観点から戦略的に実施するよう努める。また、教職大学院等の学位取得者に対して、その学修の成果を適切に評価した上でインセンティブの付与等について検討する。
 これらについては、前述の大学と教育委員会等との常設の会議を活用することとする。

4.教職大学院の在り方

 (1)基本的な性格・在り方
○ 教職大学院の基本的な性格やその在り方については、新しい学校づくりの有力な一員となり得る新人教員の養成及びスクールリーダーとなるような現職教員の養成を基本とし、学校現場が直面する諸課題の構造的・総合的な理解に立って幅広く指導性を発揮できる教員の養成を目的とするものとする。

○ 具体的には、教職大学院は、新たな学びや学校の複雑かつ多様な課題に対応することができる中核的な教員の養成の主な担い手となり、学校全体への総合的な理解を有し、自分の専門や担当を超えた俯瞰的な視点からの指導力を持つ教員の養成を行う必要がある。
 例えば、新人教員については、学校現場における職務についての広い理解に立ち、自ら学校課題に積極的に取り組む教員の養成が求められる。現職教員については、指導主事、主幹教諭、指導教諭、研修主任など、学校運営、授業研究、研修等において中心的役割を担う教員、管理職候補者となる高度な学校マネジメント能力を有する教員の養成などが考えられる。

○ したがって、教職大学院においては、引き続き高度専門職業人としての教員養成のモデルとして、教育委員会・学校、学生などのニーズと要請を踏まえながら、学校経営・教科指導・生徒指導・学級経営・特別支援教育などの高度な専門性と、学校内や地域において幅広い分野で教育活動全体を俯瞰できる力を養成する。

 (2)教職大学院の教育課程
 ○ 教職大学院の教育課程については、今後、教職大学院を拡充していく過程において、養成する教員の資質能力が変質したり、教育レベルが低下したりすることのないよう、現行の教育課程の体系を維持する。

○ 教職大学院では、自らの教育実践を理論に基づき振り返ることができる実習を教育課程の中心に置くことにより、理論と実践の往還を持続的に発展させていくことを基本的な教育方法とする。

○ 学修内容上、特色を持つコースを設定する場合は、平成18年の中央教育審議会答申(※17)において、学校現場の今日的課題の解決の研究に必要な学問分野の枠を超えた科目群とすることが有効であるとされていることや、教職大学院は学校現場の諸課題を広く構造的・総合的に理解する人材の育成を基本としていることを踏まえ、各教科や学校種ごとに区分したコース等の設置は適切ではない。

○ 各教職大学院では、教育課程の更なる充実のため、ファカルティ・ディベロップメント(FD)を充実させるとともに、我が国の教員養成高度化のための大学間の協働を推進する。
 また、制度創設後の五年間の取組を踏まえ、教職大学院の教育課程の成果や課題を検証した上で、どのような教育課程が望ましいのか大学関係者等で検討し、できるだけ早期に平成18年の中央教育審議会答申で示されたモデルカリキュラムを改訂する。

 a)教職大学院に共通に開設すべき授業科目(共通5領域)
○ 教職大学院に共通に開設すべき授業科目(共通5領域)については、文部科学省告示(※18)により定められており、幅広い分野における指導性を育成するため、すべての教員が共通に履修すべき基本的要素として設けられており、その制度趣旨を踏まえた上で、これまでの各教職大学院の実施状況を検証し、今後の改善点について検討する必要がある。

○ 学部新卒学生と現職教員の両方に向けて、引き続き、すべての領域について授業科目を開設することを求め、総単位数は現行どおり20単位程度を目安とし、学生はすべての領域を必修とする。ただし、各領域を均等に履修させる現行の考え方は改め、コース等の特色に応じて履修科目や単位数を設定することができるようにする。

○ なお、管理職を目指す現職教員を主な対象とする学校経営に特化したコースについては、共通5領域を管理職向けの内容としたり、一部の領域の履修を減らしたりなどして工夫することや、必要に応じて総単位数を12単位程度に減少させることも可能とする。

○ 新たな学びに対応する必要性や教育委員会等からの要請が高いことを踏まえ、現代的な教育課題として、特別支援教育やICT教育を取り扱う科目をそれぞれ共通科目の一部として必修とする。

○ また、平成25年の教育振興基本計画(※19)にあるように、学校と地域が連携・協働する体制が構築されることを目指し、保護者や地域住民の力を学校運営に生かす「地域とともにある学校づくり」が、これからの学校づくりに欠かせない重要な内容であるため、共通5領域の「学級経営、学校経営に関する領域」や管理職養成コース等において、必ず授業で取り扱うものとする。

 b)教職大学院の特化コース等の設置
○ 教職大学院は、スクールリーダー養成機能として、管理職候補者となる教員が、管理職がリーダーシップを発揮して学校の組織的な対応を強化し、学校が地域と一体となって目標を達成していく学校マネジメントを重点的に学修するコースを設置する必要がある。コースの教育課程については、教育委員会との連携・協働により、地域の学校管理職に求められる資質能力を育成できる内容とすることが重要である。 

○ 教職大学院に教科指導コースを設定する場合については、共通科目、学校における実習と関連した内容とし、共通五領域のうち、「教育課程の編成・実施に関する領域」、「教科等の実践的な指導方法に関する領域」をより専門的に発展させたものとする。具体的には、総合的な学習の時間、言語活動など、学習指導要領が提起している知識を活用したり探究したりする能動的な学習に対応した教材や指導法を開発できる力量の育成を目標とするものとする。

○ 教科指導コースには、今後も、個別の教科内容を中心した履修モデルを設定することは適切ではない。個別の教科内容を中心にした学修では、個別分野の学問的知識への偏りが指摘されてきた既存の教員養成系修士課程の教科教育専攻ないし専修の教育課程と変わらなくなる恐れがあり、共通科目を基盤とし、学校現場の今日的課題の解決に資するこれまでの教職大学院の趣旨・目的を変えてしまう可能性があるためである。

○ したがって、教職大学院の教科指導コースにおいては、高度専門職として修得すべき実践的指導力の育成という観点から、個別の教科や学校種の違いを超えて教育を俯瞰し研究する教育実践研究を積極的に採り入れた体系的な教育課程を編成することを重視し、教科内容に関する授業科目を開設する場合は、学校における教育実践に直接的に結びつく内容とする。

○ 特別支援教育に特化したコースについては、教員養成系修士課程との関係を踏まえつつ、特別支援教育スーパーバイザーの養成を目的とするものなど、教職大学院として特色を有するものとする。

 c)学校における実習
○ 教職大学院の学校における実習については、当初から学校における実習を10単位必修にするなど学校現場での課題と実践を重視してきたところであり、理論と実践の往還が真に有効になるように、その内容を更に充実したものに改善する。
 既存の教職大学院においては、ごく一部を除いて多くの大学が、学部新卒学生については通年等長期にわたる継続的な実習を課すようになっているが、現職教員に関しては、実習の免除のための判定基準やその合理性の判断が一定でなく、理論と実践を往還させる教育課程として学校における実習をどう生かすかについて検討が必要である。

○ 実習の内容としては、教員としての高度の専門性と課題解決力を養うため、自ら企画・立案したテーマについて学校現場における体験を省察し、高い専門的職業人としての自覚に立って客観化し、理論と実践の往還・融合を果たしうるものでなければならない。したがって、単なる学校実習に終わるものではなく、大学教員の指導の下で行う探究的実践演習としての性格を重視する必要がある。このため、学校での実習について、大学教員が実質的に指導できるような環境を整えるための仕組みを整備する必要がある。

○ 教職大学院の実習は、免許状を有する者の実習であり、学校現場の課題を研究対象とすることにより、実習校の教育活動に寄与することが期待されることから、教育委員会等の学校の設置者、実習校との密接な連携のもと、学校現場に実習成果を還元できるような仕組みとすることが重要である。

○ また、実習は、体系的な教育課程の中で共通科目や専門科目と連携・融合した形で具体的に位置づけられる必要があり、既に多くの教職大学院で行われてきている実習の省察的なワークショップを継続的に設けることが重要である。

 d)教育実践研究のとりまとめ、教育成果の検証
○ 教職大学院において学修の成果や教育実践研究をとりまとめることについては、主体的な課題解決力を育成し、自らの学修を客観化する上で大学院での学修として重要である。それゆえ、大学での授業と学校での実習を総括して振り返り、自らの実践研究を省察した報告書を教育実践研究として作成・発表することを教育課程の中で位置づける。さらに、こうした観点から、教職大学院生に対しては、各大学は修了後も継続して支援を続けるなど、学び続ける教員を支援することに配慮することが望ましい。

○ また、報告書の作成・発表にとどまらず、その内容を種々の教育改善や学校改革に役立たせ、高度専門職業人の養成機関としての教職大学院の教育実践成果を広く普及・検証していくことが求められる。

 e)学部新卒学生と現職教員
○ 教職大学院で学修する学部新卒学生と現職教員については、それまでの各々の経験の違いから必要とされる教育内容に違いがあるのではないかと指摘される一方、集団での活動を中心とする授業では、お互いの特性を生かした討議が可能となり、更に現職教員がスクールリーダーの資質として学部新卒学生のメンターとなることには意義があるとの意見もあり、学生や教員の評価は高い。各大学院では、学部新卒学生と現職教員がお互いの特性を生かし協働しながら学修していくことができる工夫が求められる。

○ 中核的教員となり得る人材の養成という目的の下で、共通の「専門職学位」を授与する教職大学院においては、共通の教育研究水準を設定する必要があるが、実際は、学部新卒学生と現職教員とでは異なる履修形態を採ることや、共通科目について達成水準を分けて設定せざるを得ない現状であり、今後、制度上の課題について整理し検討することが望まれる。

○ 管理職養成コースなど必要に応じて対象を現職教員に限定するコースを設定すること、学校経営など学部新卒学生と現職教員で必要な内容が大きく異なる科目については、それぞれに別の履修モデルを用意することは、これまでと同様に可能とする。

 (3)教職大学院の教員組織
 a)教員組織の在り方
○ 教職大学院の教員組織の在り方については、教職大学院における教育は共通科目を基軸とした教育課程が必要となることから、専任教員の基準についても、文部科学省告示第百七十五号別表第一における「学校教育専攻」の研究指導教員等を基礎に据える現行の考え方(最低11人)を今後とも維持することが適当である。

○ また、今後、教員養成系の大学院における教員養成機能は、教職大学院が中心となって担うことから、教科に係る教育についても、従来の修士課程とは異なる内容で教職大学院において行われることとなる。このため、教科領域分野の教員を教職大学院の専任教員として配置するなど現行規定を改正する方向で検討する必要がある。また、担当教員については、教育実践での実績、研究分野について十分な審査が求められる。

○ 教職大学院における専任教員のダブルカウントについては、高度専門職業人養成に特化した独立性の確保という専門職大学院制度の趣旨から慎重な検討が求められる一方、国立の教員養成系修士課程が教職大学院に段階的に移行するなど、今後も教職大学院の発展・拡充が見込まれるため、優秀な教員を拡充期においても確保することが必要となる。
 そこで、中央教育審議会の検討状況を踏まえ、教職大学院の発展・拡充が見込まれる当面の間、教職大学院の専門職大学院設置基準上必ず置くこととされる専任教員が、他の学位課程の教員を兼ねることができるような措置を行う方向性で検討する必要があるが、教育研究上支障を生じないよう留意する。

 b)教職大学院の教員
○ 教職大学院の教員については、学校現場の現状や教育実践について深い理解を持ち、教員養成を目的とする課程としての意識を共有することが重要である。したがって、実務家教員、研究者教員という区分以前に、すべての教員が、学校現場の指導経験を有するなどその現状に精通しつつ、併せて研究能力を有し理論的な見地から授業を行うことができるようになることが必要である。

○ このため、各教職大学院においては、実務家教員以外の教員は、原則として、実務の現状を認識するため、附属学校等において継続的な教育活動を行うことが必要である。なお、博士号を有するなど優れた若手研究者を任期付きで採用し、一定期間の学校現場等での実務を課し、その評価結果で正式採用とする「テニュアトラック制(※20)」の導入を推進する。

 c)実務家教員
○ 教職大学院の実務家教員については、学校現場での最新・多彩な経験を有し、優れた教育実践を行ってきた者が求められており(※21)、教育委員会との人事交流や校長等経験者や教育行政の経験者を期限を定めて採用する等により一定期間で替わっていくことが望ましい。
 また、実務経験と研究能力をあわせ持ち、学校現場全体を客観的、理論的に見通すことができる力を有する実務家教員を、積極的に採用、育成していくことが必要である。

○ 当面の方策としては、教職大学院制度の創設以降、理論と実践の架橋を進めている段階であり、実務家教員を引き続き確保していく必要があることから、実務家教員比率は現行どおり4割以上を維持する(※22)。

5.国立の教員養成系修士課程の改善

 (1)基本的な性格・在り方
○ 国立の教員養成系修士課程については、教職大学院へ段階的に移行する前提のもとで、学校や教育委員会と連携・協働し、その基本的な性格や考え方について抜本的に改善していく必要がある。

○ その際、総合大学においては、例えば、理数科教育等における自然科学系分野との連携など、他研究科との連携も今後必要となってくることから、大学全体での教員養成機能の充実のため、大学の強み・特色、地域の要請に応じた柔軟な組織編成を推進していくことが必要である。

 (2)教育課程
○ 国立の教員養成系修士課程の教育課程については、教職大学院への段階的な移行期を見据えて、学習科学等を踏まえた教科内容構成や教育実践の研究の推進及びその成果の活用、経験知・暗黙知の一般化による理論や方法の開発など、教職大学院の教育課程に準じた実践的な教育内容となるよう現行の教育課程を改革する。

 (3)教員組織
○ 国立の教員養成系修士課程の教員組織については、これまで研究機能とともに、教員養成及び現職教育研修を主たる機能とすることを前提としてきたことから、すべての学校種や教科に対応できるよう、中学校免許科目の10教科すべてについて、その教科教育法と教科内容を広範に網羅するような研究指導教員の配置を必要としてきた。

○ 今後、国立の大学院での教員養成・研修機能を教職大学院が中心となって担うことを踏まえると、国立の大学院で10教科の教科に係る専攻ないし専修を置くことはおおむね想定されなくなる。
 また、教職大学院への段階的な移行期においても、地元を中心とした教育委員会・学校の要望を踏まえ、教科を幾つかに大括り化したり、各大学院が強みとする教科に集中したりすることにより、教育目的に応じた教員組織に再編成することが必要である。

○ 上述の方針に従って、文部科学省告示第175号の表に示されている教科に係る専攻の規定については、例えば10教科のうち、幾つかの教科を括(くく)った専攻を置くことが考えられることから、研究指導教員や研究指導補助教員の配置について、設置する専攻の教育課程等に応じて適切な規模の教員組織を編成できるよう、現行規定を改正する方向で検討する必要がある。

○ また、教員養成系にふさわしい研究指導教員等の配置を行うため、大学院設置審査や課程認定審査に当たって、学校教育上の課題解決に資する教育実践研究業績等を重視することを明確化する。

(※1)「スクールリーダー」とは、「今後の教員養成・免許制度の在り方について」(平成18年7月11日中央教育審議会答申)において、中核的中堅教員として、将来管理職となる者も含め、学校単位や地域単位の教員組織・集団の中で、中核的・指導的な役割を果たすことが期待される教員とされている。
(※2)自民党教育再生実行本部第二次提言(平成25年5月23日)
(※3)「これからの大学教育等の在り方について」(平成25年5月28日教育再生実行会議第三次提言)
(※4)「今後の国立大学の機能強化に向けての考え方」(平成25年6月20日文部科学省)
(※5)「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」(平成24年8月28日中央教育審議会答申)
(※6)上越教育大学、兵庫教育大学、鳴門教育大学の3大学。
(※7)「修士課程を積極的に活用した教員養成の在り方について:現職教員の再教育の推進」(平成10年10月29日教育職員養成審議会第2次答申)
(※8)「今後の教員養成・免許制度の在り方について(平成18年7月11日中央教育審議会答申)
(※9)「今後の教員養成・免許制度の在り方について(平成18年7月11日中央教育審議会答申)※再掲
(※10)平成25年現在、国立19校、私立6校の25校が、20都道府県で設置されている。
(※11)岐阜県教育委員会調べ 本ワーキンググループ第1回会議資料
(※12)教職大学院の就職状況は、平成24年で92.7%、23年で90.4%、22年90.0%となっている(文部科学省調べ)。
(※13)「今後の国立の教員養成系大学・学部の在り方について」(平成13年11月22日国立の教員養成系大学・学部の在り方に関する懇談会報告書)
(※14)教員就職率(平成24年3月)は、国立の教員養成系修士課程54%、教職大学院93%となっている。
(※15)人材養成像については、教職大学院の創設を提言している「今後の教員養成・免許制度の在り方について」(平成18年7月11日中央教育審議会答申)を引き継いでいる。
(※16)京都府では、京都教育大学が、京都産業大学・京都女子大学・同志社大学・同志社女子大学・佛教大学・立命館大学・龍谷大学との連合で、教職大学院を設置している。
(※17)「今後の教員養成・免許制度の在り方について(平成18年7月11日中央教育審議会答申)※再掲
(※18)「専門職大学院に関し必要な事項について定める件」(平成15年3月31日文部科学省告示第53号)第8条第1項において、次の各号に掲げる教育について授業科目を開設するものとされている。1 教育課程の編成及び実施に関する領域 2 教科等の実践的な指導方法に関する領域 3 生徒指導及び教育相談に関する領域 4 学級経営及び学校経営に関する領域 5 学校教育と教員の在り方に関する領域
(※19)「教育振興基本計画」(平成25年6月14日閣議決定)
(※20)公正で透明性の高い選抜により採用された若手研究者が、審査を経てより安定的な職を得る前に任期付の雇用形態で自立した研究者として経験を積むことができる仕組み(「第四期科学技術基本計画」平成23年8月19日閣議決定)
(※21)実務家教員は、文部科学省告示では、小学校等の教員としての実務の経験を有する者を中心として構成されるものと定められ、平成18年中央教育審議会答申では、教諭の場合、おおむね20年程度の経験が必要と示されている。
(※22)専門職大学院基準では、専門職大学院の必要専任教員のうちおおむね3割以上は、実務家教員とすることとされているが、教職大学院においては、実務経験を有する者の役割がより重要であることから、おおむね4割以上とされている。

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(総合教育政策局教育人材政策課教員養成企画室)