(資料1-2)教職課程の質の保証等に関するワーキンググループ検討報告(案)

 資料1-2

1.専修免許状の取得における実践的科目の必修化について
(1)現状と課題
○ 昭和62年12月の「教員の資質能力の向上方策等について」(教育職員養成審議会答申)において「標準免許状を基礎として、修士課程等において特定の分野について深い学識を積み、当該分野において高度の資質能力を備えていることを示すもの」として専修免許状を設けることが提言された。この提言を受け、昭和63年に教育職員免許法が改正され、専修免許状が創設された。
○ 教育職員免許法においては、この答申の趣旨を踏まえ、一種免許状を取得している者が大学院に進学して専修免許状を取得するに際しては、「教科又は教職に関する科目」について24単位以上を修得することとなっている。そのため、多くの大学院においては、この24単位は、研究科の専門分野に係る科目で構成されており、専門的知識の深化は保証されているが、学校での教育実践と関連のある内容を学習することは少ない。
○ このように、現行の専修免許状の取得に当たっては、研究科で学んでいる特定の学問分野における専門的知識や理論を、実際に児童生徒に教授する場面においてどのように活用していくのかという教育実践につなぐ学習がなく、高度専門職業人としての教員を養成する上では、「理論と実践の架橋」の視点が不足している。
○ さらに、専修免許状を取得するに当たって、学校との関わりや学校の現状を把握する機会がない状態になってしまっているため、学生の教員への志望の意思をより高めることにつながっていないとの指摘もある。
○ また、大学院の新規修了者の専修免許状の取得状況については、中学校の専修免許状では国立大学の教員養成系の研究科の修了者が39%である一方、それ以外の国公私立大学の研究科の修了者が61%を占めており、高等学校の専修免許状では国立大学の教員養成系の研究科の修了者が32%である一方、それ以外の国公私立大学の研究科の修了者が68%を占めている。
今後、教員養成の高度化を進めるに当たっては、国立大学の教員養成系の研究科のみならず、それ以外の国公私立大学の研究科に負うところが大変大きいため、これらの研究科の関係者の理解も得つつ、取り組んでいく必要がある。
(2)専修免許状によって保証する資質能力
○ 教員養成系の研究科では、教職及び教科専門を中心とする理論を、一般の研究科においては教科専門を中心とする理論を学んできている。
○ これからの教員は、確かな学級経営力を有しているとともに、いじめや不登校などの生徒指導上の問題や、特別な支援を要する児童生徒、外国人児童生徒への対応など、複雑かつ多様な課題に対応することが求められている。
  このような課題に適切に対応し、解決する力を育成するためには、児童生徒の発達段階やカウンセリングなどに関する理論について深い理解を基盤とし、実際の児童生徒に対して、一人一人の特性や心身の状況、生育環境、学級集団の中での関係などを踏まえて、個々のケースに応じた指導を適切に実践できなくてはならない。
○ また、基礎的・基本的な知識・技能の修得に加えて、思考力・判断力・表現力などを育成するため、知識・技能を活用する学習活動や課題探究型の学習、協働的学びなどの新たな学びをデザインできる指導力が求められている。
  このような実践的指導力を育成するためには、教科に関する学問的な幅広い知識や深い理解を基盤とし、実際に児童生徒に対する授業場面において、こうした専門的知識を活かして指導内容を工夫したり、適切な授業を構成できる力を身につけさせることが不可欠である。
    すなわち、教科に関する幅広い知識や深い理解が身についていればこそ、学習内容の系統性や教科の本質を理解し、子供たちの思考を揺さぶり、新たなものの見方の発見を促すような課題探究型の授業を構想したり、教材を開発したりすることが可能となる。一方で、実際の授業の場面においては、単元の内容や子供一人一人の習熟の度合いなどに合わせて、個別学習やグループ学習などの適切な学習形態を選択したり、説明や発問の内容を工夫したりできる力が身についていなければ、構想した授業を具体的にデザインしたり、開発した教材を適切に用いて授業を展開することはできない。
○ そのため、今後の教員養成の質の改善に向けて、専修免許状について、幅広い知識や深い理解に基づく教職や教科に関する専門性を保証するとともに、それを実際の授業やキャリア教育、学級経営、生徒指導などで活用し、課題に適切に対応できる力や新たな学びを展開できる実践的な指導力も含めて保証するものとする必要がある。
(3)改善方策
○ 全ての学校種の教諭、養護教諭及び栄養教諭に係る専修免許状について、このような実践的な指導力を保証するものとするため、各大学院の教育課程において理論と実践の架橋を重視した実践的科目を、専修免許状取得に必要な24単位の中に位置づけて必修の単位とすることを促進していく必要がある。
  その際、専修免許状によって保証される資質能力は第一義的には深い学識に基づく高度な専門性であるため、実践的科目の内容としては、単に学校で実習を行い、実際の授業における指導技術を習得することを目的としたものではなく、研究科において学んでいる特定の分野についての専門的な知識を基にして、それを学校における教育活動に活かしていくことができるようなものにする必要がある。
○ 実践的科目の内容としては、学校での実践的な活動を取り入れるものとし、その活動を通じた学びをより深めるため、周到な事前の指導や事後の省察などを組み合わせたものが考えられる。
    学校での実践的な活動としては、
1 教員として課題を解決していく力を身につけるため、学校や子供の実態と課題を把握した上で、主体的に学校教育活動に参画するインターンシップを行うものや、
2 カリキュラム開発を推進する授業研究力などを身につけるため、学校現場をフィールドとする実践的活動を行うもの
などが考えられる。
○ 単位数については、上記のような実践的指導力を育成できる内容とするためには一定程度の単位数が必要であり、専修免許状取得に必要な単位数である24単位のうち概ね4単位から6単位程度とすることが適当である。具体的な単位数については、各大学院における教育課程や教職員体制なども踏まえ、また履修する学生にとって過度な負担とならないよう配慮しつつ、各大学院が適切に定めることが必要である。
○ 具体的なカリキュラム内容としては、別添で示した「専修免許状の取得における実践的科目のイメージ」などが考えられる。専修免許状の課程認定を有する研究科においては、既にそれぞれの教員養成の理念や教員像などに基づき様々な取組を行っているところであるが、課程認定を有する研究科において、それぞれが目指す理念や教員像を実現できるよう、教育課程や指導体制、履修を希望する学生数、実践的活動を行う学校の状況などを勘案して、様々な工夫が行われることが望まれる。特に、教員養成系の研究科においては、より高度な専門性を有し実践的な指導力を有する教員を養成できるよう、一層の工夫や内容の充実が求められる。
○ 学生が学校で実践的活動を行うに当たっては、学校での受け入れが円滑に進められるよう、大学と教育委員会や学校が十分に連携を行い、大学における実施方針や受け入れる学校の選定や期間などについて十分に調整を行った上で実施する必要がある。また、教員への志望の意思が十分な学生が実践的活動に参画する仕組みとなるよう、学生が実践的活動に参画する前に大学院において、学生の教員への志望の意思や自覚、資質能力、適性を十分に確認することなどが必要である。
さらに、実践的活動を行う学校の状況について、事前に十分に把握した上で実践的活動を開始するなど、受け入れる学校の負担をできる限り軽減するとともに、学校の職務に主体的に参画することで、受け入れる学校側にもメリットを感じられるようにするなど学校の運営にも資するものとする必要がある。

2.教職課程に関する情報公開の在り方について
(現状と課題)
○ 大学などが公的な教育機関として、社会に対する説明責任を果たすとともに、その教育の質を向上させる観点から、公表すべき情報を法令上明確にし、教育情報の一層の公表を促進するため、平成22年6月15日に行われた学校教育法施行規則の改正により、平成23年4月1日から、各大学などにおいて教育情報の公表を行う必要がある項目が明確化された。
○ 学校教育法施行規則第172条の2において、刊行物への掲載、インターネットの利用その他広く周知を図ることができる方法によって、大学の教育研究上の目的や、教育組織、入学者の数、卒業又は修了した者の数並びに進学者数及び就職者その他進学及び就職などの状況、授業科目、授業の方法及び内容並びに年間の授業の計画などについて公表することとされている。
○ この規定に基づき各大学などにおいては、ホームページなどを通じて上記の情報を公表しているところであるが、教員養成に関する情報については、どのような情報を公表するかは課程認定を有する各大学の判断に委ねられており、教員の養成に係る教育の質の向上や社会に対する説明責任を果たす観点からは十分とは言えない状況にある。
(改善方策)
○ 課程認定を有する全ての大学は、当該大学における教員養成に係る状況について、情報を公表する必要がある。そのため、すべての課程認定大学に対して、制度上情報の公表を義務付けるとともに、具体的な内容も定めることが必要である。
○ 公表すべき情報としては、以下の項目が考えられる。
・教員養成の理念や具体的な養成する教員像
・教職指導に係る学内組織などの体制
・教員養成に携わる専任教員の経歴、専門分野、研究実績など
・教員養成に係るカリキュラム、シラバスなど
・学生の教員免許状取得状況
・教員への就職状況
・その他教員養成の質の向上に係る取り組み
○ 大学が情報を公表する手段としては、大学の発行する大学案内などの刊行物での周知や、教員を志望している高校生や中学生などを始め広く社会に周知すべきことから、各大学のホームページへの掲載することが考えられる。また、高校生などが読んでも分かるような平易な表現にするなどの配慮も必要である。
○ 各大学の状況をより分かりやすく把握できるようにするため、例えば公表の様式を統一することや、共通のデータベースとしてまとめることなどについて、今後検討していくことが必要である。
○ また、既に課程認定を有する大学が、新たに別の教科に係る課程の認定を受けようとする場合などには、既に認定を有する教職課程に係る情報の公表の取組状況を確認することが必要である。
 
3.教職課程のグローバル化対応について
(現状と課題)
○ 世界で活躍できる人材を育成することが求められる中、中学校や高等学校などの英語の教員のみならず小学校や中学校などの他の教科の教員も含め、教員自身もグローバルなものの見方や考え方を身につける必要がある。このような中、各大学においては、外国の大学との交換留学や長期休業期間などを活用した短期留学、留学生との交流事業の実施などが進められている。
○ 学生が海外に留学した際に取得した単位の取り扱いについては、すでに教育職員免許法施行規則第10条の7第2項において、課程認定を有する大学の入学後に教員を養成する外国の大学に留学して取得した単位については、教員免許状の授与を受けるための科目の単位に含めることができるとされている。一方、課程認定を有する大学の入学前に取得した単位の取り扱いについては、同条第1項で定められており、そこでは国内の課程認定を有する大学で取得した単位については免許状の授与を受けるための科目の単位に含めることができるとされているが、外国の大学で取得した単位については明文の規定がなく、国内の課程認定を有する大学で取得した単位に準じて解釈で認められている状況にある。
○ 学生が教育実習や介護等体験を受けるに当たっては、事前にガイダンスを受講していることや、一定の科目の単位を取得していることなどを条件としている大学がある。このような取組は、真に教員になる意思があり適性のある学生が教育実習や介護等体験を受けるようにするためには適切な措置であるが、一方で外国の大学に留学する学生にとっては、教育実習などを受けることを難しくしている要因の一つとなっているという指摘がある。
    また、学生が外国の大学に留学をする時期と教育実習などが実施される時期が重なることが多く、そのため、教員免許状を取得するために留年せざるえない学生や、教員免許状を取得することを諦める学生も少なくないという指摘もある。
○ 平成24年度において実施された教員採用選考において、中学校や高等学校、特別支援学校の英語の教員の採用選考の際に、TOEFLやTOEIC、英検などの成績により特別選考や一部試験の免除などを実施している都道府県や政令指定都市の教育委員会は全67県市のうち39県市にとどまる。また、小学校や中学校などの他の教科の教員の採用選考においてTOEFLなどの成績により特別選考や一部試験の免除などを行っている教育委員会は8県市にとどまる。

(改善方策)
○ 課程認定を有する大学に入学する前に学生が外国の大学で取得した単位についても、教育職員免許法施行規則を改正し、教員免許状の授与を受けるための科目の単位に含めることができる旨を明文化する必要がある。
○ 学生が外国の大学に留学しても、教育実習や介護等体験を留年することなく受けることができるよう、各大学において、外国の大学に留学するなどの事情がある学生については、一定の科目の単位を取得していなくとも教育実習などを受けることを認めるなどの柔軟な取組を推進する必要がある。また、各大学と教育委員会や学校などが連携をして、教育実習などについて特定の時期にのみ実施するのではなく、複数の時期に実施するなどの取組を推進する必要がある。
○ 各教育委員会において、中学校などの英語の教員の採用選考に当たって、受験者が外国の大学に留学をした成果を適切に評価できるよう、TOEFLなどの成績を評価して一部試験の免除などを行うことを推進する必要がある。あわせて、小学校や中学校などの他の教科の教員の採用選考についても、同様にTOEFLなどの成績などを評価することを推進する必要がある。

【別添】

専修免許状の取得における実践的科目のイメージ

1.実践的科目の概要
○ 研究科において学んでいる特定の分野についての専門的内容と、学校での実際の指導とをつなぐ4から6単位分の実践的科目は、
  ・主体的に学校教育活動に参画するインターンシップや学校現場をフィールドとする活動と
  ・その活動について、研究科において事前の指導や事後の省察などを行うこと
 を組み合わせて構成することが考えられる。
○ 学校における実践的な活動を行う前に、学生の教員への志望の度合いや適性などについて面談などを通じて把握し、十分な教員への志望の意思や適性を持った学生を参画させる。あわせて、学校の児童生徒の実態や教育課程、学校課題などを十分に理解するとともに、学生が専攻分野において研究しているそれぞれの専門性を生かした実践的指導力を養成するための意図的計画的な事前準備を行う。
  実践的な活動の終了後には、プロセスを振り返り、その実践研究の成果を言語化する作業を行うため、「教職実践研究報告書」(仮称)を作成する。この際、実践的な活動に参加した学生や指導した教員などが集まる中で、学生が報告書の内容について発表する機会を設けることも考えられる。なお、この報告書については、学部段階での教育実習記録のレベルではなく、実践を研究的に振り返るものである必要がある。
○ 学校における実践的な活動と、事前や事後の指導などについては、それぞれ別の科目として開講することや、一つの科目の中にこれらの内容を盛り込んで開講することが考えられる。

2.実践的科目の内容
(1)インターンシップ
 1 内容
 ○ 教員として課題を解決していく力などを身につけるため、学生が学校教育活動に主体的に参画しながら実践研究を行う。そこでは、学級運営や教科指導、その他の校務分掌などに全般的に参画して実践を行う形態や、教科指導に特化して特定の単元におけるカリキュラム改善について実践を行う形態など様々なものが考えられる。
 ○ 研究科の学生は、学部に在籍している時に一種免許状を取得するために既に教育実習を行っているため、学校における実践的活動は、学部に在籍していた際に履修した教育実習よりも高いレベルのものにする必要があり、具体的には、学校の実態などを踏まえて、自らが主体的にテーマを設定するなどの工夫が必要である。
 2 日程
  ○ 学校における年間の流れを理解することや、児童生徒と長期に関わることで成長過程を実感したり、学習指導や生徒指導の成果や課題を認識したりすることが可能とするため、半期や年間を通して週に1日または半日程度実施し、合計で10日間から20日間程度行うことが考えられる。
   または、それぞれの自己課題や専門性、学校現場の状況を踏まえて、数週間にわたり集中的に行うことも考えられる。
 
(2)学校現場をフィールドとする活動
 1 内容
  ○ カリキュラム開発を推進する授業研究力などを身につけるため、特定の教科の授業改善について、先導的な取組を行っている学校への訪問や、学校における研究授業の指導案や教材の作成過程への参画、研究授業やその後の評価作業への参画、新たな授業づくりのプラン作成などへの参画と大学院における事例研究などを組み合わせて行う。
  2 日程
  ○ 研究授業の指導案や教材などの作成に主体的に参画するため、数日間にわたり集中的に学校に訪問することや、大学院での授業などを挟みながら断続的に先導的な取組をしている学校に訪問することなどが考えられる。
  また、複数のテーマを扱う場合には、それぞれのテーマに沿って異なる学校に訪問することなども考えられる。

3.指導体制
    学生が所属する研究科の教員とともに、教職専門の教員(例えば各大学の教職センターに所属する教員など)が協働して行う。その際、大学間で連携を図り、指導体制を構築することも考えられる。

4.評価
  学校における実践的活動の状況を踏まえて、学生が作成した「教職実践研究報告書」(仮称)によって行う。

 

(参考)

(1)年間を通じたインターンシップの場合の科目構成と単位数のモデル例

教職実践に関する科目(仮称)

配当年次のイメージ

単位数

1年次前期

1年次後期

教職実践研究(仮称)

(大学院における授業科目)

学生の教員志望の意志や適性を判断

学校の実態把握・課題分析

授業実施のための教科内容構成など理論と実践を架橋する内容

インターンシップの振り返り

課題解決の方策の検討

教職実践研究報告書

2

インターンシップ

(学校における活動)

10日間~20日間

(通年または半年の週1回程度に分散したインターンシップまたは数週間程度の集中的なインターンシップ)

2

4

※インターンシップについては、1年次の後期から2年次の前期にかけて行うことも考えられる。

(2)年間を通じた学校現場をフィールドとする活動の場合の科目構成と単位数のモデル例

教職実践に関する科目(仮称)

配当年次のイメージ

単位数

1年次前期

1年次後期

 

学生の教職への志望の意志や適性を判断

授業実施のための教科内容構成など理論と実践を架橋する内容

学校訪問、指導案作成への参画

学校訪問などの振り返り

指導案の作成、学校での実践教職実践研究報告書(仮称)

の作成

4

6

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初等中等教育局教職員課