資料1 教職員のメンタルヘルス対策に関する主な意見等の整理

平成24年7月6日

1.教職員のメンタルヘルスに関する現状と課題

1精神疾患により休職している教員についての現状

○ 平成4年度から平成21年度にかけて17年連続して増加し続け(平成4年度:1,111人→平成21年度5,458人)、平成22年度において5,407人となり若干減少したものの、依然として高水準にある。

○ 全体の在職者に占める割合について、学校種別、年代別に見ると、学校種では、特に中学校の割合が高く、増加傾向にある。年代別では、40歳代、50歳代の割合が高い。

○ 約半数(平成22年度において45.7%)が、所属校に配置後2年以内に休職に至っている。

○ 平成22年度において、休職発令から1年以内に別の休職期間がある者の割合は、15.1%となっている。

2課題

○ 学校教育は、教職員と児童生徒との人格的な触れ合いを通じて行われるものであり、教職員が心身ともに健康を維持して教育に携わることができるよう、メンタルヘルス対策の充実・推進を図ることが必要。

○ 教員の年齢構成が高齢化しており、メンタルヘルス不調者の割合が高い年代の教職員が増加することになることから、学校における予防的な取組など、メンタルヘルス対策の充実は喫緊の課題。

○ メンタルヘルス不調による休職から復職した教職員が再度休職となる場合もあり、再度の休職とならないような効果的な復職支援策を講じることが必要。

2.教職員のメンタルヘルス不調の背景等

1企業等におけるメンタル不調の背景等

○ 職場でメンタルヘルス不調が現れる原因として、職場の対人関係が関連することが多い。仕事の量や質の問題もある。最近は、特に仕事の質が高く、職務の内容が高度になってきている。

○ 社会の中でうつ病の概念の広がってきていることに加え、精神科医療におけるうつ病診断閾値の低下、治療開始閾値の低下も多少なりとも関わっている。

○ 昨今、本人の本来持っている偏った対処行動が主要因として考えられるケースが産業精神保健領域で増えている。

2教職員の精神疾患の背景等

○ メンタル不調を訴えて受診する方の多くが生徒指導に関してストレスを感じている。続いて同僚・管理職との人間関係が多い。生徒指導でストレスを感じた教員が保護者対応でストレスを感じるケースが多い。保護者対応は、20歳台、30歳台がストレス要因として挙げる割合が多く、40歳台は少ない。むしろ、40歳台の教員は、校内の仕事が集まってきやすく、そのことに対してストレスを感じる割合が多い。

○ 教員は、対人援助職であるために、終わりが見えにくく、目に見える結果が見えない場合が多い。周りからの評価、フィードバックが得られないと燃え尽きてしまうことがある。

○ 児童生徒と共に過ごす時間や権威といったものが教員を支えていたが、これらが減り、消耗する要因である事務的用務、保護者対応等が増えてきている。これらに人事異動や職場内の対人関係の変化等の心理的な負荷が加われば、容易に事例化する。

○ コミュニケーションが苦手な人や、人に悩みを話せない人がメンタル不調になりやすい。例えば、異動後、前任校と違って、自分の指導が児童生徒にきかないような状況になると、今までの指導方法が否定されたようになり、戸惑ってしまうことがある。

○ 個人の状況としても、親の介護や、子どもの世話などもあり、協力してくれる家族がいないと、年代によって加わってくるストレスの質も変わってくる。

3教職員の業務の特徴

○ 学校では、規模にかかわらず、一人の教職員が多くの分掌を担当しなければならず、業務量が多いほか、様々な研修会・研究会にも時間を割いている。休日の部活動指導等もある。生徒指導対応や保護者の方の対応等が突発的に入ることもある。企業等のように、経理、企画、営業等の仕事を役割に応じて明確に分担しているのとは異なる状況がある。

○ 教職員の仕事の質や量が変化してきている。特に提出しなければならない報告書が多く、教育委員会において削減に取り組んでいるが、必ずしも改善されていない。各個人が仕事をより効率的にこなさなければならない状況となっており、効率的にできないと精神的に弱ってしまうことがある。

○ 生徒指導上の諸課題、保護者や地域との関係において、困難な対応が求められることがある。制度改正等への対応も求められ、教職員は変化に慣れるのが大変である。

○ 学校での外部対応は、企業でいうと現場の従業員がクレーム対応するのに近い。外部対応において、ちょっとした配慮ができればよいが、配慮できるだけの余力が乏しくなっていることがある。

4教職員の意識等

○ 教職員の職務は、個人で抱え込みやすい傾向があり、対人関係上のストレスにうまく対応できない状況が生まれやすい。

○ 教員は、同僚の教員に対して意見等を言いにくいことがある。ストレスをためる原因にもなっているのではないか。また、自分たちの指導等をあまり干渉されたくないという気持ちがあり、人間関係が持ちにくい場合がある。

○ 教員は完璧にやって当たり前であるとか、子どものために身を粉にして頑張るものだといった思いが、イラショナルビリーフ(非合理的な思い込み)につながり、理想的にできていないことで、ストレスを感じ自らを責めることになる傾向がある。

○ 児童生徒や保護者に対して、正しいことはストレートに言うべきという考えの教員もいるが、実際にストレートに伝えて傷つけてしまい、対人的なトラブルに発展するようなケースもある。対応を工夫できていれば回避できたトラブルもある。

○ 教職員の意識として、自分は大丈夫だとか、忙しいなどの理由で健康診断における再検査等を受けない者もいる。

5職場環境としての学校の特徴・雰囲気

○ 学校は、地域によって特徴や特色が異なり、同じ職種でも異動によって、仕事の内容、方法等が大きく変わることがある。また、人間関係が重層的であり、同僚や上司だけでなく、児童生徒と保護者も関係し、お互いに影響し合っているため、一部の人間関係が難しくなる場合に、全部の人間関係が悪くなっていくことがある。

○ 自分のクラスで起きたことは周りに相談できず、周りの教員も介入を遠慮してしまう風土がある。校長が早めにフランクに介入していくような学校は事例化が少ない。一方、事例化が度々ある学校は、校長が各教員の状況をあまり把握していない。管理職の意識として、教職員の健康に関する危機管理意識の欠如があり、頑張っている教員に頼り、勤務時間外の残業を気にかけていないようなところもある。

○ 上司や同僚が、仕事の悩みについて相談を受けた場合、相談者本人のメンタルヘルスを考えるよりも、仕事の仕方等についてのアドバイスが中心になる傾向があり、精神的に弱っている教職員にとって、精神的にさらに負担を感じてしまうことがある。

○ 学校の中で問題が発生したときに、外に助けを求めるのが全体的に遅い。学校には、いろいろな他機関と連携をするような風土、気風が求められる。

○ 校内における初任者の指導や支援の体制が十分でないことなどにより、初任者が指導教員を始めとする教職員と頻繁に相談できる状況ではないことがあり、そうした中では初任者にとってストレスのかかる状況が続くことになっている。

○ 市町村教育委員会では、県費負担教職員は都道府県の職員であるという意識もあって健康管理面まで十分に対応できていない現状がある。

2.予防的取組

1セルフケアの促進

○ 教職員自身がストレスに気づき、これに対処する知識や方法を身につけることが重要であり、メンタルヘルスについての知識やストレスへの対処行動を身につける機会を充実させることが必要。その際、生徒指導や保護者対応などの困難な場面を想定したグループワークやロールプレイ演習、アサーション・トレーニング等を取り入れた実践的な研修を行うことが有効。

○ 企業では、法定健康診断時にストレスチェックを行い、問題のある対象者に精神科医や産業医が面談をするなどの対応をしている。教育委員会においても、相談体制を整えるなどの十分な事後的措置を用意した上でストレスチェックを活用することも考えられる。その際、業務上の配慮等が必要となることも踏まえ管理職との適切な連携を図る必要がある。

○ 教職員のメンタルヘルスの不調は、最初に家族の方が気づく場合もあるので、家族の方を対象に健康相談窓口の周知をすることや、家族の方から見た健康チェックリストの活用等も有効。

2ラインによるケアの充実

○ 学校において、管理職は日常的に教職員の状況を把握し、言動の変化等がある場合には話をしたり、産業医に相談したりするなどの初期対応を行うことが重要。

(教職員の職場不適応の初期症状の例)

  • 身体面では頭痛、腹痛、めまい、吐き気等。
  • 行動面では、遅刻、欠勤、早退等。口数が少なくなることやお酒やギャンブルに興じて仕事の能率も落ちてくることもある。
  • 精神的な面では、情緒が不安定になることや、今までより意欲が低下すること、やたら卑下するようになることなど。

○ 管理職がメンタルヘルスに関する知識やカウンセリングマインドを身につけることができるように研修を充実させることが必要。産業医による労働安全衛生や健康管理に関する研修や、具体的な部下職員との対応場面を想定したロールプレイ演習等を取り入れた研修を行うことが有効。

○ 学校の組織は、いわゆる鍋蓋型の組織であり、ラインによるケアが行いづらい事情がある。主幹教諭等を配置し、ラインによるケアが行われるよう体制を整備する必要がある。

○ メンタルヘルスケアを行うキーパーソンは管理職であり、管理職による適切なバックアップが行われなければならない。小さな問題でも管理職に報告させ、教職員が単独で対応するのではなく、管理職が判断して的確な対応をするということが大切。

○ 職場で起こった問題は、基本的には職場で解決する必要がある。学校現場で校長、副校長や教頭、教職員本人、カウンセラーが本音で話し合う機会を持ち、うまくコミュニケーションを図って組織の問題として解決していく必要がある。

○ メンタルヘルス不調が見られる教職員への対応については、管理職が業務上の配慮を適切に行うことが必要。その際、個人情報に配慮しながらも他の教職員にも伝えて学校としてサポートできる体制をつくることが必要。

○ 新規採用者への対応として、3月中旬から1~2週間程度の「任用前体験」を実施している教育委員会がある。配属前に校長が新規採用予定者の性格等をある程度把握して、赴任後の役割や指導を考えることができるようになっており、新規採用者へのケアとして有効に機能している。

3業務の縮減・効率化等

○ 職場におけるストレスの軽減のため、教育委員会においては、学校に対する調査・照会や学校に求める報告を精選するとともに、学校の職場環境、業務内容や業務方法を点検・評価し、業務の縮減・効率化を図る必要がある。

○ 校長は、職場環境改善のためのコミュニケーションツール等も活用しながら、教職員が行っている業務を点検・評価し、優先度の低い業務は校長のリーダーシップの下、積極的にスクラップアンドビルドすることが必要。また、学校において教職員が作成した文書や研究成果、ノウハウ等について共有し、業務の効率化を図る必要がある。地域との連携や外部人材の活用により教職員の負担を軽減することも考えられる。

○ 保護者対応については、保護者自身が子どもの教育で悩んでいることが多く、できるだけ早く対応して速やかに解決するよう努めることが大切。その際、管理職による教職員のサポートが極めて重要。

4相談体制の充実

○ メンタルヘルスに関する相談窓口や病院等を指定した相談体制について、特に市町村教育委員会において整備が進んでいない。教育委員会においては、これらの相談体制を整備・充実が必要。産業医等による巡回相談についても実施が望まれる。

○ 学校外の相談窓口だけでなく、企業内におけるメンターやPTA(パーソナル・チューター・アドバイザー)のように、仕事上の上司部下の関係でない先輩職員等に様々な相談に応じる助言者としての役割を持たせ、教職員が相談できる窓口やチャンネルを多く確保することも考えられる。

○ 業務上の悩みについて、早めに相談すれば、大事に至らなかったケースもある。管理職は、教育委員会や精神科医などの様々なサポートを得て解決していく姿勢が大事。教育委員会が学校をサポートすることで、教職員が安心して活動ができる。

○ スクールカウンセラーの活用が重要。スクールカウンセラーは、生徒指導等に関してストレスを感じている教員に対してアドバイスをしたり、コンサルテーションを行ったりすることもできる。こうしたことを通じて、教員はより安心感を持って生徒指導上の課題に対応をすることができる。

○ 学校の課題解決のためのアドバイザーとして、退職校長を活用している教育委員会もあり、校長に対する支援として有効に機能している。

5良好な職場環境・雰囲気の醸成

○ 学校においては、心身ともに健康を保持するための基盤である労働安全衛生管理(特に、産業医による職場巡視や面接指導の実施、衛生委員会の毎月1回以上の開催等)が十分に実施されておらず、基盤となる体制の整備を図ることが急務。

○ 開かれた学校、開かれた校長室、開かれた職員室にすることで、地域や保護者からのクレーム対応についても、教職員が互いに相談しながら対応することができる。

○ 教職員には特技や持ち味がある。優れた実践をした時には認め、良いイメージを持って振り返ってもらうことができれば、ストレスもたまりにくい。研究協議会等において、教職員が感じたことや疑問に思っていることを出せるような雰囲気作りも必要。

3.復職支援

1復職前の対応

○ 職場復帰支援は、本人が休み始めた時点から始まっており、復職後、職場再適応を果たしていくまでの長期間の支援が重要。

○ 休職期間中においても、本人の了解を得て、主治医や家族とも連携しながら、回復状態や今後の見込み等を把握しておくことが必要。本人の了解が得にくい場合においても、本人の話を受け入れる立場で接し、人間関係を保ちながら、家族と連携したり、産業医が間に立って対応したりするなどして、主治医との連携を図ることが大切。

○ 一般に、治療が始まって順調に進めば症状はだんだん良くなり、すこし遅れて業務遂行能力も回復してくる。回復が進むと職場復帰が実現し、職場に再適応していく。この過程において、企業においては、リワーク・プログラム、試し出勤、職場調整、復職判定の適切な実施、就業上の配慮等を行っている。

・リワーク・プログラム

症状が良くなって仕事ができそうに見えても、職場に戻るとうまくいかない場合が多いことから、職場復帰に向けた準備のため実施されている。

・試し出勤

正式な職場復帰前に、実際に行う仕事に準じた業務を行う期間を設ける取組。

精神科リハビリの一環として行うという誤解があるが、正しくは、本当に仕事ができる段階になって、長期間休業していたことに伴う職場復帰に対する不安や心配を減少または解消するために行われる。

2復職時における対応、留意点

○ 休職中の教職員から復職希望の申出がなされた際には、主治医からの就業に関する意見書を踏まえ、産業医や教育委員会において健康審査を担当する医師等が本人と面談をするが、復職による再発リスクと休職継続による本人の不安にも十分配慮し、慎重な対応をしなければならない。

○ 企業においては、再発するとその後の再発率がさらに高くなる傾向があることから、産業医は再発なく勤務できるかどうかについて、復職時に1~2時間の面談を行い慎重に判断している。復職時には7~8割(困難な場合でも5~6割)の業務遂行能力を求め、3~6ヶ月間は勤務の軽減を検討しながら対応している。

○ 復職の可否等は、主治医任せにするのではなくて、主治医の意見を尊重しながらも、職場として判断しなければならない。主治医は症状や生活リズムの回復状況を評価して判断し、教育委員会や校長は業務ができるだけの回復状況か否かを評価することになるが、主治医に予め復職が認められる要件や職場で対応できる支援方法等を伝え、情報交換をしながら、主治医の理解を求めていくことが有効。主治医の理解が得られれば、職場復帰後の配慮についても、有意義なアドバイスがもらえることになる。

○ 復職する際には、多くの教育委員会において、校長が本人と話し合いながら、復職プログラムを作成し、現場復帰に向けて、本人の了解の下で復職プログラムを実施しているが、この際においても、再発することなく勤務できるかどうかについて、定期的な面談や観察により、慎重に見極めることが必要。

○ 仕事の軽減、業務上の配慮にあたっては、何のための軽減か、目的を明確にすることが重要。例えば、うつ病による日内変動が明らかにある段階ではまだ復職には早すぎるということがある。本来、勤務時間を短縮するのは、症状の日内変動に対する配慮ではなく、勤務のブランクにより職場復帰した際に疲れやすいことや、疲労の蓄積により症状を再現させるおそれがあることに対する配慮ということになる。

○ 職場復帰の時期については、教育委員会や校長は、本人、主治医、産業医等と連携して意見を聴取し、繁忙期を避けて適切な時期を検討することが大切である。

○ 復帰の際の勤務場所については、元の職場に復帰させ、慣れた仕事に就かせて徐々に負荷を上げていくように対応していくことが基本。病気で治療中の教職員の異動は、再発リスクが高くなるだけでなく、仮に再発した場合、治療中の症状が悪化したことによるものか、新しい職場環境によって新たな不調が発生したことによるものかといった判断ができなくなるおそれがある。

3復職後の対応

○ 休職者が職場復帰する時の雰囲気や受入態勢は復職時に急に整えても本人が疎外感を感じてしまうことがある。日ごろから明るい職場づくり、精神保健に理解のある職場づくりを心がけることが大切。特に異動後2年以内の休職が多いことから、異動した教職員に対しても、校長を中心として適切にフォローアップする体制を整える必要がある。

○ 職場復帰した職員に対して、いつも通りに接して励ましすぎないようにし、受診や服薬を続けられるように援助することが大切。こうした暖かい雰囲気があれば、職場復帰訓練後も再発することなく対応できる。うまく管理職が話しを聞き、サポートしていくことが重要。

○ 復職後のフォローアップについても、勤務軽減をしながら単に様子を見るだけでなく、担当の業務がきちんとこなせているかについて、管理職が本人と話し合いながら、確認をして、必要な支援やケアを行っていくことが重要。

4.その他

○ メンタルヘルス対策について、管理職が対応すべきことが様々にあるが、新たな取り組みにより、管理職に過重な負担がかからないよう配慮が必要。

○ 教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策については、現在、中央教育審議会において審議されているところであるが、教員のメンタルヘルスを考える上においても、養成の段階から教員が学校現場で対応していくために必要な資質・能力を育成するとともに、採用後においても研修を通じて資質・能力を向上させていくことが重要である。

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