資料1 全国的な学力調査の在り方等に関する各委員の意見等(案)

1.全国的な学力調査の目的について

・これまでの調査の目的を今後とも継続する方向か。

(参考)平成22年度調査の調査目的

 義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から、全国的な児童生徒の学力や学習状況を把握・分析し教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図るとともに、そのような取組を通じて、教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立する。
 また、学校における児童生徒への教育指導の充実や学習状況の改善等に役立てる

○ 全国学力・学習状況調査は、4年にわたり実施してきたところであり、新たなステージに向け、ここで改めて調査の在り方を検討することは意義がある。検討に当たっては、この調査が単なる行政調査ではなく、子どもの学力を向上し保障する仕組みとして考えられ、そのことが多くの国民の支持を得て実施されてきた経緯を踏まえる必要がある。 

○ 市町村教育委員会に対するアンケート調査の結果では、現在の調査の目的について「評価している・問題ない」という声が78%に達している。また、教育関係団体の意見においても「教育施策の成果と課題を検証しその改善を図る」、「教育に関する検証改善サイクルの確立」、「児童生徒への教育指導の充実や学習状況の改善等に役立てる」など、調査目的のうち改善の重要性を指摘している。

○ より重要なことは、国が国のために実施する調査として、何を目的とするのか、それにふさわしい調査の実施方法はどういうものかという観点である。

○ 全国的な学力調査の目的は、国の主要な任務である義務教育の機会均等の確保や全国的な実態把握を重視してはどうか。

○ 教育課程の大綱的基準としての学習指導要領の制定、検証及び改訂が国の本来の任務であること等を踏まえ、今後の全国的な学力調査は、学習指導要領の検証・改善に力点を置くこととしてはどうか。

○ 平成22年度調査の目的、特に後段の「学校における児童生徒への教育指導の充実や学習指導の改善等に役立てる」という視点は、極めて重要であり、今後もこれを踏襲すべきである。多くの市町村教育委員会や学校の期待を反映して、約75%の中学校が抽出対象校として、あるいは希望して調査を受けている。各教科における言語能力の育成の重視、新学習指導要領の告示、新しい教科書の採択に加え、全国学力・学習状況調査も加わったPDCAサイクルに従って、市町村教育委員会や各学校が指導改善を図り、生徒自身も学習に対する関心意欲が高まっていくのではないか。

○ この調査は、調査結果を現場が受け止めて授業の改善に生かすことが大きな柱である。これまでも授業アイデア例や事例集が教育委員会や学校に向けて発信されているが、これまで以上に各先生が学校現場で生かせる調査となるよう検討を進めていく必要がある。

2.全国的な学力調査の対象教科や学年、実施時期について

・国語及び算数・数学に加え、新たな教科(例えば社会、理科、外国語)を追加するか どうか

・対象学年及び実施時期をどうするか

 (新たな教科の追加)

○ 市町村教育委員会に対するアンケート結果では、教科の追加に係る要望は、学校の負担増を考慮したと思われるが34%にとどまっている一方で、多くの教育関係団体が新たな教科の追加を要望している。国語及び算数・数学以外の内容教科を新たな対象教科とすることには意義がある。本調査は、子供の学力だけではなく、教師の教育力向上のためにも、どういう問題が適切なのかというモデルを示すという意味もある。

○ 教科の追加に関して、来年度の追加については時間的に困難としても、その後については、特定の教科(国語、算数・数学)の調査をしていくのではなくて、国の政策に還元できるということで言えば、できるだけ幅広い教科をみていかなければならない。国語、算数・数学のコア科目に関しては、継続するにしても、毎年、あるいは一年置きに新しい科目を入れていくことが必要である。

○ 理科、社会、英語についても全国的な学力調査に取り込み、そこからヒントを得て、新学習指導要領の趣旨をよい方向に後押しすべきである。

(対象学年)

○ 市町村教育委員会のアンケート調査の回答状況(速報値)では、対象学年については、小学校6年生が69%、中学校3年生が64%と、従前の対象学年を踏襲すべきだという回答が最も多く、他の学年とすべきだという回答は、複数回答によっても30%台にとどまっている。

3.全国的な学力調査の調査方式について

・調査方式をどう考えるか。

・22年度の調査方式を継続していくかどうか。

・希望利用方式を今後も継続するかどうか。

・調査の精度(抽出率)についてどう考えるか。 

(調査方式の考え方)

○ 個々の学校、児童生徒の状況を把握してフィードバックするならば調査方式は悉皆になるが、そのようにすると問題を公開しなければならないので、時系列比較ができない。調査にはいろいろな目的が考えられるが、それらを一つの調査で達成しようとすると矛盾が生じる。

   すべてを一つの調査で把握するのではなく、異なる調査方式の調査で補うという考え方もある。

○ 全国学力・学習状況調査は、目的の一つである学校における教育指導の充実や調査結果を学習状況の改善等に役立てることについては、悉皆調査を行い、子どもたちに個票を返すことで実現してきたが、もう一つの目的である教育施策の検証改善と継続的な検証改善サイクルの確立の観点からは、悉皆調査であろと抽出調査であろうと経年比較を見るための調査とはなっていない。出題範囲も数十分の調査では、1学年の学習内容を全てカバーすることは不可能である。この目的の達成のためには、PISA、TIMSSを支えるような国際水準のテスト技術の導入が必要であり、そのための研究開発を進める必要がある。

○ 今の仕組みでは肝心の改善指標がなく、全体の中での順位が問題となるので、生産性のないラットレースを惹き起こす懸念もある。教育の改善に資する調査とするためには、改善指標を確立し導入できるとよい。 

○ 平成19年度から3年間の悉皆調査は、国が学力に関する成果指標をきちんと手に入れるという第一段階としての重要性があり、当時はいろんな意見があり、とにかく調査を実施すること自体に意義があった。
 現時点は、既に第二ステージに入るべき時期であり、これまでと同じ形式を前提に教科の追加の当否を論ずるというより、再来年度以降の調査を見据えて検討すべきである。
 進むべき方向の一つは、学力の水準とばらつきを国がある一時点でモニターする。それができるだけでなくて、時系列的な変化をきちんと明らかにできるような調査の設計にしていく方向ではないか。

○ 国の政策に資する形の調査なのか、個々人の児童生徒の学習にフィードバックできる調査なのかという点からは、抽出調査という形になったときに問い直されなければならない。国の施策に資するという点においては、時系列な分析が可能な調査形態をもつ必要がある。

○ 第二ステージにおける新たな制度設計をどうするかという根本を議論する際、調査がスタートした時点で設定したいろいろな目的を一つの調査で達成することは不可能であることを十分に踏まえる必要がある。
 その上で、全国的な学力調査は、国の主要な任務である義務教育の機会均等の確保や全国的な実態把握に重点を置くべきである。

○ 学校の授業を役に立つ、面白い授業に改善していくために、本調査ははじまったと認識している。第二ステージとは言え、学校の教育の発想を変えるために調査を実施するという意義は現段階でもあると考える。

○ 全国的な学力調査が外発的なモチベーションとなることで、却ってデメリットが生じる場合もある。生徒への還元は非常に重要だが、その役割は全国学力調査を全国一律に実施しなければ担えないというものではない。検討に当たってはその点を十分踏まえる必要がある。

○ 学力の維持・向上に資するという調査の目的は動かない大きな目的である。しかし、その手段については、最新のテスティング技術では、全国調査と地方独自の調査の両者を対応付けることで、地方独自の調査の結果と全国調査の結果を比較することも可能である。国が悉皆調査を行わなければこの目的が達成できないということではないことに留意する必要がある。

○ テストを積極的に使って自分の能力を引き出すチャンスにするという考え方が必要である。PISA調査の枠組みも参考にしつつ、将来、コンピュータ化してアイテムバンクをつくり、いつでも実施可能な調査とすることなどにより、子ども自身が自分の分からない点や世界のスタンダードとの関係が分かる調査で、学校にフィードバック可能な調査など、全く新しい視点で測定することを検討してもよいのではないか。

(調査方式)

○ 調査の視点からは、抽出調査の方がよいが、指導の視点から見ると悉皆調査の方がきめ細かに見ることができる。教育については、各自治体にやり方は任せ、国は財政支援をするという方法もある。

○ 全国や都道府県の状況把握は抽出調査で足りるが、悉皆調査では、健康診断に例えると、個人レベルで子供の症状を把握することができる。医者であれば目前に症状をもった患者がいればなんとかする。この患者は高血圧であると…、同様にこの子は分数が理解できていないと、そういう時に、指導方法はもっと切実になる。悉皆調査では、このような使命感・義務感的な雰囲気が醸成されてくることが貴重である。

○ 各学校の検証改善サイクルの確立を国が悉皆調査として保障することが、学力向上のために効果的である。全国的な抽出データだけでは大きな施策は変えられるが、各学校や子ども、家庭の取組にまではなかなか影響を及ぼしにくいというのがこれまでの実態としてあった。 

○ 子どもに負担をかけないことと、詳細に学力を把握することとは相容れない。調査は抽出方式がよいと思うが、様々な目的を達成するための調査として全米学力調査(NAEP)が参考となる。NAEPでは、そのときのトピックに合わせたメインNAEP、基本的な部分を経年的に追うロングタームNAEP、また、ステイトNAEPというかなり抽出率の高い調査を各州で実施し、これらを組み合わせることで問題を解決している。

(希望利用方式)

○ 先般、学校評価における第三者評価の在り方について検討結果がとりまとめられ、第三者評価については学校・設置者の判断に委ねることされた。そのような文脈における全国的な学力調査の捉え方は一つのテーマとなる。全国的な学力調査により、市町村教育委員会や学校が自ら日頃の姿を見直すという視点は重要である。
 希望利用方式により、悉皆調査にはなかった設置者の意思や学校の主体性の要素が登場したことの意義については丁寧に取り扱う必要がある。

(調査の精度)

○ 悉皆調査は負担が大きく抽出調査に切り替えられたことは改善と受け止めているが、全国的な児童生徒の水準の把握は必要としても都道府県別に一定の精度のデータが必要かどうかについては検討する必要があるのではないか。

○ 市町村教育委員会のアンケート調査の回答状況(速報値)では、調査の精度については、都道府県の状況が分かる程度までの精度が必要との回答が30%、市町村の状況が分かるまでの精度が必要との回答が45%であるのに対して、全国の状況が分かる程度との回答は19%であった。

(異なる調査方式の組合せ)

○ 今後の調査については、4~5年を一つのパッケージとして、何年かに1回は悉皆調査を実施し、その間は小規模の精密な調査により課題に解決に取り組むこととしてはどうか。

○ 4年に一回は悉皆調査を行いしかも教科を増やすこととしてはどうか。その間は、10%程度の抽出調査を毎年度実施するようにすれば、ちょうど小6で対象となった児童は、4年後には中3となって再び悉皆調査の対象とすることができる。悉皆調査による各学校のPDCAサイクルの支援を実施しないと、学校は当事者意識を失いかねない。抽出調査との組合せ方式で調査目的を達成するという考えもある。

○ 「知識」を問うA問題については、県独自調査でも把握可能であるし、基礎学力の定着に関しては現場の先生方も大体把握できているので、国が行う悉皆調査は、「活用」を問うB問題中心で4教科、5教科まで拡げ、質問紙調査も簡素化することにより負担軽減を図ることもできる。分析ツールの改善が更に図られれば、希望利用の学校でもPDCAサイクルがまわせる。

4.全国的な学力調査の実施頻度について

 ・毎年実施するか、隔年又は数年に一度でよいか。

○ イギリスでは20年前にナショナルカリキュラムと悉皆調査であるナショナルテストが導入された。調査結果は学校別、地域別に公表され、予算にも反映され、競争状況となる。すべて組み合わされると怖い状況となる。それを避けるためには、5年に1回程度の抽出調査とすべきである。その上で、県や市は状況に応じて自前で必要なテストを行えばよい。

○ 市町村教育委員会のアンケート調査の回答状況(速報値)では、調査の実施頻度については、60%が毎年実施を求める意見であった。 

5.その他

(教育課程実施状況調査との関係)

○ 教育課程実施状況調査は行政のための調査であり、全国学力調査と統合すると、マッチポンプみたいになり客観的なデータの把握・検証が阻害されることが懸念される。全国調査は、より純粋に、より公平な立場で、国の教育水準、到達度に関して測定データを積み重ねていくものだと思う。

(調査結果の情報開示・公表)

○ 調査結果の開示・公表に関し、各校長には本来、悉皆調査により自校の結果を把握し、教育指導の充実や児童の学習状況の改善に役立てたいという思いがある。しかし、ここ数年、市区町村レベル、各学校レベルの一方的な開示が避けられない事例が頻発する中で、地域や学校の序列化が先行し児童が愛着・誇りを失うのではないかというマイナス面が心配されるので、抽出調査もやむを得ないと考えている。

(その他)

○ 学力格差の問題が重要。どのような問題を作るかも大切だが、学校、児童生徒の質問紙にどのような項目を入れ、分析していくか議論する必要がある。

○ 問題を作るプロセスが大切。よい問題を作る先生は指導力がある。国が作問するとその力を吸い上げることとなり、各地方の作問能力が育たないのではないかと懸念している。

○ 国の施策の検証・改善という観点からは、高等学校教育を全国的な学力調査の対象に含めることについても検討する必要がある。初等中等教育局全体を見渡すと、高等学校教育は抜け落ちやすい。多様化が進んで以降、おそらく学校段階ではもっとも散らばりが大きいのが高等学校と考えられるので今後の検討課題とすべきである。

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