資料3 全国的な学力調査への「理科」の追加について(小川委員提出資料)

全国的な学力調査への「理科」の追加について(意見)

平成22年7月16日
東京理科大学大学院
小川 正賢

1.「理数教育の充実」の観点からの必要性(総論)

 今回の学習指導要領改訂の基礎となった中教審答申は,「理数教育の充実」の必要性を次のように指摘していた。

  • 「知識基盤社会」の時代においては,科学技術は競争力と生産性向上の源泉である。
  • 1990年代半ば以降,ライフサイエンス,ナノテクノロジー,情報科学等の分野で世界的な競争が激化し,この競争を担う人材の育成こそが国力の基盤であることが各国で認識され,国際的な人材争奪競争が現実化している。
  • 少子・高齢化という人口構造変化や環境・エネルギー問題等,地球規模の課題の中で,次世代への負の遺産を残さない「人類社会の持続可能な発展」に,科学技術の貢献が期待されている。
  • それゆえ,次代を担う科学技術系人材の育成と,国民一人一人の科学に関する基礎的素養の向上が喫緊の課題であり,学校教育では,科学技術の土台である理数教育の充実が求められている。

 これらの指摘に沿って,今回の学習指導要領の改訂では,科学技術の土台である理数教育の授業時数及び教育内容の充実が図られたところである。このような経緯を鑑みれば,全国的な学力調査において「理科」を追加し,子どもたちが,より確実な資質・能力を習得できるよう,子どもたちの学力・学習状況について,把握・分析等を行っていくことは重要であり,必要であると考える。

2.教科「理科」固有の必要性

(1)「理科」学力(知識・理解・活用力)が「現代の基礎学力」の一つであるという認識は,国際的に認知されており,その点で,国語や算数・数学と同等の教科という位置づけが適当である。

  • TIMSSやPISAといった国際比較調査では,「理科」や「科学的リテラシー」が調査内容となっており,理科や科学が現代社会において子どもたちの学ぶべき重要な内容であることが国際的に認知されている。

(2)学力・学習状況の経年変化を把握できる国内データが必要である

  • 先進諸国で顕著な「児童・生徒の理科離れ現象」の日本での動向を経年的に把握,分析し,必要な対策を速やかに立案していく必要がある。

(3)児童・生徒の特性・属性にあわせたキメの細かい理科指導のあり方を提案し,学力の定着につなげることができる。

  • 全国学力・学習状況調査では,クロス集計を用いて,児童・生徒の特性・属性ごとの学力・学習状況を把握できるので,理科や科学に関して好嫌度が分化してくる小学校高学年児童,中学校生徒の多様な実態を踏まえた,キメの細かい学習指導の方策を提案できる。

3.実施に向けた「理科」固有の検討課題

(1)他の類似した調査との趣旨・目的等の整理・調整

  • 教育課程実施調査,特定の課題に関する調査,TIMSS, PISA との目的の差異化が必要。たとえば,TIMSSもPISAも「国際標準化」という名目で作問が行われるために,日本の教育課程を必ずしも直接的に反映はしていない。日本の独自性にも配慮する必要がある。

(2)「知識」を問う問題作成上の困難点

  • 「理科」の場合,個々の「学習内容」が相互に独立しており,また「学習内容」自体が学習指導要領で明確に限定されているので,「知識」を問う調査問題の作問では,どうしても限られた問題(あるいは類似した問題)にならざるを得ない。この点をどう克服するか検討が必要になろう。
  • また,学習指導要領の弾力化によって,理科で培われる学力の範囲をどのように設定するかも課題になろう。

(3)「技能」に関連した課題

  • 「理科」では,「実験・観察を通した学習」が重視される.したがって,単なる「知識」を問う問題だけでなく,「実験・観察」という場面を踏まえた問題の作問という課題が出てくる。「特定の課題に関する調査」のような実験場面等のビデオを視聴しながら回答するといった方法が求められるが,出題・採点のコスト等も踏まえた慎重な検討が必要と考える。

(4)「活用」に関する調査問題に関する課題

  • 「理科」の学習成果を「活用」という場面で捉える場合,関連する他教科(たとえば,「技術・家庭科」「保健体育」)や「総合的な学習の時間」,さらには,今回の学習指導要領の改訂で強調されている「社会の変化への対応の観点から教科等を横断して改善すべき事項」の中の「情報教育」「環境教育」「ものづくり」「食育」「安全教育」等での学習成果も視野に入れていく必要があろう。

(5)実施時期・実施頻度

  • 以上のように,実際に調査を開始する前に検討すべき課題も多々あるので,実施までにはある程度の検討期間が必要となる。また,実施頻度については,国語,算数・数学のように,毎年ではなく,3年に1回程度とすることが,実施面からも妥当なように考える。

(6)実践現場へのフィードバックの強化について

  • 本調査結果の実践現場へのフィードバックとして,「学校改善支援プラン」等の公開・提供をさらに促進し,調査に直接参加しなかった学校等の学校改善,授業改善に役立てる方策を検討してもらいたい。特に小学校理科では,理科指導を苦手とする教師が依然として多い現状に対して,対応策を求める声が大きいが,そのような教師にも具体的に参照できるものを検討していただけるとありがたい。同様に,教員養成の場や現職研修の場などでの活用を促進してほしい。

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