資料2 全国的な学力調査への「社会」の追加について(岩田委員提出資料)

全国的な学力調査への「社会」の追加について

 平成22年7月16日
兵庫教育大学
岩田一彦 

1.「社会」を追加する必要性

中央教育審議会答申において「社会」の課題について,次の指摘がなされた。

  「グローバル化や規制緩和の進展,司法の役割の増大など,社会経済システムの在り方が変化する中で,将来の社会を担う子どもたちには,新しいものを創り出し,よりよい社会の形成に向け,主体性をもって社会に積極的に参加し課題を解決していくことができる力を身に付けさせることの重要性が指摘されている。」

 この要請を実現していくためには,次の課題を克服していくことが重要であるとされ,新学習指導要領では,下記の内容の一層の充実を図っている。

(1)基礎的・基本的な知識・概念の習得,知識・技能の活用

(2)我が国の伝統や文化に関する内容

(3)諸外国についての基礎的な知識を習得させるための世界の地理や歴史の内容

(4)社会形成に積極的に関わっていく資質や能力の形成(社会参画の資質や能力)

 このような学力が子どもに身に付いているか否かを検証していくことは,今後の教育施策を進めていく際に欠かせないものである。

2.「社会」を追加することの効果

全国的な学力調査において「社会」を追加することによって,下記の効果がある。

(1)全国的な学力調査が授業を変革する

 社会科の学習指導要領改訂は,欧米を中核とした教育内容の世界的水準を組み込みながらなされた。学習指導要領が変われば当然のことながら,授業内容・方法も変革されるべきである。しかし,これまでの教育界では,学習指導要領は教科書には直ちに反映されるが,授業の変革には結びつき難いのが現状である。

 どのように変わったのかについて,理論としては理解できても,実際の学力モデルが教師には見えてこないのである。学力調査を「社会」についても実施することによって,学力モデルを示すことができる。そのことによって,授業の変革が期待できる。

(2)「社会」のテスト問題の質的向上

 「社会」の学力の把握は,地方自治体の教育委員会レベルでテスト問題を作り,いくつかは実施されている。しかし,全国的レベルでの実施は,教材会社,教科書会社,学習塾が作成したテスト問題でなされている。その結果,テスト問題の質的ばらつきが大きく,適切な学力把握ができていない場合が見られる。

 「社会」の全国的な学力調査を全国レベルで実施することにより,調査問題モデルを示すことができる。一定期間ごとにこういったモデルが示されれば,「社会」のテスト問題の質的向上が期待でき,それは,授業の質的向上に資することができる。現実に大学入試センター試験の継続的実施により,高校生向けのテスト問題は年々質的向上がなされ,それは,高等学校の授業の変革につながっている。

(3)個に応じた指導の充実

 「義務教育の機会均等とその水準の維持向上」を定めている学校教育法の趣旨を実現するためには,個に応じた指導の充実が重要である。新学習指導要領は,社会参画の資質や能力の形成を求めている。これは,民主主義社会に生活する子どもの教育には欠かせない資質・能力である。一人ひとりの子どもが,社会に関するどのような知識・概念・技能を修得しているかの把握は,こういった要請に応えるためには必要不可欠なことである。

 全国的な学力調査を悉皆方式で行い,調査結果が個の児童にフィードバックできるように進めていくことが望まれる。また,これを実現する努力は,教師の教育力の質的向上にもつながっていく。

(4)国際的な学習到達度調査への対応

 国際的な学習到達度調査の内容は,「社会」の学力と対応している部分が多い。特に「読解力」は,言語の学力のみでは対応できない。全体構造,部分と全体,社会と個人,価値対立などについて,総合的な知識・概念・技能が求められている。社会科の授業は常にこれらの資質形成をめざして行われている。「社会」の全国的な学力調査を実施し,こういった資質の把握・指導が一層充実されてくれば,国際的な学習到達度調査への対応を進めることになる。そして,この種の調査問題の開発,指導の実績を積み重ねていけば,「日本が世界トップレベルの順位となることを目指す。」とした新成長戦略の期待に応えることができる。

 

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